「後藤氏は湯川氏の監視役だったとも考えられる」
「いいから早く食え。帰りたいんだ」
俺の催促を受けて、主神はスープまで全部飲み干して満足気に椅子から立ち上がった。
酔いのせいなのか飲み干したスープのせいなのか、彼の顔はほんのりと赤みを帯びていた。
時刻はもうすぐ日付が変わる寸前だった。冷たい筈の夜風が、ラーメンで温まった身体には清々しく感じる。
「ジャーナリストとスパイの共通点は、情報を拾い集めるところだ。そして相違点は、スパイはテロリストにもなれるって事だな」
主神は、まだ自論を続けるつもりらしい。
「もう、その話しはいいから」
「まぁ、いいじゃないか。今日ぐらい」
そう言うと主神は笑った。この男の笑い方は目を見開いたまま口角を上げる。夜に見ると少し怖く思える。その自らの笑い方を、過去に彼がアルカイックスマイルだと言っていたのを思い出した。
「安倍さんにしてみりゃピンチの様にも思えるが、実はチャンスだよ。今回の騒動は」
「チャンス?」
「今、沖縄で何が騒動になっていると思う?」
「沖縄?」
「基地だよ、基地。世間の目がイスラム国問題に向けられている隙に、工事を強行しているらしい」
「あぁ。かなり揉めてるみたいだな」
「そして今回の日本人拘束事件で、日本政府は様々なデータを得た。自衛隊が中東に乗り込んだらどうなるか。それに対して国民はどう反応するか」
「それは妄想にしても陳腐だ。そう簡単に自衛隊を動かせるかよ」
「相手が国ならな」
「イスラム国は国だろ」
「国としての機能を構築しつつあるが、本人達が自称しているだけで、世界は国として認めていない」