僕が神殿騎士の名を問うと、彼女は恭しく答えてくれた。
神に仕えし者の慇懃な態度を前に、暗黒魔法の使い手たる僕はその光輝に焼かれそうになる。
まるで懺悔でもしてる気分だ。彼女の慇懃な雰囲気に接するとハジマーリの商人への恨み節が雲散霧消した。

>「わたくしのことは、ただ“192”とお呼びください。それがシャンバラの神殿騎士の習わしなのです」

ここからは少し申し訳ない話になる。
なんと神託の勇者達は出会って間もない神殿騎士に堂々と金を借りた。
勇者とは……僕達とは一体……うごごごご。借りた金で乗る馬は心地いいれす。

>「まずは……丁度経路上にあるケーユチ村を目指して行くのがいいかな」

東の聖都シャンバラ目指し、僕達はハジマーリの街を発つ。
慣れない鞍の上で手綱を引きながら二人の後をついていく。
実は馬に乗るの始めてなんだよね。
馬主が大人しい牝馬を選んでくれたのでなんとかなってるよ。

「よしよし、アルキュオネ!お腹は減った?喉は渇いてない?」

休憩中、借りた馬の名前を呼びながら水を差しだす。
するとアルキュオネは水をぴちゃぴちゃと飲み始めた。かわいい。
毛並みも綺麗だしいい子だな。返さなくちゃいけないのが惜しいよ。
まだ日も跨いでいないのに僕は早速愛着がわき始めていた。

「そうそう、キャトラ。冒険者ギルドで依頼を仕入れてきたよ。
 最近ケーユチ村の周りにゴブリンの棲家が出来たらしいんだ。
 作物にも被害が出ていて大変みたいだよ」

荷物から羊皮紙を一枚取り出して受領した依頼届をキャトラに見せた。
依頼者はケーユチ村。報酬は20万G(※1G=1円)。これで借りたお金は返せるよ。

「というわけでゴブリン退治で冒険の資金を稼ごう。
 20万ゴールドは割安だけど馬代を返してもお釣りがくるよ。
 192さん、シャンバラへの到着が若干遅れるかもしれないけど大丈夫かな……?」

連中は弱いけど武器を持っていて一般の人には危険な相手だ。
駆け出し冒険者が最も足下を掬われやすい相手でもある。気をつけないと。
僕は気を引き締めなおすとケーユチ村目指して旅を再開した。