浴室 3/3


俺は笑い出してしまった。自分。目の前にあったのは、鏡に映った自分の顔だったのだ。
あまりに馬鹿らしい結末と、先程までの自分の動揺に、笑いが堪えられなかったのだ。

ふと、視線を元に戻して、俺は固まった。
笑っていた。俺は今笑っていたんだ。
自分の間抜けさに、恐怖のいく先が自分だった事に。少なくとも10秒程度は笑い声を上げていた筈なのに。
目の前にある自分の顔は依然として無表情で、俺を見つめていた。
背筋に怖気が走った。体が動かない。
その恐怖の表情すら浮かべない鏡の中の自分に、さらに恐怖が増していく。
男の顔が少しずつ変わっていく。
いや、変わっているのではない、目の前にある自分と異なる動きをする顔を、脳が他人と認識してしまっているのだ。
自分と同じ顔をした、他人だと。
「君は誰だ」
俺は自然と問いかけてしまっていた。
瞬間、今まで微動だにしなかったその男は、口を開けて笑い出した。