【チャイナ・パニック2】海棠的故事
2055年
舞台は中国のとある海辺の小さな町
主人公は李 玉金(リー・ユージン)15歳
ユージンの妹、李 椿(チュン)14歳
ユージンの義兄、ケ 狼牙(ダン・ランヤァ)19歳
リレー小説「中国大恐慌」
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1542744080/
チャイナ・パニック
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1547956954/ 海は今日も凪いでいた。
風は強い。松林を力ずくで抜けて来る風が髪を乱す。
遠くを見渡しても船影はない。
魚網を仕掛けた杭が少し遠くに見えるだけである。
この風景を物心ついた頃から見て育った。
岩の上に立ち、少女は面白くもなさそうな顔で、しかし海を眺め続けた。
まるで海の向こうから帰って来る誰かを待っているように。
「椿(チュン)、風邪をひくよ」
少女の口を動かして、少年の声がそう言った。
「早く家に帰ろ?」
見渡す限りここには少女一人しかいない。少女は一人きりで、自分の中にいる少年と会話していた。
「ユゥ兄ィが連れて来たんでしょ」
「そっかな」同じ少女の口を動かして少年の声が少し笑いながら答える。「そうかもしれない」
暫く少女は無言でまだ海を眺めていた。質素な薄青い着物一枚に身を包み、寒風の中を立っていた。やがて踵を返すと、ゆっくり歩き出した。 家に帰ると色白で美形の經熟女が台所で魚を捌いていた。
彼女は音もなく玄関を潜って入って来た椿にすぐに気づくと、声を掛けた。
「お帰り、椿、ユゥ。また海を見に行ってたの?」
椿は無言で頷くと、奥の自分達の部屋へ歩いて行こうとする。
「ねぇ、椿」
「何、ママ」と椿は元気のない顔を向ける。
母は魚を捌いていた手を洗うと、優しい笑顔を浮かべて食卓に腰を掛けた。
「ねぇ、そろそろ学校に行こ?」
気を遣って暫くしていなかった話を母は繰り出した。
「あなた中学生なのよ? 来年は高校受験も控えてる」
椿は黙ってそれを聞いた。目はずっと箪笥の上にある豪華なトロフィーを見ている。
「あなたが学校行きたくないならそれでもいいけど……」母は話を続けた。「お兄ちゃんが困るでしょ」
「……べつに。勝手にあたしの中にいるだけじゃない」椿は突っぱねるような表情で言った。
「ユゥはもう高校一年になる歳なのに、中学二年ほどの学力もないのよ?」
「あたしのせい?」
「ううん。そうじゃないの」
「あたしのせいだよ」椿はそう言うと、トロフィーのほうへ向かって歩き出した。
「違うよぉ」歩きながら椿の口が勝手に動き、少年の声が言った。「ぼく、勉強嫌いだもん。だから……」
「ママ」椿は少年の声を無視して言った。「パパはどうしてチャンピオンやめちゃったの?」
「覚えてないの?」母は溜息を吐きながら笑った。「負けたからよ」 父の青豪(チンハオ)は中国の花形格闘技『散打』のチャンピオン、散打王だった。
54歳の高齢でチャンピオンとなり、一生ベルトを守ると豪語していたが、三度目の防衛であっさりと負けた。
現在は67歳になり、初老とはいうものの体だけは元気で、太極拳教室の講師をやっている。
しかし敗北で心が折れてしまい、再び格闘界へ戻る気力もなく、大都会北京に構えていた豪邸も売り払った。
静かなところに住みたいと父は言い出した。母は子供達のために都会に残ることを希望した。
しかし権威を失った元散打王を見る人々の目に耐えられずに夫が苦しむのを見かね、遂に田舎に移り住むことに同意したのだった。
この海辺の小さな町に小さな家を買い、住みはじめてもうすぐ10年になる。 「話をはぐらかさないで」母は真剣な顔で口元だけ笑いながら言った。「学校に行って」
「ごめんなさい」そう言うと椿は早足で自分達の部屋へ逃げた。 父の青豪が帰って来た。
「やー、今日もバカばっかりだったよー」
北京にいた頃の弱々しさはとっくになく、自信と過去の栄光に満ちているように見える笑顔で明るさを振り撒いた。
「何教えてもトンチンカンな動きしか出来ない奴ばっかり。才能ないからやめろって言って来た」
「ハオったら、生徒さん失ったら食べて行けないでしょ」母の樂樂(ラーラァ)がたしなめる。
「いやぁ、俺が職失ってもララの稼ぎがあるから食って行けるよぉ。まだ若いしねっ」
「こう見えてもあたし、58歳なのよ?」どう見ても三十代半ばのララが言った。
「さぁ、メシにしよう」ハオは明るく笑い飛ばした。「子供達も呼べ、呼べ」 食卓に並べられた魚料理をみんなでつつきながら、ララがまた切り出した。
「椿ったら、まだ学校に行こうとしないのよ。ハオからも何か言って」
「大丈夫だよぉ」ハオはバカみたいな笑顔で言った。「僕も中学しか出てないけど、散打王様になれたんだから」
「このままじゃ中学も卒業できないのよ。それにユージンが……」
「大丈夫だって。それに小学校すら出てない君が言うことじゃないだろう」
「人の弱点突くのやめて」
「ごちそうさま」椿はろくに箸もつけていない茶碗を残し、席を立とうとした。
「あっ、やだ! ぼく、食べたい!」
「……じゃあ、変わって」
自分の中から食欲を訴える兄ユージンに、椿は面白くなさそうな顔で交代を促した。 椿のおかっぱにした髪が一瞬波立つと、繊細だった黒髪が少し雑に乱れた。
着物の前を膨らませていた二つの胸がしぼみ、胸囲が少しだけ逞しくなる。
閉じていた目を開くと、面白くなさそうだった瞳が急に輝き、悪戯っぽい光を浮かべた。
少女は一瞬にして少年になり、たちまち現した食欲のままに目の前のごはんをバクバクと口に運びはじめた。
「ユージン」ララが言った。「あなたからも部屋に帰ってから椿に言っといて」
「うまーし!」ユージンは母には答えずに満面の笑みで飯を食った。
「……太る」椿の声が食べる合間の口を動かして、呟いた。 風呂に入る頃には椿の姿に戻っていた。
脱衣所で白いパンツまですべて脱ぐと、少女は音も立てずに浴室へ入った。
妹の裸は見慣れている。ユージンにとって、椿の裸は自分の裸だった。
膨らみはじめた胸も、生え揃いはじめた下のほうの毛も、自分のものとしか思わない。
浴槽に浸かりながら椿は聞いた。
「ユゥ兄ィ」
「ん?」
一人の口から二つの声が浴室に響く。
「学校なんか、行く必要あると思う?」
「うーん」
「どうせあたし、どっかにお嫁に出されて、炊事洗濯するんだよ?」
「メイ姐ェみたいに医者とかなればいいじゃん」
「あたし何も出来ないもん」
「出来るようになればいいじゃん」
「簡単に言うな」
「やれば出来る、やらなきゃ何も出来ないって言うじゃん」
「じゃあユゥ兄ィには何が出来るの?」椿は少し怒ったように言った。
「ぼく?」
「ごはん食べて、笑って、寝るだけでしょ? ばかみたい」
「うーん」ユージンはとぼけた声で言った。「ぼく、昔はすごい力を持ってたらしいんだけど」
「またその話?」椿は聞き飽きたというように目を伏せた。「失くしちゃったんでしょ?」
「どんなのだったのかなぁ。アハハハ」 風呂から上がると胸がしぼんでいた。
髪は雑に乱れ、目は悪戯っぽい光を浮かべている。
しかし斑に生え揃いはじめた下の毛のさらに下に、男の子のしるしはついていなかった。
風呂から上がるなりユージンは母のところへ行った。母は春物の着物を編んでいるところだった。
「ね、メイファン」ユージンは母のララに向かって言った。「またあの話、してよ」
すると編み物をする母の口が勝手に動き、鈴の鳴るような母の声とは違う、ガサツな声がそれに答えた。
「うるせー。今、寝てたところだボケ」
「してよー、してよー、椿も聞きたがってるからー」
「別に……」椿の声が言った。
「まー、ヒマだしな」メイファンはララの口を動かし、言った。「私にとっても楽しい話だ。何度でも聞かせてやる」 /: : : : : : : : : : : : :`ヽ、
/: : : : : : : : : : : : ;.イノ\ : ',
i: : : : : : : : : : ;. - '´ ′ │: }
|: : : : : : ://__ l /
|: : : : : : :L -‐{〒ぇ>‐rfデ1
ヽ: : f ヽ;|  ̄ ト -〈
\:! ぃ ′ ./
`!ヽ.、 r_:三ヨ / ラピュタはかつて恐るべき科学力で天空にあり
L:_| ヽ ‐ / 全地上を支配した恐怖の帝国だったのだ
│ \ 亅
│ __二二ニヱ‐ 、_
r弋/ _ -‐ フ´ | ̄ ‐- .._ __
,. ‐ '"´  ̄\=ニラ'´ !  ̄ \
_ / / / |/ ____」 / ヽ
// /. | \ / ', 「コラ」メイファンが睨みつけるような声で言った。「おちんぽなんて言うな、椿」
「わ、わたしそんなの言ってない!」椿は驚いて言い返した。
「しかもその上うんこだと? はしたない子だな、お前は」
「言ってない!」
泣きそうになる椿にメイファンは意地悪をやめた。
「わかってるよ。言ったのはID:elFjdoZWだ。後で高層ビルから突き落としとく」
「早く話を聞かせてよ、メイファン」ユージンが急かす。
「あぁ、今から暫く仕事で忙しいらしいからな、ちょっと待て」 |.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:ミ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.|
|.:.| :.:.:.:.:.:.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.| ___
|.:.ト.:.:.:.:.:.:.:y :.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.| /ilj ;::u::;ヽ
. |,イミ三三夫三三三三|:.:.:.:.:.:.:.| /:: -三ー u;l!
. / ,/ ヽ二二ス (○))ミ(○ ))l でかすぎる!
. ,' ,i' 仆 } { ((_人__)) :J
i i! ヽンノノノノ lil |r┬-| u |
! i!  ̄ ̄ l ! | .| /ヽ,,,,,シヾ
', ';, :l ヾ_ヽ=U ,/−三ー::ilj:ヾ
丶 丶 l / ヽノ:::(○)三(○ )::) ___
ヽ ヽ、 l ぶ :| | :::ヾ┌─┐,,;;;;シ /ー三ーiljヾ
', " ', '' " l ら ::/ ゝーイ :::.: (○ )三(○ ))U、
! ', ! ぶ | | .:::|:: ((_人_)) ::ilj:::li
! :! ! ら ::| ヾ|r┬-i! u ;;_シ
l l ! ん / ! |: |  ̄:::ヾ
l ! ! | U−'" :::i::::! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
● ● ●
● ● ●
● ● ●
● ● ●
● ● ●
● ● ● __( "''''''::::.
● ● ● ● ____,,,,,,---'''''''"""" ヽ ゛゛:ヽ
● ● ● ●:"""" ・ ・ . \::. 丿エ〜デルワ〜イス
● ● ● ●::: ・......::::::::::::彡''ヘ::::....ノ エ〜デルワ〜イス
● ● ::::::::::;;;;;,,---"""
●●●●● メイファンは語った。
「まず、私はその昔、全中華を震え上がらせる殺し屋だった」
ユージンは何度も聞いたと言いたげに先を急かす。
「はいはい。『黒色悪夢(ヘイサー・アーマン)』って呼ばれてたんだよね?」
「お前らが知らんのが恥ずかしいぐらい有名だったんだぞ」
「40年近くも昔の有名人だったんだよね?」
「うぐぅ……。まぁ、いい。つまり私は無敵だった。私に勝てる者などいなしなかった」
「でも、僕が勝った!」
「そうだ」
「まだ胎児の頃の僕が、ね?」
「そうだ。まだ産まれてもいないお前に、私は負けた」
「凄い力を持ってたんだよね?」
「そうだ。お前は六百万年に一人の天才だった」 「で」椿が白けた口調で口を挟んだ。「ユゥ兄ィはどんな風にメイファンに勝ったんだっけ?」
「ウム。よくわからん」
「凄い技を使ったんだよね?」ユージンがわくわくした口調で聞く。
「ウム。よくわからん凄まじい技でお前は私を封じ込めやがった」
「どんな感じの技かぐらいわかるはずだよね」椿が言う。
「いや、全然わからん」と、メイファン。
「凄すぎてわからなかったんだよね?」とユージン。
「とにかくお前はよくわからん技を用いてよくわからんうちに私を幻の中へ落とし込み、よくわからん流れで私の殺した敵どもを復活させたのだ」
「ん。よくわからーん」椿が馬鹿にするように言った。
「まぁ、でも間違いないのは」ユージンが自慢げに言う。「僕が超天才だってことだよ」
「今は?」と椿。「食べて、寝て、笑うだけのダメ人間じゃない」
「うるさいな」
「あたしと同じ」 「今でも潜在能力の中にあの力はあるはずだ」メイファンが言った。
「だよね? 僕、まだ本気出してないだけだよね?」ユージンはノリノリでメイファンの言葉を受けた。
「何とかお前の力を開花させたい……が」
「さ、もう寝る時間ですよー」と、メイファンの言葉を遮ってララが口を動かした。
「なぁララ、ユージンは世界最強になる。私に任せてくれれぶりぶりぶり」
「ぶりジンは……ユージンは危ない世界なんかに行かなくていいの。心の優しい子なんだぶり」
メイファンはララの中に住んでおり、ララの口を使って喋る。
ゆえにララとメイファンが同時に言葉を発すると言葉と言葉がぶつかり、ぶりぶりという意味のない音になるのだ。
「ぶりえは……お前は子供の成長を願わんのかララ」
「あたしの息子を変な世界へ連れて行かないでちょうだい。いくらあたしの妹でも、そんなことしたら一生身動きの出来ない所へ閉じ込めるわよ」 「それならランも連れ戻せよ」メイファンは言った。「話がおかしいじゃねぇか」
「いつも言ってるでしょ」ララが言い返す。「あの子はあれがあの子の道。しかも成功してるわ」
「ラン兄ィ……」椿がぽつりと言った。「いつ帰って来るのかな」
その声には溢れるほどの寂しさと愛しさが詰まっていた。
「ランからメールは来ないのか」メイファンが聞いた。
「うん、来るよ」ユージンがわざとらしく明るい声で答える。「すっごい短いやつが」
「忙しいのよ」ララが言い聞かせる。「わかってあげなさい」 部屋に戻った椿はメールボックスを確認した。
今日はランからメールは届いていなかった。
毎日観ている動画サイトを開き、「トウ・ロウガ」と日本語で検索をかけると、無数の動画が表示された。
ディスプレイの中で成長した懐かしい顔が笑っていた。
自分達の義兄、ケ 狼牙(ダン・ランヤァ)が、日本人に囲まれ、流暢な日本語で喋っていた。 「強いですね。ここまで20戦全勝。どうですかトウ選手、今日も勝利した感想は?」
インタビューの質問に狼牙はにこやかに流暢な日本語で答えた。
「ありがとうございます。ボクは感謝しているよ。みなさんがボクを応援してくれるおかげ」
「女性からも凄い人気ですよね」
「日本のベイビー達、凄い可愛いからね。ボクもとってもパワーになるよ。愛してる」
動画のコメント欄には日本語で『チャラいw』と複数の書き込みがされていたが、ユージン達にはもちろんわからなかった。 ランは3年前、16歳で日本に渡り、総合格闘技のファイターとしてデビューしていた。
細い体つきながら太極拳の柔らかさと散打のパワーを合わせ持ち、デビューするなり連勝を重ね、瞬く間にスターの座へ駆け昇った。
しかも格闘家とは思えない甘いマスクと驕らない穏やかな性格、そしてチャラい日本語が受け、
格闘技に興味のない女性にもファンを膨大に増やし、女性週刊誌の表紙を何度も飾った。
ユージンと椿は同じ身体の中に住んでいても、テレパシーのように言葉なしで会話することは出来ない。
しかし二人は動画を観ながら、同時に同じことを思っていた。
「ラン兄ィがどんどん遠くなる」 次の日も椿は崖の上に立ち、長い間海を見ていた。
ユージンも無言で一緒に見ていた。
ここへ来たのは椿の意思であるが、確かに自分が連れて来たのかもしれないとユージンは思った。
自分もこの海が見たい。遥か向こうに日本のあるこの海が。
しかしどれだけ眺めたところで日本は見えず、ランがその向こうから帰って来ることはない。 ふと、海の中に赤い影が見えた気がした。
海面を染めて、それはどんどん大きくなって来る。
「おい?」ユージンが声を出した。「なんだあれ?」
椿も目を見開いてそれを見守った。
海はその辺り一面真っ赤になり、暗い青色を漂わせていた波も輝くような赤い光を煌めかせる。
「伝説の……」
椿が言いかけた言葉をユージンが継いだ。
「……巨大魚?」
しかしその巨大な赤い影は、姿を見せることなく、ゆっくりとまた沈んで行った。
海は再び暗鬱な青さを取り戻し、何事もなかったかのように風が吹き抜けた。 すぐに走って帰ると、ユージンは母に報告した。
「あらまぁ、あんなの地元の人の伝説でしょ」と母は素っ気なく言った。
次には母の口を動かしてメイファンの声が言った。
「デカかったか?」
「デカかったなんてもんじゃない。海が一面真っ赤になった」
「強そうだったか?」
「わかんないよ! 姿見せてくれなかったもん!」 「なんか」ララが言った。「プランクトンじゃないの?」
「違うよ」ユージンは少しムキになって答えた。「椿も見た。海の中にあれがいたんだ! 二人で見間違うことないでしょ」
「信じるよ」メイファンがクククと笑いながら言った。「信じたほうが面白そうだ」
そこへ部屋の入口に突っ立って聞いていた父のハオが入って来て、言った。
「伝説って何?」
ララが洗い物で濡れた床で足を滑らせた。 面倒臭いのでララはハオをお隣のマオさんのところへ行かせた。
今年96歳になるマオさんは庭で木の椅子に座り、ぼーっと何もないほうを眺めていた。
「やぁ、マオさん」
「あぁ、ハオくん」
「伝説って何?」
マオさんは暫くの沈黙の後、気持ちのいい発音で言った。「は?」
二人はマオさんの孫娘の淹れてくれた杜仲茶を飲みながら、並んで座った。
「この辺りの海の伝説じゃ」
「うん」
「海の中に仙人の住む世界があると言われておっての」
「へぇ」
「18年に一度、そこから仙人が魚に姿を変えて人間界に上がって来るのじゃ」
「デカいやつ?」
「巨大な、赤い、イルカによく似た、しかしこの世にはおらん魚じゃ」
「なんかアニメにそういうのなかった?」
「何をしにやって来るのかは知らん。ただ、その姿を見た者が90年前に一人だけおっての」
「マオさんもう産まれてるって凄いな!」
「哀しい目をしておったそうじゃ」
「ふーん」ハオは頷きながら、言った。「虚言癖じゃね?」 「村の伝説をバカにするな!」
マオさんは側にあった鉈でハオに斬りかかった。
「わぁ!」
ハオの膝が真っ二つに割れ、血がどっくんどっくんと溢れ出した。 膝を押さえながらハオが帰って来た。
「あー、痛かった」
「またマオさんに斬られたの?」ララが皿を拭きながら笑う。
「あのじぃさん、俺がすぐ治ると知ってるから遠慮ねぇ……」
ハオの膝から下は赤黒い血でべっとりと濡れていたが、鉈で割られた傷は既にすっかり塞がっていた。 夜、自分の部屋に帰った頃には巨大魚の影を見たことなどすっかり忘れていた。
母から昨日に続いて学校へ行くようしつこく言われ、椿はベッドにダイブした。
自分には何もない。趣味も特技もない。好きなものも……
そのくせ凄い人達に囲まれすぎていた。
父は、元散打王。しかも人間離れした超再生能力をもっている。
母は、主婦をこなしながら地元で一番の腕と言われる医者もやっている。
母の中にいる母の妹メイファンは、元全中華を震え上がらせる殺し屋。しかも料理が抜群にうまく、母が料理をする時実はメイファンと身体を交代している。
姉は、北京の大学病院に勤める優秀な内科医。しかも太極拳の中国チャンピオンでもある。
姉の旦那は中国初代大統領の息子。今は事業を起こしては潰してを繰り返してはいるが、未来は父の後を継ぐと言われている。
その旦那の父親は、初代中国大統領であり、現在も40年近くもの間大統領を勤め続けている。しかも68歳にして現役の散打王である。 そして義兄のランは、今まさに日本で大人気の格闘家をやっている。
「あたしだけ出来損ないじゃん」
「いや、違う。椿は普通だよ」ユージンが言った。「普通が一番えらいんだって、誰かが言ってたよ」
「身体の中にお兄さんがいる子のどこが普通?」
「は? ぼく、邪魔なの?」
「……べつにそうじゃないけど」
「椿が嫌ならいつでも出て行っていいんだよ? ぼく、自由に誰の身体にでも入れるんだから」
「……ごめん」
「パパに引っ越そうか? 寿命短くなるけど」
「……いてよ」
「椿……」
「同じ普通の人間同士、慰めあお」
「ぼくが普通だって?」
「身体なんかなくたって、ユゥ兄ィは普通の人間だよ」
「違う!」ユージンは怒った。「ぼくは超天才なんだから!」 【主な登場人物まとめ】
・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
現在は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
日本にいる義兄ランの帰りを心待にしている。
・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。
・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。
・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。
・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元殺し屋。ユージンを調教したがっている。 ・大島 男夫......このスレの主人公。神室町の均衡を保つ暴力組織『茨虎組』に所属してる若頭。
・ゼムナス......“虚無の支配者”の異名を持つ謎の男。ノーバディ故、感情が無い。
・青城 羅綺子(あおぎ らきこ)......黒魔術を使う美少女。人間をカラスに変える能力を持つという。
・グリフォン......軽い口調で人語を喋る謎のカラス。青城を死ぬほど恨んでる。
・鴨志田(かもしだ)先生......元メダリストの体育教師。青城にセクハラ行為を試みた結果、呪い殺された。 〜茨虎組事務所〜
大島「あ〜あ、暇だな」
グリフォン「公園にでも行こうぜ」
大島「おいおい...こんな時間に公園に行ったら職質されるだろ」 公園にはゼムナスが居た。
〜公園〜
ゼムナス「クククク...」 大島はゼムナスを倒した
ゼムナス「貴様っ!?ぐわあぃぁぁぁあ」
ゼムナスは光の様に消えた
大島「俺、ヤクザだけど」 大島「事件は会議室でおきてるんじゃない現場で起きてるんだ」 その人はピカピカのドイツ製の高級車に乗って帰って来た。
両親はバカのように嬉しがり、久し振りに会えたことを喜んだ。
自分が成長して、遠くへ仕事に出、久方振りに帰って来ても、両親がこれほど嬉しがるとはユージンには思えなかった。
きっと椿も同じことを思っていた。
見慣れないサングラス姿の精悍な顔が笑っていた。
長く伸ばした黒いストレートの髪、グレーのスーツ姿。
「メイ! お帰り!」
「メイ! メイ!」
両親が姉の名前を興奮しながら呼んだ。 >>56
大島「な、何だ!?爆発した!?」
突然の爆発で大島とグリフォンは動揺した。
青城「フフフフ...」
青城は不敵な笑みを浮かべている。 その日、大島は矢場とんでたいして旨くもない豚カツ定食を食っていた。
するとガタイはいいが低能そうな男が店に入って来た。 「うわぁ、矢場とんくそマズ…」
味音痴で有名なウンコマンではあるが
さすがのウンコマンも矢場とんはくそマズかったらしい 「あのさ」
ハオは大島 男夫(オオシマ・ダンプと読むのかな?)を発勁で吹っ飛ばした。
「最愛の娘との再会なんだ。邪魔しないでくれる?」 「きゃー! パパ! 変わりないね」
メイはハオに向かって10mの距離を3歩で縮めると、勢いよく抱きついた。
「だろう? 70歳近くなってもイケメンだろう?」
ハオは慣れた体捌きでメイの突進の勢いを殺して受け止める。そして聞いた。
「ぼくとお前の旦那のヘイロンと、どっちがイカしてる?」
「きゃー! ママ! なかなか元の歳に戻らないね」
メイはララに小走りに歩み寄ると、優しくハグをした。 見た目2歳しか違わない母はメイをぎゅっと抱き締めると、形のいいおでこにキスをした。
「元気にやってた? 困ってることない?」
「元気だよー。ロンの会社潰しにはもう慣れたし」
「そう? まぁ、顔を見て安心したわ」
後ろからハオがララごと娘を抱き締めた。
「33歳になっても可愛いぞ〜」
「パパもかっこいいよ〜。どっちがとは言わないけど」
3人は暫く一つの生き物になったように抱き合っていたが、やがてぽつんと立っている椿のほうへメイが思い出したように顔を向けた。
「椿、大きくなったね」
「お帰りなさい、大姐(ダージェ)」
「中学二年かぁ。学校楽しい?」
椿は俯くと、とても小さな声で「あのね。あたしね」ともじもじしながら言った。 「メイ姐ェ、ひどい!」
椿の口を動かしてユージンが大声を出した。
「ぼくのこと忘れてたでしょ!」
「いやー、ユゥ。久しぶりー」メイは誤魔化すように笑う。
「どーせぼくは見えないもんね?」
「いやいや、ユゥも大きくなったね」
「身体ないのにどうやって大きくなんの!?」
「いやー金色の『気』がますますピカピカになって」
ハオとララが口を揃えて笑った。
メイファンは完全に忘れられていた。 しっきからハオはそわそわしていた。
「なぁ、メイ。チェンナも連れて来たん……だよな?」
「車の中?」ララがニコニコしながら聞く。
「うん。眠ってる」
ユージンとメイファンも入れて実質6人の4人は、音を立てないようにメイの車に近づいた。
後ろの席に設置されたチャイルドシートに抱かれて、メイにそっくりなちびっ子がよだれを垂らして眠っていた。
「くっ……!」ハオが大声を出しかけて慌てて駆け出した。
そして遠くまで離れてから叫んだ。「かわいい!」 「可愛いわぁ」
よだれを垂らして孫の寝顔を見つめるララの口を動かして、メイファンが言った。
「おい、メイ」
「あ、メイファン忘れてた!」メイは素直に謝った。
「そんなことはどうでもいい。それよりメイ、コイツに武術は教えているか?」
「教えるわけないでしょ。チェンナまだ4歳なのに」
「もう4歳だ」メイファンは叱るように言った。「遅すぎるわ」
「まーた馬鹿妹が変なこと言い出した」ララが呆れ口調で発言権を奪った。「アンタはそりゃ4歳の頃にはもう人殺してたけどね、チェンナはぶりぶり」
「ぶりのガキ……このガキなかなかいい素質を持ってるぞ」
「そりゃーね」メイは平気な顔で言った。「このあたしとあのヘイロンの子だもん。素質はあるでしょーよ」
「戦士に育てろ」
「やーだよ」
「んだと? 貴様、私の弟子の分際で……」
「チェンナはね、可愛い可愛い女の子に育てるの」 「そう。椿見たいな可愛い女の子になってほしいな」
そう言ってメイに顔を向けられ、椿はたじたじとなった。
「あ……あたし?」
「うん。我が妹ながら本当可愛いわー。あたしも同じぐらいの年頃なら負けてたつもりないけどねっ」
メイはそう言うと、舌を出して笑う。
「でもこのままじゃ見た目が可愛いだけのバカ子ちゃんよ」ララが言った。「メイ、あなたから何か言ってあげて」
「あー。……ま、いいんじゃない?」
「メイ!」ララがメイの背中を小突く。
「学校なんかさー、楽しくなけりゃ行かなくてもいんだよ」
明るく笑い飛ばすようにそう言うメイだったが、椿は目を逸らして聞いた。
ハオが「さすが我が最愛の娘だ」と言いたげに頷いている。
「でもさー」メイは椿にまっすぐ目を向けて言った。「学校行かないせっかくの自由な時間活かして、何かでっかいこと経験してみない?」 「あ、お腹が……」
椿はそう言うと、お腹を押さえて背を向けた。
「お腹が痛い。薬飲んで来る」
「は?」ユージンが声を出した。「お腹なんか痛くないじゃん?」
無視して椿は駆け出した。
「後で部屋行くからー!」
メイがそう言う声を背に、椿は家に入ると、まっすぐ自分の部屋に駆け込んだ。
「何なの?」ユージンが聞く。「椿が具合悪かったらぼくも……」
椿はそれを無視して枕に顔を埋め、独り言を呟いた。
「メイ姐ェとは違うもん……」
「椿?」ユージンは自分の目から熱い水が出るのを感じた。
「あたし……何も……出来ないもん」 茨虎組長「大島...落ち着け」
組長が現れた!
大島「組長!?何故こんなトコに居る!?」 一方、地球では…
ジュラル星人「キチガイどもが宇宙に消えて良かったでジュラル」
ハラワタモモンガ「それでは、どんどんステーキを焼くでありますよ」
ハッケヨイ「ステーキですか、今日は遠慮しませんよ」
六本足「ギャギャ!」
盛大にステーキパーティーが行われていた。
ハッケヨイ「美味い旨い!何グラムでも食べれる!」
ハッケヨイはフンドシから糞をもらしてはステーキを食い続けた 。 ・茨虎(いばらが)組長......茨虎組の二代目組長。長ドスを常に帯刀している。本名は「茨虎 剣太郎」。 茨虎組長「大島ぁ...お前は次期組長だってのに昔から全然変わらんなぁ」
大島「ははっ、すんません」
大島は静かに笑った。
グリフォン「そんな事よりよ、青城の奴はどこ行ったんだ?」
大島「分からん...」
茨城組長「やれやれ、オカルト好きの女にはロクな奴がおらんな」
グリフォン「だな」 〜茨虎組事務所〜
死にかけの組員「あ...あ...」
大島「!?」
事務所に帰ると、何故か組員が瀕死の状態になっていた!!
茨虎組長「な、何があった!?」
死にかけの組員「あ...青城に...やられ...た...ぐふっ」
組員はその言葉を最期に息絶えた。
グリフォン「...またあの女か...クソッ!!」ギリッ 刹那、巨大なダンプが事務所に突っ込んで来た。
「あ、あれれ?アクセルとブレーキ間違ったの?」
運転席の婆さんがパニクってる
「く、組長ー」
駄目だ、組長は虫の息だ。
「と、とにかくダンプを止めやがれー」
大島は婆さんに怒鳴り付けるが… 大島「な、何すんだバーサン!」
大島は辛うじて生きていた 椿がベッドで打ちひしがれているとランからメールが入って来た。
「あ! ラン兄ィからだ」
ユージンがまずそう言い、急いで椿がメールを開く。 おーい元気か弟妹
やっと休暇が取れることになって、ようやくそっちに帰れる
もうすぐ帰るよ、会えるの楽しみ ランからのその短いメールの文字を椿とユージンは何度も何度も繰り返し目で追った。
ベッドに伏せた椿の顔から暗い表情はすっかり消え、目も口も嬉しそうに笑っている。
「ラン兄ィ、帰ってくるって!」
「読んでるよ」
「……わぁい、……わぁい」
椿は歌うように踊るように小刻みに身体を動かした。
「よかったよ、椿が元気になって」ユージンも嬉しそうな声を出した。
「メイ姐ェ、部屋に来るって言ってたね」
「ん。ちょっとこれ片付けようよ」
ユージンはだらしなく散らかった部屋を指して言った。 その時、部屋のドアをノックする音が響いた。
「あ、もう来ちゃった」
「しょうがない。どうぞー」
するとすぐにドアが元気に開き、入って来たのはランだった。
二人は暫く呆気にとられ、すぐに喜びの大声を上げた。
「ラン兄ィ!」
「よっ。久しぶりー」
椿は勢いよくベッドから跳ね起きると、笑顔でランに飛びついた。
「もうすぐ帰るよって、すぐすぎ!」
「アハハ! 驚いたか?」
「全然気づかなかった! すごい!」とユージンの声。
「ユゥに気づかれないぐらい『気』を消せるようになったオレ、すげーだろ?」
ランは優しくも逞しい笑顔でそう言いながら、椿をベッドに押し倒した。 「あー。椿とユゥにずっと会いたかったよ〜」
ランはそう言いながら椿の身体をぎゅうぎゅう抱きしめ、柔らかい髪に頬ずりをした。
椿は小鳥がさえずるように笑いながら、ランの固いけれどしなやかなくせ毛を手で優しくぽんぽんと叩く。
ランの細いのに逞しい身体から頼もしいほどの暖かさが伝わってくる。
ユージンは椿の奥のほうから何か痛みのような水の流れが溢れてくるのを感じた。
それはまるで何かを受け入れる準備をするように、身体の下のほうへ向かって流れて行き、引き潮のようにまた上へさっと戻る。
同時に自分のあそこがおねしょをしたように熱くなるのを感じた。
『何、これ……?』
椿は腰を左右にもじもじと揺らし、その動きとは反するような明るい声で言った。
「あたしも会いたかったぁ〜」
「ぼ、ぼくも会いたかったよ!」ユージンが遅れをとったように慌てて言った。 「な、ユージンこっち来いよ」ランが言った。「久しぶりにこっち入れ」
「うん! 行きたい!」
男二人でそう決めると、ランは椿に言った。
「椿。口、開けて」
椿はこくんと頷くと、目を閉じ、口をゆっくりと開ける。
「準備オーケーだ。ユゥ、来いよ」
そう言うとランは椿の口に触れるか触れないかと距離で口を合わせた。
椿はランの熱い吐息を感じた。
椿の身体の中がきゅんきゅんという音を立てるように物凄いことになっているのを感じながら、ユージンは椿の奥から上がって行く。
喉を出て、ジャンプのために踏み切る。椿の舌が柔らかすぎて飛び出す方向を誤りそうになる。
しかしランが至近距離で迎えてくれていたため、コースアウトすることなくその口の中へ飛び込んだ。 婆さん「そなたなど、まだまだ子犬よ...」
大島「その声...ま、まさかお蝶殿!?」
婆さん「ククク...その通りさ」
婆さんの正 体はお蝶だった! 大島「お蝶殿...何故この様な凶行に及んだ!?」
大島は声を荒げながらお蝶に問い詰めた。
お蝶「ククク...青城の指示によってね」
グリフォン「お前!なんで青城側に!?」
お蝶「あの小娘に協力すれば不死にしてくれるらしいからさ!」 大島「不死のパワーに魅了されたか...下衆め。今ここで組長の仇を取ってやる!」
大島VSお蝶の戦いが始まった! 3年振りだった、自分本来の性別の身体になるのは。
感覚が締まった板のように硬くなり、吸い込む空気が多く重くなったような気がした。
下のほうには身体の外まで突き出した力のシンボルがあり、なぜかそれが少し硬く大きくなっていた。
ユージンを飲み込んだランは自分の中へ向かって聞いた。
「どうだ? 久し振りにオレになった感想は?」
「すごく強くなったね、ラン兄ィ」
「まだまださ。これから世界に挑戦するんだぜ」
「世界最強の戦闘ロボに乗った気分だ」
ユージンはそう言ってはしゃいだ。 「はしゃがないで、ユゥ兄ィ」目の前の椿が言った。
ランのカッコいいイメージが壊れるからやめてというように、妹が凛々しい目を自分に向けていた。
いつも鏡の中に見ていたが、生の椿を前にするのは3年振りだ。
ユージンは自分に見惚れる気分だった。
外から眺める自分の身体はいつの間にか花が咲くように鮮やかに咲いていたと気づいた。
「可愛いなぁ、椿」
「それ、どっちのお兄ちゃんの言葉?」
「ユゥ」
「……そう」
椿はがっかりしたように見えた。 「あたしもラン兄ィに入りたいな」椿が呟いた。
ランは笑うと、「逆だろ」と言った。
「逆って?」
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、今の下ネタ?」ユージンが突っ込んだ。
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、椿に入りたいの?」ユージンがいじめる。
「すまんすまん。変なこと言ったな」
ランはそう言うと、椿の頭を撫でた。すると椿がその手を払う。
「撫でるのやめて」ランを睨むように見る。「わたし、もう子供じゃないんだから」
11歳だった少女は14歳に成長していた。ユージンから見ても確かに今の椿に「いい子いい子」するようにランが頭を撫でるのはおかしな気がした。
しかしそれ以上に何かがおかしかった。見慣れた自分の姿がやたらと眩しい。
お風呂で裸を見ても自分の身体としか思わなかったのに、今自分の目の前にいる自分は、思わず目を背けたくなるほどに眩しいのだ。
唇を結んで怒ったような顔を向ける椿の姿に、ユージンは胸がドキドキした。 困惑して逃げ出したくなっているところへドアがノックされ、メイが顔を覗かせた。
「どう? 二人ともびっくりした?」
助け舟を出してもらったようにほっとすると、ユージンは答えた。
「へへっ。まんまとね。『気』を消してたからユゥも気づかなかった」
椿はランの肩に両手を乗せると、満面の笑みを見せた。それを見てメイも笑った。
「ようやく笑ったな〜。やっぱり椿は笑顔が一番いーよ?」
そう言うメイの足下をすり抜けて、ちっちゃいメイが部屋に入って来た。
「チェンナちゃん、起きたか!」ランが優しく微笑みかける。「オレのこと、覚えてる? 覚えてるわけないじゃん、ラン兄ィ最後に会ったの新生児の時だよ?」
「何て言うか」メイが呆れたように言う。「ランとユゥが一緒になってると、どっちが喋ってんのかわかんないね」 「劉 千哪(リウ・チェンナ)です」チェンナは自己紹介した。「よんさいです」
「もー、メイちゃん。こんな若い弟をおじさんにしないでよー」
「それ、どっち?」
「ラン」
「いちいち聞かんとわからん。めんどい。ユゥ、椿に戻れ」
「やだ。もうしばらくラン兄ィにいる。面白いもんな?」
「続けて喋んなラン、紛らわしい」
「いちいち文句つけんなー。あ、ぼくユージンね」
「さてチェンナにもみんなを紹介しようね。チェンナ、この可愛い女の子が椿おばちゃん」
「おばちゃんはやだ」椿が口を尖らせる。「椿ちゃんて呼ばせる」
「メイファンちゃんの気持ちがわかるなぁ。おばちゃんって呼んだら殺されるもんね」ランとユージンが続けて言った。
「じゃあ」メイがチェンナに紹介する。「こっちが椿ちゃん、こっちがランちゃん、そしてその中にいるのがユゥちゃん」
最後にユージンを紹介する時、チェンナは確かに胸のあたりにいる金色の『気』を見た。
「ぼくが見えるの? すごい」
「ところで」メイが部屋のドアのほうを振り返る。「何してんの、メイファン」
少し開いたドアの隙間から肌の色の黒くなったララが覗いていた。恥ずかしそうな表情で、手には色紙を持っている。 「ロウガ選手だぁ」メイファンは目を輝かせながら入って来ると、ランに握手を求めた。「いつもTVで観てますぅ」
「あれがメイファン。おばあちゃんの妹だよ」メイはチェンナに紹介した。「あんまり近寄っちゃダメなひと」
「メイファンちゃん、冗談やめてよ」ランが笑う。
「いやー芸能人はやっぱいいね」メイファンはランの匂いをくんくんと嗅いだ。「いい匂いする」
「芸能人じゃねーし」
「そうだな」
「ちょっ……!」
メイが叫ぶよりも早く、メイファンが拳を繰り出し、ランがそれを受けた。部屋に破裂音のようなものが響く。
突然の攻防にチェンナが目を輝かせて叫んだ。「ひーろーだ!」
「いいね」メイファンが嬉しそうに言う。「強いヤツはやっぱいい。それを怖がらんガキも最高だ」
「っていうか」ランがからかうように言った。「メイファンちゃん、弱くなったんじゃない?」
「あ?」
「トシ取っちゃった?」
「やりてーのか、ガキ?」
メイファンは楽しそうに笑うと、黒い『気』を燃え上がらせた。 戦いが始まった瞬間、お蝶はいきなり
クナイを投げた!
大島「(────速いっ!?)」
大島はギリギリで回避した
大島「あ、危ねぇ...」
お蝶「ククク...その程度か?茨虎のせがれ殿よ」
大島「...やれやれ、どうやら“本気”を出すしかなさそうだ」
大島はそう言いながら帯刀していた長ドスを抜刀した!!!
お蝶「何────!?」 大島「うおおおおおおお!」
大島はお蝶に斬りかかった
お蝶「ぐっ...」
お蝶は深い傷を負った
お蝶「どうやら分が悪いようだねぇ...一時撤退させてもらうよ」
お蝶は幻かの様に霧へと消えていった
大島「おい、待て!」
グリフォン「くっ、逃げられたか...」 大島「あっ、そう言えば組長埋めないと」
茨虎組長「生きてるわい!!」
組長は生きていた。