俺はその部分をもいちど繰り返し聴く。
で、俺の出した技術的見地からの結論は、「誰かがマイクの至近距離で声を出した」だった。
音の大きさや音圧から、本来しゃべっていた2人よりもさらにマイクに近い距離から発せられた声であること、確証はないが人の声に限りなく近いこと、と断定した。

しかし、スタジオに2人しかいなかったのは状況からして事実だし、ましてこれだけマイクの近くで発生したような音が、スタジオの外から入り込む余地はない。
俺も首をかしげるしかなかった。

俺の分析結果を聞いた彼女は、卒倒寸前になりながら、怖くてこれ以上触れない…と言い、そのMDを俺に押し付けてフラフラと去っていった。
俺は仕方なく、その声の部分を削除して別のMDにコピーしたものを彼女に届け、番組は無事放送されたのだった。

ちなみにその元のMDは、今も俺の手元にある。