TRPG系実験室 2
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TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください
使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも) ロールの練習がてら、実験室をお借りします
ちょっとしたロールや手軽に遊びたい人向けの企画だよ
1レスだけ落とすとかそんなスタイルでもおkだよ
【企画:無限迷宮へようこそ】
無限迷宮――――。
それはかつて存在した魔王が創ったという伝説のダンジョン。
次元の狭間にあり、あらゆる世界から人や、財宝や、資源が漂着する。
迷宮は階層と魔物を増やしながら侵入者を阻む。
入り口や出口、階層から階層へは『ポータル』と呼ばれる転移装置で繋がっている。
ただし、ポータルの転移先は不定期で変わるためどこへ移動するかわからない。
そのため、迷宮に入るのは簡単だが脱出は容易ではないとよく言われている。
低階層ほど魔物は弱いので、勝手に集落や国を作る者もいる。
冒険者たちは様々な思惑を抱えて迷宮へとやってくる。
巨万の富を求める者、下界にいられなくなった者、好奇心だけで来た者など。
君もまた、その一人なのである。
ジャンル:ファンタジー
コンセプト:ロールの練習やお手軽に遊びたい人向けに
期間(目安):未定
GM:なし
決定リール:なし
○日ルール:7日(宣言すれば延長可)
なお参加者が一人の場合は不定期とする
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり
避難所の有無:なし
参加人数:1人以上 【テンプレート】
名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
目標:
能力:(A〜Eで評価)
装備:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
【テンプレート記入例】
名前:エール・ミストルテイン
種族:人間
年齢:16
性別:女
身長:152
体重:49
性格:大らか。正義感は人並み
職業:銃士
目標:姉を見つけ出す
能力:
砲術B……砲や銃を操る能力。高いほど正確に狙える。
体術C……徒手空拳の能力。平均的軍人と同じ能力をもつ。
魔力C……潜在する魔力量。生まれつき人並みの魔力をもつ。
算盤D……お金を回す能力。無駄遣いはしないが根っからの貧乏。
装備:
携行魔導砲『アルヴィス』
魔力をプラズマなどの攻撃魔法に変換する投射武器。
小さい臼砲に持ち手と引き金をつけたような見た目で色は青。
意外と軽い。
容姿の特徴・風貌:
白金の髪に空色の隊服。顔立ちにはまだ幼さが残る。
簡単なキャラ解説:
北方大陸出身の銃士。無限迷宮で失踪した姉を探してやってきた。
銃士になった理由は実家が貧乏のため、軍属なら食いっぱぐれないと思ったから。
雪国育ちで寒いのには慣れているが都会をよく知らない田舎者。
冒険者としても完全に初心者。右も左も分からない。 見渡す限りの草原が広がっていた。
そよ風が草木を優しく揺らし、頬を撫でる。
風があたたかい――後ろを振り返ると、石造りの社がある。
社の中では魔法陣がきらきらと碧い光を放っていた。
転移の魔法陣だ。もう何度もあの社を見たが、間違いない。
牧歌的かつ草木以外何もない空間に拍子抜けしたが、ここが『無限迷宮』らしい。
かのダンジョンは、一度入ると出られない、伝説の迷宮として有名だ。
魔王が創ったこの広大な空間には、巨万の富が眠っているという。
すこし歩くと、崖下に町並みが広がっているのが見えた。
「うわ、うわぁ。町だ。ここって本当に迷宮なのかな?」
自問の答えはない。
目指す当てもなし、とりあえずはあの崖下の町へ行くことにした。
と、いって、このままロッククライミングで降りるわけにもいくまい。
大きく迂回する形になるが遠目に見えるあの斜面を下っていくべきだろう。
何時間かかるのやら……。
道らしきところを進んでいると、どこからかゴトゴトと音がする。
町の方角からだが――しめた。あれは荷車の音に違いない。
全力で飛び跳ねながら手を振って、あらん限りの声で叫んだ。
「おーい!おーい!乗せてくださぁい!」
瞬間、矢が肩を掠めた。身体が凍りつく。
荷車は商人や羊飼い辺りが曳いているのかと思ったが、全然違った。
その矮躯に、緑っぽい体色、下賤な笑い声。ゴブリンだ。
なんと荷車には蓑巻きにした人間が乗せてある。
少女は不幸にも人攫いの途中を目撃してしまったのだ。
ゴブリン達は荷車から飛び降りると、棍棒や弓矢を構えて襲い掛かってきた!
「う、うわぁーーーーっ!?」
少女の名はエール・ミストルテイン。どこにでもいるちょっと運のない女の子だ。
エールは予想と反した結果に驚きの叫び声を上げるのであった。 襲ってきたゴブリンの数は実に三体。
めいめい武装して、いたいけな少女へと殺到する。
つい驚いて叫んでしまったがダンジョンに魔物がいるのは当然だ。
(やるしか……ないっ!)
エールは覚悟を決めて、飛び掛かってきた一体を見据える。
そしてタイミングを合わせて――棍棒が振り下ろされるや、それより早く。
エールが放った蹴りがジャストで顔面を捉えた。
「ゴブぅーっ!?」
奇怪な叫び声を上げつつ、蹴られた一体が紙屑みたいに吹っ飛んでいく。
だいたいのゴブリンは一メートルにも満たないことが多く、体格も良くない。
そんな小型の魔物が人間様の蹴りを食えばこうなるのは当然の帰結だ。
だが、彼らは概して悪知恵が働き、冒険者を困らせるもの。
残りの二体のうち片割れは草の長い草原に紛れて背後に回り込んでいた。
そして今度こそ後頭部に棍棒を打ち付けんと奇襲をかけ――
「せぇい!」
――られなかった。
想定内とでも言わんばかりに、左腕の肘打ちがゴブリンの胴を射抜く。
そして怯んだところでゴブリンの胸倉を掴んで、弓を慌てて構えた最後の一匹へ投擲!
ゴブリン二体の額と額が激突し、二体の意識は途絶した。
「大丈夫ですか、いま解きますねっ!」
ゴブリン三体を見事な体術で撃破したエールは、蓑巻きにされた人の救助に向かう。
縄を解いてあげると、「ありがとう、助かったよ」とお礼を言われた。
ちょっと照れくさいが、嫌々受けた戦闘訓練が役に立ったようで嬉しい。 ――荷車をゴトゴト揺らしながら、舗装もされていない道を往く。
感謝の印とばかりにちゃっかり荷車に乗せてもらい、町までの道程は随分楽だ。
「君は探索にきた冒険者なのかい?あまり見ない顔だね」
「あ……はい。銃士のエールと申します」
「だから強いのかぁ。若いのに凄いなぁ」
助けた人は背負っている筒状の物体を一瞥してそう言った。
エールは駆け出しの冒険者だと謙遜する。話を聞くとその人は崖下の町に住んでいて、
放牧していた家畜を守ろうとしたところ、返り討ちにあい攫われたらしい。
そのどうにも生活感溢れる話に、エールはここが本当にダンジョンなのかと疑った。
「あの……迷宮内に住んでるんですか?」
「まぁね。この無限迷宮はとにかく広大で、何でもあるからね。
外には簡単に出られないから自然と町やら集落やらの拠点ができるんだよ」
助けた人は故郷を失った流浪の民で、迷宮に流れ着いてもう五年になるのだとか。
曰く、ここは迷宮の一階にあたる草原エリアで、エールのような冒険者がよく訪れるという。
「本格的に探索を始める前に町で準備するといいよ。
階層によっては拠点がないところもあるからね」
やがて崖下に辿り着くと、乗せてくれたことに感謝し、町の門を潜った。
「無限迷宮1F、緑の町エヴァーグリーンへようこそ。
何もないところだけど、ゆっくりしていってね」
助けた人はそう言うと、荷車を引っ張って去っていった。
さっそく冒険者が集まりそうな場所を探しはじめる。たぶん酒場あたりだろう。
エールはこんな拠点が迷宮内にあるなら、案外早く見つかるかもしれないな、と思った。
彼女の目的は一獲千金でもなければ冒険心でもない。
この無限迷宮に挑んだきり行方不明になった姉を探しに来たのだ。
【エール:無限迷宮1Fの拠点に辿り着く】
【ぼちぼちやりますのでいつでも気軽にご参加ください!】 迷宮内に築かれた冒険者たちの拠点、エヴァーグリーン。
のどかな町の風景は外の世界とそう変わらず、木造の家々が立ち並ぶ。
酒場は探せばすぐに見つかった。外からでも喧騒が漏れてくる。
扉を開けるとギィ、と古びた音が鳴って視線が一気に集まるのを感じた。
エールは気にした様子もなく、空いているカウンターの一角に座る。
「お嬢さん、見かけない顔だね。冒険者の方かい?」
「はい。銃士のエールと申します」
店主に尋ねられ、定型句を述べると、飲み物でも注文して情報収集をはじめようと思った。
中には十数人程度の武装した人たち――おそらく冒険者――がいる。
「おーい。レオン、あんたの出番だ。新顔の冒険者だってさぁ」
いざ注文しようとすると、店主が人の名前を呼んだので出鼻を挫かれた。
するとそそくさと帽子を被った紳士が店の奥から姿を現す。
若い男性だ。頬に切り傷があって、精悍な顔立ちをしている。
「おおっと、はじめまして。俺はレオン!しがない情報屋さぁ。
ここで冒険者の面倒も見てるがね。無限迷宮にははじめて来たのかい?」
渡りに船だ。肯定すると情報屋に姉を探すためやってきたのだと言った。
姉の名はカノン。故郷を守る元銃士で、今は冒険者として国々を転々と旅している。
そしてこの無限迷宮に挑んだきり行方不明になったのだ。
「難儀な話だねぇ。その姉さんに関する情報、あるけど聞くかい?
お金はかかるけどね。まぁ、その辺の問題もあって俺が来たんだがな」
「……どういうことですか?」
エールは小首を傾げた。 ごほん、と情報屋のレオンは咳ばらいをする。
「この無限迷宮では専用の通貨しか流通してねぇんだ。色々な世界の住人が集まるからな。
多元世界共通の金なんて無いし、不便だから統一しようってんで『メロ』って金貨しか使えねーのよ」
レオンは懐から金貨をひとつ取り出した。表面には迷宮のような独特の紋様が彫られている。
通貨単位『メロ』は迷路が訛ったものが由来だと説明してくれたが、そんなことはどうでもいい。
問題はエールは故郷の世界のお金しかもっていないということだ。
換金所などはないそうで、金が欲しければ働くか商売でもはじめるしかないらしい。
「迷宮と名はついているがこのダンジョンは一個の世界並みに広大だぜ。
何をするにしても資金は必要になってくる……そこでだ。
俺は冒険者向けの依頼も斡旋してるんだが、受けてみないかい?」
「……報酬額はいくらなんですか?」
「毎度あり。報酬額は2000メロだよ」
姉の情報は500メロで構わないと言われた。つまり1500メロ手に入る計算だ。
お釣りがもらえるならそんなに悪い話ではないだろうと考え、気軽に引き受けた。
「もうじき魔王の創った疑似太陽が別の階層を照らす時間になる……。
そうすりゃこの階層は夜だ。魔物の活動も活発になるだろう。
嬢ちゃんの仕事は夜に紛れて町に侵入しようとする魔物の撃退だ」
次の朝までこの町の警護をすること。それが依頼内容らしい。
引き受けるのは一人ではなく、冒険者何名かで守ることになるだろうと言われた。
話を聞くと冒険者の中には探索に来たのはいいが、迷宮を脱出できず、
仕方なく魔物退治で金を稼ぎ、糊口を凌ぐ者も多いらしい。
(待っててねお姉ちゃん……!今すぐに見つけ出すから!)
無論、エールにその気は微塵もなかった。 無限迷宮1F、草原エリアに夜が訪れた。
疑似太陽が沈むと同時、月のような衛星が階層を微かに照らしはじめる。
屈強な男達に混じって、エールは町の外のだだっ広い夜の草原を眺めていた。
町は四方を木の柵で囲っていて、一応これが魔物除けになっているらしい。
ないよりはマシだろうが防備としてあまりに薄弱である。
だから冒険者たちは柵に沿って何名かずつに別れ、魔物の侵入を防ぐ算段だ。
「もう遭遇してるだろうが、主な魔物はゴブリンやスライムだな。
弱いが数だけは多い。うっかり町に侵入させねぇように気をつけるんだぞ」
冒険者の一人に説明を受けてエールは静かに頷いた。
背負っていた巨大な筒をずん、と地面に立てかけ、柵にもたれ掛かる。
この仕事は長丁場になる。ずっと気を張っていても仕方ない。
故郷で警邏や見張りの仕事は何度も経験しているので慣れっこだった。
……一方、ゴブリンの集落では。
小鬼たちに取り囲まれた、略奪品の戦槌と円盾を装備せし緑肌の怪物が一匹――。
体躯は成人男性ほど。筋肉は隆々としている。彼もまたゴブリンである。
ゴブリンの上位種、群れを率いるゴブリンキングという種だ。
人間程度の体格を有し人語を話せる程度に知能が高い。
まだどこか愛嬌のあったゴブリンの面影は最早ない。
凶悪な貌を際立たせるかのように、配下の小鬼たちに向かって叫ぶ。
「機は熟した!今は亡き魔王様の迷宮に巣食う、
塵人間共を一掃する好機が遂に訪れたでゴブ!」
ゴブリンたちの拍手と歓声が上がる。
波がひくように静寂が訪れたところでゴブリンキングは再び叫んだ。
「今宵の我らはただの小鬼ではない!何故なら――……。
魔王様が遺した秘宝、『闇の欠片』が加護を与えてくれるからゴブ!」
闇色に輝く水晶が埋め込まれた戦槌を掲げると、地面に向かって振り下ろす。
暗黒の波動がゴブリンの集落を駆け巡り、小鬼たちの目が爛々と妖しく輝きだす。
矮躯は膨れ上がっていき、ゴブリンキングと相違ない体格へと急成長していく。
「ククク……素晴らしい力よ。全員ホブゴブリンに進化しやがったゴブ。
これさえあれば負けは無し!さぁーッ、いざエヴァーグリーンを滅ぼしに!」
宵闇の草原に紛れて武装したホブゴブリンの一団は緑の町へと向かう。
遥か過去、魔王に仕えていた記憶を頼りに、自分たちの領土を奪回すべく。 名前:ダヤン
種族:獣人族(猫種)
年齢:11
性別:男
身長:145
体重:45
性格:猫っぽい
職業:冒険者(能力的にはスカウト)
目標:地上に憧れている
能力:
短剣術C:ダガー二刀流で戦う
軽業C:猫なので
魔力C:目くらまし、鍵開け等の便利魔法を少々
装備:
容姿の特徴・風貌:灰色の毛並みの猫耳猫尻尾、銀髪の少年
簡単なキャラ解説:
物心ついた時から迷宮にいた。
冒険者として生計を立てているが、地上に憧れている。
>「もう遭遇してるだろうが、主な魔物はゴブリンやスライムだな。
弱いが数だけは多い。うっかり町に侵入させねぇように気をつけるんだぞ」
屈強な冒険者達に混ざって、明らかに場違いな者がいる。
猫耳猫尻尾が生えたまだ幼いと言っていい少年だ。
獣人族猫種。見た目はファンシーだが生まれつき高い身体能力を持つ。
「ははは、楽勝楽勝! おねーちゃんは新入り?
なーに、この階層に出てくるのは雑魚ばっかだから心配することないって!」
そんな風に呑気に喋っていたが突然ぴくっと耳を動かし、目を細める。
「来たにゃ……!」
草原の向こうから、無数の光が見える。怪しく光るホブゴブリンの目だ。
「つーか、でかくね!?」
それは見慣れたゴブリンではなくホブゴブリンだからだ。 草原を吹き抜ける風が、途端に厳しくなった気がする。
夜は魔物の姿をくらます帳となり、静かにその魔手を伸ばしてくる。
姉のように木々や動物と会話できるわけではないが、何か――嫌な予感がする。
>「ははは、楽勝楽勝! おねーちゃんは新入り?
>なーに、この階層に出てくるのは雑魚ばっかだから心配することないって!」
警護に集まった冒険者といっても、種族は様々である。
わざわざ列挙はしないが、人間の方が珍しいと感じたくらいだ。
中でも自分より背丈の低い、獣人の少年が冒険者なのには驚いた。
もっとも華奢なのはエールとて同じことなのだが……。
「うん、エールって言うんだよ。よろしくね」
不安を掻き消す少年の明るい声が、エールを元気づけた。
迷宮内という環境ゆえか必要以上に臆病になっていたのかもしれない。
低階層で出現する魔物が弱いのは散々聞いた話であり、心配することなど何もない。
と、思った矢先。獣人の少年が突然耳をぴくりと動かし、目を細めて言う。
>「来たにゃ……!」
「な、何も見えないよ……!?」
無理もない。
据えつけてあるランタンは町内を照らすだけで、周囲は完全なる闇。
警護用に置いている焚き火も遠くまでは照らせない。
猫の獣人ゆえ夜目が効くのか、少年はいち早く魔物を捉えた。
>「つーか、でかくね!?」
「ただのゴブリンとかスライムじゃないの……?」
いわく、敵は見慣れたゴブリンではなく上位種のホブゴブリンらしい。
知能はゴブリンと同程度だが、人間ほどの体格を持ち、ゴブリンと同じく数で攻めてくる。
装備品の多くは略奪品であり、接近中のホブゴブリンは腰蓑に刀剣類や棍棒といった出で立ちだ。
風に混じって土を踏む音が聞こえてくる。50か?100か?相当な数がいると考えるべきだろう。
「まずいよ……ホブゴブリンの強さは武装した人間の成人男性くらいって話だよ。
そんな魔物に大挙して攻め込まれたら防衛ラインが崩壊しちゃう」
対してこちらは十数名程度しかいない。
しかも分散して町の周囲に配置しているから、防備はかなり手薄。
もし一点突破で攻め込まれてしまったら敗北は自明の理だ。
エールは焚き火の前でじっと思案していたが、やがて静かに口を開いた。
「敵の正確な数と位置って分かりませんか?後はなるべく足止めしてほしいかも……。
そうすれば、私の支援砲撃でなんとかできるよ。偵察とか斥候の得意な人がいればだけど……」
そう言って、地面に立てかけている魔導砲にぽん、と触れた。
エールは銃士として今まで強力な竜や魔物と戦ってきた経験がある。
剣や魔法は得意でないけれども、『火力』の一点においては見劣りしない自信がある。
ただ、全ては敵の状況次第だ。
魔物が纏まった集団で行動しているのか。軍隊のように部隊を組んでいるのか。
それとも散開してエヴァーグリーンを取り囲もうとでもしているのか。
いくら力を持とうとも、闇の中で敵を知る術がなければ役に立たない。
【わーい。参加してくれてありがとー】
【魔物は基本的にNPCってやつだから自由に描写して大丈夫だよ】 >「ただのゴブリンとかスライムじゃないの……?」
「あの大きさはホブゴブリン……ゴブリンの上位種だ!
群れの中に何匹かいることはあってもあの数で攻めてくるなんて!」
>「まずいよ……ホブゴブリンの強さは武装した人間の成人男性くらいって話だよ。
そんな魔物に大挙して攻め込まれたら防衛ラインが崩壊しちゃう」
“武装した人間の成人男性くらい”と言えば魔物としては大したことはないのではないかと一瞬思ってしまうが、それが数え切れないほどいる。
対するこちらはたったの十数名、しかも冒険者とは言っても普段ザコしか相手にしない低階層の冒険者、実態は街の警備集団のようなものだ。
>「敵の正確な数と位置って分かりませんか?後はなるべく足止めしてほしいかも……。
そうすれば、私の支援砲撃でなんとかできるよ。偵察とか斥候の得意な人がいればだけど……」
「斥候か……ダヤン、行ってくれるか?」
「任せろにゃ!」
冒険者、と呼ばれる者の中には文字通りに色んなエリアを渡り歩いて冒険している者もいるが、特定の街の冒険者ギルドに所属し依頼を受けて生活している者も多い。
よって同じ街の冒険者同士は依頼で一緒になる時も多く、必然的に顔見知りになるのだった。
ダヤンと呼ばれた少年は、冒険者パーティに例えるとスカウトに近い技能を持つ。
ダヤンは、足音を立てずに街の外に駆けて言った。
徒党を組んで攻めてきているゴブリンの群れから気付かれない程度の距離を保ちながら、敵の全貌を探るべく迂回する。
今までに遭遇したゴブリンの群れとは明らかに違うことがすぐに分かった。
各自好き勝手に突撃するのではなく、軍隊のように隊列を組んでいるのだ。
群れの最後部では、おそらく略奪品だろう他とは一閃を画す立派な戦槌と円盾を装備した貫禄あるゴブリンが、数体のホブゴブリンに守られるように囲まれている。
その時だった。
「……ネズミが紛れ込んでいるようだなゴブ。皆の衆、行けーっ!」
充分な距離を保ち一切足音を立てていないはずなのに、気付かれた。
『闇の欠片』の加護は戦闘能力以外の感知能力等にも及ぶのかもしれない。
取り巻きのホブゴブリンが2体ほど襲い掛かってきた。
寸前で頭上高くジャンプして避けたため、ホブゴブリン同士が頭をぶつける。 「いてえっ! やりやがったなゴブ……!」
「ネズミじゃなくて猫です!」
「なんだ猫か……って言うと思ったかゴブ! 『闇の欠片』の秘密を知られたからには生かしてはおけんゴブ!」
「闇の欠片ってにゃんだ?」
ホブゴブリンがキングのようなゴブリンの戦鎚の先を指さしながら熱弁をふるう。
「見よ、あのご威光! 聞いて驚け、魔王様が遺した秘宝で我らに力を「コラ! ペラペラ喋るんじゃないゴブ!」
闇の欠片の加護を受けても、知能にはゴブリンの面影が残っている模様。
「スモーク・ボム!!」
「わっ、なんだゴブ!」「ゲホゲホ! 待てーゴブ!」
ダヤンが目くらましの呪文を唱えると、辺りに煙幕が立ち込める。その隙に猫ダッシュで走り去った。
「あちゃー、急がなきゃ!」
街に戻ると、すでに交戦が始まっていた。
その中でも、大きな魔導砲を抱えたエールは割とすぐに見つかった。
「分かったことは……まともに相手して勝てる数じゃない。
部隊後方にキングっぽいのが控えてる。『闇の欠片』っていうのを持っててそれでみんなを強化してるんだってさ。さ、行くにゃ」
ダヤンはニヤリと笑った。
「どこへって? もちろんキングのところさ。道中の敵はオイラが適当にあしらうにゃ。
キング一匹倒せば勝ちなら……その魔導砲があればいけるんじゃニャい!?」
【よろしくにゃ】 敵の位置と数さえわかれば接敵前に魔導砲で一網打尽にできる――。
というのがエールの考えだったが、周囲は素直に受け入れてくれたようで、
獣人の少年、もといダヤンが斥候として様子を見にいってくれる運びとなった。
しかし、しょせんは付け焼刃的な対応策である。
そう上手くいくはずもなく、ダヤンが戻る前に敵が町に攻め込んでくる。
他の冒険者同様、エールもまた応戦することとなった。
(暗闇で遠くは見えないから……。
町に侵入しようとする奴を片端から撃ち抜く!)
柵の上に乗ると巨大な筒を構えてホブゴブリンの一匹に照準を合わせる。
魔力を充填してトリガーを引くと、青白い閃光が筒先から放たれた。
――プラズマ弾。高威力の雷系魔法を投射する、携行魔導砲の基本攻撃である。
閃光はホブゴブリンの身体を貫き、瞬く間に消し炭に変えてしまう。
「こうなったらグミ撃ちだよ!町には指一本触れさせないからね!」
意を決してそう叫ぶが、はっきりいって自棄の部類に入る。
敵の全容は分からないしどれだけ倒せばいいか分からない。
『何も分からない』という暗闇の荒野を突き進んでも待つのは敗北。
ダヤンが戻ってきたのはそんな時である。
「ダヤン!敵のことは分かったの……!?」
忍びの者の遅い到着に思わず声を張り上げた。
>「分かったことは……まともに相手して勝てる数じゃない。
>部隊後方にキングっぽいのが控えてる。『闇の欠片』っていうのを持っててそれでみんなを強化してるんだってさ。さ、行くにゃ」
「行くって……どこへ?」
疑問符を浮かべるエールとは対照的に、ダヤンは不敵に微笑んで答えた。
>「どこへって? もちろんキングのところさ。道中の敵はオイラが適当にあしらうにゃ。
>キング一匹倒せば勝ちなら……その魔導砲があればいけるんじゃニャい!?」 話を整理すると、こういうことらしい。敵を率いているのはゴブリンの上位種、ゴブリンキング。
ゴブリンキングは『闇の欠片』というアイテムでゴブリン達をホブゴブリンに変えてしまった。
ならば一か八か、群れを率いるキングを倒して強化を解こうという考えなのだろう。
ゴブリンキングの強さは成人男性数人分程度と聞いたことがある。
魔導砲を携えたエールであれば、なるほど確かに倒せないことはないだろう。
だが、倒したとて強化が解ける保証はなし、分の悪い賭けには違いない。
「……分かった。この状況を打開するにはそうするしかないね。
ダヤン、案内して!ゴブリンキングは私が倒すよ!」
魔導砲を担いで柵から飛び降りると、獣人の少年と共に暗い草原へ駆け出した。
――ホブゴブリンの一団まで近づくと、確かに戦槌を持ったゴブリンキングが確認できる。
「……さっきの猫かゴブ。味方を連れてきたのか?
ゴーブゴブゴブ、面白いことになってきたなぁ……!」
目を瞑ったままゴブリンキングが呟く。
静かに瞼を開くと、護衛のホブゴブリンを退けて跳躍した。
ざざぁ!と草原を踏みしめて着地すると、エールを指差す。
「その武器、貴様銃士だろう。銃士とは因縁があってな……。
かつてカノンとかいう女に同胞を殲滅されかけた恨みがあるんだゴブ。
ホブゴブリン程度では相手になるまい。この俺自らが片付けてやろう……!」
戦槌を教鞭のようにパシパシと片手に打ち付ける。
エールはその名に目を見開く。間違いなく姉の名だった。
「貴方は姉さんのことを知ってるの……!?教えて!姉さんはどこにいるの!?
私はここで行方不明になった姉さんを探してやって来たの!」
「そうか……通りで面影があるゴブ。ククク……奴の居場所など知らんが……。
このゴブリンキング様が貴様を地獄へ送ってやるゴブ!!!!」 ゴブリンキングが戦槌をエール目掛けて勢いよく振り下ろす。
大振りだが威力のある一撃!それを咄嗟にスウェーで躱してバックステップ。
視認できるギリギリまで距離を取ると、魔導砲を構えて照準をゴブリンキングへと合わせる。
「これでも食らえっ!」
青白い閃光が尾を引いて敵へ迫る。
必殺の弾丸は過たずキングを消し炭に変えんとして――。
――なんとキングは円盾を軽く振って、プラズマを弾き飛ばした!
「ククク……今何かしたか?」
戦槌に宿した『闇の欠片』は、ゴブリンキングの力を何倍にも高めていた。
知覚もさることながら、身体能力も通常の種を遥かに超えている。
今やトロールやオーガにも匹敵する能力を有していると考えていいだろう。
「っ……プラズマ弾が効かないなら――……」
「フン、銃士の手の内などお見通しゴブ……!」
キングが大きく後退すると闇に溶けるように姿をくらましてしまう。
思わず目を細めて照準器から目を離す。どこからともなくキングの声が響いた。
「あーあぁ。残念ゴブなぁ。その型の魔導砲に暗視スコープなんてないもんなぁ。
さぁどうする。どう出る。どう対処する。何もなければ楽に殺してやるぞ……?」
「……位置さえ分かれば『あれ』で仕留められるのに……!」
月明かりが微かに照らすだけの暗い夜。
周囲は何も見えず、エールは夜目が効かない。
キングは背後から笑みを浮かべて戦槌を勢いよく振り下ろす。
――地面へ。そのインパクトは衝撃波となってエールとダヤンに迫る。
「『あれ』を使わせる暇なんてくれてやる訳ねぇだろッ!
砕けろ、粉微塵に!微粒子ほどに細かくしてやるゴブッ!!」
攻撃の方向が分からないエールには回避の術もない。
ただ闇の中で動揺することしかできなかった。
【ゴブリンキング:闇に紛れて衝撃波を不意打ち】
【エール:敵の居場所が分からずおろおろしています】 >「……分かった。この状況を打開するにはそうするしかないね。
ダヤン、案内して!ゴブリンキングは私が倒すよ!」
ダヤンの分の悪い賭けに対して、エールは頼もしい答えを返した。
ダヤンは足場の悪いフィールドを踏破したり襲い掛かってくる雑魚をあしらったりは得意だが、強敵を倒すだけの火力はない。
反面、大型の魔導砲を扱う銃士のエールは、強力な火力を持つと思われる。
「こっちにゃ!」
二人は夜の草原を駆ける。
幸い道中でホブゴブリンに気付かれることもなく、ゴブリンキングのところまでたどり着いた。
>「……さっきの猫かゴブ。味方を連れてきたのか?
ゴーブゴブゴブ、面白いことになってきたなぁ……!」
「流石、気付くのが早いにゃ……ライト!」
道中でホブゴブリンに気付かれては面倒ということで使わずにいた明かりの呪文を唱える。
ダヤンを中心に半径2〜3メートルほどが魔法の明かりで照らされた。
「今すぐみんなの強化を解いて進軍をやめにゃ! そうすれば命だけは助けてやらないこともにゃい!」
>「その武器、貴様銃士だろう。銃士とは因縁があってな……。
かつてカノンとかいう女に同胞を殲滅されかけた恨みがあるんだゴブ。
ホブゴブリン程度では相手になるまい。この俺自らが片付けてやろう……!」
>「貴方は姉さんのことを知ってるの……!?教えて!姉さんはどこにいるの!?
私はここで行方不明になった姉さんを探してやって来たの!」
思わぬところで姉の名が出たことで、エールは思わずゴブリンキングに歩み寄る。
銃使いということで接近戦は得意ではないと思っているダヤンは、注意を促す。
「エール、近付きすぎだにゃ……! 下がって!」
>「そうか……通りで面影があるゴブ。ククク……奴の居場所など知らんが……。
このゴブリンキング様が貴様を地獄へ送ってやるゴブ!!!!」
戦槌が近くに来ていたエールに向かって振り下ろされるが、エールはそれを難なく避けた。
どうやら銃の扱いだけではなくかなりの戦闘訓練を積んでいるようだ。
更にプラズマ弾の一撃を放った。
>「これでも食らえっ!」
が、ゴブリンキングは盾を軽く振るだけでそれを弾き飛ばした。
>「ククク……今何かしたか?」
>「っ……プラズマ弾が効かないなら――……」
>「フン、銃士の手の内などお見通しゴブ……!」 このゴブリンキングは以前銃士のカノンに群れを殲滅させられかけた経験がある。
銃士の戦闘スタイルは知っているということだろう。
キングは大きく後退し、ライトの効果範囲から出てしまった。これではエールから見れば、全く視認できない。
>「あーあぁ。残念ゴブなぁ。その型の魔導砲に暗視スコープなんてないもんなぁ。
さぁどうする。どう出る。どう対処する。何もなければ楽に殺してやるぞ……?」
>「……位置さえ分かれば『あれ』で仕留められるのに……!」
『あれ』が何なのかはダヤンには分からないが、エールはプラズマ弾以上に強力な技を持っているようだ。
>「『あれ』を使わせる暇なんてくれてやる訳ねぇだろッ!
砕けろ、粉微塵に!微粒子ほどに細かくしてやるゴブッ!!」
キングが戦槌を地面に叩きつけると、衝撃派が地面を走る。
「あぶにゃい!!」
ダヤンはエールに体当たりして一緒に地面に転がった。
「無事かにゃ!? アイツ、遠距離攻撃も出来るのか……!
見えさえすれば仕留められるんだにゃ!? なら任せにゃ!」
ダヤンはキングのところまで駆け寄ると、2本のダガーを抜き放ち果敢に切りかかる。
が、闇の欠片によって強化されたゴブリンキングの皮膚は固く、ほぼ攻撃は通らない。
キングは余裕をぶっこいて避ける素振りすら見せない。
「どうしたどうしたぁ、蚊でも止まったかぁゴブ!」
容赦なく振り下ろされる戦槌。
ダヤンはゴブリンキングの足元を駆けずり回り、連撃で振り下ろされる槌を何とか避ける。
「にぎゃっ!」
途中でバランスを崩して転び、それでも転がって避ける。 「なかなかしぶといなゴブ……だがそろそろ終わりだゴブ!」
「スモーク・ボム!」
ひときわ大きく戦槌を振り上げた瞬間、ダヤンは煙幕の呪文を唱えた。
キングはそのままお構い無しに戦槌を振り下ろすが、獲物を仕留めた感触はない。
「む、外したか……だが無駄無駄ァ! その辺にいるのは分かっているゴブ!」
戦槌をそこら中に振り下ろしまくる。
小さい者が体格差のある相手と戦う時は、足元を駆けずり回るのがセオリーらしい。
丁度先ほど、この猫がやっていたように。
と、不意に、頭の上に何かが乗った感触がした。
「どこにいるって?」
ダヤンがキングの頭の上に両足キックしつつ着地。
煙幕に紛れて、まず攻撃を転がって避け、猫ジャンプして頭の上に乗ったという単純明快な経緯だ。
「なぬぅ!? どこに乗ってるゴブ! 降りろゴブ!」
頭上というのは意外と死角である。
焦ったキングはなんとか振り払おうと戦槌を普段とは逆方向に下から上方向に振るおうとしてバランスを崩し……
「あばばばばばばゴブ!」
そんな中で、煙幕の効果が切れた。ライトの効果は継続しているので、この光景はエールから丸見えだ。
腕をぐるぐる回して転倒するかしないか瀬戸際のキング。ダヤンはその頭上からひらりと飛び降りながら叫んだ。
「今だにゃ!」 闇の中から放たれた衝撃波が駆け抜けていく――!
草原を掻き分け、地を走ってエールとダヤン目掛けて襲い掛かる。
>「あぶにゃい!!」
間一髪、ダヤンがエールに体当たり。
二人は一緒にゴロゴロと草原を転がり難を逃れる。
>「無事かにゃ!? アイツ、遠距離攻撃も出来るのか……!
>見えさえすれば仕留められるんだにゃ!? なら任せにゃ!」
「な、なんとか……でもどうする気なの……!?」
ダヤンはキングがいると思しき暗闇へ疾走して、二本のダガーを抜き放つ。
現在、彼を中心として半径二、三メートル程は魔法の光で照らされている。
よって二人の攻防は夜目の効かないエールにも容易に視認できた。
『闇の欠片』の力で防御力も強化されているのか、キングはダガーを躱しもしない。
対してダヤンは小柄を活かして足下を俊敏に駆け回り、なんとか戦槌を回避し続けている。
あの体格差だ。一発でも当たれば致命傷だろう。エールは気が気でない。
(……けど今は、ダヤンの力を信じるしかない!)
そして魔導砲を構え直したエールは、魔力の充填を開始する。
エールの『あれ』、銃士共通の必殺技は、溜めに時間がかかるのだ。
>「なかなかしぶといなゴブ……だがそろそろ終わりだゴブ!」
一方、ダヤンとゴブリンキングの攻防も佳境を迎えていた。
とどめとばかりに戦槌を振りかぶった瞬間、魔法で煙幕が焚かれる。
出鱈目に戦槌を振り下ろしまくるが、ダヤンはそこにおらず――。 >「なぬぅ!? どこに乗ってるゴブ! 降りろゴブ!」
そう、ダヤンはキングの頭上にいた。
慌てて戦槌を振り上げ、攻撃を仕掛けるも重心が崩れてキングはバランスを崩す。
ちょうど良いタイミングで煙幕の効果が終了すると、エールの目には見えた。
ダヤンが頭からひらりと飛び降りる瞬間を。
>「今だにゃ!」
猫の俊敏性を活かして上手く翻弄することに成功。
ライトの効果のおかげで位置も丸わかりだ。
「ありがとうダヤン!ここからでもよーく見えるよ!」
魔力の充填は完了している。後は魔導砲の筒先をキングへと向けて照準を合わせるだけだ。
ようやくバランスを持ち直したのか、こちらの発射準備に気づいたキングが驚く。
「なぬっ、あああああぁぁぁぁぁ!?しまったああぁぁぁぁ!!」
「行っけぇぇぇぇっ!ハイペリオンバスターーーーッ!!!!」
叫んだ名は、銃士の必殺の一撃。竜鱗さえ破壊する特大の荷電粒子砲だ。
どおっ!と膨大な奔流が放たれると、狙い過たずキングへと迫る。
やけくそで戦槌を地面に振り下ろして衝撃波を放つも、ビームは易々とそれを飲み込んだ。
「これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が……!
たかが猫と子供風情に……!こんなはずでは、こんなはずでは〜〜〜〜っ!!」
キングもまたビームに飲み込まれると、肉体が微粒子レベルで消し飛んでいく。
光の奔流は煌々と周囲を照らしてホブゴブリン達に本能的に敗北を報せた。
「ゴ、ゴブ……今から敵討ちに切り替えるゴブ……?」
「い、いや……あんなビーム出す奴と戦うのは嫌ゴブ……」 ……――草原の外れ。
光の奔流に吹き飛ばされ、肉体の大部分が消滅したゴブリンキング。
すでに意識はなく、その傍らには武器であった戦槌が横たわるのみ。
ふわりと草原に降り立ったのは一人の若い男性。
顔の半分を仮面で覆い、真っ白なローブを纏っている。
「何をするかと思えば拠点の襲撃とは……懲りない奴だ。
君も魔王に憑りつかれた一人だったのかもしれないな……」
男は最後に「回収」と呟いて手を翳す。
戦槌に埋め込まれた欠片が宙に浮き、男の手に吸い込まれる。
欠片が手品のように消え去ると、『白衣の男』はローブを翻して去っていく。
まるで誰かに見られるのを好まぬかのように。
「……もう夜明けか。一刻も早く彼女を見つけなければ」
見上げた空は段々と白んでいき、地平線の彼方から太陽が顔を覗かせていた。
他の階層を照らし終えた偽の太陽は、再びこの階層を照らしはじめるのだ――。
それは依頼の終了をも告げていた。
「見てダヤン、太陽だよ。終わったんだね……」
地平線を指差すとその場にへたりこむ。
『ハイペリオンバスター』は全魔力を要する一度きりの技。エールは疲労していた。
日の出と一緒にホブゴブリンが姿を元に戻していくのを見て安心したのもあるのだろう。
ゴブリンへと退化した魔物達は敵わないと判断して三々五々に逃げていく。
「おーい!お前さん達、大変だったみたいだな。
依頼完了だ、今日も町を守ってくれてありがとよ!」
町の方角から小走りでやって来たのは情報屋のレオンだ。
感謝を手短に述べると、情報代を差っ引いた1500メロを手渡してくれた。 再び立ち上がって魔導砲を担ぎ、レオンに詰め寄る。
姉に関することも知りたいが『闇の欠片』というアイテムのことも引っ掛かった。
レオンなら何か分かるかもしれない、とエールは問い詰める。
「キングは『闇の欠片』というアイテムを持っていたそうです。
情報屋さん、何か知りませんか?なんだか気になって」
「うん?……うーむ。この迷宮で時折見つかるアイテムって聞いたことがあるな。
なんでもそいつは魔王の力の残滓で、持つ者にとんでもねぇ力を与えるとか……」
だが、とレオンは言葉を付け足す。
欠片は所持者に力を与えるが精神を汚染する。
最後に待っているのは破滅だけだと聞いた記憶があるという。
「危ない代物に関わるのはやめとこーぜ。
欠片を集めてる集団もいるらしいが、胡散臭いだけだしな。
特に君の場合、必要な情報は姉さんの居場所だろう?」
「ま、まぁ……確かにそうですけど」
「それで本題だが。君の姉さんは冒険者の中でも腕利きでな。
知ってる奴はちゃんと知ってるのさ。俺は前に9Fの城下町エリアで彼女と話した。
それが俺の持ってる情報だよ……他の階層に行ってなきゃ、すぐ会えるかもしれないな」
「城下町エリアですね……!わかりました」
姉の生存が確定したことをエールは喜んだ。
レオンとの話を終えると、ダヤンの方へ振り向く。
「一緒に戦ってくれてありがとう。でも私……もう行かないと。
お姉ちゃんを見つけて元の世界に帰らないといけないんだ」
自由を好む姉は嫌がるかもしれないが。
この迷宮で彷徨い続けるくらいなら、故郷で姉と暮らしたい。
雪が降り積もる、あの何もない村へと帰るべきなのだ。
「……それじゃあ、ね」
二人に手を振ると、崖上のポータルへ歩き出した。
【1F攻略完了!物語の舞台は次の階層に移ります】 >「行っけぇぇぇぇっ!ハイペリオンバスターーーーッ!!!!」
エールの必殺の一撃が放たれ、膨大な光の奔流にキングは跡形もなく飲み込まれた。
「すっげぇえええ! かっけぇえええええ!」
>「これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が……!
たかが猫と子供風情に……!こんなはずでは、こんなはずでは〜〜〜〜っ!!」
キングは意味深な言葉を残して息絶えた。
「さてと、闇の欠片とやらを……」
あとは闇の欠片に働きかけるなり破壊するなりして、ゴブリン達の強化の解除をしなければ。
と思ったが、見る限りキングのいた場所には何も残ってはいない。
「……全部消し飛んだか」
実際には少し離れた場所に吹き飛ばされていたのだが、ダヤンもエールも気が付かなかった。
>「見てダヤン、太陽だよ。終わったんだね……」
朝日に照らされた草原に、散り散りに逃げていくゴブリン達の姿が見える。
「ホブゴブリンもゴブリンに戻ってるみたい、もう安心にゃ……!」
>「おーい!お前さん達、大変だったみたいだな。
依頼完了だ、今日も町を守ってくれてありがとよ!」
情報屋のレオンがやってくる。
>「キングは『闇の欠片』というアイテムを持っていたそうです。
情報屋さん、何か知りませんか?なんだか気になって」
>「うん?……うーむ。この迷宮で時折見つかるアイテムって聞いたことがあるな。
なんでもそいつは魔王の力の残滓で、持つ者にとんでもねぇ力を与えるとか……」
「アイツ、死に際に七賢者がどうとかって言ってた……! バックでヤバい奴らが動いてるんじゃニャい!?」
>「危ない代物に関わるのはやめとこーぜ。
欠片を集めてる集団もいるらしいが、胡散臭いだけだしな。
特に君の場合、必要な情報は姉さんの居場所だろう?」
>「ま、まぁ……確かにそうですけど」
>「それで本題だが。君の姉さんは冒険者の中でも腕利きでな。
知ってる奴はちゃんと知ってるのさ。俺は前に9Fの城下町エリアで彼女と話した。
それが俺の持ってる情報だよ……他の階層に行ってなきゃ、すぐ会えるかもしれないな」
>「城下町エリアですね……!わかりました」
>「一緒に戦ってくれてありがとう。でも私……もう行かないと。
お姉ちゃんを見つけて元の世界に帰らないといけないんだ」
>「……それじゃあ、ね」 エールはそのまま次の階層へ行こうとする。必殺技を撃ってフラフラだったはずだ。
ダヤンは両手を広げて通せんぼした。
「ちょーっと待ったー! そのままじゃ野垂れ死ぬのがオチだにゃ。
町に戻って今貰ったお金で準備を整えてから行くにゃ」
エヴァ―グリーンは最低階層の町ということで、迷宮新参者が最初に立ち寄って準備を整える拠点にもなっているのだ。
最初の町だけあって大した物は売ってないのだが、緑の町、の名に違わず薬草は各種揃っている。
「ただいまにゃー」
酒場兼冒険者の店に帰ると、マスターが出迎えた。
「おお、無事だったか。聞いたぞ、今回大変だったようだな……。はいよ、今回の報酬だ」
ダヤンはマスターから報酬を受けとり、宿屋になっている2階の一室に入っていく。
「オイラと同室で良ければ今夜はここで休むといいにゃ。お代はタダにゃ」
ダヤンは物心ついた時にはマスターに拾われていたため、必然的に冒険者となった。
宿屋の一室を自室としてあてがわれており、常に依頼を受けては家賃を差っ引いた報酬を受け取っているというわけだ。
最初から迷宮で生まれたのか、物心付く前に迷宮に連れて来られたのかは分からない。
「……エールはお姉ちゃんを探してるんだね。お姉ちゃんってどんな感じかにゃあ」
ダヤンには兄弟はいない。正確には存在はする可能性はあるが、少なくとも面識はない。
それどころか、両親も記憶にない。
「それでお姉ちゃんを見つけたら元の世界……地上に帰るんだにゃ……。
本物の太陽、どんなのかにゃあ……」
次の日、出発するエールを見送りにダヤンは付いてきていた。
町の入口まで来たところで見送るかと思いきや……たたっと先に走り出てエールを振り返る。
「さ、行くにゃ!」
エールが戸惑う暇もなく、どこからともなく酒場のマスターが登場して言う。
「どうか連れて行ってやってくれ。そいつは昔から地上に憧れていてな……。
ここでお前さんが現れたのも何かの縁だろう」
「にゃにゃ!? バレてた!?」
「そりゃお前、その大荷物を見たら丸わかりだ。……ついにこの時が来たんだな」
「マスター……、元気でにゃ!」
ちなみにダヤンが背負っている袋には、エヴァ―グリーン名物の薬草とかがたくさん詰まっている。
こうして頼もしい(?)仲間が加わったのであった。 >「ちょーっと待ったー! そのままじゃ野垂れ死ぬのがオチだにゃ。
>町に戻って今貰ったお金で準備を整えてから行くにゃ」
たしかに、今は魔力もゼロだし所持品もお金と魔導砲しかない。
これから先、待ち受ける罠や魔物のことを考えれば準備は不十分といえる。
年若いが冒険者として無限迷宮を生き抜いてきた者の言葉だ。
耳を傾ける価値はあるだろう。
「う、うん……そうするよ」
そうしてとぼとぼとダヤンの後ろをついていく。
到着したのは酒場を兼ねた冒険者の店だ。
マスターが気前よく出迎えてくれる。
>「オイラと同室で良ければ今夜はここで休むといいにゃ。お代はタダにゃ」
「ありがとう。ダヤンは優しいんだね」
椅子に座り込むと、エールとダヤンはお互いの身の上話を交わした。
ダヤンは物心ついた頃から迷宮にいるらしく、兄弟はおろか両親の顔も知らないらしい。
マスターが後見人のようなものなのだろう、と納得して、エールは自分のことを話す。
>「……エールはお姉ちゃんを探してるんだね。お姉ちゃんってどんな感じかにゃあ」
「お姉ちゃんは優しくて繊細で……自由を愛する人だった。
何を考えているか分からない時もあるけれど、私のために色々なことをしてくれるんだ」
家は貧乏で共働きだったから姉が親代わりだった。
そういえば、姉はエールの我儘をよく聞いてくれたものだ。
海に行きたいといえば一緒に行き、星が見たいといえば一緒に天体観測へ出掛けた。
二人はいつも一緒で、エールのやりたいことは何でもしてくれた。
「だから今度は私がお姉ちゃんを助ける番!
お姉ちゃんはきっと迷宮を抜け出せなくて困ってるはずだもの」
>「それでお姉ちゃんを見つけたら元の世界……地上に帰るんだにゃ……。
>本物の太陽、どんなのかにゃあ……」
呟いた憧憬は間違いなくダヤンにとって大切なものだった。 次の日――有り金はたいて整えた装備を身につけ、酒場を出る。
見送りにダヤンもついてきてくれたが、なんだか大荷物だ。
町の入り口まで来ると足取り軽やかにエールを追い抜いて振り返る。
>「さ、行くにゃ!」
あえて言及は避けていたが、ダヤンもまた自分の目的のため進むことを選んだのだ。
どこからともなく酒場のマスターが登場して、エールにこう言った。
>「どうか連れて行ってやってくれ。そいつは昔から地上に憧れていてな……。
>ここでお前さんが現れたのも何かの縁だろう」
「分かったよ、ダヤン。お姉ちゃんを見つけて一緒に地上へ行こう!」
こうして猫の獣人ダヤンが仲間に加わり、二人は崖上にあるポータルまで歩きはじめた。
そこはエールが迷宮へ来るときに使ったものだが、ポータルの転移先は不定期で変わるものだ。
ここへ来てもう数日経つため、さすがに地上へは繋がっていないだろう。
「ポータルの転移先はランダムだから……。
もしかしたらこの転移で9Fまで行けちゃうかもしれないんだね」
裏を返せばいつまでたっても9Fに着かない、という可能性もある。
全ては運命の女神の悪戯次第。エールは意を決してポータルへ飛び込んだ。
――――――…………。
身体がふわっと軽くなったかと思うと、身体が浮き、目の前の景色が一瞬にして変わる。
緩やかに着地してポータルから出ると、そこには見渡す限りの森が広がっている。
「……ここは何階なんだろう……?城下町って雰囲気じゃないけど……」
生い茂る樹々を掻き分けて辺りを軽く確かめる。
何も分からないので諦めて迷宮の地図を取り出す。
エヴァーグリーンで売っていたもので、踏破済みエリアの詳細が記載されている。 地図を読むかぎり2Fの森林エリア……だと思われる。
草原エリアと同じで強い魔物はおらず、踏破は容易とのこと。
「ここのポータルはしばらく1Fに繋がったままだろうし……。
他のポータルがないか探してみようかな……?」
ダヤンの方を向くと同時。どこからともなく悲鳴が聴こえてくる。
女性の声だ。「助けて」としきりに叫んでいる。
「あっちから声がするよ。見過ごすわけにはいかない、行ってみよう!」
声のする方へ走り出すと、樹々の景色がどんどんと変わっていく。
瑞々しく生気を保っていた木はだんだんと薄暗く、枯れ木が混じり出す。
すると視界に白っぽい糸が見えて、エールは慌てて立ち止まる。
糸がバリケードのように張り巡らされていた。
不用意に触ろうとした時、また女性の声がして頭上を向く。
「た、助けてください!お願いです!」
見れば、僧侶服を着た金髪の女性が樹上の蜘蛛の巣に吊るされている。
その光景を目の当たりにしてエールはようやく合点がいった。
「もしかして影蜘蛛の巣……!?」
影蜘蛛。枯れ果てた森や洞窟に巣食う巨大な蜘蛛の魔物だ。
顎に毒をもっており、熟練の冒険者でも足元を掬われることがあるという。
また粘性のある糸は捕獲、逃走、罠など多様な用途をもっている。
やがて侵入者に気づいた影蜘蛛たちが木々の隙間から姿を現し始めた。
一、二、たくさん。しかもめちゃくちゃでかい。3メートル以上は余裕である。
「うわ……ど、どうしよう?すごい数だよ……!」
などと呑気なことを言っていると、
大量の影蜘蛛が木々から急降下し強襲してきた――!
【2Fの森林エリアに到着】
【蜘蛛魔物に囚われた僧侶を救出せよ】 道中で薬草の解説等をしながらポータルに向かう。
「これ? エヴァーグリーン名物の薬草だにゃ。
傷を治すキュアハーブ、毒消しのデトックスハーブ、魔力回復のマジカルハーブ、
それから…… 一時的に能力値を上昇させるブーストハーブなんてのもあるよ」
最後のは安全性は大丈夫なのだろうか。……地上だったら規制されそうな気がしなくもない。
何はともあれ、崖上にあるポータルには、何事もなく辿り着いた。
>「ポータルの転移先はランダムだから……。
もしかしたらこの転移で9Fまで行けちゃうかもしれないんだね」
「にゃはは、そうなったらラッキーだにゃあ」
今までの冒険者達の経験から、ランダムとはいってもその確率には偏りがあると考えられている。
近い階層ほど繋がりやすく、離れた階層ほど繋がりにくいらしい。
しかし出口だけはこの法則にあてはまらず、エヴァーグリーンのある1Fはしばしば地上から人が来るが、別に脱出しやすいわけではない。
かつて多くの冒険者が地上から人が来た直後を狙ってポータルに入ってみたが、地上にはつながっていなかったらしい。
この迷宮が脱出は大変難しいと言われる所以だ。
尚、階層には1F、2Fのように便宜上数字が振られているが、実際には物理的に上に積み重なったり
あるいは下に潜ったりしているわけではなく、イメージ的に浅い順に数字が振られているようだ。
ポータルに入ると、着いた先は、見渡す限りの森だった。
>「……ここは何階なんだろう……?城下町って雰囲気じゃないけど……」
「……多分2Fかあ。まあ現実はそんにゃもんか。9Fに一歩近づいただけでもよしとするにゃ」
>「ここのポータルはしばらく1Fに繋がったままだろうし……。
他のポータルがないか探してみようかな……?」
「それがいい……にゃにゃ!?」
>「あっちから声がするよ。見過ごすわけにはいかない、行ってみよう!」
駆けつけてみると、糸がバリケードのように張り巡らされており、僧侶と思しき女性が蜘蛛の糸に吊るされていた。 >「た、助けてください!お願いです!」
「今助けるにゃ!」
目の前の糸をダガーで切断しながら女性の方に近づいていく。
>「もしかして影蜘蛛の巣……!?」
「どこから出てくるか分からにゃい。噛まれないように気を付けるにゃ……!」
と言った矢先、木々の隙間から影蜘蛛が姿を現し始めた。
>「うわ……ど、どうしよう?すごい数だよ……!」
「これは……まずいにゃあ」
更に、大量の影蜘蛛が上から急降下してくる。
「エール、砲撃で糸を片っ端から焼き切るにゃ!」
影蜘蛛が生息する森や洞窟、これらの場所の共通点は、樹や天井、壁面に糸が張れるということだ。
影蜘蛛の機動力の要は糸を駆使したワイヤーアクションにあり、
足で地面を這う速度自体はあまり早くはない、というより普段糸に頼っているので遅い。
糸を全て焼き切ってしまえば人間の足でも逃げ切ることは可能だろう。
ダヤンは糸を切断されて機動力を失った蜘蛛を踏み台にし、僧侶が吊るされている場所の近くの木に飛び乗る。
そして枝を伝って僧侶の元へ行き、ダガーで彼女を吊るしている蜘蛛の糸を切断しようとして……はたと気付く。
糸を切ったら落下するという当然の事実に!
「えーと、着地できるにゃ……?」
幸い簀巻きになっていたり意識不明というわけではなく、何か所かを吊るされているだけなので、着地の動作自体は可能だろう。
それに、多少体術の心得がある者なら無事に着地できそうな高さではある。
あとは本人にその心得があるかどうかだが……。
大丈夫そうならこのまま糸を切断。無理と言われたらその時考えよう。 脚がうじゃうじゃしたでかい怪物が大量に落下してくるという恐怖!
魔物退治に慣れた冒険者でも思考停止しかねないシチュエーション。
>「エール、砲撃で糸を片っ端から焼き切るにゃ!」
「りょ、りょーかい!」
ダヤンのアドバイスにはっと我を取り戻す。
背負っていた魔導砲を構えてプラズマ弾を発射する。
青白い光が尾を引いて次々と蜘蛛の糸を焼き切っていく。
ぼとん、と次々に地面に落下する影蜘蛛。
ひとたび糸から離れてしまえばあの巨体だ。
森の中で俊敏に動くのは難しいだろう。
>「えーと、着地できるにゃ……?」
「だだだ、大丈夫です……お願いしますっ」
僧侶の女性は十字を切ってそう答えた。
神に祈りを捧げているあたり大丈夫ではなさそうだが……。
四の五の言っている暇はない。足が遅いとはいえ地面は影蜘蛛だらけだ。
ダガーで太い蜘蛛の糸が切断されると、僧侶の女性が落下していく。
着地の拍子にしりもちをついたみたいだが大事には至っていない。
「よーし。今の内に逃げるよ!」
「……そ、その……無闇に逃げてはだめです。
この枯れた森の木々はみんな意地悪なんです……!」 僧侶の女性はおどおどした様子で立ち上がると、話を続ける。
「この森は侵入者を迷わせようとするんです。
さらに魔物をけしかけて、じわじわと弱らせていく」
背後の空を指差すと、その先には天を衝く巨大な樹があった。
この森の枯れた木々とは違い、遠目でも分かるほど瑞々しく生気に満ち溢れている。
「あれを目指してください。そうすれば麓の拠点……。
世界樹の町ウッドベリーに辿り着けるはずです」
「あの樹を目指せばいいんですね!?」
この階層は道なき道も多い。
森で迷う冒険者は後を絶たず、そんな時目印になるのが世界樹だ。
空を見上げればどこを目指すと拠点に帰れるのか一目瞭然だからである。
一同はひたすら逃げる。鈍くも追跡してくる蜘蛛達は、
景色が生気ある木々に変わるとともに追いかけてこなくなった。
町に到着して一息ついたところで、僧侶の女性は深々と頭を下げて感謝を述べる。
「……申し遅れました。私、ドルイド僧のアイリスと申します。
お二人は冒険者の方ですか?助けて頂いてありがとうございます」
「いえいえ。私は銃士のエールです。困った時は助け合いですよっ!」
アイリスはこの町の住民らしく、お礼に家に泊めてくれると言った。
ちょうど今は所持金がない。宿代がかからなくて助かった。
ウッドベリーの一角にある僧侶アイリスの家にて。
夕食をとりながら、彼女は色々なことを語ってくれた。 ウッドベリーの住民の多くはドルイドであり、自然を崇拝している。
ドルイドとは自然との交感能力をもつ特殊な僧侶のことである。
元々は地上に住んでいたのだが、環境破壊が進み、故郷を追われてしまった。
そして各地を転々とした結果この無限迷宮に流れ着いたらしい。
「ここは我々にとって最後の安息の地なのです。
ですが、今は2階の森すらも急速に朽ちつつあります……。
お二人も見たでしょう。影蜘蛛の住処となった『枯れた森』を」
原因を調査していた友人も行方不明になってしまったという。
アイリスは友人を探して枯れた森に入ったところを影蜘蛛に襲われたのだ。
「あの……お二人は腕が立つと見えます。
よろしければ友人の捜索を手伝ってくれないでしょうか?
報酬は出します。その……2000メロくらいなら用意できるかと」
思いがけない頼みにエールはどうしようか思案する。
姉探しには関係ないがどうにも見過ごしておけない。
大切な人を心配する気持ちはエールにも分かる。
「……分かりました。一緒にご友人を探しましょう!」
こうして『枯れた森』の調査をする運びとなったのである。
次の日、早速件の森へ向かうと、薄暗い朽ちた木々の中へ分け入っていく。
「奥を目指して進みましょう。何かあるかもしれません。
私が言うのもなんですが、影蜘蛛の巣には注意してください」 枯れた森の奥を目指して進むと、がさがさと大きな音が響く。
樹木だ。森の樹木が一様に動きだしている。
エールは反射的に魔導砲を構えて周囲を警戒する。
「これは……木の魔物(トレント)の群れです!」
アイリスが叫ぶ。そう、周囲の木々はすべて魔物だったのだ。
幹が目を見開き、太い枝は手に、根は足となる。
ざわめきのような音は魔物の呻き声だ。
「……また森に侵入してきたのね。
一度は上手く逃げたようだけど、もう逃がさない」
不意に女性の声がした。
見ればトレントの太い木の枝に、僧侶風の出で立ちの女性が座っている。
顔はどこか青白く生気を感じさせない。服装から察するにドルイドだ。
アイリスは顔を綻ばせて、女性の下へと駆け寄る。
「アネモネ、無事だったのね!あれは私の友人です。
お二人とも……少しだけ待ってください!」
「……寄るなっ!私はもう今までの弱い私じゃない。
そう、私は『枯れた森』の支配者。気安く話しかけないでっ」
「な……何を言ってるの……?」
アネモネと呼ばれた女性が森の奥へ消えていくと、トレント達が立ち塞がる。
そして巨大な枝の腕を振りかぶってダヤン目掛けて振り下ろす!
「……世界樹も、森も、全て腐蝕して滅ぼす。
アイリス……せめて貴女だけは優しく殺してあげる」
枯れた森に響く声は、どこまでも冷徹で残忍だった。
【僧侶アイリスと共に友人を捜索する】
【友人を発見するも木の魔物トレントに襲われる】 >「だだだ、大丈夫です……お願いしますっ」
あまり大丈夫ではなさそうだが、ダヤンに人一人引っ張り上げて担いで降りられるほどの膂力はないので、他に手段もない。
まあ、下は石畳等の固い地面ではなく土なので、なんとかなるだろう。
「じゃあいくにゃ!」
ダガーで一気に糸を切断する。幸い女性は大きな怪我もなく着地することができた。
ダヤンも続いて飛び降りる。こんな物騒な場所からは早いところおさらばだ。
>「よーし。今の内に逃げるよ!」
>「……そ、その……無闇に逃げてはだめです。
この枯れた森の木々はみんな意地悪なんです……!」
>「この森は侵入者を迷わせようとするんです。
さらに魔物をけしかけて、じわじわと弱らせていく」
「にゃんと……! ただの森じゃないんだな……」
>「あれを目指してください。そうすれば麓の拠点……。
世界樹の町ウッドベリーに辿り着けるはずです」
>「あの樹を目指せばいいんですね!?」
「にゃるほど! 確かにそれなら迷わない!」
それからひたすら巨大な樹を目指して逃げ、気が付けば蜘蛛たちは追いかけてこなくなっていた。
もしも女性の助言がなくやみくもに逃げていたら危なかったかもしれない。
「ここまで来ればもう大丈夫かにゃ……?」
>「……申し遅れました。私、ドルイド僧のアイリスと申します。
お二人は冒険者の方ですか?助けて頂いてありがとうございます」
>「いえいえ。私は銃士のエールです。困った時は助け合いですよっ!」
「ダヤンにゃ。冒険者の分類でいうとスカウトってやつに近いらしいにゃ。
こっちこそ森の危険性を教えてくれて助かったよ!」
アイリスが泊めてくれるということで、家に案内される。
泊めてくれるのみならず、夕食もご馳走になった。
「うわぁ、美味しそうにゃ! いただきまーす!」
夕食をとりながら、アイリスは色々なことを語ってくれた。
「地上も色々大変なんだにゃあ……」
アイリスが迷宮に来た経緯を聞き、地上に憧れるダヤンは複雑な気持ちになった。
人々が迷宮に来る経緯は本当に様々である。
元々は魔王が作ったダンジョンではあるが、もはやダンジョンというより
地上とは異なる位相に存在するもう一つの世界と言った方が近いのかもしれない。 >「ここは我々にとって最後の安息の地なのです。
ですが、今は2階の森すらも急速に朽ちつつあります……。
お二人も見たでしょう。影蜘蛛の住処となった『枯れた森』を」
「うーん……でもこの感じだと地上みたいな環境破壊ってわけでもなさそうにゃ……
何か犯人がいるんじゃないかにゃ!?」
同じようなことは皆考えているようで、原因の調査に乗り出す者もいるという。
そんな中、原因を調査していた友人が行方不明になってしまったらしい。
>「あの……お二人は腕が立つと見えます。
よろしければ友人の捜索を手伝ってくれないでしょうか?
報酬は出します。その……2000メロくらいなら用意できるかと」
「それは……」
予想外の依頼の申し出に、暫し逡巡する。
ダヤンの最終的な目的は地上に行くことだが、脱出できるかは運によるところが大きいので、先を急いだところで早く脱出できるわけでもない。
付いていったらいつか地上に行けそうという漠然とした直感で、エールに付いてきたのだった。
つまりダヤンには特に先を急ぐ理由は無い。
しかし、エールには姉を探すという明確な目的があり、今この時にも姉が窮地に陥っているかもしれないのだ。
ダヤンはエールの様子を伺った。
>「……分かりました。一緒にご友人を探しましょう!」
「さっすがエールにゃ……!
そういえば頼まれた依頼は受けてみるのがいいっていつもマスター言ってたにゃ。
一見本来の目的に関係なくてもどこで繋がるか分からないんだって」
ところで本人は気付いていないが、ダヤンは地上に行くのが目的なら、わざわざ姉探しが目的のエールに付いてこずとも、
今までにたくさんいたであろう単純に脱出を目指す冒険者に付いていく方が良かったはずだ。
マスターの言葉に影響されているのか、冒険そのものに憧れているのか、はたまた姉探しを手伝いたいと思ったのか。
こうして次の日、三人は森へ向かう。
>「奥を目指して進みましょう。何かあるかもしれません。
私が言うのもなんですが、影蜘蛛の巣には注意してください」
しばらく進むと、木々が一斉に動き出した。
「うわわ!?」
>「これは……木の魔物(トレント)の群れです!」
>「……また森に侵入してきたのね。
一度は上手く逃げたようだけど、もう逃がさない」
不意に聞こえてきた女性の声。
見たところ僧侶風の出で立ちの人間の女性だが、顔は青白く生気がないように見える。
ダヤンは警戒を強めるが、アイリスが女性のもとへ駆け寄る。 >「アネモネ、無事だったのね!あれは私の友人です。
お二人とも……少しだけ待ってください!」
「危にゃい! 普通じゃない雰囲気がするにゃ!」
>「……寄るなっ!私はもう今までの弱い私じゃない。
そう、私は『枯れた森』の支配者。気安く話しかけないでっ」
>「な……何を言ってるの……?」
森の奥へと消えていく女性。追おうとするも、トレント達が立ちふさがり行く手を阻む。
トレントの一体が巨大な枝の腕を振り下ろしてきた。
直撃すれば軽く叩きつぶされてしまうだろうその一撃を、素早くサイドステップで避けるが――
「にゃんっ!!」
避けた場所に他のトレントの枝が薙ぎ払われ、吹っ飛ばされた。
2,3回転転がって、ようやく起き上がる。
「あいたたにゃ……」
どこからともなく、女性の声が響いてきた。
>「……世界樹も、森も、全て腐蝕して滅ぼす。
アイリス……せめて貴女だけは優しく殺してあげる」
この森は最後の安息の地で、アイリスは大事な友達のはず。
「放っておけにゃい……もしかしたら闇の欠片が関わっているのかも!」
所持者に強大な力を与えるが精神を汚染し、最後には破滅に誘うという闇の欠片。
まだこの件に関与しているかは分からないが、状況としては闇の欠片の特徴に当てはまる。
が、今はこの状況を打破するのが最優先だ。トレント達が一行を亡き者にせんと迫ってくる。
「エール、相手は木だから火とか雷が弱点にゃ! 魔導砲で強行突破……の前に」
ダヤンは、ふと昨晩のアイリスの話を思い出した。
「アイリスにゃん、自然との交感能力があるんだったにゃ!? アイツらと話せるにゃ!?」
とはいってもこの状況なので交感自体できるか分からないし
出来たとしても話が通じないかもしれないが、試してみるに越したことはないだろう。
最終的に強行突破になるにしても、何らかの情報が手に入るかもしれない。 振るわれたトレント達の攻撃が被弾して、ダヤンが吹っ飛んでいく。
にも関わらず大きな怪我を免れたのは威力を上手く殺していたからか。
>「放っておけにゃい……もしかしたら闇の欠片が関わっているのかも!」
「レオンさんが言っていた精神汚染ってやつだね。
欠片が原因で人格が変わってしまったのかも……」
実際のところどうなっているのかは依然として不明だ。
だが、欠片を持っているとなれば、もう弱い自分ではないという言葉にも当てはまる。
今は立ち塞がるトレント達をなんとか対処しなくては。
>「エール、相手は木だから火とか雷が弱点にゃ! 魔導砲で強行突破……の前に」
ダヤンはアイリスの方を振り向いた。
>「アイリスにゃん、自然との交感能力があるんだったにゃ!? アイツらと話せるにゃ!?」
トレント達の精神に干渉することで情報収集しようという魂胆なのだろう。
ただし、相手は普通の自然ではなく魔物化した木々だ。
心身に何らかの負担がかかることをアイリスは知っていた。
「……わ、わかりました。魔物相手に能力を使うのは未経験ですが、やってみます。
もしかしたらアネモネのことも何か分かるかもしれません……!」
目を閉じて杖を構え、意識を集中させはじめた。
放出された魔力が微かに光を帯びてアイリスの周囲をぼうと照らす。
交感に成功すると、聴こえてきたのはトレント達が唱える歌のような言葉だった。
『えんや!こらや!"森の支配者"の意のままに!森は我らのものだ!』
『そうだ!そうだ!"大老の魔樹(エルダートレント)"がやがて目を覚ます!』
『おいしょ!こらしょ!"闇の欠片"は我ら魔樹(トレント)に味方する!』
「――ちょっ、ちょっと……アイリスさんの様子が変だよっ!」
どんどん生気を失い、がくがくと身体を痙攣させ始めるアイリス。
エールは交感を打ち切るため魔導砲の筒先をトレント達へ向けた。 魔力を充填して、砲に刻まれた術式を起動。
ただし、今回使用するのはいつものプラズマ弾ではない。
放たれたのは火炎。紅蓮の炎が勢いよくトレントへ放出された。
――――魔導砲の機能のひとつ。火炎放射である。
「ギャアアアーッ!」
火はあっという間にトレント達に燃え広がる。
断末魔のような叫び声を上げて魔物の木々はその場に沈んでいった。
「……はっ。た、助かりました……ありがとうございます」
交感を打ち切られたアイリスは安堵した様子で目を覚ました。
胸に手を当てて気を落ちつけてから、再び話を続ける。
「……さきほどの交感で分かったことがあります。
お二人とも、急いでアネモネを追いましょう。そして目を覚まさせなければ。
このまま放置しておけば2階の森すべてが枯れてしまう……それだけは防ぎたいのです」
アイリスはトレント達が交感で話した言葉をそのまま二人に伝えた。
ダヤンの読み通り、闇の欠片が裏で関わっているのは間違いないようだ。
そして、トレントの上位種たるエルダートレントという魔物の存在。
「よもや、かの魔物がこの階に眠っていたとは……言うなれば奴は森の暴君です。
どこまでも地中に根を張り巡らせて養分を吸い、他の木々を枯らしていく。
さらに全身から瘴気を放ち瞬く間にトレントを増やすのです」
『枯れた森』が急速に拡がっていたのもエルダートレントが原因だろう。
残された問題は誰が『闇の欠片』を所持しているかということだ。
「……『闇の欠片』が危険な代物だというのは、私もアネモネも聞いたことがあります。
アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられません。きっと何か理由があるはずです……!」 一同はアネモネが消えた方向へと歩を進める。
奇しくもそれは『枯れた森』の奥へと続いていた。
そして森の最深部に辿り着いた頃――……。
「……なに?貴女達まだ生きてたの?まぁいいわ。
もっと養分を吸わせたかったけど……先にこいつを覚醒させましょうか」
太い木の枝に生気のない僧侶の女性が座る。アネモネだ。
座っている大樹は、おそらく件のエルダートレントだろう。
森の養分を吸っているのか幹がどくん、どくん、と脈打っている。
そして木の幹の中央には『闇の欠片』が埋め込まれていた。
――三人は知らないことだが、アネモネは調査で『枯れた森』と何度も交感していた。
交感能力で心を通わせるということは、すなわち心を無防備にすることであり、悪影響も大きい。
不用意にエルダートレントに交感したとき、アネモネは『闇の欠片』の精神汚染をモロに受けた。
そして精神の均衡を崩し、破滅を望む人間になってしまった。
「ふふふ……刺激的な接触だったわ。おかげで自分の気持ちに気づけた……。
私はこの樹と共に忌まわしいドルイドを滅ぼす。それが望みなの。
交感能力の低い私を迫害した屈辱、まだ忘れていないわ」
「うそよっ!貴女を虐めてた人達とは森を出る時に別れたもの!
アネモネは……罪のない人達に怒りをぶつけるような性格じゃない!」
「さぁ……?元の私ってどんな性格だっけ……?忘れちゃった……」
呆けたような顔でアイリスを見つめる。その表情にやっぱり生気はなくて。
トレント達を操るため交感を続けるアネモネに、まともな思考能力はなかった。
あるのは『闇の欠片』を持つエルダートレントに植えられた悪意だけだ。
アネモネは支配者を自称して魔物を操っているようで、逆に操られているのだ。
杖でエルダートレントの根をとん、と突くと、静かに幹の目が開かれる。
目覚めた大木は木の葉をざわざわと動かし、ゆっくりと屹立していく。
少なくとも20メートルはあろうか。その威容はエールを驚かせるのに十分だった。
「で、でかい……!正攻法で倒せるのこれ……!?」
目を丸くして思わず二、三歩あとずさる。
「矮小な貴女達では無理でしょうね。蟻が巨象に挑むようなものよ。
大人しく殺されてしまう方がいいわ……そして次は世界樹の町を滅ぼすのよ!」
アネモネが杖を指揮棒のように振り回せば、エルダートレントが木の葉を飛ばした。
はらはらと舞い散るのではなく、矢のように鋭く、直線に三人目掛けて。
木の葉はまさしく鋭利な刃物だった。
【『枯れた森』に到着するもエルダートレントに襲われる】
【エルダートレントの幹に『闇の欠片』が埋められている】
【自身の木の葉を鋭利な刃物のように射出して攻撃】 おまけ:無限迷宮の構造について(設定案)
無限迷宮の各エリアは階層と呼ばれているが、実際に階層構造というわけでない。
構造としては螺旋階段に近く、中心には『天の柱』と呼ばれる支柱が建っている。
このため外側から迷宮を見た場合、塔のように見えるようだ。
そして塔の周囲には疑似太陽と月に似た衛星が公転している。
各階ごとと外界とは空間魔法によって隔絶されており、
現段階ではポータルでのみ移動可能らしい。 ×枯れた森に到着
◯枯れた森の奥に到着
失礼しました >「……わ、わかりました。魔物相手に能力を使うのは未経験ですが、やってみます。
もしかしたらアネモネのことも何か分かるかもしれません……!」
トレント達との交信を試みるアイリス。
しかし、魔物との交信は危険が伴う。尋常ではない様子で痙攣しはじめた。
>「――ちょっ、ちょっと……アイリスさんの様子が変だよっ!」
「アイリスにゃん!? もういいにゃ!」
アイリスの肩を揺さぶるが、元に戻る気配はない。
自分の意思では交信を断ち切れないのかもしれない。
「エール、魔導砲発射にゃーっ!!」
ダヤンが叫ぶのとほぼ同時に、エールが火炎放射を放つ。
効果はてきめんで、トレント達はあっという間に燃え尽きた。
>「……はっ。た、助かりました……ありがとうございます」
「大丈夫だったにゃ!? 危ないことを頼んじゃったにゃあ……」
危ないところだったが、冒した危険に見合う収穫はあったようだ。
>「……さきほどの交感で分かったことがあります。
お二人とも、急いでアネモネを追いましょう。そして目を覚まさせなければ。
このまま放置しておけば2階の森すべてが枯れてしまう……それだけは防ぎたいのです」
「にゃに!?」
この階にはエルダートレントというトレントの上位種がおり、やはり闇の欠片がかかわっているという。
「アネモネにゃんが闇の欠片を使ってエルダートレントを操っているのにゃ……!?」
>「……『闇の欠片』が危険な代物だというのは、私もアネモネも聞いたことがあります。
アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられません。きっと何か理由があるはずです……!」
一行はアネモネが消えた方向へと歩みを進める。
トレント達はエールの火炎放射を恐れているのか、何事もなく最深部へとたどり着く。
そこでは、エルダートレントと思われる大樹に腰かけ、アネモネが待ち構えていた。
>「……なに?貴女達まだ生きてたの?まぁいいわ。
もっと養分を吸わせたかったけど……先にこいつを覚醒させましょうか」
ダヤンは、大樹の幹に埋まっているものに見覚えがあった。
ゴブリンキングの戦槌の先に付いていたものと一緒だ。
「闇の欠片……!」 >「ふふふ……刺激的な接触だったわ。おかげで自分の気持ちに気づけた……。
私はこの樹と共に忌まわしいドルイドを滅ぼす。それが望みなの。
交感能力の低い私を迫害した屈辱、まだ忘れていないわ」
この言葉から、アネモネはエルダートレントと交信したことでこうなったと考えられる。
アイリス曰く、アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられない、とのこと。
すでに闇の欠片に汚染されたエルダートレントと交信したことでアネモネもその影響を受けたと考えるのが妥当だろう。
>「うそよっ!貴女を虐めてた人達とは森を出る時に別れたもの!
アネモネは……罪のない人達に怒りをぶつけるような性格じゃない!」
>「さぁ……?元の私ってどんな性格だっけ……?忘れちゃった……」
「アネモネにゃん! 君はその闇の欠片の影響を受けてるんだにゃ!
それは持ち主に強大な力を与えるけど最後には破滅するらしいにゃ!」
アネモネに軽く突かれ、エルダートレントが目を覚まし静かに動き始める。
>「で、でかい……!正攻法で倒せるのこれ……!?」
エルダートレントから鋭い刃のような木の葉が一直線に飛んでくる。
「二人とも伏せにゃっ!!」
ダヤンは叫びながら地面に伏せた。風切り音をたてて頭上を木の葉がかすめていく。
人間を超える動体視力で、木の葉の動線をいちはやく見抜いたのだ。
幸い、まだエルダートレントからある程度距離があったのと足元を狙われなかったのでこの避け方が通用した。
が、そう何度もは通用しないだろう。
今度は地面すれすれを狙ってくるかもしれないし、
弧を描いたり普通に木の葉が舞い落ちるような不規則な動きなど、直線以外の動線で仕掛けてくるかもしれない。
「正攻法では勝ち目がないなら……闇の欠片を狙うにゃッ!!」
エルダートレントは少なくとも20メートルはあり、闇の欠片はその中ほどに埋まっているため、
ダヤンでは狙うことが難しいが、エールの砲撃ならそれが可能であろう。
ダヤンはというと、根を小突くときに地上に降りてきていたアネモネに向かっていく。
「必殺! 猫パーンチ!」
と、猫パンチを撃つと見せかけて寸前で手を引っ込め、代わりにアネモネの杖を掴んで奪おうとする。
「と見せかけて杖ボッシュートにゃー!」
本当は逆かもしれないが、表向きはアネモネがトレント達を操っているように見えている。
そして、これも深い意味はないのかもしれないが、杖を使って操っているようにも見える。
同じドルイドであるアイリスは特に杖を使っている様子は無いが、
アネモネは一般的なドルイドより交感能力が低いらしく、杖を使うことでそれを補っているとも考えられる。
そこで、杖を奪うことでいくらか状況が好転しないかと考えたのだった。 >424
おおっ、かっけーにゃ!
ダンジョンでありながら中に街もあって人が生活してる感じ
ダンジョンRPGと普通のRPGのいいとこ取りみたいで好きだにゃー >「二人とも伏せにゃっ!!」
叫び声を聞いて、アイリスを庇うようにその場に伏せる。
エルダートレントが放った鋭利な木の葉は頭上を通過していった。
ダヤンの優れた反射神経がなければ、今頃切り刻まれていただろう。
>「正攻法では勝ち目がないなら……闇の欠片を狙うにゃッ!!」
と、ダヤンは言ってエルダートレント目掛けて疾駆する。
狙うは地面に降り立ったアネモネのようだ。
「援護するよ!」
接近戦を仕掛けるダヤンを守るべく、プラズマ弾を何度も投射。
エルダートレントは怯みこそすれど大したダメージはないらしい。
巨木は鬱陶しそうに枝葉をゆさゆさと揺らすだけだ。
>「必殺! 猫パーンチ!」
「ちっ、私を狙ってるの?無駄なことを……」
とはいえ、小兵の大して痛くなさそうなパンチである。
アネモネは油断した。杖で適当に追い払おうとした瞬間。
>「と見せかけて杖ボッシュートにゃー!」
猫パンチの手がひょいと引っ込み杖を引っ掴んだ。
咄嗟に力を入れて抵抗するが、しょせん非力な僧侶である。
ダヤンは見事、交感に用いている杖をスティールすることに成功した!
「な……なんてことを。杖がないと交感が途切れてしまう……!
エルダートレントを操れなくなる!そんなことをしたら……」
杖を奪われ、戦闘能力を喪失したアネモネは地に這いつくばる。
エルダートレントとの交感が途切れたことで、『闇の欠片』の精神汚染も無くなった。
その影響なのか、生気が少しずつ戻り始めているように見えた。 どこか冷静さを取り戻した顔で、ぽつりと呟く。
「……『力の暴走』が、始まる……」
アネモネの背後でエルダートレントが蠢きはじめる。
がさがさと枝葉を揺らして、その幹を急激に太くしていく。
『生長』している。足から伸びる根が、際限なく森の養分を吸っている。
こうなっては止まらない。森の暴君という異称通り、土地の養分が枯渇するまで。
「……皆、この階から逃げるのよ。
交感能力でなんとか制御していたけど、もう駄目……。
『闇の欠片』で強化されたあいつは誰にも止められない……」
「……アネモネ、正気に戻ったの……?」
アイリスの問いかけにアネモネは静かに頷いた。
杖を失い交感が解けたことで、欠片の呪縛から解き放たれたのだろう。
「ミイラ取りがミイラになるとはこの事ね……自分が嫌になるわ。
私の力量では魔物の制御も不十分だったし、欠片の影響も跳ね返せなか……」
そこまで話したところで、アイリスはひしっとアネモネを抱き寄せた。
ただ「良かった」と。ぼろぼろと涙を流しながらそう言った。
「……嬉しいけれど、喜んでる場合じゃないよアイリス……。
また安息の場所を追われてしまうのよ……」
「いいもん!アネモネが無事ならそれでもいい!」
暴走し生長し続けるエルダートレントを無視して、喜び合う二人……。
エールは咳払いをして、アネモネとアイリスに話しかける。
「おっほん。逃げる必要はないですよ、二人とも!
状況は厳しいですが、私の魔導砲でなんとかなります!」
そう。最後の切り札――荷電粒子砲『ハイペリオンバスター』なら。
『闇の欠片』ごとエルダートレントを吹き飛ばす事も不可能ではない。
だが、エール一人分の魔力ではそれほどの出力を賄うことは不可能だろう。 「三人分!最低で三人分の全魔力があればきっと倒せるはず……!」
「なるほどね……けど、そういう魔法って"溜め"に時間がかかるんじゃないかしら?
今は無視してくれてるけど、攻撃の気配を察したらあいつも先手を打ってくると思うわ」
「でも……それしかないよ。アネモネ……」
アネモネは指を顎に添えて思案すると静かに口を開いた。
「……一人、陽動がいるわね。相手の目を欺く"忍びの者"が必要だわ。
さっき私から杖を奪った猫ちゃんなんて適任じゃないかしら」
「確かにダヤンなら出来るかもしれない。けど……」
エールは躊躇いから言葉を濁したが、それは仲間の実力を疑うということでもある。
だからアネモネの案を否定せず、最後にはこう言うことにした。
「ダヤン……お願い。1分!1分だけ時間を稼いで……!」
こうして作戦の段取りは決まった。
ダヤンが陽動としてエルダートレントを引きつけている間に、
アイリス、アネモネ、エール三人分の魔力で『ハイペリオンバスター』を放つ。
「魔力、充填開始!」
魔導砲に魔力を充填し始めるとエルダートレントが気づいたらしい。
幹の節々から瘴気を放ち始め、周囲の木々が俄かに魔樹(トレント)化していく。
「キェェェェ……!クキキキッ!!」
奇怪な声を発して誕生したトレントたちは、立ち塞がるダヤンを包囲し始める。
エルダートレントは瘴気を振り撒きながら哄笑した。
最早我が生長を止める者はいないと。
木の魔物たるトレント達から見ればダヤンなど矮小な障害物に過ぎない。
魔物化して間もないということもあって完全に舐め切っていた。
トレントのうち一体が大股で接近すると、無造作に蹴り飛ばそうと根の足を突き出した。
【アネモネが正気に戻るも、エルダートレントが暴走する】
【三人で『ハイペリオンバスター』を放つべく魔力充填開始】
【エルダートレントの能力で周囲の木々がトレント化しダヤンに襲い掛かる】 ダヤンは杖のスティールに成功した。
スティールといったら盗みを本業とするシーフのイメージが強いが、
このように武器奪いが出来ると戦いにおいても大変役に立つ。
そもそも、スカウトは斥候、シーフは盗賊で本来の意味は全然違うはずなのだが、
冒険者の技能名としては、往々にして同じ技能をどっちで呼ぶかの違いだけだったりする。
そして杖を奪ったのは結果的には大正解であったようだ。
>「な……なんてことを。杖がないと交感が途切れてしまう……!
エルダートレントを操れなくなる!そんなことをしたら……」
ここまでは単にエルダートレントの操作権を失って悔しがっているようにも解釈できるが……
徐々に生気を取り戻しているようにも見える。
そして、決定的な一言を呟いた。
>「……『力の暴走』が、始まる……」
「力の……暴走!?」
エルダートレントが不気味に成長を始める。
「にゃにゃ!? これ以上成長してどうするつもりにゃ!」
>「……皆、この階から逃げるのよ。
交感能力でなんとか制御していたけど、もう駄目……。
『闇の欠片』で強化されたあいつは誰にも止められない……」
>「……アネモネ、正気に戻ったの……?」
>「ミイラ取りがミイラになるとはこの事ね……自分が嫌になるわ。
私の力量では魔物の制御も不十分だったし、欠片の影響も跳ね返せなか……」
みなまで言わせず、アイリスがアネモネを抱き寄せる。
アネモネは確かに正気を失っていたが、ただ一方的に操られていただけではない。
交感が途切れた途端にエルダートレントが暴走を始めたということは、
闇の欠片の影響を受けて洗脳されたような言動をしながらも、
心のどこかに正気の部分が残っていて同時にエルダートレントの暴走を抑えてもいたのだろう。
>「……嬉しいけれど、喜んでる場合じゃないよアイリス……。
また安息の場所を追われてしまうのよ……」
>「いいもん!アネモネが無事ならそれでもいい!」
アネモネが闇の欠片の影響を受けながらも、今まで必死にエルダートレントの暴走を抑え守っていた森だ。
このままエルダートレントの暴走を許せば、ウッドベリーもどうなるかは分からない。
しかし、暴走したエルダートレントをどうにかできるとも思えない。
諦めて逃げるしかないのだろうか。
ダヤンが逡巡していると、エールが力強く言い放った。 >「おっほん。逃げる必要はないですよ、二人とも!
状況は厳しいですが、私の魔導砲でなんとかなります!」
「にゃんだって!?」
『ハイペリオンバスター』の強力さはダヤンも見ていたので知っている。
が、単純に大きさから考えても、今回のエルダートレントは前回のゴブリンキングとは桁違いに思える。
>「三人分!最低で三人分の全魔力があればきっと倒せるはず……!」
「そういうことも出来るんだにゃ……。じゃあ三人と言わず四人でいけばいいにゃ!」
ドルイドのアイリスアネモネに加え、ダヤンもスカウト魔法が使える。
魔力を充填するには悪くないメンバーが揃っている。
しかし、アネモネが懸念事項を口にする。
>「なるほどね……けど、そういう魔法って"溜め"に時間がかかるんじゃないかしら?
今は無視してくれてるけど、攻撃の気配を察したらあいつも先手を打ってくると思うわ」
>「でも……それしかないよ。アネモネ……」
>「……一人、陽動がいるわね。相手の目を欺く"忍びの者"が必要だわ。
さっき私から杖を奪った猫ちゃんなんて適任じゃないかしら」
>「確かにダヤンなら出来るかもしれない。けど……」
失敗すれば確実に森はエルダートレントの支配下、下手すりゃ全員この場でお陀仏なので
慎重になるのは当たり前だが、優しいエールのこと、純粋にダヤンの身を案じてもいるのだろう。
「エール、オイラなら大丈夫だにゃ」
>「ダヤン……お願い。1分!1分だけ時間を稼いで……!」
「任せろにゃん!」
ダヤンは自分の胸をどんっと叩いて力強く請け負った。
根拠のない自信ではなく、勝算はある。
ついに、最初の町から持ってきた薬草が役に立つ時が来た。
ダヤンは袋の中から薬草を一枚取り出し、ぱくっと食べた。 「いつ使う? 今だにゃ!」
食べたのは、ブーストハーブ。
名前の通り、全能力値を一定時間ブーストさせる薬草である。
が、効果が切れた後はしばらくヘロヘロになってしまうので、使いどころはかなり限られている。
具体的には、普通のままでは勝てない強敵を倒さなければならず、
その強敵さえ倒せばその探索では以後大した戦闘はないと思われる場合だ。
少しだけ時間を稼げばよく、
エルダートレントを倒せばトレント達も大人しくなると思わる今の状況はまさに使いどころであった。
>「魔力、充填開始!」
エール達が魔力を充填し始めると同時に、ダヤンはエルダートレントの前にわざと派手に飛び出した。
「闇の欠片はいただくにゃ! それが嫌ならかかって……こいにゃぁああああああああ!!」
>「キェェェェ……!クキキキッ!!」
トレント達がダヤンを包囲する。
ということは、陽動としては今のところうまくいっているということだ。
トレントの一体が接近し、根の足で蹴り飛ばさんとする。
ブースト中のダヤンはそれを難なくジャンプで避け、その根を足場に更に飛ぶ。
「にゃあっ!」
空中でダガーを振るいトレントの枝を切り落とす。
更に他のトレントが振るってきた枝を足場にし、縦横無尽に跳び回りながら枝を切り飛ばし気を引く。
この調子なら割と楽勝かと思われたが、それは最初トレント達がダヤンを舐めきっていたため。
トレント達が次第に本気になるにしたがって、苦戦を強いられる。
「にゃ!?」
トレントの根に足を引っかけて転んだ。
起き上がろうとするも、次々と伸びてくる根に身動きを阻まれる。
ついに、トレントの一体が魔力の充填をしている3人の方に向かう。
「シャドウ・スティッチ!」
ダヤンはダガーを投げつけるも、トレントには届かず手前の地面に刺さった。
しかし、それこそが狙いだった。
3人に襲い掛かる寸前で、トレントはその場に縫いつけられたように、足(根)を止める。
相手の影に刃を突きさし動きを止める、スカウト魔法の一種だ。
敵の抵抗が勝ってしまえば効果を発揮しないので、効いたのは今がブースト状態だからこそと思われる。
が、これも一度きり。ダヤンは完全に根や枝に包囲され身動きが取れなくなってしまった。
一方トレントは無数にいる。
一体動けなくなったところで関係ないとばかりに、次のトレントが3人に迫る―― エヴァーグリーン名産品のひとつ、その名もブーストハーブ。
ダヤンが食んだそれは一時的に各種能力を向上する効果があるという。
その効果によって力を漲らせると、トレントを縦横無尽に翻弄しはじめた。
「いいよぉ……!ダヤン、もうちょっとだけ待ってて!」
魔導砲を構えて照準をエルダートレントに合わせる。
その手にはアイリスとアネモネの手が添えられており、三人分の魔力が籠っている。
充填率は半分といったところか。あと30秒程度ダヤンは耐えなければならならい。
>「にゃ!?」
その時だった。ダヤンがトレントの根に躓き転倒してしまった。
さらに根が伸びてきて起き上がるのを防ぐ徹底ぶりだ。
「やばいっ……!気づかれた!」
トレント達も流石に気づいたらしい。
ダヤンと戦っていた一体がこちらにやってくる。
>「シャドウ・スティッチ!」
ダヤンはすかさずダガーを投擲すると、トレントの影に刃が突き立つ。
いわゆる影縫いと呼ばれるものだ。影を縛ることで相手の動きを封じる魔法である。
だがその安心も束の間。トレントは無数に存在し、たった一体が動けなくなったに過ぎない。
焼け石に水に過ぎず、また新たな一体がエール達目掛けて突進してくる。
「あと10秒で充填完了するのにぃぃぃ!?」
魔力の充填中は無防備な状態だ。選択肢は二つ。
充填を止めて逃げるか、このままぶっ放してしまうか。
どちらにせよ成功の確率は限りなく低い。 「ど、どうしますエールさん!?」
「貴女の決断に任せるわ……!」
アイリスとアネモネの声に押されて、決心を固める。
エールは冷静に照準を合わせ直した。
「こうなったらだめでもともと!やってやるんだからっ!」
トリガーを引くと魔導砲から夥しい光の奔流が放たれた。
接近するトレントを飲み込み、エルダートレントへ迫る。
やや弧を描いた軌道で直撃したそれを大老の魔樹はモロに食らった。
「ハイペリオンバスターッ!!いっけぇぇぇぇーーーーっ!」
閃光、爆発……炎と共にもうもうと立ち昇る煙。
固唾を飲んで様子を見守っていると、視界が徐々に晴れていく。
「ご、ごめん皆……やっぱりだめみたい……っ」
現れたのは闇の欠片が怪しく輝きを放ちつつ、回復する姿。
エルダートレントは幹の半身が吹き飛び、燃え盛りながらも未だ健在!
充填が不十分のままでは、やはり倒し切ることは不可能だった。
「闇の欠片の力で回復しているの……!?」
「まずいわ……退路も断たれたようね」
アネモネが諦念を込めてそう言った。まずい。
充填中の間にトレント達の包囲網が完成してしまっている。
エールは作戦失敗を悟り思わず目を瞑る。 ――その時だった。空から一人の人間が舞い降りたのは。
顔の右半分を仮面で覆った、白衣姿の若い男だった。
男はエール達を守るようにエルダートレントを阻んだ。
「一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。
エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ」
男が手を翳すと、エルダートレントが苦しみの奇声を発しはじめる。
やがて幹に埋め込まれていた欠片がひとりでに動きだし、男の手に吸い込まれていく。
欠片を失い回復が不可能になったことでエルダートレントは断末魔の叫びを上げて焼失した。
「主は死んだ。魔樹達よ、早く散るがいい」
白衣の男がそう言い放つと、エール達を囲っていたトレント達が三々五々に去っていく。
助かったのだろうか。警戒を解かないままお互い様子を窺っていると、
沈黙に耐え切れずエールが口を開くことにした。
「助けてくださってありがとうございます。
あの……貴方は冒険者なんですか?」
「勘違いしないでくれ。君達を助けたつもりはないし、私は冒険者じゃない。
命が惜しければ……『闇の欠片』には関わらないことだ」
冷たい語調で言うなり、白衣の男はその場からまやかしのように消えた。
――おそらくは任意の座標へ瞬間移動する転移魔法だろう。
どこへ去ったのかは分からないが、これで戦いは終わったのだ。
「……とにかく、助かって良かったよ。
皆ごめん……私のせいで危うく死ぬところだった」
意気消沈した様子だった。だがアイリスは首を横に振る。
ダヤンとエールがいなければアネモネを助けられなかったと。
アネモネもまた、二人のおかげで正気を取り戻せたと感謝した。 ふと焼け死んだエルダートレントを見ると、その奥に石造りの社があった。
ポータルだ。まさか枯れた森の奥地にも存在しているとは。
依頼が完了した今、この階での用も済んだ。次のステージへ進むべきだろう。
「あ……!ポータルだよ!ダヤン、次の階へ行こう!」
とりあえず元気を取り戻したエールは、ポータルへと走っていく。
報酬の2000メロが入った袋を携えて待ち受けるのは如何なる階層か。
アイリスとアネモネの二人に手を振ると、二人もまた手を振った。
「エールさん、ダヤンさん、お気をつけて!
お二人に幸運があらんことを!」
「無茶はしないでね!
気が向いたらいつでも帰って来なさい!」
社の中できらきらと光る魔法陣へ飛び込む。
姉であるカノンを見つけ出すため、9階の城下町を目指して。
――――――…………。
浮遊感を伴って地面に着地すると、目の前には広大な湖が広がっていた。
地図で確認すればそこが4階の湖沼エリアであることがわかる。
「湖の外周をぐるっと回ろう。そうすれば町に辿り着けるはずだよ」
喜び勇んでやって来たはいいが、まだ戦闘の疲労が抜けていない。
日が落ちるまでに宿でもとって十分に休息するべきだろう、とエールは思った。
目指すは4階の拠点、水の町ローレライだ。
【エルダートレントを倒し損ねるも謎の男に助けられる】
【舞台は2階の森林エリアから4階の湖沼エリアへと移ります】 >「ハイペリオンバスターッ!!いっけぇぇぇぇーーーーっ!」
エール達が、ハイペリオンバスターを発射する。
充填が完了していたのかはダヤンには分からないが、完了していなくてもそうするしかない状況。
凄まじい爆発が巻き起こり、エルダートレントは煙に包まれる。
「やったかにゃ!?」
晴れていく煙の中から現れたのは、闇の欠片によって回復しつつあるエルダートレント。
典型的な、”敵に大技を放って大爆発が起こるもやれてない状況”が再現されてしまった。
「そんにゃ……っ」
自分がもっと上手く陽動できていればあるいは、と思うと、悔やんでも悔やみきれない。
万事休すと思われたその時だった。
空から白衣姿の若い人間の男性が舞い降りる。
見る限りではそうだが、正確には本当に若いのかも、本当に人間かどうかすらも分からない。
何しろ顔の右半分を仮面で覆っており、只物ではない雰囲気を纏っているのだ。
そしてこの世界には見た目通りの年齢ではない人間(例:高位の魔術師)やら、人間そっくりな外見の異種族も存在する。
>「一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。
エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ」
地面に這いつくばったまま様子を見ていると、闇の欠片が謎の男の手に吸い込まれたではないか。
エルダートレントは今までのしぶとさが嘘のように、あっさりと焼失した。
>「主は死んだ。魔樹達よ、早く散るがいい」
トレント達が解散し、ダヤンはようやく動けるようになった。
男の意図は分からないが、とりあえず絶体絶命の状況から助けられたことになる。
しかしまだ安心はできない。この男、身も蓋もなく言ってしまえば見るからに怪しい。
一同を助けたのは何らかの目的のために生け捕りにするため、なんてこともあり得なくは無い。
>「助けてくださってありがとうございます。
あの……貴方は冒険者なんですか?」
>「勘違いしないでくれ。君達を助けたつもりはないし、私は冒険者じゃない。
命が惜しければ……『闇の欠片』には関わらないことだ」
結果的に危惧していたようなことは起こらず、男はそのまま姿をかき消した。
「た、助かったにゃ……」
ダヤンはのろのろと立ち上がり、地面に突き刺さっているダガーを回収し、
ついでにその辺に放り投げていた薬草の袋を拾い上げる。 >「……とにかく、助かって良かったよ。
皆ごめん……私のせいで危うく死ぬところだった」
「エールのせいじゃにゃい! オイラがこけなきゃよかったんだにゃ!」
そんな二人を遮るように、アイリスとアネモネは二人に感謝を告げる。
依頼達成となったので、報酬の2000メロも受け取った。
焼け死んだエルダートレントの奥に、ポータルがあった。
>「あ……!ポータルだよ!ダヤン、次の階へ行こう!」
エールにとっては先を急ぐ旅だ。
ポータルを見つけたとなれば、すぐに次の階層に行きたいだろう。
>「エールさん、ダヤンさん、お気をつけて!
お二人に幸運があらんことを!」
>「無茶はしないでね!
気が向いたらいつでも帰って来なさい!」
「二人とも、ありがとにゃー!」
アイリスとアネモネに手を振って、二人は魔法陣へ飛び込んだ。
「ここは……?」
目の前に広がるのは海……じゃなくて、よく見るとぐるりと陸で囲まれている。
広大な湖のようだった。
「4階……3階じゃなかった分ちょっとラッキーだにゃ」
>「湖の外周をぐるっと回ろう。そうすれば町に辿り着けるはずだよ」
「見たところモンスターも出て来にゃさそうで良かった」
エールはハイペリオンバスターを使った直後、ダヤンはブーストハーブの反動でヘロヘロである。
モンスターが活発になる夜になる前には町についてしまうのが得策だろう。
取り留めもない会話をしながら湖畔を行く。 「あの半仮面、何だったのかにゃあ。黒幕にも思えるけど……」
“これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が”とのゴブリンキングの死に際の言葉
“欠片を集めてる集団もいるらしい”との情報屋レオンの言葉が思い出される。
そして“一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ”との半仮面の男の言葉。
この言葉から考察する限り、闇の欠片を持つエルダートレントを監視していたものの、期待外れだったから見限ったように思える。
更には、エルダートレントに闇の欠片を与えた張本人という可能性すらある。
しかし、この推理でいくと一つの大きな疑問が浮上する。
「そうだとしたら何のためにゃ……?」
単純に破壊を撒き散らしたいのであれば、こちらを助けるようなことはせずに
エルダートレントに加勢しておけばよかったはずだ。
それに結果的に助けられている以上、悪い奴と断定するのも気が引けた。
「考えても仕方にゃいか。闇の欠片には色んな意味で関わらにゃい方がよさそう」
色んな意味でというのは、単純に闇の欠片に強化されたモンスターが強すぎてヤバいのと、
七賢者やら闇の欠片を集めている組織やらのなんやかんやに巻き込まれてもヤバい、の両方の意味である。
「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」
なんか盛大にフラグを立てた気がしたが、そんなことにはダヤンは気付いていないのであった。
そうこうしているうちに、前方に街が見えてきた。 白い霧がうっすらと視界を覆う中を二人はとぼとぼと歩いていく。
取り留めない会話を続けていると、そのうち『白衣の男』や『闇の欠片』の話になった。
ここに来たばかりのエールにとって、どちらも分からないことだらけだった。
迷宮で暮らしているダヤンが知らない素振りなのだから曖昧な返事しかできない。
>「あの半仮面、何だったのかにゃあ。黒幕にも思えるけど……」
「それは分からないけど……闇の欠片の事を、何か知ってるのかもしれない。
でないと"関わるな"なんて忠告は言えない……と思う。たぶん……」
>「考えても仕方にゃいか。闇の欠片には色んな意味で関わらにゃい方がよさそう」
ダヤンの言っていることはもっともだった。
依頼の都合上戦っただけで、本来は姉探しに何ら関係のないことだ。
だから今後は無関係だとスルーできるし、エールも基本そのスタンスだ。
「でも……もし。もしだよダヤン。これはちょっとした可能性の話だよ。
目の前に『闇の欠片』のせいで傷ついている人がいたら……私は助けたいと思う」
何のために辛い思いをして銃士になったのか。
問われたら『お金』と答えるが、きつい訓練を乗り越えられたのはそれだけじゃない。
それはきっと大切な人を。苦しんでいる人を助けられるからだ。理不尽な破壊に立ち向かえるからだ。
銃士で良かったと思えるのはそれくらいではあるが……。
>「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」
「えへ。そうだよね。そんな偶然あるわけないよ」
そして辿り着いたのが4階の拠点、水の町ローレライである。
湖畔にある静かな町で、門を潜るとすぐ宿屋が見えた。
疲労が溜まった重い足取りで宿の扉を開けると、店の主人と手続きを済ませる。 「ご夕食の準備を致しますので、それまでお部屋か大広間でお待ちください。
準備ができましたら係の者が案内します……。これが部屋の鍵です」
鍵を受け取ると、エールは店の主人に大広間で待つと言っておいた。
部屋の方が断然リラックスできるが、公共の空間を選んだのは情報収集のためだ。
「えへへ。こういう時は他の冒険者と交流するといいって聞いたことあるんだ。
他愛ない雑談の中に思いがけない情報があるかもしれないんだって」
姉の情報を求めているというより、『冒険者らしさ』に憧れているだけである。
大広間に向かうと、予想通り何名かの宿泊客がくつろいでいた。
賭けに興じる者やただ座って休んでいる者、ひそひそと会話をする者。
何をしているかは様々だが、ともかくエールは空いているソファに腰かけた。
「君達は冒険者かな?若いのにやるねぇ〜。こっちに来なよ、ポーカーやろうぜ」
「やめとけやめとけ!そいつはイカサマが得意でよぉ、カモを探してるだけだよ」
「何階からきたんだ?あまり見ない顔だね。迷宮には来たばかりかい?」
思ったより積極的にアクションがあった。
年若いことと、冒険者というと男性が多い(偏見)からか。
エールがみんなとの会話から得た情報はこの階に関するエピソードだ。
4階はかつて地上の西方大陸に存在していた。
かの土地は古くから聖剣を守る『湖の乙女』の伝説が眠っており、
その力を恐れた魔王が誰にも渡すまいとして土地ごと無限迷宮に閉じ込めたという。
――そして伝説は伝説のまま湖で眠り続けることになった。
「あそこに座ってる奴を見てみろよ。騎士のウォドレーってんだが……可哀想に。
湖の聖剣伝説を聞いて最近来たらしいが、湖の主が凶暴になっててよ。
まともに探索なんて出来ねぇんだわ。主の退治も任されてるようだが十中八九死ぬぜ」
「主はきっと『闇の欠片』の影響を受けているのだろう。
怪しい魔法使いが湖に何かを落としていたという目撃証言もある」
――宿泊客達は命が惜しいならあれには関わらないこった、と締めくくって去っていく。
どうやらダヤンと同じ考えの者は多いらしい。それが普通であり当然とも言える。
だが……エールはダヤンに目配せした。「あの騎士さんにお節介焼いてもいいかな?」みたいな目だ。
【4階の拠点に到着。情報収集を行う】 >「でも……もし。もしだよダヤン。これはちょっとした可能性の話だよ。
目の前に『闇の欠片』のせいで傷ついている人がいたら……私は助けたいと思う」
「エール……」
例えば、エヴァ―グリーンで依頼を受けたのはもちろん迷宮での路銀を稼ぐために違いないだろうが、あんなに大変なことになるとは思っていなかったはず。
それなのに、必死に街の人々を守ろうとしていて、ダヤンのうまくいく保証のない賭けにもついてきてくれた。
姉を探す先を急ぐ旅であるにもかかわらず、アイリスの依頼も迷わず受けた。
強大な力を持つエルダートレントにも、逃げずに立ち向かう道を選んだ――
根底に誰かを助けたいという想いがなければ出来ないことだ。
それは、何かと物騒なこの迷宮においては、命知らずで危険な傾向なのかもしれない。
現に、枯れた森では白衣の男が現れなければどうなっていたか分からないというのに。
でも、ダヤンの目にはエールがキラキラして見えた。
ああ、そうか――だから自分はこの少女に付いてきたのかもしれない。
なんていうことに本人が気付いたのかは定かではないが。
「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」
そう言って笑う様は見ようによっては照れ隠しのように見えなくも無かった。
>「えへ。そうだよね。そんな偶然あるわけないよ」
そんなこんなで、二人して盛大にフラグを立てつつ、水の町にたどりつく。
「ついたにゃー!」
>「ご夕食の準備を致しますので、それまでお部屋か大広間でお待ちください。
準備ができましたら係の者が案内します……。これが部屋の鍵です」
>「えへへ。こういう時は他の冒険者と交流するといいって聞いたことあるんだ。
他愛ない雑談の中に思いがけない情報があるかもしれないんだって」
「おおっ、リアルに冒険する方の冒険者っぽいにゃー!」
ダヤンは物心ついた時から冒険者とはいっても特定の町に身を置いて依頼を受けるタイプの冒険者。
リアルに冒険する方の冒険者らしさに大喜びしていた。
>「君達は冒険者かな?若いのにやるねぇ〜。こっちに来なよ、ポーカーやろうぜ」
>「やめとけやめとけ!そいつはイカサマが得意でよぉ、カモを探してるだけだよ」
>「何階からきたんだ?あまり見ない顔だね。迷宮には来たばかりかい?」
「にゃは。可愛いからってナンパは禁止にゃ!
そりゃあエールはピカピカの新米だけどベテラン冒険者のオイラがついてるんだにゃ!」
尚、少なくともダヤン目線ではエールは美少女であり、よってこの”可愛い”は事実を述べているだけなので全く深い意味はない。
こんな感じでワイワイしつつ、情報も集まってきた。 「聖剣……めっちゃ冒険者っぽい響き……!
土地ごと封じ込めるなんて魔王ってやっぱりすごいんだにゃ〜」
>「あそこに座ってる奴を見てみろよ。騎士のウォドレーってんだが……可哀想に。
湖の聖剣伝説を聞いて最近来たらしいが、湖の主が凶暴になっててよ。
まともに探索なんて出来ねぇんだわ。主の退治も任されてるようだが十中八九死ぬぜ」
「うーん、何も死ぬまで頑張らにゃくても無理そうなら諦めたらいいんじゃないかにゃ……?
命あってのものだねにゃ」
騎士という立場上何の成果もあげずにのこのこ帰るわけにはいかないのかもしれないが、
その手のしがらみとは無縁のダヤンは首をかしげた。
あるいは、単に我が身を顧みないお人よしの超重症バージョンなのかもしれないが。
>「主はきっと『闇の欠片』の影響を受けているのだろう。
怪しい魔法使いが湖に何かを落としていたという目撃証言もある」
「出た――! 闇の欠片!」
エールがお節介を焼きたそうな目でこちらを見ている……!
それに、いくらなんでも死ぬのはかわいそうだ。
皆、命が惜しいなら関わらない方がいいと思っているようで、騎士に話しかける者は誰もいない。
「えぇっ!? 誰も止めてあげないのにゃ!?」
ダヤンは騎士に歩み寄り、死なないように引き留めにかかる。
「湖の主の退治に来たんだってにゃ?
もしも噂が本当なら主はとても普通の冒険者には太刀打ちできにゃいから無理しにゃいほうがいいと思うにゃ。
オイラたち、森林エリアで危うく死にかけたにゃ」
ミイラ取りがミイラになる予感しかしない。 大広間の一角に座っている騎士の下へダヤンが歩み寄っていく。
>「湖の主の退治に来たんだってにゃ?
>もしも噂が本当なら主はとても普通の冒険者には太刀打ちできにゃいから無理しにゃいほうがいいと思うにゃ。
>オイラたち、森林エリアで危うく死にかけたにゃ」
「むぅ……君は冒険者か。確かに私は湖のヌシを退治するつもりだが……。
心配は無用だよ、剣の腕には自信がある。誰かに聖剣を渡したくないしな」
名をウォドレーと言ったその騎士は腕を組みつつ返答した。
まるで聞く耳をもたないといった感じだ。
「申し遅れました。私はエール、こちらはダヤンです。
考え直した方がいいと思います。今の主はとても危険ですよ……!」
「闇の欠片とやらか。見たことがないのでよく知らないが……。
まぁ、君達が生き残っているなら私はもっと大丈夫さ……ははは!」
などと失礼なことを言いながらウォドレーは去っていった。
どうやら騎士の夕食の支度ができたらしい。
「どうしよう……無益な血が流れるかも……っ」
大広間の椅子に座り込んで頭を抱えた。騎士にまるで危機感が足りていない……。
武勲や幻の武器を求めてここまでやって来たのだから、自信があるのは当然だろう。
だがしかし。闇の欠片を持つ魔物と二度交戦したから分かる。
彼はおおよそ無事ではいられないだろう。
「……こうなったら仕方ない……」
エールはそう言って椅子に座り込んだ。
その表情は何かの覚悟を決めた様子であった。 次の日。
湖の主を倒し、聖剣を手に入れるためウォドレーは小舟に乗って岸を離れた。
その様子を部屋の窓から眺めていたエールは装備を整えて宿屋を飛び出す。
「私……ウォドレーさんの後を追うよ。気になって仕方なくて。
無事ならそれで良いんだけど……なんだか心配なの!」
姉に会った最後の日、家を去る後ろ姿と妙に重なってしまう。
それっきりどこかに消えてしまうみたいで、気が気でないのだ。
重症のお節介にでも罹患したのかな――とふと思いながら、湖へと駆けた。
誰も使ってなさそうな小舟を一艘無断で拝借すると、エールもまた舟を漕ぎ出す。
4階の湖は広大だ。海と見紛うかのようなそれは600平方キロメートル超に及ぶらしい。
時刻はまだ早朝。湖沼全体は白い霧で覆われている。
視界が悪くウォドレーを乗せた小舟はすぐに見えなくなってしまった。
「あわわっ、見失っちゃった。どこにいるんだろ……」
不穏な気配や瘴気は感じない。いたって平穏だ。
だが、もしかしたら水棲魔物が突然襲ってくるかもしれない。
エールは周囲の警戒を怠らず、慎重に舟を漕いでいた。
しばらくしてである。風もないのに舟が大きく揺れはじめた。
ゴトゴトと船体が音を鳴らし、エールは驚いて漕ぐのを止めた。
「……うん?」
舟の縁に掴まって水面を覗き見ると、水底で巨大な影が動いているのが分かった。
こんな小舟など容易に丸呑みできそうなほどの、あまりに大きな影……!
「そういえば……湖の主のことをよく聞いてなかったよ……」
巨大な影が徐々に大きくなってくる。水面へ向かって上昇しているのだ。
その背びれが水面から勢いよく顔を覗かせ、水が盛り上がるとエールの舟はあっさり転覆した。
「うわあぁぁぁぁぁーっ!!!?」
――なぜこんな寄り道をしてしまったのか。さすがに内心で後悔する。
水中へ無造作にダイブしながら、エールはその魔物と目が合った。
あまりに巨大で鋭い瞳に、七色に鈍く光る鱗。悠々と水中を掻く刃のごとき鰭。
魚だ。全長百メートルの巨大な魚の魔物。それが湖の主の正体なのである。
【騎士ウォドレーに説得を試みるも失敗】
【心配になって追いかけるが湖の主と遭遇して舟が転覆する】 >「闇の欠片とやらか。見たことがないのでよく知らないが……。
まぁ、君達が生き残っているなら私はもっと大丈夫さ……ははは!」
「生き残れたのは運が良かっただけにゃよ!?」
騎士のしがらみや崇高な使命感などではなく超ポジティブ(?)なだけだった。
他の誰かに聖剣を渡したくないということで、一緒に行く誰かを見繕ってパーティを組む気もなさそうだ。
仮に心配だから一緒に行くと申し出たところで「そんな事を言って分け前狙いだろう」と断られるのがオチだろう。
>「どうしよう……無益な血が流れるかも……っ」
「あれ、誰が何を言っても聞きそうににゃいぞ……。
まあ、あの騎士さん実際に超強いのかもしれにゃいし……
もしそうだったらこんなペーペーが下手に首を突っ込んだら
逆に足を引っ張ったりしてそれこそ余計なおせっかいになるにゃ」
>「……こうなったら仕方ない……」
何かを決意したようなエールに禄でもない予感がしたダヤンだったが、
幸いその夜は大人しく床に就いたのであった。
しかし安心したのもつかの間、次の日。何やらエールが早朝からごそごそしている。
>「私……ウォドレーさんの後を追うよ。気になって仕方なくて。
無事ならそれで良いんだけど……なんだか心配なの!」
「エール、待てにゃ!」
ダヤンの制止もお構いなしに湖へと駆けていくエール。
冒険者の依頼には通常、危険度に見合った報酬額が設定されている。
正式に依頼を受けていても報酬以上の危険を冒すことは並大抵ではないが
今回は依頼も受けていないのに何の見返りもなく危険に飛び込もうとしている!
エールが船をこぎ出そうとしたとき、とんっと軽やかに船に着地する者があった。
「一人は危ないにゃ」
「待てにゃ」は一人では行くなという意味だったらしい。
二人で船をこぐも、すぐにウォドレーの小舟をすぐに見失ってしまった。
>「あわわっ、見失っちゃった。どこにいるんだろ……」
エールは湖の中央部に向かって船をこぎ進めていく。
「あんまり岸から離れたらあぶにゃいよ……」
>「……うん?」
気付けば巨大な魚の真上にいた。 >「そういえば……湖の主のことをよく聞いてなかったよ……」
「言わんこっちゃにゃい! はやく逃げるにゃ!」
必死に船をこぐも、今更無駄な抵抗。
>「うわあぁぁぁぁぁーっ!!!?」
二人は船から湖に投げ出され……
「うにゃあああああああああ!?」
その次の瞬間には、魚の巨大な口に飲み込まれたのであった!
暫し意識は暗転する。
「う、うーん……。エール、大丈夫にゃ!?」
目を覚ましてみると、何やら不気味な薄暗い洞窟のような場所だった。
幸い即刻胃酸で溶かされてゲームオーバーにはならなかったようだが……。
「ここは……魚のおなかの中にゃ? オイラ達湖の主に飲み込まれたみたいだにゃ」
魚のおなかの中といっても、聖剣の伝説が伝わる湖の主。
おそらく普通の消化器官のようなものではなく一種のダンジョンのようになっているのだろう。
と、どこからか人間の呻き声のようなものが聞こえる。
「誰かいるにゃ? ……ウォドレーさんかもしれにゃい! 行ってみるにゃ!」 水中に没していく……。
身動きのとれない水の中で見たのは、巨大魚が開いた口だった。
いくら藻掻いても逃げ道はなく、エールたちはそのまま飲み込まれてしまう。
やがて息が続かなくなり意識は暗い底へと沈んでいった。
>「う、うーん……。エール、大丈夫にゃ!?」
気がついた時にはその薄暗い場所にいた。
洞窟のように感じるが……自分たちは巨大魚に食われたのではなかったか。
とにかく、うつ伏せの状態から起き上がると、自身とダヤンの無事を確認した。
「大丈夫……怪我とかはないみたい」
>「ここは……魚のおなかの中にゃ? オイラ達湖の主に飲み込まれたみたいだにゃ」
ダヤン曰く、湖の主の腹はダンジョンのような作りになっているのではないかということ。
確かにここがただの胃の中だとは思えない。おかげで九死に一生を得たわけだ。
「ごめんね、私のせいでこんな事になっちゃって……。
でもどうしよう……どうやって脱出すればいいのかな」
奥まで進めば出口(この魚の口?)になっているのだろうか。
例えできたとして外は水の中だ。上手く水面まで泳げるのだろうか。
そんな答えのない問題を考え続けていると、ダヤンの耳がぴくっと反応した。
エールには何も聞こえなかったが、どうやらどこかから呻き声がするらしい。
>「誰かいるにゃ? ……ウォドレーさんかもしれにゃい! 行ってみるにゃ!」
「……そうだね!いってみよう!」
ぐしょ濡れの身体を動かして声のする方へ歩みだす。
奇遇とでも言うべきか、声の主はやはりウォドレーだった。
どうやら足を怪我しているらしい。
「ウォドレーさん!大丈夫ですか!?」
「君達は昨日の……!なぜここに!?」 嘘をついても仕方ないので本当のことを話す。
「その……心配だったので追いかけてきたんです」
「……人が好過ぎるな君達は……ありがとう。
その気持ち、受け取っておくよ……」
飲み込まれた時の衝撃か、右足を骨折しているらしい。
呻き声を上げていたのは骨折が原因なのだろう。痛そうだ。
エールはひっくり返っていた小舟の木片を添え木にするとウォドレーの足を固定する。
「ダヤン、ハーブはある?骨折がすぐ治るわけじゃないと思うけど
痛み止めと体力回復にはなると思うから……」
そうして応急処置が完了するとやはりどうやって脱出するかが話題になった。
「こんなでかい魔物、剣ではどうにもならん。
早く脱出したいところだが私には方法がまるで思いつかない」
「……とりあえずは探索してみた方がいいですね……。
脱出後の問題はともかく、出口はすぐに見つかるかもしれません」
見たところ魚の体内は入り組んでいるわけではなさそうだ。
歩き続ければどこかには行き着くはずである。
「私とダヤンで調べますから、ウォドレーさんはここに居てください。
ここがダンジョンなら魔物を体内に飼ってる可能性もあります」
そう言ってエールは魔導砲を担ぎ、
まずダヤンと二人で調査することを提案した。
【足を骨折しているウォドレー発見。応急処置を施す】
【魚の体内を調査することを提案する】 >「ウォドレーさん!大丈夫ですか!?」
怪我をしているウォドレーが発見された。言わんこっちゃない。
>「君達は昨日の……!なぜここに!?」
「お、お宝を独り占めさせるわけにはいかにゃいからにゃ!
べ、別にお前のためじゃないんだにゃ!」
ダヤンが唐突に古式ゆかしきツンデレを発動するも、エールがすぐに翻訳した。
>「その……心配だったので追いかけてきたんです」
>「……人が好過ぎるな君達は……ありがとう。
その気持ち、受け取っておくよ……」
「……まあそのにゃんだ、エールに感謝することだにゃあ」
素直に感謝されたダヤンは素直に照れている。割とチョロい。
>「ダヤン、ハーブはある?骨折がすぐ治るわけじゃないと思うけど
痛み止めと体力回復にはなると思うから……」
薬草が詰め込んでいる袋は背負い袋になっているので幸い流されてはおらず、
ハーブは濡れてしわしわになっているものの効果は消えてはいない。
ダヤンはウォドレーにキュアハーブを一枚渡した。
「これを食べにゃ。エヴァ―グリーン名産キュアハーブ。別に怪しい草ではないから安心してにゃ」
世の中には物理法則無視して骨折も瞬時に治るようなすごい回復アイテムもあるらしいが、
少なくともこのキュアハーブにはそこまでの効果は無い。
それでも無いよりはかなりいいだろう。
>「こんなでかい魔物、剣ではどうにもならん。
早く脱出したいところだが私には方法がまるで思いつかない」
「うにゃ、この感じだと内側からぶち破る……のは難しそうにゃ」
>「……とりあえずは探索してみた方がいいですね……。
脱出後の問題はともかく、出口はすぐに見つかるかもしれません」 普通の消化器官と同じように考えれば出口は口とその反対側(あんまりこっちからは出たくないけど)の2か所だが、
ここは明らかに普通の消化器官ではないので、例えばポータルのようなそれ以外の脱出口がある可能性も考えられる。
>「私とダヤンで調べますから、ウォドレーさんはここに居てください。
ここがダンジョンなら魔物を体内に飼ってる可能性もあります」
「必ず迎えに来るから心配しないでにゃ」
ウォドレーといったん別れ、二人は奥に進んでいく。ほどなくして、少し開けた場所に出た。
祭壇のような場所に一振りの剣が突き刺さっている。
「あれ、もしかして湖の聖剣ってやつじゃないかにゃ!? 選ばれし者だけが抜ける剣、みたいな絵面だにゃ〜」
興味の赴くままでに剣に駆け寄ろうとしたダヤンは、しかし障壁のようなものに弾き飛ばされた。
「にゃん!?」
それがセンサーとなったかのように、モンスターが出現した。その数は4,5匹というところ。
空魚(スカイフィッシュ)――
このような魔法的な水中空間で出現する、空中を泳ぐ(?)魚型モンスターだ。
「にゃんだにゃんだ……!?」
こちらの混乱もお構いなしに、スカイフィッシュ達は鋭い歯が並ぶ口を開け、二人に襲い掛かってきた! 洞窟の奥に向かって進めば辿り着いたのは祭壇が置かれた場所。
その上には剣が鎮座しており、まるで古から伝わる聖剣伝説のようだ。
湖には聖剣が眠っているという触れ込みだったが、この剣がそうなのだろうか。
>「あれ、もしかして湖の聖剣ってやつじゃないかにゃ!? 選ばれし者だけが抜ける剣、みたいな絵面だにゃ〜」
かもしれない。
だがエールは別に聖剣が欲しくてここまで来たわけじゃない。
ウォドレーが死ぬかもしれないと思ったからお節介を焼いただけだ。
剣士としての技能があるわけでもなし、さほど興味もない。
「あっ……待ってダヤン。聖剣はたしか『湖の乙女』が守ってるって話だよ。
もしかしたら何かの仕掛けとか罠があるのかもしれない。不用意に近づくのは――」
>「にゃん!?」
ダヤンが聖剣に近づいた途端、何かの障壁に弾かれた。
すると、祭壇を守るように複数の魔物が虚空から出現する。
空魚(スカイフィッシュ)と言うらしい。空中を泳ぐ魚のような魔物だ。
>「にゃんだにゃんだ……!?」
「んもー!こうなったら迎撃するしかないよ!」
空魚は鋭い歯を剥き出しにしてこちらへ突撃してくる!
エールは横っ飛びで回避しながら魔導砲を構えて狙いをつける。
……が、存外すばしっこく照準を合わせまいと動き回っている。
「ふふん、それで銃士の狙いから逃れたつもりかな!甘いよ!」
射撃には『偏差撃ち』というテクニックがある。
動き回る敵に対して、動く少し前を狙って撃つという技術だ。
空中を自在に泳ぐ空魚に対しても同様のテクが通じる。 だが一匹に狙いをつけた瞬間、今度は撃たせまいと他の空魚が襲い掛かってきた。
そりゃそうか。向うは複数体いるのだから他の個体がカバーすればいい。
エールは紙一重で空魚の噛みつき攻撃を躱すと、再び魔導砲を構えた。
「なるほどね……!」
攻撃パターンは突撃のみ。戦術ドクトリンもそう厄介ではない。
エールは落ち着き払ったまま空魚の分析を終え、再び偏差撃ちで照準を合わせる。
すると、他の空魚がまたもや突っ込んできた。
「狙い通りだよ……!」
ガコン!と魔導砲の筒先が素早く突っ込んできた個体に向いた。
同時、エールは素早く後方へ飛び退き、回避行動にも入っている。
『引き撃ち』だ。
後退しながら撃つことで、敵の攻撃を避けつつ砲撃を浴びせることができる。
つまり、最初の偏差撃ちはブラフであり、本命はこっちだったわけだ。
そしてプラズマ弾を三発、素早く迫ってくる空魚目掛けて発射。
「さぁ、これでも食らいなさいっ!」
青白い尾を引いて三つの閃光が空魚に襲い掛かる。
全弾命中しても二匹余るが、それはダヤンに任せるとしよう。
どちらにせよ偏差撃ちで狙った個体は作戦上倒せない。
最後の詰めは信頼する仲間に任せようという考えである。
仮に外したとしても、エールには空魚の突撃は当たらないし手痛くない。
もう一度狙いをつけ直してリトライすればいいだけだ。
【空魚と応戦。三匹目掛けてプラズマ弾発射!】 >「さぁ、これでも食らいなさいっ!」
砲術といっても、専ら後衛職というわけではないらしい。
敵の攻撃を避けながら仕留める接近戦の技もお手の物だ。
閃光に撃ち抜かれ、三匹の空魚が一網打尽に光の粒と化して消えた。
「おおっ……!」
残った二匹が同時に襲い掛かってくる。
が、空魚は群れるとそこそこの強敵だが数が減った今ではすでに脅威ではない。
はずだが、ダヤンは避ける様子はない。
反応が出来なくて避けられない、というわけではなく……
ギリギリまで引き付けてから、両手に持ったダガーを空魚達の口の奥狙って同時に投げつけた。
「魚が猫を食べるんじゃなくて猫が魚を食べる方にゃ」
空魚達は声無き断末魔をあげ、やはり光の粒となって消えた。
魔物の中でも、魔力的要素が強い魔物特有の消え方だ。
「これじゃあ食べられないにゃあ」
仮に死体が残ったところで、あまりおいしそうではないので食べたくは無いが。
何はともあれ、空魚達との戦いに勝利した。
「エール、ごめんにゃあ、防御装置だったのかにゃ……にゃにゃ!?」
聖剣があった方をみやると、聖剣は祭壇ごとなくなっており、周囲と変わらない洞窟の壁面があるだけだった。
「じゃあさっきのは幻影……? 単なる聖剣を狙う者をホイホイするための罠だったのかにゃあ」
そこに、走ってくる者があった。
「ごめんなさーい! お怪我は無いですか?」
それは、水色の長い髪を持つ、水の精霊のようなイメージの女性。
頭の横にはひれのような飾りがついており、魚モチーフのようにも見える。 「大丈夫だにゃ、あなたは……? まさか”湖の乙女”……なーんてにゃ!」
「ん、もしかしたら陸地の人たちにはそう呼ばれてるかも」
「にゃんだって!?」
想像していたのより妙にノリが軽い。
「訳あって聖剣が悪い奴に持っていかれないように守りつつ
ここの管理人?のようなことしてるんだけどー、最近妙なことが多いのよねー。
水生モンスター食べちゃったり。挙句の果てには人間食べちゃったり」
「じゃあさっきの罠も意図せずして……?」
「そうなのよ。空間が勝手に。勝手によく分かんないモンスターもでてくるし困ってるのよ」
湖の主は湖の乙女の使い魔のような存在なのか、
はたまた湖の主と湖の乙女は元々同一存在で、今目の前にいる湖の乙女は湖の主の精神の核のようなものなのか。
どちらにせよ、今の湖の乙女は湖の主を制御しかねているらしい。
『主はきっと『闇の欠片』の影響を受けているのだろう。
怪しい魔法使いが湖に何かを落としていたという目撃証言もある』
ダヤンは宿で聞いた話を思い出し、おそらく湖の主が闇の欠片を食べてしまったからだろうと直感した。
が、これ以上首を突っ込んだらこの広い巨大魚の体内で、闇の欠片探しをする羽目になってしまうかもしれない。
脱出が目的なら「出口は知りませんか」と聞くのが得策なのは言うまでも無いだろう。 空魚の群れをやっつけると、聖剣は幻のように消えてしまった。
すると今度は水色の長い髪をもつ、精霊を思わせる女性がやってきた。
気さくなダヤンは早速女性と会話を繰り広げる。
>「訳あって聖剣が悪い奴に持っていかれないように守りつつ
>ここの管理人?のようなことしてるんだけどー、最近妙なことが多いのよねー。
>水生モンスター食べちゃったり。挙句の果てには人間食べちゃったり」
全然管理できてないじゃん……。と率直に思ってしまった。
湖のヌシは『闇の欠片』の影響下にあるのだろうが気づいていないのか。
ならば念のために教えてあげた方がいいのかもしれない。
>「そうなのよ。空間が勝手に。勝手によく分かんないモンスターもでてくるし困ってるのよ」
「あ……それはきっと『闇の欠片』というアイテムの悪影響です。
持っていると精神が汚染されるそうで、湖の主が誤って飲み込んだのかもしれません。
宿屋で何かを落としている不審者を見かけた人もいるそうなので、欠片が原因なんだと思います」
見つけてうっかり触ると今度は彼女が精神汚染を受けかねない。
そのため、発見したら破壊するのが望ましいと注釈をつけて説明する。
このダンジョンに管理人がいてよかった。説明だけしておけば後は大丈夫だろう。
何せ、闇の欠片自体を取り除かなければ根本的な解決にはならないのだから。
懸念は管理人もまた欠片の影響を受けているかどうかだ。
……が、あのフランクな感じからしてその様子は今のところない。
アネモネの時のような危うさは感じない。
ならば余計な首を突っ込む必要はないように思える。
怪我人を抱えてもいるし今は脱出を優先すべきだろう。
「ところで管理人さん、このダンジョンの出口は知りませんか?
怪我人がいるんです。早くお医者さんに見せてあげないと……」
放置されているウォドレーの身を案じながら、エールはそう言った。
【エール、ダンジョンの脱出方法を管理人に聞く】
【こう言ってはいますが頼まれれば闇の欠片捜索を引き受けます】 【×宿屋で何かを落としている 〇湖に何かを落としている でした。失礼しました】 >「あ……それはきっと『闇の欠片』というアイテムの悪影響です。
持っていると精神が汚染されるそうで、湖の主が誤って飲み込んだのかもしれません。
湖に何かを落としている不審者を見かけた人もいるそうなので、欠片が原因なんだと思います」
エールは闇の欠片について、湖の乙女?に教える。
が、流石のエールも今回はそれ以上のお人よしは踏みとどまったようで、サクッと出口を尋ねる。
>「ところで管理人さん、このダンジョンの出口は知りませんか?
怪我人がいるんです。早くお医者さんに見せてあげないと……」
「それは大変ね……! 出口まで案内するわ、着いてきて」
闇の欠片探しを頼まれるのではないかとヒヤヒヤしたが、あっさり出口を教えてくれるらしい。
なにせ、この謎の空間の中で小さな宝石サイズの闇の欠片を探すのは並大抵ではない。
「ウォドレーさんを連れてから行くにゃ〜」
幸い出口はウォドレーを待たせている場所の近くだそうで。
考えてみれば魚に飲み込まれて目が覚めた時にいたのがその辺りだったので、
その近くに入口(つまり出口)があるのは至極当然かもしれない。
管理人に連れられ、その場所まで戻る。が、ウォドレーは忽然と姿を消していた。
「ウォドレーさん!? どこにゃー!?」
そして、都合の悪い事はそれだけではない。
「あら……? この辺に出口があったはずなんだけど……」
管理人は壁をぺたぺた触って首をかしげている。
「もしかして出口がなくなったにゃ!?」
最初から出口らしき道は見当たらなかったので、二人が探索している間に消えたのではなく、
魚に飲み込まれ目覚めた時からすでに無かったのかもしれない。
そして、ウォドレーは大怪我で歩けなかったはずである。明らかに何かが起こっている。
まずはウォドレーを探し、その後に出口を探す必要がありそうだが……
その過程のどこかで闇の欠片と出くわす予感しかしない。 余談だがエールは水色の長い髪の女性を会話から『湖の乙女』だと決めつけていた。
――が。もしかしたらそれも罠で嘘であるという可能性も実は捨てきれない。
もっとも、エールにそのような考えは一切なかったが……。
>「それは大変ね……! 出口まで案内するわ、着いてきて」
事実、目の前の女性は気さくで善良な人のように思えた。
女性の案内でウォドレーを置いてきた場所まで戻る。
どうやら彼がいる近くにこそ出口が存在していたようで。
「……あれ、ウォドレーさんは……?」
足を骨折して歩けないはずなのに何処にもいない。
ダヤンと一緒に周囲を探してみるが、騎士の姿はどこにもなかった。
>「ウォドレーさん!? どこにゃー!?」
そして状況の悪い方向へとばかり傾いていく。
管理人の女性がぺたぺたと壁を触ると不思議そうに顔を傾げた。
>「あら……? この辺に出口があったはずなんだけど……」
何の力が働いたのか出口も消えているというのだ。
話は振り出しに戻り、このダンジョンを探索するしかないようだ。
といってもエールには冒険者としてのキャリアが無い。
こんな時どうすればいいのかさっぱり分からなかった。
「……あっ。あんなところに白い石が落ちてる!
きっとウォドレーさんが落としていったに違いないよ!」
指差した場所にはこのダンジョン内において異質な質感をした白い石が落ちていた。
それはひよっこ冒険者のエールも知っている探索法のひとつだった。
道に迷うのを避けるため目印となるものを地面に落とすというやり方だ。 そしてよく目を凝らすと、何かを引き摺ったような跡も見つかった。
ウォドレーは自発的に動いたのではない。何者かに攫われたのだ。
白い石はぽつんぽつんと足跡のように道の奥へと続いている。
「ウォドレーさんが抜け目ない人で良かった。
行こう、この石を辿っていけば見つかるはずだよ!」
エールは魔導砲を構えて石を目印に慎重に進んでいった。
誰がこんなことをしたかはまだ分からない。
だが善良な人の仕業じゃないのは確かだ。
……そして辿り着いたのは神殿のような場所である。
エールは直感的に大きな柱のひとつに身を隠す。
すると神殿の中から声が響いてきた。
「……お主はなんだ?我が体内に侵入して何をするつもりだった?」
「……何度も言っただろう。この地に伝わる聖剣を探していたのだ。
だが、その最中に湖の主に飲み込まれてしまってこの次第だ」
「はん、そうであろうな。ここに来る人間はいつもそうだ。
我が湖を好き放題荒らす――忌々しい冒険者が!」
一人はウォドレーのようだが、もう一人の女性の声は誰だろうか。
中の様子を見たいが今飛び込んでも碌な目に遭わなさそうだ。
「この湖に伝わる聖剣は勇者様の手中に収まるべきもの。
魔王が余計なことをしたせいで、今も眠ったままではあるが……。
本来ならあの御方の武器として振るわれ、伝説を残していたはずなのだ!」
ドスの効いた怒声が響く。かなりの剣幕なのは容易に想像がついた。
エールは故郷にいた頃、隊長に怒鳴られたことを思い出して嫌な気分になった。 顔をげんなりさせつつ、エールは引き続いて聞き耳を立てる。
「ところで体内をうろうろしている二人はどうなっている?
罠にでも掛かって死んだか?それとも捕まえたのか」
「罠を攻略したのち『湖の乙女』と遭遇したようです」
「ふん……あやつを『湖の乙女』などと呼ぶな。
奴には最早なんの権能もない。今は私が『湖の乙女』……。
あの無能はここに神殿が建てられたことすら知らないだろうよ」
エールは怪訝な表情で一緒にいる管理人の顔を見る。
湖の乙女が二人いる?一体何が起こっているのだ。
「あ……あのぉ〜。管理人さんって『湖の乙女』なんですよね?
神殿の中にもう一人いるみたいですけれど……」
小声でぼそぼそ確認してみるエール。
だがこの管理人、まぁなんとなく分かってはいたが……。
体内で起きている異変については何も知らなさそうなのだ。
「まぁよいわ。判決を下す。中央大陸の騎士ウォドレーよ。
貴様は死刑だ。土足で我が湖を荒らした罪は重い。
処刑方法はマーマンに一任するとしよう」
「ははっ。仰せの通りに。串刺しにしてやりましょう」
「や、やめろ……誰か助けてくれぇぇぇ!!!!」
ウォドレーの悲痛な声が神殿中に響いた。
いかん、このまま放置していては騎士が串刺しになってしまう。
救出の機会を窺っていたがもう飛び出すしかない!
「私が注意を引くからダヤンはウォドレーさんを助けてあげて!
……今から使う『弾』が命中するのがベストなんだけど、
たぶん陽動で精一杯だと思うから……お願いね!」 そうして魔導砲を構える。今回投射する魔法は『誘導弾』だ。
感知した魔力源めがけて飛翔する爆裂魔法のことである。
自動追尾(ホーミング)で狙ってくれるので便利だがデコイに弱い欠点がある。
例えば魔法などを使われるだけですぐそっちに誘導されてしまう。
それならまだいいが、昔は発射した銃士の魔力を自動感知して
飛翔するとかいうとんでもない欠陥魔法ぶりだった。
流石にその点については改善されているらしいが……。
ポンコツエピソードが多いのであまり使いたくない。
「……いくよっ!」
柱の影から神殿内にある三つの魔力源を捕捉する。
出会った時ウォドレーに魔力は感じなかったので全部敵だ。
そして発射。三発の緑の光が弧を描いて、神殿の中へ吸い込まれていく。
「待て……あれは何だ?」
今まさにウォドレーを槍で串刺しにしようとしていたマーマンが上空を仰いだ。
三つの輝く緑の光が自分たちと『湖の乙女』目掛けて飛んでくるではないか。
『湖の乙女』は手から魔力の塊を三つほど浮かべると、空中に放り投げた。
魔力の囮(デコイ)だ。誘導弾はそちらに標的を変えて激突。
上空で激しく爆発する。すると閃光が神殿内に広がる。
神殿内の『湖の乙女』は動揺する様子もなく、こう言った。
「爆裂魔法か。マーマン、敵襲だ。処刑は後にしてなんとかしろ」
「は、ははっ。申し訳ありません……少々お待ちください」
どうやら目が眩んでいるらしい。ウォドレーを助けるならこのどさくさしかない。
ダヤンが神殿内へ飛び込めば二匹の槍もつ人魚、マーマンと美しい女性を見るだろう。
その女性は灰色の長い髪に鰭のような飾りをつけており、神殿の玉座に腰かけていた。
そして胸元に埋め込まれる形できらりと『闇の欠片』を光らせていたのだ。
【ウォドレーが残した白い石を頼りに神殿まで到着】
【騎士が串刺しにされる寸前に『誘導弾』を発射し敵を混乱させる】
【神殿内にはもう一人の『湖の乙女(?)』がいる様子】 >「……あっ。あんなところに白い石が落ちてる!
きっとウォドレーさんが落としていったに違いないよ!」
>「ウォドレーさんが抜け目ない人で良かった。
行こう、この石を辿っていけば見つかるはずだよ!」
ウォドレーが落としたのがパンの欠片じゃなくて石で良かった。
パンだったら魚のエサになって消えていたかもしれない。
やがて、神殿のような場所に辿り着く。
>「……お主はなんだ?我が体内に侵入して何をするつもりだった?」
>「……何度も言っただろう。この地に伝わる聖剣を探していたのだ。
だが、その最中に湖の主に飲み込まれてしまってこの次第だ」
どうやらウォドレーは女性と思われる何者かに捕らわれているようだ。
「”我が”体内……。ってことは女性の声の主は湖の主自身……?」
>「はん、そうであろうな。ここに来る人間はいつもそうだ。
我が湖を好き放題荒らす――忌々しい冒険者が!」
>「この湖に伝わる聖剣は勇者様の手中に収まるべきもの。
魔王が余計なことをしたせいで、今も眠ったままではあるが……。
本来ならあの御方の武器として振るわれ、伝説を残していたはずなのだ!」
「おっかないにゃ……」
これにはエールもげんなりした表情をしている。
>「ところで体内をうろうろしている二人はどうなっている?
罠にでも掛かって死んだか?それとも捕まえたのか」
>「罠を攻略したのち『湖の乙女』と遭遇したようです」
>「ふん……あやつを『湖の乙女』などと呼ぶな。
奴には最早なんの権能もない。今は私が『湖の乙女』……。
あの無能はここに神殿が建てられたことすら知らないだろうよ」
今度は女性の部下らしき者も登場している。
そしてこの女性もまた、湖の乙女を名乗っている。
>「あ……あのぉ〜。管理人さんって『湖の乙女』なんですよね?
神殿の中にもう一人いるみたいですけれど……」
「もしかして乗っ取られたにゃ……?」
湖の乙女(2人目)の言葉が真実だとすると、
湖の乙女(1人目)は昔はそれなりに力を持っていたが、今は2人目に実権を奪われたようだ。
真相は現時点では分からず、一人目あるいは二人目、もっと言えば両方が嘘をついている可能性もある。
あるいは二人とも嘘は言っていないとすれば……
長年来ることのない勇者を待ち焦がれるあまり闇の側面が分離してしまったのだろうか。
尚、そういう場合は闇の方にごっそり力を持っていかれるのは鉄板だ。
1人目から詳しく情報を聞いている暇などあるはずもなく、事態は進む。 >「まぁよいわ。判決を下す。中央大陸の騎士ウォドレーよ。
貴様は死刑だ。土足で我が湖を荒らした罪は重い。
処刑方法はマーマンに一任するとしよう」
>「ははっ。仰せの通りに。串刺しにしてやりましょう」
>「や、やめろ……誰か助けてくれぇぇぇ!!!!」
「死刑!? 厳しすぎるにゃ!!」
>「私が注意を引くからダヤンはウォドレーさんを助けてあげて!
……今から使う『弾』が命中するのがベストなんだけど、
たぶん陽動で精一杯だと思うから……お願いね!」
「分かったにゃ!」
>「……いくよっ!」
エールが魔導弾を撃つ。
自動追尾(ホーミング)機能の付いた技とのことで、それだけ聞くと超便利そうだ。
>「待て……あれは何だ?」
湖の乙女(二人目)は、3つの魔力の塊を空中に放つ。
誘導弾はあっさりそちらに標的を変えて激突した。
湖の乙女(2人目)は瞬時に状況を判断し、最適な対処法を繰り出したことになる。
かなりの手練れと思われるが、こちらもそこまで想定しており、陽動としては充分だ。
閃光が炸裂し、構えていない相手方は目がくらむことだろう。
>「爆裂魔法か。マーマン、敵襲だ。処刑は後にしてなんとかしろ」
>「は、ははっ。申し訳ありません……少々お待ちください」
乙女(2人目)が部下に命じた時には、ダヤンはすでにウォドレーの方に向かって飛び出していた。
足音を消して駆け寄り、すぐにウォドレーのもとに辿り着く。しかしそこではたと気付く。
辿り着いたところでそれなりに重装備の騎士を連れてどうやって逃げるのかということに!
「えいにゃー!」
駄目元で担ぎ上げてみると、ラッキーなことに意外にも軽く持ち上がった。
魔力的な水中だけあって、浮力が働いているらしい。
「何をやっておる、捕まえろ!」
「た、ただ今!!」
鬼上司、もとい乙女(2人目)の怒声が飛び、慌ててダヤンを捕まえようとする二人のマーマン。
しかしまだ目がくらんでいるらしく、微かな音を頼りになかなかいい線までいったものの
一瞬前までダヤンがいた場所で互いに衝突して目を回した。 「この役立たずどもがぁ!」
お局、もとい乙女(2人目)の怒鳴り声が響く。
一方のウォドレーをかついだダヤンはすたこらさっさとエールのもとまで退却。
「アイツ、闇の欠片持ってた……!」
ダヤンは乙女(2人目)の胸元に光る欠片を見逃していなかった。
ゴブリンキングの時は運よく勝てたものの、エルダートレントの時は謎の仮面男の介入がなければ負けていた。
そして当然、元が強いモンスターであるほど、闇の欠片によって強化された時の危険度も上がる。
仮に湖の乙女(1人目)が加勢してくれるとしても、このまま戦って勝てる保証はない。
しかし、闇の欠片を放置しておけば例えば湖の主が積極的に人を襲うようになったり、
今以上の被害が出るようになるかもしれない。
逡巡していると、湖の乙女(1人目)が口を開いた。
「通りで以前とは段違いの力を感じるわ……! 大変、破壊しなければ……!」
当然そういう展開になるよな、と思うダヤン。しかしその言葉には続きがあった。
「ここはあちらが作った神殿……。ここで戦えばあちらの有利になってしまうかも……」
向こうのホームグラウンドだから向こうに有利という可能性はあるだろう。
その上、ここは戦いやすい広い空間になっているが、道中はそうでもなかった。
“我が体内”と言っていたのを鑑みるに、狭い場所では自分の体が傷つきそうな大暴れはしにくいかもしれない。 救出に向かったダヤンがウォドレーを担いで戻ってきた。
正直後先考えずに助けたわけで、この後どうするかは考えてない。
どこへ逃げれば出口があるのか……エール達はそれすら知らないのだ。
このままでは捕まるのも時間の問題と言えよう。
>「アイツ、闇の欠片持ってた……!」
「え……?向こうの『湖の乙女』が闇の欠片を……!?」
『湖の乙女』の正体の謎が深まるばかりである。
憶測で語るのは可能だが、今ここで論じても仕方ない。
今の問題はどうやってこの局面を生き残るかだ。
>「通りで以前とは段違いの力を感じるわ……! 大変、破壊しなければ……!」
以前という呟きにエールは引っ掛かりを覚えた。
魔物を引き連れ自分と同じ『湖の乙女』を名乗る存在を知っていながら放置していたのか。
この人……やっぱ全然管理の仕事をしていない。というより権能を失って何もできないのか。
出口も分からず、逃げ場所もない。
ウォドレーを助けたいなら戦うしかない状況だ。
いや……同じく湖に無断で踏み入ったエールとダヤンだ。
もう一人の『湖の乙女』から言わせれば判決は死刑に違いない。
>「ここはあちらが作った神殿……。ここで戦えばあちらの有利になってしまうかも……」
「地の利ってやつですね。あ……そうだ。
ここに来る前に丁度良さそうな場所があったはず……!」
エールの発案により『ある場所』まで後退する一同。
先細りした巨大な柱がいくつも並ぶ、鍾乳洞のような場所である。
ここなら柱に身を隠せるのでダヤンの斥候としての特性も活かせる。
戦いのステージには申し分ないだろう。
「やばっ……もう追手が来たよ。作戦会議の時間もないみたい……!」
手持ちの双眼鏡(※エヴァーグリーンで揃えた持ち物のひとつ)で確認する。
神殿内にいた二匹の魔物、マーマンだ。後方には『湖の乙女』まで控えている。
まずは数の不利をひっくり返さなければどうにもならない。
「管理人さんと私でウォドレーさんを守りましょう。
ダヤンは柱の陰に隠れていて。不意をついて敵を仕留めるポジションね!」
短い時間内ではそれぐらいしか思いつかなかった。
管理人はどこまで戦えるか未知数なので当てにできない。
ここは自分とダヤンでなんとかしなければ、と覚悟を決める。 先細りした巨大な柱の陰で張っているとまずマーマンが先行して泳いでやってきた。
ここは息のできる魔法的な水中空間だ。ダヤンがウォドレーを担いだ時のように浮力が働く。
だから普通に歩くこともできればああいう風に泳いで移動もできるのか、とエールは納得した。
(もう一人の『湖の乙女』は遥か後方……まずはマーマンから仕留める!)
水中と同じ挙動ができるという事はマーマン本来の力が発揮できるということ。
素早く、獰猛で、武器を持ち、時には魔法さえも行使してくる厄介な敵ということ。
だが運の良いことにマーマンはまだこちらには気づいていない。チャンスだ。
(そこっ!)
容赦なくプラズマ弾を二発撃ち込む。
上手く不意を突けたらしい。青白い光が尾を引いて閃光走る!
「ギャァァァァーーーーッ!!」
断末魔の叫びを上げるマーマン二匹が地面に落下していく。
だがもう一人の『湖の乙女』にはこちらの位置を気づかれた。
「役立たずのマーマンが……まぁよいわ」
「残念ながらね!出口はどこっ!?
教えてくれないとマーマンと同じ目に遭うんだからね!」
エールは精一杯厳しい口調で脅してみた。
だがクスクスと意地悪く笑いながら無視されてしまう。
「そこにいたのか。もう一人の私もいるのか?
……面白い、良い機会だ。隠している『聖剣』を私に寄越すがいい。
湖の伝説を守る役割……完全に引き継いでやろう。お前はもう終わりなのだ」
灰色の髪をなびかせながら闇の欠片を持つ『湖の乙女』がそう言った。
彼女達の存在にはまだ謎が多い。だから口を挟まずにはいられない。
「もう一人の私……!?聖剣を守る『湖の乙女』が何で二人いるの!?
それにその胸元の『闇の欠片』は一体なんなの……!?」 もう一人の『湖の乙女』はエールを鋭く睨む。
ゴミを見るような冷たい目つきだ……。
「ふん、うるさい奴だ……貴様も死刑だな。
見てなんとなく分からないのか?想像力の足りない奴め……。
『闇の欠片』の力で分離こそしたが……私達は元々ひとつの存在だった」
もう一人の『湖の乙女』は語る。
『湖の乙女』とはこの湖に住まう巨大魚『アスピドケロン』の精神体。
聖剣を守る番人の魔物として生み出された彼女は心優しく穏やかな気性をしていた。
だが知的生命体ならそうであるように、良い心があれば悪い心もある。
最早現れることのない勇者のために聖剣を守り続けるという無意味な役割。
神聖な湖を穢す不届き者の冒険者達。負の情念は澱のように溜まっていく。
そしてある時『闇の欠片』をうっかり飲み込んでしまう。
負の情念は欠片の力で膨らみ、無理に負の側面を排出しようとした結果――。
『闇の欠片』を核としてもうひとつ人格が誕生した。
それが目の前にいる『湖の乙女』の正体である。
「ところでもう一人の体内をうろついていた奴はどこだ?
どうせどこかに隠れているんだろう。まぁ……関係ないがな」
話を終えたもう一人の『湖の乙女』の目の前に魔法陣が浮かぶ。
推察するに水魔法だろう。エールは反射的に柱の陰に隠れた。
「無駄だ。全員まとめて溺死するがいい」
そして魔法陣から放たれたのは圧倒的な大量の水――!
それが波濤となって一気に押し寄せてきたのだ。
エールも最初のうちはなんとか柱に掴まっていたが……。
「うわ――……!?」
引き剥がされてどこかへと流されてしまう。
放水が止む気配はなくどんどんと水位が上昇していく。
この鍾乳洞のような場所が『本当の水』で沈むまで終わることはないだろう。
だが、今こそ攻撃のチャンスでもある。
なぜならもう一人の『湖の乙女』がこんなことをするのは、
隠れていたダヤンの居場所が分からなかったからに違いないのだから。
【な、なんともう一人の『湖の乙女』の正体は巨大魚の悪い人格だった!】
【ダヤン達をまとめて殺すため水魔法によって放水を開始する】
【エールは波濤に飲み込まれてどこかへ流されてしまう】 相手の地の利を避けるため、鍾乳洞のような場所まで撤退する一同。
しかし、部下のマーマンたちがすぐに追いついてくる。
>「やばっ……もう追手が来たよ。作戦会議の時間もないみたい……!」
>「管理人さんと私でウォドレーさんを守りましょう。
ダヤンは柱の陰に隠れていて。不意をついて敵を仕留めるポジションね!」
「にゃん!」
マーマンは決して油断していい相手ではない。
ダヤンは柱の陰で、いつでも飛び出せるように身構える。
>「ギャァァァァーーーーッ!!」
が、うまく不意を突いたエールが魔導弾で難なく撃沈。エールは居場所を気付かれた。
前座は終わり、ついに真打との対決、となりそうだが、
別の柱の陰に隠れているダヤンにはまだ気づいていないようなので、もう少し隠れておくことにする。
>「役立たずのマーマンが……まぁよいわ」
>「残念ながらね!出口はどこっ!?
教えてくれないとマーマンと同じ目に遭うんだからね!」
精いっぱい強がって凄んでみせるエールだが、まったく相手にされなかった。
>「そこにいたのか。もう一人の私もいるのか?
……面白い、良い機会だ。隠している『聖剣』を私に寄越すがいい。
湖の伝説を守る役割……完全に引き継いでやろう。お前はもう終わりなのだ」
>「もう一人の私……!?聖剣を守る『湖の乙女』が何で二人いるの!?
それにその胸元の『闇の欠片』は一体なんなの……!?」
>「ふん、うるさい奴だ……貴様も死刑だな。
見てなんとなく分からないのか?想像力の足りない奴め……。
『闇の欠片』の力で分離こそしたが……私達は元々ひとつの存在だった」
改めて二人の湖の乙女を見比べるダヤン。
言われてみれば、あまりに雰囲気が違い過ぎて気が付かなかったが、
ベースの外見自体はなんとなく似ている気がする。
そして、湖の乙女(怖い方)は、自分達の境遇を語り始めた。
勝利を確信した敵が、何故か自発的に自らの境遇を語りだすことは珍しい事ではないという。
しかし、そんな時こそ逆転のチャンスだと以前マスターが言っていた。
勝利を確信して油断しているのと、話に夢中になっているので、隙が出来るからだ。
斥候技能の一つである隠密行動で、ダヤンは柱の陰から陰へと素早く移動し、
背後から不意打ちできそうな位置を陣取る。 >「ところでもう一人の体内をうろついていた奴はどこだ?
どうせどこかに隠れているんだろう。まぁ……関係ないがな」
>「無駄だ。全員まとめて溺死するがいい」
>「うわ――……!?」
魔法陣から大量の水が放たれたかと思うと、エールはあっという間に流されてしまった。
ダヤンは猫っぽく柱を登り、流されるのを回避する。
「にゃん!!」
そして柱から飛び降り様に湖の乙女(怖い方)に飛びつき、猫っぽく顔をひっかきまくる。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃッ!!」
「ぎゃあああああ! やめぬか糞猫!」
文字通りのキャットファイトが始まった。
湖の乙女(怖い方)の正体は闇の欠片によって強化された巨大魚の精神体。
本来敵う相手ではないはずだが、今のところはなんとかなっているのは魚に対する猫の相性補正なのかもしれない。
「にゃあ!」
隙をついて、闇の欠片をダガーで攻撃。しかし、傷一つ付かない。
「やっぱりそう簡単にはいかないにゃあ……何か凄い武器でもあれば……ん? 凄い武器?」
一計を案じたダヤンは湖の乙女(ポンコツの方)に声をかける。
「相手は自分自身だから戦えないんじゃないかにゃ?
代わりにエールとウォドレーさんを頼むにゃ!」
どこまで役に立つか分からない戦闘の加勢よりも、エール達の救出を要請した。
いくら権能を奪われたとはいえ、たとえ水の中であろうが自らの体内を自由に動き回ることは造作もないだろう。 「でも……」
「オイラは魚に対する猫だから大丈夫にゃ!
それにエールなら……もしかしたら聖剣が使えるかもしれないにゃ!」
「なんですって……!? 嘘よ! 聖剣が使えるのはもう来るはずの無い勇者だけ……」
「じゃあ、勇者の定義って何にゃ?」
「それは……邪悪なる野望から世界を救う者、みたいな……?」
湖の乙女(ポンコツ)はふわっとした答えを返した。ダヤンの狙い通りである。
「どうも今この迷宮内は闇の欠片っていうのが散らばってヤバイことが起こってるみたいだにゃ。
エールは闇の欠片絡みの事件をもう二回も解決してるんだにゃ! もしかして勇者かもしれないにゃ!」
これは別に深い意味は無く、聖剣があれば闇の欠片を破壊するのも簡単だろうな、
と思ったのでエールにダシになってもらっただけである。が、満更嘘でもない。
エールは決して迷宮を救おうとか思っているわけではなく、目的は飽くまでも姉を探すことなのだが。
「……分かったわ!」
湖の乙女(ポンコツの方)はうまく乗せられ、エールが流された方に勢いよく泳いでいった。
怖い方の口ぶりによると、聖剣の所有権はまだポンコツの方の手中にあり、
持ってこようと思えばすぐに持ってこられる状態なのだろう。
エールが救出された暁には聖剣の在り処に案内されるかもしれないし、
もしかしたらその場ですぐに出してくれるかもしれない。
ダヤンはそれからしばらくキャットファイトを続けていたが、やはりそう長くは続かない。
「散々手こずらせてくれたな、猫。だがそろそろ終わりぞ!」
「にぎゃ!!」
柱に叩きつけられてずるずるずり落ちて水に着水するダヤン。
「残念だったな……仲間はこぬ。とっくに溺れ死んでおるわ!」
「それはどうかにゃ……?」
ダヤンは猫だけど犬かきしてなんとか顔を水上に出す。そう、水から顔を出せるのだ。
途中で攻撃されて集中が途切れたためか、息が出来るスペースが残っているうちに魔法陣からの放水は途絶えたようだった。 波濤の勢いに押し流され、エールはどんどんとダヤンや『湖の乙女』達から離される。
すると眼前に巨大な岩壁が現れた。このスピードで激突したら負傷は免れない。
「きゃぁーっ!」
エールは思わず悲鳴を上げた。
だが次の瞬間、柱から伸びた手がエールの身体を抱き寄せ事なきを得る。
おそるおそる目を開けると、そこにはウォドレーがいた。
「大丈夫か?助けてもらった借りを返しにきた」
「ウォドレー、さん……」
窮地を救ってくれたのは聖剣を求めし騎士、ウォドレーだった。
右足を骨折しているにも関わらず、流されたエールを助けに来てくれたのだ。
エールは騎士に抱き寄せられたまま柱に掴まると、何度か深呼吸した。
自分が思っている以上に水に恐怖していたのだろう。心臓は早鐘を打っていた。
「大丈夫!?助けに来たわ!」
少し遅れて『湖の乙女』がやって来る。
すると、ちょうど水位の上昇も止まったようだった。
この場にいないのはダヤンだけ……もしかしたらダヤンのおかげかもしれない。
「聞いて。新時代の勇者、エール。今からあなたに聖剣を託します」
「えーっ。どういう……ことですか?」
「どういう……ことだ。話が飛躍していないか」
困惑するエールとウォドレーの反応を見て、
決め顔だった『湖の乙女』も若干困惑した表情に変わる。
「そんなこと……私に言われても……。
猫ちゃんが貴女を勇者かもしれないって言うから……つい……」
話を聞くと、どうやらダヤンが聖剣の力を借りて現状の打破を図ろうとしたようだ。
エールもその場の人情や依頼という形で『闇の欠片』に関わっているだけなのだが……。
世界の危機がどうこうとかで戦っているわけではない。 だがしかし、と『湖の乙女』は困惑した表情を張り詰めたものに戻す。
どちらにせよ今もう一人の『湖の乙女』を倒せる可能性があるのは聖剣だけだ。
なにせエールの必殺技『ハイペリオンバスター』は水中だと威力が減衰する欠点がある。
「『闇の欠片』のせいでもう一人の私が皆に迷惑をかけているのも事実。
エール、やはり貴女に聖剣を一時的に託そうと思います」
『湖の乙女』が両手を差し出すと、空間が徐々に形を成して剣が出現する。
それは透き通った水のような水晶質の剣だった。ウォドレーは思わず息を飲む。
欲していた聖剣が今目の前にあるのだから。
「これが……あらゆる世界に散らばるという五聖剣のひとつか……!
伝説に違わぬ美しさだ……しかし……かの剣は振るい手を自らの意思で決めると聞く。
聖剣が勇者ではなくエール殿に使われてくれるとよいのだが……!」
興奮した様子のウォドレーは早口でそう話した。
『湖の乙女』は静かにこう返す。
「大丈夫です。聖剣も貴女になら使われてもいいと言っています。
さぁ、エール。この剣を手に取り、戦いに終止符を打つのです……!」
「で、でも……私、銃士だよ。剣なんて使ったことないよ……。
たしかに棍棒みたいに適当に振り回すことはできるかもしれないけれど……」
「大丈夫だよエール殿。聖剣が認めてくれたのなら、持てば使い方は剣が教えてくれる。
きっと今まで使ってきた魔導砲のように自然と使いこなせるはずだ。私は剣マニアだから間違いない。
君にはその資格がある。誰でも選ばれるわけではないのだ。さぁ、迷わずに剣を取って」
エールを肩に抱くウォドレーが力強くそう言った。
そうだ。本来ならかの騎士こそが聖剣を振るいたいだろうに。
だが、一時的とはいえ聖剣が選んだのはエールだ。理由は分からないが……。
だから覚悟を決めた。この剣を探し求めたウォドレーのためにも、戦いを終わらせてみせる!
エールは乙女の差し出した手に収まる剣を取り、天高く掲げた。 一方。犬かきで水面から顔を出したダヤンを、闇人格の『湖の乙女』はクスクスと笑い飛ばした。
奴が時間稼ぎをしているのは分かる。そしてまるでゴミは見るかのような目でこう言うのだ。
「それはどうかにゃ?だと……?笑わせるな。
貴様らごときの力では私には傷一つつけられんわ……!
それともなんだ。来ても役に立たない援軍を信じて延々と時間を稼ぐつもりか?」
再び空間に新たな魔法陣が浮かぶ。
集中力が途切れて放水は止まってしまったが、ここまで水位が上がれば動きを封じたも同然。
後はゆっくりと料理すればいい。『水』を使った拷問でじわじわと苦めて殺してやろう――。
そう思った時。
「なんだ……?水位が下がっている?」
闇人格の『湖の乙女』が驚いた様子で周囲を見る。
目に見える勢いで嵩増した水位が下がっていくではないか。
渦を巻いて水が減っていく、その中心を凝視する。
そこには天高く水晶の剣を掲げたエールがいた。
「あれは湖の聖剣オードリュクス……!?なぜあの小娘がっ!?」
呟いたのは、魔王の手から多元世界を救った勇者が振るうはずだった聖剣の名。
その力は聖剣共通の能力である『浄化』――特に、水の浄化を得意とする。
あらゆる汚水もオードリュクスの力があれば真水へと浄化できる。
さらに水を自在に操り、水を集めて凝縮することで力に変換する。
すなわち――。
「これが湖の聖剣オードリュクス、そのファーストステージの能力。
周囲が水で満たされているほど……この剣は水を集めて強くなる……!
悪い『湖の乙女』さん!貴女の放水のおかげで湖の聖剣は力を発揮できるんだよっ!」
放水された水全てを収束して練り上げられたのは一本の長大な刀身だった。
聖剣はこの鍾乳洞のような場所を貫き、天を衝かんばかりの剣へと姿を変える。
ガードせねば――!エールがその剣を振り下ろすと同時に闇人格の乙女は魔法障壁を張った。
障壁と剣が激突する。胸元の『闇の欠片』が妖しく光り、障壁をより強固にする。
(いけない、魔力が足りない……!)
水の刀身の形成は聖剣の能力だが、それを制御するのはエール自身の魔力だ。
障壁と水の剣が激突する影響で刀身の水がどんどん散っていく。
このままでは刃が闇人格の『湖の乙女』に届くまでに刀身を維持できない。
誰か……魔力を有する者が共に剣を握り、刀身を形成しなければ勝機はない。
【湖の聖剣を乙女から一時的に借りることに成功】
【長大な水の剣で闇人格の『湖の乙女』へ攻撃するが防御される】
【水の剣の維持に魔力が必要。誰か手伝ってくれー!】 湖の聖剣オードリュクスについて:
かつて湖に住んでいたという水神が勇者のために創った聖なる剣。
水神は体内にダンジョンを持つ巨大魚『アスピドケロン』を生み出し、巨大魚に聖剣を守らせる。
だがその力を恐れた魔王が土地ごと無限迷宮に封印したことで誰の手にも渡ることなく眠り続けることになる。
柄から刀身に至るまで透き通った水のような水晶で出来ており、硝子細工にも似た美しさをもつ。
脆そうな反面非常に頑丈でその強度は伝説の金属オリハルコンやミスリルにも遜色しない。
聖剣の共通能力である魔物や魔族、アンデッドといった闇の存在が嫌がる『浄化』の力を持つ。
加えてオードリュクスはあらゆる水をも浄化でき、汚水も瞬時に真水へ変える。
その真の力は三段階に別れ、聖剣に深く認められるほどに力を解放できる。
【1st stage】
周辺の水を操ることができ、水を集めて力を向上させられる。
【2nd stage】
周辺に存在する魔力を集めて水に変換することができる。
【3rd stage】
生成した水、操る水を『聖水』に変化させる。
聖水の効力は強大で、魔物・魔族・アンデッドの類は触れるだけで消滅する。
……なお、一時的に聖剣を借りたエールは共通能力とファーストステージの能力のみ行使できるようだ。 >「それはどうかにゃ?だと……?笑わせるな。
貴様らごときの力では私には傷一つつけられんわ……!
それともなんだ。来ても役に立たない援軍を信じて延々と時間を稼ぐつもりか?」
「来ても役に立たない? そんなことにゃい!」
精いっぱい強気に振る舞うも、同じ空間に再び魔法陣が浮かぶ。
「お助けにゃーーーーー! 早く来てにゃーーーーー!」
このままでは万事急すと思われたが……
>「なんだ……?水位が下がっている?」
見る見るうちに水位が下がっていく。
その中心には、美しい剣を掲げたエールがいた。
>「あれは湖の聖剣オードリュクス……!?なぜあの小娘がっ!?」
「エール……!」
ダヤンの作戦が見事に当たった形になる。
エールは銃士なので剣術の心得はないだろうというのは分かってはいたが、
伝説レベルの武器というのは、その武器自体の技能はあまり関係がない場合も往々にしてあるのだ。
>「これが湖の聖剣オードリュクス、そのファーストステージの能力。
周囲が水で満たされているほど……この剣は水を集めて強くなる……!
悪い『湖の乙女』さん!貴女の放水のおかげで湖の聖剣は力を発揮できるんだよっ!」
水を集めて出来あがった長大な刀身と湖の乙女(闇人格)の作り出した魔法障壁がぶつかりあう。
「やっちゃえにゃーーーーー!」
このまま押し切れるかとも思われたが、
湖の乙女(闇)もさるもので、刀身の水がどんどん散っていく。
「これは……まずいんじゃないかにゃ……?」
「なにぶん刀身の制御自体は使い手自身の魔力で行うから……手伝ってあげて!」 と、湖の乙女(光)が解説する。
これだけの刀身を制御するのだ。きっと並大抵ではない魔力を消費するのだろう。
湖の乙女(光)が手伝ってやれよとも思うが、ダヤンが予測したとおり、自分自身とは戦えない仕様なのかもしれない。
これだけでは手伝わない理由はないが、湖の乙女(闇)が解説を追加する。
「良いのか? あの聖剣は気難しくてのう、誰にでも扱えるわけではない。
あの小娘はたまたま認められたようだが、気に入らない者が振れれば即刻ヘソを曲げるだろうよ」
「そんにゃ……!」
湖の乙女(闇)が言っていることはまるっきりの嘘ではないのかもしれないが、
わざわざそれを言ったのは、手伝われてうまくいかれたら分が悪いとからという面もあるだろう。
なにより、刀身はどんどん短くなっており、このままでは負けてしまう。
「……手伝うにゃ!」
ダヤンは一瞬の逡巡の後に、エールの隣に駆け寄り、ともに剣を握った。
「聖剣にゃん、気に入らにゃくても今は力を貸してにゃ……!」
刀身が、再び勢いを盛り返す。
「小癪な……。だがッ! 虫けらが何匹束になろうが同じことよ!」
忌々し気に吐き捨て、更に障壁を強化する湖の乙女(闇)。
暫く拮抗していたが、次第に障壁にひびが入っていく。
「なん……だと……!?」
「観念して一人に戻るにゃああああああああああああ!!」
ついに魔法障壁が決壊し、巨大な水の刀身が浄化の激流となり、湖の乙女(闇)に押し寄せる。 【いま742KBかぁ……創作発表板の容量って何KBまでなんだっけ……?】
【もしそろそろ容量いっぱいなら新スレ立てた方がいいよね……(私が立てていいのかな)】 【750kbぐらいだった気がするにゃ
でも不思議なことにこちらでは今の容量が1050KBと表示されてるんだにゃー
(おそらく閲覧環境の違いによるもの?)
もしここが落ちてから新スレでも迷子にはならないから大丈夫にゃよ】 >>481
【そうなのっ?専ブラ(Live5ch)からだと742KBって表示されてるんだよね……】
【じゃあ板のルール的に残すのも良くないしここが落ちてからスレ立てするね】 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています