「俺も変なことがあった。
俺とお前の二人だけしかいないのに
途中から誰か別の奴がいるような感じがした。
俺が抱いてるのが誰なのかわからない。
間違いなくお前の顔で、お前の体なのに
別の女を抱いてるような感じなんだ」

「その女が次々、別の女になるんだ。
そのうち周りに何人も女がいるような気がしてくる。
俺の背中に抱きついてくる腕
俺の首にからみつく腕
でも俺とお前しかいないんだ。
それなのに俺は、大勢の別の女に押し込んでるんだ」

普段なら冗談でも喧嘩になるような話だろう。
でもその時はそれどころじゃなかった。
まだ部屋の中に誰かいるような気がして
俺たちは二人ともゾッとしたんだ。
もうじっとしていられなかった。すぐ支度して
部屋を出て、ばたばたチェックアウトした。

ホテルの外に出た時はちょっとだけホッとした。
とにかくまだ時間が早いし、ファミレスでも入って
落ち着こうって言って、ホテルの角を曲がってすぐ
二人ともあっと立ちすくんだ。
夕べどうして気付かなかったんだろう。
ホテルの周り一面に広がる、墓、墓、墓・・・