その夜、Sは妙な夢を見た。

子供の頃によくSや俺が遊んでいた小川に立っている。
ふと気がつくと向こうの土手にS父が立っていてこちらを睨んでいる。
声をかけようと思ったとき川上から赤い水が流れてくるのに気がついた。
「なんだろう?」と見ていると赤い水の中に人間の臓物や胎児がぷかぷかと浮かんでいる。
驚いて川から上がろうとするが、なぜか足がぬかるみにはまったみたいに抜け出せない。
血なまぐさい臭いが漂ってきて臓物が足に触れそうな距離に近づいた時、急にS父が前に来て腕をひっぱられる
というところで目が覚めた。

次の日、病院に出勤してきたS母に夢の話をすると、S母も同じような夢を見たという。

S母の夢は、S父とよく水芭蕉を見に行ってた高原の桟橋にいる。
さっきまで隣を歩いていたS父がなぜか少し離れた後ろ側にいる。
「どうしたの?」と声をかけようとして、ふと周りに目を向けると水辺が赤く染まっている。
それまで水芭蕉が咲いていた場所から切断された人の手や足が生えて動いている。
驚いて逃げようとすると、急にS父が来て抱え上げられたところで目が覚めたと言う。


SとS母は直感で「絶対に昨日のTに関係ある。お父さんが危ないと教えてる」と感じ
即行でAさんを通して断りの連絡を入れてもらった。
後日、S母のつてでTについて探りを入れてみると
「実際には勤務実態がほとんどない、学生時代から男遊びが激しくて堕胎経験もある」などなど
碌な話が出てこなかったそうな。