ありがとうございます!

前に書いたやつの少しあとに書いたやつです

引きちぎった肉塊から飛び散る血飛沫の雨を浴びるうちに、いつの間にか俺は新たな鮮血を欲していた。
 
                      *
 
 数時間前まで、ここは街だった。
「だった」のだから、もう言わなくても分かるだろう。
 夕陽を浴びて輝くビル群は既に、土塊へと成り下がっていた。俺と同じ、無価値な塵に成り下がったのだ。
 ──目障りな群れが消えたおかげで、こうして好きなだけ地平線を眺められる。
 だから、太陽が移り変わるさまを、視界に収まることのない地平線を、日が暮れるまで俺のものに出来た。まるで人間に憧れるモンスターの子供めいた、無垢な気持ちとやら。それに少しでも似せたつもりで、眺めていた。 
 
 それもすぐ飽きた。
 
 日は既に落ちきっていた。
 日没の街は確かに趣があったが、もう飽き飽きだった。
 廃れた街を歩いていても、連中は無駄にしぶといもんだと実感した。
 途中で見つけた、その無駄にしぶとい生き残りをちぎって遊んでいれば地平線を眺めるよりは暇つぶしにはなったのだが、脆かった。
 もう一度「それ」を弄べば、すぐに息の根が止まる。やり過ぎたか。
「──これで、何人目だっけ」
 引きちぎった肉塊を地面に叩きつける。
 すると、亀裂だらけのコンクリートに染み付くように血の絨毯が広がっていく。
 
 夏の終わりを告げるようなぬるい風に吹かれながら、ぽつりと呟いた。
 ……当然ながら反省する気も、後悔もありはしない。
 それどころか、もはや原型も留めていない肉片を蹴り転がしてみる。
 途端、ゲームの比にならない文字通りの「死体蹴り」から沸き立つ優越感。同時に湧く罪悪感と快感に顔を歪ませ、誰になにを指摘されることもない悦楽と──孤独感に埋め尽くされる。
 孤独感の次は虚無感が俺に絡みついて、たちまちやるせなくなる。
 
 まあ、そんな感情に駆られてばかりなのは今に始まった事じゃないのだ。
 ──もう、なにも思い出すな。