さいとう・たかを「ゴルゴ13/善人の死」
老保安官、連続放火事件の犯人をわずかな違和感から突き止める。
TVのインタビューで、老保安官は語る。

「私はヒーローでも善人でもありません。私は殺人事件の兆候を見逃したことがあります…あれは警察署長時代、クリスマスの夜でした」
「夫婦が殺され、幼い一人娘が重傷を負いました。その子は犯人に隠れて、必死にSOSを送っていました…私はおかしいと思いましたが、無視しました。早く帰宅したかったのです」
「犯人は妻の浮気相手でした。私は夫から、妻の浮気疑惑を聞かされたことがありました」
「あの夜、夫婦の家に見慣れない車が(小さな町で、住人みんなが知り合いでした)乱暴に停めてありました…夫婦は几帳面な性格だったのに」
「私が思い切って踏み込んでいれば、あるいは…。あんな思いは二度と御免です、だから私は」

重傷を負って助かった一人娘は今、やさぐれた中年女になっていた。
TVのインタビューを偶然見た女は激高して金庫を開けた。
中には札束の山。老保安官の長年の仕送りだった。

「あいつ、気付いていたんだ!ちきしょう、なんだい!こんな金!馬鹿にしやがって!」

(仕送りは罪滅ぼしではない…願わくば、あの子供の気の済むように使ってくれたら…)
過去の過ちを告白して気が晴れた老保安官を、ゴルゴは撃った。

「ざまあみろ!今頃あいつは、あいつの金で…いい気味だ!」
老保安官の仕送りでゴルゴを雇った女は高笑いした。