第3回2ちゃんねる全板人気トーナメント 選対スレ
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「おまえ達に一つものをたずねたい。まこと仏がこの世にあるとしたら、それ
はいずこにある思う？」
「なにをいいだすかと思ったら、ならお前は仏はいずこにあるというのだ？」
「教えてやろう。仏は俺の瞳の奥にあるのだ」
不思議なことをいうので、僧侶達はしばし若君の目の奥にまで見入った。や
がて奇妙なことがおこった。若君の瞳の奥に炎が浮かびあがり、その炎がぼろ
ぼろ衣服を身にまとい、僧侶達に憎悪の形相をむける一人の夫人の姿を映し
だしたのである。顔は泥にまみれ、口から血をしたたらしていた。年は三十
ほどであろうか。
「お前達よもや私を忘れたわけではあるまい。数年前お前達はよってたかっ
て私に乱暴をはたらいた。仏はしっかりと見ておるぞ！ お前達はやがて地
獄に落ち、私が味わった苦しみの何倍もの苦しみを味わうのだ」
僧侶達はしばし金縛りにでもあったように硬直した。やがて悲鳴とともに
一人また一人とその場から逃げ去ってしまった。
「一体なにがあったというのです？ どうして逃げたのです」
ようやく恐怖から開放された夫人が、多少息を切らしながらたずねた。
「いやわしは人の心を操る術を多少心得ておるのだ。人の心は弱きもの。あの者達は己の過去の罪業と向き合い、恐れ、そして逃げたのだ」
「どなたが知りませぬが感謝致します」
女は深く頭を下げた。
「いやそなたに忠告しておく。このような夜更けに夫人の一人歩きは危険きわまりない。今後は注意するよう」
若君がそう言い残して立ち去ろうとすると夫人は、
「お待ちくだされ。せめて名をお聞かせ願いませぬか」 若君は最初躊躇したが、夫人に是非にせがまれ、
「鳥羽上皇の第四王子にして名を雅仁」
と、にわかに信じがたいことをいった。
「おたわむれを……。かように高貴なお
方がかよな夜分にこのような場所に……」
「信じられぬなら構わぬ。ただ先ほど余
がもうしたことしかと胸に刻むがよいぞ」
そう言い捨てると、かの若君は馬に鞭
をいれて夜の闇の中に消え去ってしまった。
女は呆然として後姿を見送ったが、まぎ
れもなくその若者こそ、鳥羽上皇の第四王
子で雅仁親王、後の後白河法皇であった。
後年源頼朝をして、日本国第一の大天狗を
いわしめた老獪さはまだ影を潜め、むしろ
涼やかなほどの御曹司ぶりでにして、全身
から揺ぎない叡智と信念が感じられた。 雅仁親王はまだ二十一歳。時に院政期のただ中である。院政とは今更いうまで
もなく在位する天皇の直系尊属である太上天皇（上皇）が、天皇に代わって政
務を直接行う形態の政治である。上皇は「院」と呼ばれたので、院政といわれ
た。
時の帝は近衛帝といい、雅仁親王の腹違いの弟にあたる。そして実際の政治
の実権は、近衛帝と雅仁親王の父君にあたる鳥羽法皇が握っていた。
雅仁親王の母の名を待賢門院といい、雅仁親王には母を同じくする八つ年上
の兄がいた。先の帝崇徳上皇である。崇徳上皇と鳥羽法皇の親子関係は不幸が
相次いだ末、実に険悪であり、結果的に上皇は謀略によって帝位を追われるは
めとなっていた。それは同時に宮廷内において待賢門院が隅に追いやられるき
っかけともなり、必然的に近衛帝の母にあたる美福門院が、権勢を握ることと
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