『白髪はそこで待て』

 彼らはみな白髪だった。そして私も白髪だった。中には死
んでいる人もいたし、まだ青年のような人もいた。毛量に富
む人もいたし、頭に島ができている人もいた。太っちょもガリ
ガリも、皆そろって判っているのは白髪であるということだけ
だった。

 或る女が言った。私一本しかないのよ、白髪、と。それに
共鳴するかのようなざわめきが私のところまで伝わってきた
が、私にその言葉に乗りたいという気持ちはなかった。私の
髪はもう、半分以上が白髪で所謂おじいさん、であったから
だ。見渡す限りに詰まっている人々は、少なくとも千人はい
そうだ。それにしてもここはどこだろう。

 私は孫と一緒に大きなスーパーに来ていたはずだった。孫
はもう二十を超えていて、名前で呼ばれるのを嫌っていた。
だから優しく、おい?とか、なぁ?とか呼ばなければならない。
だから私は孫に従っていて、心の中でも孫、と呼んでいる。ま
るで名前を思うのが気持ち悪いことであるかのように。

 犬のくわえていたボールは消えてしまったがいずれ見つか
るだろう。それを見つけるのが私とは限らないが。

 それにしてもこの群衆は何を待っているのだろう。私は知ら
ぬし周りも知らなそうだ。明かりもなければ影もない。服はな
ぜか潔い緑色に変わっていた。
 
 「自然に溶け込めよ!鳴かずして飛べ!暗い心に灯すべし!」

 誰かがそう叫ぶのを私は聞いた。崖が見える。次々に飛び
込む飛び込む飛び込む。自分の番だ。同じように飛ぶ。

 えいやっと!

 飛び込んだ人たちはあの言葉を発した者を知らない。

 その声の主も飛び込んだ人を知らない。

批評(酷評も)たくさんお願いします。
前(ミケの話)より読みやすいレイアウトにしたつもりです。段落ごとに一行開けました。