ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【240】
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前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【239】
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1677413302/ デートカー
息子が俺の書斎のドアをノックした。俺は「入れ」と言った。
息子はお願いがあると言ってきた。
「俺、今日、免許が取れた。それでお願いがあります」
まぁ、ここで察した。マイカーが欲しいということだろう。息子が中学生になってからは仕事が忙しくなり、ほとんど付き合えなかった。その罪滅ぼしとしては安いものだ。
「なんだ?」
「車を買う金を貸してほしい」
「いくらの前に車はなににするんだ?」
これは重要だ。どうせ、SUVだろう。俺の趣味ではないがそんなものだ。
「S13 シルビア。100万円で全部やってくれとるところを探した」
息子よ。ずいぶんと渋い趣味だ。俺と妻にとっても思い出深いクルマ。そして、息子がこの世に生を受けるきっかけのクルマ。もうちょっと、話を聞いてみよう。
「お前、AT限定だよな?ありゃ、ATで乗ってもつまらないぜ」
息子はあきれた顔をした。
「話しただろ?MT免許にするって。だから、おやじは」
これは俺のミスだ。息子への関心が薄かった。もう少し息子に話を聞こう。
「あの年式だと、そのぐらいの価格か。そんなものだな。状態はどうなんだ?」
「年式相応だけど、あの時代の日産だから、そんなに悪くもない」
「なんでR32 GT-Rとか言わないんだ?」
ちょっと、からかってみた。
「さすがにおやじ殿がいまをときめく企業の執行役員でも、それは言えない。で、シルビアはOKなの?」
「基本的にはOKだ。ただなぁ、あのクルマは俺とかあさんにとって思い出深いクルマでさ。なんか、照れくさいんだよ」
「どんな話があるの?」
俺はノートPCのクラウドドライブのフォルダを開いて、一枚の写真を息子に見せた。
2000年対応の仕事がひと段落して、俺のPRJでBBQをやろうということになった。場所は湾岸の公園で電車で行きにくい場所だった。ただ、そのBBQ自体はこの話に関係がないので、またの物語にする。妻とは同じPRJにいたがチームが違い、話したことはなかった。
BBQが終わり、荷物をクルマで持って来ている人のクルマへ運ぶことになった。その時、妻が乗っていたのがライムグリーンのS13 シルビアだった。
俺は、そのS13 シルビアのトランクに荷物を積む彼女、いまの妻に声をかけた。
「なつかしいクルマだね。俺は学生時代にあこがれたよ」
妻は照れることもなく、返してきた。
「いいでしょ?もう、最終型から10年も経っているから安かったの」
当時のS13 シルビアは俺の会社の賞与なら一回分でおつりがくるくらいだ。
「まさか、チューンしている?」
「どノーマル。隣に乗って帰る?」
いきなりストライクな子だと思った。
「いいの?それなら、お願いするか」
「ただし、最初、運転はさせない。わたしの運転を見ていて」
「それでいいよ」 当時はもうSUVの時代に入っていた。バブル時代のデートカーは珍しくなっていた。助手席に座って、一番、最初におどろいたことはMTだったことだ。
「え、AT限定じゃないの?」
「わたしたちが高三の時ってAT限定なかったでしょ?」
あれ、あまり若くない。いや、それをつっこんではだめだ。話を合わせろ。
「よく考えたら俺の時もそうだった」
「そんな、わたしに気をつかわなくても」
そう言い、彼女はまんざらでもない感じになった。
彼女はキーを回して、エンジンをかけ、数分、暖機運転をして、クラッチを踏み、ギアを一速に入れ、走り出した。
彼女のクラッチ操作はスムーズだった。俺よりうまいかもしれない。俺は当時、都心部のマンションに住んでいてクルマを手放していた。学生時代はMTのシビックに乗っていた。
ブレーキも静かだけど、ちゃんと停止位置はあっている。彼女は運転がうまかった。
「どう?なんとなく、このクルマがわかってきた?次のPAから乗ってみる?」
「ああ、そうしてくれれば」
「ところで、あんたの家はどこなの?わたし、意識しないで走り出したけど」
とっくに俺の部屋はすぎたところだ。
「とっくにすぎた。まぁ、いいや。よければ二人だけの時間をもうちょっと過ごしたい」
彼女が変わった。
「いやー、まー、あんたはいい男だし。わたしは別にいいけどさ。でも、いきなりはだめよ」
最後に妻が言ったこと以外は息子に話した。ちなみにこの日に息子を授かったわけではない。ただし、この晩は第三京浜を港北で降りて、新横浜へシルビアを走らせた。
「お前が生まれてくるまでこのクルマに乗っていたよ。お前が生まれてくるから、オデッセイに乗り換えた」
「いまはレクサス RXっすか?」
息子も嫌味だ。趣味でないのをとっくに見透かしていたか。
「ありゃ、ゴルフ場でクライアントに見栄を貼るためだけだ。ドライブ自体はたいしておもしろくない。いいぞ、シルビア。ただし、条件がある」
「なに?」
「俺とかあさんにも貸せ。どうせ、大学へ行っている日は乗らないだろ?」
「ああ、大学は電車で通う。でも、おやじ、平日に休めるの?」
「お前をほっといて、本当に悪かったと思う。ただ、かあさんのことも少し考えないとな」
「いいんじゃない。おやじ、忙しすぎたものな。おかげで俺は金のかかる私立へ行けて、なにも言えないけどな。でもさ、いまさら弟や妹は勘弁だぜ」
あの頃よりS13 シルビアが似合う女性に妻はなっている。
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