土曜日の夜の住宅街のUR団地がある駅からのバスの終点駅にある商店街のスナック。この先は山でもう人は住んでいない。
 客はこの団地に住んでいる男女だった。
 地元スナックにラブアフェアなどないはずだったのだが…
 また、ママは僕のボトルを他の客に出して安い悪い酒でも補充したのだろうか?やけにいけない酔い方をしていた。意識は飛ばないが、いつもより、いい気持ちになった。いつもシーバス・リーガルの12年で、これは酔い方が上品だった。
ママと商店街の八百屋のおやじがカラオケを歌えとうるさかった。いつもは空気を読んで、昭和のアイドルポップスを歌っていた。昭和と言っても70年代の新御三家からスマップぐらいまでだ。ここのおっさん、おばさんたちが知っているというか少年、少女時代にレンタルCDで借りてダビングしたカセットテープが伸びきるまで聞いていた曲だ。MDの時代は仕事が忙しくて音楽を聴く時間は減っていた。
 僕はなにを考えたのか、永遠の新人歌手の鈴木雅之のアニソンを歌ってしまった。それも3曲全部を立て続けに。1曲目でママは客たちがわかっていないと察して、僕からリモコンを取り上げようとした。だが、僕はリモコンを離さなかった。2曲目がサビに入ってくると店中が普段と違う盛り上がりをしてきたのだ。
 もともと、この鈴木雅之のアニソンはノリがいい曲だ。そりゃ、店も盛り上がる。調子に乗った僕は続いて、水星の魔女のYOASOBIなどを歌った。そこに金物屋のおやじが残酷な天使のテーゼを歌ったら、一気に盛り下がり、再び、僕にマイクが戻ってきた。まだ、エヴァがなうなど思っている金物屋。だから、あんたのところの品ぞろえはいまいちなのだ。このノリについてこられた八百屋は有機野菜や地場野菜を扱って、大手スーパーにはない品ぞろえで団地の若い夫婦に人気がある。
 俺は鈴木雅之メドレーをはじめた。酔いが回りすぎていた。だが、これは歌う方も気持ちいいが、聴く方も気持ちがいい。そろそろ締めようと、よせばいいのにロンリーチャップリンを入れた。ママが一緒に歌うだろうと思ってだ。いままで店で見たことがない女性が僕の隣で歌いだした。
 年齢は僕と同じくらいだろうか。団塊Jr。また、よせばいいのに、サビで左手など握ったのだ。左の薬指に指輪がないと気付いた。独身か?髪は肩まであった。ちょっとグレーが混ざっているが、それが生きてきた年輪を感じさせた。ユニクロのブラウザの部屋カジュアルだったが、この年齢の女性としてはスタイルがいい。20代の頃はさぞかし美人で会社の課のアイドルだったろう。
 歌い終わると、僕の隣に座った。
「ママ、この人と同じものをお願い」と彼女は言った。
 ママは困惑していた。そりゃ、そうだインチキなボトルを飲んでいた僕の酒を出せない。僕はママをレスキューした。
「いいよ、僕のボトルで」
 ママは、グラスを彼女に出し、アイスと水を交換して、水割りを作った。
 僕たちは乾杯をした。この後は覚えていない。

 朝、目覚めた。僕はパンツをはいていなかった。隣に彼女がいた。天井を見ると、僕の家と同じ天井だった。壁と戸が僕の部屋と左右が逆だ。同じ団地の同じタイプの部屋か。
 彼女が目覚めた。開口一番。
「わたしをかぐや様にしてくれてありがとう」