日本が異世界に転移した第1(84)章
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>>422
逃げようとしたケンタウルスは座席に阻まれて方向転換が出来ない。
「だめだ族長、狭すぎて狙い撃ちされてる。
こっちは不利だ。」
「ふん、ならばこの車両には乗客はいないのだな。
応戦してる連中を引き付けておけ。」
「如何なさるので?」
「まどろっこしいことは止めだ。壁を直接ぶっ壊す。
まずはてつはうを1個ずつ車両に放り込んで連中の位置を確認しろ。
その車両にロープを窓枠にくくりつけて引っ張る。
端を破城槌をぶつけて剥がしやすくしろ。」
大陸南部
シルベール伯爵領迎賓館
シルベール伯爵家は長年の間、ケンタウルス自治伯領と帝国の仲介役としての役割を担ってきた。
帝国が滅びた後も、王国と日本国大陸総督府の代理人として彼等との仲介を任せられている。
その為に領内に迎賓館を設け、日本の大陸総督府の外務局長杉村をはじめとする代表団とケンタウルスの長老会議代表団との会談の場を設けていた。
「日本国が我が種族の若衆30名を一方的に虐殺したのは甚だ遺憾です。
謝罪と賠償を要求したい。」
「ケンタウルス若衆は日本国管理地域である鉄道線路沿線で略奪行為を働いていた。
これは明らかに犯罪である。
当方は犯罪行為に対し、実力を行使したに過ぎない。
要求を拒否する!!」
「帝国並びにそれを継承した王国では、ケンタウルス自治伯領内での人族に対する治外法権が認められている。
線路はともかく事件の起きた地域の沿線の街道は自治伯領の境界線に接している。
そして、確実に十数頭は自治伯領内で殺害されている。
これは法に反する行為ではないかね?」
南北線沿線の『ケンタウルス若衆によるキャラバン襲撃並びに装甲列車による撃滅』事件は、地域の名前を取って、ジェノア事件と呼称されることとなった。
当初は脳筋のケンタウルスなど力を背景にすれば容易く主導権を握れると思っていた。
総督府外務局は法を背景に弁護士の如く抵抗してくるケンタウルス長老会議代表団に意外な苦戦を味わうことになる。
なぜこんな会談が行われているのか?
傭兵やケンタウルスに多数の死者が出ていることからうやむやにするのは良くないと王国側から責任の所在を求める要請があったからだ。
総督府側は拒否もできたのたが、会談を受けたのはケンタウルス族に対する自治に対する介入が出来る機会と侮っていたことが大きい。
休憩を挟むこととなり、外務局員達は用意された迎賓館の部屋で予想外の苦戦に憤る。
「なんなんだあいつらは?
我々が想定していたイメージとはだいぶ違うぞ。」
「ケンタウルス族は粗野で野蛮、そう考えてましたな?
だが考えてもみて下さい。
彼等は帝国から自治権を勝ち取った種族ですぞ。
武力だけなら帝国は彼等の自治権など認めなかったでしょう。」
シルベール伯爵は仲介を担うが別に中立というわけではない。
伯爵の領地は年貢の他にケンタウルスと商人による交易に対する権利を認める運上金によって莫大な利益を上げて成り立っている。
「主な商品は傭兵、狩猟により得られる肉や毛皮、自治領特有の果実といった物です。
他にも医薬品や音楽を初めとする美術品、工芸品。
つまり野蛮な風俗とは別の文化的な側面があります。」
官僚達はシルベール伯爵の話に聞き入っている。
「ケンタウルスは性欲の強い種族ですが、腹上死は彼等の死因の上位にあたります。」
全員複雑な顔となった。
女性の官僚もこの場にいるのだから勘弁して欲しい話題である。 「ですが老齢に達すると性欲が霧散し、突然美術や医術、哲学に魔術、政治といったこと学問的なことに対する欲求が起こり極めようとします。
長老と呼ばれる彼等がそうです。
彼等は大族長や族長の諮問を担当する賢者達であり相談役なのです。」
「先にそれを話して欲しかった。」
「勘違いなされては困りますが、私は別に貴殿等の味方というわけでわないのですよ?
寧ろ貴殿等が私の権益を犯さないか憂慮している。」
シルベール伯爵は自分の知識や経験が交渉には不可欠だと、自分達に売り込んでいるのだと杉村は悟る。
外務局員達は深刻な顔で対策を考えている。
その中若手の局員が思い詰めたように呟く。
「性欲が抜けて賢者に?
・・・賢者モードか・・・」
杉村はその若手に書類を叩きつけた。
「つまらんことを言うな。」
「賢者モードとは何ですか?」
シルベール伯爵も真面目な顔で聞いてくる。
だが総督府と連絡を取っていた局員がパソコンを通じてプリントアウトしてきた書類を杉村に見せると彼の顔は豹変し、まわりの局員達も書類を見せられ雰囲気が変わっていく。
シルベール伯爵も場の空気が変わったことを悟る。
まるで示しあわせたかのように沈黙する外務局員達を不気味に思いつつ会議が再開される。
「話の続きの前に現在起こっている事態を説明しましょう。
まず我々は今回の会談を打ち切る準備があります。」
突然の総督府外務局の豹変ぶりに長老達も緊張を新たにしていた。
大陸東部
東西線『よさこい3号』
機関車から少し離れた場所、ケンタウルス達が築いたバリケードを、機関士大沢達が必死に突き崩していた。
「壁の外側は最後だ。
連中に気がついたら台無しだからな。」
「おやっさん、外側だけなら機関車で強引に突破できないかな?」
車掌の平田の提案に大沢は考え込む。
だがシャベルを持つ手は休めていない。
列車を傷付けない為と前方が確認出来ないから今回は停車させた。
しかし、バリケードをある程度排除し、状況が確認出来た今なら出来ると言える。
「やれるな・・・よし、お前らは機関車を動かす為に戻れ。
俺らはもう少しバリケードを薄くする。
準備が出来たら俺らも戻る。」
機関助手達を機関車に戻らせ、車掌達とバリケードの撤去作業を続ける。
九号車両の壁が破壊され、鉄道公安官の二人と浅井は八号車両に移動したが、ここの壁も破壊され始めた。
浅井のAKも久田と建川の猟銃もすでに弾はない。
「さて、白兵戦か。二人は下がっててくれ。」
「いえ、もう少しお付き合いしますよ。」
浅井はナイフを鉄道公安官二人は鉈を構える。
刃渡りはどう見ても浅井のナイフよりでかい。 「なんでそんな物が列車にあるんだ?
ナイフと交換してくれ。」
「倒木が線路にあった時の為です。
後は・・・刺又が二本有ります。」
そこにヒルダと斉藤達もやってくる。
「連中の弓矢を三セットばかり奪いました。
扱ったことのあるのが姫様だけなので・・・」
「あら、私も使えるわよ。」
乗客の中から恰幅のよい主婦が名乗りを上げる。
「多少、ブランクがあるけどJK時代は弓道部だったから。
和弓だから勝手が違うかもだけど、心得がない人よりはマシでしょ?」
JKと言われて浅井、斉藤、久田が顔を見合わせるがヒルダが弓を主婦の市原に渡す。
狭い通路で使うのだから期待は出来る。
「てつはうもまだ2個あります。
直接、投擲する必要がありますが。」
色々とツッコミたいところがあったが、てつはうは土器で出来ているし火薬自体はすでに大陸でも流通しているので大陸技術流出法には違反していない。
「乗客の中に七人ばかり冒険者をしている日本人もいます。
今は貨物車から彼等の武器を持ち出させています。
日本刀や薙刀とか持ってきてましたね。」
転移から九年、大陸進出してくると六年も経過すると色んな日本人が出てくる。
「前方車両のドアを守らせてくれ。
乗客の移動は勘づかれないように頼む。」
「浅井さん壁が破られた!!
連中が入ってくる。」
「八号車両客室を放棄!!
鍵を掛けて、七号車両で抵抗線を作るぞ。」
通路ならケンタウルスも自由に動けずこちらが有利だ。
腕時計で時間を確認する。
「通報から45分・・・」
族長トルイは些か焦っていた。
連れてきた兵は自分も含めて70騎ばかり、既に戦死が18騎、負傷して戦えないのが16騎。
戦でもないのに半数がやられたことになる。
「大損害だ。
割には合わん・・・」
「族長、もう退くべきではないか?
今なら近くの村でも襲って首をとって日本人ということにしておけば面目は立つ。」
顔は焼いとけば問題はない。
女はその場限りになるが、事が済めば口を封じればいい。
日本人どもにも一矢を報いた。
「よし退くか、角笛を」
言い掛けたところで先頭の機関車が煙突から煙を吹き出し、下方からは水蒸気を噴出させ始めた。
バリケードからは数人の人間が機関車に駆け出している。 列車の内部には5頭のケンタウルスが乗り込んだままだ。
「つ、連れ戻せ!!」
7号車両では突撃してくるケンタウルスを、久田と斉藤が刺又二本で押し止める。
狭い通路で走れないケンタウルスなら何とか押さえ込める。
座席の陰から浅井が鉈を振り回してるので勢いを殺したのも大きい。
市原とヒルダが弓でケンタウルスを射ると、後続のケンタウルスが前進できなくなる。
たがそこからケンタウルス達が矢を放ち久田に二本が刺さる。
「久田さん!!」
建川が久田を引きずりながら七号車両に移動しようとする。
だが久田が口から血と泡を吹き出している。
痺れる体で手だけ動かして、全員に六号車両に移動するよう指差す。
次にてつはうを指差した。
浅井達が六号車両に移動すると、サークルのメンバーがてつはうの導火線に火を着けて、七号車両に放り込んで七号車両のドアと六号車両のドアを閉める。
爆発音とともにドアが揺れる。
だがすぐにケンタウルスの姿がドアの窓から見える。
顔は血まみれだ。
「久田さんが・・・」
泣き顔の建川が敬礼しているので、浅井もそれに倣う。
「五号車両からは乗客が避難しているのでここらで食い止めたい。」
車掌の平田がシャベルを持ってやってくる。
「車両を切り離しましょう。」
「走行中に出来るんですか?」
「本来は配線やブレーキ管を外さないといけないのですが時間が無いから強引に切り離します。まずは連結機を切り離してから一つ一つ鉈で斬ります。」
平田が作業に入るが、岡島の声が車内放送で鳴り響く。
「バリケードに突っ込みます。何かに掴まりながら頭を守ってください!!」
全員が座席に捕まると何かに衝突したような衝撃が車内を揺るがしといく。
機関車
大沢達を乗せた機関車はゆっくりと加速を続け走り始める。
可能な限りに勢いを付けて、バリケードを吹っ飛ばして突破しないといけない。
機関助手達は必死に石炭を竈にくべている。
「いけ、いけ、いけぇ〜い!!」
手を振り回しながら声援する大沢の声に応えるように機関車の先頭部分がバリケードにぶつかり、粉砕しながら土砂を撒き散らす。
機関車周辺を駆けていたケンタウルス達が土砂を浴びて転倒していく。
機関車は震動しながらバリケードを突破してさらに加速を続ける。
「やったあ!!」
大沢は歓声を挙げるが肩に矢を受けていた。
そのまま崩れ落ちる。
「おやっさん!!」
「退け、退くんだ!!」
トルイは追い付いた兵達を一人一人に声を掛けて列車の追撃を止めさせる。 合流した29騎のケンタウルスは負傷した16騎を回収して、撤退しようとする。
死体も18騎。
「数が合わないな、列車の中か・・・」
証拠は残したくないが長居は危険だった。
どうせ東部地域にケンタウルスの集落は無い。
列車の中のケンタウルスの素性を洗っても自治伯との繋がりを思わせる物は持たせていない。
流れのケンタウルスが勝手にやったと言い逃れが出来る。
遠ざかる列車を尻目に引き換えそうとすると、奇怪な羽音が上空から聞こえてきた。
「なんだ、この音は?」
同時に森の中からこちらを囲むように斑模様の緑の服を着た集団が現れる。
木々の間から銃を構えているのが判る。
「バカな日本兵だと、どっから現れたのだ。」
日本軍が駐屯する主要な町には見張りを置いてあったはずだ。
例え日本の車がどんなに早くてもケンタウルスの伝令に勝てるはずがない。
たが現実に目の前にいるのは・・・
困惑するトルイ達の前に低空をホバリングするMi−8TB、ヒップEの機首の備え付けられた12.7mm機銃が火を噴いた。
族長トルイは一瞬にして、真っ先に肉塊となった。
同時に列車から七号車両以降が切り離された。
ケンタウルス達は車両に向かって逃げ出す。
そこなら攻撃を受けないと考えたからだ。
だが半包囲していた陸上自衛隊の第4分遣隊の隊員達が前進しながら銃撃を開始する。
「ケンタウルスの指揮官以外の生死を問わない。
まあ、無理に捕まえる必要も無いがな。」
隊長の進藤一等陸尉の命令のもと、ケンタウルス達は一騎、また一騎と駆られていく。
そこに切り離された車両が線路で止まっているが乗客はとうにいない。
そのことは『よさこい3号』から連絡を受けている。
ケンタウルス達はそんなことは知らないので車両に集まっていく。
「いいカモだな、馬か?撃滅しろ。」
切り離された列車の中にいたケンタウルス達は先頭車両から飛び出し、遠ざかっていた列車に追い付いていく。
一匹が手摺を掴もうとしたところで、ヒルダのレイピアがドアの隙間からケンタウルスの手の甲を貫く。
「しつこいですわよ。」
反対側の手摺に掴もうとした一匹も浅井が鉈で手首ごと切り落とす。
残りの3頭は斉藤が転がしたてつはうの餌食となった。
ケンタウルス達が掃討され、再び汽車が停車する。
隊員達によって、乗客が外に出てきて治療や事情聴取を受けている。
「おやっさんしっかり!!」
「いやだよお、おやっさん、いかないでよう!!」
泣き叫ぶ機関助手達を尻目に、浅井と斉藤達はケンタウルスの荷物を漁る。
大半はケンタウルスの肉体ごとミンチに混じっていたが、車両近くのケンタウルス達は背後から銃弾を受けただけだ。
「あった!!」 ケンタウルスの腰ベルトに毒、毒消し、麻痺の薬が入った小瓶を手にいれた。
「これを機関士に」
斉藤の助言、毒を使うものは解毒薬も持ち歩いているはずという言葉に従い、賭けには勝ったようだ。
ケンタウルスの薬を人間に使ってよいかは迷ったが、このままではどうせ死ぬ。
投薬後、顔色や呼吸が正常に戻ったことから薬が効果は確かめられた。
大沢機関士はヘリで一足早く新京大学病院に運ばれることになる。
やはり人間には人間の為の医療の方が安心出来る。
精神的に
「浅井二等陸尉、よく持ちこたえたものだな?」
仮設テントの指揮所で、進藤一尉がその労を労う。
「二人も死なせてしまいました。
そして、乗務員や乗客の奮戦の賜物です。」
「二人とも公務員として、国民に殉じた。
御冥福を祈る。
国鉄と鉄道公安本部は激怒してたよ。
我々もだよ。
大陸総督府は自衛隊に報復を許可した。」 大陸南部シルベール伯爵領
迎賓館
「つまり日本側は武力討伐を決意したと見てよいのですな?」
「その通りだ。
トルイ族長とこれに味方する諸兄等をことごとく粉砕して、その権利を剥奪させて頂く。」
列車襲撃、第四分遣隊隊長暗殺、第五分遣隊基地襲撃の映像をプロジェクターから見せられたケンタウルス長老代表達は眉を潜めていた。
どの事件も発生から半日もたっていないのに大陸南部のこの地まで伝わっているのだ。
情報伝達の速さの有効性は彼等も認識している。
杉村外務局長はケンタウルス自治伯領に開戦か、降伏かの選択を迫ったのだ。
だが、彼等の返答は予想に反するものだった。
「心得た。
トルイの町の討伐の先陣、我等が確かに承った!!」
「何?」
ケンタウルス自治伯領に対する問題をトルイの町限定の問題にすり変えられたのだ。
途端に年若い長老が一人、会議室から退出していく。
「我々はケンタウルス自治伯領全体に対して言ってるのだかな。」
長老を睨みをつけるが長老達はどこ吹く風とばかりに気に求めていない。
「帝国ならば連座制による処罰も有り得ただろうが、王国は日本からの指導により連座制の処罰を廃止している。
だからトルイの部族以外が処罰を受けるのは対象外と我々は考えている。
まあ、それでは日本側もおさまらないのも理解している。
ゆえに自治伯軍並びに日本軍の連合軍によって、トルイの町を制圧、関係者を処分する。
日本側は遠征に対する財政、兵站に対する負担が減るのでは無いかな?
もちろん露払いを含む血も我等が流そう。」
痛いところを突いている。
大陸に派遣している陸上自衛隊部隊は各地に分散しているし、少しは生産が可能になったとはいえ、弾薬や燃料の補給も遅れぎみである。
反対に大陸から本国への食料・資源輸送任務から人手は割けない。
今回はトルイの町限定とするのは、日本の苦しい懐事情からも一理あるのだ。
杉村は全権を委任されてる者てして決断する。
「わかった。
今回はそれで手を打とう。
だが次もあると思うなよ?」
「肝に命じて起きましょう。」
長老達はまったく悪びれていない。
「いや、話がまとまってよかった。
何にしろ遠征までは、連絡や準備で時が掛かるでしょう?
今晩は親睦のパーティーでも如何ですかな?」
自称仲介役のシルベール伯に杉村は首を横に横にふる。
「せっかくですが、こちらの部隊が投入されるのは明後日です。
忙しくなりそうなので、今晩はご遠慮する。」
杉村としてはケンタウルス達に先陣を任せる気はなかった。
密かに関係者を逃亡させることまで疑っていたからだ。
だがケンタウルス長老達まで首を横に振っている。
「そうですぞ伯爵。
我らも先陣を承ったからにはのんびりもしておられるぬ。
こちらの先鋒は明日には攻撃を仕掛けますからな。」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています