抑圧移譲(transfer of oppression)

◆概念
□「戦後政治思想の出発を劃した論文といわれる、
丸山眞男「超国家主義の論理と心理」(『世界』1946年5月号)が、
近代の日本人の心理にしみこんだ病理として指摘した特色。

それは、福沢諭吉が『文明論之概略』で、徳川時代の武士社会における「権力の偏重」を批判した記述を引きながら、
秩序の上下関係のなかで、「上からの圧迫感を下への恣意の発揮によって順次に移譲してゆく」運動として描かれている。
そこでは、自らの良心にもとづいて自由に判断し、行為の責任をとる「主体的意識」が確立せず、
権力者すらもが、自分より上位にあるものの意志によって束縛されている「被規定的意識」しかもっていない。
丸山によれば、こうした心理が明治の国家体制で強化されたことにより、昭和の
戦争期における権力の強大化と、その反面での決定者の不在を招いたのであった」
(苅部[2012:1288])

□「丸山真男の「超国家主義の論理と心理」(1946)における用語。
上位者からの圧迫感を下位者への恣意の発揮によって順次に
移譲していくことにより、全体の精神のバランスが維持される体系をいう。
福沢諭吉はこの現象を旧幕時代に看破していた(『文明論之概略』1875)。
それは天皇制ファシズム下の軍隊組織や軍事支配者、家制度下の姑の嫁いびりに
見られただけでなく、近代日本の社会が封建社会から受け継いだ負の精神構造の一つであるとされる」
(社会学小辞典[1997:608])