大好きな祐樹くん

 わたしはシャワーを浴びて昼間の汗を流し去った。ゴムバンドで結っていた髪はほどいている。祐樹くんに会うからきれいな体にしたい。わたしの肌はまだまだいけている。そんな肌を祐樹くんに感じてもらいたい。祐樹くんの肌と接触したい。
 下着は仕事の匂いのついている白から、青の下着に変えた。わたしの雰囲気は地味だけど、だからこそ青の下着だとかわいい。祐樹くんにかわいいわたしを見てもらいたい。祐樹くんにすべてを見てもらいたい。

 VRメットとグローブをつけて、ベッドで横になった。
「ハロー、パル。祐樹くんをコールして」
「フィジカルチェック正常。認証完了。京子さん、お疲れ様です。祐樹をコールします」
 VRメットのAIが応えた。VRグローブで脈拍、血圧、VRメットで脳波を測定して、わたしがVR空間にダイブできるかをチェックする。認証はVRメットの虹彩認証で行われる。VR空間にはわたしのセンシティブ情報が大量にある。学び続けるAIはわたしの人格を学んでいる。それを守るためには虹彩認証でもあまいくらいだ。

 わたしの目の前に祐樹くんの端正な顔が現れた。祐樹くんはイケメン声優だ。声はあまくせつない。でも、顔は端正。そのギャップがいい。わたしの体は3Dでスキャンしており、目の前の祐樹くんのスケールは現実<リアル>と同じだ。
「祐樹くん。今日もあまえさせて」
「僕も京子にあまえたい」
 祐樹くんはそう言うと、わたしに覆いかぶさってきた。祐樹くんの腕がわたしの背中に届いた。VRグラブを通じて、祐樹くんのあたたかさが伝わってくる。VRグラブが振動して祐樹くんが緊張していることがわかる。わたしの体はじんじんしてきた。わたしはどの空間にいるかがわからなくなってきた。祐樹くんのささやきが。
「京子、愛しているよ」

 カーテンの隙間から陽光が入ってくる。わたしは目を覚ました。隣で祐樹くんが寝息をたてている。祐樹くんは今日も端正な顔をしている。ベッドにわきには脱ぎ捨てられた青の下着が置かれている。髪はほどかれていて、結っていたゴムバンドもある。祐樹くんの暖かさがまだ体に残っている。昨夜も勇気くんはやさしかった。わたしはふと気づいた。
 わたしは祐樹くんと昨夜、いつベッドに入ったのだろうか?いや、その前からだ。
「わたしはいつ祐樹くんに出会ったのだろう」
 わたしはそれを思い出せなかった。