◇◇◇◇◇ 以下、続きの後半部分1


「凪ちゃん、今日はすごかったのよ?」
「えっへん。私がんばったんだよ!」
俺が死体の暫定的な処理から戻ってくると、彼女たちは改めて事の顛末を話し始める。
まず何より最初に出た言葉は、凪の成果を称賛するもの。イノシシを葬ったらしい当の本人は、その言葉を受けて誇らしげに胸を張っていた。

「とりあえず、俺はいきなりこんなモノ持ち込まれて訳が分からないのですが……なにがあったんです。」
そう問いかけると、彼女らは苦笑いをしながらも口々に状況を説明し始めた。

「あれはさっき、ゴミ出しの後にみんなでしゃべっていた時のことなんですけど…… おしゃべりしてたら後ろに何かの気配を感じて、振り返るとそこにはイノシシがいたんです。」
「もうっ、こぉーんなおっきぃの。」
「ね、怖いわよねぇ…… あたしたち、イノシシなんて生まれてこの方この辺に出たことなかったから腰ぬかしちゃった。」
若い二人組の中でも比較的おとなしいほうの女性がが初めに言葉をつづり、もう一方の若い女性と年配の女性がそれに続く。いつものように誇張的な表現を使いながら面白おかしく顛末を話すその表情には、まだ若干の恐怖が残っていた。
「で、そこに凪が割って入ってくれたと?」
「そうなのよぉ。ありがとねぇ凪ちゃんっ……!」
そういうと、年配の女性が凪を思いきり抱き締めながら頬をもちもちと揉みしだく。ダイナミックな感謝の表現に凪はまんざらでもなさそうな表情をして尻尾をぴんと立てていた。

「その時の凪ちゃんったらもうホント ピシィっとしてて、かっこいいのなんのって。」
「もう、ウワァーって追ってきたのを一撃でズドンッとやったものね。」
快活な若い女性と年配の女性が交互にまくしたてる。年配の女性の腕に抱かれながら褒め殺しにあう凪は、どこかこっぱずかしそうな表情でいた。にわかに信じられない俺は、彼女らに改めて聞き返す。
「一撃で?」
「そうなの。イノシシがあたしらめがけて走ってきたんだけどね、ものすごい勢いで。」
「赤い服着てたからじゃあない?」
「やあね、闘牛じゃあるまいし。」
その言葉に、どっと笑いが巻き起こる。褒められてテンションが上がっているからか、いつもはこういうジョークにあまり反応しない凪にも笑顔が見られた。