それから暫く経ったある日
相変わらず浮浪者同然の生活を送っていた主人公の前に、あの外套の男が現れる
男は今では景気が良いらしく、奢ってやると言って主人公を食事へと誘った
食事をとりながら、主人公は泥棒呼ばわりしたことを改めて男に謝罪した
すると男は「泥棒呼ばわりされたことには感謝している」と奇妙なことを言う
男は語り始める
かつて男は自らを「善意の人」と信じて生きていた。だからこそ、彼は自分と似た境遇の主人公に出会った時、外套を譲渡したのだ
しかし主人公から泥棒呼ばわりされた時、男は「開放感」を味わった
戦後、多くの者が不正を働いて生きていく中で、自分だけが品正しく生きていくことの何と愚かで虚しいことよ
男はそのまま犯罪者へと身を落とし、人を殺め、闇市を仕切るようにまでなり、今ではちょっとした小金持ちになったのだ
「今度、この外套も売り払うつもりだ。その時には、またお前に御馳走してやろう」
そう言うと男は去って行った
主人公は食事を続けたが、味を感じなかった