ロスト・スペラー 19
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伯叔母は名をエニルヴァネットとドゥールビィと言う。
ルヴィエラの母オブラットは大悪魔プレーチェ三姉妹の次女であった。
城を追放されたルヴィエラは、更に逆襲が出来ない様に城に入れない呪いを掛けられる。
そこで彼女は幾つもの国を放浪して、城を取り戻すのに協力してくれそうな勇者を探した。
伯叔母は地上進攻の拠点として夢幻城を砦にする積もりだった。
これを知っていたルヴィエラは、人間に化けて予言者に扮し、地上世界の危機を訴えたが、
全く相手にされなかった。
失意の彼女は夢幻城へと続く森の近くにある街に戻り、その美貌で通行人を誘惑しながら、
その日暮らしをしていたが、ある日ボースティン・バドマフと言う勇者に出会う。
誠実で人が好く、少々思慮の足りない彼はルヴィエラの話を信じて、城を取り戻すのに協力した。
ルヴィエラは城に入れない自分の代わりに、母の遺した犬型の使い魔キング・アンゴルゴンを、
ボースティンに託して伯叔母の討伐を依頼した。
ルヴィエラは直接は戦えない物の、キング・アンゴルゴンを通じてボースティンを助け、
見事に伯叔母を打倒し、その力を吸収して悪魔公爵となった。
夢幻城を取り戻したルヴィエラは、夢幻の世界でも敵う物が無い程の領主となり、
以後彼女を脅かす物は現れなかった。 ボースティンの正体は、勇敢ではあるが、それだけの男だった。
冴えない傭兵崩れで、仕事も無く街を彷徨いていた所、ルヴィエラに声を掛けられて、
選ばれし勇者と煽てられ乗せられた。
彼はルヴィエラに一目惚れしていた。
性格は純朴な田舎者であり、頭が切れると言う事も無く、傭兵仲間には間抜けと笑われていた。
しかし、それでも生き延びているので、運は悪くなかった。
剣の腕の方は、それなりに立つのだが、然りとて無双の剣豪と言う訳でも無い。
ルヴィエラと協力しても、高位の悪魔貴族である伯叔母を倒せる実力は無かった。
これには裏があり、実は夢幻城にはルヴィエラの母であるオブラットの魂が宿っており、
ルヴィエラやボースティンを守って、伯叔母を打ち倒す為に力を添えていた。
ルヴィエラが母の加護に気付いたのは、ボースティンを夢幻城に送り込んだ後であり、
当初彼女はボースティンを使い捨ての駒としか考えていなかった。 城を取り戻した後に、ルヴィエラは褒美としてボースティンを自らの永遠の下僕にして、
死ぬまで側に置いた。
絶大な力を得ながら、彼女が地上の支配に乗り出さなかった理由は、ボースティンにある。
彼は地上をくれてやろうと言うルヴィエラに対して、それよりも共に平穏な日々を送る事を願った。
ボースティンは地上が戦乱に巻き込まれる事を望まず、愛する者と幸せな家庭を築くと言う、
平凡な夢を選んだ。
これをルヴィエラは詰まらない事だと思っていたが、勇敢なボースティンに惹かれていた彼女は、
彼の望む儘にした。
以後、ボースティンとルヴィエラは、それぞれバドとレラ(レラ・ダイナモーン)と名を変えて、
勇者と魔法使いの2人組の冒険者として活躍する。
尤も、公爵級となったルヴィエラが圧倒的に強く、ボースティンは彼女に守られる事が多かった。
それでもルヴィエラはボースティンを立てる為に、裏方に徹していた。
ボースティンが年老いると、ルヴィエラは彼に永遠の命を与えると言ったが、彼は不死を望まず、
愛する者の傍で永遠の眠りに就く事を選んだ。
ルヴィエラはボースティンに免じて、再び地上世界への進攻を企てる事をせず、悲しみに暮れながら、
夢幻の世界に引き篭もっていた。
彼女がファイセアルスに現れたのは、嘗ての地上が全て海に沈んだ為でもある。
ボースティンの愛した世界が失われ、誓いを守る価値を感じなくなったのだ。 地質学
地質学は歴史に関係する物でありながら、魔導師会の制限を受けない数少ない学問である。
地中から発掘された歴史的な価値のある遺物の鑑定は、考古学の扱いになるので、その調査には、
魔導師会が待ったを掛けるが、土その物を調べる事は自由である。
人類史は魔法大戦で断絶しているが、星の歴史は続いている。
過去の真実を求めて土を探る者は、それ程は多くないが、土地の状態を正確に知る事は、
天災や水害を防ぐ為にも、大規模工事を行う場合にも、大きな意味がある。
こうした者達は大半が専門学校の教授である。
「唯一大陸」が如何なる経過を辿って誕生した土地なのか、将来に如何なる変動が起こり得るか、
解明する事は、学会の主要な研究課題の一である。 唯一大陸の性質
唯一大陸に関しては不明な事が多いが、その大部分が嘗ては海中にあった事は事実と認定されている。
その証拠に地中から海洋生物や植物の死骸が多数発掘される。
地殻変動によって海底にあった物が隆起して、地上に現れたと言うのが、大体の見解である。
だが、大陸の各所に残る嘗ては陸地だった部分を見ると、不自然な部分が幾つかある。
先ず、唯一大陸は北半球から赤道に掛けて存在しているが、幾つかの遺跡や植生は、
旧暦には南半球にあった物と類似している。
又、唯一大陸の南方に旧暦の北方文化圏の物と思われる遺跡がある。
この事に関しては、幾つかの仮説があった。
最も現実的と考えられていた物が、「地軸傾斜」説である。
魔法大戦の後、或いは最中か直前に、地軸が傾いたと言う説だ。
「天体の落下」、「地上での大爆発」、「超巨大地震」等、原因に関しても様々な説があるが、
多少の違いこそあれ、とにかく地軸が傾斜した事に間違いは無いとされて「いた」。 しかし、ガンガー北極原に遺跡が発見され、その解明が進んだ魔法歴400年以降になると、
この不自然な部分は、少なくとも地軸の傾きが一因ではある物の、それだけが理由だとは、
言えなくなって来た。
北極圏に旧暦の遺跡があると言う事は、そこに幾許かの住民が居て、何等かの文化的活動を、
行っていた事を意味している。
地軸の傾きに就いて、これまでの説では、赤道付近に南半球の「引き裂かれた王都」が、
キーン半島に北方の文化と思しき「神殿跡」が、殆ど同緯度にあった事から、その方向は、
唯一大陸を正面に見て、反時計回りに数十度歪んだと考えられていた。
所が、北方の遺跡の構造が旧暦の赤道付近の文化に類似している事が判明して、学会は衝撃を受けた。
これ以前にも、幾つかの遺跡が旧暦の文化分布と一致しないと言う指摘はあったが、何分、
旧暦の事で余り資料も残っていない事から、未発見の文化か、或いは地理的誤差の範囲とされた。
「地軸傾斜」では説明し切れない事実に、これまで単純な誤りや誤差とされていた物も見直され、
その結果、誕生した新説が「大陸撹拌説」である。
旧暦の地上は魔法大戦によって分裂し、撹拌されて、出たら目な配置になってしまったとする説だ。
この説は唯一大陸に、旧暦の多くの文化や人種が集まっている理由とも合致する。 だが、この説も確定と言う訳では無い。
魔法大戦で地上が荒廃する事が有り得ても、大規模な地殻変動が起こったとしても、
「大陸撹拌」が現実的に有り得るかは別問題だ。
伝承にある魔法大戦の内容にしても、どれ程のエネルギーがあれば、それが可能かと言う問題は、
常に付き纏う。
地殻変動に関して、唯一大陸は3つの大きなプレートに乗っている事が知られており、
それぞれボルガ・プレート、ガンガー北プレート、大大陸プレートと呼ばれている。
大陸撹拌説が事実であれば、何時プレートが再構築されたのかと言う問題がある。
この事から大陸撹拌を否定して、飽くまで自然現象の延長であるとする「大陸大移動」説や、
それも非現実的と見做した「新地軸傾斜」説がある。
前者は何等かの働きで、地中の活動が活発化し、一時的にプレートの動きが加速したとする説。
後者は地軸傾斜が主要因で、その他の小さな要因が積み重なり、現在の地形になったとする説。
他にも表層移動説や大破壊説がある。 では、地質調査では何が判ったのかと言うと、唯一大陸の地下の大部分は、やはり海底であった事と、
遺跡の周辺の地質が他とは明らかに異なっていた事、更に同じく海底にあったと見られる地形でも、
地層が連続していない「断裂した」と見られる不整合があった事の3点である。
以上から、嘗ての大地は破壊されて、遺跡が唯一大陸の近辺に再配置されたと見るべきではあるが、
先述した様に唯一大陸上のプレートは3つしか無い。
よって地上の表層的な部分だけが移動した可能性が高く、表層移動説や大破壊説が有力になるかと、
思われたのだが、地層の不連続(不整合)は一部マントルにまで及んでいた。
これにより大破壊説を上回る「終局的大崩壊」説が誕生した。
大破壊説は地上の破壊によって、地表にあった建造物が遠くに飛ばされたと言う物だが、
終局的大崩壊説では建造物のみならず、大地その物が寸々(ずたずた)に引き裂かれたとする。
何れにしても、全ての説で何かしら整合の取れない問題があるので、言ってしまえば、
どの説も確定はしていないし、今後より説得力のある新説が発表されるかも知れない。
旧暦の地形を忠実に再現して、現在との変化を比較しようと言う試みもあるが……。
そもそも旧暦と魔法暦でプレートの構造が変わっている可能性もある上に、魔導師会が一部史料に、
閲覧制限を掛けている事から、その解明は困難と見られている。 詐欺
唯一大陸に於ける詐欺の形式には様々な物がある。
投資詐欺、魔法詐欺、商品詐欺、募金詐欺等々、年々新しい物が生まれ、数え切れない。
その主な『標的<ターゲット>』は老人、若者、そして魔法資質の低い者である。
主として、判断力の弱い人間が狙われる。
これに対抗する為に愚者の魔法を利用出来るのだが、事は簡単では無い。
先ず、愚者の魔法を相手に掛けると言う事が難しい。
見知らぬ相手に行き成り魔法を掛けるのは、失礼な事とされている。
だからと言って、当たり前の事だが、「掛けて良いですか?」「はい、どうぞ」とはならない。
縦しんば、相手の了解を得たとしても、素直に掛かってくれると思うのは早計だ。
相手に知られたくない事があれば抵抗するし、それは当然の権利で違法な事でも何でも無い。
寧ろ、相手の了解も得ずに愚者の魔法を掛ける方が、法的には危うい。
然りとて、相手に信用して貰わなければ、詐欺は成立しないので、詐欺師も手を考える。 その一つが嘘を吐かない事である。
詭弁だろうが何だろうが、嘘さえ吐かなければ、愚者の魔法も効果は無い。
詐欺師、又は詐欺を働こうとする者は、これを十分に承知している。
詐欺の実態を知らない第三者を介する事もある。
単純に使い走りを用意する場合もあるが、無限連鎖講――所謂「鼠講」も、これに該当する。
愚者の魔法に掛かったと見せ掛ける事もある。
魔法資質が十分に高く、魔法知識に優れた詐欺師は、これを得意とする。
最も厄介であり、魔導師崩れや元魔導師だけでなく、現役の魔導師が詐欺を働く事もあった。
理由は大抵、金に困っていたとか、仕事が無かったと言う物である。
結局の所、愚者の魔法も詐欺を完全に見抜ける物では無い為に、十分注意しなければならない。
究極的には、詐欺から自分の身を守るのは、自分自身の知恵と勇気なのだ。 詐欺師が魔導師会の関連人物や企業、研究を語る事は少ない。
これは魔導師会が絡むと、敵対行為と見做されて、徹底的に追及される為である。
では、魔導師会の関連する事柄ならば、絶対安心なのかと言うと、そうでも無い。
この類は発覚しなければ問題無いと言う考えから、徹底的に悪辣になるので、一般の詐欺より怖い。
酷い場合には、精神支配の魔法を掛けて、逆らえない様にする事もある。
他、記憶を奪ったり、暗示を掛けたりと、容赦が無く、非人道的な行いをする。
どんなに用心深い人物でも、魔法によって信用を刷り込まれると、大事な鍵や財布を渡してしまう。
金を奪われても、金があったと言う記憶が無ければ、奪われたと気付かない。
そもそも都市警察や魔導師会を頼ると言う選択肢を消されてしまう。
それが最も恐ろしい事なのだ。
こうした犯罪は大抵は家族や友人の指摘によって発覚するのだが、一人暮らしをしている人間は、
十分に気を付けなければならない。
行き成り見知らぬ友人や恋人、家族が現れて、貴方の財産を奪って行くかも知れない。
そして、貴方は見知らぬ存在を受け容れて、警戒する事も出来ないのだ。 これの対策の為に市民のコミュニティの結束は強い。
新しい土地では必ずと言って良い程、所謂「近所付き合い」を強制される。
それは互いの為なのだ。
コミュニティの規模は団地毎だったりアパート毎だったりと様々である。
独り暮らしは特に危険なので、最低でも両隣の住民とは付き合わなければならない。
田舎だろうが都会だろうが同じである。
そうした背景からコミュミティは「自警団」を結成する事もあるし、緊急手段として、
地下組織の手を借りる事も厭わない。
都市警察も巡回や戸別訪問を行っているが、戸別訪問では無理遣り踏み込む事も出来ないので、、
都市警察を信用しない様に洗脳されている場合や、元から都市警察を信用していない人、
対人恐怖症の人には余り効果が無い。
それに都市警察も人間なので、巡回も戸別訪問も形式だけの物になり易く、謂わば、
「仕事をした」と言う証拠作りの為に、重大事件を見過ごす事がある。
どうしても人付き合いは嫌だ、面倒臭いと言う人は、少なからず居る。
こうした者達は治安の維持に非協力的な「困った人」扱いされ、人付き合いが悪いだの、
根が暗いだのと言われる程度なら未だしも、最悪の場合、住民をより「良い人間」に入れ替える為、
追い出される事もある。
コミュニティを伝って、こうした「困った人」の噂は広がり易く、詐欺師は人の噂から、
孤立した者を狙って来る。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています