駒田信二「中国怪奇物語・神仙編」から「二人の父親」
中国のある農家に二人の息子がいた。
ある日、息子たちが畑で仕事をしていると、父親がやってきて息子たちを叱りつけ、散々に殴った。
昼食時に家に帰った息子たちが理不尽だと思って母親に不満をぶつけると母親は
「あら、お父さんはずっといっしょに家にいましたよ」
と答え、家にいた父親は
「俺はずっと家にいたぞ、ははあ、おそらく化物が俺に変身してたのだな。
また畑に行ってこい、そして化物が来たら叩き殺してしまえ」と息子たちに言った。
息子たちは畑に戻ったがいつまでたっても化物は来ない、もう帰ろうかという時
「化物はあらわれなかったのか?」と父親がやってきたため、
息子たちはこいつめ!と叩き殺して畑の隅に埋めてしまった。

一方母親のほうは息子がなかなか帰ってこないため父親に様子を見てくれるよう送り出したところ、
しばらくして父親は笑いながら「どうやらうまく化物を叩き殺したようだ」と戻ってきた。
その後、息子たちも帰ってきて、家族四人「よかったよかった」と平穏に暮らした。
しかし5年後、ある旅の道士がやってきて
「この家には妖気が立ち込めている」と言い、父親に対して
「破ぁ!!」と一喝すると父親はたちまちのうちに古狸に化し、初めは驚いた息子たちも
われにかえり古狸をその場で打ち殺した。
息子たちは知らぬこととは言え父親殺しの大罪をおかしてしまったことをくやみ、
長男は自殺、次男はそのまま病死した。