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ロスト・スペラー 19
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0001創る名無しに見る名無し
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2018/07/05(木) 21:21:14.20ID:79tLuu1L
何時まで続けられるか


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
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http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0207創る名無しに見る名無し
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2018/09/05(水) 19:15:22.89ID:aQqaZSy7
ダストマンは無言の儘、何も答えなかった。
交渉決裂かなと潜入者が思った、その時――、

 「ブロー、これを渡しておく」

ダストマンが錠剤の詰められた小さな瓶を取り出す。
埃だらけの手は、丸で着包みの様。

 「これって――」

瓶に入った錠剤が、「強い薬」だと言う事は、直ぐに察しが付いた。
潜入者は瓶に手を伸ばそうとして、思い止まる。

 「良いのかよ?」

 「何時、実行するかは任せる」

表向き、ダストマンは潜入者を信頼している様だ。
これは確実に裏があると、潜入者の勘が告げていた。
しかし、更に魔法資質が高まる薬は、魅力的である。

 「解った、有難く貰っておこう」

貰うだけで使わないのもありでは無いかと、潜入者は狡い事を考えていた。
何よりも先ずは様子を見る事。
忠臣の集いにとって、力ある者は用心棒に過ぎないとして、ビートルの目的は何か、
ダストマンの真意は何か、未だ見極める必要がある。
潜入者はダストマンから受け取った小瓶を片手に、廃工場へと足を進めた。
0208創る名無しに見る名無し
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2018/09/05(水) 19:16:10.30ID:aQqaZSy7
廃工場が立ち並ぶ路地を歩きながら、人の姿を探す潜入者に、ダストマンは問い掛ける。

 「何を探している?」

 「誰でも良いから、人が居ないかと」

 「余り大量に殺すな。
  始末が大変だ」

彼に恐ろしい忠告をされた潜入者は、目を剥いて彼の見当違いな予想を否定した。

 「誰が殺すと言った!?」

ダストマンは少しの間を置いて、決まり悪そうに言う。

 「……早合点だった様だな。
  では、痛め付けるだけか」

 「いや、そんな事しないからな!?」

 「しないのか……?
  力を得れば、試したくならないか」

潜入者が重ねて否定すると、ダストマンは驚いた様な声を上げた。
潜入者は呆れて答える。

 「ビートルやトーチャー相手に、十分試したじゃないか」

自分より弱い者を無闇に甚振る事は、良くないと彼は思っていた。
0209創る名無しに見る名無し
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2018/09/06(木) 18:31:14.65ID:BzL6DU8t
しかし、同時に増大した力と共に昂る心を抑えられず、捌け口を求めるのも解らなくは無い。
実際に潜入者自身も、短時間ではあるが、力に溺れた。
……今も力を求めている。
それから暫く、潜入者は廃工場地帯に暮らす貧民を探したが、見付からなかった。

 (魔力の流れにも変化が見られない……。
  本当に誰も居ないのか?)

少し疲れて溜め息を吐く彼に、ダストマンが話し掛ける。

 「多くの貧民は出て行った。
  幾らかは残っていると思うが、そうそう姿を現す事は無い」

 「どうして――っと、成る程、誰も遊び半分で殺されたくは無いか」

潜入者は直ぐに感付いた。
恐らくは、『力ある者<インフルエンサー>』となった者が、力を試そうと貧民を虐げたのだろう。
貧民は攻撃されても、都市警察を頼らない。
都市警察の介入があれば、貧民は都市法の遵守を求められる為だ。

 (しかし、貧民も黙ってはいない。
  こう言う時は、地下組織を頼る)

貧民は非民と言われる位、法に守られない存在だからと言って、やられっ放しでは引き下がらない。
自分達の手に負えないのであれば、地下組織の手を借りる。
その代わりに、地下組織の者を庇ったり、匿ったりするのだ。
今、ここに居る貧民の救援要請に応えられる地下組織は、ティナー市内には無い。
だが、都市警察に目を付けられるのも恐れず、ここに乗り込める地下組織が、1つだけある。
0210創る名無しに見る名無し
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2018/09/06(木) 18:32:45.87ID:BzL6DU8t
それはティナー地方西部を縄張りとするマフィア・シェバハだ。
魔導師以上に魔導師会を崇拝する、共通魔法至上主義者の集団で、外道魔法使いと、
不法者を徹底的に排除する。
「魔法資質を高める薬」等と言うMAD(魔法覚醒剤)擬きの存在を、絶対に許しはしない。

 (シェバハとは当たりたくないが……)

もし潜入者と言う立場で無ければ、彼は即座に撤退していた。
シェバハを敵に回したくは無いのだ。
その狂信振りは、同じ地下組織にも恐れられている。
開花期の初期までは義賊寄りではある物の、略奪を生業とする所謂「盗賊団」だったが、
今となっては不法者を殲滅する完全な確信犯の集まりだ。

 (『力ある者』なら対抗出来るのか?)

それでも薬の力を借りれば、シェバハを撃退可能なのかと、潜入者は考えた。
シェバハの恐ろしさは、その組織力にある。
構成員は魔導師崩れが多く、集団で不法者を闇討ちする。
当然共通魔法の技術も、それなりに高い。
個々が強大な力を持つ「力ある者」とは対極。

 (あいつ等が連携出来るとは思えない。
  力任せで勝てるなら、誰も苦労はしない)

この儘では、力ある者はシェバハに壊滅させられる。
あのビートルでも魔導師崩れが十人揃えば、容易く対策されてしまうだろう。
0211創る名無しに見る名無し
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2018/09/06(木) 18:35:50.56ID:BzL6DU8t
潜入者はダストマンから貰った、「もっと強い薬」があれば、どうなるかと考えた。
もし本当に更なる魔法資質の強化が見込めるなら……。

 (いや、危険な賭けだ。
  しかし、連中が俺の説得に耳を貸すだろうか?
  どいつも、こいつも、自信過剰の増上慢だ。
  俺だけでも逃げた方が、未だ賢い)

シェバハが何時乗り込んで来るかは判らない。
今日かも知れないし、明日、明後日、来週かも知れない。
もしかしたら、貧民の話には耳を貸さないかも知れない。

 (大袈裟に騒ぎ立てて、何も無かったら、良い笑い者だな)

自分だけ撤退しようかなと、潜入者の心は揺れた。
他の力ある者に、義理や恩がある訳では無い。
どうなろうと知った事では無いし、自分の命には代えられない。
だが、ダストマンには話をしておいても良いかと、彼は思った。

 「ダストマン、人探しは止めだ。
  あんたに話がある」

 「何だ?」

如何にも深刻な口振りの潜入者に、ダストマンは少し動揺した様な声で尋ねた。
潜入者は正直に予想を告げる。

 「これは飽くまで、俺の予想に過ぎないんだが……。
  近い内に、ここは襲撃を受けると思う」
0212創る名無しに見る名無し
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2018/09/07(金) 19:25:10.42ID:d55Mqf7+
ダストマンは俄かには信じ難いと、訝し気に問うた。

 「襲撃?
  どこの誰に?」

 「地下組織のシェバハだ」

 「シェバハ……。
  凶悪で有名な、あのシェバハか?」

 「ああ」

 「何故そんな事が分かる?」

彼の疑問は当然だと、潜入者は頷きながら答える。

 「だから、飽くまで予想だ。
  外れる――詰まり、何も起こらないかも知れない。
  明日来るかも知れないし、永遠に来ないかも知れない。
  それは分からない」

 「根拠を聞いている!」

ダストマンは初めて感情を露わにした。
その危機感は、どこから来るのかと潜入者は訝る。
先までのダストマンはエージェントらしく、冷静沈着だった。
それが、この取り乱し様。
一体何を懼れているのか?

 (薬の出所を暴かれる事?
  いや、違うな……)

力ある者は、誰一人として薬の出所を把握していないであろうと、潜入者は予想していた。
もしシェバハが襲撃して来ても、薬の事は何一つ分からず、この場にある物を処分するだけ。
シェバハは狂信的過ぎて、魔導師会には疎まれているので、連携する事も考え難い。
0213創る名無しに見る名無し
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2018/09/07(金) 19:26:42.73ID:d55Mqf7+
寧ろ、シェバハが力ある者を潰せば、証拠を隠滅する手間が省けるのではと、潜入者は思う。
それとも、薬は既に忠臣の集いに押さえられていて、どうしても会の中枢に接近する必要が、
あるのだろうか?
もう1つ、可能性があるとすれば……。

 (製薬会社も実験に協力しているのだとしたら?
  そして、実験の成果を独占しようとしているのだとしたら?)

そちらの方が可能性が高いのではと、潜入者は考えた。
正面から訊ねた所で、ダストマンは素直に答えてくれないだろうが……。

 「何故シェバハが攻めて来ると思う?」

潜入者に対し、ダストマンは重ねて問い掛けた。
どう答えた物かと、潜入者は思案する。
今後の為にも、地下組織の人間と知られるのは避けたい。

 「貧民を虐めると地下組織が出て来ると、聞いた事がある。
  だが、今は騒動が続いて大変な時だ。
  魔導師会が出張っているから、地下組織は表立って動けない」

 「シェバハは違うと?」

 「ああ。
  しかも、この情勢でシェバハは東に活動範囲を拡げているらしい」

ダストマンは短い沈黙を挟んで、小声で言った。

 「随分、詳しいんだな」

 「簡単な推理だよ。
  新聞を読んでりゃ判る事だ」
0214創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/07(金) 19:28:49.14ID:d55Mqf7+
ダストマンは再び沈黙し、再度小声で言う。

 「新聞を読むのか」

 「ああ、可笑しいか?
  新聞なんて、どこにでも置いてあるだろう」

潜入者は敢えて、貧乏臭い台詞を吐いた。
「買ってまでは読まない」と言う事だ。

 「俺の言う事を信じる信じないは勝手だが、とにかく俺は暫く雲隠れする。
  ビートルが何と言おうがな」

 「待て!」

ダストマンは大きな声で、潜入者を呼び止めた。

 「何だよ?」

 「シェバハと戦わないのか」

 「冗談じゃない!
  あんた、シェバハを知らないのか?」

潜入者は呆れた声で言う。

 「シェバハには魔導師崩れが多いって、聞いた事あるだろう?
  無いか?
  魔導師崩れってのはな、魔導師になりたかったけど駄目だった奴とか、
  なったは良いけど落ち零れた奴の事だ」

 「それは知っている!」

今更「崩れ」の説明をされても、そんな事は言われるまでも無いと、ダストマンは憤慨した。
0215創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/08(土) 19:34:11.39ID:EuoTa4qp
潜入者は飄々とした態度で告げる。

 「詰まり、シェバハの連中は実力的には魔導師と大差無い訳だ。
  そんなのを相手にする何て、俺は嫌だね。
  魔法資質が幾ら高くても、魔法知識で劣ってたら、どうにもならない。
  命が幾つあっても足りやしない」

 「薬を使ってもか?」

ダストマンは強い薬を使えば勝てるのでは無いかと言いたかった。
魔法資質が高まれば、相手の魔法を先読みしたり、魔法の発動を妨害したり出来る。
だが、それだけだ。
未知の魔法を使われたら、対処の仕様が無い。
それに常人の10倍、20倍の力があろうとも、10人、20人には勝てない。

 「魔法資質だけ高くても駄目って事さ。
  ダストマン、あんたも逃げた方が良いんじゃないか?」

ダストマンは何も答えなかった。
未だ勝算があると思っているのかと、潜入者は呆れる。

 「それとも、あの『強い薬』を全員に渡してやるのか?
  どの位、強くなれるかは知らないが……」

もし、今居る「力ある者」に更なる力を授けるのだとしても、自分は御免だと彼は態度で示した。
既に薬だけは貰っているので、持ち逃げだ。
0216創る名無しに見る名無し
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2018/09/08(土) 19:36:51.32ID:EuoTa4qp
一度保養施設に帰ろうとする潜入者を、ダストマンは再び呼び止めた。

 「待て、貴様も残って戦え」

潜入者は苦笑いして応える。

 「勝算も無いのにか?」

 「ある。
  全員に薬を使わせる」

 「正気かよ。
  副作用の心配はしなくて良いのか?」

 「これから全員に試す」

 「行き成り、そんな都合の良い薬を持ち出して、信用されるか?」

先ず、どうしてダストマンが薬を持っているか疑われるだろう。
表向き、彼は力ある者の一人でしか無く、しかも序列は最下位だ。
ロフティから貰ったと嘘を吐くのだろうか?
ダストマンは直立した儘、沈黙した。
良い言い訳が思い付かないのだろうと、潜入者は察する。
ダストマンを放置して帰ろうと潜入者は思っていたのだが、背を向けた瞬間に彼は殺気に震えた。

 「……好い加減にしてくれよ」

潜入者はダストマンに対して文句を言う。
殺気を放っているのは、他でも無いダストマンだ。
どうあっても、彼は潜入者を逃がさない積もり。
0217創る名無しに見る名無し
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2018/09/08(土) 19:42:54.69ID:EuoTa4qp
いざとなったら、自分だけ強い薬を使って逃げれば良いかと、潜入者は楽観した。
どうせシェバハとの戦いになったら、他人の事に構っている余裕は無くなるのだ。
もし戦闘になれば、混乱に乗じて逃げ出そうと、潜入者は決心する。

 「はぁ、仕様が無いな。
  取り敢えずは、見届けてやるよ。
  上手く行くとは思えないがな」

彼はダストマンを宥めて、共に保養施設に戻った。
その後は一人だけ宿泊室に移動し、空き部屋を見繕って、寝て過ごす。
シェバハが攻めて来て全てが終わるのだと思うと、他の者達と交流を深めようと言う気も起こらない。
自分一人で逃げるのだから、情が移る様な真似はしない方が良いのだ。
そう思って、潜入者は引き篭もっている事にした。
シェバハが攻めて来ない可能性もあるが、その時は任務失敗で脱走すれば良い。
元々命懸けの仕事では無い。

 (今の内に、薬の効果を確かめておくか……?
  いや、万一の時に対処出来るのは、ダストマンだけか)

これは困ったと、潜入者は頭を掻く。
今の状況でダストマンを頼りにすれば、取り引きを持ち掛けられる可能性が高い。

 (薬が使い物にならない可能性も考えないと。
  もしかして今、俺は追い詰められているのか?)

襲撃前に夜逃げでもしようかと悩む潜入者だが、その直後に腹の虫が鳴る。

 (昼飯時か……。
  こんな所で飯の用意は、どうするんだ?)

空腹を我慢する訳にも行かず、彼は人の居そうな娯楽室に向かった。
0218創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/09(日) 19:20:45.03ID:611evRvp
娯楽室ではカードマンが独りで『撞球<ダラクーラ>』(※)をしていた。
相手も無く、ボールを突いて遊んでいる。

 「カードマン、他の連中は?
  どこに行ったんだ?」

屯していた者達が皆居なくなっていたので、潜入者はカードマンに問い掛ける。
カードマンは暫し無反応で、聞こえているのか聞こえていないのか判然としなかったが、
やがて小声で応えた。

 「食堂だ」

 「ああ、分かった。
  有り難う」

こんな所の食堂が機能しているのかと、潜入者は訝りながらも、案内看板に従って食堂に向かう。
ここまで従業員の様な者は見掛けなかった。
食堂に食べ物が用意してあるとは思えないのだが……。
食堂に着いた潜入者は、力ある者達が銘々に食事を取っている姿を見た。

 (どこで手に入れたんだ?)

買ったのか、それとも用意してあったのか、困惑する潜入者に、ビートルが話し掛ける。

 「遅かったな、ブロー。
  勝手が分からなかったか」

 「ああ、どこから飯を調達した?」

素直に疑問を投げ掛けた潜入者に、ビートルは快く答える。

 「ダストマンが走(パシ)って来た」
0219創る名無しに見る名無し
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2018/09/09(日) 19:22:11.87ID:611evRvp
ダストマンは最下位なので、使い走りをさせられているのだ。
本当の実力は上位でありながら、その屈辱に耐えてまで、力ある者に紛れ込むからには、
相応の理由があるに違い無い。
そう直感した潜入者は、未だダストマンを利用出来るのではないかと考えた。
上の空で思考している潜入者に、ビートルは親切にも説明を続ける。

 「朝昼晩と、飯はダストマンが用意する。
  欲しい物があったら、前以って言っておくと良い。
  特に注文が無ければ、適当に買って来るんだが、文句は言うなよ。
  今日は余り物を食っとけ」

渡された物は、出来合いの惣菜とパンと小さな牛乳瓶の入った紙袋。

 「ああ」

潜入者は生返事をしながら、ダストマンを探した。
埃塗れの姿は、食堂の中には見当たらない。

 「どうした?」

 「そのダストマンは?」

潜入者がダストマンの所在を尋ねると、ビートルは舌打ちして答えた。

 「あいつは食堂では飯を食わないんだ。
  食事中に埃塗れの姿を見たい奴は居ないからな。
  どっか人目に付かない、そこら辺で隠れて食ってんだろう」

 「埃塗れで?」

 「ハハハ、それは流石に無いだろうさ。
  最初は普通に素顔を晒してたんだがな。
  薬で頭が狂(イカ)れたか」

彼はダストマンを貶して、意地の悪い笑みを浮かべる。
0220創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/09(日) 19:27:16.12ID:611evRvp
潜入者は早々に昼食を終えると、食堂を出てダストマンの気配を探した。
早食いは彼の特技なのだ。
魔法資質を頼りに、魔力の流れの不自然な場所を探すが、この保養施設は確り魔力を妨害する、
建材が使われている。
これは見付けるまで時間が掛かるかなと思っていた潜入者だったが、ダストマンの居場所は、
予想外に直ぐ判った。
それは建物の屋上。
屋外に出た時に、潜入者は上から魔力の流れを感じたのだ。
普段の潜入者の魔法資質であれば、絶対に判らなかったであろう、微かな反応だったが、
薬で強化されている今は違う。
潜入者は一々階段を探すのが面倒だったので、身体能力強化魔法でベランダの柵の上に立ち、
跳躍して上の階の柵に掴まり、攀じ登る、又柵の上に立ち跳躍して、上の階の柵に掴まり……と、
繰り返して屋上に向かった。
0221創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/09(日) 19:28:27.02ID:611evRvp
誤って落ちれば大怪我は必至。
普段なら絶対にしない事だが、今は気が大きくなっている。
丸で分別の無い子供の様に、躊躇いが無く、危険を顧みない。
――屋上では埃を纏ったダストマンが待ち構えていた。

 「何の用だ、ブロー?」

 「何の用とは連れ無いな。
  独り飯は寂しかろうと思って、来てやったのに」

 「誰も来てくれとは言っていない」

 「冗談だよ、本気にするな」

潜入者は軽口を叩いた後で、真剣な話をする。
0222創る名無しに見る名無し
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2018/09/10(月) 20:06:33.77ID:ASisGyrq
 「真面な用があるんだ。
  取り敢えず、強い薬を試したい」

それを聞いたダストマンは小さく頷いた。

 「判った。
  今直ぐ、ここで試すのか?」

 「ああ、1錠飲めば良いのか?
  何か注意する事とかは?」

 「特に無い。
  1錠だけ飲んだら、効果が表れるまで大人しくしていてくれ。
  効果が表れなくても、丸1日経つまでは2錠目を飲まない事」

 「分かったよ」

潜入者は小瓶から薬を1錠取り出して、真っ直ぐダストマンを見詰める。

 「良いか、飲むぞ」

 「どうぞ」

ダストマンに促され、潜入者は覚悟を決めて、小さな薬を飲み込んだ。
変化は薬を飲んだ数極後に表れる。
心臓の鼓動が大きく早くなり、内から張り裂けそうな感覚に襲われて、胸が痛くなる。

 「ウググググ……」

潜入者は両手で心臓の辺りを押さえて、その場に蹲った。
0223創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/10(月) 20:10:04.54ID:ASisGyrq
魔法資質が増大している感覚がある。
周囲半通程度の魔力の流れが直観的に理解出来る……が、それは激しい頭痛を引き起こした。
胸と頭の痛みに耐え兼ね、潜入者は両目を瞑り、呻き続ける。
頭の中に明瞭に浮かぶ周囲の魔力の流れは、潜入者の脳が処理可能な限界を超えていた。
脳も心臓も、今にも破裂しそうに痛い。

 「た、助けてくれ……ダスト……」

潜入者は堪らずダストマンに助けを求めたが、何もしてはくれなかった。

 「ダ、ダストマン……!」

見殺しにする積もりかと、潜入者は怒りを感じたが、それも一瞬の事。
余りの痛みに、怒りも長続きしない。

 「大丈夫だ、ブロー。
  落ち着け」

 (これが落ち着いていられるかー!
  この野郎、俺は地獄の苦しみを味わってるんだぞっ!!
  伝わる訳が無いよな、所詮は他人事なんだから!)

その内、潜入者は俯(うつぶ)せに倒れ、気を失った。
再び目覚めた場所は気絶する前と同じ屋上で、ダストマンの姿は無かった。

 「ダストマン……?
  どこへ行った?」

潜入者は素早く体を起こして、立ち上がる。
軽い頭痛はする物の、他に不調らしい不調は無く、妙に体が軽い、頭も冴えている。
空を見れば、太陽が傾き始めている。
気絶している間に、1角は経過したのだろうと、彼は当たりを付ける。
0224創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/10(月) 20:11:55.94ID:ASisGyrq
潜入者はダストマンを探しに歩き始めた。
取り敢えず、屋外にダストマンは居ないと判る。
彼の魔法資質は以前にも増して研ぎ澄まされ、魔力の流れが、より細かく読める様になっている。

 (強化は成功した……みたいだな)

屋外にダストマンは居ない――が、禍々しい気配を屋内から感じる。
場所は娯楽室の辺りだ。

 (魔力を遮る構造さえも意味を成さない程、魔法資質が高まっている……?
  それとも、この尋常じゃない禍々しい気配が……)

自分が気絶している間に、ダストマンが他人にも薬を試したのかと、潜入者は予想した。

 (待てよ、俺が行って良いのか?
  もし面倒な事になってるんだとしたら、今が逃げ出す絶好の機会……)

ここで安易に、事の真相を確かめようと駆け付けて良いのか、彼は一瞬躊躇った。
今、心に浮かんだ迷いは、禍々しい気配に関わるべきではないとの本能の警告なのかと。
潜入者は地下組織の構成員だからか、閃きや直感を大事にする性格なのだ。
実際の所、余り脅威は感じていないのだが、だからこそ気にする。

 (とにかく少しでも危険を感じたら逃げよう)

潜入者は慎重に娯楽室へと向かった。
0225創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/11(火) 19:39:41.56ID:9EvTewww
屋内でも禍々しい気配は変わらない。
一体誰が魔力を集めているのか?

 (これは誰だ?
  ビートルでも無い、ダストマンでも無い、トーチャーでも無い……。
  カードマンか、それとも下位の誰か?)

「禍々しい」と言う感覚は、一般には理解し難い。
しかし、そう表現するしか無い場合がある。
魔力の量よりも、魔力の流れ、魔力の質に異変がある時に、人は禍々しさを感じる。
共通魔法使いが纏う魔力は、共通魔法の魔法陣に似る。
そうなる事が、「自然」だから。

 (だが、この気持ち悪さは何だ?
  丸で人間ではない様な……)

詰まる所、共通魔法使いの感じる「禍々しさ」とは、共通魔法以外の強大な魔法使いに対して、
生じる物なのだ。
その事実を彼は未だ知らない。
娯楽室に近付けば近付く程、禍々しさは増して行く。

 (……どの位の強さだ?
  俺より強い、弱い、同じ?
  分からない……と言う事は、明らかな実力差は無いのか?)

娯楽室の前まで来た潜入者は、入室前に呼吸を整えた。
ここまで来て、嫌な予感がしない。
それが益々気持ち悪い。
勘が鈍っているのでは無いかと疑う。
0226創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/11(火) 19:42:03.63ID:9EvTewww
とにかく確かめてみない事には始まらないと、潜入者は意を決して戸を開けた。
そこで彼が目にした物は、部屋の中央で蹲っているビートルと、壁に張り付いている力ある者達。
ビートルは潜入者が入室した事にも気付かない様子で、左胸を両手で押さえ、唸り続けていた。
他の力ある者達は、ビートルを恐れる様に距離を取って、様子を見ている。

 (俺の時と一緒か……?
  しかし、この悍ましい魔力は一体……)

潜入者は先ずビートルを気遣う。

 「おい、大丈夫か、ビートル!」

彼は徐にビートルに歩み寄った。

 「……ダグム……ガン……ダーグン……」

ビートルは小声で呪文の様な物を呟いている。
これが禍々しい魔力の流れを生み出しているのだ。

 「確りしろ!」

潜入者は声を張って、ビートルの背を軽く叩き、活を入れてやろうとした。
所が、その手がビートルの背に触れる事は無く、黒い煙の様な空気の壁に阻まれる。

 「な、何だ、これは!?」

重ねた厚布を殴った様な、奇妙な感触に、潜入者は怯む。

 「おい、ダストマン!
  どうなっているんだ!」

何が起こったのかと、彼はダストマンを問い詰めた。
0227創る名無しに見る名無し
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2018/09/11(火) 19:47:31.88ID:9EvTewww
ダストマンは他の力ある者達に混じり、怯えている風に見せ掛けて、悍ましいまでの冷徹さを以って、
事態を観察していた。
それを潜入者は強化された魔法資質で、的確に見抜いていた。

 「ダストマン、薬を試したんだろう!?
  何とか言え!!
  あんたしか処置方法を知らないんだ!
  あんたが持って来た薬なんだから、あんたが何とかしろ!」

彼は故意に皆の前で、ダストマンの関与を明らかにする。
しかし、ダストマンは無言の儘、その埃塗れの手で、自らの埃塗れの首を掻き切る仕草をした。
「処分しろ」と言う暗黙の指示だった。
潜入者は堅気の人間では無いので、人命に対する感覚も常人よりは軽い積もりだったが、
ダストマンの指示には衝撃を受けた。

 「いや、他に方法があるだろう!?
  ……無いのか?」

潜入者は蒼褪めた。
「こう」なった時の正しい対処法が、「殺す」事なのだとしたら?
それしか方法が無いのだとしたら?
もしかしたら、自分が同じ破目に陥っていたかも知れないと、彼は恐怖する。
そんな彼に追い討ちを掛ける様に、ダストマンは端的に告げた。

 「今の内に片付けないと暴走するぞ」

 (外道めっ!)

潜入者は内心で憤慨する。
地下組織とて決死を命じる事はある。
裏切り者には容赦をしない。
だが、堅気の人間を巻き込む事はしないし、仲間を犬死にさせる事もしない。
マフィアにはマフィアの矜持があるのだ。
ここまで命の扱いが粗雑(ぞんざい)では無い。
0228創る名無しに見る名無し
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2018/09/12(水) 18:57:44.12ID:qYLUceBL
潜入者は少しの間、思案した。
早くビートルを始末しないと大変な事になるであろうとは解っているが、ダストマンに言われるが儘、
殺人を犯す事には抵抗がある。
「殺人を忌避している」のでは無い。
彼は元々地下組織の人間なのだから、闇に葬った人間は片手では済まない。
だからと言って、好んで人殺しをする訳では無い。
何より単純に、この冷酷なダストマンに従うのが癪に障るのだ。

 「ダストマン、手前には殆(ほとほと)愛想が尽きた!
  手前の不始末だ、手前で始末を付けろ!
  俺は知らんからな!」

潜入者はダストマンに啖呵を切って、ビートルから離れた。
そして、どの様にしてダストマンが処分するのかを見守る。
仮にビートルが暴走しても、強化された自分だけは無事だろうと言う確信があった。
ダストマンは苦しみに沼田打ち回るビートルを警戒しながら、焦(じ)り焦(じ)りと接近する。

 (どうする、ダストマン?
  果たして、お前の手に負えるかな?)

潜入者はダストマンの対応を注視していたが、一つの事実に気付く。
ダストマンは行動こそ慎重だが、そこに怯みや恐怖は一切見られない。

 (……妙に肝が据わっているな。
  何か秘策があるのか?
  無い筈は無いか)

秘策があっても、必ず成功すると言う保証が無い限り、怖いと感じるのが普通だ。
ビートルの纏う禍々しい魔力も相俟って、とても人間と対峙している空気では無いのに、
この落ち着き様は何かと、彼は怪しむ。
0229創る名無しに見る名無し
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2018/09/12(水) 18:59:20.60ID:qYLUceBL
そこで潜入者は、一つの可能性に思い至る。

 (……ダストマンに薬を飲んでくれと言われて、ビートルが素直に飲むだろうか?
  何かしらの取り引きや条件が無いと、信用出来ないだろう。
  騙して飲ませた可能性もあるが、そこまでビートルは間抜けか?
  ダストマンが雑用を一手に引き受けているとは言え……)

では、どうすればビートルはダストマンを信用するだろうか?
それを考えた潜入者は、一つの結論に達した。

 (ダストマンの余裕、強い薬を試したビートル、埃塗れの姿……。
  奴は既に強い薬を飲んでいる?)

ダストマンはビートルに先駆けて強い薬を飲み、その効果を身を以って示したのだ。
だから、ビートルは強い薬を試そうと言う気になった。
そうとしか考えられない。
この荒れ狂う禍々しい魔力の中でも、身に纏った埃を全く剥がされないと言う事は!
ダストマンは真っ黒な煙に全身を覆われて行くビートルの前に立ち、自らの身に纏っていた埃を、
周囲に撒き散らした。
部屋全体に埃が拡散して、全員の視界を奪う。
壁際に固まっていた力ある者達から、咳き込む声が聞こえる。
魔力も大きく乱れており、室内の状況を掴めない。
そんな中でも、潜入者だけは強化された魔法資質で、的確に状況を捉えていた。

 (視える!)

ダストマンの纏う魔力が、ビートルを包み込んで行く。
直後、ビートルの魔法資質が感じられなくなった……。
やがてビートルを包んでいた魔力は、ダストマンの体に戻る。

 (……ビートルが消えた?)

そして、潜入者はビートルの実体を見失った。
有り得ない事だが、魔力と一緒にダストマンの体に吸収された様にしか思えない。
0230創る名無しに見る名無し
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2018/09/12(水) 19:01:49.62ID:qYLUceBL
ビートルが消えると、魔力の乱れも徐々に収まって行く。
十数極後には、部屋中に舞っていた埃も再びダストマンに回収されて、何事も無かったかの様に、
室内は静まり返っていた。
誰よりも真っ先に、潜入者が声を上げる。

 「ダストマン、ビートルをどこにやった!?」

 「始末した」

ダストマンの返答は淡々としていた。
他の力ある者達は、その凄味に気圧されて、何も言えない。
全員を一覧して、ダストマンは嘲笑を篭めた声で言う。

 「何をそんなに怯えている?
  何時も、何時でも、塵(ゴミ)の始末は私の役目だった」

力ある者が戯れに殺した貧民の死体を片付けていたのは彼だ。
0231創る名無しに見る名無し
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2018/09/12(水) 19:02:55.34ID:qYLUceBL
 「さて、次は誰が試す?」

そして彼は力ある者達を脅迫する。
こうして強制的に全員に強い薬を試させようと言うのだ。
しかし、目の前で「失敗した」ビートルの末路を見せられて、ここで薬を試そうとするのは、
余程の野心家か、考え無しの馬鹿だ。
怯む力ある者達をダストマンは挑発した。

 「ビートルは消えた。
  第1位は空座だぞ?
  我こそはと言う者は居ないのか」
0232創る名無しに見る名無し
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2018/09/13(木) 18:27:35.57ID:GREIgFEz
一向に動こうとしない力ある者達に、痺れを切らしたダストマンは、こう告げる。

 「愚図がっ……!
  それでは私が選んでやろう。
  どの道、全員に試して貰う予定なのだ」

潜入者は見兼ねて止めに掛かった。

 「随分と態度が違うじゃないか、ダストマン」

薬の強化で、どちらが強くなっているかは分からない。
もしかしたら、ダストマンが強いのかも知れないが、潜入者は然程脅威を感じていない。
詰まり、少なくとも魔法資質の面では、そこまでの差は無いと言う事。
潜入者が警戒しなければならない所があるとすれば、それはビートルを「片付けた」謎の魔法。

 「貴様には関係の無い事だ、ブロー」

ダストマンの強気の反論に、潜入者は少し驚く。
敵対する事も厭わない姿勢は、彼を容易に遇えると言う自信の表れなのか……。
潜入者はダストマンに対して、冷静に助言した。

 「もう諦めたら、どうなんだ?
  これでは何人残るかも分からない。
  頭数が少なくなればなる程、シェバハを相手にするのは辛くなるぞ」

 「構わん。
  何時でも最後の手段は残してある」

 「だったら、独りで行けよ」

 「否(いや)、計画を知られてしまった以上、貴様等は誰一人として帰さない」

ダストマンは本気だった。
その底知れなさに、潜入者は不気味な物を感じるも、やはり脅威とまでは思わない。
0233創る名無しに見る名無し
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2018/09/13(木) 18:29:29.23ID:GREIgFEz
それよりも彼は、ダストマンが口走った台詞が気になった。

 「計画?」

 「惚けるな。
  何の事かは察しが付いているだろう」

ダストマンは明言を避けたが、真実、潜入者は彼の目的に目星を付けていた。
自分の考えが当たっているのか確かめる為に、潜入者は敢えて推理を口にする。

 「ああ、計画か……。
  ダストマン、あんたは魔法資質を強化する薬を『作った側』の人間だ。
  力ある者の中で最弱の振りをして、今まで全員を観察していたな?
  どうしても、ここの事を暴かれると困る様だが」

その推理に対して、ダストマンは反論代わりに、逆に推理を突き付ける。

 「そう言う貴様は、『魔導師会』の人間だろう?」

これには力ある者達も驚いたが、当の潜入者にとっては然程でも無かった。

 (流石に臭過ぎたかな)

行動が怪しかったのは彼自身も認めていた。
ダストマンに突っ掛かり過ぎたのもある。
潜入者は強気にダストマンを嘲笑する。

 「俺が魔導師に見えるか?
  ハハ、こいつは飛んだ節穴だ」

真実と見られようが、嘘と見られようが、そこは構わなかった。
寧ろ、「ブローは魔導師会と繋がっている」と臭わせた為に、他の力ある者達が動揺して、
離反するのではとも期待する。
0234創る名無しに見る名無し
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2018/09/13(木) 18:30:57.49ID:GREIgFEz
続けて潜入者はダストマンを挑発した。

 「妄言野郎には付き合い切れんな!
  勝手にしろ、俺は降りる」

 「逃がさないと言った筈だ!」

ダストマンは禍々しい魔力を身に纏う。
それは暴走し掛かっていたビートルが纏っていた魔力と同質の物。

 「卦(ケ)ッ、正体を現しやがったな!
  手前、外道魔法使いか!」

身構える潜入者に、ダストマンは反論する。

 「外道?
  違うな、私は真実に近付いた者。
  共通魔法も所詮は数ある『魔法』の一つに過ぎない。
  全ての魔法は一つの理論に通じる」

彼の台詞は「統一魔法理論」を思わせるが、そこまでの教養は潜入者には無かった。
潜入者から見れば今のダストマンは、何等かの危険思想に染まった学者だ。
そこで彼は礑と思い当たった。

 「お前、魔導師崩れなのか……?」

その一言で、ダストマンの纏う魔力が激しく乱れ、渦を巻く。
丸で、彼の内心を表しているかの如く。
0235創る名無しに見る名無し
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2018/09/14(金) 18:31:00.75ID:4UtkNO/a
ダストマンは行き成り感情的になり、声を荒げて激昂した。

 「誰が魔導師崩れだ!!
  私は魔導師等と言う卑小な器に収まる人間ではない!
  魔導師が何だっ、魔導師会が何だっ!
  この力の前では滓も同然!
  無論、シェバハとやらもなっ!!」

これは急所を突いたなと、潜入者は直感する。
ダストマンにとって、「魔導師崩れ」は禁句なのだ。

 「ヘッ、逆恨みって訳か」

潜入者は尚もダストマンを挑発する言葉を吐いた。

 「断じて違うっ!
  私は私の理論の正しさを証明したいだけだ!」

 「そう向きになって否定しなくても良いじゃないか?
  自分の正しさを証明して、見返してやりたいんだろう?
  大方、外道魔法の研究に手を出して、破門でもされたんじゃないのか」

潜入者の弁舌に、ダストマンは沈黙する。
大凡、その通りであった。

 「ああ、悪かったよ。
  あんたにとって、『魔導師崩れ』は禁句な訳だ。
  でも、事実『魔導師崩れ』なんだろう?
  魔導師になれなかったのか、それとも魔導師になったけど辞めたのか、どっちなんだ?」

傷口を抉る様に、潜入者は敢えて無神経な追及を続ける。
0236創る名無しに見る名無し
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2018/09/14(金) 18:33:40.76ID:4UtkNO/a
ダストマンは愈々怒り狂った。
それは先ず魔力の流れに表れる。
より激しく強く乱れて渦巻く、怨念その物の様な魔力の流れが、部屋中の空気を重くする。

 「貴様は殺す!」

 「あんたに出来るかな?」

殺意を向けるダストマンに、潜入者も本気を出して魔力を纏う。
互いの魔法資質が、魔力を奪い合った結果、魔力は益々激しく荒れ狂う。
魔力の流れは風を伴い、部屋中に暴風を巻き起こす。

 (やはり俺の方が強い)

それでも潜入者は冷静だった。
相手より自分が強いと言う確信は、何より心を落ち着かせる。
彼はダストマンを注視して、その周囲の魔力の流れを読む。
魔法が発動する兆候を捉えれば、即座に呪文完成動作を妨害出来る様に。

 (これは俺から攻めた方が良いか?)

しかし、ダストマンが速攻を仕掛けなかったので、潜入者は自分から攻撃する事にした。
それは一瞬の判断。
相手の出端を挫ければ、戦いは有利になる。
高い魔法資質を持つ者同士の勝負は、早期に決着が付く。
潜入者は姿勢を低くして、突進しようとした。
彼が比較的得意としている身体能力強化魔法による格闘で、一気に仕留める算段。

 (いや、待て!!
  奴は未だ埃を纏っている!)

所が、いざ駆け出そうとした瞬間、潜入者は嫌な予感がして足を止めた。
0237創る名無しに見る名無し
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2018/09/14(金) 18:35:28.54ID:4UtkNO/a
ダストマンの体は埃塗れの儘なのだ。
本気で魔力を扱おうとしたら、体を覆う埃は邪魔になる筈。
埃を魔力で引き寄せている以上、描文、詠唱の何れにしても全力を出せない。
仕掛けようとして足を止めた「ブロー」を、ダストマンは挑発する。

 「どうした、今頃になって恐れを成したか?」

それを無視して潜入者は慎重にダストマンの様子を観察した。

 (恐らく、あの埃の下で何かの魔法を用意して、待ち構えている……)

丁度、埃の表面で魔力が遮られている。
丸で埃の外套(コート)だ。
その中の魔力は全く読めない。

 (罠を突破して勝つには――)

自らは仕掛けず、熟(じっく)り攻略法を探る潜入者をダストマンは称える。

 「中々賢いな。
  それなりに修羅場を潜って来たと見える。
  だが、魔導師では無い……。
  そこは読み違えたか」

魔導師にしてはブローの魔力の扱い方は稚拙だと、ダストマンは見切っていた。
潜入工作を実行する魔導師は、腕利きの執行者と決まっている。
この状況で演技をするだけの余裕があるならば、話は別だが……。
一方で、潜入者はダストマンが数極後には攻勢に出ると読んでいた。
潜入者の側から攻撃を仕掛けないのであれば、そうしなければ決着が付かない。
お互いに睨み合った儘、長時間待機する事は無いだろうと、予想している。
0238創る名無しに見る名無し
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2018/09/15(土) 18:55:41.15ID:M9dHMkwb
その通り、ダストマンは行き成り、身に纏っていた埃を周囲に撒き散らした。
ビートルを始末する前と同様だ。

 (『そう』来ると思っていた!
  勝負は一瞬!)

潜入者は埃が舞った直後、ダストマンに向かってマジックキネシスで遠距離から殴り掛かる。
埃の舞う中で、彼はダストマンを的確に捉え、殴り付けた。

 (手応えあり!)

潜入者の魔法資質は、魔力の塊が衝突する瞬間を視た。
ダストマンの体が蹣跚(よろ)めく。
だが、それだけで気を緩める程、潜入者は甘くは無い。
止めを刺すまで油断してはならないのが、地下組織の常識。

 (もう一発!!)

彼は埃の舞う室内を、蛇の様に静かに素早く移動し、ダストマンの側面に回った。
そして、マジックキネシスで更に一発。
しかし、今度は受けられる。

 (浅いっ!
  だが、防御で手一杯の様だな。
  小細工をされる前に仕留めるか)

潜入者は更に加速して、勝負を決めに掛かった。
0239創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/15(土) 18:56:45.33ID:M9dHMkwb
徹底してダストマンの正面を避け、マジックキネシスでの渾身の一撃で隙を誘う。
当然、受けられるが想定済み。
最大限の魔力を篭めた一撃から、今度は一転して魔力を全く纏わず移動し、背後を取る。
この行動にダストマンは一瞬、潜入者を見失った。

 (こいつは避けられるかな?)

その隙に潜入者は隠し持っていたナイフを投げる。
腕を振り被らず、足運びと肘から先の力での投擲。
ダストマンは背中に鋭い痛みを感じ、背後を振り向くが、それも遅い。
潜入者は更に、その背後を取って、ダストマンの背中に刺さったナイフを深々と押し込んだ。
傷口から血が溢れる。

 「魔法で勝負を掛けると思っていたか?
  学者さんは頭が固い。
  それに咄嗟の対応も鈍かったな。
  自分より弱い相手と、自分の有利な状況でしか戦った事が無いってのが、よく分かる」

潜入者はダストマンの背に刺したナイフを、魔力も篭めて力任せに横薙ぎに払う。
ダストマンの背から鮮血が噴き出し、辺りを赤く染める。
それでも潜入者は手を緩めなかった。
即死でも無いのに、ダストマンは呻き声一つ上げない。
熟練の共通魔法使いは、傷を一瞬で治せる。
未だ「最後の手段」を持っているのではないかと潜入者は疑い、更に攻撃を加える。
今度はナイフで頚椎を狙い、突き立てる。

 「悪いが、確実に死んで貰う!」

潜入者は首を切り落とす積もりで、魔力を篭めた全力の一撃を放った。
0240創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/15(土) 19:01:11.79ID:M9dHMkwb
それは浅りと成功してしまう。
ダストマンの首は胴体から切り離され……。

 「何ぃっ!?
  こんな事が……」

驚愕したのは潜入者だった。
首と胴体を切り離せば、ダストマンは即死する。
どんな回復魔法でも、死んだ自分を蘇生させる事は不可能。
それは間違っていないのだが、ダストマンは首と胴体を切り離されても死ななかった。
胴体が床に倒れ伏せても、首だけは浮いた儘で振り返り、潜入者を睨んでいた。
潜入者は初めて、ダストマンの素顔を見る。
浅黒い肌に青銀の髪、深緑の瞳は何れも若々しい。
流石に十代とは思わないが、どう見ても二十歳そこそこ。

 「どうした、何を驚く事がある?
  ククク、その顔は見物だぞ。
  貴様如きが、私を殺せると思っていたのか」

 「チッ」

嘲笑うダストマンの生首に、潜入者は怯まず舌打ちして、全力でナイフを振り下ろす。
だが、当たらない。
ナイフは空を切り、続くマジックキネシスでの追撃も、魔力障壁で受けられてしまう。

 「とても身軽だ。
  諸全、肉体は糞の詰まった袋に過ぎぬ」

 「化け物め!」

その人間離れした姿と言動に、潜入者は忌々し気に吐き捨てた。
それを聞いたダストマンは、高笑いする。

 「ハハハ、これこそが真実に近付いた者の姿なのだ」
0241創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:09:14.54ID:ADIxRc7j
ダストマンの首から魔力の糸が伸びて、首を失った体を操り人形の様に引き寄せる。
首の切断面を再び食っ付ければ、見た目だけは元通りだ。
ダストマンは口から血を吐きながら、潜入者に言う。

 「貴様は言ったな?
  私は『自分より弱い相手としか戦った事が無い』と。
  その通りだ、私より強い者は存在しない」

実際、潜入者は対処に困った。
肉体を傷付けても無意味ならば、どうすれば良いのか?
どうすれば、ダストマンの息の根を止められるのか……。

 「脳天を砕けば良いと考えているな?
  やってみるが良い」

睨み付ける潜入者に、ダストマンは不敵に笑んで、魔力の圧力を解いた。
明らかな挑発。
本当に無駄だと思い知らせるのか、それとも罠なのか、潜入者は迷う。
取り敢えず、彼はマジックキネシスでダストマンの動きを封じる。

 「そんな事をしなくても避けやしないのに」

 (直ぐに、その口を利けなくしてやる)

潜入者は接近を避けて、その儘マジックキネシスでダストマンの頭を潰しに掛かった。
所が、それと同時に潜入者の頭にも強い圧力が掛かる。

 (こいつ、反撃して来やがった!)

根競べをする気なのかと彼は思った。
0242創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:10:38.50ID:ADIxRc7j
無意味な根性比べは野蛮さの証明の様な物だが、地下組織に所属している潜入者にとっては、
馴染みのある風習であり、望む所だった。

 (受けてやるよ!
  俺が潰れるか、お前が潰れるか!)

潜入者は対抗心を剥き出しにして、圧力を強めて行く。
しかし、自分が力を強める程、相手も力を強める。

 (ぐっ、奴には本当に効果が無いのか……?)

ダストマンには全く圧力が効いていない様子。
否、彼の体の各所からは血液が流れ出しているが、苦しむ様子が欠片も見られない。
逆に余裕の微笑を浮かべている。
これでは堪らないと、潜入者が防御を優先させると、途端に圧力が弱まる。

 (何だ?
  ここで手加減する必要は無い筈……)

違和感を顔に表した潜入者を、ダストマンは大いに嘲笑した。

 「漸く気付いたのか、哀れな奴!
  共通魔法には無い魔法だからな。
  これが『面対称<プレーン・シンメトリー>』の魔法だ。
  魔法返しと呼ばれる類の物」

 「俺の魔法を反射したのか……?」

 「いや、貴様の魔法は確かに通じていた。
  私は同じ魔法を返しただけ。
  言わなかったか?
  私にとって肉体は器に過ぎないと。
  だが、蛮勇を発揮して自滅するまで無駄な挑戦を続けなかった事は褒めてやろう。
  そこまで馬鹿では無かった様だな」

ダストマンの高笑いが響く。
彼は凡百の魔導師崩れとは違うのだ。
0243創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:13:30.14ID:ADIxRc7j
最早、彼の能力は完全に常識を超越していた。
潜入者は抵抗を諦める。

 「……分かったよ、あんたを相手にしても勝ち目は無いみたいだな」

 「賢明で助かるよ。
  では、正体を明かして貰おうか」

ダストマンの要求に、潜入者は間を置かず答えた。

 「俺は地下組織の構成員だ。
  最近、『忠臣の集い』が妙な動きを見せてるって事で、内情を探りに来た」

 「へー、地下組織の?
  魔導師……では無かったな。
  組織の名は?」
0244創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:14:39.01ID:ADIxRc7j
最早、彼の能力は完全に常識を超越していた。
潜入者は抵抗を諦める。

 「……分かったよ、あんたを相手にしても勝ち目は無いみたいだな」

 「賢明で助かるよ。
  では、正体を明かして貰おうか」

ダストマンの要求に、潜入者は間を置かず答えた。

 「俺は地下組織の構成員だ。
  最近、『忠臣の集い』が妙な動きを見せてるって事で、内情を探りに来た」

 「へー、地下組織の?
  魔導師……では無かったな。
  組織の名は?」
0245創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:17:17.33ID:ADIxRc7j
>>244
二重書き込みしてしまいました。
続きは↓から


 「それは言えない」

地下組織の構成員には何より忠誠心が必要とされる。
不法な集団に於いては組織に迷惑を掛けたり、仲間を売ったりする者は恥晒しだ。
ダストマンの眉が僅かに動く。

 「私より組織が怖いか?」

脅し掛ける様な問に、潜入者は素直に答えた。

 「不気味さでは、あんたが上だ。
  ……実力でも、あんたが上なんだろう」

 「それでも組織に忠誠を誓うのか?」

要するに、ダストマンは組織と縁を切って、自分に付けと言っている……。
0246創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:19:25.95ID:ADIxRc7j
如何に実力があろうと、潜入者はダストマンに付く気は無かった。
仮令、組織を裏切った場合に身の安全を保証してくれるとしても。

 「忠誠とか、そんなんじゃねえんだが……」

 「だが?」

ダストマンの追求には答えず、潜入者は新たに問う。

 「なァ、魔法資質を高める薬を作ってるのは、他の誰でも無くて、あんた自身なんだろう?」

ダストマンは深く頷いた。

 「そうだ、私の究極の目標は魔法に不可能を無くす事。
  生まれ付いて成長しないとされる、魔法資質を高める研究も、その一つ」

それを聞いた、他の力ある者達は動揺している。
今まで雑に扱って来た序列最下位の者が、真の目的と実力を隠していたのだ。
潜入者は小さく溜め息を漏らして、ダストマンに告げた。

 「あんたも先は長そうに思えない。
  その内、魔導師会に叩き潰される」

 「随分と魔導師会を買っているんだな」

ダストマンは怒りよりも、憐れみを篭めて言う。
常識に染まり切っている為に、魔導師会を過大評価しているのだと。
0247創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/16(日) 18:21:27.75ID:ADIxRc7j
潜入者とて、魔導師会の何を知っている訳でも無い。
もしかしたら、ダストマンが魔導師会に勝利する未来もあるのかも知れない。
しかし、小さな可能性に賭けて、ダストマンに全てを預ける気にはなれなかった。

 「何より、あんたが信用出来ない。
  それが一番だ」

潜入者は恐れずに言い切る。
ビートルを始末し、他の力ある者達を脅して、力尽くで物事を片付けようとする者は、信用ならない。
これに忠誠を誓う位なら、ここで殺されても仕方が無いと言う覚悟。
ダストマンは暫しの沈黙後、独り言つ。

 「……何の話をしていたんだったかな?
  ああ、そうそう、シェバハを片付けるんだったな」

元の話を思い出した彼は、「ブロー」に告げた。

 「私を信用出来ないと言うなら、それでも構わない。
  取引をしよう、ブロー」

 「取引?」

 「貴様の目的は判った。
  私としても忠臣の集いが、どうなろうと構わない。
  この儘、貴様が忠臣の集いの内情を探るのに協力しよう」

俄かに柔和な態度になったダストマンを、潜入者は怪しむ。

 「それで、あんたの要求は?」

 「私は忠臣の集いを隠れ蓑に、実験を続けたい。
  その為には、先ず目の前の問題を解決しなくては……。
  詰まり、シェバハを撃退する手伝いをして欲しい」

彼と組んで良い物か、潜入者は少し迷った。
0248創る名無しに見る名無し
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2018/09/17(月) 19:30:40.22ID:Tmsgeu4E
目的を果たすだけなら、ダストマンと組んでも良いと思うが……。

 「別にシェバハを倒す必要は無いと思うが……?
  ここを捨てれば良いだけじゃないか」

潜入者の提案を、ダストマンは即座に蹴る。

 「馬鹿を言うな、我々は『力ある者<インフルエンサー>』だ。
  それが地下組織如きを恐れて退散する等、あってはならない」

 「『忠臣の集い』の期待に応える為に?」

 「そうだ」

 「しかし……、実際の所、あんただけでもシェバハを退治出来そうな気がする」

果たして、今のダストマンに他人の協力が必要なのかと、潜入者は疑った。
シェバハが如何に優れた共通魔法使いの集団でも、この人外と呼ぶ以外に無い様な、
巫山戯た男に敵うのだろうかと。

 「フフ、買い被りだとは言わないが、全てを私独りに任せて、自分達は何もしない積もりか?
  それは許さない。
  全員でシェバハと戦って貰う……と言いたい所だが、正直戦力としては余り期待していない。
  正対しろとまでは言わない。
  適当にシェバハの連中を引き付けて、撹乱して貰えれば、それで十分だ」

これはダストマンなりの譲歩なのだろうと、潜入者は感じた。

 「それで良いってんなら、構わないが」

彼が素直に頷くと、ダストマンも頷いて返す。

 「良かった。
  断られたら、殺そうと思っていた所だ」
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2018/09/17(月) 19:32:16.79ID:Tmsgeu4E
真顔で物騒な事を言って退けたダストマンは、又改めて力ある者達を一覧した。

 「そう言う訳だ。
  お前達、薬を飲め」

彼は強要の言葉を吐き、徐々に迫る。
堪らず、序列4位「だった」冷気使いのクーラーが言う。

 「待て、もしビートルみたいになったら!?」

 「責任を持って処分してやるから、安心しろ。
  何を迷う?
  貴様等に選択肢は無い。
  私に従わなければ、死あるのみ」

そう言い切られても、力ある者達は及び腰だった。
彼等は元々、大した才能も無く浮浪しているだけの人間だったのだ。
どんなに力を得ても、人格が急に変わる事は無い。
強気に出られるのは自分が優位にある時だけで、自分の身が危ういとなれば、この様。
苛立ったダストマンは、強制的に一人を選び出した。
 
 「序列の低い奴から行くか?
  どうだ、カラバ?」

彼は元序列9位の電気使いを指名。

 「……オオ、俺か!?
  どうして、俺なんだ!?
  気に障る事でもあったか、あったよな、そりゃ!
  今までの事は謝る、ダストマン!」

カラバは身を竦めて、行き成り謝罪を始めた。
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2018/09/17(月) 19:36:14.02ID:Tmsgeu4E
それを無視して、ダストマンは冷酷に告げる。

 「黙れ、見苦しいぞ。
  貴様如き、最初から何とも思っていない。
  早くしろ、愚図が!」

序列が低いカラバを庇う者は、誰も居ない。
寧ろ、責付いて送り出す。
ダストマンの前に出ても、未だ怯えた様な態度のカラバに、潜入者は助言した。

 「もう腹を決めろ。
  失敗した時の事は考えるな」

カラバは歯を食い縛り、全員を憎しみの目で睨みながら、恐る恐る「強い薬」を受け取る。

 「飲め」

冷淡なダストマンの指示に、彼は恨み言を吐く。

 「分かってるよ!
  くっ、糞っ、覚えてろ!」

 「ああ、生きていたらな」

ダストマンは適当な返事をして、薬を飲んだカラバの変化を見守った。
暫くは何も起こらず、カラバは安心した様な、残念だった様な、不安気な面持ちで居る。
彼の内心を読んだ様に、ダストマンは告げる。

 「効果には個人差がある。
  もしかしたら、効かないと言う事もあるかもな。
  もう少し待って、変化が無ければ、次に行こう」
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2018/09/17(月) 19:38:10.79ID:Tmsgeu4E
そう彼が言い終えた途端、カラバは蹲って苦しみ始めた。

 「待て、待て、何だ、これは……」

カラバは困惑の言葉を吐き、頭を抱える。

 「助けてくれ、頭が割れそうだ!」

彼は顔中の穴と言う穴から、血を流していた。
その様子を観察しつつ、ダストマンは冷静に言う。

 「どうやら魔法資質の上昇に、脳が追い付かなかった様だな」

カラバは倒れ込み、陸に上げられた魚の様に、虚ろな目で口を開閉させるのみになる。
憐れに思った潜入者は、ダストマンに尋ねた。

 「助けないのか?」

 「何故?」

 「ビートルの様に、魔力が暴走している訳でも無い。
  出来るんだろう?」

 「『一思いに楽にしてやる』と言う意味か?」

非人間的な受け答えに、潜入者が眉を顰めると、ダストマンは小さく笑う。

 「ここで命を助けてやっても、もう脳が壊れてるんだ。
  一生後遺症で苦しむ事になるが、それでも助けろと?」

笑って言う事かと、潜入者は内心憤慨していたが、それは隠して更に尋ねる。

 「あんたなら、その後遺症も何とか出来るんじゃないか」
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2018/09/18(火) 18:54:53.48ID:D0ZOy1RF
ダストマンは「魔法に不可能を無くす」と言った。
故に、死者の蘇生とまでは行かずとも、ある程度の後遺症なら治療が可能なのではと予想した。
所が、ダストマンの回答は冷淡だった。

 「どうして、そこまでしてやる必要があるんだ?」

彼は否定しない代わりに、理由を求める。

 「どうしてって……」

それは人間として当然では無いかと、潜入者は言いたかった。
地下組織の人間とて、良識は持ち合わせているのだ。
しかし、ダストマンは……。

 「こいつに、そこまでの価値があるか?」

彼に何を言っても無駄だと、潜入者は確信する。
ダストマンは良心を持たない、悪魔の様な男なのだ。

 「そんなに助けたければ、自分で何とかするんだな。
  他人を当てにするな」

彼は止めとばかりに、冷徹な一言を放った。
潜入者は薬の効果で高い魔法資質を得たが、高度な魔法が使える訳では無い。
創傷を治したり、痛みを取り除くのが精々だ。
そうこうしている内に、カラバは苦悶の表情を浮かべた儘、動かなくなった。
恐れを顔に表す力ある者達に、ダストマンは告げる。

 「カラバを殺したのは、貴様等だ。
  誰一人、彼を救えなかった。
  救おうとさえしなかった。
  皆が等しく、彼を見殺しにした」

良心を持たない者が、他人の良心を問う。
0253創る名無しに見る名無し
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2018/09/18(火) 18:56:16.42ID:D0ZOy1RF
重苦しい空気が場を支配するが、それを作り出した張本人のダストマンは、気にする素振りを、
欠片も見せない。

 「さて、次は誰が試す?
  誰も名乗り出ないなら、又私が指名するぞ」

今度は序列8位だった者を指名するのだろうなと、全員が予想していた。
だからと言って、その8位が名乗り出る訳も無く、皆々時が過ぎるに任せている。
そろそろダストマンが痺れを切らしそうと言う時に、一人が進み出た。
それはカードマンだった。
彼は無言でダストマンの前に立ち、右手を差し出す。
ダストマンは意外そうな声を上がる。

 「貴様か……。
  命が惜しくないのか、それとも皆の前で良い格好をしたいのかな」

カードマンは無言の儘、早く寄越せと言わんばかりに、随々(ずいずい)と手を伸ばした。
その圧力に屈して、ダストマンは無駄口を叩かず、強い薬を渡す。
カードマンは無言の儘、迷いも躊躇いもせずに飲み込むと、両手を広げて肩を竦め、
どうと言う事は無いと強がって見せる。
1点経っても、2点経っても、変化らしい変化は起こらない。
ダストマンは腑に落ちない顔で言う。

 「……人によっては、効果が無いと言う事もあるんだろう。
  次、試そうと言う奴は居ないか?」

彼が改めて力ある者達に呼び掛けると、今度は複数人が同時に進み出た。

 「俺が!」

 「いや、俺が!」

どうやらカードマンの強気に触発された様子。
0254創る名無しに見る名無し
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2018/09/18(火) 18:57:34.51ID:D0ZOy1RF
その中からダストマンはトーチャーを指名した。
薬を受け取ったトーチャーは、暫し薬を観察していたが、数極の後に覚悟を決めて飲み込む。
皆々、彼の変化を固唾を飲んで見守った。
約1点後に、トーチャーの魔法資質に異変が表れる。
ビートルの時の様に、異質な魔力の流れが生じたのだ。

 「ダ、ダストマン、これは何だ!」

それを自覚しているのか、トーチャーは恐怖に顔を引き攣らせながら、ダストマンに尋ねた。
ダストマンは淡々と答える。

 「拒絶するな、受け容れろ。
  それが『力』だ」

傍で様子を見ていた潜入者は、自分の時とは違うと思っていた。
彼の場合は、直ぐに魔法資質が強化された。
適応には手間取ったが、異質な魔力は感じなかったし、同化や同調に苦労した覚えも無い。
人によって効果が違うと、ダストマンも認識している様だが、そうなるのは何故か?
潜入者が思考している内に、トーチャーは膝を床に突いて嘔吐し始めた。

 「うっ、うう、俺の体に何か……。
  気持ち悪い……い、い、嫌だ!!」

 「拒絶するなと言っているのに」

 「駄目だ……!
  受け容れたら……受け容れたら……。
  俺が俺で無くなってしまう……気が……」

ダストマンの助言にも拘らず、トーチャーは弱々しい言葉を吐きながらも、自らの内から湧き出る、
異質な魔力に抗い続けている様だった。
0255創る名無しに見る名無し
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2018/09/19(水) 18:46:29.40ID:Zx90cJwd
トーチャーは苦しみから、床を転げ回ったり、白目を剥いたり、奇声を上げたり、涙や涎を垂れ流し、
見るに堪えない醜態を晒す。

 「抵抗は無意味だ。
  これから更なる力を手に入れなければならない時に、自分より大きな力を受け容れず、
  どうやって強くなろうと言うのだ?
  現実的になれ」

 「で、出て行け!!
  俺の体から出て行けぇっ……!」

彼はダストマンの助言を悉く無視して、抵抗を続ける。
やがて、禍々しい魔力の流れが徐々に弱まって行った。
ダストマンは落胆の表情を見せ、小声で呟いた。

 「強化は失敗だ」

トーチャーは気絶して、全く動かなくなる。
彼の髪は白くなり、頬は痩け、その顔は老人の様だった。
それを見ていた力ある者達は、又しても怯んでしまう。
今の所、目の前で強化に成功した者は居ない。
無事だったカードマンも、魔法資質自体は変わっていない。
これではハイリスク・ノーリターンだ。
ダストマンは参ったなと言う顔で、皆を一覧する。

 「そんなに成功率が低い筈は無いんだが……」
0256創る名無しに見る名無し
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2018/09/19(水) 18:47:25.49ID:Zx90cJwd
その一言に反応したのは、クーラーだった。

 「信じられるかよ。
  具体的に何%位なんだ」

何%と問われ、ダストマンは困り顔になる。

 「ああ……50%位かな」

成功と失敗が半々と言われて、力ある者達は怪しんだ。
先ず、ダストマンの発言が真実か疑わしい。
仮に真実だったとして、50%は命を賭けるには心許無い。

 「次は成功するさ。
  50%(?)だからな。
  4連続で失敗する確率は6.25%しかない」

計算上は、そうなのだが……。
何度失敗しようと、次の確率が50%だと言う事実は変わらない。
ここに集まる様な者達に、正しい数学的知識を求める事は難しいが、ダストマンの発言に頷く者は、
1人も居なかった。
「確率が低い」とだけ言われても、低い確率が起こった事実は変わらないのだ。
しかし、力ある者達の中でクーラーだけは弱気を振り払い、ダストマンの前に立った。

 「分かった、薬を寄越せ」

本当は何も分かっていないが、彼もトーチャーと共に名乗り出た以上、今更引っ込めない。
どうせダストマンに指名されるなら、自分から出て度胸のある所を見せようと言う気になっていた。
0257創る名無しに見る名無し
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2018/09/19(水) 18:48:39.67ID:Zx90cJwd
ダストマンは自ら進み出たクーラーが意外だったが、それを顔には表さず、素直に薬を渡した。
物事が速やかに進行するのは良い事なのだ。
余計な事をしたり、言ったりして、時間を食うのは避けたい。

 (今度は成功してくれよ)

ここに来て、ダストマンとクーラーの思いは一致していた。
クーラーが薬を飲むと、即座に魔法資質が変化する。

 「おおおっ」

魔法資質が急激に増大する感覚に、クーラーは目を見張った。
心臓が早く大きく脈打ち、体中を血液が激しく巡る。
部屋の隅々まで気が回り、人の息遣いばかりか、埃の舞う音さえも聞こえる。
眩暈が襲い、呼吸は苦しくなり、吐き気が込み上げ、気が狂わんばかりの地獄。
クーラーも又、蹲って呻いた。
ダストマンは安堵の息を吐く。

 「どうやら、今度は成功しそうだな」

一体どこを見て、そう判断しているのかと、未だ薬を試していない者達は怪しんだ。
やがてクーラーは白目を剥いて、気絶してしまう。
ダストマンは成功例を皆に見せ付ける為、クーラーの手当てをしてやった。
彼は仰向けに倒れたクーラーの横に屈み込み、その胸の前で魔法陣を描く。

 「起きろ、クーラー。
  生まれ変わった力を見せてやれ」
0258創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:36:34.05ID:uqr6tK0c
ダストマンの魔法で回復され、目覚めさせられたクーラーは、緩慢な所作で辺りを見回した。

 「……ああ、成功したのか」

現状を理解した彼は、安堵の息を吐く。

 「苦しかった、死ぬかと思った」

率直な感想を述べるクーラーをダストマンは笑った。

 「あの程度で死ぬ訳が無い。
  苦しみと死は別物だ」

これを聞いた、未だ薬を試していない力ある者達は、少なからず動揺した。
仮令、魔法資質の強化に成功しても、苦しむのは変わらないのだ。
苦しんで死ぬか、死ぬかと思う程に苦しむか……。
どちらも御免と言うのが、正直な気持ちだった。
だが、試さずに見ているだけなのを、ダストマンが許す訳も無い。
結局は、無理遣り試させられる事になるのだ。
そうした厭わしい空気を読み取り、これを改善しようとダストマンはクーラーから言葉を引き出す。

 「クーラー、今の気分を聞かせてくれ」

 「気分って……。
  一応、強くなった感覚はあるが」

困惑する彼に、ダストマンは注文を付けた。

 「皆が薬を試したくなる様な一言が良い」
0259創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:37:59.83ID:uqr6tK0c
漸くダストマンの意図を理解したクーラーだったが、生憎と良い言葉が思い浮かばない。

 「そうは言われても……。
  俺は上手く行ったけどなぁ……」

成功したクーラーも他人に勧める気はしなかった。
彼は魔法資質が増大した割に、自信過剰になって、尊大な口を利いたりしない。
それが潜入者は気に掛かって、直接尋ねた。

 「クーラー、高揚感は無いのか?」

 「ウーム、あの苦しみの後では、とても……」

クーラーの返答に、潜入者は納得する。
実は彼も魔法資質の増大は自覚している物の、全力を解放して限界を確かめてはいない。
魔法資質を高めると感覚も鋭くなるので、忽(うっか)り本気を出すと、初めて薬を服用した時の、
耐え難い不快感が再現され、自滅し兼ねないのだ。
繊細な制御に慣れない内は、迂闊に力を振るえない。
それが「強い薬」に適合する条件なのかと、潜入者は予想した。
力があるからと言って、平常時の制御を怠っていると、更に増大した力に呑まれてしまう。
ある程度の制御が可能な者のみが、「強い薬」に耐えられるのではと。
その予想を潜入者はダストマンに伝えようとした。

 「ダストマン、少し話がある」

 「何だ、ブロー?
  急を要する事か?」

緊急性が無ければ、無駄話はしたく無いと、ダストマンは明から様に嫌がった。
0260創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:40:30.46ID:uqr6tK0c
潜入者は内心で軽蔑しながら、ダストマンに自らの推論を伝える。

 「薬に適合するには、魔法資質の制御が出来ている必要があるんじゃないか?」

その発言に、ダストマンは呆れて見せた。

 「何を今更……」

 「魔法資質の制御が出来る者を、優先して――」

話を続けようとする潜入者を、ダストマンは遮る。

 「その『魔法資質の制御』とは具体的に、どうやるんだ?」
0261創る名無しに見る名無し
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2018/09/20(木) 18:49:18.26ID:uqr6tK0c
 「どうって……」

急に問われた潜入者は、答に窮する。
ダストマンは小さく溜め息を吐いて、解説を始めた。

 「魔法資質とは視力や聴力の様な物だ。
  魔力を感知する為には欠かせない。
  だが、視力や聴力の制御を意図して出来る者が居るか?
  人の目は近くの物を見れば近くに、遠くの物を見れば遠くに、勝手に調整されて焦点が合う。
  人の耳も騒音の中では自らを呼ぶ声さえ聞き逃すが、静寂の中では衣擦れの音さえ拾う。
  魔法資質の制御も似た様な物だ。
  それなりの心得が無ければ、自分の意思で魔法資質を抑えたり、解放したりは出来ない」

彼の指摘に、潜入者は何も言い返せなかった。
基本的に魔法資質が高くて困ると言う事は無い。
元々が常人並みの魔法資質であれば、尚の事、「抑える」と言う発想はしない。
それは潜入者も同じだ。
相手に警戒されない様に、又は威圧感を与えない様にする時には、『装飾品<アクセサリー>』を着けたり、
裏に呪文が刺繍された服を着る。
0262創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:29:50.05ID:9U9ZFZdh
沈黙した潜入者に、ダストマンは更に追い討ちを掛ける様に言った。

 「それに全員に試させるのだから、一々順番を決める必要は無かろう」

ダストマンは人の心が解らない訳では無いのだと、潜入者は思った。
彼とて真面に考えれば、人の心を推察する位は容易に出来るのだ。
但、それを今は敢えてしていない。
その理由は自らの力を誇示して、何人も逆らえない事を知らしめる為。

 (極悪人だな、こいつ)

人の心が解らないのであれば、未だ救いはある。
理解しているから、性質が悪い。
自分の目的の為ならば、平気で人の心ばかりか命をも踏み躙れる。
危険な人間だと不信の目を向ける「ブロー」に対して、ダストマンは一言付け加えた。

 「魔法資質の制御が出来ているからと言って、必ず成功する訳でも無い。
  ビートルは魔法資質を制御出来ている方だったが、失敗した」

それは言い訳でも何でも無い、単なる事実の指摘。
強い薬は「新薬」なのだ。
未だ効果が確かでは無い。
ダストマンは新薬を力ある者達にも使わせる事で、実験をしているに過ぎない。
シェバハの襲撃は新薬を試させる口実に過ぎない……。

 (余計な事を言ってしまった)

忠告等せずに自分だけ逃げれば良かったと、潜入者は後悔した。
シェバハの急襲を受けて、ダストマンは他の力ある者達と共に、死亡するべきだったと。
0263創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:31:17.08ID:9U9ZFZdh
それからダストマンによって、全員が薬を飲ませられた。
結果、ダストマンを除いた9人の力ある者達の内、強化に成功したのは4人で、後の5人は失敗。
ブロー、クーラー、ウェイバー、ソリダーが成功者となり、中でもソリダーの力の増大は凄まじかった。
彼だけは他の3人と違い、強化に際しても苦しまなかった。

 「フー、ハハハ!
  凄いな、この力は!
  尻込みしてたのが馬鹿みたいだ!
  ダストマン、もっと強い薬は無いのか?」

調子に乗ったソリダーは、更なる強化を求めたが、ダストマンは首を横に振る。

 「止めておいた方が良い。
  これ以上は体が保(も)たない」

 「あるのか?」

 「ここには無い。
  今は持っていないと言う意味だ」

 「次は持って来いよ」

ダストマンはソリダーの尊大な態度にも反抗せず、普通に受け流した。
更にソリダーは、他の力ある者達に向けて宣言する。

 「お前等、今日から俺がビートルの代わりに仕切るからな!
  誰か文句のある奴は……居る訳無えか、ハハハ!」

今まで序列が8位と低かった反動か、それとも元々そう言う性格だったのか、彼は遠慮をしない。
0264創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:32:22.68ID:9U9ZFZdh
好い気な物だと、潜入者は内心でソリダーを軽蔑した。
凶悪なダストマンの本性を無視して、増大した力に溺れる馬鹿としか言い様が無い。
そんな彼の思いが態度に表れていたのか、ソリダーは潜入者に突っ掛かる。

 「おい、ブロー!
  文句があるなら言えよ」

 「何も無い」

潜入者が目を伏せると、ソリダーは行き成り殴り掛かった。
不意打ちに、潜入者は反応が遅れるも、辛うじて直撃は避けたが……。
ソリダーの拳は潜入者の頬を殴り付け、その体を軽く2身は吹っ飛ばした。
潜入者は床に転がるも、痛みと眩暈を堪えて直ぐに立ち上がり、ソリダーを睨む。

 「何をする!」

彼の抗議にもソリダーは聞く耳を持たず、無視する様にダストマンに話し掛ける。

 「これで良いか?」

 「何の事だ?」

当のダストマンも困惑していた。
ソリダーは小さく息を吐き、暴行に及んだ理由を語った。

 「この力は、あんたの薬で得た物だ。
  あんたの協力無くして、今の俺達は無い。
  俺達は、あんたに感謝しないと行けない。
  ……少なくとも『俺は』、そう思ってる」

何と彼はダストマンに取り入って、恩を売ろうと考えているのだ。
0265創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:33:15.38ID:9U9ZFZdh
 「だが、こいつは力を貰ったにも拘らず、調子に乗って、あんたに歯向かった。
  だから制裁が必要だ」

彼の勝手な理屈に、ダストマンも呆れる。

 「頼んだ覚えは無いが」

 「俺は恩知らずを許せない性質でな」

それを聞いた潜入者は怒りを覚えた。
そもそもダストマンを止めようとしたのは、皆に無理遣り薬を服用させようとしていた為だ。
恩知らずは一体どちらなのか!
怒りの篭もった反抗的な目付きで、彼はソリダーを睨み続ける。

 「ビートルの時も、そうだったな。
  手前は直ぐに逆らう」

潜入者に迫るソリダーは、魔力を鎧の様に纏っている。
その魔法資質は、強化された筈の潜入者と比しても優に倍はあろう。
どう足掻いても勝てない。

 「表向きは従った様に見せ掛けても、裏では何を企んでるか、分かった物じゃない。
  その腐った性根が気に食わねえ」

だが、潜入者は堪らず反論した。
既に地下組織の人間であると明かした以上、侮辱に耐える訳には行かない。
これは面子の問題だ。

 「性根が腐ってるのは、手前の方だろうが!」
0266創る名無しに見る名無し
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2018/09/21(金) 18:37:25.27ID:9U9ZFZdh
それを受けてもソリダーは怒らず、逆に得意になって笑う。

 「そら見ろ、本性を現しやがった。
  ビートルは見逃したが、俺は甘くねえからな!」

彼は敵意を露に、再び潜入者に殴り掛かる。

 「歯向かう気も失せるまで、殴り倒してやる。
  覚悟しとけ」

最早ソリダーは潜入者が地下組織の人間だと言う事を、考慮しなくなっていた。
自信過剰になり、地下組織への恐れをも失っているのだ。
ソリダーの得意な魔法は、硬化。
自己の肉体のみならず、手に触れた物も硬化させられる。
但し、頭が余り良くないので、硬化の調整は大雑把であり、最大出力が基本。
程々に対象を硬化させて、破壊力を増すと言った知恵は無い。
それは有り難いのだが……。

 「死ねぃ!!」

ソリダーの動きは迅速で、荒事に慣れている潜入者であっても、捉えるのは難しい。
これは魔法資質の強化で、ソリダーの身体能力も上昇している為だ。
魔法資質の優位は魔法だけに留まらない。
魔法資質が高ければ、特に意識せずとも身体能力が増す。
筋力だけで無く、視力、聴力、免疫力までも。
本格的な強化には、身体能力強化魔法を使わなければならないが、人並みの魔法資質であっても、
魔法資質が低い同程度の筋力の者と比較して、数%程度は強くなる。
更に、持久力も強化されるので、とにかく魔法資質が低い者は不利だ。
0267創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:10:17.12ID:ON9NJXmB
潜入者は為す術も無く、凹々に殴られた。
ここで本気を出して戦う事にも、ソリダーに勝利する事にも意味は無かったので、防御に徹して、
相手の疲労を待った。
しかし、ソリダーは潜入者が気を失うまで、攻撃を止める積もりは無かった。
他の者達は傍観しているだけで、潜入者を庇ってくれる者も無く……。
力尽きて倒れる寸前の潜入者の耳に、ダストマンの声が聞こえる。

 「本当に殺すなよ」

 「ああ、分かってる」

舌打ちして答えるソリダー。

 「こいつで止めだ。
  大人しく寝とけ」

岩石の様な重さと硬さの拳で、頭を叩き潰され、潜入者は気絶した。
頭蓋の割れる音に、彼は死を覚悟した。
0268創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:10:49.49ID:ON9NJXmB
……その後、潜入者は同じく娯楽室で目覚める。
不思議と体の痛みは無い。
傍にはカードマンとトーチャー、カラバの3人が居た。

 「誰が俺を治療した?」

潜入者は先ず自分の頭の状態を確認しつつ、3人に尋ねる。
答えたのはカラバ。

 「カードマンだ。
  俺もカードマンに助けられた」
0269創る名無しに見る名無し
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2018/09/22(土) 19:12:32.64ID:ON9NJXmB
それを聞いて、今更潜入者はカラバが死んでいなかった事に驚く。

 「あんた、生きていたのか……」

 「ああ、何とかな。
  ビートルとワインダーは死んだが」

3人は共に魔法資質の強化に失敗した者達だ。
弱者同士で結託しているのかと、潜入者は失礼な事を考える。
そこに自分を引き込もうとしているのかと。
カラバに続いて、トーチャーが語る。

 「ソリダーの下で新しい序列が決まった。
  1位はソリダー、2位はダストマン、3位クーラー、4位ウェイバー、5位がブロー、あんた」

 「俺が5位?」

潜入者の魔法資質は、クーラーやウェイバー、ダストマンよりは上の筈だった。
トーチャーは潜入者の疑問に、頷いて答える。

 「実力順じゃないのさ。
  6位はカードマン、7位が俺、カラバは……死んだと思われてるから、序列には入っていない。
  後の2人は本当に死んだが」

潜入者は先んじて断りを入れる。

 「悪いが、俺は馴れ合う積もりは無い」

冷たく言い切った彼に、今度はカードマンが告げた。

 「君が魔導師会の走狗だと言う事は、既にダストマンには知られているぞ」
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2018/09/22(土) 19:13:31.56ID:ON9NJXmB
潜入者は目を見張って動揺した。

 「何だと?」

 「奴は君が気絶している間に、記憶を読んだ」

 「そんな事が――」

 「出来たんだ、奴には」

 「……だから、協力しないかって?」

彼が先を制して問うと、カードマンは素直に頷く。
しかし、潜入者は首を横に振った。

 「俺は序列にも地位にも興味が無い。
  ここに派遣された目的を果たせれば、それで良い」

それに対してカードマンは忠告を続ける。

 「この儘では、目的は果たせない。
  君は魔導師会の狗だと知られてしまっている」

 「何の問題が?
  俺は飽くまで、忠臣の集いの実態を暴くだけだ」

 「では、どこで報告する?
  魔導師と接触する為には、ここを離れる必要があるだろう」

離脱のタイミングを問われて、潜入者は答え倦ねた。
ソリダーもダストマンも彼を警戒しているので、自由行動は許されないだろう。
0271創る名無しに見る名無し
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2018/09/23(日) 18:47:47.14ID:OBQ3v2eI
潜入者は改めてカードマンに問う。

 「協力って何をすれば良いんだ?」

 「差し当たって、シェバハの襲撃に備える」

 「……備えると言っても、俺達に出来る事は無いと思うけどな。
  適当に逃げ回ってりゃ、その間にダストマンが片付けてくれるさ」

 「確かに、シェバハの相手はダストマンに任せておけば良い。
  だが、私達には別の目的がある」

 「別の目的?」

 「ソリダーを殺す」

物騒なカードマンの発言に、潜入者は目を見開いた。

 「本気か?」

 「冗談で、こんな事は言わない」

小さく笑うカードマンには、余裕がある様に見える。
ダストマンと同じ位、得体の知れない男だと、潜入者は少し警戒した。
カードマンは続ける。

 「ダストマンはシェバハの相手で精一杯と言った所だろう。
  奴も大勢を相手には出来ないだろうから、少数に分断して戦う。
  ソリダーは自信過剰な性格から、必ず残ったシェバハの者と対峙する。
  そこを背後から撃つ」
0272創る名無しに見る名無し
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2018/09/23(日) 18:49:53.22ID:OBQ3v2eI
果たして上手く行くのかと、潜入者は怪しんだ。
ソリダーの実力を甘く見ているのでは無いかと。
潜入者の表情から気弱さを読み取ったカードマンは告げる。

 「ここでソリダーを討たなければ、次の機会が何時訪れるか分からない。
  ソリダーはダストマンを信頼している。
  引き離すのは困難だろう」

とにかく傲慢で高圧的なソリダーを排除すると、カードマンは決意している。
潜入者はトーチャーとカラバを一顧した。

 「あんた等は、どう思ってるんだ?
  この作戦、上手く行くと思うか?」

トーチャーが答える。

 「上手く行かせる為に協力して欲しいんだよ、ブロー。
  正直、ソリダーには付いて行けない。
  あれならビートルの方が増しだった」

それにカラバも頷いた。

 「ビートルは良いリーダーとは言えなかったけど、悪い奴じゃ無かった。
  それに比べて……。
  ソリダーは俄かに強くなって、自分を見失っているのか、それとも……。
  『あれ』が本性なのか」

ソリダーは間違い無く実力はあるが、人望の方は全く無かった。
元々序列が低く、信頼も何も無かった者が、行き成り上に立って、振る舞い方が分からない。
だから、取り敢えず高圧的になる。
そう言う事もあろうと、潜入者は考える。
0273創る名無しに見る名無し
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2018/09/23(日) 18:50:50.72ID:OBQ3v2eI
凹々に殴られた恨みもあるので、ソリダーを潰す事に、潜入者は全く異論が無かった。
だが、危険では無いかとも思う。

 「ソリダーがシェバハと戦う邪魔をするのは良いが、下手をするとシェバハに、
  纏めて攻撃されないか?
  シェバハが矛先をこちらに向けたら、どうする?」

 「その点は心配無い」

嫌に強気にカードマンが断言するので、潜入者は感付いた。
彼は小声で尋ねる。

 「もしかして、カードマン……。
  あんたも『潜入者<インフィルトレイター>』なのか?」

 「その話は人に聞かれない所でしよう」

 「あ、ああ」

同じく小声で囁き返したカードマンの妖しい眼光に、潜入者は息を呑んで小さく頷く。

 (徒者では無いと思っていたが、本当に潜入者だとはな。
  俺より先に潜り込んでたのか……。
  どこの組織の者だ?)

地下組織には忠臣の集いを警戒している所は無かった筈だと、彼は訝った。
忠臣の集いは飽くまで、潰れ掛けの組織が看板を掛け替えた物。
ここと手を組もうと言う所は無く、逆に警戒する所も無かった。
遅かれ早かれ潰れるのだから、距離を取って関わらない様にすべきとの意見が大半だった。
態々潜入者を派遣する必要があるとは思えない。
0274創る名無しに見る名無し
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2018/09/24(月) 18:55:37.90ID:G+wgNg9u
 (シェバハ……なのか?
  あの狂信者集団が潜入者を送り込むとは……)

カードマンがシェバハの構成員かも知れないと感じ、潜入者は内心で震えた。

 (惜しいが、薬の事は諦めるしか無い。
  薬を使ったのは、忠臣の集いに潜入する為、仕方無く……と言う事にしてしまおう。
  シェバハに目を付けられたら、死ぬまで追い込まれる)

シェバハの恐ろしさは、地下組織の人間なら誰でも知っている。
一度狙われたら、その命は無い物と思って良い。
強い薬を密かに持ち帰ろうとしていた潜入者は、その計画を放棄した。
欲を張って命を捨てる程、彼は愚かでは無かった。
カードマンは話を続ける。

 「先も言ったが、自信過剰になったソリダーは、必ずシェバハと戦う。
  私達は撤退する振りをして、ソリダーに攻撃を仕掛ける」

その企みが上手く行くのか、潜入者は未だ疑問を捨て切れなかった。

 「ソリダーは先に俺達を戦わせようとするんじゃないか?
  忠誠心を確かめるとか何とか言って」

 「その可能性はある。
  だが、私達だけを戦わせて、自分だけ傍観する事はあり得ない」

 「いや、その、そうなったら誰が背後を撃つのかって話なんだが……」

潜入者の指摘にも、カードマンは余裕を崩さなかった。

 「手は打ってある。
  『そうならなかったら』、君も協力して欲しい」

 「手ってのは?」
0275創る名無しに見る名無し
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2018/09/24(月) 18:57:54.16ID:G+wgNg9u
純粋に疑問だった潜入者は率直に尋ねた。
カードマンは不敵な笑みを浮かべる。

 「それは教えられない。
  最後の手段だからな。
  とにかく、腹案はある」

 「信じろと?」

 「別に信じなくても良い。
  もし先に戦わされた場合、君は何も出来ないのだから、裏切るも裏切らないも無い」

彼が何をしたいのか、潜入者は解らなかった。
恐らく、カードマンは単独でもソリダーの背後を撃てる秘策を用意している。
……ならば、何の為に協力者を集めているのだろうか?
トーチャーもカラバも疑問に思わないのだろうか?
誰にも言わず、黙って実行した方が、『危険<リスク>』は少ないと思われるが……。
猜疑心の強い潜入者は、邪推せずには居られない。
態と裏切らせ、告げ口する事で、ソリダーの信用を得ようと企んでいる可能性もある。

 (それは流石に疑り過ぎか……)

そうでは無いとして、カードマンが協力者を集めなければならない理由を、潜入者は探した。
誰にも知らせず、唐突にカードマンがソリダーを背後から撃ったら、他の力ある者達は、
どんな反応をするか……?
当然、裏切り者としてカードマンを始末しようとするだろう。
それを避ける為に、理解者が必要なのであれば、納得は行く。

 (しかし、シェバハが味方なら、あちらに付けば良いだけの気もする。
  もしかしてシェバハの構成員では無いって事があるのか?
  それとも奴なりの『選別』なのだろうか……)
0276創る名無しに見る名無し
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2018/09/24(月) 18:59:48.50ID:G+wgNg9u
「選別」とは処分する対象と、そうで無い者を分ける事だ。
ここで協力する意思さえ見せておけば、シェバハに処分されずに済む。
これは究極的にはシェバハに付くか、力ある者に留まるかの二者択一である。
どちらが勝つと思っているのか?
ソリダーと他の力ある者達だけなら、迷わずシェバハに付いたのだが、ダストマンが居ては……。
中々前向きな返事をしない潜入者に、カードマンは痺れを切らした様に迫った。

 「それで結局、どうするんだ?
  曖昧な態度を取られては困る」

潜入者は回答する前に、質問を重ねた。

 「もし、俺が付かなかったら、どうするんだ?」

 「それでも計画は実行される。
  全て滞り無く」

 「俺が裏切るとは思わないのか?」

 「思わない」

カードマンに断言された潜入者は、困り顔で眉間を押さえた。
忠臣の集いに乗り換えても、ダストマンに付いて行っても、未来があるとは思えない。
それだけは潜入者の中で明確だ。
詰まる所、カードマンに付くしか選択は無い。
0277創る名無しに見る名無し
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2018/09/25(火) 18:44:42.03ID:jS3viCgq
潜入者は溜め息と共に頷く。

 「……分かったよ、あんたの案に乗ろう。
  所で、クーラーやウェイバーにも、この話をするのか?」

 「一応は。
  君程、強くは誘わないが」

 「告げ口されるとは思わないのか?」

 「されるかもな。
  どうあれ、失敗はしないさ」

その自信は、どこから来るのか……。
寧ろ、告げ口される事を望んでいる様ですらある。

 (得体の知れない男だ)

協力するとは言った物の、潜入者はカードマンを完全には信用しなかった。

 (シェバハの襲撃が本当にあるのかも分からないのにな。
  それも俺が迂闊な事を言った所為か)

元は自分が蒔いた種、人死にが出た事に彼は責任を感じる。
これでシェバハの襲撃が無ければ、無用な騒動を起こしただけの道化だ。

 (ここまで来たら、成る様にしか成らないか……)

潜入者は思考を放棄して、成り行きに運命を任せる事にした。
0278創る名無しに見る名無し
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2018/09/25(火) 18:46:13.07ID:jS3viCgq
それでも状況を把握する事は怠らない。
潜入者はカードマンとは離れて、トーチャーとカラバを探した。
自ら情勢を動かす事は出来なくとも、情報さえあれば、身の振り方が変わる。

 (しかし、楽な仕事だと思ったんだがな……。
  この場には『舵取り<ウィーラー>』が多過ぎる)

ゲームのプレイヤーには3種類が居る。
自ら主導して場を動かそうとする『操舵手<ウィーラー>』と、それに乗る『客<パッセンジャー>』と、
流される儘の『追随者<フォロワー>』だ。
同意の下に従う仲間とも言える存在が客で、単純に利用されるだけなのが追随者。
ゲームを動かして行くのは操舵手である。
『力ある者<インフルエンサー>』を、寄せ集められた無能の集団だと甘く見ていた潜入者は、
機を見て自分が舵を取って集団を動かす積もりだった。
ビートルでさえ操舵手にはなれないと感じていた。
所が、実際はダストマンが真の操舵手であり、更にはカードマンも動き出している。

 (面倒臭ぇ……)

潜入者は内心で毒吐く。
今日は1日が長い。
0279創る名無しに見る名無し
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2018/09/25(火) 18:48:08.37ID:jS3viCgq
一旦娯楽室で解散した後、潜入者は改めてトーチャーとカラバを探す。
カードマン抜きで聞きたい事があったのだ。
そんな彼にカードマンの方から接触して来た。

 「ブロー、話がある」

一体何の事かと潜入者は眉を顰めたが、直ぐに思い出す。

 「ああ、例の話か」

カードマンも又、潜入者だった。

 「君は魔導師では無いんだな?」

念を押す様な彼の問い掛けに、潜入者は頷く。

 「そうだ、俺は地下組織の人間だ。
  ある魔導師から依頼を受けて、ここに潜入した」

 「それは誰だ?」

 「答えられる訳が無い。
  個人的に請け負った仕事で、公式な物じゃないからな」

魔導師会が地下組織を頼る筈が無いのだ。
これは一魔導師の個人的な依頼に過ぎない。
魔導師会が潜入者を送り込むのであれば、執行者を使う。
地下組織は飽くまで、法的には認められない存在。
現状が非常事態とは言え、魔導師会が不法な存在を頼る事は無い筈である。
今度は潜入者から、カードマンに問う。

 「あんたは、どこの人間なんだ?」
0280創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:38:53.50ID:SNoUrDvY
重要且つ、決定的な問である。
返答次第で、潜入者は行動に出なければ行けないかも知れない。
カードマンは本の少しの間を置いて、こう答えた。

 「私は地下組織の人間では無いんだ」

どこの人間かと聞いているのに、その返答は無いだろうと、潜入者は怪しむ。
しかし、これも重要な情報ではある。
カードマンはシェバハの人間でも無いと言う事なのだから。

 「堅気の人間なのか?」

 「堅気と言えば堅気だが、一般的に何と言うかは難しい所だな」

 「……もしかして、官公の人間なのか?
  都市警察の潜入捜査官、それとも魔導師会……?」

本当に魔導師会が出張って来ると、潜入者は思わなかったが、カードマンは何と答えた物か、
迷っている様子。
やがて、カードマンは曖昧に答える。

 「そっち方面だと思って貰って良い」

潜入者は解釈に困った。
恐らくは、自分と似た様な立場の者だろうとは思うが、都市警察や魔導師会が公的な立場から、
直接関係の無い人間を雇うとは考え難い。
都市警察や魔導師と個人的な繋がりでも無い限りは。
0281創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:40:30.74ID:SNoUrDvY
潜入者は更に問う。

 「あんたにとって本当に排除すべきなのは、ソリダーかダストマンか、どっちだ?」

これにカードマンは迷わず答えた。

 「ダストマンだ」

 「何故?」

 「MAD擬きを、これ以上広めさせては行けない」

彼の中に強い使命感を見た潜入者は、本当に官公の人間だと確信する。

 「……それだけではない。
  彼からは危険な臭いがする。
  彼を排除するべきだと、君も思っている筈だ」

そう続けるカードマンに、潜入者は敢えて頷かなかった。
危険な臭いがすると言うのには、全く同感だった。
出来る事なら排除したいが、同時に、そう簡単には排除出来ないとも理解している。
だったら、ダストマンと一時的に手を組んで、忠臣の集いの内情を暴く事を優先するべきだと、
妥協していた。
所が、カードマンは忠臣の集いよりも、ダストマンの排除を優先したいと見える。

 (俺とは別口の捜査なのかもな)

それはカードマンがMAD関連の捜査で潜入した為であれば、得心が行く。
潜入の目的を取り違える様では、素人と変わらない。
0282創る名無しに見る名無し
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2018/09/26(水) 18:41:34.09ID:SNoUrDvY
カードマンは頷かない潜入者に、不満を見せる。

 「……思わないのか?」

 「確かに、ダストマンは危険人物だ。
  そこは全く同意する。
  だが、俺の目的は飽くまで忠臣の集いの調査だ。
  ダストマンは忠臣の集いからは遠い」

そうは言うが、実際はダストマンと今以上に関係を悪くしたくないと言うのが、潜入者の本音だった。
人間的な感情の希薄な、底の知れない不気味な男とは、敵対したくない。

 「多分、あんたと俺では目的が違う」

 「分かった」

カードマンは残念そうに静かに頷くと、速やかに立ち去った。
潜入者は改めて、トーチャーとカラバを探す。
あの2人は本当にカードマンに付いて行く気なのか?
それとも表向き従っているだけで、裏切る積もりなのか?
そこを明らかにしなければ、カードマンの真意も見えて来ない。
この2人が全く何の忠誠心も、通すべき義理も持ち合わせていないとなれば……。
果たして、カードマンは間抜けにも、それに気付かないで、事を進めようとしているのか?
そんな事が有り得るか?
0283創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:44:28.93ID:pPF343Fu
もう日も暮れようかと言う頃に、潜入者は漸くトーチャーとカラバを探し当てた。
2人は嘗て自分達が使っていたのとも違う、未使用の空き部屋で寛いでいた。

 「ここに居たのか!
  トーチャー、カラバ、話がある」

 「何だ?」

声を上げたのはトーチャー。
潜入者は2人を確り見据えて、真面目に問い掛ける。

 「2人は、どこまでカードマンを信用している?」

これにはトーチャーもカラバも動揺した。

 「どこまでって、あんたは信用してないのか?」

トーチャーの問に、潜入者は静かに答えた。

 「今の所は、裏切る積もりは無い。
  完全に信用している訳じゃ無いが、カードマンの案には乗っても良いと思っている。
  あんた等の方は、どうなんだ?」

改めて問われ、トーチャーはカラバを一瞥して、こう言う。

 「俺達も裏切る積もりは無い。
  完全には信用してないが、案には乗っても良い。
  そっちと似た様な物だ」
0284創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:45:13.70ID:pPF343Fu
潜入者は視線をトーチャーからカラバに移して、尚も問うた。

 「カラバ、あんたの意見も聞かせてくれ」

 「えっ、俺……?」

先程からカラバは沈黙して、トーチャーが代わりに喋っている。
直接本人の口から聞かなくては本心か判らないと、潜入者は考えていた。

 「お、俺もトーチャーと同じだ」

 「同じとは?」

どうもカラバは付和雷同の気がある。
彼は事を起こす段階になって、怖気付くかも知れない。
そうさせない為に、ここで言質を取ろうと、潜入者は鋭く問い詰めた。
カラバは狼狽えながらも、確りと言い切る。

 「今の所は、裏切る積もりは無い」

 「それだけか?」

 「な、何だよ、俺が裏切ると思ってるのか?」

更に問われ、疑われていると感じたカラバは、切れ気味に問い返す。
それを潜入者は威圧的な態度で押し切った。

 「絶対に裏切らないと言えるか」

カラバは沈黙してしまった。
0285創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:47:19.91ID:pPF343Fu
トーチャーがカラバを庇う様に、潜入者に言う。

 「お前だって、絶対に裏切らないとは言えないだろう?
  『今の所は』って、保険を掛ける様な事を言った癖に」

潜入者は今度はトーチャーだけを見詰めて問う。

 「では、どんな時なら裏切る?」

 「どんなって……、だから、別に裏切る積もりは……」

 「誰かに計画を密告された時か」

潜入者は敢えて、「密告」の可能性を口にした。
トーチャーは彼に疑いの眼差しを向ける。

 「正か、お前密告しようとか考えてるんじゃないだろうな?」

潜入者は冷静に否定した。

 「そんな積もりは無い。
  俺はソリダーに嫌われているからな。
  密告したって、信じて貰えるか分からない。
  媚売りや点数稼ぎと思われるのも癪だ」

それを受けて、トーチャーも威勢良く否定する。

 「俺達だって、密告なんかしやしない!」

彼は視線をカラバに向けて、同意を求めた。
カラバも頷く。

 「そうだ、そうだ!
  密告なんか、誰が……」

潜入者は全く信じていないが、この場は引き下がる事にした。

 「分かったよ、疑って悪かった。
  あんた等が、どれだけ本気が知りたくてな。
  本当にシェバハが攻めて来ると決まった訳でも無いんだ。
  余り深刻に考えるなよ」
0286創る名無しに見る名無し
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2018/09/27(木) 18:48:16.32ID:pPF343Fu
それだけ言うと、彼は立ち去る。
内心ではトーチャーやカラバが裏切る可能性を真剣に考えていた。

 (カラバは自分から積極的に動く様な性格には見えなかった。
  可能性があるとしたら、トーチャーか)

「ブロー」は腕試しでトーチャーを叩き伸めした。
悪意があっての事では無いが、痛め付けられて恨みに思わない人間は少ない。
トーチャーがブローやカードマンを売って、ソリダーやダストマンに取り入る事は、十分に考えられる。

 (今ので釘は刺した積もりだが、一度決心した人間を止めるのは無理だからな……。
  どの道、実際にシェバハが攻めて来るまでは、誰も事を起こそうとしないだろう。
  カードマンは告げ口されても構わないと言う様な態度だったが、何を企んでいるのやら)

潜入者はシェバハが攻めて来る事を望んでいなかった。
確かに、ソリダーやダストマンは気に入らないが、彼等と敵対するのはリスクが大きい。
本当にカードマンに付くべきなのかも、未だ迷いがある。

 (ソリダーは一方的にダストマンを贔屓しているが、ダストマンは恩義を感じてはいまい。
  奴の事だから、利用するだけ利用して、危なくなれば冷淡に見捨てるだろう。
  だが、シェバハはダストマンを追い詰められるか?
  もし片手間に片付けられる様なら、ダストマンはソリダーを助けるかも知れない)

ソリダーとダストマンの分断が成功する見込みも、疑わしい部分がある。
カードマンは何かを隠しているが、それはソリダーとダストマンを同時に敵に回しても、
平気な物なのか?
……独りで考えても分からない。
今の潜入者に出来る事は、時を待つ事だけ。
0287創る名無しに見る名無し
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2018/09/28(金) 19:41:24.56ID:l5KajgDb
シェバハの襲撃があったのは、その日から4日後の深夜だった。
シェバハの襲撃はブローが予想しただけで、何も起こらないのではと皆が思い始めた頃。
潜入者は既に就寝していたが、カードマン本人が起こしに来た。

 「起きろ、遂にシェバハが来たぞ」

潜入者は反射的に飛び起きて、カードマンに尋ねる。

 「本当か!?
  今、どうなっている!」

眠りが浅いのは、彼の職業病だ。
カードマンは真剣な声で、冷静に答えた。

 「既に施設は包囲されている。
  何人かは中に侵入した様だ。
  ソリダーやダストマンと共にシェバハと戦う気が無いなら、私と一緒に来い」

 「トーチャーとカラバは?」

 「既に退避済みだ」

潜入者は素直にカードマンに従った。
ダストマンを裏切る事になるが、そもそも今から合流出来るか怪しい。
ここに残って、単独でシェバハと対面しよう物なら、即座に殺される。
シェバハにとっては、この施設に居る者達、全員が「敵」なのだ。
今はカードマンがシェバハと通じている事を信じるしか無い。
0288創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/28(金) 19:42:14.21ID:l5KajgDb
潜入者は移動中もカードマンに尋ねる。

 「俺達以外の連中は、未だ寝ているのか?」

 「分からない……が、眠った儘で大人しく殺されるとは考え難い」

 「ソリダーを殺るって話は、どうなった?」

 「後回しだ。
  シェバハの展開が予想以上に早かった。
  よく訓練されている」

カードマンは答えながら、周囲の気配を探る様に、慎重に移動していた。
誰かと鉢合わせるのを避ける為なのだろうが、それは力ある者なのか、それともシェバハなのか、
或いは両方なのか……。
潜入者は索敵をカードマンに任せ、自分は魔法資質を抑える。
無闇に魔法で索敵すると、逆に相手に自分の存在を教え兼ねない。
シェバハは魔導師崩れの集団で、侮る事は出来ない。
カードマンの索敵が優れているのか、2人は誰にも会わず、施設の玄関まで来た。
しかし、そこで背後から声が掛かる。

 「この非常時に、どこへ行こうと言うのかな?」

声の主はダストマン。
夜闇の中、彼は埃を纏わない姿で、薄ら笑いを浮かべている。
振り返った潜入者は自ら話を主導する事で、逃げようとしていた事実を誤魔化そうとした。

 「ダストマン、無事だったか!
  他の奴等は?」

ダストマンは真顔で答える。

 「運動場の辺りでシェバハと交戦中だ」

 「え……あんたは?」

 「私の事は良い、今は貴様等だ。
  騒動に乗じて逃げ出すのは許さない」
0289創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/28(金) 19:43:44.65ID:l5KajgDb
 「やってる場合かよ」

潜入者は愕然とした。
この非常時に敵を排除する事より、逃げ出す仲間を止める事を優先するのかと。
最大の戦力であるダストマンが離れて、残された他の者達は、どうなるのか?
心配する潜入者に、カードマンが声を掛ける。

 「何をしている、ブロー?
  そんな奴に構うな」

 「ああ……」

ダストマンから視線を外さずに潜入者は生返事をする。
彼は改めて、ダストマンに問い掛けた。

 「作戦と違うじゃないか!
  あんたが離れて大丈夫なのか」

 「問題は無い」

その返答が潜入者には信じられない。

 「問題無い事は無いだろう!」

 「何を怒る事がある?
  自分だけ逃げ出そうとしていた貴様が」

それに関しては潜入者は何も言い返せなかった。
シェバハの急襲を受けて、他の者達を助けにも向かわず、脱出しようとしていたのは事実。
ダストマンと話している潜入者を、カードマンが急かす。

 「構うな、早く行くぞ!」
0290創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/09/28(金) 19:44:34.14ID:l5KajgDb
潜入者は数極思案し、それに応えた。

 「カードマン、行くなら行け!
  俺は残る」

自分が逃げ出そうとした所為でダストマンが一時離脱し、他の者達が窮地に立たされている。
特に誰と親しい訳でも無く、恩も何もありはしないが、ダストマンとの約束もあるので、
ここに残ろうと潜入者は決めた。
カードマンは物言いた気な顔をしながらも、潜入者には構わず、無言で背を向ける。

 「逃がすと思うのか」

それに対してダストマンは、魂も凍り付く様な冷たい声で言った。
玄関の戸を押し開けようとしていたカードマンは、戸が石壁の如く微動だにしない事に驚く。

 「空間制御魔法……!?
  馬鹿な、これはD級禁断共通魔法では……」

それにダストマンは反応した。

 「よく気付いたな。
  確かに、これは空間制御魔法だ。
  しかし、それが判ると言う事は……。
  カードマン、貴様も魔導師会の狗か!」

戸が開かないだけであれば、普通はマジックキネシスで開かない様に押し止めているか、
もしくは蝶番を固定していると考える。
空間その物を固定していると言う発想はしない。
叩き壊そうとしても無理だった末の発言であれば、その結論に達しても不思議では無いが、
迷いも無く言い切るのは、どう考えても空間制御魔法を知っているとしか思えない。
詰まり、カードマンは魔導師の中でも「禁呪」を知り得る立場の人間。
0291創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:34:24.15ID:rq7FbJAz
ダストマンは突然、怒りを爆発させる。

 「魔導師会め、尽く尽く目障りな!
  『第七の漆黒<ザイン・ブラック>』!」

 「な、何だ、これは!?
  うう……」

彼が7本の指を向けると、カードマンは蹲って震え出した。
何かの魔法を使ったのは間違い無いが、その種類までは特定出来ない。
潜入者は思わず尋ねる。

 「何をした!?」

 「人間が持つ感覚を全て奪った。
  今、カードマンは完全なる闇の中だ」

そんな魔法まで使えるのかと、潜入者は驚愕する。
元に戻せるのかと疑問にも思ったが、それより今は優先すべき事がある。
カードマンは放置しても、シェバハには殺されないだろうと判断して、彼はダストマンを急かした。

 「とにかく早く応援に行こう。
  全員がシェバハに殺されてしまう前に」

 「誰が応援に行くと言った?
  私は貴様等を逃がさない為に来ただけだ」

 「は?」

冷酷な一言に、潜入者は理解が追い付かなかった。
誰も逃がしたくないのは解る、だから自ら追って来たのも解る、味方を見殺しにするのは解らない。
0292創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:35:40.61ID:rq7FbJAz
 「馬鹿かっ!?
  見殺しにするのかよ!」

潜入者は声を大にして、ダストマンに迫った。
しかし、ダストマンは全く意に介さない。

 「悪く言えば、そうだな」

他に言い様があるのかと、潜入者は憤る。

 「良くも悪くもあるかっ!
  何故、行かない!」

 「敵が集まっている所に飛び込む方が愚かだろう」

 「手前っ、独りでも勝てるんじゃないのか!」

 「勝てる事は勝てるが、骨が折れる。
  彼等に出来るだけ数を減らして貰おうと思ってな」

ダストマンの思考に付いて行けず、彼は何度も首を横に振った。

 「全滅するぞ!」

 「『奴等は』全滅するかもな。
  別に構わん、誰でも代用の利く、大した価値も無い連中だ。
  精々役に立って貰う」

 「何の役だよ!」

 「私の労力を省く役……かな」

潜入者は唖然として、暫し言葉を失った。
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2018/09/29(土) 19:36:48.77ID:rq7FbJAz
ダストマンを外道だはと思っていたが、ここまで人の心が無いとは完全に予想外だった。
彼にとっては味方では無く、単なる駒なのかも知れないが、それを無意味に消費する事さえ、
何とも思わないのだ。

 「よく分かった。
  ダストマン、取り引きは無しだ。
  手前とは縁を切らせて貰う」

 「お互いに協力しようと一度は約束したのに、裏切るのか?」

咎める様なダストマンの台詞を、彼は恨みを込めて笑い飛ばす。

 「俺がソリダーに打ん殴られてる時、手前は笑って見てたよな」

 「笑ってはいなかったが?
  『殺すな』と制止もしたのに、酷い逆恨みだ。
  そもそも貴様は一度、私を殺そうとしたではないか……。
  あれで相子だと思うが」

 「そりゃ手前の勝手な言い分だ」

潜入者の言い分も随分と勝手。
それを彼自身も自覚していながら、尚もダストマンの理は認められなかった。
他人を使って、自分は関係無いと言う顔をしているのが、気に食わないのだ。

 「今更何を言うんだ、ブロー。
  ソリダーに打付けるべき恨みを、私に向けるな。
  そのソリダーを助ける為に、態々危険を冒しに行くのも、訳が解らない。
  貴様は賢い筈だ」

ダストマンの台詞に、潜入者は違和感を覚える。

 「手前、何が目的だ?」

 「私は貴様を買っている。
  ソリダーは確かに強い……が、それだけの男だ。
  奴には知恵が無い。
  私を真に理解する事は出来ないだろう」

 「……俺を仲間に引き込みたいと。
  だから死なせたくないってのか?」

 「そうだ」

 「あのな、何を言われても手前には付いて行かねえよ」
0294創る名無しに見る名無し
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2018/09/29(土) 19:37:23.11ID:rq7FbJAz
飽くまで断る潜入者に、ダストマンは本気で困惑していた。

 「私の何が悪い?
  これでも私は冷静で理性的な積もりだ。
  貴様が所属している地下組織の誰よりも、能力的に優れている。
  金の問題か?」

 「人格の問題だと言わなかったか?」

 「人格とは何だ?
  私は信頼する者を裏切ったりはしないし、捨て石の様に扱う事もしない。
  それでは不十分か?」

 「嘘を吐くな!
  誰が信じるか!」

 「嘘では無いよ。
  愚者の魔法を使っても良い」

ダストマンの態度は、本気で信じて欲しい様だった。
だが、潜入者の心は動かない。

 「使うまでも無い!
  手前は冷酷で残虐な男だ!」

 「それは違う、捉え方の問題だ。
  私は感情に左右されないだけの事」

 「手前には人の心が無い!」

 「それも違う、私にも温情はある。
  仲間と認めた者には敬意を払うが、今日まで私が出会って来た多くの者は、それに値しなかった」

ダストマンの弁解に潜入者は絶句した。
狂人には狂人の理屈があると言うが……。
0295創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 18:56:16.62ID:lXfYECiQ
彼の今までの冷酷非道な振る舞いは、誰も真の「仲間」と認めていなかった為なのか?
それが真実だとしても、潜入者はダストマンの仲間にはなれない。

 「何と言われようと、俺は手前には付いて行かない。
  手前は身勝手過ぎるんだよ!」

 「大きな誤解だ」

 「いいや、誤解なんかじゃない!
  手前は人を何とも思ってないんだ。
  だから、塵みたいに殺せるし、利用するのにも躊躇いが無い」

ダストマンは大きな溜め息を吐く。

 「決断と実行は迅速に越した事は無い。
  果断さこそが道を拓くのだ。
  迷いや躊躇いは不要。
  無い事を讃えられはしても、有る事を褒められはしない」

 「恐怖を克服しない、勇気の要らない決断には、何の価値も無い!」

 「『感情家<センチメンタリスト>』だな。
  それは地下組織も同じ事だろう?
  部下を捨て駒にし、敵対者には容赦せず、時に一般人を平気で巻き込む」

そこに何の違いもありはしないと、ダストマンは超越した態度で抗弁した。
潜入者が良識振っているのは、単なる思い込みに過ぎないと。
その反論は潜入者の怒りを買った。

 「手前は何か勘違いをしているな!
  俺達は『仁侠<マフィア>』だ!
  『無法者<コーザ・ノストラ>』と同類と思って貰っては困る!」

地下組織は不法者だと言われているが、マフィアにはマフィアなりの矜持があるのだ。
唯、犯罪の為だけにある組織では無い。

 「そうなのか?
  ともかく、私にも心がある事は解って貰いたい。
  だからこそ、こうして仲間に誘っている」

 「情けの積もりか!?」

これで情を掛けているのかと、潜入者は驚愕した。
ダストマンは平然と頷く。

 「ああ、その通りだ。
  貴様の忠告には恩義を感じている」
0296創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 18:57:57.37ID:lXfYECiQ
彼の言葉に偽りは無い。
潜入者がシェバハの襲撃を予想し、前以って忠告した事に、ダストマンは感謝していた。

 「だが、断れば殺すんだろう?」

 「本気で断るのか?」

ダストマンには潜入者の態度が、本気で理解出来ない様子。
自分の命以上に惜しむべき物は無いと思っているのだ。

 「一度地下組織に忠誠を誓った身で、義理立てしているのか?」

 「それもある……が、最大の理由は手前だよ。
  何度も言わせんな」

 「私の何が悪いのか?
  私は全ての面に於いて、誰にも劣る部分は無いと自負している。
  それなのに……、そんなに私には魅力が無いか」

潜入者は大きく頷いた。

 「人を従えるのは、力でも賢さでも無い。
  手前は確かに優秀なんだろう。
  だが、それだけの男だ」

 「では、何なのだ?
  私には何が足りない……?」

 「何度も言ったぞ。
  人を従えるのは『人間』だ。
  俺には手前の人格が許容出来ない」
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2018/09/30(日) 19:00:01.60ID:lXfYECiQ
ダストマンは静かに憤慨する。

 「人格が何の役に立つ?
  人は能力が全てだ。
  人格だけで無能を評価するのは、滅びの道に他ならない。
  貴様は賢いと思っていたのだがな」

 「本当に賢けりゃ、地下組織になんか入ってない。
  今頃、真っ当な暮らしをしているさ」

潜入者は自嘲した。
己は馬鹿だと宣言する感覚が、ダストマンには益々理解出来ない。

 「真っ当な暮らし?
  今の生活に不満があるなら、私と共に来い。
  真っ当でないからこその価値もある。
  常識に縛られていては、大業は成せない」

執拗に勧誘を続ける彼を、潜入者は初めて哀れに思った。

 「……お前には味方が少ないんだな」

ダストマンは不快感に眉を顰める。

 「無能は味方とは呼べない。
  何時でも切り捨てられる様にしておく物だ。
  数は少なくとも、心から信頼出来る者が居れば、それで良い」

 「そんな事を言って、今まで一人も居なかったんだろう?
  瞭(はっき)り言ってやるよ。
  お前には一生そんな奴は出来ない」

 「そうかもな。
  天才は何時も理解されない」

嘆く彼に潜入者は失笑を漏らした。
0298創る名無しに見る名無し
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2018/09/30(日) 19:02:18.00ID:lXfYECiQ
 「フフッ、自尊心だけは一丁前か……。
  ――で、何時まで無駄話を続けるんだ?
  俺が心変わりしない事は解ってるんだろう?」

ダストマンは真顔で小首を傾げる。

 「やはり貴様は殺すには惜しい人材だ」

 「答えろよ、何を考えている?」

 「大層な考えは無い。
  徒(ただ)、『敵』の数が減るのを待っている。
  それまで話し相手が居ないと暇になってしまうからな」

シェバハは不法者を絶対に許さない。
必殺の覚悟で攻撃して来るから、逃げる事も降伏する事も出来ない。
必然的に決死の覚悟で立ち向かわなくてはならなくなる。
ソリダーの自信過剰を咎めず、放置していたのも計算の内。
そして、潜入者さえも暇潰しの玩具でしか無い。

 「全く碌でも無い」

潜入者が吐き捨てると、ダストマンは笑う。

 「貴様の命も、それまでだ。
  心変わりすると言うなら、話は別だが」

 「冗談じゃない。
  だったら、こっちにも覚悟がある」

翻意を促す彼に対し、潜入者は魔力を集めて身に纏う。
0299創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:24:18.37ID:xarXLHcY
強化されていても、魔法資質では潜入者が上なのだ。
閉鎖空間では魔力の供給も限られるので、強大な魔法は使えない。
十分に勝算はあると、潜入者は思っていた。

 「止めておけ、貴様では勝てない。
  一度試したのに、又無駄な事をするのか」

ダストマンは警告する。
それは事実かも知れない……が、試しもせずに諦める程、潜入者は無気力では無い。

 「やってみないと分からない!」

ダストマンには真面な攻撃が通用しない。
首を切り落としても、首だけで浮いて会話を続けた。
脳天を砕こうとしたのは未遂に終わったが、それも通じるかは怪しい。
では、どうするか?
潜入者は然程魔法知識がある訳でも無い……。

 「では、その身に刻むが良い。
  『第二の漆黒<ベト・ブラック>』!」

その場の魔力は潜入者が掌握していた筈だが、ダストマンは苦も無く魔法を発動させた。
一瞬の内に潜入者の視界は失われ、魔力も見えなくなる。
防御する暇も無かった。

 「視覚と魔力感知を封じた。
  己の無力が解ろう」

聴覚や触覚は生きているのだが、もう何も出来ないも同然だ。
魔法が使えない潜入者に、ダストマンを倒す手段は無い。
0300創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:26:13.53ID:xarXLHcY
ダストマンは余裕の態度で話を続けた。

 「冥途の土産に面白い話を聞かせよう。
  これまで知らない振りをしていたが、実は薬の適合者には特定の要素がある。
  端的に言えば、強大な力を受け容れる事なのだが、それに適した人格があるのだ。
  それは他人の力を自分の物とする事に、何の躊躇いや疑問も持たない者。
  心は虚しく名誉と偉大さに飢えて、他者の成果を我が物顔で誇り、力ある存在に帰属したがり、
  自己を強者に重ねて見る者。
  確たる『自分』を持たない癖に、自意識と自尊心だけは強い、人間的に下劣な存在だ」

 「お前も下劣と言う事にならないか?」

潜入者の冷静な突っ込みを、ダストマンは真顔で軽く受け流す。

 「薬の製作者である私は別に決まっているだろう。
  それでもソリダーの様な者が現れるとは、予想外だった。
  奴は今ここで死んだ方が良いのかも知れない。
  あそこまで下劣な人間が力を持つと、最早悪夢だ」

本当に死ぬべきはダストマンだと、潜入者は強く思った。
彼から見れば、ダストマンの方が下劣だ。

 「そうそう、薬の正体だがな……。
  あれは人間の魂だ」

 「は?」

今、衝撃の事実を明かされたのだが、潜入者は言葉の意味を直ぐには理解出来なかった。
情報の扱いが重大な秘密とは思えない程、物の序での様で余りにも軽い。

 「魔法資質が生まれ付きで成長しないなら、他から持って来るしか無いだろう?」

 「人間が材料なのか?
  人を殺して薬を作っている……?」

潜入者の声は震えていた。
馬鹿な妄想だと一笑に付して、違うと言って欲しかった。
0301創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:27:45.62ID:xarXLHcY
ダストマンは小さく笑う。

 「殺して薬を作るとか、そこまで悪人では無いよ。
  精霊を抽出――詰まり、魔法資質を抜き取るだけだ。
  結果、死んでしまうのだが、別に殺す事が目的ではない」

 「同じだろう!?」

 「誤解しないでくれ。
  魔法資質を抜き取っても、直ぐに死ぬ訳ではない。
  徐々に衰弱して死亡する」

 「結局、殺してるじゃねえか!!」

 「ウーム、解って貰えないかぁ……」

狂人の理屈には付いて行けないと、潜入者は改めて感じた。
ダストマンは罪悪感から逃れる為に、現実逃避しているのか……。

 (いや、こいつを相手に真面な考えを持ち込んでは行けない)

潜入者は頭に浮かんだ考えを否定した。
ダストマンの心理を想像するだけ無駄なのだ。
常識を当て嵌めようとすれば、深みに陥る。
それよりも潜入者は自分の中に、他人の魂が入り込んでいると言う事実に、小さく震えた。
薬は確かに魔法資質を高めたが、それはロフティが説明した様に、魔法資質が解放されたのでは無く、
他人の魔法資質を取り込んだだけ……。

 (ロフティは、この事を知っているのか?)

恐らくは知らないと、潜入者は踏んだ。
もし知っていながら、あの対応であれば、ロフティはダストマンにも劣らない異常者だ。
そんな者が何人も集まっているとは、思えなかった。
……「思いたくなかった」と言うのが、本当の所。
0302創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:28:52.32ID:xarXLHcY
潜入者は身を低くして、手探りで床を触りつつ、ダストマンに話し掛ける。

 「話は終わりか?」

しかし、当のダストマンは潜入者の行動が気に掛かった。

 「何かを探しているのか?」

 「何でも良いだろう」

謎の行動をする潜入者を警戒して、彼は新な魔法を使う。

 「『第三の漆黒<ガムル・ブラック>』」

3本の指を向ければ、触覚が失われる。
その事に潜入者は驚き、一時硬直した。

 「これでは生殺しだ。
  殺すなら殺せ……!」

 「よくも偉そうに命じられる物だ。
  貴様を生かすも殺すも私の自由。
  未だ殺す気は無い」

 「後悔するぞ!」

 「その時になれば、確り殺してやるから安心しろ」

潜入者は諦めた訳ではない。
ダストマンに掛けられた魔法を解除する方法は分からないが、生きている限り可能性はある。
繰り返し「殺せ」と言うのは、彼の注意を自分に向ける為だ。
潜入者の真の目的はカードマンにあった。
カードマンも死んだ訳ではない。
ダストマンの魔法によって、感覚を奪われているだけ。
自力で魔法を解除して、立ち上がるかも知れない。
0303創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 18:58:17.97ID:xarXLHcY
だが、それだけでは余りに彼方任せで、頼り無い。
潜入者は自力でも可能な事が、他に無いか思案する。

 (何とか魔法を使えないか……。
  目は見えないし、魔法資質も封じられた上に、体も痺れた様に触覚が無い。
  奴の『黒<ブラック>』の魔法は感覚を封じる……。
  真面に利くのは耳だけだ)

他に生きている感覚は無いかと、潜入者は自らの体を意識した。

 (心臓の鼓動を感じる……。
  これは聴覚じゃない。
  皮膚の表層の感覚は死んでいても、体の内側、深層の感覚は死んでいないのか?
  ああ、上下も判る、時の流れも。
  意外に多くの感覚が生きているんだな)

ここで彼は礑と思い付く。

 (体内で魔法を使えるか?
  だが、身体を元に戻すには、黒の魔法の原理が解明出来てないと行けない。
  悪い所が判らなくては、治し様も無い。
  どう言う仕組みで感覚を奪っている?
  脳の機能を働かなくしているのか、どこかで感覚を遮断しているのか……。
  ええい、俺には難しい事は解らん!)

潜入者は魔法知識の無さを憾んだ。
どんなに魔法資質が強化されても、それだけでは宝の持ち腐れ。

 (畜生、奴に一泡吹かせられるなら、もう何でも良い!)

彼は思考を放棄して、血流を意識し、体内の魔力を巡らせた。
身体能力強化魔法を使うのだ。
0304創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:10:43.31ID:xarXLHcY
魔力の流れ自体は見えずとも、呪文を描けば魔法は発動する。
身体能力強化は自身の肉体に魔法陣を描く。
血液が魔力を全身に運ぶのだ。

 「ダストマンッ!!」

潜入者は大声で叫んだ。

 「何だ?」

冷静なダストマンは迂闊に返事をする。
それが自分の場所を知らせる目印になるとも思わず。

 「そこだーーっ!!」

潜入者は有らん限りの力を使い、音にも迫る速さで駆ける。
判るのはダストマンの居る方向だけ。
殴りも蹴りもしない。
真っ直ぐ全身で打付かる。
重要な感覚を奪われた彼には、それしか出来ない。
床を踏む感触は浮(ふ)わ浮わして、『平衡<バランス>』を取るのも苦労するが、そんな事は関係無い。
体当たりでダストマンに重傷を負わせられるかと言うと、無理だろう。
これは意地なのだ。
どうあっても屈しない、何も思い通りにはさせないと言う意思表示。

 「貴様っ」

ダストマンは焦った。
この様な行動に出るからには、何か策があるのだろうと。
防御は間に合わず、体当たりを真面に食らい、ダストマンは弾き飛ばされて、壁に叩き付けられる。
その衝撃をダストマンは感じる物の、痛みは全く無いし、意識を失う事も無い。
彼の意識は既に、肉体とは切り離されている。
0305創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:12:32.82ID:xarXLHcY
ダストマンの声と体に伝わる衝撃で、潜入者は攻撃が当たった事を理解した。
しかし、それ以上の手がある訳では無い。
打撃を加えただけで手詰まり……の筈だったが、途端に目が見える様になった。
他の感覚も元に戻っている。
全身全霊を懸けた一撃が、ダストマンの魔法を打ち破ったのだ。
正に、意志ある所に道は拓ける。
幸運としか言い様が無いが、それも自ら行動を起こした結果。
再び魔法を食らう前に、この好機を逃すまいと潜入者は猛攻を仕掛けた。
先ずは魔法封じの常道、口を利けなくする。

 「黙ってろ!」

彼は真っ直ぐダストマンの顎に向けて拳を突き出す。
魔法の高速発動には、描文と同時に詠唱が欠かせない。

 「『第五の<ハイ・>』――」

ダストマンが言い終える前に、潜入者の拳が顎を砕く。
次に封じるべきは描文……だが、腕を折ろうが、指を折ろうが、ダストマンには通じない。
何故なら、今のダストマンにとって、肉体は筋肉で動かす物では無いのだから。
腕を千切られても、魔法の力で操り人形の様に動かせる。
それは潜入者も十分理解している。
だからと言って、安易に魔法に頼れば、ダストマンの思う壺だ。
魔力の扱いでは、ダストマンの方に分がある。

 (魔力を操る根源、魔法資質の中枢を叩くしかない!)

そう決意した潜入者は、ダストマンの脳天を砕きに掛かった。
片手で彼の顔面を覆う様に掴み、全力で後頭部を壁に叩き付ける。
脳を破壊した位で、ダストマンが死ぬとは思わないが、精霊の中枢は間違い無く頭部にある。
頭を割って、剥き出しになった精霊を直接攻撃すれば、殺すとまでは行かずとも傷付けられると、
潜入者は信じた。
0306創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:17:42.86ID:xarXLHcY
 「ウォオオッ、死ねェエエ!!」

彼は雄叫びを上げ、何度もダストマンの頭を壁に叩き付け続ける。
赤い血が壁に跡を付けるが、頭蓋を完全に破壊するには至らない。
明らかに頭蓋骨が強化されている。
その内に、ダストマンの腕が宙に七芒星の魔法陣を描く。
黒の魔法が発動してしまう。

 (『第七の漆黒<ザイン・ブラック>』)

潜入者の脳内に、ダストマンの声が響いた。
0307創る名無しに見る名無し
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2018/10/01(月) 19:18:03.12ID:xarXLHcY
それと同時に、一瞬で全てが闇に包まれる。
体は宙に投げ出された様で、上も下も判らない。

 (畜生っ、『不死者<アンデッド>』かよ、こいつは!)

後一息で仕留められたのにと、潜入者は悔しがった。
本当に全ての感覚が遮断されており、何も分からない。
自分が生きているのか、死んでいるのかも、曖昧になって来る。
もしかしたら、自分は疾うに殺されているのではと疑いもする。

 (俺は生きているのか、死んでいるのか?
  ここは死後の世界なのか、それとも単なる暗闇なのか……)

永遠とも思える闇の中で、潜入者の思考は迷走を始めていた。
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