【リレー小説】TPパニック 〜 殺し屋達の絆 〜
舞台は台湾の首都台北
主人公は台湾マフィアお抱えの殺し屋ファミリー「タオ一家」三男マルコム
通称「マル」、ただし偽名である
彼らは互いの名前をイングリッシュ・ネーム及び偽名で呼び合い、誰もその本名を知らなかった 「ここどこ?」
見渡すととそこはホテルではなかった。
「こっちが聞きてーよ!」
メイは声を荒げるように言った。
「今までの方が夢だったりして」 「しょーがないだろ。私は昼間は眠くて起きてられないんだ」
「昼間メイが起きてればいいじゃん」
「起きてられねーんだってば」
「勝手言うな!」
「どうしようもねーんだってば」
「じゃあ昼間メイが寝て、夜はあたし寝てるわ!」
「身体が休まらんだろ。ずっと起きてることになる。それにお前が寝てたら私が傷ついた時、誰が治すんだ」
「そん時起こしゃいーじゃん!」
「呼んでもサッサと起きねーねぼすけが何を言う」
「お前だろ!」 「それにな、私達は黒白揃っての『黒色悪夢』なんだぞ」
「だったら『灰色悪夢』じゃん!」
「それじゃなんか語感が嫌だから黒にしてるんだよ」
「じゃあやっぱ白いらないじゃん!」
「何怒ってんだよ。お前は必要なんだ。お前がいなけりゃ……」
「嬉しくないから! フン! だ」 「とりあえず今から作戦会議を行う」
「作戦会議? そんなの今までしたことないじゃん」
「今回の敵は手強い。おまけに私が妙な技をかけられてこの状態だ。今までの仕事とは勝手が違う」
「ねぇ……メイ」
「何だ」
「中国に……帰ろ?」
「アホ言うな」 ララはベッドに寝転ぶと、拗ねたように言った。
「つまんないんだもん。それに怖いし……」
「お子ちゃまか」
「あーあ。サクッと殺して、あと観光して、帰れると思ってたのに」
「おいおい。サクッと殺すとか、物騒なこと言うようになったもんだな。あの優しかった姉ちゃんが」
「誰の影響だよ!?」
「大体お前、他人様の命を何だと思ってんだ」
「お前に言われたくないわ!」 「まぁ、とりあえず黙って聞け。作戦会議だ」
メイファンはそう言うと、仕切りはじめた。
「今回、標的6人のうち4人と接触。1人を始末した」
ララは何も言わずに新たな飴を口に入れた。
「始末出来なかった3人だが、これがいずれも厄介だ」
ララは口の中で飴を転がしカランコロンと音を立てた。
「真面目に聞け!」
「カラン……コロン」 「まず、最初に接触した毒使いだ」
ララは思い出してしまい、鳥肌が立った。
「正直あいつがいつ毒を盛ったか、未だにさっぱりわからん。わからんからには防ぎようがない。何も飲み食いするなとも言えんし……」
「カラン……コロン……」
「その飴大丈夫か」
「カラン……コロン……」
「まぁ、しかしあいつはフィジカルが弱すぎる。そこが弱点だ」
「カラン……コロン……」
「『攻撃は最大の防御』というのは単なる基本に過ぎないが、その基本があいつには大いに通用する」
「カラン……コロン……」
「もし私が寝ている時にあいつを発見したら、お前が闘え」
「ブーーッ!?」 (…こんな彼女″ら″が黒色悪夢だとはねぇ、仕事なんでね、死んで貰う。)
この部屋に標的の1人、タオ・サムソンが潜んでいることに
メイファンとララは気が付いていなかった。 「大丈夫だ。私の見立てではお前レベルでもあいつなら殺せる」
「何を言う!!!」
「まぁ、任せたぞ。次は銃火器ぶっ放すボインの姉ちゃんだ。あれもヤバい」
ララは口を尖らせながら新しい飴の袋を開けた。
「あいつ、狙いも定めずに乱れ撃ちして来る。ああいうのは苦手だ。『気』を読む暇がない」
ララは新しい飴を口の中に放り込んだ。
「今日の昼、あいつがお前を殺しに来てたが……」
「そうなの!?」ララは口に入れたばかりの飴を吹き出した。
「さすがのあいつも大勢人がいる場所では銃火器は使えんようだ。ところで……」
メイファンはサムソンのほうを見た。
「お前、何?」 「えっ? えっ?」
サムソンはびっくりして武器を落とした。
「僕が見えるの!?」
「てめーが幽霊なわけねーだろ」
メイファンはララの姿のまま言った。
「そんな濃い『気』を暑苦しくムンムン出しといてよ。目で物を見る奴にはどうか知らんが、『気』で物を見る私には丸見えだ」 メイファンはサムソンを縄で縛ると、ララに言った。
「このデブ盾に使え。あいつが撃ちまくって来たらこのデブ前に出せ」
「わかった」
ララは頷いた。 「残るはあのイケメンだが……」
メイファンは眉間に険しい皺を寄せて言った。
「アイツは私がなんとかする」
「天敵なんでしょ」
ララは白けたように言った。
「メイには勝てない相手だよ。諦めて中国、帰ろ?」
「バカ言え」
メイファンは笑った。
「天敵だからこそ、乗り越えるんだ。こんな楽しいことはない」 「そしてサクッと全員殺したら、私が観たかった宇宙人のライブだけ観て、サッと帰ろう」
勝手なことばかり言うメイファンに、ララは発狂寸前だった。 「…すごいな、ほんとに気だけの人がいるなんて」
サムソンはメイファンの目を覗きながらいった。縛っていたはずの縄は切られていた。
「…暑苦しい顔をちかづけるんじゃねぇ」
メイファンはサムソンを張り飛ばした。 新しい朝がきた。
「おっす、おはよう!」
ゆーたとかいう男の大声でララは目を覚ました。
「うぅっ、朝からうるさいなぁ」
ララは不機嫌そうな顔でベッドから起き上がる。 時計を見るとまだ5時にもなっていない。
「まだ寝よう」
と布団を再び被り眠りに就こうとしたが、
汗っぽい感じが不快だったので入浴するためベッドから上体を起こしながらベットから降りた。 昨夜は最悪だった。
眠れなくなったメイファンが夜通し話しかけて来たのだ。
ようやくまた眠ってくれたのは朝陽の昇った4時過ぎのことだった。
『あぁ……あたし、今、すごくメイファンを殺したいなぁっ……』
ララはユニットバスのシャワーを浴びながら、思った。
『キンバリーさんもこんな気持ちなのかなぁ……』 「ヒエッ」
ララが部屋に備えてあるはずのバスタオルを棚から取り出していると
誰かがお尻をわしづかんできたので、振り向くと優太がいた。
「あ〜たまらねえぜ」
彼の顔は紅潮していた。酒の匂いが鼻を突く。どうやら酔っ払っているようだ。
「ちょ、やめて」
ララは拒絶し抵抗したが、中国語なので彼には通用しないし、
酔っ払ってるのでやめようとしない。
「ララちゃんごめんね、俺もう」 優太はララのおしりに顔を埋め、その秘貝に舌を這わせた。
「えっ、やめ、あっ、くっ」
ララは不快を感じ小さく悲鳴をあげ、身をよじる。 ララは自身の呼吸が荒くなり、体温が上昇するのを感じた。
(メイぃーーーーッ、はやくおきてくれー!)
メイファンは起きなかった。
「はうあッ!?」
体の中心から甘いしびれが全身を駆け巡る。
熱いモノがこみ上げる。 「あーっ!」
ララはとうとう絶頂に達してしまった。
彼女は股間から体液をもらし、痙攣しながら膝をつくと、優太に寄りかかるように倒れた。 「すげー」
優太は口元を手で拭きながら、笑顔で言った。
「こんな美味しいマンコ舐めたの、初めてだ」
メイファンは一瞬だけ、不快な感覚に目を覚ましていた。
「敵か?」と思い、優太の舌を斬り落とそうとした。
しかし優太に殺気がなく、代わりにピンク色の色気をムンムンさせていたのを見ると、バカらしくなってやめた。
ララと感覚を切り離し、殺気を関知するアンテナだけしっかり立てて、今はスヤスヤ眠っていた。
「そんじゃ、今度はこっちだよ」
優太はララにベッドに手をつかせると、そのお尻を持ち上げ、こちらを向かせる。
ビンビンに尖っている自分のモノを握り、そこへ当てがった。
ララの秘貝は既にびしょびしょに濡れている。
ララが抵抗しようと思うほどに濃厚なフェロモンが発射され、甘い匂いが優太を包み込んだ。
「ハァハァ……! 入れるぜ!?」
「イヤーーーっ!」 「……ってわけには行かねーか」
そう言うと、優太はララの腰から手を離した。
「約束だもんな。『黒色悪夢』より先に俺がマルコムって奴倒したら、そん時にヤらせて貰うって」
優太はララをベッドに座らせた。
そしてはち切れそうな自分のモノを差し出す。
「?」
ララは涙と涎で濡れた顔で優太を見上げる。
「口でしゃぶってくれや」
優太は自分の指を口に出し入れしながら、風呂上がりでリップもつけていないのに桃色のララの唇を、反対側の親指でぷにぷにした。
ララは大きな瞳から涙をこぼし、ふるふると首を横に振った。 扉をノックする音がした。
返事も待たずに扉が開き、キンバリーが顔を覗かせる。
「ララちゃん……あっ! ……お邪魔さま〜」
キンバリーは口に手を当てて笑いながら、すぐに出て行こうとした。
「まままま待って! 助けて!」
ララが叫んだのでキンバリーはまた顔を覗かせた。
「あら?」
「キンバリーさん助けて!」
「……合意じゃないみたいね」 途中中断された優太は不満顔だ。
「キンバリーさぁんあんあんあんあん!」
キンバリーにしがみついて泣いているララを横目に、優太は言った。
「俺……これ、収まんねーんだけど、どうしてくれる?」
優太はキンバリーにギンギンちんぽを突きつけた。
「キンバリーさんでもいいから、やらせてくんない?」 キンバリーは電話をかけた。
すぐに扉をノックする音がし、ケバケバしい化粧で顔を塗り固めた40代ぐらいのおばさんが入って来た。
おばさんはカタコトの日本語で言った。
「日本人好キヨ。若イワネ! さーびすスルヨ!」
優太は急激に萎びてしまったチンポを触りながら言った。
「チェンジ」 ララは優太を睨み、喚いた。
「レイプされた! 訴える!」
キンバリーがそれを訳すと、優太はキレた。
「ああ??!! テメー、めっちゃ気持ちよがってたじゃねーか!!! 気持ちいいことされて訴えるってどーゆーことよ???!! 女ってわかんねー!!」 (ララ、ふせろ!)
唐突にメイの声がしたのでサッとその場に座り込んだ。
「かっ・・・かぺ?」
優太は白目をむいて、泡を吹きながら膝を突きうつ伏せに倒れた。
「こ、これは・・・ジェイコブ・・・!?」
キンバリーも突然苦しみだした。
「キンバリーさん!?」
動揺するララにどこからともなく声が聞こえた。
「外したか。」
それはサムソンの声だった。彼は縄を解き天井に張り付いていたのだ 「よくやったサムソン」
声の方を向くとそこには笑みを浮かべるヴェントゥスがいた。
「ヴェントゥス!?」
意外な人物の登場にララは驚愕した。
「…なぜここにいる、と言う顔をしているね。それは簡単さ」
ヴェントスは壁にかけられた絵画を持ち上げると裏側にハッチが現れた。
「このホテル、実は俺たちの所有物でもあってね。このように隠し扉や隠し部屋がたくさんあるんだ。なぜって?趣味さ」 ララの周りをサムソンやいつの間にかいるジェイコブが取り囲み拘束した。
ララ「離せ、ヴェントゥスっ!私をどうするつもりだ。」
ヴェントゥス「私は君を保護するために来た。君にはこの血生臭い世界は似合わない。」
ララ「信用できるか!」
ハリー・キャラハン「君はこの危険な所から逃げ出したくないの?中国に帰りたくないの?」
ララ「私は…中国に帰れるの?」
ヴェントゥス「帰れるとも!」 「ララを舐めるなよ」と、ララの口が言った。
そう、メイファンの言う通り、ララこそがこの物語の真の主人公なのだ。
これはララが様々な災難に出くわしパニックになるための、みんなでララを弄んで遊ぶ物語なのである。 「真の主人公であるところのララさんが尻尾を巻いて国に帰るわけがねーだろうが!!!」メイファンは牙をむいて叫んだ。 タオ・パイパイ「四男の奴、遅いのぅ……。キンバリーの尻尾を掴めと言っただけじゃのに……」
ヒーミートゥ「私の占いでは、私の夫は死ぬと出ている」
タオ・パイパイ「まさかあの阿呆、1人で敵地に乗り込んで戦ったりしておらんじゃろうな……」 不意にドアが開いた。
「飛島ぁ、カシラが・・・、なんだてめえら、うちのモンに何してやがる!」
ヤクザの男は拳銃を抜いた。騒ぎを聞いた見回りの者たちも野次馬のように集まりだした。
「ヴェントゥス、ここは俺に任せて先に行ってくれ。奴らを止められるのは俺しかいない」
サムソンが前に出た。
「・・・サムソン・・・武運を祈る。」
ヴェントゥスはうなずいた。
「えっ私誘拐されるの?」 「うおー、中国神話だーっ」
ララは棒を振り回した。
「こら、暴れるな」
ジェイコブはララを押さえるのがやっとだ。
そこへハリー・キャラハンは飛び上がると、ララの顔面に勢いよく屁を吹きかけた。
「くさっ、目…に…染み…る」
ハリー・キャラハンはララを担ぐと、ヴェントゥスたちと共に隠し通路に入っていった。
殿のサムソンを残して。 集中モニター室で、兵藤直樹は全てを見ていた。
「逃がすと思いますか?」
兵藤は穏やかな細面に極道特有の無慈悲な殺気を浮かべた。
「台湾資本のホテルを私どもが使うわけがないでしょう。ここは日本資本の、しかも我が花山組の所有物だ」
そしてカメラが執拗に捉え続けるヴェントゥスとハリーを目で追いながら、無線で指示した。
「外へ出すな。殺せ。ララさんは保護しろ」 「さて」
侵入者の排除は精鋭の部下達とセキュリティーシステムに任せ、兵藤は皆を集めた会議室で話しはじめた。
「私達はタオ一家を絶滅させに台湾へやって来た。そろそろ行動を起こしましょう」
「敵の屋敷はわかってんだろ?」
飛島優太が貧乏揺すりをしながら言った。
「さっさと本拠地に乗り込めばいいじゃねーか」
「バカですか、君は」
「むぐっ!?」
「敵の巣に乗り込むのは相手に地の利があります。おまけに向こうには有名な『暴れ牛』がいる。そんな所へ無謀に突っ込めばどうなるか?」
兵藤は指を鳴らした。
「こうなります」
体つきのごついヤクザが二人、四男サムソンを連れて入って来た。 「いらっしゃい。タオ一家四男、サムソンくん」
部屋に連れ込まれたサムソンは、そこにキンバリーの姿を見つける。
「キム姉!」
非難するようにではなく、ただ信じられないといったように悲しげな声を上げた。
キンバリーは目を逸らす。
「やっぱりキム姉、僕らを裏切ってたの? なんだよ、僕らのこと『大好き』って言ってたのは芝居かよ?」
「臭い家族ドラマはやめてもらいましょう」
兵藤は言った。
「彼は『カメレオン・デブ』と呼ばれ、姿を消すのが得意らしい。もし逃がせば、このホテルに易々と潜入して来たように、
今度は易々と逃げ、タオ・パイパイにキンバリーさんのことを報告するでしょう。ゆえに……」
出入口をヤクザ達が固めた。
「この場で処刑します」 「はい! はい!」
優太が張り切って手を挙げた。
「やる、やる! 俺にやらせて?」
「茨木さん」
兵藤は優太を無視して茨木敬のほうを向いた。
「あなたの武勇伝はよく耳にしています。しかし何故か誰もあなたの喧嘩を見たことのある人間はいない」
茨木は顔色を変えることなく兵藤と目を合わせた。
「あなたが『ステゴロの鬼』だというのは私にとって『情報』でしかない。私はこの目で見たい、あなたの喧嘩の腕を」
兵藤は言った。
「今、この場で、サムソン・タオを殺して見せて貰えませんか」 キンバリーが急いで会議室を出て行こうとした。
「お待ちなさい」
兵藤が呼び止める。
「最期に弟さんと何かお話をしてあげてください」
「キム姉ちゃん……」
サムソンは情けない顔で姉に助けを求めた。
「……助けて」
「ブーちゃん」
キンバリーはサムソンに優しく微笑みかけた。
「あなたは実は私のほんとうの弟じゃないのよ」
「えっ?」
「あなたはタオ・パイパイがよそのデブ熟女に産ませた子。私とは血の繋がりはまったくないの」
「……嘘だ」
「実は死んだモーリンも、ね。彼女はタオ・パイパイが某女優さんに産ませたのよ」
「だからって……」
「私のほんとうの兄弟……オリビアママの子供は、ムーリンだけなの」
キンバリーは狂気を帯びた笑顔で言った。
「ママを苦しめたお前達は、苦しんで死ぬがいい」 「これまた臭い家族ドラマでしたね」
兵藤がカタコトの中国語で言った。
「さぁ、出て行くのならご自由に」
キンバリーはサムソンから顔を背けると、辛そうな表情を手で隠しながら走り出て行った。
「さぁ、茨木さん、お願いします」
兵藤は拍手をしながら茨木に立つよう促した。
「銃は使わないでください。素手で、彼を殺して見せて頂きたい」 茨木は立ち上がり、サムソンを見てたじろいた。
(な、何がおかしい…?)
茨木と目が合ったサムソンは微笑んでいた。
「茨木さん、どうしました?」
兵藤が言った。
「いえ、何でもありません。」
茨木が微笑むサムソンに近づく。
(コイツ、今から殺される奴の目じゃねえ。気が狂ったのかそれとも…?) そのころ、ひでぞうはハリーやヴェントゥスを追跡していた。
「このホテルにこんな地下があったなんて」
ひでぞうの声が地下通路に響く。彼がたどり着いたのはホテル地下に広がる地下道だった。
「そんなことはどうでもいい、奴らを追うのが優先だろう」
そう言ったのは、ひでぞうの兄弟分、鶴見だった。 刹那、会議室を揺るがすように、大地震のような音が響いた。
その部屋にいた誰もが驚き、仰け反り声を上げた。
会議テーブルの上には、仁王のように筋肉の隆々とした、初老の男が舞い降りていた。
地響きを立てて舞い降りたにも関わらず、会議テーブルは無傷のまま、震動すらしていなかった。
「……我が子を……返して貰おう」
タオ・パイパイは口から白い煙を吐きながら、地響きのような声で言った。 煙と炎に包まれた部屋で1人の男が起き上がった。
「なんだってんた、畜生…」
優太は体に走る痛みを堪え、よろよろと立とうとてをついた。
「あっ、なんだこれ」
それは人の足だった。優太はすこし落ち着くと周囲を見渡した。
「兵藤のカシラ…茨木のオッサン…誰か、返事をしてくれ」
先ほどまで彼がいた部屋は、肉塊と瓦礫が散らばり、うめき声が聞こえる地獄絵図と化していた。
「優…太、大丈夫か?、あ、あの野郎マジイかれてや…がる」
茨木の声がした。 【主な登場人物まとめ】
─ タオ一家 ─
◎タオ・パイパイ……タオ一家の父であり、伝説の殺し屋と呼ばれる台湾1の悪党。既に殺し屋を引退し、子供達の管理と育成に身を注いでいるが、その実力はまだ最強レベルだと思われる。
◎ジェイコブ・タオ……タオ一家長男。前妻エレナの子。31歳。小柄で陰気な顔つきの毒殺のプロ。どこからでもあらゆる手段で敵の体内に毒を注入できる。身体能力はウサギ以下。
◎バーバラ・タオ……長女。29歳。エレナの子。美人でナイスバディ。お金と自分にしか興味がない。暗器とハニートラップを得意とする。
◎マルコム・タオ……三男。27歳。エレナの子。長身でイケメン。お洒落。愛靴スーパージェット・リーガルを武器とし、一撃必殺を得意とする。キンバリーを愛している。
◎キンバリー・タオ……次女。25歳。オリビアと前夫の子。長身で長髪。太陽のように明るく、バーバラ以外の家族皆から愛されている。
◎サムソン・タオ……四男。19歳。タオ・パイパイとオリビアの子。デブ。影が非常に薄く、助手席に乗っていても運転手に気付かれない能力の持ち主。最近結婚した。
◎タオ・ムーリン……四女。17歳。タオ・パイパイとオリビアの子。金髪でぶさいく。普段は殺し屋でもない普通の女の子だが、キレると一家1の攻撃力を無差別に爆発させてしまう。
◎ヒーミートゥ……四男サムソンが結婚した原住民パイワン族の娘。現代人らしからぬ呪術のようなものを使う。
─ 死亡 ─
◎タオ・ガンリー……次男。
◎タオ・モーリン……三女。 ─ 中国日本連合勢力 ─
◎メイファン……中国からやって来た最強の殺し屋。通り名は黒色悪夢。まだ16歳の少女だが、『気』を操り何でも武器に変えてしまう能力を持つ。
◎ララ……19歳の色白の少女。メイファンと身体を共有しているメイファンの姉。強力な治癒能力を持つが、戦闘能力はウサギ並み。この物語の真の主人公?
◎ジャン・ウー……ララの手伝いをする白ヒゲの老人。ジャッキー・チェンの「酔拳」に出て来る蘇化子にそっくり。
◎兵藤直樹……日本のヤクザ『花山組』の幹部。見た目は穏やかだが残忍。
◎飛島優太……18歳の高校生だが既に48人の同業者を殺害している殺し屋。スケベ。
◎茨木敬……『ステゴロの鬼』と呼ばれる喧嘩師のヤクザだが、誰もその喧嘩を見たことがない。警察の犬?
◎ことぶき ひでぞう……運転手。 ─ その他 ─
◎ヴェントゥス……世界に7人いる『光の守護者』の1人。その中でもNo.2の実力を持つと言われているが、意外と弱い。金髪の七三分け。中立的立場?
◎ハリー・キャラハン……ヴェントゥスの舎弟の白人。
◎ヤーヤ……ムーリンが友達になった17歳の女子高生。
◎ユージェ……ヤーヤが思いを寄せる年上のロック・アーティストを目指す青年。 先ほどの轟音を聞き付けた、兵藤の部下たちが部屋に飛び込んできた。
「兵藤のカシラ!」
爆発で扉が吹き飛んだ部屋の入口から中へ次々
入り込むと部下たち。
「こりゃひでえ、爆弾が仕掛けられてたのか!?」
「カシラはどこだ!?」
「あいつらなめやがって」 「中国神話だーッ」
地下迷宮で目を覚ましたララはハリーの背中から飛び降りると
飛び上がって両足でハリーとヴェントゥスの金的を蹴り上げた。 しかし、彼女に逃げ場はなかった。
そこはこの地下迷宮を移動するモノレールの中だったのだ。
「おいお前!」
ジェイコブはララのおしりを摘まんだ。
「ぎゃあ!」
ララは悲鳴を上げ、振りほどこうとしたが、
ジェイコブの指はがっしりオケツに食い込んで離れない。
「手荒な真似をしたのは申し訳ないと思うよ、でも、タマタマを蹴り上げるのはあんまりだろう!」
光の守護者の従者となったジェイコブはララの行動が許せなかった。もう殺し屋だった彼はいない。
「…ごめんなさい。」
その謎の神々しさに、ララは気圧され謝罪をした。
「分かればよろしい」
ジェイコブは手を離した。 そこへひでぞう達が追いついて来た。
「お、追いついたぞっ!」
ヴェントゥス達の目の前で行く手を塞ぐシャッターが降りた。
「も、もう逃げ場はないぞっ!」
ひでぞうの声は震えていた。
彼はピストルを取り出すと、ララに当たっても構わないとばかりに発砲した。
「し、死ね〜っ! かっ、カイカン!」 しかし、ひでぞうは拳銃使用の経験は浅い。
放たれた弾丸はララたちが乗るモノレールにはロクな有効打を与えることが出来なかった。
ひでぞうは知らなかった、拳銃は5mも離れるとろくに当たらないことに。 ヴェントゥスの乗る、モノレールはシャッターの脇を通り過ぎる。
ひでぞうの作動させたシャッターは人間用でモノレール用ではなかったのだ。
「こなくそ〜っ」
ひでぞうは助走をつけて飛び上がると、ハエのようにモノレール後面にへばりついた。 しかし掴まるところがなかったので、
そのままズルズルと落ち、 奈落の底へ落ちていった。このモノレールは懸垂式だったのだ。 「うおお〜っ! ぼっ、僕は主人公だぞ!」
ひでぞうは神に向かって手を伸ばした。 「ふぅっ。無茶をした! 寿命が10年……いや20年縮んだかもしらん」
タオ・パイパイは自転車に乗って逃げながら言った。
「ごめんね、パパ」
並んで走るサムソンはしかし笑顔だ。
「キンバリーが裏切っておるという確たる証拠を掴んで来いとだけ言うたのに、何故余計なことをした?」
「ごめんね、パパ」
「……それで、掴んだのか?」
サムソンの笑顔が消えた。 タオ・パイパイが現れた時、そのすぐ近くにいた兵藤直樹はバラバラになって死んでいた。
会議室にいながら助かった少数の者達と、警備に当たっていた花山組の者達は悲嘆に暮れた。
「うっ……うっ……オヤジぃ……」
「頭ぁ……」
「兵藤さん〜……」
「警備隊は何をしていた!」
阿久津 恭三という名の年配のヤクザが怒り狂っている。
「モニター室にいた奴らは俺がブチ殺す!」 「何が起こったのか……さっぱりわからなかった」
茨木は呟いた。
「あれが敵のボスかよ。超能力者か?」
優太はピストルの手入れをしながら言った。
「ところでオッサン。アンタ、兵藤さんが死んで、なんか嬉しそうじゃね?」
「馬鹿を言うな」
茨木は無表情で言った。 「ヴォエッ!」
サムソンは立ち止まると耳・鼻、そして口から謎の物体を取り出した。
それはカメラ・盗聴・再生機器材だ。かれはそれらを組み合わせスイッチを押した。
『キム姉・・・!・・・・・彼は『カメレオン・デブ』と呼ばれ姿を消すのが得意らしい・・・ママを苦しめたお前たちは苦しんで死ぬがいい・・・。』
器材の画面にはヤクザたちといるキンバリーが映っていた。 「なんと、キンバリー……」
タオ・パイパイは呟いた。
「知っておったか……!」
「パパ……」
サムソンは泣きそうな声で聞いた。
「僕のママは……誰なの?」
しかしパイパイはそれには答えず、さらに呟いた。
「まさかあのことまで……? どこまで知っておるんじゃ!?」
「ねぇ、パパ……?」
「しかしワシの次の妻はキンバリーと決めていたが、これであり得なくなった」
タオ・パイパイは四男の質問には頑なに答えず、言った。
「ヒーミートゥと言ったか、お前の嫁。あれ気に入った。ワシに譲れ」 その頃ララはモノレールから降り、ヴェントゥスらに連れられ、再び地下通路を歩かされていた。20分くらいだろうか、細い通路が巨大な空間に変わった。
「さあ、着いたぞ」
ハリーがいった。
「えっ、なにここ…?」
ララの目の前には灯りが輝く地下街が広がっていた。
「ここは奴らでも手出しは出来ない。」
ヴェントゥスは笑顔を浮かべ、ララの方を向いた。 帰ると早速タオ・パイパイは四男を黙らせ、ヒーミートゥにプロポーズをした。
「お前なかなか妖しくてワシ好みじゃ。妻になれ」
「原住民の掟がある」
ヒーミートゥは答えた。
「一度結婚したら、たとえ夫が死んでも一年は再婚できない」
「そうか」
タオ・パイパイは言った。
「じゃあ殺す。死ね」 「ダメーーっ!」
サムソンはヒーミートゥの前に立ち塞がった。
「彼女を殺さないで!」
「そいつはワシのプロポーズを断りよった」
タオ・パイパイは暗殺拳の構えをとった。
「ムカつくので殺す」
「この娘を失ったら、僕、一生結婚できないかもしれないんだよ!?」
「一生童貞でおれぃ!」 タオ・パイパイが攻撃しようとした時、ヒーミートゥは長い睫毛をバサバサ動かしながら言った。
「私に殺意を向けたお前には呪いがかかった。もう逃げられない」
「何じゃと?」
パイパイの動きが止まる。
「予言しよう。黒い悪魔がお前を殺しに来る。3日後だ」
「僕のパパに何言ってんだーっ!」
サムソンは振り向き、ヒーミートゥを叱った。
「フフ……。面白い」
タオ・パイパイから殺気が消えた。
「既にお前の占いは外れておる。四男はこうして生きておる。ワシが運命を変えたのじゃ!」
「今回は変わらない」
ヒーミートゥは睫毛を上げ、黒い瞳でタオ・パイパイをまっすぐ見た。
「お前、太陽神を怒らせた。太陽神が黒い悪魔をお前に差し向ける」 (・・・ここはどんな場所なんだ?)
ララたちが訪れた地下街、そこはとても奇妙な場所だった。
足を踏み入れるとまず、緑色の服を着た奴らが走り回ってるのが目に付いた。
どうやら遊んでいる子供のような印象を受けたが、よく見ると子供だけでなく
中年男性や老婆も混じっており、彼らは緑の服は着ていなかったものの、どちらかと言えば子供向けの服装で
子供のような仕草で遊んでいるのが不気味だ。
まばらだが白い防護服と防護マスクで身を包んだ人々が歩き回っている。
「何かの研究所?」 そこは町と言うより何かの研究施設に思えた。
階段を登り、橋ような通路に通りかかった時、ララはもじもじしながらヴェントゥスに尋ねた。
「あの、私いつ服を着させて貰えるんでしょうか?」
「」 メイファンでいる時はいつも全裸だ。が、ララはやはり服を着ていないと恥ずかしかった。
ララは緑色の服を貸してもらうと、いそいそと身に着けた。
まるで妖精が着るような、なかなか可愛い服だったので頭の上に♪マークがついた。
「ところで」
ララはヴェントゥスを心配するように、泣きそうな目で見つめながら言った。
「もうすぐ夜になったら、『黒い私』が目覚めます。妙な技をかけた張本人を見たら絶対に殺そうとすると思いますよ」
そして提案した。
「私を縛ったほうがいいと思います。檻の中とかはたぶん、簡単に脱出する……」 「うむ、心配無用。」
ヴェントゥスは自信満々だ。
(大丈夫じゃないのに…。)
ララは心配そうにヴェントスを見つめる。
ララはふと、橋の下を見た。橋の下にも施設はあり、今度はオレンジ色の服を着ている者達が、ラジオ体操をしていた。囚人だろうか?
(あれ、なんか違和感が)
オレンジ色服の男たちの顔をよく見ると、
体格差や年齢差も見受けられるが皆同じ顔だ。それもどこかで見たことがある。
「…タオ・パイパイ…たくさんいる?」
橋の下をチラチラと眺めるララに対し、ハリーがその疑問に答えた。
「…ん、タオ・パイパイがいっぱい? ああ彼はここで生まれたんだよ。この区画は最強の兵士やモルモットを作り出す研究施設なんだ。」
ララは混乱してきた。 メイファンは目覚めた。
「ん……? ここ、どこだ?」
「おはよう、ラン・メイファンさん」
ヴェントゥスは言った。
「あ。おはよー」
メイファンはそういうのと同時に、まるで目をこするように、殺気ゼロの手刀でヴェントゥスの首を斬りに行った。 ヒーミートゥは殺されずに済んだ。
サムソンは自分の部屋に彼女を初めて入れた。
部屋は発明器具で散らかっており、色気も何もなかった。
「あなたは発明家なの?」
「そうさ。マルコムのスーパージェット・リーガルも僕が作ったんだよ」
サムソンは自慢気に言ったが、すぐに恥ずかしくなった。
「ごめんね。とても女の子を入れる部屋じゃないや。モーリンの部屋に行こう」
「いいえ。ここでいいわ」
そう言うとヒーミートゥはサムソンの汚いベッドに腰掛けた。 二人は並んで座った。
暫くは会話もなかったが、やがてサムソンが聞いた。
「……なんで、僕なんかを選んでくれたの?」
ヒーミートゥは不思議そうにサムソンのほうを見た。
「ミーちゃん」
サムソンはヒーミートゥを愛称で呼んだ。
「そんなに綺麗だし、まだ17歳だし……僕みたいな地味デブなんかとは釣り合わないでしょ」
「あなたの上に」
ヒーミートゥは言った。
「英雄の『火』が見える」 「私があなたを選んだのではない」
ヒーミートゥはさらに言った。
「太陽神が私にあなたを選べと告げた」
「なんか嬉しいような」
サムソンは頭を掻いた。
「嬉しくないような」
「メヴレヴ」
ヒーミートゥはサムソンをパイワン族名で呼んだ。
「要するにあなたは私の運命の相手ということだ」
「そっかぁ」
サムソンは笑顔を見せた。
「メヴレヴ」
ヒーミートゥの黒く長い睫毛が濡れていた。
「あなたの子が欲しい。私の中に子種を注いでくれ」 マルコムはビデオを見せられても直ちには信じられなかった。
──ママを苦しめたお前達は、苦しんで死ぬがいい
「つまり、お前も殺すということじゃ」
隣に並んだタオ・パイパイが言った。
「嘘だ。キム……」
マルコムは震える声で言った。
「君は僕を愛していたんじゃないのか……?」
「芝居じゃ」
パイパイは言った。
「恐らくお前を油断させ、その靴を盗む気だったんじゃろう」
「しかし……僕は……」
マルコムは呟いた。
「どうしようもないほどに……キムを愛している」
「バカか!?」
パイパイは吐き捨て、やはり改造すべきだコイツと確信した。
「世界で僕が唯一殺せない人間がいるとしたら……」
マルコムは強い語調で言った。
「君だけだ! キム!」 部屋に戻るとマルコムは考えた。
『なぜ……彼女が僕達を殺そうとする?』
マルコムにはあまりにも心当たりがなかった。
『そしてなぜ……ムーリンだけは別なんだ?』
その答えはすぐに出た。
ムーリンだけが、キンバリーと血の繋がりのある本当の妹だったのだ。
その上ムーリンは『暴れ牛』が発動しない限り、心の優しい普通の女の子だ。 『そうか……』
マルコムは推測を完成させた。
『彼女は父さんの……タオ・パイパイの血を根絶やしにしようとしているのだ』
マルコムの脳裏に、オリビアを発狂するまでに至らせた父の所業が蘇った。
それは彼の知る限りの一部分であり、キンバリーはもっとたくさんのことを知っているのではないかと思われた。
『では……オレが消すべき相手はキムではなく……』
マルコムは考えた。
『タオ・パイパイではないのか?』 『彼女が憎んでいるのがタオ・パイパイだけなのだとしたら……』
マルコムはとりあえずの結論のようなものを出した。
『オレがタオ・パイパイを殺せば、キムはオレの元に戻って来てくれる!』 「フフン、マルコムよ」
タオ・パイパイがいつの間にか背後に立っていた。
「お前の考えていることなど手に取るようにわかるわ」
「父さん!?」
マルコムは急いで振り返る。
「ノックもなしに……」
「ふざけるな。ノックなどするか」
タオ・パイパイは最強の拳を構えた。
「これ以上家族から裏切り者は出さん! お前を今、一度殺し、改造してくれる」 タオ・パイパイは相手の『気』を読むことで、相手の数秒後まで動きを読むことが出来る。
かわすことは不可能であった。相手がかわしたところにパイパイの拳は飛んで来るのだ。
「生まれ変われぃ、マルコム」
そう言うとパイパイは拳を突き出した。マルコムは避けない。そのまま突けば、喉元を拳は捕らえる……筈だった。
「おろっ?」
パイパイは声を上げた。
捕らえた筈のマルコムが1メートル横に瞬間移動している。
「フ! ワシとしたことが……。次はない!」
そう言って再び繰り出した攻撃も空を切った。 「ワーーッ! お前、その靴を脱げぃっ!」
メイファンにとってマルコムが天敵であるのと同様に、マルコムはタオ・パイパイにとっても天敵であった。
『気』の動きを先読みしても靴からのジェット噴射で読みをことごとく外されてしまう。
マルコムはベッド下の予備のスーパージェット・リーガルも取ると、最大出力でジェットを噴射させ、開いていた窓から飛んだ。
満月をバックにマルコムの身体はロケットのように夜空の彼方へ飛び去った。 「オジキ亡き後はこの俺が指揮を取る!」
大勢を集めた広間で、花山組の阿久津恭三が大声で言った。
「必ずや兵藤のオジキのカタキを取るぞ!」
「なんか勘違いしてね? アイツ」
飛島優太が呆れた口調で言った。
「ウム」
茨木敬は腕組みしながら頷いた。 「しつもーん」
優太は阿久津に向かって手を挙げ、発言した。
「俺らの目的って、兵藤さんのカタキとることでしたっけ?」
「あ??!!」
阿久津は殺気を込めた目で優太のほうを見る。
「タオ一家を滅ぼすことだよ、勿論よ」
「何のために滅ぼすんでしたっけ〜?」
「そ、そりゃ……」
阿久津は一瞬言葉に詰まったが、すぐに言った。
「……カネのためだ」
「そう。我々は中国との取引を今まで通り、あるいは今まで以上に続けるために、タオ一家が邪魔なんだ」
優太は弁舌をふるった。
「ぶっちゃけ上質で安価なヤクを絶やしたくないのだ」 「しかも台湾独立なんてふざけた動きが本格化している」
優太は続けた。
「そんなことをされたら我々のぶっとい取引相手である中国さんが非常に困る。何しろ中国さんが台湾をゲット出来れば日本への最短距離の軍事基地が作れるというのに!」
ヤクザ達は黙って聞いた。
「我々は困っておられる我らがビジネスパートナーのために一肌脱いだ! ……んですよね?」
「おう? ……おお!」
阿久津は頷いた。
「そんなら」
優太はにっこり笑って言った。
「カタキ打ちとかはとりあえず置いときましょうよ? それが士気を高めるものならいいけど、そのために焦って突っ込んで全滅したんじゃしょーがないっしょ」 「皮肉だな」
茨木が言った。
「台湾は親日だが日本との国交がない。中国は反日だが国交がある。中国のために俺達が台湾独立を潰さねはならんとは……」 「わかっとるわ!!!」
阿久津が優太に向かって声を荒らげた。
「こんなは!!! ガキのくせに何を偉そうに言うちょるんじゃ!!! 大人舐めとんのかゴルァ!!!」
「ガキだと……?」
優太の目が据わる。
「飛島組の次男坊の俺に向かってガキと言ったか? オヤジに言いつけてもいいんだぜ?」
「う……!」
阿久津は黙るしかなかった。 「ハハ……阿久津は知らないんだな」
茨木が小声で優太に言う。
「言うなよ、オッサン」
優太も小声で言った。
「俺がほぼ勘当息子同然だなんでよ」 「チッ。兵藤のオジキ殺られて黙ってられんじゃろが……!」
阿久津は花山組の者だけを集めると、ひそひそと計画を打ち明けた。
「これからタオ一家の屋敷へ討ち入りかけるぞ。ついて来い」
「へい!」
「わしらも同じ気持ちですじゃ! 兵藤さんのカタキを……!」
「よし、ついて来い」
阿久津は立ち上がった。
「タオ一家なんぞワシらだけで充分潰したれるわ!」 夜のタオ家は静まりかえった森の中にあった。
阿久津率いる25人のヤクザ達は易々とその敷地内に侵入し、タオ・パイパイのいる本屋敷をその目に捉えた。
「フン。見ろ、こがぁに簡単じゃなかか!」
阿久津はそう言うと、殺気の満ちた笑みを浮かべ、部下達に命令した。
「誰か見つけたら躊躇なく殺せ! 弔い合戦じゃ! 一方的に殺して、殺して、殺しまくるぞ!」 その時、がさりと大きな葉擦れの音がした。
「誰じゃい!?」
阿久津が叫んで懐中電灯を向けると、金髪の痩せた少女がパジャマ姿で驚いてこちらを見ているのを照らした。 「女の子ですぜ?」
部下が言ったが、阿久津は容赦しなかった。
「ここにおるゆうことはタオ一家じゃ! 殺せ! 撃て!」
チンピラ達が一斉に銃を構え、発砲した。
「どぅあっ!?」
金髪の少女は瞬時にパニックに陥る。
「じ、じ、じぇじぇじぇーーーっ!」 25人の肉塊がミキサーにかけられたように飛び散り、月に血の虹がかかった。 メイファンはヴェントゥスの首をあっさりはねると、あくびをした。
身体は頭から爪先までとっくに真っ黒になっている。
「ふぅあ、よく寝た。ところでララ、ここどこだ?」
「あ〜あ……。だから縛れって言ったのに……」
ララは残念そうに言った。
「あ。コイツ殺したから変な技の眠気、解けるかな?」
メイファンは明るく笑った。すぐに真顔になってララにまた聞く。
「ところでここどこ? って2度同じ質問さすな」 タオ・パイパイは焦っていた。
最悪のタイミングで敵が攻めて来たのだ。
今、この屋敷にはムーリンと四男しかいない。
四男は現在子作りの真っ最中なので、ムーリンを出すしかなかった。
しかし別動隊の12人が裏から迫っていた。
そちらへ向ける戦力がない。
「仕方ない」
タオ・パイパイは呟いた。
「デヴィッドとアーリンを出すか」 「おい? 阿久津さんと連絡がつかないぞ」
「まさかやられたのでは?」
「まさか……」
別動隊の12人がざわついているところへ2体の人影が現れた。
「誰だ!?」
「阿久津さん?」
月が2体の人影を照らし出した。
かろうじて肉の残っている男女のゾンビだった。 「久しぶりじゃのう、お前ら2人を操作するのは」
タオ・パイパイは箱にスティックのついたコントローラーを2つ同時に操作しながら言った。
「そりゃ! デヴィッドは殺せ! アーリンは食え!」 ヤクザ達は一斉に発砲した。
銃弾はゾンビの身体に何発も命中したが、ゾンビ達は倒れなかった。
ゆっくり歩いていたかと思うと急に素早い動きで襲いかかり、男のほうのゾンビの拳はヤクザの頭部を飛ばした。
女のほうは次々に抱きつくと頭蓋を齧りとり、脳味噌を食べた。
脳味噌を食べられたヤクザもゾンビ化した。 「いや、そいつらは操作できんから要らん」
タオ・パイパイはそう言うとデヴィッドに殺させた。 「しかし1日でだいぶん戦力減らされたな」
ホテルのレストランで茨木と向かい合って食事をしながら優太が言った。
今さらに阿久津をはじめ37人を失ったことはまだ知らない。
「黒色悪夢は何してんだ」
「ビビって隠れてるんじゃないか?」
茨木はバカにするように言った。
「大体、ふざけている。日本からこれだけの人数を出させておいて、中国からはたったの3人とかな」
「しかも1人は酔っぱらいのジジイ」
優太が言った。
「もう1人は俺の恋人」
「ふざけている」
茨木は再びそう言うと、魯肉飯を口に掻き込んだ。 「あっ、そうだ」
ララは思いつくなり電話をした。
習近平はまたすぐに電話に出た。
『メイファンか』
「あたしです。ララ……あっ! 切らないでお願い!」
『一体何なんだ』
「メイファンもいますよ。替わりましょうか?」
『そうしてくれ』
「あいう」
メイファンは適当に声を出した。
『任務の経過はどうだ。順調か』
「知らん。今、なんだか任務と全然関係のないところにいる」
『信頼しているぞ』
「ああ。すぐにここを出る。任せろ、習近平」
『頼もしい』
「それでですね、習近平」
ララが唐突に声を出した。
『呼び捨てにすな!』