ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【241】
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前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【240】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1680654989/ 人というものは後悔する生き物で、それが特に顕著に表れるのは死が関係する瞬間である。そんな、だから何だよというような雑学くらいしか、走馬灯として奔らない僕の人生とは、いかがなものなのだろうか。
――本当に楽しくない人生だった。只々、沈んでいくだけの自分の体を眺めながらそんなことを考える。ふと、上を向いてみると、そこには夕焼けの美しい景色を海が映し出していた。
「ああ、綺麗だな」と思って手を伸ばしても僕の体は只々、沈んでゆくだけ。
こうして思い出したばかりの雑学を少しばかり実感しながら僕はこう言うのだ。
「最後にいいものが見れたなあ」と。
「いやいや。そこは『やっぱりまだ死にたくないなあ』でしょ」
案外、水中でも声というものはハッキリと聞こえるものなんだな、と声の主の方を見るとそこにはいわゆる人魚というやつがいた。
この光景を死の間際の幻覚だと切って捨ててもいいのだけれど、もしこれが本物だとしたら、もう少しくらいは生きてみる価値があるかもしれない。
そこで僕が「『やっぱりまだ死にたくないなあ』」と体の中に残っている少ない空気を振り絞って言うと、人魚は「でしょ?」と笑顔で僕に言うのだった。
◇ ◇ ◇
「ふふっ、大丈夫?」
その人魚らしきものは僕を砂浜に引き上げてからそう言った。なぜ笑っているのだろう? というか、本物の人魚だったのか。
人の上半身に魚の下半身。整った顔立ちと夕焼けの橙の光を反射する鱗を見て、純粋に奇麗だなと思わされる。これで歌もうまいときているのだから神様も大概に不平等だ。そんなことはずっと前から知っていたけれど。
もしかしたら、歌の下手なマーメイドもいるのだろうか。それに、マーメイドとマーマン、雪女と雪男、というような見た目やイメージの男女格差はなんなのだろうか。
「そんなにジロジロ見られたらオネーサン照れちゃうな〜」
そう言われて目を逸らすのだが、如何せんその後の話題がない。ああ、助けてもらったのだから、お礼くらいは言わなければ。
「その……助けていただき、ありがとうございます」
「君、それほんとに思ってるぅ?」
む。失礼な。
「思ってますよ。半分くらいは」
「もう半分は?」
「人魚を見るためだけに生きてみたけれど、見たからどうというわけでもなかったなあ。です」
「あははっ。うん、正直なのはいいことだ」
褒められてしまった。褒められて……褒められて。今までの人生のなかで褒められたことがないので、反応に戸惑ってしまう。いや、それよりも……嬉しい。嬉しいのか。僕は。褒められるとはこんなにいいものだったのか。きっと、この感情のために働けていたら僕の人生はもうちょっと変わっていたのだろう。いや、褒められてこなかったからこそ、こんなにも嬉しいのか? なにはともあれ。浪速友あれ。――友達、欲しかったなあ……。おっと、話題がずれた。
「ありがとう、ございます。これは、半分じゃなくて、十二割のありがとう、です」
思わず、声が震えてしまうくらいには嬉しいのだ。だからこその十二割の感謝。
「ちょっと褒められただけで、これとは……。いったいどんな酷い生活を送ってきたのさ。あー、待って。言わなくていいから。正直、聞きたくない」 残念。そんなわけないけれど。僕も正直、言いたくないのだ。今はこの感情に浸っていたいのだから。
そんなことを考えても最後にたどり着くのは「最後にいいものもらったなあ」なのだけれど。正確には、幸せの絶頂で死にたい。かな? 我ながら、頂上の低い幸せだと思うけれど、これ以上はないのだ。今までも。そして、これからも。
「君さ、こんな些細なことで喜べるなら、もう少し、私と生きてみない? それで、もうやだ、死にたいってなったら死んでいいからさ。きっと君は、今まで生きていて楽しくなかったんだろうね。けど、未来のことは分からない。生きていても楽しいことなんて何一つない。そんな風に嘆いていいのはこの世の中の全部を知り尽くした奴だけなんだ。ねぇ、君にその資格はあるのかなんて、わかりきっていることでしょ? せっかくの命なんだ。楽しまなきゃ損もいいところだよ。私はね、人よりもずっと長いこと生きているけれど、未だ、この世界には退屈しない。君ももっと、自分の世界を広げてみたら、案外、世界は優しくて、楽しいことで満ち溢れているかもしれないよ? つまらないものに縛られて勝手に絶望してんなよ。――それにさ。君は溺れてるときに上を向いたでしょ? 生きたいって思わないと、上って向かないものなんだよ?」
一緒に、生きていく。考えただけで、心がこれ以上ないってくらいに温かくなる。一人じゃこれ以上なんてないとしても、二人なら。
「いいんですか?」
「こっちから誘ってるのにいいも悪いもないよ。君がしたいようにすればいい」
「一緒に生きても、いいですか?」
「もちろん」
「ありがとう、ございますっ」
「どういたしまして。あ、そうそう。私は君が死んだら悲しいからね?」
「え」
僕よりずっと寿命が長いくせしてアナタはそういうことを言う。その言葉でアナタより先に死ねなくなったじゃないか。僕を救ってくれたアナタを僕は悲しませたくはないのだから。
◇ ◇ ◇
ここでネタバラシみたいなことを言うと、僕の幸せの絶頂はこの『一緒に生きてもいい』だったように思う。勿論、この後にも、楽しいことはいっぱいあった。だけれど、やっぱりこのときのこの言葉が僕を生かし続けている。それに、僕はアナタより先に逝く訳にはいかないのだから。と、ここまで語って前言撤回。
僕の幸せの絶頂はアナタと生きるこの日々だ。
そして、ついでのようになってしまって、すごく申し訳ないのだけれど。ねえ、親友。僕と友達になってくれてありがとう。これからも、こんな僕だけれどよろしく。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています