「そういえば今彼女とかいるの?」
彼女が僕にスパークリングワインの注がれた透明のグラスを渡しながら聞いてくる。
「居ないけど・・・どうして?」
「ううん、なんでもないの。」
そのうち彼女は別の女子に呼ばれて別のところに行ってしまった。
再び彼女と会ったのは同窓会の終わりごろ、周りが三々五々帰り始めた時。
「二次会でないの?」
ホームへ向かおうとホテルを後にする僕を彼女が追いかけて来た。
「うん。」
「どうして?」
「どうしてって別に。行くの?」
「わたしは・・・行かないかな」
「なんで?行けばいいのに。」
「だって・・・」
「ねぇ、真帆二次会行くの〜?」
僕らの背後で声がした。
「あ、理佐ごめん、わたし明日早いから」
「わかった」
その時、僕は渡邉さんと目が合った。
すこしニヤッとされた。
「このあと二次会しない?」
彼女は小声がちに言った。
「ただし2人で。」
ピースサインをして彼女は僕に笑った。
無邪気なその笑顔に僕はまた胸を締め付けられる。


彼女に連れられて訪れたのは昭和感漂う、スナックモナ・リザだった。
「いらっしゃい。」
赤いルージュで極めて無愛想な猫目の女の人
がこの店のママであるらしい。
「なんでこんなとこ、知ってるの?」
僕はそっと彼女に耳打ちする。
「ここのママと知り合いなの」
舌っ足らずな声が紫煙の合間に妖しく浮かんで聞こえた。
「あ、真帆久しぶりじゃん」
猫目の女の人は彼女を見つけると途端に相好を崩した。
「久しぶり」
カウンター席に座って彼女はブラック・レインを頼んだ。
アルコールに弱い僕は大人しくミントベースのカクテルを頼む。
シェイカーの小刻みな金属音を前に、
「いつだったっけ」と彼女が話を切り出す。
「いつ?」
「ほら、花火見たの。」
「ああ。」
「下駄で転けて僕が真帆を背負って」
「そうそう。」
「懐かしいな。」
頬杖をついて、追憶に浸る彼女の横顔が酷く淋しそうだった。
顔立ちが整っていて一見、すべてが完璧に思える彼女。でもよく見れば、色々抜けている。
「乾杯。」
グラスだけが早々と音を立てて触れ合い、やがて、離れた。