ララとメイファン物語
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ララとメイファンを主人公にしたショートストーリーを書くスレです。
基本、リレー形式としますが、一人で一話書いてもいいです。
主人公は一人の美少女である。
しかしその身体の中には二人の少女が同居していた。
一人はララ。とても人懐っこく、周囲から愛される白い美少女。
もう一人はメイファン。とても冷酷で、眉ひとつ動かさずに人を殺せる黒い美少女。
この二人を使って自由にショートストーリーを作ってみてください。
時代設定、キャラ設定はすべて自由です。
当スレに登場するララとメイファンは「中国大恐慌」スレとは別の世界のキャラだと考えてください。 時は1921年。
統一政府のなかった軍閥統治時代の中華民国(中国)。
袁世凱の七回忌に南京にある議事堂へ集まった人々の中に嵐芳眉(ラン・ファンメイ)という文人がいた。
彼はその娘を連れて会場にやって来た。
日に焼けているのか黒い肌をした、洋装の美しい少女だ。
大事そうにパンダのぬいぐるみを抱いている。
「あら、嵐さん。娘さん?」
陳夫人が寄って来た。
「ええ、娘の梅芳(メイファン)です。ほら、ご挨拶して」
しかしメイファンは怖い顔をしてそっぽを向いている。
「おいくつなの? おばさんに教えてちょうだい?」
夫人が聞くと、ようやく少女は指を3本すぼめて見せた。中国での『7』の表現だ。
陳夫人の夫、大人(ダーレン)は中国を共和制に導こうとしている政治家であり、軍人でもあった。
彼は二時間後に予定されているスピーチのため、第一応接室でその練習をしていた。
するとドアをノックする者がいる。
「誰だね?」と聞くと、子供の声が向こうから聞こえて来た。
「おじさん、今日も来ちゃったよ」
「ララちゃんかね? おやおや!」
陳が重い木の扉を開けると、天使の微笑みでララが顔を覗かせた。白い洋風のドレスに身を包み、手にはパンダのぬいぐるみを抱えている。
「どうしたんだね? こんな所まで来るなんて? お父さんか誰かと一緒かい?」
「ううん。一人よ」
陳大人は三日前、南京市内の洋菓子店で出会った。
チョコレートが大好物の陳はその店を贔屓にしており、毎日のように立ち寄るのだった。
その日いつものように店に入ると、ショーケースの中のお菓子を食い入るように見つめている一人の少女がいた。
陳は品物を買い、金を払う時に少女の横顔を見た。ほっぺたまで白い美しい7歳ぐらいの少女だった。
「君は買わないのかい?」と話しかけてみた。
「うん。見てるだけ」少女の答え方には育ちのよさが窺えた。
「どうしてだ?」
「家にお金がないからよ」
この激動の時代、由緒ある名家に産まれても食べるものに窮するというのはよくあることだった。
不憫に思い、陳は買ったチョコレートをひとつ彼女にプレゼントした。
「ありがとう」と輝く笑顔でお礼を言い、白い少女はこう言った。「お礼におじさんのお友達になってあげる」 袁世凱の七回忌に姿を見せたララに陳は言った。
「よく会場へ入れたね?」
「だってお友達でしょ?」
「ふむ。やはり君は誰か名士のところの娘さんだね? ま、お入り」
陳はララを部屋に入れると、唐草模様のソファーに座らせた。
「おい! お茶とお菓子を!」
隣の給仕室に声を投げると、メイドが紅茶とチョコレートケーキを持って現れた。
メイドと目が合うと、ララはフレンドリーに笑いかけた。
「さぁ、遠慮なくお食べ」
陳はそう言うと、ニコニコとララを見つめた。
メイドが脇へ引っ込む。
「あ、そうだ」と陳が何かを思い出し、ララから視線を外す。
するとララから笑顔が消え、白い少女の頬から段々と黒い痣のようなものが現れた。
「新作のチョコレートを買って来たんだった。トリュフというやつだ。あれ、どこへやったかな」
陳がトリュフをしまった場所を探しているうちに、白い少女はみるみる黒くなり、遂にはまったく別の少女に姿を変えてしまった。
「これだ」
陳がトリュフの入った箱を持ち、笑顔で振り返ると、確か嵐氏が連れて来ていた無愛想な黒い肌の娘がそこに座っていた。
「あれ?」
陳の首が飛んだ。
メイファンはパンダのぬいぐるみの中に仕込んでいた小刀をしまうと、部屋を出て行った。
その口からララの声が漏れた。
「おじさん、ごちそうさま。おいしかったよ」
1921年。中国共産党が成立したその年、共和制を掲げる政治家が同様に変死を遂げたが、犯人は遂に捕まらなかった。
陳のメイドは語った。
「白い女の子がいたんです。でも、誰だったのかはわかりません」 「あれっ?」
メイファンは異次元に飛ばされ、目を覚ました。 世界が薄暗く、赤っぽい。
どうやらここは母親の胎内のようだとすぐに気づいた。
自分を見ると産まれる寸前の赤子の姿をしている。そして自分とは違う白い存在が、産まれるのを待ってワクワクしているのをすぐ隣に感じた。 すると白い『気』のかたまりがビクリと動き、幼い声がした。
「だぁれ? ちかくなの?」 メイファンは少しがっかりした。どうやらララは転生しなかったようだ。 しかしララは消滅したわけではない、また出逢えたのだ、そう考えると嬉しくなった。
メイファンは小さな子に言い聞かせるように、幼い姉にさらに話しかけた。
「私はメイファン、お前の妹だ」
「いもうと?」ララは明らかに怯えた声で言った。「どこにいるの?」
「同じ身体の中にいるんだよ。私とお前はひとつの身体にそれぞれの精神をもって産まれるんだ」
ララは黙った。難しくてわからなかったようだった。 メイファンは説明を諦めた。
とにかくこれだけは言っておかねばということがあり、それだけわかって貰えれば充分だった。
「ララ、私達はどうやらこれから産まれる。そこで……」
「ララってだぁれ?」
「お前だよ」
「あたち、そんな名前じゃない!」
「じゃあ何て名前だよ」
「ちらない! パパとママがちってるんだもん! おちえてもらうんだもん!」
「……わかった。まぁ、聞け」
「おまえ、あくまなの?」
「は?」
「あくまー! あくまー!」ララは泣きそうになった。
「……いや、私は……。そう、くまさんだ」
「くまさんなの?」
「そう、くまさん」
「くまさんってなに?」
メイファンは疲れて来た。 しかし考えてみれば仕方がない。ララはまだ4歳なのだ。しかもまだ産まれていないぶん、並みの4歳児よりも幼くて当然だ。
自分が身体を持たない『気』だけの存在で、これは自分のではなく妹の身体だなんてことは説明したところでわからないだろう。
自分の身体がようやく完成し、今から産まれて4年も待ち続けた両親にようやく会えるものだと思っているのだ。 「ララ……じゃなくて、ななし。一つだけ言うことを聞いてくれ」
「うん」ララは素直に返事をした。
「産まれてすぐ、喋るな」
「えー? なんでー?」
「パパとママに嫌われるからだ」
「えー? やー!」
「普通の赤ちゃんはな、産まれてすぐ喋らないものなんだ。それこそ『悪魔が産まれたー!』って、嫌われるぞ」
「そーなのぉ?」
ララは不満そうに、しかしメイファンの言うことを信じてくれたようだった。
「じゃー、産まれてちょっとしてからならいい?」
「私がいいと言ったら喋っていいぞ」
「ぶぅ……。わかった」
いきなり色々言ってもわからないだろうので、メイファンは一つずつ言うことを聞かせるように決めたのだった。 「さて、どうやらぼちぼち産まれるようだぞ。産道が開きはじめた」
「うわーい」ララが無邪気な声を上げる。
「狭いとこ通るぞ。我慢しろ」
母親のいきむ声がする。頭のてっぺんが締めつけられ、狭い穴からメイファンは絞り出された。
「う、ウンコになった気分だ!」 看護師の手が触れるのを感じると、メイファンは外へ出た。
白い分娩室の明かりが閉じた瞼の向こうに感じられ、メイファンは渾身の演技でホンギャア、ホンギャアと泣いた。
喜びに我を忘れたララがその泣き声の合間を縫って叫んだ。
「パパ! ママ! ようやく会えたー!」
「喋るなっつったろォがァッ!!!」
メイファンも思わず叫んでしまった。
分娩室の空気が凍りつき、両親が悪魔を見るように自分を凝視する視線が痛いほど感じられた。 『人生やり直すもクソもねぇな……』
産まれてすぐに新生児室ではなく検査室のベッドに張り付けにされ、メイファンは思った。
「ごめんなさい……。うれしくって、しゃべっちゃった」
ララが申し訳なさそうにメイファンの口を動かして言った。
「もう、いい……。それ以上新生児が喋るな」 両親は赤ちゃんを霊媒師や退魔師に見せ、家では札を壁中に貼り付けた部屋に隔離した。
「うーん。このままじゃいかんなぁ」
「どうちて? いかんの?」
「私は私とお前の人生をいいものにしようとやって来たんだよ」
「いいもの? わるいものって?」
「このままじゃ、元いた世界より悪くなっちまう。……何とかせねば」
「めいふぁんの世界、わるいの?」
「まぁ、散々だったな」
「さんざんって何? さんすうのことば?」 とりあえずララだけでも幸せにしてやりたい……そう考えてすぐにメイファンは首を横に振った。
『元いた世界で、幸せになったララに私は何をした?』
妬み、憎み、遂には自分の中から現れた影がララを殺してしまったのではなかったか。
『私も幸せにならなければならんのだ。自分を幸せにも出来ない奴が、ララを幸せにすることなど出来るものか』 メイファンは考えた末、両親の元へよちよち歩いて行くと、正直に話し始めた。
「新生児が喋って申し訳ない。私は実は27歳で、しかし間違いなくあなた方の娘です」
よだれを垂らす口で流暢に喋り出した娘を見、両親はパニックになりかけた。
メイファンはそれを見て急いで言った。
「あなた方は4年前、初めて授かった子を流産しましたよね?」
「ひっ、ひいぃぃ!」
「その子は死んでいなかった。お母さんのお腹の中で『気』だけの存在となり、生きていたのです。そして私の身体と一緒に産まれて来た」
母親は話など聞きもせず、どこかへ電話し始めた。父親がゴルフクラブを急いで持って来て、振り上げた。
「チッ……」
メイファンはゴルフクラブを振り下ろしにかかる父親の足首を手刀で斬ろうとした。
「ずるい! めいふぁんばっかり! あたちもパパとしゃべる!」
ララが急に喋ったのでメイファンはバランスを崩してこけた。
その顔スレスレにゴルフクラブが振り下ろされ、床に穴ぼこを開けた。
「クソッ! 逃げるぞっ!」
メイファンはそう言うと、両手両足に黒い『気』を込め、ホバークラフトのようにわずかに浮き上がると猛スピードで逃げ出した。 「おいおい、さらに人生悪くなっちまったよ……」
夜の町の電柱の陰に隠れて、つなぎにオムツを穿いた生後2ヶ月の女の子はため息を吐いた。
「パパー! ママー!」
ララが泣き始めた。
「おい、あまり大きな声を出すな」
「うあー! うあー!」
同時に喋る二人の言葉はやがて意味をなくし、ぶりぶりぶりという唇の震えるただの音に変わった。
「だまぶり!」
「パぶぁーり! ぶりぶりぶりぶりマー!」 「仕方ねー……。明日の朝になったら誰かに拾ってもらおう」
メイファンはそう呟くと、黒い『気』を広げて寝袋を作った。
急に外気から逃れて暖かい『気』に包まれ、安心したようにララはすぐに眠ってしまった。 次の朝、電柱の袂に段ボール箱に入った赤ちゃんが通行人に期待を込めた目を向けていた。
箱には綺麗な大人の字で「この子を拾って下さい」と黒い墨のようなもので書かれている。
「優しい人に拾われるといいな」
「パパとママは? ねー、めいふぁん、パパとママはー?」
また泣き出しかけたララを宥めるようにメイファンは言った。
「アレは本当のパパとママじゃなかったんだ。これから本当のパパとママが迎えに来てくれる」
「ほんとうー?」
「本当さ。ただ……いいか? 今度こそ喋るなよ?」
「うん、わかったー」
「じゃあ、今から喋るの禁止な。赤ちゃんらしくしろ。3、2、1……はい禁止!」
「うん、わかったー」
メイファンは凄く不安になった。 【主な登場人物まとめ】
・ラン・メイファン……習近平の元用心棒であり、中国トップの殺し屋の女。
3歳で親に捨てられ、17歳で仲間から存在を忘れられ、27歳で自分の分身に殺される。
2001年の母親の胎内に転生し、散々だった自分と姉の人生をやり直そうと奮闘中。
『気』を使うことにおいてはエキスパートであり、黒い『気』を使って様々なことが出来る。リーチは短いが、それを補う武器を持たせれば最強。
性格は暴力的でいい加減で滅茶苦茶だが、知能指数が高く、料理も上手い。
・ララ(ラン・ラーラァ)……メイファンの姉。身体のない『気』だけの存在。
元々は普通の胎児として育っていたが、母親の胎内で身体だけが死んでしまい、4年後に妹の身体の中に入って産まれる。
今はまだ幼くて使えないが、そのうち強力な白い『気』を治療のために使うことが出来るようになる。戦闘力はほぼない。
元の世界では家族を作り幸せに暮らしていたが、メイファンの分身に斬り刻まれて殺される。
性格は女らしく明るく、お喋り好き。裁縫や編み物が得意だが料理は出来ない。ショックを受けるとすぐに発狂し、皆を困らせる一面も。 おばちゃんが一人、こちらを見ながら近づいて来た。
ぶさいくなおばちゃんだが、優しそうに見えた。
メイファンは精一杯可愛い顔を作り、『拾って』と目で訴えた。
「まぁまぁ、また捨て子かね」 中国国内で爆発的に捨て子が増え始めた頃である。捨て子ポストもまだ存在していなかった。
そして人々はまだ貧しく、捨て子を引き取り育ててくれるような者はそうそういなかった。
また捨て子の大半は何らかの障害を持って産まれた子であり、そういう意味でも捨て子を引き取る者などいなかった。
当時の政府の1人っ子政策の産んだ暗黒面であった。産まれた子が障害者だったら、次に健常者を産むために
障害者の子を『なかったこと』にするのである。そうしなければ1人っ子ではなくなり、政府の援助を受けられない。 メイファンにももちろんそのことはわかっていた。
とにかく新生児の身体を保護してもらうことが先決であり、警察に連絡してくれるだけでも助かると思っていた。
しかしおばちゃんはメイファンを抱き上げると、言った。
「可哀想にね。ウチ、来るかい?」
柔らかな胸にメイファンは抱かれた。
見上げると優しそうな笑顔があった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています