夏樹静子の短編

仲睦まじい中年の再婚夫婦。どちらも前の配偶者が失踪宣告を受けている。
さらに、高齢出産の幼い一人息子も行方不明になり、夫婦は毎日陰膳を供えている。
家族が続けざまに神隠しに遭うなんて、不幸なご夫婦。穏やかに幸せになってほしいわね…と、近所で囁かれている。

実はこの夫婦、前の配偶者を殺して風呂で茹でて死体を柔らかくし、バラバラにして隠していた。
妻の方は、帰りの遅い夫のために風呂を保温にしていた。風呂釜の煙突から長いこと煙が上がっていたとの目撃証言がある。
夫の方は、帰宅すると風呂釜のガス火が点けっぱなしで勝手口が開いていて、前妻はどこにもいなかった。
古い話なので、風呂の焚き口は勝手口の外にある。
夫のために風呂を沸かしたところを変質者に襲われでもしたのだろうと、山狩りが行われた。

夫婦は読書と勉強が趣味で、図書館で知り合ったという。
どちらも、前の配偶者はいい人だけど知的な会話ができる人じゃない、と言われていた。
運命の相手を見つけた二人はそれぞれ、邪魔な前の配偶者を始末した。

そして、夫婦の一人息子は現代では何か病名がつくに違いない、とても育てにくい子だった。
夫婦は穏やかな暮らしを守るために、実の息子をも始末した。
でも少しも疑われず(前の配偶者の時は警察が捜査したが、決定的な証拠がないので何も起きず)、近所の評判もよく、穏やかに年を重ねるだろう。