無人走行

 早朝、林立するビルの一棟から、ややくたびれたスーツを着た男が現れた。髪の一部に寝癖を付けて、専用駐車スペースに停めていた黒塗りの車に近づく。
 フロントドアが自動で開いた。何の躊躇いも見せず、左側の助手席に乗り込んだ。シートベルトの装着が終わると運転席が無人にも関わらず、エンジンが掛かり、少ない振動で走り出した。
 走り始めて五分も経たずに男は欠伸をした。徹夜明けなのか。連続で大きな口を開ける。目尻に溜まった涙は人差し指で弾き飛ばした。
「便利なもんだな」
 席を後ろに倒して足を組んだ。その声に答える者は誰もいない。
 手前の信号が黄色に変わる。車は加速することなく、停止線の手前で止まった。
「特定自動運行試験実施中のステッカーの効果だよな」
 車の目立つところに貼り付けていた。
 青に変わって再び車が走り出す。男は足を組み替えた。僅かに見える運転席へ意味ありげな笑みを浮かべる。
 乗車して三十分を過ぎた頃、高層マンションに着いた。男が自らシートベルトを外すと乗り込んだ時と同じようにドアが開いた。
「本当に便利だな。また、頼むわ」
 男は運転席に向かって軽く手を挙げた。すると半透明の女性が浮かび上がり、お安い御用です、と答えた。
 降車すると車は減速した状態で地下駐車場へと下りていった。
「ステッカーさまさまだな」
 言いながら男は胸中で陰陽師の家系に感謝するのだった。

ミスがあったので修正した!(`・ω・´)ノシ では、また!