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〜ヴァギナの大穴第11層〜

ヘッポコがヴァギナの大穴をパトロールをしていると、暗闇の中を一人の冒険者らしき男がフラフラと歩いていた。
松明に照らされたその男の顔を見た全員が息を呑んだか、呻き声を上げた。
ヌルスケだった。
自慢の顎髭は、元が白であったことが判別できぬほど黒ずんでいた。所々に固まった血がこびりつき、髭を汚らしく縺れさせている。
灰色の地味な服にも血の斑点が撒き散らされていた。それが魔物の返り血なのか、自分のものであるのかは判らなかったが、服の破れ目を見る限り少なくとも半分以上はヌルスケ自身の血であろうと思われた。
頭部にも手酷い傷を受けたらしく、薄くなった髪がベッタリと血に固められている。ただ、傷は薬草で治療したのか、見て取ることはできなかった。
その姿は、魔物に村を滅ぼされた避難民の、物乞いと見紛うばかりのみすぼらしさと痛ましさだった。
だが、物乞いとは決定的に違うところがヌルスケにはあった。
それは、目だった。何かに憑かれているような、異様な目線だ。
鋭く、鋭気に溢れてはいるが、どこかが醒めている。
一瞬視線を交わしたヘッポコの背に、ぞくりと怖気が這い上がってきた。頭部の傷の後遺症で、ヌルスケはすでに正気を失っているのではないかと思ったほどだ。