続きです!

 
 「ああ、あの娘で何人目だっけ」
 また、新たな生き残りを見つけた。
 いつも通り嗜虐を心に滾らせ、歩みを詰める。 
 人間であることをやめた脚力は、さっきまで俺の視界に小さく映っていた生き残りの眼前まで飛び込めるほどだった。
 
 その生き残りは、美しい少女だった。
 端正な童顔。華奢な体躯。喉は細く、今は緊張に僅かに震えていた。肌に張り付くライトブラウンの輝きを持つ髪は、それ一本一本が琥珀めいた輝きを放つ。
 エメラルドの瞳がまるで怯えたかのようにこちらを見つめている。事実、彼女の細い腕は白いワンピースを掴み、布に強い陰影を落としていた。 
 その端麗な童顔に浮かべる戦慄の表情に内心ゾクゾクしながら、白くて透き通るような柔肌に触れ、まじまじと覗き込む。
 そうして、彼女の細い首を愛おしく撫でるように、喉仏を潰してやった。
 「んゥッ!?」
 容赦なく痛みを叩き込む。
 そして、もちりと感触まで幸せな少女の頬を掴む。
 少女の表ら情は戦慄したまま、頬を掴んで持ち上げる俺の手を掴み返す。が、必死の抵抗も虚しく俺の手で壊されるのだ。
 翡翠色──エメラルドグリーンの少女の瞳へすかさず指を入れると、指の隙間から溢れた血飛沫が俺の顔にたっぷりと飛び散る。
「ぁァッ……!?」
 そうしてたっぷり浴びた返り血を舐めとる。刹那、左目を抑えてもがく彼女をすかさず押し倒す。そうして両腕を引き剥がしたかとおもえば、少女の細い両腕は突然変異の怪力によって造作もなく握り潰される。
「ん──グゥっ!?」
 恐怖と痛みに耐えきれず漏れた、潰れた喉のせいで声にならない呻き声すらも、艶美な吐息混じりで美しかった。もがき、苦しみ、悶えて、唸り続ける少女の吐息は俺の鼓膜を心地よく叩く。そうして俺は歪んだ愛を乗せて暴力で押さえつける快感に埋もれながら、束の間の夜を噛み締めるように全力で少女を愛し──跡形もなく壊したのだった。
 やはり夜はあっという間だった。平に慣らされた地平線から、朝日が覗き込んでいた事に気付く。
 
 そうしてまた、ふと思い出す。
 何人、といった単位の数え方はもう不正解ではないのかと。
 
 かといってまあ、この数え方に対しての指摘を受けたとして俺は「それは2桁であれ3桁であれ、母数の数はもはや問題ではないのだから」と開き直る。
 それに、思考を放棄したツケが回ってきた為に、この領域に辿り着いてしまったのだから意味がない。
 しかしまあ、そんな細かいことに限って水を得た魚のように指摘し続ける下郎なんて今は簡単に捻り潰せるのだから──今までお世話になった分のお返しになるような拷問の内容を、せいぜい足りない頭で考えてみるとしよう。

 とはいえ。
 こうして世の中を捻じ曲げらる力が手に入ったとしても結局、俺が捻じ曲げる前からここは歪みきっていたのだから、こんな世の中は面白くなくても当然だったのだ。
 全員が清く正しく真っ当に生きていれば壊しがいもあるのに、とも思ったが……こうも乱れきった世の中になっている時点で誰か列を乱して、その行為へ既に壊しがいを感じていたのだろう。
 俺が壊し始めた時にはもう、そいつがやらかした時のような衝撃が既に生まれていなかったのかと思えば、そいつへの憎悪で崩れた情緒がまたぐちゃぐちゃになりそうだった。
 名前も知らない、本当にいたのかも分からない奴へ負の感情を向ける俺は滑稽で、思考放棄だのと言う割にはまだ本能が足りない。無駄な思考ばかりが先走りすぎていた。