一夜の代償

 あなたはキングサイズのベッドで大きないびきをかいて眠っている。
 部屋にある唯一の窓が明るくなると、不規則な寝息に変わった。いびきも止まり、もぞもぞと動き始めた。
 目覚めは突然であなたは何かに驚いたように上体を起こした。
「ここは?」
 今日初めての言葉だった。
「君は、神崎さん?」
 寝ぼけているようで、あなたは強い瞬きをした。とんでもないことを仕出かしたと表情で語ると「ごめん」と大きな声を出した。
「どうして謝るの?」
「だって、その二人とも、裸だし」
「そうだけど、それがどうかした?」
 あなたは謝りながらも女性の胸が気になるのか。ちらちらと視線を送っては顔を赤らめた。
「もしかして、僕、やっちゃった?」
「酔ってたのに、すごかったよ。まだ奥の方がジンジンしてる」
 言いながら女性は掛け布団を掴んだ。隠されていた真実を明かすかのように一気に捲った。
 皺だらけのシーツの上で尽き果てたようなコンドームが現れた。伸び切った状態もあって、あなたは絶句した。暗く沈んだ表情で項垂れていった。
 対照的に女性は明るい表情となり、あなたの反応を静かに待つ。
「……責任を取って、彼女と別れる」
「本当にそれでいいの? 今後も大学のサークル仲間として、付き合ってもいいと思うんだけど」
「それだと、なんか、神崎さんに悪いし、僕自身が納得できない」
「わたしは嬉しいよ。前にも言ったけど、本気であなたのことが好きだから」
 あなたは泣き笑いの表情で「ありがとう」と小さな声で言ってベッドから下りた。トイレの方に向かって歩き出すと、女性は素早くコンドームを握ってゴミ箱に捨てた。
 用を足したあなたは首を傾げながら戻ってきた。
「本当に僕はしたのかな?」
「どうしてそんなことを訊くのよ」
「少し擦ってみたら、すぐに大きくなったから」
 あなたはシーツに目を向けた。
「延長料金を取られる前に出ようよ」
「もう、そんな時間なんだ」
「そうだよ。早く着替えないと」
 女性に急かされたあなたは床に落ちていた衣類を身に付ける。ほぼ同時に出られる状態となり、壁に設置された機械で支払いを済ませた。
 外に出ると女性はあなたの腕を抱え込んだ。
「神崎さん、その、歩き難いんだけど」
「それくらい良いじゃない。今日からわたしは洋輔の彼女なんだから」
「うん、ちゃんと別れるから」
「本当に嬉しい。これからもよろしくね」
 しおらしい言葉で女性はニヤリと笑った。