前夜の騒動翌日……。
半クラッチ状態の頭にカツを入れようと、ハーパーは馴染みのコーヒースタンドへと足を運んでいた。
「オヤジ、オレにはメニューくれないのか?」
「メニューなんか見てどうすんのさ。どうせいつものモーニングセットだろ」
何も注文しないうちに、ハーパーのテーブルにはサニーサイドエッグとトーストにブラックコーヒーのモーニングセットが並んでいた。
自分自身はFBI、妻はLAPDという夫婦にあってはスレ違いも日常茶飯事だ。
そんなときハーパーはこの「ボブおやじの店」で食事を済ますことにしている。
店主のボブとももちろん顔なじみだ。
ちなみにモーニングセット以外の料理を注文したことは……全くない。
「おつかれさん……」と言いながら、ボブは通称「ハーパー・スペシャル=特濃ブラックコーヒー」を置いて行った。
これはオヤジからのサービスだ。
彼もなんとなく気付いているのだ。
昨夜殺人狂を逮捕したのは、本当はLAPDではないことを。
ささやかな感謝の現れに微かな微笑みで応えると、ハーパーは特濃コーヒーのカップを鼻先へと持っていった。
凄まじい香りが鼻にパンチを入れてくる。
毒々しいほどの黒さを湛える液体を、意を決してハーパーは胃袋へと流し込んだ。
たちまち頭が冴えわたり……同時に激しくむせかえった。
すると……
「はっはっはっは、とても昨夜のヒーローとは思えないお姿ですな」
信じられないほど容積のある大男が、ハーパーを見下ろし笑っていた。