しかし、リーダーは弟のほうを思い切り突き飛ばした。
姉は慌てて落ちかかる弟の手を掴んだ。
「お前が決めろ。ぼくか弟か」
リーダーは少女に迫った。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
弟は恐怖で涙を流している。
もともと、二人は仲のいい姉弟だった。弟との楽しい思い出が蘇ってくる。
そして彼が姉を踏みにじり、先ほどに至っては本気で殺そうとしたことも。
「お姉ちゃん?お…」
少女は手を放し、弟はがけ下の暗闇に吸い込まれていった。

弟は遺体となって発見され、脱走した子供たちは再度保護された。
薪と部下の青木には、子供たちが教団の習慣で事件を起こしたことは判っていた。
しかし関わった者が全員子供であることから真実を暴いても起訴はできない。
事故として処理せざるを得なかった。
「我々は教祖の撒いた種を増殖させただけなのでしょうか」
「俺たちは精神科医じゃない、この先正しい環境で育ち芽が出ないよう祈るのみだ」

「さ、帰ろう」
リーダーは何もなかったかのように、姉に声をかけた。
弟を見捨て、未来の教祖を選んだ姉は誇らしげに叫ぶ。
「新しいリーダーに神のご加護を!」
その声に、他の子供たちも唱和する。
「我らは皆、あなたと共に!」