見てくれる人、いるのかな。


『三才だったころのミケヘ』

 今このとき、妙に心臓の上が痛むのは私だけであろうか。
痛むところを右手で抑えると、ほんのりと温かさを感じ、痛みはどこか遠い所へと消えていった気がした。
明日の朝には髭をそらなければならない。
それはきっと痛みを感じないが、痛むかもしれないと考えることで私は不安になるだろう。
もしかすると髭をそらないかもしれない。
そしてそれは痛むことが理由では決してないだろう。
首を曲げると音が鳴ったがその音は私にしか聞こえていないはずだ。
たとえここに盗聴器があったとしても、あの小さな音を拾えるはずがない。
私のものではない小さく、まっすぐな毛が机の端に落ちている。
前に飼っていた、そして死んでしまった、犬のミケの毛だろう。
それを私は手に持ち、机と棚の隙間に向かってそっと手を離した。
薄暗いこの部屋の片隅へとその毛はこっそりと確実に溶け込み、見えなくなった。
私の左側にある机と棚の間の隙間には、これまで非常に多くのものを離してきたが、そこを見ても少しもごみはたまっていないような気がした。
まるで私のいらないものを欲している私の知らない生き物が私に気付かれないようにしながら私の放したものを持っていき、
私の知らないその誰かは私の家のどこかにそれを置いて私の知る範囲の外で楽しんでいるのかもしれない。
その証拠にさっき放した毛は、椅子から降りて探しても見当たらなかった。
 ハワイのゴキブリやハエは大きいそうだ。
ネットで見た。
日本のものの三倍はあるだろう。
私はそのことを知ったが何か感情が介入するということはなかった。
きっともう袋は破裂する手前だったのだ。
何を考えていたのかも忘れて陽気に暮らすハワイアンになった夢を見た。
有名な芸能人に話しかけられたところで目が覚めたのだ。
夢の中では現実を見ていて、現実だと思っているこの時は夢を見ているのだろう。
目が回るほどぐちゃぐちゃな世界のあるいつ部分にいる少年も、きっと同じように心臓の上が痛んでおさえるだろう。
私と同じような温かさを感じながら、ミケランジェロの何かの彫刻を隙間に落とすのかもしれない。

たくさん批評(特に酷評)、して下さると、嬉しいです。
段落が長すぎたようで一文で一行になっています。
本来は一文字あけてあるところで段落を変えたかった。
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