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ロスト・スペラー 19
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0001創る名無しに見る名無し
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2018/07/05(木) 21:21:14.20ID:79tLuu1L
何時まで続けられるか


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
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http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0258創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:36:34.05ID:uqr6tK0c
ダストマンの魔法で回復され、目覚めさせられたクーラーは、緩慢な所作で辺りを見回した。

 「……ああ、成功したのか」

現状を理解した彼は、安堵の息を吐く。

 「苦しかった、死ぬかと思った」

率直な感想を述べるクーラーをダストマンは笑った。

 「あの程度で死ぬ訳が無い。
  苦しみと死は別物だ」

これを聞いた、未だ薬を試していない力ある者達は、少なからず動揺した。
仮令、魔法資質の強化に成功しても、苦しむのは変わらないのだ。
苦しんで死ぬか、死ぬかと思う程に苦しむか……。
どちらも御免と言うのが、正直な気持ちだった。
だが、試さずに見ているだけなのを、ダストマンが許す訳も無い。
結局は、無理遣り試させられる事になるのだ。
そうした厭わしい空気を読み取り、これを改善しようとダストマンはクーラーから言葉を引き出す。

 「クーラー、今の気分を聞かせてくれ」

 「気分って……。
  一応、強くなった感覚はあるが」

困惑する彼に、ダストマンは注文を付けた。

 「皆が薬を試したくなる様な一言が良い」
0259創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:37:59.83ID:uqr6tK0c
漸くダストマンの意図を理解したクーラーだったが、生憎と良い言葉が思い浮かばない。

 「そうは言われても……。
  俺は上手く行ったけどなぁ……」

成功したクーラーも他人に勧める気はしなかった。
彼は魔法資質が増大した割に、自信過剰になって、尊大な口を利いたりしない。
それが潜入者は気に掛かって、直接尋ねた。

 「クーラー、高揚感は無いのか?」

 「ウーム、あの苦しみの後では、とても……」

クーラーの返答に、潜入者は納得する。
実は彼も魔法資質の増大は自覚している物の、全力を解放して限界を確かめてはいない。
魔法資質を高めると感覚も鋭くなるので、忽(うっか)り本気を出すと、初めて薬を服用した時の、
耐え難い不快感が再現され、自滅し兼ねないのだ。
繊細な制御に慣れない内は、迂闊に力を振るえない。
それが「強い薬」に適合する条件なのかと、潜入者は予想した。
力があるからと言って、平常時の制御を怠っていると、更に増大した力に呑まれてしまう。
ある程度の制御が可能な者のみが、「強い薬」に耐えられるのではと。
その予想を潜入者はダストマンに伝えようとした。

 「ダストマン、少し話がある」

 「何だ、ブロー?
  急を要する事か?」

緊急性が無ければ、無駄話はしたく無いと、ダストマンは明から様に嫌がった。
0260創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:40:30.46ID:uqr6tK0c
潜入者は内心で軽蔑しながら、ダストマンに自らの推論を伝える。

 「薬に適合するには、魔法資質の制御が出来ている必要があるんじゃないか?」

その発言に、ダストマンは呆れて見せた。

 「何を今更……」

 「魔法資質の制御が出来る者を、優先して――」

話を続けようとする潜入者を、ダストマンは遮る。

 「その『魔法資質の制御』とは具体的に、どうやるんだ?」
0261創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:49:18.26ID:uqr6tK0c
 「どうって……」

急に問われた潜入者は、答に窮する。
ダストマンは小さく溜め息を吐いて、解説を始めた。

 「魔法資質とは視力や聴力の様な物だ。
  魔力を感知する為には欠かせない。
  だが、視力や聴力の制御を意図して出来る者が居るか?
  人の目は近くの物を見れば近くに、遠くの物を見れば遠くに、勝手に調整されて焦点が合う。
  人の耳も騒音の中では自らを呼ぶ声さえ聞き逃すが、静寂の中では衣擦れの音さえ拾う。
  魔法資質の制御も似た様な物だ。
  それなりの心得が無ければ、自分の意思で魔法資質を抑えたり、解放したりは出来ない」

彼の指摘に、潜入者は何も言い返せなかった。
基本的に魔法資質が高くて困ると言う事は無い。
元々が常人並みの魔法資質であれば、尚の事、「抑える」と言う発想はしない。
それは潜入者も同じだ。
相手に警戒されない様に、又は威圧感を与えない様にする時には、『装飾品<アクセサリー>』を着けたり、
裏に呪文が刺繍された服を着る。
0262創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:29:50.05ID:9U9ZFZdh
沈黙した潜入者に、ダストマンは更に追い討ちを掛ける様に言った。

 「それに全員に試させるのだから、一々順番を決める必要は無かろう」

ダストマンは人の心が解らない訳では無いのだと、潜入者は思った。
彼とて真面に考えれば、人の心を推察する位は容易に出来るのだ。
但、それを今は敢えてしていない。
その理由は自らの力を誇示して、何人も逆らえない事を知らしめる為。

 (極悪人だな、こいつ)

人の心が解らないのであれば、未だ救いはある。
理解しているから、性質が悪い。
自分の目的の為ならば、平気で人の心ばかりか命をも踏み躙れる。
危険な人間だと不信の目を向ける「ブロー」に対して、ダストマンは一言付け加えた。

 「魔法資質の制御が出来ているからと言って、必ず成功する訳でも無い。
  ビートルは魔法資質を制御出来ている方だったが、失敗した」

それは言い訳でも何でも無い、単なる事実の指摘。
強い薬は「新薬」なのだ。
未だ効果が確かでは無い。
ダストマンは新薬を力ある者達にも使わせる事で、実験をしているに過ぎない。
シェバハの襲撃は新薬を試させる口実に過ぎない……。

 (余計な事を言ってしまった)

忠告等せずに自分だけ逃げれば良かったと、潜入者は後悔した。
シェバハの急襲を受けて、ダストマンは他の力ある者達と共に、死亡するべきだったと。
0263創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:31:17.08ID:9U9ZFZdh
それからダストマンによって、全員が薬を飲ませられた。
結果、ダストマンを除いた9人の力ある者達の内、強化に成功したのは4人で、後の5人は失敗。
ブロー、クーラー、ウェイバー、ソリダーが成功者となり、中でもソリダーの力の増大は凄まじかった。
彼だけは他の3人と違い、強化に際しても苦しまなかった。

 「フー、ハハハ!
  凄いな、この力は!
  尻込みしてたのが馬鹿みたいだ!
  ダストマン、もっと強い薬は無いのか?」

調子に乗ったソリダーは、更なる強化を求めたが、ダストマンは首を横に振る。

 「止めておいた方が良い。
  これ以上は体が保(も)たない」

 「あるのか?」

 「ここには無い。
  今は持っていないと言う意味だ」

 「次は持って来いよ」

ダストマンはソリダーの尊大な態度にも反抗せず、普通に受け流した。
更にソリダーは、他の力ある者達に向けて宣言する。

 「お前等、今日から俺がビートルの代わりに仕切るからな!
  誰か文句のある奴は……居る訳無えか、ハハハ!」

今まで序列が8位と低かった反動か、それとも元々そう言う性格だったのか、彼は遠慮をしない。
0264創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:32:22.68ID:9U9ZFZdh
好い気な物だと、潜入者は内心でソリダーを軽蔑した。
凶悪なダストマンの本性を無視して、増大した力に溺れる馬鹿としか言い様が無い。
そんな彼の思いが態度に表れていたのか、ソリダーは潜入者に突っ掛かる。

 「おい、ブロー!
  文句があるなら言えよ」

 「何も無い」

潜入者が目を伏せると、ソリダーは行き成り殴り掛かった。
不意打ちに、潜入者は反応が遅れるも、辛うじて直撃は避けたが……。
ソリダーの拳は潜入者の頬を殴り付け、その体を軽く2身は吹っ飛ばした。
潜入者は床に転がるも、痛みと眩暈を堪えて直ぐに立ち上がり、ソリダーを睨む。

 「何をする!」

彼の抗議にもソリダーは聞く耳を持たず、無視する様にダストマンに話し掛ける。

 「これで良いか?」

 「何の事だ?」

当のダストマンも困惑していた。
ソリダーは小さく息を吐き、暴行に及んだ理由を語った。

 「この力は、あんたの薬で得た物だ。
  あんたの協力無くして、今の俺達は無い。
  俺達は、あんたに感謝しないと行けない。
  ……少なくとも『俺は』、そう思ってる」

何と彼はダストマンに取り入って、恩を売ろうと考えているのだ。
0265創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:33:15.38ID:9U9ZFZdh
 「だが、こいつは力を貰ったにも拘らず、調子に乗って、あんたに歯向かった。
  だから制裁が必要だ」

彼の勝手な理屈に、ダストマンも呆れる。

 「頼んだ覚えは無いが」

 「俺は恩知らずを許せない性質でな」

それを聞いた潜入者は怒りを覚えた。
そもそもダストマンを止めようとしたのは、皆に無理遣り薬を服用させようとしていた為だ。
恩知らずは一体どちらなのか!
怒りの篭もった反抗的な目付きで、彼はソリダーを睨み続ける。

 「ビートルの時も、そうだったな。
  手前は直ぐに逆らう」

潜入者に迫るソリダーは、魔力を鎧の様に纏っている。
その魔法資質は、強化された筈の潜入者と比しても優に倍はあろう。
どう足掻いても勝てない。

 「表向きは従った様に見せ掛けても、裏では何を企んでるか、分かった物じゃない。
  その腐った性根が気に食わねえ」

だが、潜入者は堪らず反論した。
既に地下組織の人間であると明かした以上、侮辱に耐える訳には行かない。
これは面子の問題だ。

 「性根が腐ってるのは、手前の方だろうが!」
0266創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:37:25.27ID:9U9ZFZdh
それを受けてもソリダーは怒らず、逆に得意になって笑う。

 「そら見ろ、本性を現しやがった。
  ビートルは見逃したが、俺は甘くねえからな!」

彼は敵意を露に、再び潜入者に殴り掛かる。

 「歯向かう気も失せるまで、殴り倒してやる。
  覚悟しとけ」

最早ソリダーは潜入者が地下組織の人間だと言う事を、考慮しなくなっていた。
自信過剰になり、地下組織への恐れをも失っているのだ。
ソリダーの得意な魔法は、硬化。
自己の肉体のみならず、手に触れた物も硬化させられる。
但し、頭が余り良くないので、硬化の調整は大雑把であり、最大出力が基本。
程々に対象を硬化させて、破壊力を増すと言った知恵は無い。
それは有り難いのだが……。

 「死ねぃ!!」

ソリダーの動きは迅速で、荒事に慣れている潜入者であっても、捉えるのは難しい。
これは魔法資質の強化で、ソリダーの身体能力も上昇している為だ。
魔法資質の優位は魔法だけに留まらない。
魔法資質が高ければ、特に意識せずとも身体能力が増す。
筋力だけで無く、視力、聴力、免疫力までも。
本格的な強化には、身体能力強化魔法を使わなければならないが、人並みの魔法資質であっても、
魔法資質が低い同程度の筋力の者と比較して、数%程度は強くなる。
更に、持久力も強化されるので、とにかく魔法資質が低い者は不利だ。
0267創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:10:17.12ID:ON9NJXmB
潜入者は為す術も無く、凹々に殴られた。
ここで本気を出して戦う事にも、ソリダーに勝利する事にも意味は無かったので、防御に徹して、
相手の疲労を待った。
しかし、ソリダーは潜入者が気を失うまで、攻撃を止める積もりは無かった。
他の者達は傍観しているだけで、潜入者を庇ってくれる者も無く……。
力尽きて倒れる寸前の潜入者の耳に、ダストマンの声が聞こえる。

 「本当に殺すなよ」

 「ああ、分かってる」

舌打ちして答えるソリダー。

 「こいつで止めだ。
  大人しく寝とけ」

岩石の様な重さと硬さの拳で、頭を叩き潰され、潜入者は気絶した。
頭蓋の割れる音に、彼は死を覚悟した。
0268創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:10:49.49ID:ON9NJXmB
……その後、潜入者は同じく娯楽室で目覚める。
不思議と体の痛みは無い。
傍にはカードマンとトーチャー、カラバの3人が居た。

 「誰が俺を治療した?」

潜入者は先ず自分の頭の状態を確認しつつ、3人に尋ねる。
答えたのはカラバ。

 「カードマンだ。
  俺もカードマンに助けられた」
0269創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:12:32.64ID:ON9NJXmB
それを聞いて、今更潜入者はカラバが死んでいなかった事に驚く。

 「あんた、生きていたのか……」

 「ああ、何とかな。
  ビートルとワインダーは死んだが」

3人は共に魔法資質の強化に失敗した者達だ。
弱者同士で結託しているのかと、潜入者は失礼な事を考える。
そこに自分を引き込もうとしているのかと。
カラバに続いて、トーチャーが語る。

 「ソリダーの下で新しい序列が決まった。
  1位はソリダー、2位はダストマン、3位クーラー、4位ウェイバー、5位がブロー、あんた」

 「俺が5位?」

潜入者の魔法資質は、クーラーやウェイバー、ダストマンよりは上の筈だった。
トーチャーは潜入者の疑問に、頷いて答える。

 「実力順じゃないのさ。
  6位はカードマン、7位が俺、カラバは……死んだと思われてるから、序列には入っていない。
  後の2人は本当に死んだが」

潜入者は先んじて断りを入れる。

 「悪いが、俺は馴れ合う積もりは無い」

冷たく言い切った彼に、今度はカードマンが告げた。

 「君が魔導師会の走狗だと言う事は、既にダストマンには知られているぞ」
0270創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:13:31.56ID:ON9NJXmB
潜入者は目を見張って動揺した。

 「何だと?」

 「奴は君が気絶している間に、記憶を読んだ」

 「そんな事が――」

 「出来たんだ、奴には」

 「……だから、協力しないかって?」

彼が先を制して問うと、カードマンは素直に頷く。
しかし、潜入者は首を横に振った。

 「俺は序列にも地位にも興味が無い。
  ここに派遣された目的を果たせれば、それで良い」

それに対してカードマンは忠告を続ける。

 「この儘では、目的は果たせない。
  君は魔導師会の狗だと知られてしまっている」

 「何の問題が?
  俺は飽くまで、忠臣の集いの実態を暴くだけだ」

 「では、どこで報告する?
  魔導師と接触する為には、ここを離れる必要があるだろう」

離脱のタイミングを問われて、潜入者は答え倦ねた。
ソリダーもダストマンも彼を警戒しているので、自由行動は許されないだろう。
0271創る名無しに見る名無し
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2018/09/23(日) 18:47:47.14ID:OBQ3v2eI
潜入者は改めてカードマンに問う。

 「協力って何をすれば良いんだ?」

 「差し当たって、シェバハの襲撃に備える」

 「……備えると言っても、俺達に出来る事は無いと思うけどな。
  適当に逃げ回ってりゃ、その間にダストマンが片付けてくれるさ」

 「確かに、シェバハの相手はダストマンに任せておけば良い。
  だが、私達には別の目的がある」

 「別の目的?」

 「ソリダーを殺す」

物騒なカードマンの発言に、潜入者は目を見開いた。

 「本気か?」

 「冗談で、こんな事は言わない」

小さく笑うカードマンには、余裕がある様に見える。
ダストマンと同じ位、得体の知れない男だと、潜入者は少し警戒した。
カードマンは続ける。

 「ダストマンはシェバハの相手で精一杯と言った所だろう。
  奴も大勢を相手には出来ないだろうから、少数に分断して戦う。
  ソリダーは自信過剰な性格から、必ず残ったシェバハの者と対峙する。
  そこを背後から撃つ」
0272創る名無しに見る名無し
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2018/09/23(日) 18:49:53.22ID:OBQ3v2eI
果たして上手く行くのかと、潜入者は怪しんだ。
ソリダーの実力を甘く見ているのでは無いかと。
潜入者の表情から気弱さを読み取ったカードマンは告げる。

 「ここでソリダーを討たなければ、次の機会が何時訪れるか分からない。
  ソリダーはダストマンを信頼している。
  引き離すのは困難だろう」

とにかく傲慢で高圧的なソリダーを排除すると、カードマンは決意している。
潜入者はトーチャーとカラバを一顧した。

 「あんた等は、どう思ってるんだ?
  この作戦、上手く行くと思うか?」

トーチャーが答える。

 「上手く行かせる為に協力して欲しいんだよ、ブロー。
  正直、ソリダーには付いて行けない。
  あれならビートルの方が増しだった」

それにカラバも頷いた。

 「ビートルは良いリーダーとは言えなかったけど、悪い奴じゃ無かった。
  それに比べて……。
  ソリダーは俄かに強くなって、自分を見失っているのか、それとも……。
  『あれ』が本性なのか」

ソリダーは間違い無く実力はあるが、人望の方は全く無かった。
元々序列が低く、信頼も何も無かった者が、行き成り上に立って、振る舞い方が分からない。
だから、取り敢えず高圧的になる。
そう言う事もあろうと、潜入者は考える。
0273創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/23(日) 18:50:50.72ID:OBQ3v2eI
凹々に殴られた恨みもあるので、ソリダーを潰す事に、潜入者は全く異論が無かった。
だが、危険では無いかとも思う。

 「ソリダーがシェバハと戦う邪魔をするのは良いが、下手をするとシェバハに、
  纏めて攻撃されないか?
  シェバハが矛先をこちらに向けたら、どうする?」

 「その点は心配無い」

嫌に強気にカードマンが断言するので、潜入者は感付いた。
彼は小声で尋ねる。

 「もしかして、カードマン……。
  あんたも『潜入者<インフィルトレイター>』なのか?」

 「その話は人に聞かれない所でしよう」

 「あ、ああ」

同じく小声で囁き返したカードマンの妖しい眼光に、潜入者は息を呑んで小さく頷く。

 (徒者では無いと思っていたが、本当に潜入者だとはな。
  俺より先に潜り込んでたのか……。
  どこの組織の者だ?)

地下組織には忠臣の集いを警戒している所は無かった筈だと、彼は訝った。
忠臣の集いは飽くまで、潰れ掛けの組織が看板を掛け替えた物。
ここと手を組もうと言う所は無く、逆に警戒する所も無かった。
遅かれ早かれ潰れるのだから、距離を取って関わらない様にすべきとの意見が大半だった。
態々潜入者を派遣する必要があるとは思えない。
0274創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/24(月) 18:55:37.90ID:G+wgNg9u
 (シェバハ……なのか?
  あの狂信者集団が潜入者を送り込むとは……)

カードマンがシェバハの構成員かも知れないと感じ、潜入者は内心で震えた。

 (惜しいが、薬の事は諦めるしか無い。
  薬を使ったのは、忠臣の集いに潜入する為、仕方無く……と言う事にしてしまおう。
  シェバハに目を付けられたら、死ぬまで追い込まれる)

シェバハの恐ろしさは、地下組織の人間なら誰でも知っている。
一度狙われたら、その命は無い物と思って良い。
強い薬を密かに持ち帰ろうとしていた潜入者は、その計画を放棄した。
欲を張って命を捨てる程、彼は愚かでは無かった。
カードマンは話を続ける。

 「先も言ったが、自信過剰になったソリダーは、必ずシェバハと戦う。
  私達は撤退する振りをして、ソリダーに攻撃を仕掛ける」

その企みが上手く行くのか、潜入者は未だ疑問を捨て切れなかった。

 「ソリダーは先に俺達を戦わせようとするんじゃないか?
  忠誠心を確かめるとか何とか言って」

 「その可能性はある。
  だが、私達だけを戦わせて、自分だけ傍観する事はあり得ない」

 「いや、その、そうなったら誰が背後を撃つのかって話なんだが……」

潜入者の指摘にも、カードマンは余裕を崩さなかった。

 「手は打ってある。
  『そうならなかったら』、君も協力して欲しい」

 「手ってのは?」
0275創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/24(月) 18:57:54.16ID:G+wgNg9u
純粋に疑問だった潜入者は率直に尋ねた。
カードマンは不敵な笑みを浮かべる。

 「それは教えられない。
  最後の手段だからな。
  とにかく、腹案はある」

 「信じろと?」

 「別に信じなくても良い。
  もし先に戦わされた場合、君は何も出来ないのだから、裏切るも裏切らないも無い」

彼が何をしたいのか、潜入者は解らなかった。
恐らく、カードマンは単独でもソリダーの背後を撃てる秘策を用意している。
……ならば、何の為に協力者を集めているのだろうか?
トーチャーもカラバも疑問に思わないのだろうか?
誰にも言わず、黙って実行した方が、『危険<リスク>』は少ないと思われるが……。
猜疑心の強い潜入者は、邪推せずには居られない。
態と裏切らせ、告げ口する事で、ソリダーの信用を得ようと企んでいる可能性もある。

 (それは流石に疑り過ぎか……)

そうでは無いとして、カードマンが協力者を集めなければならない理由を、潜入者は探した。
誰にも知らせず、唐突にカードマンがソリダーを背後から撃ったら、他の力ある者達は、
どんな反応をするか……?
当然、裏切り者としてカードマンを始末しようとするだろう。
それを避ける為に、理解者が必要なのであれば、納得は行く。

 (しかし、シェバハが味方なら、あちらに付けば良いだけの気もする。
  もしかしてシェバハの構成員では無いって事があるのか?
  それとも奴なりの『選別』なのだろうか……)
0276創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/24(月) 18:59:48.50ID:G+wgNg9u
「選別」とは処分する対象と、そうで無い者を分ける事だ。
ここで協力する意思さえ見せておけば、シェバハに処分されずに済む。
これは究極的にはシェバハに付くか、力ある者に留まるかの二者択一である。
どちらが勝つと思っているのか?
ソリダーと他の力ある者達だけなら、迷わずシェバハに付いたのだが、ダストマンが居ては……。
中々前向きな返事をしない潜入者に、カードマンは痺れを切らした様に迫った。

 「それで結局、どうするんだ?
  曖昧な態度を取られては困る」

潜入者は回答する前に、質問を重ねた。

 「もし、俺が付かなかったら、どうするんだ?」

 「それでも計画は実行される。
  全て滞り無く」

 「俺が裏切るとは思わないのか?」

 「思わない」

カードマンに断言された潜入者は、困り顔で眉間を押さえた。
忠臣の集いに乗り換えても、ダストマンに付いて行っても、未来があるとは思えない。
それだけは潜入者の中で明確だ。
詰まる所、カードマンに付くしか選択は無い。
0277創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/25(火) 18:44:42.03ID:jS3viCgq
潜入者は溜め息と共に頷く。

 「……分かったよ、あんたの案に乗ろう。
  所で、クーラーやウェイバーにも、この話をするのか?」

 「一応は。
  君程、強くは誘わないが」

 「告げ口されるとは思わないのか?」

 「されるかもな。
  どうあれ、失敗はしないさ」

その自信は、どこから来るのか……。
寧ろ、告げ口される事を望んでいる様ですらある。

 (得体の知れない男だ)

協力するとは言った物の、潜入者はカードマンを完全には信用しなかった。

 (シェバハの襲撃が本当にあるのかも分からないのにな。
  それも俺が迂闊な事を言った所為か)

元は自分が蒔いた種、人死にが出た事に彼は責任を感じる。
これでシェバハの襲撃が無ければ、無用な騒動を起こしただけの道化だ。

 (ここまで来たら、成る様にしか成らないか……)

潜入者は思考を放棄して、成り行きに運命を任せる事にした。
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/25(火) 18:46:13.07ID:jS3viCgq
それでも状況を把握する事は怠らない。
潜入者はカードマンとは離れて、トーチャーとカラバを探した。
自ら情勢を動かす事は出来なくとも、情報さえあれば、身の振り方が変わる。

 (しかし、楽な仕事だと思ったんだがな……。
  この場には『舵取り<ウィーラー>』が多過ぎる)

ゲームのプレイヤーには3種類が居る。
自ら主導して場を動かそうとする『操舵手<ウィーラー>』と、それに乗る『客<パッセンジャー>』と、
流される儘の『追随者<フォロワー>』だ。
同意の下に従う仲間とも言える存在が客で、単純に利用されるだけなのが追随者。
ゲームを動かして行くのは操舵手である。
『力ある者<インフルエンサー>』を、寄せ集められた無能の集団だと甘く見ていた潜入者は、
機を見て自分が舵を取って集団を動かす積もりだった。
ビートルでさえ操舵手にはなれないと感じていた。
所が、実際はダストマンが真の操舵手であり、更にはカードマンも動き出している。

 (面倒臭ぇ……)

潜入者は内心で毒吐く。
今日は1日が長い。
0279創る名無しに見る名無し
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2018/09/25(火) 18:48:08.37ID:jS3viCgq
一旦娯楽室で解散した後、潜入者は改めてトーチャーとカラバを探す。
カードマン抜きで聞きたい事があったのだ。
そんな彼にカードマンの方から接触して来た。

 「ブロー、話がある」

一体何の事かと潜入者は眉を顰めたが、直ぐに思い出す。

 「ああ、例の話か」

カードマンも又、潜入者だった。

 「君は魔導師では無いんだな?」

念を押す様な彼の問い掛けに、潜入者は頷く。

 「そうだ、俺は地下組織の人間だ。
  ある魔導師から依頼を受けて、ここに潜入した」

 「それは誰だ?」

 「答えられる訳が無い。
  個人的に請け負った仕事で、公式な物じゃないからな」

魔導師会が地下組織を頼る筈が無いのだ。
これは一魔導師の個人的な依頼に過ぎない。
魔導師会が潜入者を送り込むのであれば、執行者を使う。
地下組織は飽くまで、法的には認められない存在。
現状が非常事態とは言え、魔導師会が不法な存在を頼る事は無い筈である。
今度は潜入者から、カードマンに問う。

 「あんたは、どこの人間なんだ?」
0280創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:38:53.50ID:SNoUrDvY
重要且つ、決定的な問である。
返答次第で、潜入者は行動に出なければ行けないかも知れない。
カードマンは本の少しの間を置いて、こう答えた。

 「私は地下組織の人間では無いんだ」

どこの人間かと聞いているのに、その返答は無いだろうと、潜入者は怪しむ。
しかし、これも重要な情報ではある。
カードマンはシェバハの人間でも無いと言う事なのだから。

 「堅気の人間なのか?」

 「堅気と言えば堅気だが、一般的に何と言うかは難しい所だな」

 「……もしかして、官公の人間なのか?
  都市警察の潜入捜査官、それとも魔導師会……?」

本当に魔導師会が出張って来ると、潜入者は思わなかったが、カードマンは何と答えた物か、
迷っている様子。
やがて、カードマンは曖昧に答える。

 「そっち方面だと思って貰って良い」

潜入者は解釈に困った。
恐らくは、自分と似た様な立場の者だろうとは思うが、都市警察や魔導師会が公的な立場から、
直接関係の無い人間を雇うとは考え難い。
都市警察や魔導師と個人的な繋がりでも無い限りは。
0281創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:40:30.74ID:SNoUrDvY
潜入者は更に問う。

 「あんたにとって本当に排除すべきなのは、ソリダーかダストマンか、どっちだ?」

これにカードマンは迷わず答えた。

 「ダストマンだ」

 「何故?」

 「MAD擬きを、これ以上広めさせては行けない」

彼の中に強い使命感を見た潜入者は、本当に官公の人間だと確信する。

 「……それだけではない。
  彼からは危険な臭いがする。
  彼を排除するべきだと、君も思っている筈だ」

そう続けるカードマンに、潜入者は敢えて頷かなかった。
危険な臭いがすると言うのには、全く同感だった。
出来る事なら排除したいが、同時に、そう簡単には排除出来ないとも理解している。
だったら、ダストマンと一時的に手を組んで、忠臣の集いの内情を暴く事を優先するべきだと、
妥協していた。
所が、カードマンは忠臣の集いよりも、ダストマンの排除を優先したいと見える。

 (俺とは別口の捜査なのかもな)

それはカードマンがMAD関連の捜査で潜入した為であれば、得心が行く。
潜入の目的を取り違える様では、素人と変わらない。
0282創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:41:34.09ID:SNoUrDvY
カードマンは頷かない潜入者に、不満を見せる。

 「……思わないのか?」

 「確かに、ダストマンは危険人物だ。
  そこは全く同意する。
  だが、俺の目的は飽くまで忠臣の集いの調査だ。
  ダストマンは忠臣の集いからは遠い」

そうは言うが、実際はダストマンと今以上に関係を悪くしたくないと言うのが、潜入者の本音だった。
人間的な感情の希薄な、底の知れない不気味な男とは、敵対したくない。

 「多分、あんたと俺では目的が違う」

 「分かった」

カードマンは残念そうに静かに頷くと、速やかに立ち去った。
潜入者は改めて、トーチャーとカラバを探す。
あの2人は本当にカードマンに付いて行く気なのか?
それとも表向き従っているだけで、裏切る積もりなのか?
そこを明らかにしなければ、カードマンの真意も見えて来ない。
この2人が全く何の忠誠心も、通すべき義理も持ち合わせていないとなれば……。
果たして、カードマンは間抜けにも、それに気付かないで、事を進めようとしているのか?
そんな事が有り得るか?
0283創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:44:28.93ID:pPF343Fu
もう日も暮れようかと言う頃に、潜入者は漸くトーチャーとカラバを探し当てた。
2人は嘗て自分達が使っていたのとも違う、未使用の空き部屋で寛いでいた。

 「ここに居たのか!
  トーチャー、カラバ、話がある」

 「何だ?」

声を上げたのはトーチャー。
潜入者は2人を確り見据えて、真面目に問い掛ける。

 「2人は、どこまでカードマンを信用している?」

これにはトーチャーもカラバも動揺した。

 「どこまでって、あんたは信用してないのか?」

トーチャーの問に、潜入者は静かに答えた。

 「今の所は、裏切る積もりは無い。
  完全に信用している訳じゃ無いが、カードマンの案には乗っても良いと思っている。
  あんた等の方は、どうなんだ?」

改めて問われ、トーチャーはカラバを一瞥して、こう言う。

 「俺達も裏切る積もりは無い。
  完全には信用してないが、案には乗っても良い。
  そっちと似た様な物だ」
0284創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:45:13.70ID:pPF343Fu
潜入者は視線をトーチャーからカラバに移して、尚も問うた。

 「カラバ、あんたの意見も聞かせてくれ」

 「えっ、俺……?」

先程からカラバは沈黙して、トーチャーが代わりに喋っている。
直接本人の口から聞かなくては本心か判らないと、潜入者は考えていた。

 「お、俺もトーチャーと同じだ」

 「同じとは?」

どうもカラバは付和雷同の気がある。
彼は事を起こす段階になって、怖気付くかも知れない。
そうさせない為に、ここで言質を取ろうと、潜入者は鋭く問い詰めた。
カラバは狼狽えながらも、確りと言い切る。

 「今の所は、裏切る積もりは無い」

 「それだけか?」

 「な、何だよ、俺が裏切ると思ってるのか?」

更に問われ、疑われていると感じたカラバは、切れ気味に問い返す。
それを潜入者は威圧的な態度で押し切った。

 「絶対に裏切らないと言えるか」

カラバは沈黙してしまった。
0285創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:47:19.91ID:pPF343Fu
トーチャーがカラバを庇う様に、潜入者に言う。

 「お前だって、絶対に裏切らないとは言えないだろう?
  『今の所は』って、保険を掛ける様な事を言った癖に」

潜入者は今度はトーチャーだけを見詰めて問う。

 「では、どんな時なら裏切る?」

 「どんなって……、だから、別に裏切る積もりは……」

 「誰かに計画を密告された時か」

潜入者は敢えて、「密告」の可能性を口にした。
トーチャーは彼に疑いの眼差しを向ける。

 「正か、お前密告しようとか考えてるんじゃないだろうな?」

潜入者は冷静に否定した。

 「そんな積もりは無い。
  俺はソリダーに嫌われているからな。
  密告したって、信じて貰えるか分からない。
  媚売りや点数稼ぎと思われるのも癪だ」

それを受けて、トーチャーも威勢良く否定する。

 「俺達だって、密告なんかしやしない!」

彼は視線をカラバに向けて、同意を求めた。
カラバも頷く。

 「そうだ、そうだ!
  密告なんか、誰が……」

潜入者は全く信じていないが、この場は引き下がる事にした。

 「分かったよ、疑って悪かった。
  あんた等が、どれだけ本気が知りたくてな。
  本当にシェバハが攻めて来ると決まった訳でも無いんだ。
  余り深刻に考えるなよ」
0286創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:48:16.32ID:pPF343Fu
それだけ言うと、彼は立ち去る。
内心ではトーチャーやカラバが裏切る可能性を真剣に考えていた。

 (カラバは自分から積極的に動く様な性格には見えなかった。
  可能性があるとしたら、トーチャーか)

「ブロー」は腕試しでトーチャーを叩き伸めした。
悪意があっての事では無いが、痛め付けられて恨みに思わない人間は少ない。
トーチャーがブローやカードマンを売って、ソリダーやダストマンに取り入る事は、十分に考えられる。

 (今ので釘は刺した積もりだが、一度決心した人間を止めるのは無理だからな……。
  どの道、実際にシェバハが攻めて来るまでは、誰も事を起こそうとしないだろう。
  カードマンは告げ口されても構わないと言う様な態度だったが、何を企んでいるのやら)

潜入者はシェバハが攻めて来る事を望んでいなかった。
確かに、ソリダーやダストマンは気に入らないが、彼等と敵対するのはリスクが大きい。
本当にカードマンに付くべきなのかも、未だ迷いがある。

 (ソリダーは一方的にダストマンを贔屓しているが、ダストマンは恩義を感じてはいまい。
  奴の事だから、利用するだけ利用して、危なくなれば冷淡に見捨てるだろう。
  だが、シェバハはダストマンを追い詰められるか?
  もし片手間に片付けられる様なら、ダストマンはソリダーを助けるかも知れない)

ソリダーとダストマンの分断が成功する見込みも、疑わしい部分がある。
カードマンは何かを隠しているが、それはソリダーとダストマンを同時に敵に回しても、
平気な物なのか?
……独りで考えても分からない。
今の潜入者に出来る事は、時を待つ事だけ。
0287創る名無しに見る名無し
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2018/09/28(金) 19:41:24.56ID:l5KajgDb
シェバハの襲撃があったのは、その日から4日後の深夜だった。
シェバハの襲撃はブローが予想しただけで、何も起こらないのではと皆が思い始めた頃。
潜入者は既に就寝していたが、カードマン本人が起こしに来た。

 「起きろ、遂にシェバハが来たぞ」

潜入者は反射的に飛び起きて、カードマンに尋ねる。

 「本当か!?
  今、どうなっている!」

眠りが浅いのは、彼の職業病だ。
カードマンは真剣な声で、冷静に答えた。

 「既に施設は包囲されている。
  何人かは中に侵入した様だ。
  ソリダーやダストマンと共にシェバハと戦う気が無いなら、私と一緒に来い」

 「トーチャーとカラバは?」

 「既に退避済みだ」

潜入者は素直にカードマンに従った。
ダストマンを裏切る事になるが、そもそも今から合流出来るか怪しい。
ここに残って、単独でシェバハと対面しよう物なら、即座に殺される。
シェバハにとっては、この施設に居る者達、全員が「敵」なのだ。
今はカードマンがシェバハと通じている事を信じるしか無い。
0288創る名無しに見る名無し
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2018/09/28(金) 19:42:14.21ID:l5KajgDb
潜入者は移動中もカードマンに尋ねる。

 「俺達以外の連中は、未だ寝ているのか?」

 「分からない……が、眠った儘で大人しく殺されるとは考え難い」

 「ソリダーを殺るって話は、どうなった?」

 「後回しだ。
  シェバハの展開が予想以上に早かった。
  よく訓練されている」

カードマンは答えながら、周囲の気配を探る様に、慎重に移動していた。
誰かと鉢合わせるのを避ける為なのだろうが、それは力ある者なのか、それともシェバハなのか、
或いは両方なのか……。
潜入者は索敵をカードマンに任せ、自分は魔法資質を抑える。
無闇に魔法で索敵すると、逆に相手に自分の存在を教え兼ねない。
シェバハは魔導師崩れの集団で、侮る事は出来ない。
カードマンの索敵が優れているのか、2人は誰にも会わず、施設の玄関まで来た。
しかし、そこで背後から声が掛かる。

 「この非常時に、どこへ行こうと言うのかな?」

声の主はダストマン。
夜闇の中、彼は埃を纏わない姿で、薄ら笑いを浮かべている。
振り返った潜入者は自ら話を主導する事で、逃げようとしていた事実を誤魔化そうとした。

 「ダストマン、無事だったか!
  他の奴等は?」

ダストマンは真顔で答える。

 「運動場の辺りでシェバハと交戦中だ」

 「え……あんたは?」

 「私の事は良い、今は貴様等だ。
  騒動に乗じて逃げ出すのは許さない」
0289創る名無しに見る名無し
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2018/09/28(金) 19:43:44.65ID:l5KajgDb
 「やってる場合かよ」

潜入者は愕然とした。
この非常時に敵を排除する事より、逃げ出す仲間を止める事を優先するのかと。
最大の戦力であるダストマンが離れて、残された他の者達は、どうなるのか?
心配する潜入者に、カードマンが声を掛ける。

 「何をしている、ブロー?
  そんな奴に構うな」

 「ああ……」

ダストマンから視線を外さずに潜入者は生返事をする。
彼は改めて、ダストマンに問い掛けた。

 「作戦と違うじゃないか!
  あんたが離れて大丈夫なのか」

 「問題は無い」

その返答が潜入者には信じられない。

 「問題無い事は無いだろう!」

 「何を怒る事がある?
  自分だけ逃げ出そうとしていた貴様が」

それに関しては潜入者は何も言い返せなかった。
シェバハの急襲を受けて、他の者達を助けにも向かわず、脱出しようとしていたのは事実。
ダストマンと話している潜入者を、カードマンが急かす。

 「構うな、早く行くぞ!」
0290創る名無しに見る名無し
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2018/09/28(金) 19:44:34.14ID:l5KajgDb
潜入者は数極思案し、それに応えた。

 「カードマン、行くなら行け!
  俺は残る」

自分が逃げ出そうとした所為でダストマンが一時離脱し、他の者達が窮地に立たされている。
特に誰と親しい訳でも無く、恩も何もありはしないが、ダストマンとの約束もあるので、
ここに残ろうと潜入者は決めた。
カードマンは物言いた気な顔をしながらも、潜入者には構わず、無言で背を向ける。

 「逃がすと思うのか」

それに対してダストマンは、魂も凍り付く様な冷たい声で言った。
玄関の戸を押し開けようとしていたカードマンは、戸が石壁の如く微動だにしない事に驚く。

 「空間制御魔法……!?
  馬鹿な、これはD級禁断共通魔法では……」

それにダストマンは反応した。

 「よく気付いたな。
  確かに、これは空間制御魔法だ。
  しかし、それが判ると言う事は……。
  カードマン、貴様も魔導師会の狗か!」

戸が開かないだけであれば、普通はマジックキネシスで開かない様に押し止めているか、
もしくは蝶番を固定していると考える。
空間その物を固定していると言う発想はしない。
叩き壊そうとしても無理だった末の発言であれば、その結論に達しても不思議では無いが、
迷いも無く言い切るのは、どう考えても空間制御魔法を知っているとしか思えない。
詰まり、カードマンは魔導師の中でも「禁呪」を知り得る立場の人間。
0291創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:34:24.15ID:rq7FbJAz
ダストマンは突然、怒りを爆発させる。

 「魔導師会め、尽く尽く目障りな!
  『第七の漆黒<ザイン・ブラック>』!」

 「な、何だ、これは!?
  うう……」

彼が7本の指を向けると、カードマンは蹲って震え出した。
何かの魔法を使ったのは間違い無いが、その種類までは特定出来ない。
潜入者は思わず尋ねる。

 「何をした!?」

 「人間が持つ感覚を全て奪った。
  今、カードマンは完全なる闇の中だ」

そんな魔法まで使えるのかと、潜入者は驚愕する。
元に戻せるのかと疑問にも思ったが、それより今は優先すべき事がある。
カードマンは放置しても、シェバハには殺されないだろうと判断して、彼はダストマンを急かした。

 「とにかく早く応援に行こう。
  全員がシェバハに殺されてしまう前に」

 「誰が応援に行くと言った?
  私は貴様等を逃がさない為に来ただけだ」

 「は?」

冷酷な一言に、潜入者は理解が追い付かなかった。
誰も逃がしたくないのは解る、だから自ら追って来たのも解る、味方を見殺しにするのは解らない。
0292創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/29(土) 19:35:40.61ID:rq7FbJAz
 「馬鹿かっ!?
  見殺しにするのかよ!」

潜入者は声を大にして、ダストマンに迫った。
しかし、ダストマンは全く意に介さない。

 「悪く言えば、そうだな」

他に言い様があるのかと、潜入者は憤る。

 「良くも悪くもあるかっ!
  何故、行かない!」

 「敵が集まっている所に飛び込む方が愚かだろう」

 「手前っ、独りでも勝てるんじゃないのか!」

 「勝てる事は勝てるが、骨が折れる。
  彼等に出来るだけ数を減らして貰おうと思ってな」

ダストマンの思考に付いて行けず、彼は何度も首を横に振った。

 「全滅するぞ!」

 「『奴等は』全滅するかもな。
  別に構わん、誰でも代用の利く、大した価値も無い連中だ。
  精々役に立って貰う」

 「何の役だよ!」

 「私の労力を省く役……かな」

潜入者は唖然として、暫し言葉を失った。
0293創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:36:48.77ID:rq7FbJAz
ダストマンを外道だはと思っていたが、ここまで人の心が無いとは完全に予想外だった。
彼にとっては味方では無く、単なる駒なのかも知れないが、それを無意味に消費する事さえ、
何とも思わないのだ。

 「よく分かった。
  ダストマン、取り引きは無しだ。
  手前とは縁を切らせて貰う」

 「お互いに協力しようと一度は約束したのに、裏切るのか?」

咎める様なダストマンの台詞を、彼は恨みを込めて笑い飛ばす。

 「俺がソリダーに打ん殴られてる時、手前は笑って見てたよな」

 「笑ってはいなかったが?
  『殺すな』と制止もしたのに、酷い逆恨みだ。
  そもそも貴様は一度、私を殺そうとしたではないか……。
  あれで相子だと思うが」

 「そりゃ手前の勝手な言い分だ」

潜入者の言い分も随分と勝手。
それを彼自身も自覚していながら、尚もダストマンの理は認められなかった。
他人を使って、自分は関係無いと言う顔をしているのが、気に食わないのだ。

 「今更何を言うんだ、ブロー。
  ソリダーに打付けるべき恨みを、私に向けるな。
  そのソリダーを助ける為に、態々危険を冒しに行くのも、訳が解らない。
  貴様は賢い筈だ」

ダストマンの台詞に、潜入者は違和感を覚える。

 「手前、何が目的だ?」

 「私は貴様を買っている。
  ソリダーは確かに強い……が、それだけの男だ。
  奴には知恵が無い。
  私を真に理解する事は出来ないだろう」

 「……俺を仲間に引き込みたいと。
  だから死なせたくないってのか?」

 「そうだ」

 「あのな、何を言われても手前には付いて行かねえよ」
0294創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:37:23.11ID:rq7FbJAz
飽くまで断る潜入者に、ダストマンは本気で困惑していた。

 「私の何が悪い?
  これでも私は冷静で理性的な積もりだ。
  貴様が所属している地下組織の誰よりも、能力的に優れている。
  金の問題か?」

 「人格の問題だと言わなかったか?」

 「人格とは何だ?
  私は信頼する者を裏切ったりはしないし、捨て石の様に扱う事もしない。
  それでは不十分か?」

 「嘘を吐くな!
  誰が信じるか!」

 「嘘では無いよ。
  愚者の魔法を使っても良い」

ダストマンの態度は、本気で信じて欲しい様だった。
だが、潜入者の心は動かない。

 「使うまでも無い!
  手前は冷酷で残虐な男だ!」

 「それは違う、捉え方の問題だ。
  私は感情に左右されないだけの事」

 「手前には人の心が無い!」

 「それも違う、私にも温情はある。
  仲間と認めた者には敬意を払うが、今日まで私が出会って来た多くの者は、それに値しなかった」

ダストマンの弁解に潜入者は絶句した。
狂人には狂人の理屈があると言うが……。
0295創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 18:56:16.62ID:lXfYECiQ
彼の今までの冷酷非道な振る舞いは、誰も真の「仲間」と認めていなかった為なのか?
それが真実だとしても、潜入者はダストマンの仲間にはなれない。

 「何と言われようと、俺は手前には付いて行かない。
  手前は身勝手過ぎるんだよ!」

 「大きな誤解だ」

 「いいや、誤解なんかじゃない!
  手前は人を何とも思ってないんだ。
  だから、塵みたいに殺せるし、利用するのにも躊躇いが無い」

ダストマンは大きな溜め息を吐く。

 「決断と実行は迅速に越した事は無い。
  果断さこそが道を拓くのだ。
  迷いや躊躇いは不要。
  無い事を讃えられはしても、有る事を褒められはしない」

 「恐怖を克服しない、勇気の要らない決断には、何の価値も無い!」

 「『感情家<センチメンタリスト>』だな。
  それは地下組織も同じ事だろう?
  部下を捨て駒にし、敵対者には容赦せず、時に一般人を平気で巻き込む」

そこに何の違いもありはしないと、ダストマンは超越した態度で抗弁した。
潜入者が良識振っているのは、単なる思い込みに過ぎないと。
その反論は潜入者の怒りを買った。

 「手前は何か勘違いをしているな!
  俺達は『仁侠<マフィア>』だ!
  『無法者<コーザ・ノストラ>』と同類と思って貰っては困る!」

地下組織は不法者だと言われているが、マフィアにはマフィアなりの矜持があるのだ。
唯、犯罪の為だけにある組織では無い。

 「そうなのか?
  ともかく、私にも心がある事は解って貰いたい。
  だからこそ、こうして仲間に誘っている」

 「情けの積もりか!?」

これで情を掛けているのかと、潜入者は驚愕した。
ダストマンは平然と頷く。

 「ああ、その通りだ。
  貴様の忠告には恩義を感じている」
0296創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 18:57:57.37ID:lXfYECiQ
彼の言葉に偽りは無い。
潜入者がシェバハの襲撃を予想し、前以って忠告した事に、ダストマンは感謝していた。

 「だが、断れば殺すんだろう?」

 「本気で断るのか?」

ダストマンには潜入者の態度が、本気で理解出来ない様子。
自分の命以上に惜しむべき物は無いと思っているのだ。

 「一度地下組織に忠誠を誓った身で、義理立てしているのか?」

 「それもある……が、最大の理由は手前だよ。
  何度も言わせんな」

 「私の何が悪いのか?
  私は全ての面に於いて、誰にも劣る部分は無いと自負している。
  それなのに……、そんなに私には魅力が無いか」

潜入者は大きく頷いた。

 「人を従えるのは、力でも賢さでも無い。
  手前は確かに優秀なんだろう。
  だが、それだけの男だ」

 「では、何なのだ?
  私には何が足りない……?」

 「何度も言ったぞ。
  人を従えるのは『人間』だ。
  俺には手前の人格が許容出来ない」
0297創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 19:00:01.60ID:lXfYECiQ
ダストマンは静かに憤慨する。

 「人格が何の役に立つ?
  人は能力が全てだ。
  人格だけで無能を評価するのは、滅びの道に他ならない。
  貴様は賢いと思っていたのだがな」

 「本当に賢けりゃ、地下組織になんか入ってない。
  今頃、真っ当な暮らしをしているさ」

潜入者は自嘲した。
己は馬鹿だと宣言する感覚が、ダストマンには益々理解出来ない。

 「真っ当な暮らし?
  今の生活に不満があるなら、私と共に来い。
  真っ当でないからこその価値もある。
  常識に縛られていては、大業は成せない」

執拗に勧誘を続ける彼を、潜入者は初めて哀れに思った。

 「……お前には味方が少ないんだな」

ダストマンは不快感に眉を顰める。

 「無能は味方とは呼べない。
  何時でも切り捨てられる様にしておく物だ。
  数は少なくとも、心から信頼出来る者が居れば、それで良い」

 「そんな事を言って、今まで一人も居なかったんだろう?
  瞭(はっき)り言ってやるよ。
  お前には一生そんな奴は出来ない」

 「そうかもな。
  天才は何時も理解されない」

嘆く彼に潜入者は失笑を漏らした。
0298創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 19:02:18.00ID:lXfYECiQ
 「フフッ、自尊心だけは一丁前か……。
  ――で、何時まで無駄話を続けるんだ?
  俺が心変わりしない事は解ってるんだろう?」

ダストマンは真顔で小首を傾げる。

 「やはり貴様は殺すには惜しい人材だ」

 「答えろよ、何を考えている?」

 「大層な考えは無い。
  徒(ただ)、『敵』の数が減るのを待っている。
  それまで話し相手が居ないと暇になってしまうからな」

シェバハは不法者を絶対に許さない。
必殺の覚悟で攻撃して来るから、逃げる事も降伏する事も出来ない。
必然的に決死の覚悟で立ち向かわなくてはならなくなる。
ソリダーの自信過剰を咎めず、放置していたのも計算の内。
そして、潜入者さえも暇潰しの玩具でしか無い。

 「全く碌でも無い」

潜入者が吐き捨てると、ダストマンは笑う。

 「貴様の命も、それまでだ。
  心変わりすると言うなら、話は別だが」

 「冗談じゃない。
  だったら、こっちにも覚悟がある」

翻意を促す彼に対し、潜入者は魔力を集めて身に纏う。
0299創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:24:18.37ID:xarXLHcY
強化されていても、魔法資質では潜入者が上なのだ。
閉鎖空間では魔力の供給も限られるので、強大な魔法は使えない。
十分に勝算はあると、潜入者は思っていた。

 「止めておけ、貴様では勝てない。
  一度試したのに、又無駄な事をするのか」

ダストマンは警告する。
それは事実かも知れない……が、試しもせずに諦める程、潜入者は無気力では無い。

 「やってみないと分からない!」

ダストマンには真面な攻撃が通用しない。
首を切り落としても、首だけで浮いて会話を続けた。
脳天を砕こうとしたのは未遂に終わったが、それも通じるかは怪しい。
では、どうするか?
潜入者は然程魔法知識がある訳でも無い……。

 「では、その身に刻むが良い。
  『第二の漆黒<ベト・ブラック>』!」

その場の魔力は潜入者が掌握していた筈だが、ダストマンは苦も無く魔法を発動させた。
一瞬の内に潜入者の視界は失われ、魔力も見えなくなる。
防御する暇も無かった。

 「視覚と魔力感知を封じた。
  己の無力が解ろう」

聴覚や触覚は生きているのだが、もう何も出来ないも同然だ。
魔法が使えない潜入者に、ダストマンを倒す手段は無い。
0300創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:26:13.53ID:xarXLHcY
ダストマンは余裕の態度で話を続けた。

 「冥途の土産に面白い話を聞かせよう。
  これまで知らない振りをしていたが、実は薬の適合者には特定の要素がある。
  端的に言えば、強大な力を受け容れる事なのだが、それに適した人格があるのだ。
  それは他人の力を自分の物とする事に、何の躊躇いや疑問も持たない者。
  心は虚しく名誉と偉大さに飢えて、他者の成果を我が物顔で誇り、力ある存在に帰属したがり、
  自己を強者に重ねて見る者。
  確たる『自分』を持たない癖に、自意識と自尊心だけは強い、人間的に下劣な存在だ」

 「お前も下劣と言う事にならないか?」

潜入者の冷静な突っ込みを、ダストマンは真顔で軽く受け流す。

 「薬の製作者である私は別に決まっているだろう。
  それでもソリダーの様な者が現れるとは、予想外だった。
  奴は今ここで死んだ方が良いのかも知れない。
  あそこまで下劣な人間が力を持つと、最早悪夢だ」

本当に死ぬべきはダストマンだと、潜入者は強く思った。
彼から見れば、ダストマンの方が下劣だ。

 「そうそう、薬の正体だがな……。
  あれは人間の魂だ」

 「は?」

今、衝撃の事実を明かされたのだが、潜入者は言葉の意味を直ぐには理解出来なかった。
情報の扱いが重大な秘密とは思えない程、物の序での様で余りにも軽い。

 「魔法資質が生まれ付きで成長しないなら、他から持って来るしか無いだろう?」

 「人間が材料なのか?
  人を殺して薬を作っている……?」

潜入者の声は震えていた。
馬鹿な妄想だと一笑に付して、違うと言って欲しかった。
0301創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:27:45.62ID:xarXLHcY
ダストマンは小さく笑う。

 「殺して薬を作るとか、そこまで悪人では無いよ。
  精霊を抽出――詰まり、魔法資質を抜き取るだけだ。
  結果、死んでしまうのだが、別に殺す事が目的ではない」

 「同じだろう!?」

 「誤解しないでくれ。
  魔法資質を抜き取っても、直ぐに死ぬ訳ではない。
  徐々に衰弱して死亡する」

 「結局、殺してるじゃねえか!!」

 「ウーム、解って貰えないかぁ……」

狂人の理屈には付いて行けないと、潜入者は改めて感じた。
ダストマンは罪悪感から逃れる為に、現実逃避しているのか……。

 (いや、こいつを相手に真面な考えを持ち込んでは行けない)

潜入者は頭に浮かんだ考えを否定した。
ダストマンの心理を想像するだけ無駄なのだ。
常識を当て嵌めようとすれば、深みに陥る。
それよりも潜入者は自分の中に、他人の魂が入り込んでいると言う事実に、小さく震えた。
薬は確かに魔法資質を高めたが、それはロフティが説明した様に、魔法資質が解放されたのでは無く、
他人の魔法資質を取り込んだだけ……。

 (ロフティは、この事を知っているのか?)

恐らくは知らないと、潜入者は踏んだ。
もし知っていながら、あの対応であれば、ロフティはダストマンにも劣らない異常者だ。
そんな者が何人も集まっているとは、思えなかった。
……「思いたくなかった」と言うのが、本当の所。
0302創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:28:52.32ID:xarXLHcY
潜入者は身を低くして、手探りで床を触りつつ、ダストマンに話し掛ける。

 「話は終わりか?」

しかし、当のダストマンは潜入者の行動が気に掛かった。

 「何かを探しているのか?」

 「何でも良いだろう」

謎の行動をする潜入者を警戒して、彼は新な魔法を使う。

 「『第三の漆黒<ガムル・ブラック>』」

3本の指を向ければ、触覚が失われる。
その事に潜入者は驚き、一時硬直した。

 「これでは生殺しだ。
  殺すなら殺せ……!」

 「よくも偉そうに命じられる物だ。
  貴様を生かすも殺すも私の自由。
  未だ殺す気は無い」

 「後悔するぞ!」

 「その時になれば、確り殺してやるから安心しろ」

潜入者は諦めた訳ではない。
ダストマンに掛けられた魔法を解除する方法は分からないが、生きている限り可能性はある。
繰り返し「殺せ」と言うのは、彼の注意を自分に向ける為だ。
潜入者の真の目的はカードマンにあった。
カードマンも死んだ訳ではない。
ダストマンの魔法によって、感覚を奪われているだけ。
自力で魔法を解除して、立ち上がるかも知れない。
0303創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:58:17.97ID:xarXLHcY
だが、それだけでは余りに彼方任せで、頼り無い。
潜入者は自力でも可能な事が、他に無いか思案する。

 (何とか魔法を使えないか……。
  目は見えないし、魔法資質も封じられた上に、体も痺れた様に触覚が無い。
  奴の『黒<ブラック>』の魔法は感覚を封じる……。
  真面に利くのは耳だけだ)

他に生きている感覚は無いかと、潜入者は自らの体を意識した。

 (心臓の鼓動を感じる……。
  これは聴覚じゃない。
  皮膚の表層の感覚は死んでいても、体の内側、深層の感覚は死んでいないのか?
  ああ、上下も判る、時の流れも。
  意外に多くの感覚が生きているんだな)

ここで彼は礑と思い付く。

 (体内で魔法を使えるか?
  だが、身体を元に戻すには、黒の魔法の原理が解明出来てないと行けない。
  悪い所が判らなくては、治し様も無い。
  どう言う仕組みで感覚を奪っている?
  脳の機能を働かなくしているのか、どこかで感覚を遮断しているのか……。
  ええい、俺には難しい事は解らん!)

潜入者は魔法知識の無さを憾んだ。
どんなに魔法資質が強化されても、それだけでは宝の持ち腐れ。

 (畜生、奴に一泡吹かせられるなら、もう何でも良い!)

彼は思考を放棄して、血流を意識し、体内の魔力を巡らせた。
身体能力強化魔法を使うのだ。
0304創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:10:43.31ID:xarXLHcY
魔力の流れ自体は見えずとも、呪文を描けば魔法は発動する。
身体能力強化は自身の肉体に魔法陣を描く。
血液が魔力を全身に運ぶのだ。

 「ダストマンッ!!」

潜入者は大声で叫んだ。

 「何だ?」

冷静なダストマンは迂闊に返事をする。
それが自分の場所を知らせる目印になるとも思わず。

 「そこだーーっ!!」

潜入者は有らん限りの力を使い、音にも迫る速さで駆ける。
判るのはダストマンの居る方向だけ。
殴りも蹴りもしない。
真っ直ぐ全身で打付かる。
重要な感覚を奪われた彼には、それしか出来ない。
床を踏む感触は浮(ふ)わ浮わして、『平衡<バランス>』を取るのも苦労するが、そんな事は関係無い。
体当たりでダストマンに重傷を負わせられるかと言うと、無理だろう。
これは意地なのだ。
どうあっても屈しない、何も思い通りにはさせないと言う意思表示。

 「貴様っ」

ダストマンは焦った。
この様な行動に出るからには、何か策があるのだろうと。
防御は間に合わず、体当たりを真面に食らい、ダストマンは弾き飛ばされて、壁に叩き付けられる。
その衝撃をダストマンは感じる物の、痛みは全く無いし、意識を失う事も無い。
彼の意識は既に、肉体とは切り離されている。
0305創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:12:32.82ID:xarXLHcY
ダストマンの声と体に伝わる衝撃で、潜入者は攻撃が当たった事を理解した。
しかし、それ以上の手がある訳では無い。
打撃を加えただけで手詰まり……の筈だったが、途端に目が見える様になった。
他の感覚も元に戻っている。
全身全霊を懸けた一撃が、ダストマンの魔法を打ち破ったのだ。
正に、意志ある所に道は拓ける。
幸運としか言い様が無いが、それも自ら行動を起こした結果。
再び魔法を食らう前に、この好機を逃すまいと潜入者は猛攻を仕掛けた。
先ずは魔法封じの常道、口を利けなくする。

 「黙ってろ!」

彼は真っ直ぐダストマンの顎に向けて拳を突き出す。
魔法の高速発動には、描文と同時に詠唱が欠かせない。

 「『第五の<ハイ・>』――」

ダストマンが言い終える前に、潜入者の拳が顎を砕く。
次に封じるべきは描文……だが、腕を折ろうが、指を折ろうが、ダストマンには通じない。
何故なら、今のダストマンにとって、肉体は筋肉で動かす物では無いのだから。
腕を千切られても、魔法の力で操り人形の様に動かせる。
それは潜入者も十分理解している。
だからと言って、安易に魔法に頼れば、ダストマンの思う壺だ。
魔力の扱いでは、ダストマンの方に分がある。

 (魔力を操る根源、魔法資質の中枢を叩くしかない!)

そう決意した潜入者は、ダストマンの脳天を砕きに掛かった。
片手で彼の顔面を覆う様に掴み、全力で後頭部を壁に叩き付ける。
脳を破壊した位で、ダストマンが死ぬとは思わないが、精霊の中枢は間違い無く頭部にある。
頭を割って、剥き出しになった精霊を直接攻撃すれば、殺すとまでは行かずとも傷付けられると、
潜入者は信じた。
0306創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:17:42.86ID:xarXLHcY
 「ウォオオッ、死ねェエエ!!」

彼は雄叫びを上げ、何度もダストマンの頭を壁に叩き付け続ける。
赤い血が壁に跡を付けるが、頭蓋を完全に破壊するには至らない。
明らかに頭蓋骨が強化されている。
その内に、ダストマンの腕が宙に七芒星の魔法陣を描く。
黒の魔法が発動してしまう。

 (『第七の漆黒<ザイン・ブラック>』)

潜入者の脳内に、ダストマンの声が響いた。
0307創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:18:03.12ID:xarXLHcY
それと同時に、一瞬で全てが闇に包まれる。
体は宙に投げ出された様で、上も下も判らない。

 (畜生っ、『不死者<アンデッド>』かよ、こいつは!)

後一息で仕留められたのにと、潜入者は悔しがった。
本当に全ての感覚が遮断されており、何も分からない。
自分が生きているのか、死んでいるのかも、曖昧になって来る。
もしかしたら、自分は疾うに殺されているのではと疑いもする。

 (俺は生きているのか、死んでいるのか?
  ここは死後の世界なのか、それとも単なる暗闇なのか……)

永遠とも思える闇の中で、潜入者の思考は迷走を始めていた。
0311創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:25:22.37ID:8M/gpG01
一方のダストマンは「ブロー」の動きが止まったのを認めて、安堵の息を吐いた。
そして高速で肉体を修復する。
視覚と魔法資質を封じても抵抗され、ここまで苦しめられるとは想定外だった。

 (恐ろしい男だ。
  流石、私が認めただけはある。
  どうにかして味方に出来ないか?
  ……そうだ、人格を改造しよう)

洗脳魔法では解除される心配があるので、脳を弄って根本から人格を変えようと、彼は決めた。
発想が人間では無い。

 (取り敢えず、生かした儘で捕らえて……。
  そう言えば、カードマンは?)

ブローを回収しようとしたダストマンは、カードマンの姿を探した。
ブローの思わぬ反撃で、彼に掛けた黒の魔法が一度無効にされてしまったので、その時に序でに、
カードマンも立ち直った可能性が高い。

 (どこに消えた?)

辺りを見回しても、カードマンの姿は無い。
空間を閉ざしている以上、逃げ出す事は不可能。
どこかに潜伏して、様子を窺っていると思われるが……。

 「カードマン、隠れても無駄だぞ。
  貴様は逃げられない」

そう宣言したダストマンは、魔法で徐々に閉鎖空間内の気素濃度を下げた。

 「窃々(こそこそ)と鼠の様に身を潜めてばかりで、息苦しくならないか?
  これから気素を奪って行く。
  生身では耐えられないぞ。
  安らかに、眠る様に死ぬが良い」
0312創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:27:17.89ID:8M/gpG01
彼自身は気素が欠乏しても、死に至る事は無い。
肉体を捨てた彼だからこその芸当……だが、それから暫くしてもカードマンの反応は無かった。
ダストマンは怪しむ。

 (もしかして、自力で気素を生成出来るのか?
  否、それなら魔力反応がある筈。
  しかし、体内で生成しているなら……)

カードマンが魔導師であれば、その位は出来ても不思議は無い。
ダストマンは仕方無く、虱潰しに閉鎖空間内を探し回る事にした。
魔法資質を全ての感覚と同調させ、埃が床に落ちる気配さえ取り零さない。
所が、愈々カードマンを追い詰めようと言う段になって、予期せぬ事態が起こる。
閉鎖した筈の空間が歪み、玄関の戸が開いて、何者かが侵入する。

 「ハハハハハハハ、ハーッハッハッハッハッ!!」

高笑いと共に進入して来たのは、黒いローブ姿の男。
仮面を付けているので正確な年齢は不明だが、余り若くは無く見える。

 「何者だ、貴様っ!」

そう問い掛けつつ、ダストマンは考察する。

 (あれは魔導師のローブ!
  魔導師会の執行者か?
  違う、執行者のローブは青い筈だ)

彼は魔導師だと直ぐに断定したが、どんな役割の者かまでは判らない。
通常、魔導師は業務を遂行するに当たって、制服である専用のローブの着用を義務付けられる。
魔法絡みの犯罪に対処する執行者であれば、青いローブ。
処刑人は同じ青でも、より薄く煤(くす)んだ色の『蒼白<ペール>』を着用する。
蒼白のローブに黒い甲冑が、処刑人の標準的な格好だ。
0313創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:29:51.36ID:8M/gpG01
この魔導師は黒いローブを着用している。
執行者でも処刑人でも無い、彼の正体は?

 (黒……黒は確か研究職?
  何故、研究職の人間が?)

研究者が派遣される理由は何なのか、ダストマンには理解出来ない。
だが、戦闘を専門に行う者が相手でない事は、幸運かも知れない。
幾らでも隙はあろうと、彼は余裕を取り戻した。

 (極端に魔法資質が高い様にも見えない。
  不意を突いて、片付けてしまうか)

ダストマンは黒いローブの魔導師を睨んで、黒の魔法を発動させる。
両手の親指と人差し指を立てて簡易魔法陣を描き、発動の合図となる呪文を唱える。

 「『第四の漆黒<ダルト・ブラック>』!」

研究職であれば、その知識を頂こうと、彼は敢えて即死級の魔法を使わなかった。
相手は処刑人では無いし、魔導機も持っていない事から、『死の呪文<デス・スペル>』を使えない。
幾ら研究職でも、研究対象は恐らく共通魔法。
未知の魔法である、黒の魔法を防ぐ手段は無いだろうと、ダストマンは高を括っていた。

 「L2F4M1、ククク……」

所が、黒衣の男は同時に小声で呪文を唱えて、不気味な笑みを浮かべる。
黒の魔法が全く効いていない様子。
更に、彼は新たに魔法を使う。

 「I36N4B4・M16BG4、J1H4N4B4・M16BG4」

ダストマンの手足が全く動かなくなる。
それまで魔力で直接動かしているにも拘らず、丸で魔力が通わなくなったかの様に。
0314創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:32:30.71ID:8M/gpG01
 「フハハハハ!」

ダストマンは高笑いを続ける黒衣の男を睨み、舌打ちした。

 「貴様、禁呪の研究者だな!?」

禁呪である空間制御魔法を打ち破り、未知の魔法を防ぎ、更に未知の共通魔法を使う。
そんな人物は、他に考えられない。

 「ハハハハハ、ハハ、ハハハ」

黒衣の男は高笑いするばかりで、何も答えない。
ダストマンは訝った。

 「狂(イカ)れてるのか?」

 「ハハハ、ハハハ……、ハァ、ハァ、ハー……」

黒衣の男は笑い疲れた様に、長く息を吐いて呼吸を整える。

 「クク、確かに私は禁呪の研究者だ。
  しかし、未だ禁呪を使った覚えは無いぞ。
  フフフ、何れも基本的な共通魔法に過ぎないのに……フフフ、ハハハ!
  禁呪だと思ったのか、ハハハハハ!」

馬鹿にされたと思い、ダストマンは静かに怒った。

 「笑うな」

 「悪いが、それは無理だ。
  フフフフ」

込み上げる笑いを堪える様に、黒衣の男は体を震わせる。
どう見ても小馬鹿にしているとしか、捉え様が無い。
0315創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:37:29.74ID:8M/gpG01
直接魔法を掛けて無力化する事が出来ないのであれば、古典的な方法で攻撃するより他に無い。
ダストマンは動かない手足を捨て、自ら首だけになった。

 「おお」

その姿を見た黒衣の男は小さく驚きの声を上げるが、やはり口元に浮かべた薄ら笑いを消しはしない。
今に目に物を見せてやろうと、ダストマンは攻撃呪文を唱える。

 「笑っていられるのも今の内だ。
  『圧縮球体<プレッサー・スフィア>』!!」

彼が選んだのは敵を圧し潰す、圧力の魔法。
黒衣の男に向かって、眼力を込め、全方向から圧力を掛ける。
しかも、これは空間制御魔法を利用した物だ。
空間その物が縮んで行くので、対抗は難しい。
だが、これを解除するのは不可能では無い。
実際に、黒衣の男は空間魔法を部分的にではあるが、破っている。
そこで圧力魔法を「見せ」に使い、意識を逸らして「決め」の魔法を放つ。
ダストマンの計算通り、黒衣の男は圧力魔法を受けて、動きを止めた。

 (そう、足を止めて対処せざるを得ない!)

狙うは一点、不可避の一撃。

 「『光線<レイヤー>』ッ!」

圧力の球体に囚われた黒衣の男に向けて、ダストマンは強力な熱線を撃ち出した。
腕があれば手先から発射するのだが、今は仕方無く口から発射する。
0316創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:39:50.46ID:8M/gpG01
黒衣の男は片手を翳して、熱線を難無く受け止めた。

 (止めたか!
  しかし、それも想定内!)

本来、光速の熱線に反応するのは難しい筈だ。
発射前から魔力の流れを読み取って、攻撃が来ると予測していなければ防げない。
ダストマンは予兆を感じさせた積もりは無かったのだが、事実受け止められているのだから、
次の手を打つ必要がある。

 (これでも食らえ!)

彼は口から発射する熱線を放射状に、幾本にも分散させた。
それを空間制御魔法で曲げ、あらゆる方向から黒衣の男に集中させる。

 (どうだ、避けられまい、受けられまい!
  ――って、何ぃ!?)

所が、熱線は閉鎖空間内で更に進行方向を曲げられ、黒衣の男の手に集中して、巨大な光球となる。
空間制御魔法の所為で、彼の声は届かない筈だが、ダストマンは高笑いを聞いた気がした。

 (くっ、反撃される!)

ダストマンは直感したが、どう対応すれば良いのか分からない。
そもそも空間に囚われている黒衣の男からの反撃は、届かない筈なのだ。

 (どう来る!?
  空間を貫くのか、それとも――)
0317創る名無しに見る名無し
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2018/10/08(月) 19:44:25.67ID:8M/gpG01
受け身になり掛けていたダストマンは、これでは行けないと考えを改めた。

 (駄目だ、ここで引けば押し切られる!)

1極にも満たない間の逡巡の後、彼は更に攻める決意をする。

 (手緩い攻撃では駄目だ。
  共通魔法にある様な物では通じない……。
  これは使いたくなかったが)

ダストマンの首の周囲に黒い靄が立ち込める。
これは「闇」だ。
自身を闇で覆う事により、精霊体を保護する。
彼は唯一の肉体である頭部をも捨てる覚悟をした。
魔力と意識のみの存在、完全なる精霊体となり、彼は一瞬で黒衣の男に接近する。
精霊体は殆どの物理的な現象の干渉を受け付けない。
自らも強い圧力が働いている空間に飛び込むが、影響は無い。

 「ハハハ、これは驚いた!」

黒衣の男は拳に溜めた光球を、ダストマンの精霊体に向けて放った。
口で言う程の、驚愕や動揺は無い様子。
ダストマンは纏っていた闇を引き剥がされるが、微塵も動じない。

 (魔法資質では私が上だ!
  亡びよ!!)

彼は魔法資質を解放し、魔力を暴走させた。
そして魔力の奔流を全て負のエネルギーに変換し、その場にある存在を全て消滅させる。
負のエネルギーとは、光と熱を奪う物であり、存在を失わせる物であり、エンタルピーを奪う物だ。
負のエネルギーの働きは、絶対零度よりも温度が低い空間を生み出せる。
負のエネルギーを利用した攻撃は、魔力分解攻撃に似ている。
あらゆる物質はエネルギーを失い、結合を保てなくなり、消滅する。
0318創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:27:32.34ID:FIHD9lz7
肉体を持つ上に、魔法資質もダストマンより低い黒衣の男は、これに耐え切れない筈である。
だが、笑い声は止まない。

 「ハハハハ、ハハ、ハハハ」

負のエネルギーはダストマンには通じないが、完全な精霊体は脆い。
そこに存在するだけで、魔力を消費して弱体化する。
精霊体は無限の魔力供給があって、初めて安定して存在出来る。
黒衣の男が死ぬのが先か、ダストマンの精霊が消滅するのが先か、この一点に勝負は懸かっていた。
所が、黒衣の男は中々死なない。

 (奇怪しい、全く効いていない……。
  この中の魔力は私が支配している筈。
  どうして生きていられる?)
0319創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:28:28.27ID:FIHD9lz7
動揺するダストマンに、黒衣の男は告げた。

 「ククク、魔法資質が高いと言うのも、ハハッ、考え物だな。
  ハハハ、お前には基礎的な魔法知識が足りない。
  独学で魔法を身に付けて来たのか、フッフッフッ」

 (くっ、行かん、これ以上は……)

ダストマンは堪らず魔法を解除して、素早く自らの首に退避した。
しかし、今度は首が動かせない。
黒衣の男の高笑いが響く。

 「ヒヒヒッ、ハーッハッハッハッ!
  お前に打つ手は無い。
  ククク、大人しく魔導師会の裁きを受けろ」

ダストマンは黒衣の男を睨(ね)め上げ、吐き捨てる様に言った。

 「どうせ死刑になるんだろう?」
0320創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:29:54.33ID:FIHD9lz7
黒衣の男は不謹慎にも、未だ笑いを堪えながら答える。

 「それは分からない。
  死ぬより酷い目に遭うかもな、クックックッ」

どうにか時間稼ぎ出来ないかと、ダストマンは知恵を絞った。
取り敢えず話し続ける事で、黒衣の男の注意を逸らせないかと足掻く。

 「……何故、私の魔法が通じなかった?」

 「フフフハハハハハ、解らないのか?
  魔法資質の影響範囲は引力の様に、距離の2乗に反比例するのだ」

 「その位は知っている」

 「ククク、そして精霊の依り代たる人体を、直接対象にして魔法で害する事は難しい」

 「それも知っている!」

 「ヘヘヘヘヘ!
  では、何の不思議もあるまい」

 「どうやって、負のエネルギーから身を守った!」

徐々に強い言葉を使い始めるダストマンに対して、黒衣の男は見下した態度を取る。

 「ハハハ、可憐(あわれむべし)!
  憖(なまじ)、魔法資質が高いばかりに、神髄を得る事能(あた)わず」

 「……私は全ての魔法を極めんとし、外道と呼ばれる魔法にも手を出した。
  私の知り得る限りの魔法は、全て手の内にあった。
  教授してくれ、私の魔法を防いだ方法を」

ダストマンは真剣な学生の様に、黒衣の男に教えを請うた。
0321創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:31:09.61ID:FIHD9lz7
ここで黒衣の男は余裕からか、その求めに応じる。

 「ククク、神は細部に宿ると言われる通り、共通魔法の極意は魔力の扱いにある。
  多くの者は、より強い能力で、より大きな力を扱う事を目指し、それを善(よし)とする。
  だが、何時でも共通魔法の発展は大きな力では無く、繊細な技術と共にあった。
  フフ、解るか?
  お前は何の為にMADを開発していた?
  より強い能力があれば、より大きな魔力を使って、より多くの魔法を扱えると思ったのか?」

長々と喋り続ける彼を、ダストマンは内心で嘲笑った。
これなら反撃の目はあると。
ダストマンは話に応じながら、隙を探す。

 「私は魔法から不可能を無くしたかった」

 「しかし、私を倒す事は不可能だった訳だ、フハハハハ!
  遠くを見る前に、足元を見直すべきだったな。
  大嵐の渦に晴天が覗く様に、大きな力には必ず隙が生じる。
  フフフ、強さ、速さ、隠密性、何れも対人には欠かせない要素を押さえていながら、しかし、
  愚かにも最も重要な繊細さを欠くとは、何とも何とも」

黒衣の男は一々癇に障る笑い方をする。
怒りを抑えて、ダストマンは辛抱強く機会を待った。

 「抽象的な物言いは止せ。
  私の魔法を防いだ手段を問うているのだ」

 「フフフ、その性急さこそが、正しく敗因だと言うのに!
  お前は外を見てばかりで、自らの内を顧みる事をしなかった。
  クハハハハ、未知を知る為には、先ず既知を知らねばならない。
  お前の魔法は何れも禁断共通魔法の域を出ない、井蛙の如し!
  精霊化の技術一つを取っても、未熟過ぎる。
  故人曰く、理解浅薄の分際で十全と慢心する者、増上慢、最も悪しきの一なり……。
  自分の事だとは思わないか、フフフ、ハハハ」

黒衣の男は真面に回答する積もりは無い様だった。
0322創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:35:50.66ID:FIHD9lz7
もう決着は付いたと見たのか、潜伏していたカードマンが姿を現す。

 「終わったのか?」

 「ハハハ、フフフフ……」

恐る恐る尋ねる彼に、黒衣の男は返答する代わりに、ダストマンに一瞥を呉れた。
ダストマンは舌打ちをして、苛立ちを2人に打付ける。

 「魔導師会がシェバハと手を組むとはな!」

 「フフフ、それは誤解だ。
  シェバハの襲撃と同時になってしまったのは、本当に偶々、偶然と言う奴だよ」

黒衣の男は苦笑したが、そんな言い訳を素直に信じるダストマンでは無い。
見え透いた嘘だと切って捨てる。
0323創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:37:08.95ID:FIHD9lz7
次に彼はカードマンを睨んで問う。

 「どうやって外部と連絡を取った?
  誰とも接触した形跡は無かったし、テレパシーを使ってもいなかったのに」

カードマンは肩を竦めた。

 「お前が魔力を監視している事は分かっていた。
  だから、魔法を使わずに連絡を取った。
  伝書鳩でな」

そう言いつつ、彼は懐から白鳩を取り出す。
古典的な手段で出し抜かれた事に、ダストマンは歯噛みする。
魔力通信機が普及してから、鳥類を使って通信する文化は衰退した。
手紙を送る文化は残っているが、配達には主に馬を使う。
0324創る名無しに見る名無し
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2018/10/09(火) 19:42:47.36ID:FIHD9lz7
首だけのダストマンは、カードマンを人質に取れないかと考えたが、再び精霊化する事が出来ない。
肉体に精霊が固定されている。

 (これでは動けない!
  どうすれば良い、何か打つ手は……)

そこで彼は思い付く。
未だ「ブロー」が居る事に。
マジックキネシスを封じられているダストマンは、爆発魔法で自分を弾き飛ばし、
首だけでブローの体に取り付いた。

 「そこまでだ、貴様等!
  大人しくしろ、然も無くば、この男を殺す!」

その宣言にカードマンと黒衣の男は、互いに顔を見合わせた後に苦笑した。

 「どうぞ、フフフ」

平然と答える黒衣の男。
カードマンも困った顔はしているが、制止に動く気配は見せない。

 (馬鹿な、魔導師は信用が重要な筈……。
  地下組織の人間でも、見殺しにする訳が無い。
  止めようと思えば、何時でも止められると言う自信の表れか?
  後悔させてやるぞ)

ダストマンはブローに洗脳魔法を掛ける。
認識と思考を制御し、自分の言葉に従わざるを得なくするのだ。
同時に、黒の魔法を解除して、彼の体を自由にする。
暗黒から解放されて徐に起き上がるブローの背後に張り付きながら、ダストマンは囁く。

 「ブロー、聞こえるか?
  あの2人は敵だ、殺せ」
0325創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:43:27.70ID:l6DLDxFI
2対2と数の上では対等だが、魔法資質を考慮すれば、その差は歴然。
これで状況を覆せないかと、ダストマンは企んでいた。
所が、ブローは身構えるも、蒼褪めた顔で冷や汗を垂らし、一歩も動かない。
それを不審に思い、ダストマンは尋ねる。

 「どうした?
  何を恐れている?」
  
 「わ、分からない……」

 「何が?
  奴等は敵だ、戦え」

洗脳の掛かりが悪いのかとダストマンは考えたが、そうでは無かった。

 「『歩く』って、どうすれば良かった?」

 「は?
  立てているだろう!
  その儘、足を踏み出せば良い」

 「み、右から、左から?」

ブローは「歩き方」を忘れていた。
黒衣の男の高笑いが響く。

 「ハハハハハハ、忘却の魔法を使わせて貰ったぞ!」

魔力の流れは感じられなかったのに、何時の間に魔法を使ったのかと、ダストマンは驚愕する。
0326創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:44:28.01ID:l6DLDxFI
彼は直ちに洗脳の段階を進め、ブローを完全な傀儡にした。
こうすれば本人の意思とは関係無く、無理遣り動かす事が出来る。

 (取り敢えず、簡単な魔法で牽制する。
  2人で同時に魔法を使えば、多少は撹乱出来るだろう)

そうしようと思ったダストマンだが、咄嗟に呪文が思い浮かばない。

 (……どうした?
  何故、呪文が一つも思い浮かばない?
  そう難しい呪文じゃなくて良い、何か――)

笑い続ける黒衣の男に、静かに事を見守っているカードマン。
攻撃の機会は今しか無いとダストマンは焦るが、何の魔法なら使えるのか、悉く度忘れしている。

 (いや、いや、いや、こんな馬鹿な!
  これは正か――)

ここで彼は自分にも忘却の魔法が掛けられている事に気付いた。
幾ら何でも、全く呪文を忘れる事は有り得ないのだ。

 「貴様っ、何時の間に!」

ダストマンは黒衣の男を睨んだが、もしかしたらカードマンの仕業では無いかとも思う。
どちらにしても、魔力の流れは感じず、予兆が読み取れなかった事に変わりは無いのだが……。
黒衣の男は含み笑いしながら言う。

 「相手の精神に作用する魔法は、大きな魔力を必要とせず、高い魔法資質も必要としない。
  呪文も然程は複雑でない事が多い。
  故に、兆候を読み難く、悪用され易い為に、危険度が高い。
  これをA級禁断共通魔法と言う」
0327創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:46:12.77ID:l6DLDxFI
魔導師の実力を見せ付けられ、ダストマンは初めて狼狽した。

 「私の記憶を返せ!」

 「別に記憶を奪った訳では無いのだが……。
  どうだ、日常的に無意識に出来ていた事を『忘れる』のは、想像以上に恐ろしいだろう?」

魔法を使うには、対応する呪文を唱えたり描いたりして、完成させなくてはならない。
それを封じられては、何も出来なくなってしまう。

 「ハァ、好い加減に投降しろよ。
  もう十分だろう?」

未だ諦めを見せないダストマンに、黒衣の男は呆れた様に笑いを止め、溜め息を吐いて勧告した。
それと同時に、玄関に掛けられた空間魔法を全て解除する。
彼は今まで、敢えてダストマンに抵抗を許していたのだ。

 「分かった、これ以上は無駄な抵抗の様だな。
  しかし、終わった訳では無い」

ダストマンは脱力して、魔力の維持を止め、全ての魔法を解除した。
彼の首は重力の儘に床に落ち、鈍い音がする。
それから全く動かない。
事切れたかの様に無反応。
0328創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:49:50.68ID:l6DLDxFI
――体の自由を取り戻した潜入者は、床に転がったダストマンの頭を見て驚いた。

 「うぅわっ、何だ、何が起こった?」

彼は記憶を整理する。
暗黒から解放され、ダストマンの声に従おうとしていた事は覚えている。
黒衣の男とカードマンを敵だと言われていた事も。
その黒衣の男は、徐に潜入者に近付いて来る。

 「あ、あんたは……?」

 「クックックッ」

彼は潜入者の問には答えず、笑いながら、床に転がったダストマンの頭に触れた。

 「あー、やはり死んでいるな、ハハハ、こりゃ駄目だ」

黒衣の男の言動に、潜入者は狼狽えるばかり。
そんな彼を無視して、カードマンと黒衣の男は話を続ける。

 「自殺したのか?」

 「精霊を感じられない。
  魔法は封じた積もりだったが、最期の手段は残していたか……。
  余程、知られては困る事があったと見える。
  この分だと脳から記憶を回収出来るかも怪しいな、ハハァ」

蚊帳の外の潜入者は、目の前の危ない言動の黒衣の男には構わず、カードマンに話し掛けた。

 「カードマン、彼は誰なんだ?」

 「魔導師だ。
  味方だから、安心してくれ」

その回答に、潜入者は安堵の息を吐くも、未だ幾つかの疑問が残っている。
0329創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:51:27.62ID:l6DLDxFI
先ず、襲撃して来たシェバハの行方だ。

 「シェバハは?
  もう撤退したのか?」

 「分からない。
  近くには居ない様だが」

そうカードマンが答えると、黒衣の男が虚空を見詰めて言う。

 「何人かの気配は残っている。
  シェバハとは限らないが」

それは力ある者の生き残りではと、潜入者は直感した。
彼自身も周辺の魔力を探ってみると、確かに疎らながら人の気配らしき物がある。
だが、力強さは感じない。
カードマンが潜入者に提案する。

 「一緒に様子を見に行こう。
  シェバハの者だったとしても、魔導師に攻撃は仕掛けない筈だ」

潜入者は頷き、彼等と共に3人で人の気配へと向かう。
所が、人の気配は丸で3人から逃れる様に、速やかに遠ざかって行った。

 (この気配には覚えが無い……。
  シェバハの者だったか)

力ある者の生き残りでは無かったかと、潜入者は落胆する。
特に仲間意識があった訳では無いが、やはり見知った者の死は悲しい物だ。
0330創る名無しに見る名無し
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2018/10/10(水) 19:52:53.45ID:l6DLDxFI
彼は独り呟く。

 「思い返せば、ソリダーも憐れな奴だった。
  ダストマンと関わりさえしなければ――」

そこで礑と思い出した。

 「そう言えば、先に逃げた筈のトーチャーとカラバは、どうなった?」

カードマンは首を横に振る。

 「分からない。
  運悪くシェバハと鉢合わせていなければ良いが」

重苦しい沈黙が訪れる。
深呼吸をした潜入者は、改めてカードマンに話し掛けた。

 「カードマン、あんたは未だ潜入調査を続けるのか?」

 「そう言う君は?」

 「俺は上がらせて貰う。
  ダストマンは死んだ、もう薬は無い。
  忠臣の集いにしても、力の無い連中は用済みだろう」

カードマンは頷いて応える。

 「それが良い。
  私は忠臣の集いに留まる。
  あの組織は裏が多そうだ。
  突けば未だ何か出て来るだろう。
  君を頼ったと言う魔導師に宜しくな」

「力ある者」はシェバハの急襲を受けて壊滅した。
表向きには、その様に処理される。
一般人は詳細を知る事も無いだろう。
0331創る名無しに見る名無し
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2018/10/11(木) 18:57:54.31ID:pwAaUPGY
潜入者はカードマンと別れた後、数人の執行者の集団と出会した。
黒衣の魔導師と共に、ここへ突入した執行者の一部隊だ。
思わず身構えた潜入者だったが、それに執行者が反応して銃型の魔導機を向けたので、
彼は慌てて動きを止め、降伏の意思を表す。

 「待て、俺はシェバハの構成員でも、忠臣の集いの会員でも無い!」

 「では、何者だ?」

魔導機を向けた儘の執行者に対して、潜入者は説明した。

 「訳有って、忠臣の集いに潜入していた工作員だ」

 「……執行者か?
  もしや、ウィル・エドカーリッジ……」

一人の執行者が心当たりのある人物の名を出したが、潜入者には通じなかった。

 「いや、俺は執行者じゃない。
  ウィル何とかって誰かの名前か?」

 「違うのか?
  お前は、どこの誰だ?」

 「民間人だよ、魔導師でも都市警察でも無い。
  詳しい話はデューマン・シャローズって執行者に聞いてくれ」

そう言われた執行者は仲間と視線を交わして、無言の遣り取りをする。
0332創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/11(木) 18:59:32.19ID:pwAaUPGY
数極後、彼等は一人の執行者を残して立ち去った。
残った執行者は潜入者に話し掛ける。

 「御苦労さん、何か掴めたか?」

 「ああ、物凄く大変だったが、その分だけ色々とな。
  ……そっちは既に知っている事かも知れないが」

 「構わない、話してくれ」

この執行者こそ、忠臣の集いへの潜入工作を依頼したデューマン。

 「その前に聞きたい事がある。
  ウィルって誰だ?」

先から疑問だった事を、潜入者はデューマンに尋ねた。
デューマンは刑事部の内部事情を話して良い物か一瞬躊躇うも、少しでも情報が欲しかったので、
隠さず答える。

 「忠臣の集いを探っていた執行者の一人だ。
  ここ数週間、行方が判らない」

 「カードマン……じゃないのか?」

 「誰だ、それは?」

 「俺とは別口で潜入していた男だ。
  本名は知らないが、自分で官公の人間だと言っていたし、そいつがウィルだと思うんだが」

 「今、どこに居る?」

潜入者の話を聞いた彼は、俄かに真面目な顔付きになった。
0333創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/11(木) 19:02:53.27ID:pwAaUPGY
つい先までカードマンと一緒だった潜入者は、辺りを見回しながら答える。

 「未だ、その辺に居る筈……」

しかし、それらしい人の姿は無い。
デューマンは小さく頷いた。

 「分かった、少し探してみよう。
  その前に――君の方で分かった事を聞かせて欲しい」

 「ああ、良いぜ」

これまでの経緯を潜入者はデューマンに説明する。
魔法資質を高める薬の事、忠義の騎士の事、力ある者達の事、シェバハの事、ダストマンの事……。

 「――ってな訳だ」

 「そんな事が……。
  これはカードマンにも話を聞かなければならないな。
  彼がウィルにしろ、そうで無いにしろ」

そう言って場を去ろうとするデューマンを、潜入者は呼び止める。

 「あっ、そうだ!
  カードマンは潜入捜査を続けると言っていた。
  未だ知りたい事があるのかも知れない」

 「君は?」

 「俺は上がらせて貰うよ。
  これ以上は一寸、付いて行けそうに無い」

潜入者は疲れた顔で、深い溜め息を吐いた。
デューマンは彼を気遣いながらも、一言断りを入れる。

 「後で話を聞きに行くかも知れないが」

 「構わんよ、でも今は休ませてくれ」
0334創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/11(木) 19:06:48.70ID:pwAaUPGY
潜入者は執行者達とも別れ、独り日常へと帰る決意をした。
しかし、強い薬だけは隠し持ち続けていた。
彼は今の今まで、その存在を忘れていた。
もし邪な心があったら、執行者に没収されていた所。
真夜中の廃工場跡を歩きながら、彼は薬の入った小瓶を眺める。

 「碌な物じゃねえ」

そう吐き捨てた彼は、道に沿って流れる川に架けられた、小さな橋の真ん中で足を止める。
そして小瓶の蓋を開けて、中身を瀬々らぐ川に流した。
錠剤が音も無く夜の川に呑み込まれて行く。
勿体無い事をしている自覚はあったが、これで良いのだと自分に言い聞かせた。

 (こんな物、人を不幸にするだけだ)

今から戻って、執行者や黒衣の男に渡しても良かったが、潜入者は詮索されるのを嫌った。

 (これで終わりだ。
  もう何も彼も俺には関係の無い事)

彼は肩の荷が下りたのを実感する。
忠臣の集いの内情を探るのは、カードマンが上手くやってくれるだろう。
そう思っていた……。
0335創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/12(金) 20:35:10.16ID:qPbB8rgt
翌日、カードマンは「力ある者」の唯一の生き残りとして、廃工場跡でロフティと接触する。
昨晩シェバハの襲撃を受けたばかりとは知らず、ロフティは保養施設に足を運んだ。
シェバハとの戦闘で、保養施設は幾らか破壊されていたが、元から廃墟だった所なので、
よく注意して見なければ、何か起きたとは気付けない。
カードマンは独り、何時もの娯楽室でロフティを待ち受ける。

 「お早う御座います……っと、貴方一人ですか?」

意外そうな顔をする彼に、カードマンは静かに頷き、事情を説明した。

 「昨晩、シェバハの襲撃を受けた」

 「えっ、シェバハって、あの……。
  それで他の皆さんは……?」

 「分からない。
  とにかく必死で、どうにか独り逃げ延びた。
  今ここに居るのは私だけだ」

そうカードマンが告げると、ロフティは困り顔で俯き、独り思案を始める。
十数極後、彼は面を上げて、取り敢えずの指示をした。

 「えぇと……皆さんが戻って来た時の為に、薬を渡しておきます。
  私は上に報告しますので」

ロフティはカードマンに薬を押し付け、急いで報告に戻ろうとする。
それをカードマンは呼び止めた。

 「待て、ロフティ」

 「……何ですか?」

未だ面倒事があるのかと、ロフティは露骨に嫌そうな表情をする。
0336創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/12(金) 20:36:36.75ID:qPbB8rgt
それにも怯まず、カードマンは淡々と尋ねた。

 「薬の在庫があるのか?」

生産者であるダストマンは死んだ。
魔法資質を強化する薬は、もう手に入らない筈だ。
ロフティは頷いて答える。
 
 「はい、数日分は。
  こうなったら新しい人を迎え入れるしかありません。
  カードマンさん、他の皆さんが戻られるまでは、貴方がリーダーです」

 「リーダーってのは性に合わないんだが」

 「合う合わない等と言っている場合ではありません」

 「それと場所を移した方が良いと思う」

 「ああ、はい、それは確かに……。
  でも、私の一存では何も決められませんので。
  他に利用出来る場所は知りませんし、誰か戻って来るかも知れませんし……」

カードマンの問に、ロフティはマニュアル人間振りを発揮して、役に立たない回答をした。
カードマンは苛立った様に見せる為、敢えて強い言葉を吐く。

 「では、誰なら決められる?
  ドロイトか、それとも騎士団長様か」

皮肉めいた発言に、ロフティは怒りを滲ませた。

 「私の独断で決める訳には行かないのです!」

 (騎士団長か……。
  やはり奴が曲者だな)

彼の反応から、カードマンはロフティが忠誠を誓う人物を読み取る。
会長をドロイトと呼び捨てにした時は無反応だったのに、副会長を騎士団長様と皮肉った時には、
動揺が見えた。
0337創る名無しに見る名無し
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2018/10/12(金) 20:39:37.96ID:qPbB8rgt
「騎士団長」が怪しい事は、潜入して直ぐに判明した。
ドロイトは正に飾りで、会長とは肩書きだけ。
忠臣の集いの重要な意思決定に関わった様子が無く、「良きに計らえ」と言うだけの存在だ。
しかも、それを良い事だと思っている節がある。
実質的に会を動かしているのは、副会長である「騎士団長」。
態々「忠義の騎士」と言う身分を設定し、それを纏めて操る存在。
これを怪しいと言わずして、何と言うのか?

 「新しい拠点が必要だと言う事は、私も十分理解しています。
  直ぐに伺って来ますから、お待ち下さい」

ロフティは取り繕う様に言うと、速やかに去ろうとした。
丁度その時、娯楽室の扉が開いて、新たに1人が入室する。
彼はロフティと衝突しそうになって、足を止めた。

 「おっと、ロフティか」

その人物を見て、カードマンは目を見張った。

 「お、お前は……」

エール色の肌、深い緑の髪、赤い瞳……。
容姿こそ違うが、彼が纏っている魔力の流れには覚えがある。
ダストマンだ。

 「あ、貴方は?」

ロフティはダストマンの素顔を知っており、「この顔」には覚えが無いので、困惑する。
ダストマンは笑いを堪えて答える。

 「私だよ、ダストマンだ」
0338創る名無しに見る名無し
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2018/10/12(金) 20:42:51.27ID:qPbB8rgt
ロフティは眉を顰めて言い切った。

 「いいえ、私の知っているダストマンは全然違う人です。
  貴方の事は知りません」

そう言われたダストマンは、カードマンに目を移す。

 「彼は判っているみたいだけど……なぁ、カードマン!」

 「知らないな……」

カードマンは内心の動揺を抑え、素っ惚けた。
頭の中では、必死に思考を働かせている。
「この」ダストマンは、一体何者なのか?

 「おいおい、それは無いだろう?
  私を殺しておいて」

ダストマンは肩を竦めて苦笑いする。

 「お前なんか知らん!
  早々(さっさ)と出て行け!」

カードマンは威嚇しながらも、実力行使には出ない。
ダストマンは昨晩、確かに死んだ。
死体は魔導師会が持ち帰っており、今頃は心測法を試されている。
見た目が違う事から、このダストマンは同一人物では無いが、彼と関連のあった人物である事は、
間違い無さそうだ。
0339創る名無しに見る名無し
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2018/10/12(金) 20:48:01.48ID:qPbB8rgt
では、何なのか?
似ていない兄弟か、親戚か、それとも偶々魔力の質が似ているだけの他人か?
ダストマンは何時も埃塗れだったので、時々中身が入れ替わっていたとしても、誰も気付かない。
もしかしたら、ダストマンは1人では無いのかも知れない。
だったら、カードマンに対し、「私を殺しておいて」と言ったのは何故か?
鎌を掛けているのか、それとも……。
カードマンの心中で不安が渦巻く。
「同じ」ダストマンであれば、実力も変わらない筈で、安易に手を出すのは危険。

 「ロフティ、信じてくれないか?」

ダストマンはロフティに向かって言うが、当然信じる訳が無い。

 「カードマンさん」

ロフティはカードマンに視線を送った。
「追い払ってくれ」と言う合図だ。
そう出来るなら、そうしたいカードマンだったが……。

 「頭の狂(イカ)れた奴に構っている暇は無い。
  消えろ」

やはり威圧は言葉だけに止める。

 「嘘じゃないさ、愚者の魔法を使ってくれても良い」

ダストマンはロフティに向けて、焦る様子も無く言って退けたが、愚者の魔法は意識に働く物であり、
嘘を吐いている自覚の無い本物の異常者には効果が無い。
0340創る名無しに見る名無し
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2018/10/12(金) 20:51:04.53ID:qPbB8rgt
何度働き掛けても、ロフティが全く取り合わないので、ダストマンはカードマンに狙いを絞った。

 「カードマン、何とか言ってくれよ。
  昨日の夜、私達はシェバハの襲撃を受けた。
  皆が懸命に戦っている最中、君はブローと共に逃げ出そうとしていたな。
  私は君達を止めようとしたが、君が呼び寄せた魔導師に殺された」

その言葉に怒りや憎しみは感じられない。
事実だけを淡々と説明している。

 「嘘を吐くな」

彼は「死んだ」ダストマンとは別人だと、カードマンは確信する。
取り付く島も無く、ダストマンは再び肩を竦める。

 「やれやれ、開き直るのか?
  私は嘘は言っていないが」

 「大嘘だ」

余りにも堂々とカードマンが言い切るので、ダストマンは少し自信を失い、眉を顰めた。

 「何か間違っていたかな……?」

 「お前はダストマンでは無い」

ダストマンは最期には自決した。
そこまで追い詰めたのは、確かに魔導師会だ。
しかし、殺すのは目的では無く、飽くまで裁判に掛けようとしていた。
これを「殺された」と言い切るのは不自然。
死んだ人間が蘇ったのでは無い。
その事実は、カードマンを大いに安心させる。
ダストマンは死の前に、何等かの方法で他者に情報を伝えたと言うのが、事の真相であり、
「この」ダストマンの正体であろう。
0341創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/12(金) 20:54:21.42ID:qPbB8rgt
但し、彼の実力が死んだダストマンに劣るとは限らない。
もしかしたら、死んだダストマンは尖兵の一人に過ぎないのかも知れない。
カードマンは何時このダストマンが実力行使に出るかと警戒していた。
ダストマンは大きな溜め息を吐いて、説得を諦め、正体を告白した。

 「分かって貰えないか……。
  私は確かに、ダストマンでは無い。
  しかし、ダストマンと同一人物と言っても差し支えは無い」

 「何を言っているんですか……?」

混乱するロフティに、ダストマンでは無いと自白した人物は説明を続ける。

 「ダストマンは『私達』の一人だ。
  私達は複数の肉体を持ち、記憶と人格を共有している」

そう言われて、そうですかと信じられる者は居ない。
余りにも人間離れしている。
ロフティは困惑していた。
一方で、カードマンは部分的には真実では無いかと思う。
彼は粗を突いて更に情報を引き出そうとした。

 「それが事実なら自分の末期を違える訳が無い。
  少なくとも記憶は共有していないみたいだが」

その指摘にダストマンは困り顔になった。
カードマンは追撃を加える。

 「そもそもシェバハと戦う破目になったのは、ダストマンの所為だ。
  撤退しようと言う意見があったにも拘らず、彼は皆を脅して無理遣り戦わせた」
0342創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/13(土) 18:32:46.76ID:c32mvhTF
ロフティは新たな事実を告げられて、更に混乱した。

 「ダストマンさんが、そんな事を……?」

ダストマンは序列最下位で、雑用をさせられていた。
彼の認識は、そこで止まっているのだ。
カードマンは詳細を解説する。

 「ダストマンは力の無い振りをして、私達を観察していた。
  彼は魔法資質を高める薬の製作者だった。
  忠臣の集いを隠れ蓑に、薬の性能実験をしていたのだ。
  シェバハが襲撃すると言う情報を仕入れたダストマンは、皆に『更に強い薬』を飲ませた。
  それも当然、無理遣りに。
  薬に耐えられず、ビートルとワインダーは死んで、カラバは瀕死になった。
  数日前から、彼等が姿を見せなかったのは、そう言う訳だ」

そこまで聞いたロフティは反論した。

 「それは変ですよ。
  ダストマンさんは本当に薬の製作者なんですか?
  私は何時も薬を他の人から受け取っていますが……」

その疑問にはダストマンでは無い男が答える。

 「カードマンの言う事は、概ね間違っていない。
  何時も君に薬を渡しているのは、私達の一人だ」

ロフティは益々混乱した。

 「何を言っているんですか、貴方は……」

何故ここに来て自分の企みを暴露するのかと、カードマンも驚く。
0343創る名無しに見る名無し
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2018/10/13(土) 18:33:49.88ID:c32mvhTF
ダストマンでは無い男の自白は止まらない。

 「信じられないかも知れないが、全て事実だ。
  私達は薬の製作者でもあり、君達を利用して新薬の実験をしていた。
  だが、これは君達が忠誠を誓う騎士団長も了解していた事だ」

 「それが何だって言うんですか?
  貴方は本当に何者なんです?」

 「私達は騎士団長から技術提供を受け、例の薬を作った。
  完成には未だ未だ実験が必要だ」

 「貴方の目的は何なんです?」

訝るロフティに、彼は話が早いと喜んで答える。

 「今まで通り、私を力ある者として使って欲しい。
  前のダストマンの事は忘れてくれ」

 「いや、そんな簡単には……。
  大体貴方の話が本当か……」

この男は自分を「新しい」ダストマンとして認めろと言うのだ。
その率直な要求に、ロフティは応えられない。
マニュアル人間の彼に、その場で回答を求めるのは、土台無理な事。
透かさずカードマンはロフティの肩を持つ。

 「こんな奴を信じては行けない。
  とにかく騎士団長に会って、指示を仰ぐべきだ。
  私も同行する」

その意見に新しいダストマンも頷いた。

 「それが良い、騎士団長なら分かってくれる筈だ」
0344創る名無しに見る名無し
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2018/10/13(土) 18:36:09.27ID:c32mvhTF
話に乗っかって自然に同行しようとする彼を、カードマンは突き放す。

 「お前は来るな!」

そして、ロフティに視線を送った。

 「騎士団長に確認が取れるまで、こいつに取り合うべきではない」

ロフティも概ねカードマンと同じ考えだった。
正体の不明な人物を騎士団長に会わせるのは危険だ。
漸く話が決まりそうな所で、ダストマンはロフティに忠告する。

 「ロフティ、カードマンを騎士団長に会わせるな。
  彼は魔導師会の狗だ。
  その行動は組織にとって致命的な一撃となる」
0345創る名無しに見る名無し
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2018/10/13(土) 18:36:43.79ID:c32mvhTF
カードマンは不快感を露にダストマンを睨み、ロフティに言う。

 「こんな奴の言う事を聞くな」

板挟みとなったロフティは、マニュアルに従う事にした。
詰まり、どちらも副会長には会わせないと言う判断である。

 「……副会長には私一人で会って来ます。
  どちらが嘘を吐いているか分かりませんが、これなら問題は無いでしょう」

ロフティの信用は明らかにカードマンにあるが、万が一を考えた。
ここで食い下がっては怪しまれるかも知れないと、カードマンは慎重になる。

 「それが良い。
  今は確認を取るのが優先だ」

彼は敢えてロフティを独りで行かせた。
黒幕を突き止める決定的な好機を逃す事になるが、「この」ダストマンにも聞きたい事がある。
0346創る名無しに見る名無し
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2018/10/14(日) 18:05:21.84ID:fOEddHBd
ロフティが去った後、カードマンとダストマンは一対一になる。

 「残念だったな、カードマン」

小さく笑うダストマンに、カードマンは強がりの笑みを向けた。

 「そうでも無いさ。
  お前達の企みは判った。
  騎士団長が全ての黒幕だと言う事も」

 「素直過ぎて心配になる。
  罪を擦り付ける為の、私の虚言だとは疑わないのか?」

ダストマンはカードマンの動揺を誘ったが、それは通じない。

 「疑う必要は無い、昨夜の段階で証拠は十分に揃っている。
  後は突入するだけ。
  真相は後から判明する」

忠臣の集いは一般人を集めて、「魔法資質を高める」と謳う違法な薬を使った実験を行っていた。
その事実だけで、執行者が突入するには十分。
逆に、カードマンはダストマンを脅す。

 「お前の悪巧みも、ここまでだ。
  どうして私が残ったと思う?」

ダストマンは嫌な予感がして身構えた。

 「『第五の漆黒<ハイ・ブラック>』!」

そして不意打ち気味に黒の魔法を使うが、カードマンは『魔除け<アミュレット>』を掲げて防ぐ。

 「何度も同じ手が通用するとは思わない事だ。
  お前は他人を見下す嫌いがある。
  本当に実力を隠して潜伏していたのは誰なのか」
0347創る名無しに見る名無し
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2018/10/14(日) 18:06:24.15ID:fOEddHBd
カードマンは手品師の様に、服の各所から魔除けの装飾品を取り出した。
彼が1つ装飾品を床に落とす毎に、彼の魔法資質が増大して行く。
否、これが彼の本来の実力なのだ。
その圧力にダストマンは息を呑んだ。

 「怪し気な薬に頼らずとも……、この位の力はある!」

カードマンがダストマンに手の平を向けると、同時に強力なマジックキネシスが放たれる。
それはダストマンの頭部を確と捉えて、鷲掴みにした。

 「私の肉体を幾ら傷付けても無駄だ」

ダストマンは強がったが、カードマンは無視して魔法を掛ける。

 「B46G1」

呪文を聞いた途端、猛烈な眠気がダストマンを襲った。
これは相手を眠らせる催眠の魔法だ。
その予兆を見逃す様なダストマンでは無かったが、彼は防御動作を取らなかった。
彼は何時でも意識を肉体から切り離せる。
肉体との繋がりを断てば、眠りの魔法は防げる物だと思っていた。
効かない筈の魔法が効いてしまっているので、驚かずには居られない。
眠気で意識が朦朧とする中で、ダストマンは必死に抵抗した。

 「これ如(し)きの魔法……。
  こ、こんな初歩の魔法が……」

 「仮令(たとい)霊体になっても、人間だった時の習慣は抜けない物だ。
  お前も眠りに落ちる感覚を知っているだろう。
  睡眠と言う概念まで忘れる事は出来ない」
0348創る名無しに見る名無し
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2018/10/14(日) 18:07:02.45ID:fOEddHBd
ダストマンは霊体が眠りに落ちると、どうなるか知らなかった。
精霊体で眠った事は一度として無い。
この儘では魔導師会に記憶を漁られると恐怖した彼は、自分を殺しに掛かる。

 「くっ、だが、貴様等の思い通りにはさせん……」

眠りに落ちる間際に、ダストマンは自分で自分の脳と霊体を攻撃して消滅させる。
今の自分が倒れても、代わりに他の自分が駆け付ける。
そう確信しているからこそ出来る事。

 「一体、幾つの命を持っている?」

崩れ落ちたダストマンは息をしておらず、魔法資質も感じられなかった。
彼の死を慎重に確認しつつ、カードマンは溜め息を吐く。
「ダストマン」が1人や2人で無い事は明白だ。
会長や副会長等を逮捕し、忠臣の集いを解散させても、ダストマンだけは生き残る可能性がある。

 (漸く正体を掴んだのだ。
  逃しはしない。
  地の果てまで追い詰めるぞ)

カードマンの体は次第に黒化し、輪郭を失って行く。

 (お前が弄んだ命を数えるが良い。
  その数だけ、私達も又存在する)

ダストマンの死体はカードマンの影に取り込まれ、闇に沈んだ。
恐るべきは誰か……。
0349創る名無しに見る名無し
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2018/10/15(月) 18:53:46.32ID:EuuaGUad
ティナー市街地にて


その頃、日常に戻っていたブロー事、潜入者グウィン・ウィンナント事、グランディ・ワイルズは、
熱(ほとぼ)り冷ましの休暇を取らされていた。
潜入工作で外部に出向した者は、身元を探られない様にする為、冷却期間を置かなければならない。

 (しかし、休暇って言ってもな……)

彼が忠臣の集いに潜入したのは、知り合いの魔導師の頼みでもあるが、組織の都合でもあった。
当然、組織の幹部に話は通してあるが、こうして暇を出されても、やる事が無い。
グランディは決して仕事人間では無かったが、他に生き甲斐らしい物を持っていなかった。
然りとて、自宅に篭もって寝て過ごすのも不健全な気がして、彼は街中を浮ら付く。
余り混(ご)み混(ご)みした所は好かない彼だが、大都市の喧騒は嫌いでは無かった。
特別好きだった訳でも無いが、潜入任務と言う非日常を過ごした後の為か、妙に温かく、落ち着く。
生まれ付いての都会っ子なのだ。
路地に設置された『長椅子<ベンチ>』に腰掛け、道行く人を何と無く眺めているだけで安心する。
この街は何があっても変わらないと、そんな幻想を抱かせてくれる。
そうやって無為に時を過ごしていたグランディだが、彼は突然背後から声を掛けられた。

 「やぁ、ブロー」

聞き覚えのある声に、グランディは緊張して目を見張る。

 「……お前はダストマン……」

振り返ろうとする彼の首をダストマンは後ろから掴んで押さえた。
グランディは身動きが取れなくなる。

 「ダストマンは本名では無いんだ」

 「俺もブローなんて名前じゃない」

一体何が目的なのかと、グランディは恐々としていた。
0350創る名無しに見る名無し
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2018/10/15(月) 18:54:52.03ID:EuuaGUad
 「お前、死んだんじゃないのか……?」

至極尤もな疑問に、ダストマンは素直に答える。

 「ああ、確かに死んだ。
  しかし、それは私では無い私だ」

 「い、意味が解らない」
 
 「私達は記憶と人格を共有している。
  その内の1人が死んだと言うだけの事」

そんな事が有り得るのかとグランディは最初信じられなかったが、思い返せばダストマンは、
その信じられない事ばかりして来た。
もしかしたら、複数の肉体を持つ事も出来るのかも知れないと、気弱になる。

 「それで俺に何の用だ……?
  復讐しに来たのか」

 「最後の勧誘に来た。
  私の仲間になる気は無いか?」

余りの執拗(しつこ)さに、グランディは嫌厭を露に、無気力に回答した。

 「好い加減にしてくれよ。
  面倒な事が終わって、やっと一息って時に」

 「応えなければ、殺すと言ってもか」
0351創る名無しに見る名無し
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2018/10/15(月) 18:58:21.72ID:EuuaGUad
ダストマンの脅しも、今のグランディには通じない。

 「お前とは関わりたくないんだ。
  何を企んでも結構だが、俺とは関係無い所でやってくれ」

 「死が恐ろしくは無いのか?」

 「一々手前の命を惜しんでたら、『不役<ヤクザ>』な仕事は出来ないさ」

死を恐れないと堂々と言える程、彼は生に執着していない訳では無い。
だが、ダストマンが本気で自分を殺すとは思えなかった。

 「仕方が無い」

拒否されたダストマンは小声で零すと、空いた手に隠し持っていた何かを握り潰した。
乾いた音を立てて、割れた赤いガラス玉の様な物が道路に落ちる。
それをダストマンは踏み躙り、小さく笑った。

 「先ず1人」

グランディは悪寒に震える。

 「手前、何を……」

 「君の組織の誰かが死んだぞ。
  誰かな?
  首領か、幹部か、下っ端か」

 「ンな事されて、本気で寝返ると思ってんのか!?」

組織は家で、構成員は家族。
それに手を出した者は、誰であろうと許してはならない。
0353創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/16(火) 18:15:24.43ID:d7xH/lgV
グランディ・ワイルズ=潜入者の本名
グウィン・ウィンナント=>145でドロイトに近づいた時に名乗ったグランディの偽名
ブロー=グランディが>196でビートルに名付けられたインフルエンサーとしての名称

>349を見る限り、こんな感じだと思う
0355創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/16(火) 20:02:49.06ID:Cn90qzmb
グランディは怒りと混乱で一瞬頭が真っ白になった。
しかし、忽ち我に返って、己の無力を自覚する。

 「何故、俺なんだ?
  何故、そこまでする?」

彼にはダストマンの思考が読めなかった。
散々断っているのに、どうして殺さないのか?
その疑問に対して、ダストマンは不思議そうに尋ね返す。

 「理由が必要か?
  合理的な理由があれば、私に従うのか?
  違うだろう?
  だったら、無理にでも言う事を聞かせる他に無い」

 「生憎だが、俺達『仁侠<マフィア>』は屈すると言う事を知らない。
  良いぜ、殺すなら殺せ。
  それでも俺は従わない。
  決められるのは『首領<ボス>』だけだ。
  それが俺達の『掟<オルメタ>』」

マフィアは組織毎に異なる鉄の掟を持つが、殆どの組織で以下の点は共通している。
強きを挫き弱きを助く、名誉を重んじる、地域に根差す、司法で裁けない住民の「問題」を片付ける。
これこそが『非行集団<ギャング>』や『無法者<コーザ・ノストラ>』とは違うと言い張れる証。
頑固なグランディの態度に、ダストマンは残念がった。

 「……仕方無い、不本意ではあるが」

彼はグランディから手を放し、溜め息を吐く。

 「そうまで言われたら、もう全滅して貰うしか無い」
0356創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/16(火) 20:13:03.27ID:Cn90qzmb
ダストマンはグランディの首を抑えていた手を放し、徐に彼の正面に回り込むと、
目の前で赤い小さなガラス玉を粗雑(ぞんざい)に、数個ずつ砕き始めた。
グランディは目を見張る。

 「お、おい、手前っ!」

 「フフフ」

彼は慌てて立ち上がり、止めようとしたが、ダストマンに片手の人差し指を向けられただけで、
身動きが取れなくなる。
グランディの目の前の男は見覚えの無い顔なのに、声だけは何故か死んだダストマンと同じ。
一体何が真実で、何が嘘なのか……。
蒼褪めるグランディをダストマンは嘲笑した。

 「君の様な人間にとっては、自分の死より、近しい者の死の方が辛かろう」

 「殺すなら俺を殺せ!」

 「駄目だ、君だけは殺さない。
  その代わり、君に近付く人間は皆殺しにする。
  私に従わなかった罰として、死よりも重い罪を負うが良い」

 「馬鹿なっ!
  何の意味があって、そんな事を!」

 「気晴らしかな。
  こう見えて私は気が長い方では無いし、確り根に持つ方なんだ。
  ああ、常に監視する訳では無いから、安心してくれ。
  手透きになれば、気紛れに、思い付いた時に、皆殺しにする」

問には答えて貰えず、絶望的な宣言をされて愕然とするグランディに、ダストマンは失笑する。

 「心変わりしても良いぞ。
  組織が全滅した今、君はマフィアでは無いのだからな。
  変心を受け容れるかは、私の気分次第だが……。
  さて、遊びは終わりだ。
  私は雲隠れする。
  実は魔導師会に追われているのだ」

そう言うと、彼は人込みに紛れ、瞬く間に姿を消した。
グランディはダストマンを追おうとしたが、既に後ろ姿も見えない。
徒、呆然と立ち尽くすより他に無かった。
0357創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/17(水) 14:23:26.81ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

RLR
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