79ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE 2023/06/12(月) 12:41:39.99ID:iKCI7s+P
『安眠』
 果てがないと思われた残業が終わった。A氏はフラフラの状態で社屋を出た。そして終電、一歩手前の電車に乗り込む。車内はがらがらで座席の右端を確保した。
 半ば寝るような状態で駅に着き、慌てて駆け降りる。なけなしの力を使い果たしたのか。A氏は蛇行しながら改札を抜けて、ようやくアパートに帰り着いた。何とはなしに腕時計を見ると日付が変わっていた。
 階段で二階に上がり、三番目の203号室へと入る。玄関では革靴を踏み付けて脱ぎ、薄暗い廊下をふらつきながら歩いた。
 開けっぱなしのドアを通って部屋に入ると、握力を失ったかのようにカバンを落とす。自ら身を投げるようにしてベッドへ倒れ込んだ。
 うつ伏せの状態で瞼を閉じる。スーツを脱ぐ力さえ、残されていなかった。
 すぐに深い眠りが訪れると思いきや、なかなか眠れない。寝返りを打ってぼんやり天井を眺める。
 腹が鳴った。一度では足りないと思ったのか。低い音で何度も不満を漏らす。
 残業が響いて夕飯を食べ損ねていた。部屋続きのキッチンをちらりと見たものの起き上がる気配がない。
 選択肢はないとばかりに再び瞼を閉じた。諦めきれず、腹が鳴る。
 A氏は自分の腹を殴った。咳き込んでもやめなかった。
 数分後、ぐったりした状態でヒヒと笑った。険しい表情は次第に穏やかなものになる。
 深い眠りに手が届きそうになる。またしても腹が鳴った。ヒヒヒと笑ってやおらベッドを下りた。部屋の押し入れを開けたA氏はガサゴソと何かを探し始めた。
 翌朝、ドアノブに引っ掛けた紐で物言わぬA氏が見つかった。玄関ドアの鍵を掛けていなかった為、会社の同僚が第一発見者となった。
 その表情はとても安らかで永眠の幸せを噛み締めているようだった。

これを読んでも何も助言してやれない
裸の王様の家臣どもの集まり
それがこのスレだ