リレー小説「中国大恐慌」
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2018年11月21日、中国東部を超巨大規模の停電が襲った。
北京周辺から上海周辺にかけて、地上から電気が消え、人々はパニックに陥った。
これはそんな架空の中国が舞台の物語である。
主人公の名前は李青豪(リー・チンハオ)。
29歳の青年である。通称は「ハオさん」。
愛称は「ハオ」。 「文字化けしなかったわ」シューフェンは嬉しくなった。
台湾の有名な元女優に辛樹芬というまったく同じ名前の人がいるのである。
日本のアイドルにも岡田奈々という有名女優と同じ名前の人がいるように、構わないとも言えたが、ホークは良しとしなかった。
「君のご両親は相当の映画好きか、あるいは逆に相当芸能界に疎いかだね」リウが笑う。
「樹芬という名前はいいと思う。苗字を芸名にしよう」ホークが提案すると、シューフェンはすぐに案を出した。
「李樹芬……ってどう? リー・シューフェン」
「おっ? いいじゃないか」ホークが食いついた。
「さすがのセンスだ」リウが感心した。「中華一ありふれた姓と香り立つように美しい名の結婚か。行けるよ」 ラン・メイファンの話をしよう。
少し長くなるかもしれんが、構わんかの。
ワシはあの子のことは自分のことのようによく知っておる。
胸が悪くなるような話 ラン・メイファンの話をしよう。
少し長くなるかもしれんが構わんかの。
ワシはあの子のことは自分のことのようによく知っておる。
あまりきもちのよい話ではないかもしれん。
あんたが耳を塞いだらワシは話すのをやめることにしよう。 17年前の9月11日、モンゴルに近い小さな田舎町にメイファンは産まれた。
夫妻は4年前に初めて授かった子をお腹の中にいるうちに亡くしていたので、妊娠している間は大変喜んだ。
しかし、産まれた瞬間からメイファンは忌み嫌われた。
彼女は真っ黒で、背中には獣のように毛が生えていた。
それだけならもちろん夫妻も愛を注いで育てたことじゃろうな。
しかしメイファンは、産まれた瞬間に、喋ったのじゃ。
正確には赤子の泣き声の合間に嬉しそうな声が混じっておった。
「パパー ママー ようやく会えたー くらいよー みえないよー」
悪魔か何かが出て来たかのように、その場にいた全員が戦慄したそうじゃ。 4年前、母親のお腹の中で消失してしまった子は、実は生きておったんじゃ。
身体は消失したが、彼女は『気』だけの存在となり、胎内で成長し、外の音を聞きながら学習しておった。
初め、彼女は自分が身体を得て、ようやく産まれることが出来たものと勘違いしておった。
身体は自分ではなく妹のもので、自分はそこに寄生するただのバケモノだと気づくのにそう時間はかからんかった。
両親が彼女のことをバケモノ扱いし、霊能力者や退魔師に相談し、TV局に売り物にしようとしたからじゃ。
4歳の姉は幼いながら危険察知能力を働かせ、他の新生児は喋らないということも学習し、すぐに何も言わなくなった。
せっかくTV番組に出したのに喋らなくなってしまったので、両親は腹を立て、妹の身体に傷をつけるような扱いをした。
それから長い間、名前のない姉は、メイファンと名付けられた赤子に対してしか、口をきかなくなった。 普段は普通の赤ちゃんなのに、一人にしておくと何やら喋り出すのが薄い壁越しに聞こえ、両親はノイローゼになった。
やがて妹も喋り始める年頃になると、ノイローゼは一層ひどくなった。
姉妹は身体は一つだが、心は別々じゃ。テレパシーで会話できるわけではない。
メイファンは一人で会話をするようになり、一人なのにケタケタ笑ったり、誰かと喧嘩を始めたりする。
それどころか姉妹が同時に喋る時、一つの口を使って喋るので、言葉は宇宙人の言葉のようになり、口はありえない形で動いた。
あまりの気持ち悪さに両親は何度もメイファンを殺そうとした。
恐らく普通の子ならとっくに事故を装って殺されていたじゃろう。
しかしメイファンは、2歳の頃には高い戦闘能力を身につけており、容易に殺すことなどできない子になっておった。 『気』だけの存在である姉を通して、メイファンは気というものを理解するようになっておった。
相手の気を読むことで、0.5秒先の相手の動きが見えたそうじゃ。
今は……おそらく0.5秒では済まんじゃろうな。武術家は筋肉の動きから相手の動きの先を読むというが、
メイファンはその更に前から筋肉の動きを読むことが出来る。たぶんじゃが、5秒は先の相手の動きが見えておるんではないかな。……
話を戻そう。おまけに気をモノに込めることによって、例えば大人用の野球のバットを軽々と振り回し、使うことが出来た。 ハオはベッドの上に下着姿であぐらをかきテレビを見ている。その顔はメイファンの拷問によりやつれ不精髭も伸び
実年齢より10歳以上も年上に見えた。 3歳まで育てておきながら両親はメイファンを捨てた。
70km離れた町へ行った時、棒術が強いことでそこそこ有名なある道場の前に置き去りにし、それきり帰って来なかった。
門前に立ち尽くしているメイファンに門下生が声をかけると、姉が口を借りて「お母さんがここで待ってろって」と言おうとしたが、
メイファンが「捨てられた。メシくれ」と同時に喋ったもんだから、ありえない口の動きが「お母??んら??れこっこっ……くわはれろっ!」みたいに喋った。
エイリアンみたいに見えたことじゃろうな。
「妖怪変化め!」と突きつけた門下生の棒を易々奪い取り、メイファンは門下生を地に這いつくばらせ泣かせた。
道場の師範はボケ老人で、「あぁ、そう言えば小さな入門生が来るとか婆さんが言っておったな」とメイファンを受け入れた。
ちなみに婆さんは3年前に他界しておった。 姉はメイファン以外の誰にも知られていない存在ながら、明るくお喋り好きで、人と関わりたがった。
妹のメイファンは反対に人間嫌いで、必要以上のお喋りを鬱陶しく思う子だった。
道場での暮らしは2年以上続き、姉はたくさんのお兄ちゃんが出来たことがとても嬉しかった。
しかし口で明るく「お兄ちゃん、おはよう」と言いながら、獣が威嚇するような目で睨んで来るメイファンを好きになってくれるお兄ちゃんは一人もいなかった。
また、3歳児のくせにやたら強いのもお兄ちゃん達の気に障った。
どこを見ているのかわからない顔をして的確に痛いところを棒で突いて来るメイファンは、1日で道場の最強になってしまい、嫌われていた。
師範は優しかったが、頭のおかしい人だということは子供でもすぐにわかった。
姉が自分で動かせる身体の部位はほぼ口だけだった。
目や指先も動かせることはあったが、メイファンの意志がそこにあるとそちらに優先された。
妹は姉を可哀想に思っていた。
姉が身体を自由に動かせれば、愛嬌のある姉だから、きっと皆に愛されるのに、と歯痒く思っていた。 4歳にしてメイファンは道場の師範代に登り詰めた。
ただ、一人で会話する気持ちの悪い子供を心から師範代と仰ぐ者は誰もいなかった。
11月11日は姉の誕生日となった。
その日、メイファンが姉に名前をプレゼントしたのだ。
4歳児の少ない漢字知識の中から妹は「楽」という字が姉には似合うと選び、2つ並べて「楽楽(ラーラァ)」にした。
それまで自分のこともメイファンと呼んでいた姉は、8歳にして初めて自分の名前を得た。 しかし道場で暮らしたこの頃は、メイファンの人生の中で一番幸せな時期じゃったかもしれん。
彼女の武術の才はこの頃磨かれ、開花した。
嫌われようとも「自分もお前ら嫌いだから」で済ますことが出来た。
あの男がやって来てから、あの子は心に深い傷を負うことになる。 ハオはベッドを独占するメイファンを見た。
「俺、ずっとこの子と一緒なのかなあ…」
ハオはたばこに火を付けた。 「美少女ならまだしも微妙なんだよな。こいつ…」
そう呟いてハオは煙を吐き出しタメ息をついた 「…まあ、どちらかと言えば可愛いけどガキっぽ過ぎるんだよなあ。」
ハオは眠るメイファンの頬に優しく触れた。
メイファンはすやすやと眠っている。
「おかしいな、あんなことをされたのにムラムラしてきた。」
ハオは頬を触れた手を布団の下に入れ
掬うようにお椀型の乳房を撫で回す。
「うーん」
違和感に気が付いたメイファンは目を開けた。 「おはよう、ハオ。」
寝起きのメイファンは目をこすった。 12年前のことじゃ。道場にやって来たその男はメイファンを引き取りたいと言った。
目の前に大金を積まれ、師範は大喜びでメイファンを譲ったが、その後師範はじめ道場の人間は全員が火事で焼死する。
彼が殺したのかどうかはわからないが、その男こそ後の国家主席、
当時はまだ中国共産党の一党員であった習近平じゃった。
習はメイファンを表向きは養女として引き取ったが、その実籍は入れておらんかった。
もしもの時に自分に火の粉が降り注ぐのを恐れたのじゃろうな。何しろ元よりメイファンを殺し屋として使うつもりだったのじゃから。
念のため言っておくがこの物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは何の関係もないぞい。 五歳の時、メイファンは初めて人を殺した。
ターゲットは習の敵対勢力の中心人物じゃった。
習はメイファンを迎え入れると、予め用意していた養護施設に住まわせ、あれこれとプレゼントをした。
円月刀を仕込んだキティちゃんのバッグ、毒針を仕込んだディズニーの雨傘、剣の飛び出るアンパンマンのぬいぐるみ、等々。
まさか五歳の女の子が殺し屋とは誰も思わず、暗殺を重ねても犯人はバレなかった。
念のためメイファンに黒色悪夢(ヘイサー・アーマン)という通り名をつけ、仕事は電話で人を介し依頼した。
繰り返すがこの物語はフィクションであり、実在の……(略) ラーラァはメイファンが人を殺すのをメイファンの中から見ていた。
初めのうちは目を覆っていたが、そのうち慣れた。
それでメイファンが幸せなのならそれが一番よいことだった。
メイファンはといえば、ほぼ何も考えとらんかった。
自分の手にかかって他人が死ぬのはどうでもいいし、それをしておけば自分が裕福に暮らせるのもどうでもよかった。
ただ、彼女の頭の中はどうすればラーラァを外に出してあげられるかということで一杯じゃった。
幼い頭で試行錯誤を重ねるうち、自分をもラーラァ同様『気』だけの存在にすることが出来れば、身体の支配権を交代することが可能なことがわかって来た。
それまで専ら武器を使うことと相手の動きを読むことに使って来た『気』の中に自分を潜らせることに大変な努力をした。
習がもしそれを知れば、無駄なことに力を費やすメイファンを止めさせたことだろう。
しかし仕事はきっちりやりながら、自分のための努力もしっかりやった。
それが身を結び、遂にメイファンはラーラァと身体を交代することが出来るようになる。
初めて自分の意思で身体を動かせるようになったラーラァはどんな気持ちじやったろうな。
それはラーラァにしかわからん。 メイファンはラーラァを習に紹介したが、習は役に立つものにしか興味がなかった。
「それが何の役に立つのか?」と聞かれ、ラーラァは何も答えられなかった。
メイファンは身体を姉に交代すると少し大きくなり、服が破れることもあったが、習はラーラァのために服を買ってやることはなかった。
この頃からメイファンは反抗心からか服を着なくなり、室内ではいつでも全裸で過ごすようになった。
メイファンは才能のみで最強の殺し屋となった。
ゆえに身体を鍛えるようなことは何もしとらんかった。
その上メイファンのように『気』を扱うことの出来ないラーラァはただの10歳の子供に過ぎず、習は黒色悪夢に弱点が出来てしまったと嘆いた。
また、二人は同時に起きていることは以前の通りに出来たものの、同時に寝ることが出来なくなった。
『気』を収める部屋のようなものがまだ小さかったらしく、メイファンが意識を失ってそこに入って来ると、寝ていたラーラァがびっくりして必ず起きてしまった。
メイファンが寝ている時にラーラァが一緒に寝ようとしても同じだった。
今では一緒に寝られるようになっておるが、この頃からメイファンの身体は約6年間一度も眠らず、ずーっと起きている子供として不気味がられた。
寝る子は育つと言うが、メイファンが年齢よりも幼く見えるのはこの頃のせいかもしれん。 メイファンが7歳のある日、習のところへ一人の男がやって来た。
男は立派な体格にグレーのスーツ姿の紳士で、習の支持者であり協力者の共産党党員じゃった。
男の名前はリウ・ポホェイシェン。
習は彼にだけはメイファンのことを話しておった。
その日リウが習を訪ねて来たのは、彼の評判に傷をつけてくれている不良息子、パイロンのことについての相談だった。 「もう上海は駄目だ。広州に移り住もう」
恋人のシューフェンを抱きながら、ハオは言った。
「広州へ行ってどうするの? 仕事は? あっちに知り合いでもいるの?」
「知っての通り、俺の生まれはド田舎の村だよ。他のどの町へ行ったって知り合いも親戚もいない」
「じゃあ……」
「散打をやる。俺が強いのは知ってるだろう? チャンピオンになってお前に綺麗な服を着せてやる」
「何甘いこと言い出してんの!?」
「これはチャンスだと思うんだよ。神様が俺に散打をやれと告げているんだ」
そう言いながらハオはシューフェンに挿入した。
「バっ……! バカにも程がある……っ! ハオ……! ハオ! ハオっ!」 ハオ「そうだシューフェン、お前もこれを機会に女優デビューしろよ」
シューフェン「な、何を言い出すの!?」
ハオ「演劇やってたって言ってたじゃないか」
ハオはそう言いながら、入り口あたりを擦っていたのを突然奥まで突いた。
シューフェンは悲痛な叫びを上げ、天国へ逝きそうになったが何とか戻って来ると、答えた。
「高校生の頃の話よ」
「いいじゃないか。お前、綺麗だし、なれるよ、女優。やってみろよ」
「そんなにあたし、綺麗かな」
「あぁ、綺麗だ」
シューフェンは暫く下半身の快感と照れ臭さの両方と闘っていたが、やがて聞いた。
「ファン・ビンビンより綺麗?」 リウ・パイロンは父親の言うような不良息子というよりは、むしろ真面目で運動熱心な大学生だった。
共産党の一党支配を批判し、中国民主化を声高に謳うので、父親にとっては身内のガンであった。
遊び好きで仲間内の人気も高く、散打のジムに通い、その強さは相当なものでアマチュアながらTVで取り上げられるほどだった。
型と演武にばかりこだわる中国伝統武術を否定しており、その伝統武術の大家でもある父にとっては、息子でありながら目の上のたんこぶであった。
自信家で自己主張の強い息子の鼻柱をなんとかへし折り、自分の敷くレールの上を進ませる方法は何かないものだろうかと日頃考えていた。
ある月の綺麗な夜、リウ氏一家は習近平の屋敷に招かれた。
習氏への感謝と服従を誓う意思を家族ぐるみで示すための食事会、というのは表向きだった。
パイロンは欠席を望んだが、家族のためと懇願され、そう言われては断る理由もなく、しぶしぶ同席した。
その席の余興で赤い中国服を着た7歳の女の子が演武を披露した。
その動きは適当で、いい加減で、マンガじみており、ふざけているとしかいえなかった。
父親はパイロンに言った。「あの子はラン・メイファン。7歳にして棒術の達人なんだ。間違いなくお前より強いぞ」
冗談だと思ったパイロンは一笑に伏したが、習がこんなことを言い出した、
「パイロン君は散打をやるそうだが、メイファンとどちらが強いかな?」
それを受けて父親が言った。
「闘わせてみましょう。おいパイロン、お前が負けたらあの子の弟子になるというのはどうだ?」 散打とやらよりメイファンの伝統武術のほうが強い、大学生と7歳の女の子でもその差は歴然だ、そんなことを言われ、パイロンのこめかみに血管が浮きはじめた。
フーとひとつ大きく溜め息を吐くと、彼は笑い、茶番に仕方なく付き合うことを決めた。
「散打は太極拳をベースにしています。だから僕は決して伝統武術を馬鹿にしているわけではない」
そう前置きした上で、しかし現代における中国最強の格闘技は散打である。それを今から御覧に入れて差し上げる、と宣言し立ち上がった。
「いいか? お前が負けたらその子の弟子になるんだぞ?」
父親の言葉に可笑しそうに頷きながら、パイロンはメイファンと向かい合った。
「僕はリウ・パイロン。劉白龍だ。君の名前……何だったっけ」
「ラン・メイファン」
「可愛い名前だね」
パイロンは必殺の誉め言葉とスマイルを投げたが7歳の女の子は無表情を崩さなかった。
「どんな漢字?」
「知らん」
「知らないのかよ!」
パイロンは大笑いしたが、メイファンにその笑いは心地よく感じられた。
馬鹿にして笑っているのではなく、自分の返事にウケて心から面白がってくれていることが気の流れでわかった。
自分が初めて他人を面白がらせ、笑わせたらしいことが嬉しかった。 パイロンにも棒が渡されたが、彼は不要と言った。
「散打は棒を使わない。僕は散打を皆に見せたいんだ」
頭の中では試合の流れが出来上がっていた。メイファンの棒を足を使ったスゥエーや捌きでかわし、懐に一気に詰めて頭を撫で撫でしてやる、そして……
「僕が負けたら僕は君の弟子になる」
パイロンは思いついて言った。
「でもこれじゃ不公平だよな? 僕が勝ったら君は何をしてくれるんだい?」
「お前のカノジョになってやってもいいぞ」
口を結んだ怖い顔でそう即答され、パイロンは笑いながら答えた。
「それは嬉しいな。お願いするよ。ただし、13年後に、ね」
そして言うまでもなくメイファンはカノジョにはならず、パイロンが彼女の弟子になったのじゃ。 パイロンはメイファンの棒を一撃もかわせず、すべてまともに食らった。
自身の攻撃は一発もかすらなかったどころか、攻撃を出させてすら貰えなかった。
どれだけプライドを傷つけられ、どれだけ自信をズタズタにされたことじゃろうな、それは奴にしかわからんことじゃ。
父親はそれだけが目的だったので、笑顔の消え去った息子をしたり顔で優しくハグし、連れて帰ろうとした。
だが、メイファンが「弟子になると言ったではないか。ここで暮らさせる」と言い出した。
習がメイファンを抑えたが、今度はパイロンが「ここで暮らし、メイファンを老師(中国語で年齢関係なく「先生」の意味)とし、教えを乞う」と頑なになった。
ここから7歳の老師と大学生の弟子、二人の奇妙な師弟関係が始まったのじゃ。 ハオ「そうだシューフェン、お前もこれを機会に女優デビューしろよ」
シューフェン「な、何を言い出すの!?」
ハオ「演劇やってたって言ってたじゃないか」
ハオはそう言いながら、入り口あたりを擦っていたのを突然奥まで突いた。
シューフェンは悲痛な叫びを上げ、天国へ逝きそうになったが何とか戻って来ると、答えた。
「高校生の頃の話よ」
「いいじゃないか。お前、綺麗だし、なれるよ、女優。やってみろよ」
「そんなにあたし、綺麗かな」
「あぁ、綺麗だ」
シューフェンは暫く下半身の快感と照れ臭さの両方と闘っていたが、やがて聞いた。
「ファン・ビンビンより綺麗?」 パイロンはメイファンにとって初めて気の許せる他人じゃった。自分を色眼鏡で見ない人間は彼が初めてだと言えた。
パイロン自身、異能の持ち主と言えるほどの天才じやったから、天才同士わかり合えるものがあったのかもしれんな。
パイロンはメイファンを、稽古の時は「老師」と呼び、遊ぶ時などは「メイ」と呼んだ。
メイファンは迷うことなくどんな時でもパイロンを「お兄ちゃん」と呼んだ。
メイファンは笑うことが多くなったなどということはなく相変わらずの無表情じゃったが、パイロンのことが大好きなのはそれでもバレバレじゃった。
ただ、パイロンが何を考え、メイファンに対してどんな思いを抱いておったのかは……
メイファンの愛情表現はドSじゃった。
パイロンを青アザが出来るほどに棒で突きまくったり、プロの殺し屋と対戦させ痛めつけさせたり、
ペットの人喰い虎と闘わせたり、それ用には細すぎるロープを足に巻いて600m近い高さのビルの117階から飛び降りさせたり、……した。
本当はもっとあるんじゃが、むごすぎてワシにはこれ以上言えん。
それでも稽古が終わるとパイロンは風呂でメイファンを洗ってやったり、すごろくを作って一緒に遊んでやったり、ゼリーを作って一緒に食べてやったりしておった。
ラーラァはそんな二人を黙って身体の中から眺めながら、どんな風に思っていたんじゃろな。 パイロンはメイファンのお気に入りのオモチャじゃった。
彼が棒で突かれまくって痛そうな顔をするのや虎に食われそうになって必死の形相になるのを見て面白がった。
しかしそれは単に彼を虐めているのではなく、実際パイロンはみるみる強くなって行った。
ラーラァがパイロンの傷の手当てをしたいと言い出した時、メイファンは複雑な気持ちじゃった。
何でも分かち合って来た姉に対し、初めて物を取られたくないような気持ちになった。
反対に、パイロンにラーラァを紹介したいという気持ちもずっと心にあった。
その夜、メイファンは身体を交換し、ラーラァはパイロンの部屋のドアをノックした。 場面は変わり現在。
モニタールームで数人の男たちがモニターを眺めている。その1人である習はつまらなそうな顔をしていた。
「なんだかなぁ」
習は深い溜息を付くと、部下と思われる男の一人にあとのことを任せモニタールームを後にした。
モニターには風呂場でいかがわしいことをしているハオとメイファンが映っていた。 部屋に入って来た初めて見るはずの白い肌の少女を見て、パイロンは「なんだ、お前か」というような顔で微笑んだ。
その時パイロンは既に『気』の使い方を学び、会得していたから、あるいはラーラァの中に隠れておるメイファンの『気』に気づいておったのかもしれんな。
しかしそれなら奴にとっては最高のチャンス。メイファンはとんでもない隙をパイロンの前に晒していたことになるはずじゃ。
自分を虐げ、恨み重なるメイファンの身体にボディーブローを入れることも容易かったはずじゃ。
しかし奴はラーラァを「ララ」という愛称で呼び、とても優しく誠実な話し相手になった。
イケメンではないがとても男らしいパイロンにラーラァはうっとりとなっていた。
その姉の姿を身体の中からメイファンは、パイロンの瞳の中に見ていた。 パイロンは稽古が終わった後、毎晩施設内の道場に一人で入り、自主的にトレーニングをしておった。
それを気で感じ取り、メイファンは毎晩自分の部屋で、感心すると同時に自分のことが恥ずかしくなるのだった。
大した努力などせずに、ほとんど才能だけで強くなった自分はパイロンに負けているような気がした。
それでメイファンも毎晩イメージトレーニングをするようになり、それはあの子のような『気』の使い手にとっては絶大な効果があった。
メイファンもまたパイロンと出会った時よりも更に強くなり、二人は限界など存在せぬかのように高め合って行った。
そしてその日がやって来るーー ある日、パイロンは徒手空拳でメイファンと勝負がしたいと申し出た。
メイファンが「徒手空拳」の意味がわからなかったので、「武器を使わず、素手で」と言い直した。
メイファンは断った。
リーチの差やパワーの差など『気』でカバー出来る自信があったが、何よりメイファンは素手で闘ったことがなかった。
自分が負けるからではなく、一発でもかすらせたりしたら師匠の面目が丸潰れになるじゃないかと断った。 するとパイロンが挑発した。
「メイは武器がないと弱いんだな。武器なしだとやっぱり俺のほうが強いということか。なるほど、わかった。泣かせたら可哀想だからやめておいてやるよ」
メイファンは挑発に簡単に乗った。
「俺が勝ったらここを出て行く。いいな?」
そのパイロンの申し出にメイファンは首をひねった。
メイファンはパイロンを監禁しているわけではなく、自由にさせていた。
大学に行くことも出来たし、家に帰ることだって出来たのに、彼は自発的にここにいた。
出て行ってもいいが、ちゃんと戻って来るんだぞ? そう思いながらメイファンは承諾した。
「メイが勝ったら何でも望みを聞くよ。何がいい?」
メイファンはしどろもどろになりながら即答した。
「私をお前のお嫁さんにしろ」 ある男性が不良にからまれていた。
「オレ様はよ、すごいんだぜ」
そこへたまたま母親と、男の子の親子連れが通りかかった。
「ボク様〜!、ボク様〜!ボク様はよ、すごいんだじぇ。ボク様〜!」
男の子は言った。
不良がその男の子をちらっと見た。
「こら、真似しちゃいけません!」
いやいや、真似になってないと思うぞ。
「ボク様〜!、ボク様〜!」
いやいや、なんかすごいなこの男の子。
すると、その隙を見て、からまれていた男性がダッシュして逃げていった。
「あ!おい、ちょっと、まて」
不意をつかれた不良は、追いかけることができなかった。
しばらくしてから怖い顔をして男の子を振り返った。、
「ガキぜ。どうしてくれるんぜ」
その不良は言った。
「ガキじゃない、ボク様〜!、ボク様〜!」
「こら、真似しちゃいけません!」
この状況で2回言うとまずいと思うんだ。 部屋に入って来た初めて見るはずの白い肌の少女を見て、パイロンは「なんだ、お前か」というような顔で微笑んだ。
その時パイロンは既に『気』の使い方を学び、会得していたから、あるいはラーラァの中に隠れておるメイファンの『気』に気づいておったのかもしれんな。
しかしそれなら奴にとっては最高のチャンス。メイファンはとんでもない隙をパイロンの前に晒していたことになるはずじゃ。
自分を虐げ、恨み重なるメイファンの身体にボディーブローを入れることも容易かったはずじゃ。
しかし奴はラーラァを「ララ」という愛称で呼び、とても優しく誠実な話し相手になった。
イケメンではないがとても男らしいパイロンにラーラァはうっとりとなっていた。
その姉の姿を身体の中からメイファンは、パイロンの瞳の中に見ていた。 散打とやらよりメイファンの伝統武術のほうが強い、大学生と7歳の女の子でもその差は歴然だ、そんなことを言われ、パイロンのこめかみに血管が浮きはじめた。
フーとひとつ大きく溜め息を吐くと、彼は笑い、茶番に仕方なく付き合うことを決めた。
「散打は太極拳をベースにしています。だから僕は決して伝統武術を馬鹿にしているわけではない」
そう前置きした上で、しかし現代における中国最強の格闘技は散打である。それを今から御覧に入れて差し上げる、と宣言し立ち上がった。
「いいか? お前が負けたらその子の弟子になるんだぞ?」
父親の言葉に可笑しそうに頷きながら、パイロンはメイファンと向かい合った。
「僕はリウ・パイロン。劉白龍だ。君の名前……何だったっけ」
「ラン・メイファン」
「可愛い名前だね」
パイロンは必殺の誉め言葉とスマイルを投げたが7歳の女の子は無表情を崩さなかった。
「どんな漢字?」
「知らん」
「知らないのかよ!」
パイロンは大笑いしたが、メイファンにその笑いは心地よく感じられた。
馬鹿にして笑っているのではなく、自分の返事にウケて心から面白がってくれていることが気の流れでわかった。
自分が初めて他人を面白がらせ、笑わせたらしいことが嬉しかった。 そして安倍ゲリゾーと捏造マスゴミ櫻井うんこ婆は死んだとさめでたしめでたし 散打とやらよりメイファンの伝統武術のほうが強い、大学生と7歳の女の子でもその差は歴然だ、そんなことを言われ、パイロンのこめかみに血管が浮きはじめた。
フーとひとつ大きく溜め息を吐くと、彼は笑い、茶番に仕方なく付き合うことを決めた。
「散打は太極拳をベースにしています。だから僕は決して伝統武術を馬鹿にしているわけではない」
そう前置きした上で、しかし現代における中国最強の格闘技は散打である。それを今から御覧に入れて差し上げる、と宣言し立ち上がった。
「いいか? お前が負けたらその子の弟子になるんだぞ?」
父親の言葉に可笑しそうに頷きながら、パイロンはメイファンと向かい合った。
「僕はリウ・パイロン。劉白龍だ。君の名前……何だったっけ」
「ラン・メイファン」
「可愛い名前だね」
パイロンは必殺の誉め言葉とスマイルを投げたが7歳の女の子は無表情を崩さなかった。
「どんな漢字?」
「知らん」
「知らないのかよ!」
パイロンは大笑いしたが、メイファンにその笑いは心地よく感じられた。
馬鹿にして笑っているのではなく、自分の返事にウケて心から面白がってくれていることが気の流れでわかった。
自分が初めて他人を面白がらせ、笑わせたらしいことが嬉しかった。 仕事で2日間留守にし、帰ってみるとリウ・パイロンが死んでた。
ケージの隅っこで眠るような格好で、死んでた。
そうか……寒かったんだな。昨夜は真冬のように冷えたから……。
ぼちぼちエアコンをつけっぱなしにしておいてやらねば、と思いながら、暖かい日が続くので油断してた。
布団を入れてやってもすぐにバラバラにしてしまうお前も悪いんだぞ、そう思いながらリウ・パイロンを抱き上げた。まだ少し温かかった。
手の中でゆっくり暖めてやる。愛してなかったはずのパイロンなのに、死なれたら愛しさが思い出とともにこみ上げてくる。
エアコンをつけて、布団に入れてやる。もう遅い。リウ・パイロンの命は帰ってこない。 「練習ちゃんとやってる?」シューフェンは、毎日のようにやって来るリウに言った。
「いつもここまでランニングで来てるよ、嘘だけど」リウは涼しい顔で笑う。
「日本人との対戦も近いんでしょう?」
「あぁ、強敵だし、僕のほうがルール上不利だから、頑張ってトレーニングしてるよ。その後でここに来てる」
「ここ」と口では簡単に言うが、今日は屋内、今日は外、と忙しく移動する撮影先へリウは追いかけるようにやって来るのだった。
「ところでシューフェン、どこか痛いのを我慢してるだろう?」
「え?」シューフェンはギクリとした。
「僕は格闘家だからね、筋肉の動きとかですぐにわかる。痛くないフリをしててもね」
「あ……」
「まったく……。今度は何を食べすぎたんだい?」
「んっ??」
「カメラの中で体型も変わってしまう。気をつけろよ。君はもうプロの女優なんだ」
シューフェンは笑いながら頷き、ジャージャー麺が美味しすぎて……と舌を出してみせた。
「ところでリウ、見てほしいシーンがあるの。来て?」
シューフェンはモニターの前へ連れて行き、撮影済みの一場面をリウに見せた。
シューフェン演ずる冥界の姫君ツァイイーが衆前に姿を現し、その優しく穏やかな美しさで魅力するシーンだ。
「これは素晴らしいね。いい映画になりそうだ」
心から大喜びでモニターに見入っているリウの横で、シューフェンが上を向いてウフッと笑った。
「得意そうだね?」
「まーね」
「得意になって当然だ、得意になっていいよ」
そう言いながらモニターの中のシューフェンに魅了されるリウにシューフェンは言いたくてたまらなかった。
『この時、お腹をナイフで刺されてぐりぐりされてるぐらい痛かったのよ』と。 リウは基の流れからシューフェンが長くないことに薄々気付きはじめていた 「私をお前のお嫁さんにしろ」
そのメイファンの顔を真っ赤にしての申し出に、リウは冷めた笑顔で答えた。
「いいよ」
徒手空拳での勝負を嫌がっていたメイファンの顔がぱぁっと明るくなり、モチベーションが最大に上がった。
しかしワシの知る限り、リウ・パイロンという男は相手の不利を嫌い、いつでも相手の得意な土俵で闘い、そして勝つ男じゃ。
後にも先にも奴が相手の得意を封じて闘ったのはこれが初めてじゃった。
初めて会った時と同じように、明るい満月の夜じゃった。
蝋燭を灯し、窓から月明かり差す道場に二人は向かい合って立った。
メイファンはいつものように全裸、パイロンは上半身裸に赤いボクサーパンツを穿いておった。
我流のめちゃくちゃな演武を見せた初めての時と違い、メイファンは両手を身体の前でユラユラと揺らす太極拳の構えをとった。
それに対し、パイロンはメイファンが初めて見る構えをとった。両拳を顔の前に上げ、水牛が威嚇するように顎を引いた散打スタイルだ。
「何だ、その構え?」メイファンは口を尖らせて言った。「なぜ教えたようにやらん?」 メイファンは8歳になっておった。
しかし二人の身長差は相当なもので、まるで……いや事実、大人と子供の闘いじゃった。
二人は足を使い、互いに牽制し合い、攻撃の時を待った。
メイファンはいつもと違って武器を持たなかったが、負ける気はまったくしなかった。
気の流れで1秒近くも前からパイロンの動きが見えていたし、何よりパイロンのことはすべて知っている自信があった。
パイロンがローキックを放って来る未来が見えた。メイファンはその足のさらに下を潜り、もう一本の足を狙うと見せかけて低空から一瞬でジャンプした。
自分の顎を砕こうとするメイファンが未来に見えていたのか、パイロンはそこへ向けてカウンターの拳を既に用意していた。
「しまった」と思う暇もなかった。メイファンにはその拳が飛んで来るのを予測する力はあったが、予想外のスピードに対処できる能力がなかった。
パイロンの拳がメイファンの胸にクリーンヒットした。
並みの8歳なら瞬時にアバラが砕け、血反吐を吐いて毛虫のように床に転がっていただろう。
しかし気の鎧をまとっていたメイファンはくるりと回転すると床に着地した。
しかしパイロンは既にそこへ次の攻撃を仕掛けていた。そのスピードはメイファンの知らないものであった。
「お兄ちゃん、本気を隠していたな!?」
そんな文句を言う間もなく、パイロンは低空からアッパーを放った。ガードしたメイファンの身体が浮き上がった。 パイロンは何も卑劣なことなどしていない。
メイファンを子供ではなく一人の武術家として尊敬した上で、徒手空拳での闘いを望んだ。
メイファンが徒手空拳においても『気』を使うことでバケモノのように強く闘えることをわかっていた。
しかし、この時のパイロンは相手の弱点に徹底的につけこんだ。
メイファンこそが王者であり、自分は挑戦者だという意識に基づいて、こうしなければ勝てないという図式を頭に置き、それに従ったのじゃろう。
浮き上がったメイファンに向かって突進すると、床にねじ伏せ、その身体の上に乗っかってパンチの雨を降らせた。
これは散打では反則じゃ。ダウンした相手への攻撃は禁止されておる。
しかしこれは散打の試合ではなかったし、何よりパイロンにはもう散打がどうのこうの関係ないように見えた。
ただ勝利だけを渇望し、王者を負かすことによって己の糧とすること、それしか見えていないようじゃった。
自分を殴りながら歓喜の歪んだ笑いを浮かべるパイロンの姿をメイファンは見た。
激しいスピードと重たいパンチに『気』の力も加わり、『気』の鎧の上からでもダメージは蓄積し、加速した。
やがて前で組んでいたメイファンの手がだらりと床につき、メイファンは降参した。
顔は青く膨れ上がり、あちりこちらから血が滲んでいた。
勝利してもなおパイロンの興奮は収まらず、高潮していた。
奴は慌ただしくボクサーパンツを脱ぐと、目の前の8歳の少女をレイプした。 丸太のような肉棒で突き刺され、メイファンは身体と心の痛みに耐え切れず、獣が苦しむように叫び続けた。
パイロンは情け容赦なく8歳少女を突きまくりながら、歯を剥いて笑った。
「私をお兄ちゃんのお嫁さんにしろ」
そんな自分の言葉が頭の中でループし、消えて行った。
あまりの痛みから逃れるための精神機能が働き、メイファンは失神した。
すると寝ていたラーラァがびっくりして呼び起こされ、目の前に見たこともないようなパイロンの笑顔を見た。
ラーラァは殺される子犬が上げるような悲痛な叫び声を上げた。
精神の弱いラーラァはすぐに失神し、すくにまたメイファンが呼び出される。
そしてまた失神するとラーラァが……逃げ場もなくそれが繰り返された。
行為が済むとパイロンはボクサーパンツを拾い、無言で背を向け道場を出て行った。
既にまとめてあったらしい荷物を部屋から取り、施設の建物から出て行くパイロンの足音を、メイファンは茫然と聞いていた。 散打とやらよりメイファンの伝統武術のほうが強い、大学生と7歳の女の子でもその差は歴然だ、そんなことを言われ、パイロンのこめかみに血管が浮きはじめた。
フーとひとつ大きく溜め息を吐くと、彼は笑い、茶番に仕方なく付き合うことを決めた。
「散打は太極拳をベースにしています。だから僕は決して伝統武術を馬鹿にしているわけではない」
そう前置きした上で、しかし現代における中国最強の格闘技は散打である。それを今から御覧に入れて差し上げる、と宣言し立ち上がった。
「いいか? お前が負けたらその子の弟子になるんだぞ?」
父親の言葉に可笑しそうに頷きながら、パイロンはメイファンと向かい合った。
「僕はリウ・パイロン。劉白龍だ。君の名前……何だったっけ」
「ラン・メイファン」
「可愛い名前だね」
パイロンは必殺の誉め言葉とスマイルを投げたが7歳の女の子は無表情を崩さなかった。
「どんな漢字?」
「知らん」
「知らないのかよ!」
パイロンは大笑いしたが、メイファンにその笑いは心地よく感じられた。
馬鹿にして笑っているのではなく、自分の返事にウケて心から面白がってくれていることが気の流れでわかった。
自分が初めて他人を面白がらせ、笑わせたらしいことが嬉しかった。 0245 創る名無しに見る名無し 2018/12/09 05:23:45
仕事で2日間留守にし、帰ってみるとリウ・パイロンが死んでた。
ケージの隅っこで眠るような格好で、死んでた。
そうか……寒かったんだな。昨夜は真冬のように冷えたから……。
ぼちぼちエアコンをつけっぱなしにしておいてやらねば、と思いながら、暖かい日が続くので油断してた。
布団を入れてやってもすぐにバラバラにしてしまうお前も悪いんだぞ、そう思いながらリウ・パイロンを抱き上げた。まだ少し温かかった。
手の中でゆっくり暖めてやる。愛してなかったはずのパイロンなのに、死なれたら愛しさが思い出とともにこみ上げてくる。
エアコンをつけて、布団に入れてやる。もう遅い。リウ・パイロンの命は帰ってこない。 17年前の9月11日、モンゴルに近い小さな田舎町にメイファンは産まれた。
夫妻は4年前に初めて授かった子をお腹の中にいるうちに亡くしていたので、妊娠している間は大変喜んだ。
しかし、産まれた瞬間からメイファンは忌み嫌われた。
彼女は真っ黒で、背中には獣のように毛が生えていた。
それだけならもちろん夫妻も愛を注いで育てたことじゃろうな。
しかしメイファンは、産まれた瞬間に、喋ったのじゃ。
正確には赤子の泣き声の合間に嬉しそうな声が混じっておった。
「パパー ママー ようやく会えたー くらいよー みえないよー」
悪魔か何かが出て来たかのように、その場にいた全員が戦慄したそうじゃ。 習近平がメイファンを呼びつけて言った。
「お前、最近ハオ君の特訓をサボってるそうだな。困るよ、ハオ君にはアレを捌けるようになって貰わないと」 高層ビルの106階にあるレストランで、夜景を見ながらリウはシューフェンと食事を楽しんでいた。
「ここのスフレが絶品なんだ」リウはウインクをしながら笑った。「とろけるよ?」
「リウ……いつもありがとう」シューフェンは微笑み返した。「あなたのおかげで私……」
シューフェンが黙ってしまったので、リウはゆっくりと優しく聞いた。「何だい?」
「……幸せよ」
「なぜ泣く?」
「……」
「……?」
「……こんなに親切にされたの初めてだから」
「親切だって?」
シューフェンはわかっていながらすっとぼけた。リウの顔から笑いが消え、恐ろしい顔になり、言った。
「わかっていると思うけど、僕は君を愛してしまっている」
シューフェンは目を伏せ、時々頷きながら、黙ってリウ・パイロンが愛の告白をするのを聞いた。聞きながら、その頭にはどうしてもハオのアホ面がこびりついていた。
「嫌な言い方だけど、僕は美人などいくらでも見て来たし、付き合ったこともある。でも君は違うんだ」
リウの熱弁は続く。
「君といるとほっとするんだ。心から楽しいんだ。そして、初めてなんだ、自分のためではなく、誰かのために頑張りたいと思えるのは」
「私も……リウと一緒にいると楽しいわ」
シューフェンは本心からそう言いながら、しかしもっと何も自分を飾らず偽らずに、一緒にバカなことを楽しめる人がいたことを思い出していた。
「本当? じゃあ……」リウの指がシューフェンの指先に触れた。「僕と特別な関係になってくれるかい?」
シューフェンはリウの目をまっすぐ見ると、頷いた。
リウはシューフェンの手を握り、暫く照れたように笑っていたが、やがて言った。
「もうすぐ映画の製作発表会があり、君は有名人になる。そうなったらこんなことはもう易々とは出来ないな」
リウの手を握る力が少し強くなった。
「このビルの下の階にホテルがあるんだ」 メイファンはララと仲が良いようでよく喧嘩した。
ハオや習近平などの周りの人々ははララがおしとやかで慈愛に満ちた女性で、妹思いのお姉さんと思っているがそれは彼女の一面にすぎず
、その本性は自由奔放でつかみどころがない。
慈悲深い淑女かと思えば残虐な化け物だったり、誠実清楚で思いやりのあるかと思った次の瞬間には淫らで傍若無人な行動で妹を悩ませたりした。
メイファンにとってララは最愛の人物であったが、誰よりも油断ならない危険人物だった。 17年前の9月11日、モンゴルに近い小さな田舎町にメイファンは産まれた。
夫妻は4年前に初めて授かった子をお腹の中にいるうちに亡くしていたので、妊娠している間は大変喜んだ。
しかし、産まれた瞬間からメイファンは忌み嫌われた。
彼女は真っ黒で、背中には獣のように毛が生えていた。
それだけならもちろん夫妻も愛を注いで育てたことじゃろうな。
しかしメイファンは、産まれた瞬間に、喋ったのじゃ。
正確には赤子の泣き声の合間に嬉しそうな声が混じっておった。
「パパー ママー ようやく会えたー くらいよー みえないよー」
悪魔か何かが出て来たかのように、その場にいた全員が戦慄したそうじゃ。 シューフェンは大停電の上海から広州へ来てスマホの電波が使えるようになってから、
毎日ハオにウィーチャット(日本で言えばLINE)でメッセージを送っていた。
初めは「生きてる?」「無事?」「どこにいる?」など短いメッセージばかりだったが、最近では長々と近況報告を書くようになっていた。
突然超大作主演女優になったこの夢のような日々を、誰よりもまず知らせたい相手がハオだった。
そして自分の病気のことは一言も書かなかった。
上海で発見された首なし水死体はハオの免許証を持っていた。しかしそれ以外の所持品は何もなかった。
「これは不自然だ」チェン刑事は言った。「まるで誰かがこの死体をハオさんだと我々に思わせようとしているかのようだ」
シューフェンは警察病院で対面した首なし死体がハオでないと確信することは出来なかった。
それでもあれはハオではないと今日まで信じ続けた。
リウ・パイロンがシャワーを終え、出て来た。
ベッドの上でバスローブ一枚を身に着けたシューフェンは、持っていたスマホをゆっくりと置いた。
ウィーチャットのハオ宛の画面には、1文字も書かれていなかった。 「失礼します」
習近平の工作室にララが入って来た。
「お茶をお持ちしました」
「ウム」
習は机の上の書類から目を離さずに答えた。
パタムとドアを閉めた瞬間、ララはニッコリ笑うと、軽やかに踊るように振り返りながら、甘ったるい声を出した。
「はぁ〜いピンちゃん、今日はプーアル茶でちゅよ〜」
「ウム、早く……温かいうちに飲ませてくれ」
そう言う習の顔が少し緩んだ。
ララはポットから湯呑みにお茶を入れると、習の口に運び、その手で飲ませた。胸の膨らみが習の目の前にあった。
役立たずの不要物だった昔と違い、現在のララは習の健康の役に大いに立っていた。
習の健康の秘訣は、3に食事(お茶)、2に運動、そして1番は何と言ってもエロだった。
彼は健康のために『一日一勃起』を心掛けており、それが自分の工作室にいればララのお陰で苦労なく実践できた。
現にお茶を飲まして貰っている今この時も、机の下では65歳の欲棒がフル勃起していた。 出来ることならララを押し倒してしまいたかった。しかし出来なかった。血で汚れた黒豹がララの中には隠れているのだ。
しかしメイファンはあれだけ色気の欠片もないというのに、同じ身体でララはこんなにも押し倒したくなるのか?
答えは簡単だった。
メイファンは『気』の鎧を纏う時、フェロモンを鎧の中に閉じ込めてしまうのだ。
それがララと身体を交代した瞬間 、閉じ込めていた凝縮されたフェロモンが一気に解放される。
これにて獣臭い妹と、天然フェロモン姉の出来上がりである。 ララに服を買ってやらないのもピチピチのチャイナドレスを楽しむためであった。
しかし最近、さすがに毎日チャイナドレスでは飽きてきた。
そこで新しい服を買ってあけようかと切り出そうとしたところ、
「ねぇ、あたし、新しい服が欲しいなぁ〜」
ララの方からねだってきた。
「ピチピチすぎて胸が苦しいの」
「ヤッター!!」習は思わず立ち上がりガッツポーズをしてしまった。
「よし!じゃあ明日!一緒にショッピングに出かけよう!」
約束し、ララが出て行くと、習はパソコンを開き、「エッチな服が売ってるブティック」のキーワードで検索した。 だが、ハオは例外だった。ハオに直接ふれるとなぜか『気』が上手く扱えなくなるのだ。
原因はわからなかったが、メイファンはハオと直接ふれあうのはなるべく避け、
触れる場合はララと交代するか手袋や棒などを用いる事にしていた。。 しかしそう言いながら夜になるとハオのベッドに潜り込むのだ そしてたいして代わり映えの無い日常を坦々と過ごし気が付くとハオはアラフォーの中年男になっていた。 いや待って。リウとシューフェンのセックスシーン書かせて。 習近平「ララちゃん、リウの息子に君が犯された夜、ボクはモニター越しに見てて3回連続で逝っちゃったよ」 「ああ、今日も月曜日が始まるお。昔は毎日が日曜日だったのに今は毎日が月曜日。」
ハオの実年齢は29才だったが、メイファンの調教により1ヶ月半で40才前後に見えるほど老けてしまった。過酷な鍛錬と多忙な雑務でお肌も下半身もボロボロ。
「メイファン、おれ強くなれたかなあ?」
メイファンは殺し屋としては一流かもしれないがトレーナーとしては二流だった。 「君と出会ってから」リウは天井を見つめながら言った、「一生忘れられないことが増えた」
そしてすぐ隣で自分を見つめる乱れ髪のシューフェンへ頭を転がした。「ありがとう」
しばらく二人は見つめ合った。リウは満ち足りた笑顔で、シューフェンは放心したような顔で。
「これからも」リウは乱れた髪を撫でて整える。「永遠に増え続けたらいいな」
シューフェンは何も言わなかった。ただ逞しく優しい男の手を取りキスをした。
自分は彼を騙している。彼と自分の「これから」はとても短い。
病気のことを打ち明けてしまおうかとも考えた。しかし、そうしたら彼はどうするだろう? きっと全力を、自分を救うために費やすに違いない。
身体に障るから映画をやめろと言うだろうか?
この愛しい笑顔と楽しい日々が消え、代わりに哀しそうな顔と重苦しい日々が続くだろうか?
何より彼の邪魔になる。彼は今、ジョー・サクラバとの大事な一戦を控えている、格闘家でありチャンピオンなのだ。
シューフェンはようやく口を開いた。「私、幸せよ」
「今、とっても幸せ」
そう言いながらリウの厚い胸板を細い指先で撫でた。頭を彼の肩に寄せると、彼が抱き寄せた。
「意外にぷにぷにしてるのね」リウの胸を突っつきながらシューフェンは言った。「鉄板みたいにカチカチかと思ってた」
「リラックスしてるからだよ」リウは微笑んだ。「力を入れたらカチカチになる」
「入れてみて」
そう言われ、リウは力を込める。ムキムキと音を立てるように筋肉が盛り上がった。シューフェンはそれを触り、言った。
「やっぱりぷにぷにしてる」
「本当に?」リウは焦ったように言った。
シューフェンは暫く考え込み、口を開いた。
「私、邪魔になってるんじゃない?」
「そんなことないよ」
「トレーニング、本当にちゃんとやってる? 私に会いに来てばっかりで……」
リウはぽりぽりと顔を掻いて、言った。「君……、支えてないと消えちゃいそうな感じがするから、さ」
シューフェンは少し驚き、申し訳なさそうに笑うと、言った。
「もしも……もしも負けたら、新しい恋人のせいだとか言われるかもよ?」
「あぁ」
「そんなこと言わせたくないでしょう?」
「その通りだな」リウは自分の頬を拳骨で突いた。
「私は大丈夫だから。気にせず、自分のことを頑張って」
「あぁ、闘いのことに専念するようにするよ。でも、時間が空いたら会いに来る」
「うん」
「お願いがあるんだ」
「?」
「もう一回、いい?」 「ずっと思ってたけど」
リウはシューフェンがいつもしているネックレスを手に取ると、言った。
「これ、趣味悪いぜ」
いかにも安物といった風情のハートのネックレス。ハオが付き合い始めの頃にプレゼントしてくれたものだった。一応プラチナではある。
「ある人がプレゼントしてくれたの」
「前の男?」 「そうね。前のひと」
シューフェンが答えると、リウはネックレスを両手で掴み、引きちぎり、ゴミ箱へ投げ捨てた。
「今、君は僕のものだ」
激しく抱き寄せると唇に吸いついた。 リウ「新技を編み出したんだけど、君で試してみてもいいかい?」 リウはあっという間にオザワ先生に変身した。
「どうだい。すごい技だろ。」
しかしシューフェンはさらなる早業で蓮舫に変身した。
「リウ、まだまだ技のキレが甘いわね」
その姿のまま2人は再び激しく愛し合った。 「もう上海は駄目だ。広州に移り住もう」
恋人のシューフェンを抱きながら、ハオは言った。
「広州へ行ってどうするの? 仕事は? あっちに知り合いでもいるの?」
「知っての通り、俺の生まれはド田舎の村だよ。他のどの町へ行ったって知り合いも親戚もいない」
「じゃあ……」
「散打をやる。俺が強いのは知ってるだろう? チャンピオンになってお前に綺麗な服を着せてやる」
「何甘いこと言い出してんの!?」
「これはチャンスだと思うんだよ。神様が俺に散打をやれと告げているんだ」
そう言いながらハオはシューフェンに挿入した。
「バっ……! バカにも程がある……っ! ハオ……! ハオ! ハオっ!」 習近平はララを連れてランジェリー・ショップに来ていた。
「うわぁ〜! 可愛いお洋服がいっぱ〜い! ……って、ピンちゃん? 下着ばっかりなんですけど!?」
「当たり前さぁ。ここはランジェリー・ショップなんだからね!」
取り敢えず着せて来た白のワンピースに白い帽子でララは真っ白だった。習は粘ついた笑顔で振り返り、言った。
「君はこれからここでピンク色に変身するんだよぉ」
「ご予約されていた習様でございますね?」店員が言った。
「そう、今日、この店は僕とララちゃんの貸し切りさ」
「国家主席の、習近平様でございますね?」店員が念を押した。
「何だよぉ」習は口を尖らせた。「国家主席がこういう店に来ちゃいけないとでも言うのかよぉ?」
「いいえ」店員はそう言うと、カウンターの下から銃を取り出した。「歓迎光臨!」
「ヒィィッ!?」
「キヤァァッ!?」
悲鳴を上げた時、ララの両腕は既に黒く、店員の構えた銃口を指で塞いでいた。
「貴様、素人か?」泣き顔のララの口だけがニヤリと笑った。「習近平の傍にはいつでも黒色悪夢(ヘイサー・アーマン)が漂っていることを知らんのか?」
黒い腕が掌打を放ち、店員の顔がグシャグシャに潰れる。
周囲の入口という入口から黒服に身を包んだ男達が銃を携えて流れ込んで来た。
「15人か」ララは徐々に全身を黒く変えながら言った、「どうやら知ってはいたらしいな」
完全に身体を交代し終えたメイファンは、鼻で笑った。
「だがそれでは少なすぎるぞ」 その頃ハオは家を脱走し、地下道から地上に通り抜けていたのである。
だが精神に異常をきたしたハオはシューフェンとの記憶すらも失い、
ただひたすら街の中をゾンビのようにさまよっていた。 メイファンは無『気』物の動きを予測することは出来ない。銃弾のスピードにも対処出来ない。
銃弾を放つ人間の『気』を読み、未来を予測し、そこから銃弾の軌道を蜘蛛の巣のように描き出せるのみである。
しかしそれで充分だった。
15人が一斉に引鉄を引く未来が見えた。同士討ちしても構わないから習と自分を殺せということか、
メイファンは背中に隠れる習近平の身体を自分の気で包んだ。
四方八方から銃弾が浴びせられると同時に床に伏せる。仲間の攻撃が当たり、敵は15人が11人に減った。未来に見た通りだ。
気で包んだ習近平はぬいぐるみのようにメイファンにとっては軽い。しかも気の鎧に包まれているので硬い。
メイファンは習近平を武器として振り回し、二人倒した。
「残り9人」
あっという間に9人に減った敵は、同士討ちを警戒して慎重になる。これを待っていたメイファンは外へ向かって叫んだ。
「酒鬼(ジョウ・グェイ)! いるか?」
外からハイヨーと声が聞こえ、その方向へ向かってメイファンは習近平をぶん投げた。「受け取れ!」
「イヤァァァ!!!」悲鳴を上げながら習近平が砲弾の速さで飛び、ショーウィンドウを突き破った。
外に飛び出して来た黒いガーターベルト付きの女性下着に包まれた習を、「酒鬼」ことジャン・ウーが『気』をクッションにして受け取り、そっと地面に降ろした。
「メ、メメメメイファンめ! 許さんぞ!」習近平は興奮している。
「許さん相手を間違えてにゃァか? ピンちゃんよ」ジャン・ウーは習を守る位置に素早く立つ。「その相手、誰だか、今からすぐに黒色悪夢が吐かせらァよ」
「ララララララちゃんをピピピピンク色に変身させる筈だったのに! くくくく黒く変身しおって!」
「ア。そっち?」
ジャン・ウーは突っ込みながら防御のための『気』を辺りに張り巡らした。
「ワシも加勢してやりたいが、ピンちゃん守らにゃならんでの。それに今、酒が切れておってなぁ」 メイファンは習をぶん投げるとすぐに自分の髪の毛を3本抜いた。習を追って出て行こうとした3人にそれを投げる。
気を通して針と化した髪の毛は背中に突き刺さる。しかし致命傷には至らない。
敵は一方向にかたまり、組織プレーでの攻撃に転じた。7人が同時に等間隔で撃ち、碁盤の目のように銃弾が飛んで来た。
「へぇ、逃げ場がないや」
メイファンは呑気にそう呟きながら、最もダメージの少ないポイントを瞬時に見つけ、そこへ飛んだ。
銃弾が一発、左太股を貫通した。
「動きにくいんだよ、この服」メイファンは痛がりもせずに白いワンピースに文句を言う。「ブラまで着けやがって。ガバガバして邪魔だ」
「それはメイのほうが小さいからでしょ!」ララが口を動かした。
「わかった。黙れ」
2回目の組織攻撃が飛んで来る。メイファンはショーケースの裏へ飛び込む。ガラスが砕け、飛び散る。
「いいもの見ーつけた!」
そう言いながら飛び出して来たメイファンは、手にホウキを持っていた。
竹の柄にシュロの刷毛のついた普通のホウキである。敵は可笑しそうに笑い、噴き出す者もいた。
真顔に戻って敵は3回目を仕掛けて来た。
飛んで来る方向が一律なら、銃弾をはじくことは容易かった。『気』を通して鉄の硬度と化したこのホウキさえあれば。
碁盤の目の縦一列の上にホウキを置き、そこに身を置くだけで簡単に防ぐことが出来る。
慌てた敵は、今度は連射攻撃に切り替えるらしく、弾倉を取り替えてそのための準備を始めた。
「いいのか? そんな隙を与えて」
予測と回避に費やしていた『気』を、メイファンは一気にホウキに込めた。
「やれやれあっという間に完成だ」
ホウキは刷毛が黒光りする斧のような立派な武器に姿を変えていた。
「一振りか」
メイファンが武器を振ると、予言通り全員の首が綺麗に飛んだ。
「爽快だな」 残りの一人は投げた髪の毛針が脊椎に刺さったようで、まともに動けなくなって床に座り込んでいた。
そいつも含めて全員、ヒスパニックとも東南アジア系とも判断のつかない顔立ちをしていた。
メイファンはアメリカ英語で聞いた、「誰が依頼人だと推測する?」
「ドナルド・トランプだ!」
敵はあっさりその名を口にした。
『黒色悪夢』は依頼人の名を吐かすのに物凄い拷問をするという噂が流れているらしい。
問われた暗殺者は皆、自害も出来ない状態に追い込まれ、あっさり殺されたほうが楽だとばかり、素直に依頼人の名を口にするのだ。
もちろん依頼人が直接殺し屋に依頼するケースは少ないので、大抵はその殺し屋の推測でしかないが。
「言ったぞ! な? だから殺してくれ! 拷問はやめてぇぇぇ」
「連れて帰る。知っていること全て洗いざらい話せ」
「はいっ! 話しますから! 拷問やめてぇぇぇ」
そこへジャン・ウーと習近平が入って来た。
「撃たれたのか」ジャン・ウーがメイファンの足を見て言った。
「あぁ、しくじった。当分ララは出してやれないな。痛みに耐えられんだろうし、傷口でハオにバレる」
「そんな!」習が涙を流した。
「早くハオを育てないとな」メイファンは足に包帯を巻きながら言った。「早く一人前になって、こういう仕事をこなして貰わなければ」 「おはよう」
シューフェンが目を覚ますと、そう言って微笑むリウの顔がそこにあった。
「早いわね」
シューフェンは顔を赤らめた。あたし、どんな寝顔してたんだろ。
それから何も言わずに二人は寄り添って窓の外を眺めた。
「思い出すな」リウが口を開いた。「俺、このぐらいの高さのビルから飛び降りたことあるんだぜ」
シューフェンは何も言わず、口をぽかんと開いた。
リウは床に落ちたバスタオルを取ると、ぎゅっと絞る。
「このぐらいの細さのロープ一本、足に縛って、さ」
「それって、もしかして」
「そう」
「バンジージャンプ!」二人声を揃えた。
シューフェンがケラケラと笑う。
「冗談じゃないんだぜ」リウは真顔で言う。「あの修練で俺はぐっと強さを増したんだ」
「へぇ〜」騙されないぞ、とシューフェンが顔でアピールする。
「あと俺、この、ここ、額んとこ、横に真っ直ぐの傷があるだろ?」
「うん」
「これ、切られたんだ」
「切られた?」
「あぁ」
「チェーンソーで?」シューフェンがくすくす笑う。
「いや、シンバル叩くサルの玩具の、シンバルで」
「それはさすがに……」
「こっから上、ぱかっと蓋みたいに取られたんだぜ?」
「メロンアイスの蓋みたいに?」
「うん。脳味噌でた」
シューフェンは笑い崩れ、聞いた。
「誰がそんなことするのよ〜」
「俺の師匠」
「おじいさん?」
「7歳の女の子」
「玩具にされたのね」
「その通り」
シューフェンはさすがについて行けなくなって呆れたポーズをして見せた。
「でも、あの時の修練を乗り越えた俺だから、今、無敗の王者でいられるんだ。師匠には感謝している」
「そうなんだ?」
「次も勝つよ、君のためにも」
そう言うとリウはシューフェンを三度(みたび)押し倒し、布団を剥いだ。たおやかな乳房が現れる。そこへキスで攻撃しながら言う。
「『産まれたまんまの姿』とかよく言うけど……師匠、産まれた瞬間に喋ったらしいよ」
「もう、いいって」シューフェンは笑い声を含んだ声でそう言うと、それから暫く言葉を失った。 二人は外へ出た。
冬の近い広州の町はPM2.5に霞んでいた。
「マスク、持ってる?」
「持ってる。リウは?」
「あるよ。じゃあ撮影頑張って」
「あなたも」
「じゃあ」と言いながらリウはなかなか歩き出さない。
「どうしたの?」
「本当に俺がいなくて大丈夫か?」
「大丈夫よ。寂しいけど。ジョアンナが親しくしてくれるし、ホーク監督も優しいし。あ、撮影中は鬼か悪魔だけどね」
リウはおもむろにシューフェンを抱き締めると、大きな顎で彼女の頭のてっぺんをグリグリしながら言った。
「本音を言うと、俺が離れたくないんだ! ずっと君の側にいて、ずっと君を見て、ずっと君と喋ってたいんだ! あぁ……仕事に行きたくねぇよぉ〜!」
「うん。でも、試合に勝たないとダメ」
「わかったよ」リウはようやくシューフェンを離した。「なぁ、ずっと側にいてくれるかい?」
シューフェンは優しく微笑むと、頷いた。「ずっとあなたの側にいるわ」 ハオはひたすら歩き続ける、誰かに会うためだ。誰かは思い出せないがとても大事な人だった気がした。そのためにとにかく歩き続ける。
「もうあの家には居られない」
ハオはボソリと呟いた。額からは汗が流れ肩は上下していた。目は虚ろで焦点が合っていない。
「探しましたよ」
聞こえるはずのない声がした。驚いたハオは後ろを振り返る。
「ララさん…?」 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
気が付けばハオは玄関に立っていた。
「…おかえりハオ。」
廊下の奥からメイファンが姿を現しハオをお出迎えする。
「お散歩は楽しかったかな?」
豹のような目と黒い肌をしたその美少女は口端をつり上げニタリと笑う。
「…うん、ただいま。」
虚ろな目でハオは答えた。
メイファンはハオと体を重ねる度に『気』を送り込むことで、万が一自分が不在でハオが脱走してもこの家に無意識に戻ってくるように細工を施していたのだ。
もうハオはシューフェンのことは思い出せないしメイファンからも逃げられないだろう。 ハオは自分の部屋でぼーっとしている。
傍らのベッドの上ではメイファンが寝転がってマンガを読んでいる。
メイファンはオフの時にはマンガやゲームや芸能人が好きな普通の17歳の女の子だった。
マンガに飽きたようで、投げ捨てると、リモコンを持った。
「テレビつけるぞ?」
「ほぇぃ」
テレビがつくなり、スタイリッシュなロックが流れて来た。
「ハオ様だ!」メイファンが目を輝かせる。「新曲、出たんだぁ。かっけぇえぇ」
「俺様が何か?」ハオはボケた。
ありえない距離からメイファンの蹴りが飛んで来た。
「ハオはハオでもリー・ロンハオ様だ。ハオ様のハオはかっこよく急降下する『ハオ!』、お前のは寝ぼけた『ハオ〜?』だろうが一緒にするな」
「ハイハイ」
テレビ画面のテロップには『大型新人女優出現! デビュー作がツイ・ホークの最新超大作!』と出ており、
リー・ロンハオがその映画の主題歌を書き下ろしたという話題が済むと、その大型新人女優が画面に姿を現した。
「うわぁ〜綺麗なひとだな〜」メイファンが溜め息を漏らした。「リー・シューフェンだって」 主な登場人物まとめ
・ハオ(リー・チンハオ)……主人公。習近平とメイファンにより謎の施設に軟禁され、謎の過酷な特訓を受けている。
太極拳の使い手。恋人のシューフェンの待つアパートに帰りたくてしょうがない。
・シン・シューフェン……ヒロイン。膵臓ガンに冒されており、余命は僅か。ハオの恋人だったが、リウに取られた。
元々ハオにはもったいないほどの美人であり、リウの紹介で女優デビューする。
・リウ・パイロン……中国の格闘技『散打』のチャンピオンであり国民的英雄。シューフェンの現恋人であり、彼女にメロメロ中。
メイファンの元弟子だが、ボロボロに負かした上当時8歳のメイファンをレイプした上、彼女の元を去る。
・ラン・メイファン……17歳の美少女。国家主席習近平のボディーガードであり凄腕の殺し屋。
『気』を操り様々なことに使える武術家、というより超能力者。『黒色悪夢』の通り名で恐れられている。
・ラン・ラーラァ(ララ)……21歳の天然フェロモン娘。メイファンの姉。ただし身体を持たず、妹の中に住んでいる。
『気』だけの存在であり、メイファンと身体を交代することが出来る。性格は妹と正反対で女らしく、お喋り好き。
・習近平……言わずと知れた中国国家主席。孤児だったメイファンを引き取り、殺し屋として育てる。ララのファン。
・ドナルド・トランプ……言わずと知れた(略)
・ジャン・ウー……メイファンの仲間の殺し屋。通り名は『酒鬼』。昔のカンフー映画に出てくるような見た目をしている。 パイパンは何も卑劣なことなどしていない。
メイファンを子供ではなく一人の武術家として尊敬した上で、徒手空拳での闘いを望んだ。
メイファンが徒手空拳においても『気』を使うことでバケモノのように強く闘えることをわかっていた。
しかし、この時のパイロンは相手の弱点に徹底的につけこんだ。
メイファンこそが王者であり、自分は挑戦者だという意識に基づいて、こうしなければ勝てないという図式を頭に置き、それに従ったのじゃろう。
浮き上がったメイファンに向かって突進すると、床にねじ伏せ、その身体の上に乗っかってパンチの雨を降らせた。
これは散打では反則じゃ。ダウンした相手への攻撃は禁止されておる。
しかしこれは散打の試合ではなかったし、何よりパイロンにはもう散打がどうのこうの関係ないように見えた。
ただ勝利だけを渇望し、王者を負かすことによって己の糧とすること、それしか見えていないようじゃった。
自分を殴りながら歓喜の歪んだ笑いを浮かべるパイロンの姿をメイファンは見た。
激しいスピードと重たいパンチに『気』の力も加わり、『気』の鎧の上からでもダメージは蓄積し、加速した。
やがて前で組んでいたメイファンの手がだらりと床につき、メイファンは降参した。
顔は青く膨れ上がり、あちりこちらから血が滲んでいた。
勝利してもなおパイロンの興奮は収まらず、高潮していた。
奴は慌ただしくビガーパンツを脱ぐと、目の前の8歳の少女をレイプした。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています