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【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
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0001ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/09(水) 20:58:41.75ID:9/lXBGIZ
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
ttps://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1516638784/l50
0003スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:32:17.91ID:Gz6+LW/p
崩落した壁へと叩きつけられたスレイブは、風魔法によるクッションでどうにか直撃を回避する。
致命傷は避けられたが、左肩が衝撃で脱臼してしまった。
ほうほうの体で壁の穴からまろび出た時には、ジャンが黒蝶騎士に容赦なく蹴りを入れられ続けている最中だった。

「ジャン!」

>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

ティターニアが石の壁を創り出し、黒蝶騎士とジャンとの間を阻む。
激痛を発する左腕を抑えながらも跳躍術式で前線へ飛び戻り、ジャンの襟首を掴んで後ろへと下がった。

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

石壁によって閉じられる視界の先で、黒蝶騎士が再び弓を引き絞るのが見える。
軋みを上げて引き絞られる弦の様子を見ただけでわかった。
あの矢は石の壁など濡れ紙の如く引き裂いて、容易くこちらへと届くだろう。
矢羽から手の離れたその時が、ティターニアとジャン、シャルム、そしてスレイブ、その誰かが命を落とす瞬間となる――

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

果たして、致命の想定は現実とならなかった。
石壁を突き破って踊り込んできた矢がこちらの鼻先に届かんとした瞬間、横合いからメイスが弧を描く。
質量と質量、慣性と慣性のぶつかり合いは火花どころか爆風じみた風を生み、周辺の草が耐えられずに散っていった。
弾かれた矢がどこかへと飛んでいき、再び石の砕ける音が轟く。

そう、この場に居る黒騎士は一人だけではなかった。
――黒鳥騎士アルダガ・バフナグリー。人類最強の弓使いに並び立つ、帝国最強戦力が一人だ。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」

如何なる手段を用いてか黒の蝶を無効化し、殲滅さえもし果せたアルダガは、スレイブ達を守るように前へ出る。
地面に突き立った十字架から放たれる癒やしの波動によって、脱臼した左肩がみるみる動くようになった。

そこから先は、スレイブが介入することさえままならない戦技の応酬だった。
黒蝶騎士は巧妙に軌道を逸らした矢を放ち、アルダガは巨大なメイスを手足のように操って叩き落とす。
アルダガが神術で攻撃すれば、黒蝶騎士はそれを身体の捻りだけで躱し、黒の蝶の群れで撃墜する。
反撃とばかりに撃ち込まれた黒の矢を、アルダガは――

「素手で掴み取った……だと……!?」

幾重にも張られた風の防壁をものともしなかった致死の弓を、あろうことか素手で掴んだアルダガ。
小枝を折るかのように真っ二つにされて放られた矢は、自由落下の勢いだけでも地面に大穴を穿った。

そうして両者は激突。
スレイブの二の轍を踏むかに思われたアルダガは弱化神術を応用して跳ね返しをこらえきり、
二人は強烈な蹴撃を交わし合って距離を開ける。

これが黒騎士。これが帝国最高峰の戦闘者達。
シャルムの銃弾に端を発した一分にも満たない攻防は、黒騎士同士の拮抗をもって終わりを告げた。

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

>「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

油断なくメイスを構えたアルダガの問に、黒蝶騎士は露骨に肩を落とした。
番えられた新たな矢は放たれることなく、彼女の背負った矢筒へと収まる。
それが小競り合いを終える合図だとでも言うように、張り詰めていた空気が弛緩していくのがわかった。

「なるほどな……シアンス。あんたが指環に固執しない理由がわかった。まざまざと見せつけられたよ……」
0004スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:32:48.40ID:Gz6+LW/p
スレイブは早鐘を打つ心臓をどうにかこうにか抑えつけて、滝のように流れる冷や汗を拭う。
風の指環を得て、古今無双の力でも手にしたような全能感をおぼえていたところに、冷水を浴びせられた気分だ。

目が覚めた。指環の力などなくても、人類はここまでやれる。
黒蝶騎士は、6つの指環を相手取って一歩も引かなかった。その強さに、古代人の遺産は無関係だ。
同時に恐ろしくもある。ただでさえ人類最高峰の戦力が揃った黒騎士に、指環の力まで加わったら。
もはや帝国を止められる国は、大陸には存在しないだろう。

>「……私の元々のプランはね、あなた達がパンドラさん?をやっつけたところを、
 後ろから狙撃して指環もらってお家に帰ろー、いえーい……って感じだったんだけど」

黒蝶騎士が訥々と語る。
陸軍少将から指令を受けた彼女は、指環の勇者たちが女王パンドラから全竜の指環を奪取したところを闇討ちし、
指環の総取りを狙うべくセント・エーテリアに潜伏していた。

しかし、星都には先客がいた。僅かに残った痕跡から侵入者にあたりをつけた彼女はこれを狙撃。
確実に当たった手応えを得たにも関わらず、『先客』は生きていた。
不死者の術核さえ消し飛ばす一撃を受けてなお健在のその先客の接近を恐れた黒蝶騎士はこの場所へ立て籠もり、
そして状況を知るべく指環の勇者達へと救援信号を送って……今に至る。

「黒蝶騎士すら知らない不死身の第三勢力か……ぞっとしないな。帝国上層部の単なる内ゲバの方がよほどマシだった」

この状況で最も芳しくないのは、スレイブ達指環の勇者が完全に後手に回っているという点だ。
そもそも黒蝶騎士がこうして星都に侵入している事実さえ、事前に知らされてなどいなかった。
そして、情報戦において一歩リードしているはずの陸軍省すら、『不死身の先客』に見当が付いていない。
第三者のバックにいるのが何者であれ、皇帝とも陸軍省ともまったく異なる勢力がこの件に一枚噛んでいるのだ。

「一枚岩じゃないにもほどがあるだろう、帝国……この歪み切ったパワーバランスでよく云百年存続できたな」

あるいは、砂の上に城を築くが如く不安定に積み上げられた帝国を、必死に支え続けてきたのがジュリアンやシャルムなのだろう。
だがジュリアンは亡命し、祖龍復活の動乱は国家の基礎を大きく揺らがせている。
時間の問題だった崩壊が、単純に早まっただけの結果なのかもしれない。

>「……今回の任務。なるはやで終わらせた方がいいよ、ナグリーちゃん。
 あまり時間を掛けると……クーデターが起きちゃうかも。あるいはそれ以上の事が。
 せっかちな人達はもうこの戦いが終わった後の準備を始めてる」

黒蝶騎士が極めて一方的にそう告げると、彼女の周囲に黒の蝶が飛び交い始める。
すわ再戦か――スレイブは身構えるが、アルダガやシャルムに警戒する様子はない。

>「……あっ、それともう一つ」
>「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」

「指環だと……!?」

最後の最後に意味深な一言を残して、黒蝶騎士は蝶の群れに包まれた。
黒の帳が晴れた頃には、そこにはもうなにも残されていない。
黒蝶騎士がその場から消え、今度こそスレイブは臨戦の緊張を熱い吐息と共に解いた。

>「へ?……いやいや!わたくし、そんなの身に覚えがありませんの!」

炎の指環を使った第三者。
思わず誰もがフィリアを見て、彼女はぶんぶんと首を振って否定する。

>「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

「『分霊』の線はどうだ?例えばソルタレクで力を取り戻すまで、俺の風の指環は本体とは言えなかった。
 同じように、イグニスの力の一部を切り取ってそれっぽく指環の体裁を整えることは出来るんじゃないか」
0005スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:33:28.13ID:Gz6+LW/p
『んーたぶん無理じゃな。風の指環は特例っちゅうか、ありゃ風の持つ"偏在"という特性を利用したもんじゃ。
 風はどこにでも吹いていて、しかしどこかに寄り固まって存在しとるもんでもない。
 目に見える存在として捉えられる炎と、目に見えない風じゃ、帯びる魔力の性質が全然別モンじゃからな』

「光と闇の指環が依代の数だけ存在するのと、理屈の上では同じことか……」

『そじゃなー。ま、仮にできたとしてもばかちんイグニスの小娘如きの力を分けたところでミソッカスじゃけどな!
 ただでさえしょぼい炎の指環を更に切り分けたところで儂らの敵にもならんわ。
 ……お!?やるんかイグニス!やるんかー!?よーし傀儡、このクソたわけを捻り潰せ!』

炎の指環から出てきたイグニスの幻体とウェントゥスが殴り合いを始めたのをスレイブはガン無視した。
助けを求める悲鳴が聞こえたような気がしたが、膝の下で裾を引っ張る手がある気もするが、おそらく幻覚だろう。
まだおとといの酒が残ってるのかもしれない。

>「まだ見ぬ第三者。その男が、どこからこの星都にやってきたか……。
 可能性としては……完全な秘匿性を保った上で転送魔法陣を使ってきたか。またはこの世界の原住民なのか。或いは……」
>「私達が使ってきた魔法陣以外にも、実は入り口が存在するのかも」

シャルムが仮定を呟きながら、空へ向けて銃を発砲する。
鉄の礫が風を切って宙を貫き、そして地平線の向こうへと消えていった。
少なくとも、銃弾の届く範囲に天井や壁はない。地下というにはあまりにもここは広すぎる。

>「ティターニアさんが言っていた通り、ここは本当は地下じゃないのかもしれない。
 星都は帝都の地下にあるという情報自体が、間違っているのだとしたら」

「……位相の異なる空間、か。悪いが専門的な話はお手上げだ、位相というのがそもそも何のことを指すのか分からない」

セント・エーテリアは帝都の地下に存在する。その情報を、スレイブはとくに疑うことなく鵜呑みにしていた。
しかし、単に地底に拓けた空間というには、ここはあまりにも広大過ぎる。
地上では見たこともない植生をしていることから、空間的に他とは隔絶されていることだけは確かだ。

「位相というのは……そうだな、一冊の本の、右と左のページのようなものだ」

シャルムの仮説を聞いていたジュリアンが、頭を悩ませるスレイブに助け舟を出した。

「そして俺達人間や他の生き物は、いわばページの上に乗ったインクに過ぎない。
 インクの視点からは、その本に隣のページがあることも、無数のページが集まって本になっていることも、認識できないだろう」

「つまりこのセント・エーテリアは、俺達の住む地上とは別のページに描かれたものだと?
 しかし、俺達が現にこうして星都の地に立っています」

「では、インクが別のページに写る……裏写りするには、どうすればいい?」

スレイブには、ジュリアンが何を言わんとしているのかまるで見当がつかなかった。
ただ、食客魔導師の付き人として記録も担当していた彼には、インクの裏写りに悩まされた経験がある。

「……本を閉じれば、インクは隣のページに付着します」

「そうだ。それが位相を超えるということであり、俺達が用いる転移魔法も同じ原理でページ内を行き来している。
 理解が追いつかないか?今はそれで良い。複雑で迂遠なことを考えるのは俺やそこのエルフ、それから……シアンスの仕事だ」

未だ頭の中で理屈を捏ね回しているらしきシャルムの姿を、ジュリアンは眩しそうに見つめていた。
彼と彼女の間には、5年の歳月を隔ててなお、魔術師同士に通じる共通の言語がある。
スレイブにはそれがどうしようもなくもどかしく、悔しかった。

>「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
0007スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:34:51.87ID:Gz6+LW/p
結局のところ、いまのスレイブ達には徹底的に情報が足りない。
足りない分は足で補うしかないとばかりに、シャルムは前進を提案する。
スレイブも同意見だった。このまま足踏みして後手にまわり続けるよりは、出たとこ勝負でも先手をとれたほうが良い。

「どの道俺達には、パンドラと対峙する以外の選択肢はないんだ。黒蝶騎士様からありがたい忠告もいただいたことだしな」

再びアルダガに道を拓いてもらいながら、一行は密林を分け入って行く。
やがて、視界を埋めるものが樹木から石造りの建築物へと変わった。
アンバーライトとは違い無数の建築物が密集したそこには、風化した帝国旗が突き立てられていた。

――キャンプ・グローイングコール。
全竜の神殿にほど近い位置にある、おそらく最後の中継地だ。

>「……とりあえず、掃除をしましょう。簡単に出来る方のね。
 終わり次第ティターニアさんはリフレクションと、指環の準備を。
 それと……ディクショナルさんも、指環の準備をしておいた方がいいですね」

「待て、何をする気だ――」

スレイブの返答を待たず、シャルムは密林目掛けて魔導拳銃の引き金を引いた。
放たれた弾丸は風を巻いて鬱蒼としたジャングルを貫き、その軌道を埋めるように炎が溢れ出す。
密林はあっという間に炎上し、日の落ちかけていた空を朱色に染め上げた。

>「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

(こ、この女……密林に火を放っただと……!?貴重な古代の遺産じゃないのか!?)

セント・エーテリアは帝国の繁栄を長らく支えてきた屋台骨だ。
密林に覆われてはいるが、丁寧に掘り起こせばまだまだ有用な遺産は手に入ったことだろう。
他ならぬ帝国の研究者であるシャルムにとって、札束を燃やすに等しい所業のはずだ。

「危機が差し迫っているとは言え、大逸れたことをするなあんたは……皇帝陛下の胃袋が心配になってきた」

燃え上がった炎は次々と別の木へと引火し、森を住処にしていた鳥や獣たちが鳴き声を上げながら逃げていく。
石畳を舐める熱風はスレイブたちのもとまで届き、スレイブはそれを指環の風で防いだ。
そうしてしばし、延焼していく森を呆然と見ていたスレイブは、炎の向こうに一つの声を聞いた。

>「……指環の力よ」

声を合図とするように、森を燃やす炎が渦を巻いて一点へと収束していく。
あらかたの炎が吸い込まれて消えると、その先には一人分の人影があった。

人影は、男だった。
襤褸切れ同然の服を来て、まるで整えられず伸びっぱなしの髪に、痩けた頬と、無精髭。
ここが星都の真っ只中でなければ、帝都の下層をうろつく浮浪者にしか見えないその姿。
男の人相を認めたシャルムは、拍子抜けしたような声を漏らす。

>「……アルバート?」

だが、もっと深刻な声は、スレイブの隣から上がった。
ジュリアンが信じられないといった表情でその眼を擦り、唖然として問いを放つ。

>「お前、なのか?」
>「……ああ。見ての通りだ」

そうして一歩踏み出した男の背にある大剣に、スレイブは見覚えがあった。
面識はない。しかし、ジュリアンの呼んだ名と、男の担う大剣を、スレイブは情報として知っている。
0009スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:36:40.20ID:Gz6+LW/p
大剣は、炎の魔剣レーヴァテイン。
それを振るう男の名は――アルバート・ローレンス。
帝国最高戦力、黒騎士が一角……『黒竜騎士』の異名を持つ魔剣士だ。

「指環……!」

アルバートの左手には、大型の指環が嵌っている。
これまで見たどの指環にも該当しない形状と大きさだが、そこから迸る魔力は紛れもなく竜の指環のものだ。

>「何故、あなたがここにいて、炎の指環を手にしているのですか」

硬直するジュリアンを差し置いて、シャルムが拳銃をアルバートへ突きつける。
答えようとしないアルバートに業を煮やしたのか、もう片方の拳銃はジュリアンの方へと向けられた。

「おい――!」

思わず咎めようとしたスレイブだったが、それより先にアルバートが口を開いた。
彼はティターニアとジャンに何かを語りかける。

シェバトからの旅の道中で、彼女たちから聞いたことがあった。
かつて、ダーマへと渡る前――黒竜騎士アルバートと共に旅をしていた時期があったこと。
帝国の港町カルディアで水の指環を入手した際のいざこざで、彼とは離れ離れになってしまったこと。
そして帝都の晩餐会で聖女が口にした、アルバートの消息不明――

「行方不明になっていた黒竜騎士が、何故セント・エーテリアに……?」

>「俺は、元々この世界の人間だった」

この世界――エーテリアル世界。
アルバートの口から語られたのは、単なる妄想と切って捨ててしまえばそれまでの荒唐無稽な内容だった。
だが、現に彼の手には指環があり、帝国最重要機密の星都に単独乗り込み今ここに立っている。
それだけは真実であり……それだけが全てだった。

「……俺達の住む世界が、古代のエーテリアル世界を喰らった虚無の竜の腹の中だと?
 世界の外に、もう一つ世界があるなど……信じられるか。馬鹿馬鹿しい、エーテル教団の妄言とまるきり同じじゃないか」

かつてメアリ率いるエーテル教団は、今ある世界を全て虚無に呑み込んでそこに新たな世界を創造しようとしていた。
アルバートの言うこの世界の成り立ちは、エーテル教団の謳った冥界論と鏡写しのように似ている。
アルバートの言動が全て妄想で、エーテル教団に触発されたと言われたほうがまだ信憑性がある。

だが……そもそも順番が前後しているのだとすれば。
エーテル教団の掲げる教義が、かつてこの世界に起こった史実をなぞることに端を発しているのなら。
かつての出来事を知る光竜エルピスがメアリに入れ知恵して、新たな世界の創造に動いていたとしてもおかしくはない。

帝国は、セント・エーテリアを帝都の地下に存在する空間だと位置づけていた。
しかし実際は……あの転移紋は、世界の『外』へと通じる扉だったのだ。

>「どうだ。思い出したか、イグニス……アクア、テッラ、ウェントゥスも」

『ぜんっぜんわからん……エルピスのぼけなすがその辺の記憶全部消しておったんか……?』

ウェントゥスは頭を抱えている。本気で混乱しているようだった。
仮にアルバートの言葉が全て正しいとして、全ての属性は一度虚無の竜に喰われて腹の中で再構成されている。
古代に存在していた指環の竜たちと、喰われてからの指環の竜とでは、そもそも同じ存在かどうかも怪しい。
数千年前から連綿と受け継がれてきた、七星竜と勇者達の旅路も、全てを茶番に帰しかねない事実だった。

>「このセント・エーテリアが今も形を保てているのは、ここが全竜の膝下だからだ。
  辛うじて虚無の竜に喰われずに済んだ、最後の土地。だが……」
0010スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:37:14.02ID:Gz6+LW/p
アルバートが掲げた指環に、四方から魔力が吸い込まれていく。
魔力というか、生命というか、もっと根源的な『何か』を喪失して、彼の周囲は白く崩れ去っていく。

>「これが、この世界の本当の姿だ。完全な喪失……それだけが唯一この世界に訪れる変化。
  滅びゆく事にしか執着出来ない、愚かな連中の墓場に相応しいと思わないか」

――虚無の竜の外にある、セント・エーテリアのさらに『外』。
世界の外の果ては、既にアルバートの周囲のように色を奪われて砂と化しているのだと言う。

>「俺は、この世界の指環の勇者だ」
>「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

旧世界の指環の勇者、アルバート・ローレンス。
その目的は、虚無の竜が喰らった属性を奪い返し、旧世界をもう一度復活させること。
彼は背に担う大剣レーヴァテインを抜き放ち、応じるようにシャルムが発砲した。

――ジュリアンへと向かって。

「何を――!」

スレイブは剣を抜くが、シャルムへの攻撃は他ならぬジュリアンによって制された。
彼は油断なくシャルムの銃弾を躱し、しかしアルバートから視線を外さない。

>「お二人は親友なんでしたよね。今、裏切られたら洒落にならない。
 ……あり得ない話じゃないでしょう。その人は、前科があるんですから」

「分かっている。あれが俺の知るアルバートなのだとしても……真に守るべきが何かを、違えるつもりはない」

ジュリアンが杖を掲げる。
スレイブはもう何も言わず、シャルムへ向けていた剣をアルバートへと構え直した。
シャルムの発砲はもうひとつ。アルバートの足元へと着弾した炸裂弾が、彼の周囲に爆発を起こす。
緻密に配置された爆発は、全方位からアルバートを押しつぶす爆圧と化して襲いかかった。

「やったか――?」

轟炎と共に舞い上がった土埃。
それが晴れると共に、その向こうからアルバートが姿を現す。
身にまとう襤褸切れは飛び散る砂礫に引き裂かれ、五体に刻まれた裂傷からは赤い地が滴る。
しかし、彼はその場から一切退くことなく全ての爆圧を耐えきって見せた。
彼を健在足らしめるのは指環の防御や魔剣の力などではなく――

>「純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な」

「不死者より不死身……とは良く言ったものだな……!」

アルバートが左手を掲げ、その指に帯びた指環が輝く。
何らかの攻撃魔法が来る――身構えたスレイブだったが、発動した魔法の規模は想像を遥かに超えていた。
指環から放たれた二つの魔力が螺旋を描きながら天へと登っていき、炎を纏った無数の礫が空を埋め尽くす。

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

「炎と大地の属性を――融合させただと――!?」

天を覆わんばかりの流星が、呪文と共に一斉に地へと降り注ぐ。
シャルムが展開した三重のプロテクションが、大気を揺らがす鳴動と共に次々と叩き割られる。
雨あられと地を打つ礫が砂塵を巻き上げ、視界は一瞬にしてゼロになった。

(炎の礫は目眩まし――本命は接近しての斬撃か!)
0011スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:38:01.01ID:Gz6+LW/p
アルバートが掲げた指環に、四方から魔力が吸い込まれていく。
魔力というか、生命というか、もっと根源的な『何か』を喪失して、彼の周囲は白く崩れ去っていく。

>「これが、この世界の本当の姿だ。完全な喪失……それだけが唯一この世界に訪れる変化。
  滅びゆく事にしか執着出来ない、愚かな連中の墓場に相応しいと思わないか」

――虚無の竜の外にある、セント・エーテリアのさらに『外』。
世界の外の果ては、既にアルバートの周囲のように色を奪われて砂と化しているのだと言う。

>「俺は、この世界の指環の勇者だ」
>「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

旧世界の指環の勇者、アルバート・ローレンス。
その目的は、虚無の竜が喰らった属性を奪い返し、旧世界をもう一度復活させること。
彼は背に担う大剣レーヴァテインを抜き放ち、応じるようにシャルムが発砲した。

――ジュリアンへと向かって。

「何を――!」

スレイブは剣を抜くが、シャルムへの攻撃は他ならぬジュリアンによって制された。
彼は油断なくシャルムの銃弾を躱し、しかしアルバートから視線を外さない。

>「お二人は親友なんでしたよね。今、裏切られたら洒落にならない。
 ……あり得ない話じゃないでしょう。その人は、前科があるんですから」

「分かっている。あれが俺の知るアルバートなのだとしても……真に守るべきが何かを、違えるつもりはない」

ジュリアンが杖を掲げる。
スレイブはもう何も言わず、シャルムへ向けていた剣をアルバートへと構え直した。
シャルムの発砲はもうひとつ。アルバートの足元へと着弾した炸裂弾が、彼の周囲に爆発を起こす。
緻密に配置された爆発は、全方位からアルバートを押しつぶす爆圧と化して襲いかかった。

「やったか――?」

轟炎と共に舞い上がった土埃。
それが晴れると共に、その向こうからアルバートが姿を現す。
身にまとう襤褸切れは飛び散る砂礫に引き裂かれ、五体に刻まれた裂傷からは赤い地が滴る。
しかし、彼はその場から一切退くことなく全ての爆圧を耐えきって見せた。
彼を健在足らしめるのは指環の防御や魔剣の力などではなく――

>「純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な」

「不死者より不死身……とは良く言ったものだな……!」

アルバートが左手を掲げ、その指に帯びた指環が輝く。
何らかの攻撃魔法が来る――身構えたスレイブだったが、発動した魔法の規模は想像を遥かに超えていた。
指環から放たれた二つの魔力が螺旋を描きながら天へと登っていき、炎を纏った無数の礫が空を埋め尽くす。

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

「炎と大地の属性を――融合させただと――!?」

天を覆わんばかりの流星が、呪文と共に一斉に地へと降り注ぐ。
シャルムが展開した三重のプロテクションが、大気を揺らがす鳴動と共に次々と叩き割られる。
雨あられと地を打つ礫が砂塵を巻き上げ、視界は一瞬にしてゼロになった。

(炎の礫は目眩まし――本命は接近しての斬撃か!)
0012スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:38:33.90ID:Gz6+LW/p
一介の戦闘者であれば、降り注ぐ流星を為す術なく直撃して挽肉になっていただろう。
しかしこちらにはティターニアとシャルム、そしてジュリアンと、防御に長けた魔術師が三人いる。
ならば、狙ってくるのは視界を塞ぎ、連携を途絶させてからの各個撃破。
同じ剣士としての直感が、スレイブにアルバートの次の行動を予測させる。

「『エリアルロケート』――!」

風の指環に光が灯り、スレイブを中心として風の探知網が展開する。
風の流れを読み取り、視界外の動きを感知する探査の魔法だ。
アルバートの体格、体重、そして振るわれる大剣の形状が頭に流れ込み、スレイブは振り向きざまに剣を薙いだ。
音もなく接近していたアルバートの剣とスレイブの剣とがぶつかり合い、刃鳴と火花とが同時に散った。

「剣の競り合いで……負けてたまるか……!」

初撃を阻まれたアルバートは鼻を鳴らし、再び土煙の向こうへ姿を消す。
スレイブが指環を嵌めた拳を地面に叩きつけると、突風が巻き起こって土煙を吹き飛ばした。
煙の晴れた先にアルバートの姿がない。背後に回られたと理解するより速く、反射的に振るった剣が魔剣を弾いた。

「その魔剣は振って斬るだけか……?レーヴァテインは炎の魔剣だったな、火炎の一つも出してみろ」

強気に煽るスレイブだったが、内心では冷や汗が止まらなかった。
アルバートの剣にはまるで殺気がない。風の探知網がなければ振るわれたことにさえ気付けなかった。
まるで幽鬼――亡霊の剣だ。巨大な刀身が風を斬る音さえも聞こえず、ただ斬撃だけが降ってくる。
どうにかして隙を見出さんと挑発するも、アルバートは苛立った様子もなく剣を構える。

「忌々しいな。貴様のその剣も、俺達が奪われた世界で育まれたものだ。
 俺達にはもう何も残っちゃいない。剣に懸けた熱も、音も、命も、全てだ」

「それを返せと?承服できないな、俺の剣は俺が鍛え、研ぎ澄ませてきた技術だ。あんたのものじゃない」

「貴様の意志など関係ない――全てのものが、在るべきところへ帰る。それだけだ」

瞬間、スレイブは己の身に起きた異常を理解できなかった。
剣が重い。生まれてからペンを持つより早く握り、十年以上振るってきた剣が。
まるで初めてその柄に手をかけたかのように、手から力が抜けていく。

「な――ッ!?何が起こった……!」

「言っただろう、全てのものは在るべきところへ帰る。貴様の剣も、もとは俺達の世界にあったものだ」

アルバートが大剣を掲げ、頭上から唐竹割りにスレイブへと叩き込む。
スレイブは思わず剣を捨ててその場から飛び退き、どうにか回避に成功した。
だが彼は剣を躱す際に目撃してしまった。アルバートの剣閃は、スレイブの剣とまるで同じだったことを。

「一つ……取り返したな。だが到底足りない。全てを返せ」

「剣術を……奪われただと……?」

全ての属性を奪うアルバートの『虚無の指環』。
属性とは、世界を構築する何もかもを指す概念だ。
大地も、空も、風も、人間も、その技術さえも、7星竜の司る何らかの属性に該当する。

ダーマの軍式剣術は、王国黎明より以前、世界の始まりの時より受け継がれてきた魔族の剣だ。
アルバートの言う『奪われし物』のなかに、剣術も含まれるのだとしたら。

(歴史のあるものほど奪われる、ということか……!?)

スレイブは間断なく短剣を抜き、逆手に構えてアルバートと対峙する。
短剣術はダーマで学んだものではなく、バアルフォラスが折られてから新たに独学で習得したものだ。
加えて、エーテリアル世界と関係ない魔神の能力までは奪われまい。
0013スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:39:05.28ID:Gz6+LW/p
「奪うのはあんたの専売特許じゃない――喰い散らかせ、『バアルフォラス』!」

魔剣の刀身に魔力が灯り、不可視のあぎとがアルバートへと食らいつく。
知性を食らい尽くす魔神バアルフォラスの牙――アルバートは無抵抗にそれを受けた。

「くだらん曲芸だな」

魔剣のあぎとは確実に、アルバートを捉えていた。
しかし、知性を貪られたはずのアルバートの双眸に、戦意の火が消えることはない。

「馬鹿な……バアルの一撃を受けて何故戦意を保てる……!?」

「精神を食らう魔剣か。……そんなもので食らいつくせる怒りならば、俺はこうも苛まれはしなかった」

アルバートは大剣を構え、目にも留まらぬ速さで突きを繰り出す。
辛うじて剣閃を盾で捉えたスレイブは、大きく仰け反って苦鳴を漏らした。
――『瞬閃』。スレイブの得意とする剣士のスキルだ。

『純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な』

シャルムの言葉が脳裏に何度も響く。
数千年、下手すれば数万年の時を越えたアルバートの精神は、純粋に――あまりにも、強大。
魔剣がいかに知性を削り取ろうとも、そもそもの絶対量が大きすぎて、全体から見れば齧られた量はごく僅かなのだ。

「魔剣の力を見たいなどと抜かしていたな。望み通りにしてやる――焦がせ、『レーヴァテイン』」

アルバートの魔剣から無数の燐光が火の粉の如く放たれ、彼の周囲に散る。
その火の粉の一粒がスレイブの腕鎧に付着し――燃え上がった。

「く――!?」

咄嗟に腕鎧の固定を外して放ると、積層ミスリルの鎧が一瞬にして溶け、その下の地面さえも溶岩のように赤熱する。
火の粉の一粒一粒に、想像を絶するような高密度の火炎魔法が込められていた。
0015スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:40:18.32ID:Gz6+LW/p
「俺が唯一、貴様らの世界から取り戻した煉獄の炎。属性の……これもわずかな一端だ」

(魔剣レーヴァティン……話には聞いていたがこれほどとは……!)

黒竜騎士アルバートの持つ魔剣の威力は、ジュリアンを介すまでもなくダーマにまで轟いていた。
鋼鉄をバターのように寸断する、巨岩を丸ごと溶岩に変える、地脈からマグマを呼び起こす……
それら荒唐無稽な武勇伝が、何一つ誇張ではなかったと、今この場で理解できた。

加えて、魔法どころか地にあまねく全ての属性を簒奪する虚無の指環。
単純に刃を重ねるだけでは、アルバートにさらなる力を与えるだけに終わるだろう。

(だが……奴とて問答無用に全てを奪えるわけではないはずだ。
 それができるなら、何も星都の奥底で俺達を待ち構えている必要などない。
 もう一度虚無の竜の腹の中に入って、俺達の世界の全てを奪いに来ればいい)

一度に奪える量に制限があるのか、それとも奪える属性自体を選ぶのか。
いずれにせよ、活路を見出すにはできることを一から試していくしかない。

『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』

遠話で仲間たちにそう伝えたスレイブは、風の指環に全力を注ぐ。
両の掌をあわせ、巨大な魔法陣を宙に描き上げた。

「『エアリアルスラッシュ』!!」

シェバトで風の塔を根本から断ち切らんとはなった風の刃。
それと同規模の巨大な真空刃がうなりを上げて地を奔り、アルバート目掛けて飛翔する。

「――『シグマ』」

同時、アルバートの四方、八方、三十六方の全範囲に同様の魔法陣が展開する。
風の指環の『偏在』の特性を利用し、空間に広く散らした魔力が凝結して術式を形成した。
あらゆる角度から全てを断ち切る風の刃が、アルバートへと殺到する――!
0016スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/05/14(月) 04:40:33.09ID:Gz6+LW/p
【アルバートに剣術を奪われる。全方位から無数の真空刃が襲い来る攻撃魔法『エアリアルスラッシュ・シグマ』を発動】
0017ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/05/15(火) 18:13:13.79ID:ZwPhwXDf
>「――ストーンウォール! ジャン殿、今のうちに距離を取れ!」

「すまねえ……」

地面から隆起した無数の石壁に紛れるようにして、黒蝶騎士から距離を取る。
女王戦に備えて魔力の消費を抑えていたが、黒騎士の実力を見誤っていたことをジャンは痛感していた。
自らも負傷しているはずのスレイブに掴まり、なんとかティターニアたちの下へ戻る。

>「なるべく痛くないようにするけど、どうしても辛かったら介錯は他の人に頼んでね」

だがその瞬間、一撃必殺を体現した矢が放たれる。
指環の力ですら防ぎきれないその一射は、もう一人の黒騎士によって防がれた。

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

お互いに当たれば致命傷となりうる一撃をぶつけあい、その戦闘速度は徐々に高まっていく。
長い旅路の中で経験を積んできたジャンでさえ見切れぬほどの一騎打ちは、アルダガの問いによって決着した。

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」

>「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

「お、終わったみてえだな……アルダガがいてくれて本当に助かった……」

かつてオーク族の英雄たちは鍛錬をするだけで山を揺らし、空を割ったと伝えられるが
黒騎士たちの攻防はまさしくそれだ。指環がなくともヒトは強いのだと、十分に感じさせてくれる強者の決闘。

そして黒蝶騎士はしばらく情報交換をした後、蝶の群れに隠されて音もなく消えていった。

>「ああ、いえ……失礼。別に疑ってた訳じゃありません。
 ただ……二つ目の炎の指環が存在する可能性はあるのか、気になりまして」

>「『分霊』の線はどうだ?例えばソルタレクで力を取り戻すまで、俺の風の指環は本体とは言えなかった。
 同じように、イグニスの力の一部を切り取ってそれっぽく指環の体裁を整えることは出来るんじゃないか」

もう一人の指環の勇者が存在するという情報に対し、複数の指環が作れるかという意見がスレイブから出される。
しかしウェントゥスとイグニスはその可能性を否定し、アクアもそれに追従する。

『水は寄り集まり、群れてこそ力となる。それに指環はこの世界そのものから力をくみ上げるものだ。
 そんな簡単に複製しちゃったら属性の均衡が滅茶苦茶になっちゃうよ』

こうして一行は情報の整理をしつつ密林を前進し、キャンプ・アンバーライトに似た建造物に到着した。
キャンプ・グローイングコールと名付けられたそこは全竜が眠る神殿にほど近く、またアンバーライトよりも重厚な建築となっている。

>「……とりあえず、掃除をしましょう。簡単に出来る方のね。
 終わり次第ティターニアさんはリフレクションと、指環の準備を。
 それと……ディクショナルさんも、指環の準備をしておいた方がいいですね」

掃除と宣言したシャルムが行ったのは、背後に生い茂る密林へ振り向き、辺り一面を焼き払うことだった。

>「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

「追手を文字通り炙り出すとはとんでもねえことするな、あんた。
 ここが地下じゃなくてどっか別の空間でよかったぜ……」

密林に広がる延焼を適度に水流を浴びせて抑えつつ、ジャンは野獣や野鳥以外の生物が動く気配を感じた。
明らかに隠すつもりのない、こちらに敵意を持った者の気配だ。
0018ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/05/15(火) 18:13:45.64ID:ZwPhwXDf
>「……指環の力よ」

どこか聞き覚えのある声、それを合図とするかのように燃え広がる炎がある一点に集まり、吸い込まれるように消えていく。
声が聞こえる方向にあった大木が焼け落ちて崩れ、その声の主の姿が露となる。

>「……アルバート?」

ジュリアンの呟いたその言葉は、ジャンを驚かせるには十分だった。
イグニス山脈で出会い、自由都市カルディアで行方知れずになっていた黒竜騎士、アルバート・ローレンスが目の前にいるのだ。

>「……覚えているか、カルディアで聞いた、舟歌を」

「色々ありすぎてよく覚えちゃいねえが……なんかあったのかよ」

明らかに友好的とは思えない雰囲気を纏ったアルバートに応対しつつ、
ジャンは全員に念話で呼びかける。

『前に会ったときとは違う、明らかにアルバートの様子がおかしいぜ!』

>「あの時、俺には……あの歌の続きが聞こえていた。
 少女の声ではなく。海の底の、その更に奥底から響くような女の声で。
 あれは……女王陛下の声だった。俺に何かを思い出せと歌っていた」

そしてアルバートが語りだすのは、自らがエーテリアル世界の住人であり、虚無の竜は一回滅ぼされたということ。
その死体がもう一つの世界となり、新たな歴史を刻んでいったということだ。

>「俺は、この世界の指環の勇者だ」
>「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

「久しぶりに会って飯でも食うって流れにゃできねえか!
 傷は治った、前に出るぜ!」

シャルムの放った炸裂弾をまったく意に介さず、アルバートはその指に嵌めた指環を輝かせて魔法を放つ。

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

「最初っから竜装でいくぞ!出し惜しみしていい相手じゃねえ!」

蒼い鱗を身に纏い、ジャンは頭上から降り注ぐ流星群に向けてウォークライを放つ。
指環の魔力によって強化されたそのウォークライは、爆炎を纏った岩塊を打ち砕くには十分な破壊力だ。

スレイブが接近戦を挑む中、ジャンは背中の翼をはためかせてアルバートの頭上に飛ぶ。
ヒトであれば等しく死角となるその位置に陣取り、スレイブと合わせてジャンもまた魔法陣を展開していく。

>『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』

『任せときな!』

ジャンも天上に巨大な立体魔法陣を描き、深海を走る水の流れを召喚する。

「派手にぶちかますぜ……『クラン・マラン』!」

凄まじい水圧から解き放たれた水流が一つの大瀑布となり、真下にいたアルバートへと叩きつけられる。
スレイブの『エアリアルスラッシュ・シグマ』を魔剣で切り裂き、指環で吸収して対応していたアルバートにはまったく予期していなかった一撃だ。

「ジャン!お前も……」

巨人族ですら耐えきれぬほどの質量は何かを喋りかけたアルバートを
あっという間に包み込み、アルバートごと地面を掘り砕いていく。
0019ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/05/15(火) 18:14:40.18ID:ZwPhwXDf
「……これで全部吸収してたってんなら、もう殴るしかねえな」

竜装を解くことなく空中から監視し、大きな池となるほど掘り砕かれた穴を見る。
そしてジャンは見た。池の中心から外側へ徐々に水が消えていくさまを。今や四つの属性を吸収した虚無の指環を掲げ、
全身を純白の甲冑に包んだアルバートが空中に立つ姿を。

『虚無の力と融合している…!あれはもう切り離せない、ジャン!』

「あいつの吸収は魔法なら限界はねえってことか……接近するぞ、アクア!」

アルバートの頭上からジャンが突進を仕掛け、アルバートがそれに対応してレーヴァテインを振り上げる。
魔剣レーヴァテインは今や虚無の力と四属性の魔力が入り混じり、切り裂いたもの全てを食らい尽くす虚無そのものだ。

やがてジャンの竜鱗を纏った拳とレーヴァテインの刀身がぶつかれば、ジャンは即座にウォークライを放って
相手を怯ませんとする。
だがその咆哮は虚無を纏ったレーヴァテインに飲まれ、薙ぎ払いと共に増幅されたウォークライがジャンの全身を襲った。
纏った竜鱗は剥がれ落ち、背中に生えた翼は陽炎となって消え去る。そしてティターニアたちの方向へ吹き飛ばされていく。

「その咆哮も俺たちのものだ!偉大な戦士が修練の果てに生み出した奥義……貴様らが使っていいものではないッ!」

「お前が作ったもんでもねえだろッ!」

指環の魔力を空中歩行と魔力障壁だけにとどめて、再びジャンは接近する。
だが武器を持たず、両の拳を握りしめて突っ込むだけだ。

「虚無の竜から生まれた人間にあらざる異種族……それらも全て葬り去る!」

「どうりで不死人共が帝国人みてえな体格してると思ったぜ、ひょろっちいんだよお前ら!」

先程とは異なり、アルバートが振り下ろしたレーヴァテインはただ虚空と一粒の雫を切り裂くのみだった。
ジャンは正面から殴りかかると見せかけて直前で水流に溶けて背後に回り込んだのだ。

「剣も魔法も効かねえならッ!」

「貴様ァッ!」

即座に気づいたアルバートが横薙ぎにレーヴァテインを振るったとほぼ同時に、ジャンが
アルバートの顔面に向けて右の拳を叩き込む。

ジャンは腹をえぐり込むように切り裂かれ、アルバートは兜越しに衝撃を受けて大きくよろめく。

「へへっ……父ちゃんから習ったパンチは効いただろ?
 こいつは虚無でも吸い込めるもんじゃねえ」

傷口から溢れる血に構うことなく、ジャンはにやりと笑って両手の拳を構える。
それはかつての旧世界にない、この世界で編み出されたもの。
オーク族が戦乱の中で生き残るために作り上げた、格闘術だ。

「……もはや容赦はしない。かつての仲間というだけで情けをかけてやったがもういいだろう」

アルバートが四属性の力を解き放ち、自らの周囲を暴走した魔力で覆いつくす。
通常の魔術師ならば自分が消し飛んでしまうようなそれを、アルバートは尋常ならざる集中力で制御してのけた。
その暴走魔力の方向すらレーヴァテインで自由自在に操り、やがて一つの方向に定めた。

「穿て、『バニシングエッジ』」

荒れ狂う魔力の奔流が放たれ、ジャンがとっさに放った魔力障壁をたやすく食い破ってティターニアたちを襲った。

【スレ立てありがとうございました!新スレで終わるかな…?】
0020ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/17(木) 23:50:16.50ID:maoOm3OV
>「……『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」

シャルムが血相を変えて駆け寄ってきて、反射の術式を組み立てようとするが、上手くいかないようだった。

>「……忘れていませんか、拙僧の存在を」

アルダガが振るったメイスが黒き矢を弾き飛ばす。
その後に幾重もの石壁が軽々と突破されたことに気付き、ようやく自分か仲間の誰かが死にかけていたことに思い至る。
黒蝶騎士の矢がプロテクションの魔法障壁をやすやすと貫くのを見た後だ。
その威力は分かっていたつもりだが、彼女の矢が持つのが的に当たるまで何物をも貫く性質だとしたら、
物理的実体のある石の壁なら多少は疑似の的となってくれるものと思っていたのだが、その想定は外れたようだ。

>「ティターニアさん、ジャンさんとディクショナル殿を拙僧の後ろへ。神術で治療します」
>「……すみません。ティターニアさん、お願いします」

魔力植物の蔦を操り、ジャンとスレイブを回復術の範囲内へ移動させる。
そうこうしているうちに黒騎士同士の戦いが始まり、あまりの凄さに手を出す間もなく結果的に観戦する形となった。
ジャンやスレイブも予想以上の黒騎士の強さに驚いている様子。
竜の指輪にさえ匹敵あるいは凌駕する力――
これには、人間という種族の個体差が激しく能力値のバラつきが大きい、というだけでは説明のつかない何かがある気がする。
例えば、選ばれし人間だけが生まれながらに授かる加護のような何かが。
エーテリアル世界のヒトはただ一種族しか存在しなかったらしいが、それが現在の人間の前身だったとしたら――

>「……いや、本当に申し訳ないです。恥ずかしながら私、自分より強い相手と戦うのは初めてでして。
 どうも殺気に当てられてしまったみたいで……ああ、もう情けない」

「無理もない、気にするな」

シャルムの本職は魔術師であって戦士ではないのだから、戦いに慣れていないのは当然。
そう思い、この時点では特に疑問に思うことはなかった。強い者が本当の意味での戦いに慣れているとは限らない。
圧倒的に格下の敵を寄せ付ける前に吹っ飛ばすのは、戦いでも何でもないのだ。

>「教えてください。一体この地で何が起きているんですか。……あなたは、何に追われているんです」
>「あーあ……正直、私もそれが知りたいからあなた達を呼んだんだけどなぁ」

唐突に始まった戦いは終わりもまた唐突だった。
アルダガに膠着状態に持ち込まれ観念したのか、戦闘をやめて救援要請の真相を語りだす。
しかし安心してはいられない。
彼女が語ったのは、彼女自身ですら恐れをなすほどの得体の知れない侵入者の存在。
戦闘があと三回は多すぎるということでとりあえず黒蝶騎士はもうこちらと戦う気はないらしいのがせめてもの救いだ。
それなら最初から戦わないでくれるともっと有難かったのだが。
0021ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/17(木) 23:51:46.58ID:maoOm3OV
>「私が射抜いたはずの、不死者よりも不死身な誰かさん。その時、一度反撃してきたんだけどね
 確かに、こう言ってたよ……『指環の力よ』ってね。
 炎の魔法だった。でも……そこのおチビさんの声じゃ、なかったかなぁ」
>「もっと低い、男の声だった。どういう事なんだろうね?
 ……こっちはこっちで、探り回ってみるよ。手分けしないと、時間がないからね」

「まさかエーテルの指輪が奪われたか!? しかし竜の神殿には6つの指輪がないと入れぬはず……」

全属性を統べるエーテルの指輪なら炎の属性も使えるかもしれないが、
6つの指輪がここにある以上エーテルの指輪が先に取られたとは考えにくい。
シャルムやスレイブが二つ目の炎の指輪の存在について意見を交わすが、その可能性も低そうだ。

>「ティターニアさんが言っていた通り、ここは本当は地下じゃないのかもしれない。
 星都は帝都の地下にあるという情報自体が、間違っているのだとしたら」
>「二つの世界を繋ぐ扉、或いは階段は、一つしかないとは限らない。
 むしろあの扉が当時のこの世界の住人にとってのいわゆる非常扉だったなら、
 扉が一つしかない方が不自然だ。だから……」

思考に行き詰まったシャルムの言葉を継ぐ。

「旧きエーテリアル世界から現在の世界への変革が単なる世界法則の書き換えではなく
異なる世界への移住に近いものだったとしたら……ここは打ち捨てられた旧世界の成れの果て、ということになるな。
飽くまでも憶測に過ぎないが」

今までに訪れた四星都市だって、結界を破るといきなり出現したり転移魔法陣で入ったりと、本当に現行世界の存在だったかは怪しいものだ。
唯一シェバトだけは一見普通に存在するように見えるが、旧世界が現行世界に重なった領域とも考えられる。

>「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」
>「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

全竜の神殿にほど近い拠点であるキャンプ・グローイングコールに到着する。
シャルムは、掃除と称して躊躇うことなく密林に火を放った。
謎の侵入者がこちらを追ってきていることを前提としての炙り出し作戦だ。

>「……指環の力よ」

作戦は成功し、侵入者はついに姿を現した。

>「……アルバート?」
>「お前、なのか?」
>「……ああ。見ての通りだ」

>「……私達を、つけてきた理由は?」
「一瞬浮浪者かと思ったぞ! いきなり行方不明になってどこをほっつき歩いておったのだ!」

拳銃を突きつけてのシャルムの問いにも努めていつもの調子のティターニアの問いにも答えず、アルバートは反対に問い返す。
0022ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/17(木) 23:53:55.15ID:maoOm3OV
>「……覚えているか、カルディアで聞いた、舟歌を」

「ああ、あれは良かったな。上手なのは当然だったのだ。あの少女は実はセイレーンの女王だったのだからな」

>「あの時、俺には……あの歌の続きが聞こえていた。
 少女の声ではなく。海の底の、その更に奥底から響くような女の声で。
 あれは……女王陛下の声だった。俺に何かを思い出せと歌っていた」

アルバートは自らをこの世界の人間だと言い、エーテリアル世界の真実と、現行の世界の成り立ちを語り始める。

>「どうだ。思い出したか、イグニス……アクア、テッラ、ウェントゥスも」

>『ぜんっぜんわからん……エルピスのぼけなすがその辺の記憶全部消しておったんか……?』

『記憶が無いのも無理はないかもしれないわ。
エルピスが言っていた事が正しければだけどあなたたち四星竜は元々は全の竜の一部だった存在。
虚無の竜との戦いので全の竜から食らわれた属性が現行世界で再構成されて生まれた存在なのかもしれない』

全く心当たりがなさそうな四星竜に代わって、光の指輪に宿るメアリが答える。

>「俺は、この世界の指環の勇者だ」
>「お前達を殺し、指環を奪い……いずれはあちらの世界から全ての属性を取り戻す。この虚無の指環でな」

「虚無の指輪……ということはそなた、虚無の竜の使いか……!」

現行の世界が虚無の竜の死体の上にあるとしたら、つい最近復活した虚無の竜は一体何なのだろうか。
精神体か分霊のようなものか、あるいは光や闇の竜のように複数存在し得るものなのか――
そこでシャルムが何を思ったかジュリアンへと発砲。
当然スレイブが気色ばむが、ティターニアにはこれはシャルムの分かりにく過ぎる優しさのようにも思えた。

>「お二人は親友なんでしたよね。今、裏切られたら洒落にならない。
 ……あり得ない話じゃないでしょう。その人は、前科があるんですから」

相変わらず辛辣な言葉を吐くシャルムだが、彼女が撃ったのはおそらく、制圧用の電撃弾。
指輪を持っていないジュリアンは、戦線を離脱してしまえば積極的に狙われることはない。
動揺しきっているようなら下手に戦いに参加するようりも早々に気絶したほうが生存確率が上がるとも考えられる。
あるいはそれに加えて、親友と戦わせたくなかったのかもしれない――は流石に深読みし過ぎだろうか。
続いてシャルムはアルバートに炸裂弾を放つ。こちらはもちろん全力の殺傷攻撃だ。
凄まじい爆炎が炸裂するが、アルバートはそこに平然と佇んだままであった。

>「純粋な身体能力と、精神力?……そんな馬鹿な」

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

シャルムの展開したプロテクションが叩き割られていく。
それを見たジュリアンがティターニアに「今から使う術の全体化を頼む」と目配せする。
0023ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/17(木) 23:56:53.21ID:maoOm3OV
「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」

イグニス山脈での最初の対面のとき、アルバートやティターニア達の攻撃をことごとく無効化した最高位の反射系防御魔法。
あまりにも高度な魔法であるため、対象は使用者本人だけしか不可能なのだが――
0024ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/17(木) 23:58:07.06ID:maoOm3OV
「ストームソーサリー!」

ティターニアが範囲拡大の魔術で、防御魔法の効果を味方全員に及ばせる。
ジュリアンはティターニアがリフレクションを広範囲に張っているの等を見ていて、それが出来ると判断したのだろう。
ジャンのウォークライの加勢もあって、初撃を防ぎきる。
0025ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/18(金) 00:00:26.01ID:XEjqOtae
>「『エリアルロケート』――!」

アルバートの次の行動をいち早く察したスレイブが、剣での接近戦で迎え撃つ。

「――エアリアルウェポン!」

スレイブの使う風魔法の妨げにならぬよう、風属性の武器強化の魔法で援護するティターニア。
しかし打ち合いをしているうちに虚無の指輪の力によって剣術を奪われてしまったようで、
長期戦になればなるほど勝ち目は無くなるということに思い至ったスレイブが、念話で全員に語り掛ける。

>『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』

>「『エアリアルスラッシュ』!!」 「――『シグマ』」
>「派手にぶちかますぜ……『クラン・マラン』!」

本来なら大地の大規模魔法で攻撃に加わるべきところだが、ジャンの魔法がまともに直撃したのでその必要はないと思ったのか、
ティターニアは激流に飲み込まれたアルバートに語り掛けていた。
ジュリアンはアルバートが虚無に飲まれぬためにシャルムのような後輩を裏切ってまで
帝国を出奔したのに、これではあんまりではないか――

「水でも被って頭を冷やせ! ジュリアン殿がなんのために帝国を出奔したと思っておるのだ……!」

「俺のことはいい――殺す気で行かなければやられるぞ」

この期に及んでかつての仲間のよしみを捨てられないティターニアをジュリアンが嗜める。
しかし、ティターニアが攻撃に加わらなかったのは、結果的には良かったといえよう。
もしそうしていたら、更に大地の魔力を吸収させるだけの結果になっていたであろうから。
大きな池となるほどだった激流は瞬時に消え、純白の甲冑に包んだアルバートが空中に佇んでいた。

>『虚無の力と融合している…!あれはもう切り離せない、ジャン!』
>「あいつの吸収は魔法なら限界はねえってことか……接近するぞ、アクア!」

今度はジャンが接近戦を挑む。
アルバートとジャンのやりとりから、やはり人間が旧世界から存在した原初の種族で
他の種族は現行世界で新しく生まれた存在だということが鑑みられた。
もしかしたら帝国の人間達の人の世への並々ならぬこだわりや、
帝国の人々が信奉する女神の人間至上主義は、そこから来ているのかもしれない。
ジャンはオーク族の格闘術で拳を届かせて、旧世界に存在しなかった技なら通用するという一筋の活路を見出す。
しかし、それはアルバートを本気にさせてしまったようだ。

>「……もはや容赦はしない。かつての仲間というだけで情けをかけてやったがもういいだろう」
>「穿て、『バニシングエッジ』」

「来るぞ! 鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」「――ストームソーサリー!」

アルバートの一撃必殺の攻撃に対し、ジュリアンとティターニアが先程と同じ連携魔法で応戦。
荒れ狂う魔力の奔流が鏡の魔法障壁に激突――
鏡の世界は、あらゆる攻撃を無効化する最高位の防御魔法。
通常なら瞬時に魔力が霧散して終わりなのだが、魔力の奔流の勢いがおさまる気配はなく、
驚くべきことに障壁が少しずつ削られていく。
0026ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/18(金) 00:04:44.78ID:XEjqOtae
「そんな……どうにかならないのか……!?」

仲間達を見渡してみるも、皆すでに自らの出来得る最大限の防御を試みていて、これ以上どうしようもなさそうだ。
障壁を突破されたら最後、凄まじい魔力の奔流に飲み込まれ、全滅は必至だろう。
――その時だった。
0027ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/18(金) 00:06:11.12ID:XEjqOtae
「――四星守護結界」

新たに重ねられた結界が、魔力の奔流を阻む。
それを行使したのは、パーティーメンバーの誰でもなく――

「良かった――間に合ったようですね」
「全く油断も隙もない……ヤケを起こした女王を諫めに来たらこの様だ――
しかし小鼠どもにしてはよく持ち堪えたな」
「話は後だ、奴を倒すぞ!」
「あの者に旧世界の存在である私たちの攻撃は通用しない……でも防御ならお力になれます!」

上から順に、シェバトで共に戦った風の守護聖獣ケツァクウァトル、ラテに力の一端を貸している大地の守護聖獣フェンリル、
灼熱都市での戦闘時には一言も喋らなかったはずの炎の守護聖獣ベヒモス、そして半人半鳥形態を取った水の守護聖獣クイーンネレイド――
まごうこと無き四星都市の守護聖獣達だった。

「お前たちもこちらの世界の存在だろう? どうしてそいつらの味方をする?
よもや情にほだされたのではないだろうな?」

思わぬ邪魔が入り、意外げに問いかけるアルバート。
何故なら彼ら守護聖獣は、もともとは旧世界の存在。
新しき世界に生まれ落ちた四星竜が勝手な事をせぬように送り込まれた監視者だった。

「ええ、エルピスの記憶操作が解け全てを思い出しました――確かに私たちはこちらの世界の存在。
だけどそれが何だというのでしょう。今や幾星霜との時をウェントゥスと共に過ごしたあの街こそが故郷――」

「……まあいい。全員まとめて叩きのめすまでだ。この虚無の指輪がある以上お前たちに勝ち目はない」
0028ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/05/18(金) 00:07:51.48ID:XEjqOtae
アルバートは守護聖獣達が新世界側に寝返ったと認識して尚、特に激昂するでもなく落ち着き払った態度で強者の余裕を見せる
事実彼の言う通り、指輪の力を使った強力な攻撃や、古代から伝わる大魔術の類は全て奪われてしまう。
守護聖獣達の助力で相手の攻撃を凌ぐことはできたとしても、どうやって倒せばいいというのか。
そんなティターニアの心中を見透かしたかのように、クイーンネレイドが言う。

「大丈夫、あなた達なら出来るわ。指輪なんてなくたって強かったじゃない。
思い出して、私と出会った頃のこと――」

言われた通り、クイーンネレイドと出会った時のことを思い出すティターニア。

「思い出したぞ。そなた、物乞いの少女に身をやつしていたな――それで確か……」

そこで唐突にアルバートに向かって一つの魔法をかける。
指輪の力も使っていない、古来から伝わる由緒正しい大魔術でも何でもない――ユグドラシアで開発されたイロモノ魔法である。

「黒板摩擦地獄(ブラックボードキィキィ)――高音質(ハイレゾナンス)!」

黒板を爪で引っかく音を大音量で聞かせる地味に凶悪な幻聴魔法――それの高位版だ。

「どうだ、こんな魔法は旧世界にはなかっただろう!」

「貴様――! そんなふざけた技があってたまるか……!」

効果はてきめんだったようで、思わぬ突飛な攻撃にアルバートは両耳を抑えて悶え苦しんでいる。
一気に畳み掛けるチャンスだ。
0029アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/20(日) 02:24:13.04ID:YaaHtDQO
アルダガとの膠着状態に矛を収めたシェリーは、星都で自身に起こった異変について語り始めた。
パトロンである陸軍少将の命令でセント・エーテリアへと潜入した彼女は、そこで不死者とは異なる『敵』と出会う。
先制攻撃で致死の矢を命中させたにも関わらず健在だったその敵は、指環の所持を仄めかす言葉を口にした。

指環の勇者以外に存在する、正体不明の指環保有者。
陸軍でも捕捉し切れていない、完全に情報不足の現状を打破すべく、彼女は独自に調査を続けに姿を消した。
『クーデターが起きるかも』という、実にきな臭い言葉を残して――

>「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」

星都の位置について仮説を重ねていたシャルムは、諦めたようにかぶりを振った。

>「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

「あのぅ……その『考え』というのは、昨晩のキャンプ魔改造のようなことですか?
 拙僧あんまり古代の遺産を弄り回すの良くないんじゃないかと……
 不死者のせいで発掘しきれてない有用資源もあることですし、できるだけ傷つけずに陛下にお返ししないと」

シャルムは有能な魔術師だが、その性向は些か未来の方を向きすぎているきらいがある。
新しく便利なものを作ることにかけては随一の才覚を持つ反面、古代の遺産に対するリスペクトがさらさらない。
壊してしまったらまた新しく作り直せばそれで良いという、合理性の塊のような女である。

もちろんその姿勢が現代の帝国の隆盛を支えているのは確かだ。
遺産などなくとも、人間は己の力だけで未来を切り開けるという主張を否定する気もない・
ただ、古代の女神を奉ずるアルダガとしては甚だ複雑な心境だった。

そして――たどり着いたキャンプ・グローイングコール。
そこでシャルムのとった追撃者対策に、アルダガは自身の願いが聞き届けられなかったことを知る。

>「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

「出来るだけ傷つけないようにって言ったじゃないですかぁーーっ!」

シャルムの放った魔導弾は密林に炎の轍を残し、みるみるうちに火災が広がっていく。
気付けばキャンプの周囲は炎上する木々に囲まれ、もうもうと立ち込める黒煙が人工の太陽を覆った。

「あああ古代の遺産が消し炭に!女神様になんと言い訳をすれば……!」

頭を抱えるアルダガの祈りが届いてか届かずか、燃え広がる炎の舌はやがて消えることとなる。
自然の鎮火ではない。ある一点へ向けて吸い込まれていく炎の先に、一人の男がいた。

指環を掲げるその姿は、一見すれば星都に迷い込んだ浮浪者。
しかし、アルダガは男の顔を知っている。その背に担った大剣を知っている。
違えるはずもない、彼はアルダガやシェリーと肩を並べ、共に帝国の為に戦ってきた存在。

――黒竜騎士アルバート・ローレンス。
港町カルディアで行方不明となり、アルダガが指環の勇者たちと邂逅するきっかけとなった男。
帝国諜報部が総力を挙げて捜索しても死体の痕跡さえ見つけられなかったアルバートが、密林の向こうから姿を現した。

「あ、アルバート殿……?なぜ貴方が星都に……」

アルダガが慄然と零した問いに、アルバートは答えない。
シャルムが魔導拳銃を突きつけ、ようやく言葉を発したかと思えば、その内容はアルダガの理解を越えていた。
0030アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/20(日) 02:25:01.45ID:YaaHtDQO
(アルバート殿が古代エーテリアル世界の人間で、女王パンドラによって我々の世界に送り込まれていた……?
 そして我々の世界そのものが、エーテリアル世界の一部を虚無の竜が捏ね回して作ったまがい物……
 信じられませんっ!信じられるわけが!女神様の教えを根底から否定することとなります……!)

アルダガの奉ずる女神は、『全てのヒトの母』とされる人類の始祖だ。
純人族はみな一人の女性を共通の祖先とし、子から注がれる信望と愛によって彼女は神となった。
女王蟻と働き蟻の関係がそうであるように、女神とヒトとの間には血縁という強固なつながりが存在している。
だからヒトは女神に奉仕するし、女神もまたヒトへ平等に愛を注ぐ……それが教皇庁が正式に公表している教義だ。

だが、アルバートの言葉が全て正しいのだとすれば。
アルダガたち現行世界の人類は、虚無の竜に呑まれたエーテリアル世界の属性がかつての姿を再現したもの。
女神が産み落としたわけではない。

       ・ ・ ・ 
(それじゃ、わたしたちが母と崇める女神は一体、何者――)

そこまで思考して、アルダガはメイスで自分の頭を打撃した。
銅鑼を鳴らしたような大音声が響き渡り、こめかみが破れて真っ赤な地が地面に滴った。

(……鵜呑みにしてはいけません。アルバート殿の語ったことが事実である証左はどこにもないのだから。
 拙僧は依然女神の子にして尖兵。捧げた愛に偽りはなく、故に拙僧の信心に揺らぎはありません)

そうだ。
今ここにアルバートが居る理由についてはまるで見当がつかないが、カルディアで津波に巻き込まれて頭を打ったのかもしれない。
黒騎士のアイデンティティであるブラックオリハルコンの鎧を失い、動揺が彼の心を支配していてもおかしくはない。
たとえば――そう。皇帝の信頼を失ったと感じた彼が、新たな拠り所として『女王』なる架空の存在を心の中に創り出し、
世界の成り立ちとかいう確かめようもないそれっぽい理屈を完成させている可能性だって十分にある。

そう考えると、なんだか腹が立ってきた。
黒騎士の至上命題とも言える護国の重責を放り出し、古代の密林で気楽な原始生活を送っていたアルバート。
彼が席を空けたせいで、他の黒騎士がどんなに苦労し、上層部がいかに混乱したことか。

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

これ以上の会話は無用とばかりにアルバートが指環を掲げ、炎と大地の魔力が鳴動する。
空を覆わんばかりに出現した燃え盛る岩の礫が、流星の如くアルダガ達へと降り注いだ。
アルダガは懐から術符を四枚取り出し、自身と仲間達を囲うように四方へと投じる。

「凍える不幸、彼方の幸福。捧ぐは稀なる血、東より来たりし秘蹟の種。流転し、共鳴し、その双眸に天を座せ。
 女神の吐息よ、来たる礫を打ち払え――『エニエルイコン』」

術符同士を光の線が結び、奔った聖句が女神の祝福をその場に喚び起こす。
光の障壁がアルダガたちを覆い、礫から彼女を護った。

(そう、そうです、そうですとも!女神の加護はこうして確かに拙僧を護ってくれています。
 事実がどうであれ、いかなる過去があろうとも!いまこの場で拙僧の力となる信仰に相違はありません)

土埃を目眩ましとしたアルバートの奇襲をスレイブが迎撃し、剣士二人は切り結ぶ。
純粋な剣の技量ならば、両者の実力に大きな差はないとアルダガは感じた。
しかし、拮抗は長く続かない。
0031アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/20(日) 02:25:27.47ID:YaaHtDQO
>「剣術を……奪われただと……?」

スレイブの動きが途端に精彩を欠き、ついには剣を取り落としてしまう。
その不条理なる現象は、アルバートの意志によって引き起こされたものだった。

「虚無の指環……失われた属性を、そちらの世界に取り戻す力ですか……!」

だとすれば、アルダガがこのままアルバートと対峙し続けるのはまずい。
彼女の使う神術は、女神が子たちへ授けたもの――アルバートのいう『奪われし属性』に該当する。
一人で多数を相手にすることに特化したアルダガの術は、この状況で最もアルバートに与えてはならないもの。
帝国最強戦力を相手に、神術を使わず立ち回る必要があった。

>『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』
>『任せときな!』

長期戦は分が悪いと判断したジャンとスレイブが、共に最大火力の広範囲殲滅魔法を放つ。
全方位から襲い来る風の刃を受けきったアルバートの技量は恐るべきものだが、既に連携は完成していた。

>「派手にぶちかますぜ……『クラン・マラン』!」

ジャンが召喚した水の巨大質量は、まともに受ければ骨さえ残らず砕け散る高圧の瀑布。
風の刃に足止めされていたアルバートは退避することさえままならず滝の餌食となった。
おそるべき水圧は地面を地盤ごと抉り取り、地形を変えるほどの威力がたった一人の男へと収束。
大型の竜でも耐えられずバラバラになるであろう極大の水魔法だったが――

「うそでしょ……」

水属性を吸収しきり、枯れ池となった底に五体満足で立つアルバートの姿に、アルダガは動揺を隠せなかった。
膝を付くことさえしないアルバートは、それまでの浮浪者同然の襤褸切れ姿ではなく、甲冑を身に纏っている。
――ブラックオリハルコンの対極とでも言うかのような、純白の鎧。
それは、単純な防御力の向上とは別に、『黒騎士』というかつての自分への決別を示しているかのようだった。

>「あいつの吸収は魔法なら限界はねえってことか……接近するぞ、アクア!」

アルバートはどういう理屈かふわりと宙に浮かび上がる。おそらくは吸収した風の魔法だ。
魔法は効果なしと見たジャンがその身に生やした翼で飛翔し、アルバートと空中での格闘戦を演じる。
風と翼、竜爪と魔剣が交差し、剣戟の衝撃が大気を弾く圧力が地上にまで届く。

ジャンが咆哮――カルディアで受けたものよりも遥かに強力なウォークライがアルバートを襲う。
アルバートは涼しい顔でそれを魔剣に吸わせ、意趣返しとばかりにジャンへと咆哮を叩きつける。
ジャンの身を覆っていた竜の鱗と翼が風前の灯火の如く消し飛んだ。

>「その咆哮も俺たちのものだ!偉大な戦士が修練の果てに生み出した奥義……貴様らが使っていいものではないッ!」
>「お前が作ったもんでもねえだろッ!」

両雄は再び激突し、リーチで勝るアルバートが魔剣を薙ぎ払う。
オークの胴さえも一撃のもとに両断する致死の斬閃は、しかしジャンを捉えられない。
彼は指環の力で潜行し、アルバートの足元をくぐり抜けて背後へと回っていた。
岩よりも鋼よりも何よりも硬く硬く硬く握り締められたジャンの拳が、振り向くアルバートの頬を強かに殴りつけた。

(相討ち――!?)

うなりをつけて振るわれたジャンの豪腕は確かにアルバートを打撃した。
そして、ほぼ同時にアルバートの魔剣もまた弧を描き、ジャンの横腹を刳り斬っていた。
臓物が溢れていないことから傷は腹膜にまで達してはいないようだが、夥しい血がジャンの腹から滴り落ちる。
致命傷一歩手前の深手にも関わらず、ジャンは獰猛に口端を上げた。

>「へへっ……父ちゃんから習ったパンチは効いただろ?こいつは虚無でも吸い込めるもんじゃねえ」
0033アルダガ ◆XorFujhzk6
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2018/05/20(日) 02:26:37.51ID:YaaHtDQO
魔法はおろか剣術さえも奪い取る難攻不落のアルバートに対し、ジャンの見出した活路。
それは、旧世界から伝えられてこなかった、無軌道で新しい発想の技術を用いること。
長い時間をかけて洗練されてきた戦術ほど、アルバートはそこに旧世界とのつながりを見出して奪い取る。
ジャンがいまやって見せたように、ある意味合理性を欠いた思いつきの技ならば、アルバートに届かせることができる。

(しかし……拙僧に、それができるでしょうか)

思い出すのは、シャルムとのやり取り。
追跡者を迎撃する策として焦土戦術を選んだ彼女に、アルダガは否定的だった。
その行為は、古代の女神を信仰するアルダガの価値観と真っ向から反するものだからだ。

女神への信仰とは、すなわち祖先――古代の民への信仰に等しい。
世界開闢のときから変わることなく受け継がれ続けてきた女神の教えは、アルダガの精神の礎とも言えるもの。
アルバートに対峙するため、古い教えを脱却することは……女神への背信とならないだろうか。
アルダガだけでなく、大陸に生きる多くの民を支えてきた教えを、自分は否定してしまえるのか。

>「穿て、『バニシングエッジ』」

逡巡は身体を硬直させ、アルダガはその場を動くことができない。
ジャンに殴られ、怒気を放つアルバートが魔剣から全てを消滅させる極大の魔法を放つその瞬間さえも。
彼女は女神に背くことを恐れ、ただ迫り来る死を受け入れるほかなかった。

>「来るぞ! 鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」「――ストームソーサリー!」

ティターニアとジュリアンが二人がかりで結界を張り、叩きつけられる死の光条をしのぐ。
しかし光の瀑布の勢いが衰えることはなく、次第に障壁を押しのけはじめた。

「……え、『エニエルイコン』!」

はっと顔を上げたアルダガも弾かれるように防御の神術を再び行使するが、焼け石に水を垂らすように掻き消える。
ジュリアンの編み出した最高位防御呪文も、ブラッシュアップを重ねられてるとはいえ、属性を束ねた魔法に違いはない。
少しずつではあるが、アルバートの持つ指環が『鏡の世界』の術式を紐解き、奪いつつあるのがアルダガにもわかった。
遠からず、魔法障壁は意味を失い、虚無の閃光がアルダガたちを呑み込むだろう。

>「そんな……どうにかならないのか……!?」

ジリ貧の八方塞がりに、諦めが胸中に鎌首をもたげ始めたそのとき。
アルダガの知る誰でもない、新たな声が聞こえた。

>「――四星守護結界」

それぞれ異なる四つの声が響くと同時、四重の結界がアルダガ達を囲う。
一つ一つが戦略級の障壁呪文にも等しい四種の結界とバニシングエッジが激突し、相殺。
威力を吸収し切って砕け散る結界の破片の向こうに、四つの影が見えた。

「古代都市の守護聖獣……!?」

アルダガは直接対面したことがあるわけではないが、資料としてその存在を知っている。
他ならぬアルバートが元老院に送った報告書の中にも、イグニス山脈で出会った守護聖獣についての記述があった。
指環の勇者たちがこれまでの旅路で時に対峙し、時に共闘した聖獣達が、加勢に現れたのだ。

>「お前たちもこちらの世界の存在だろう? どうしてそいつらの味方をする?
 よもや情にほだされたのではないだろうな?」

>「ええ、エルピスの記憶操作が解け全てを思い出しました――確かに私たちはこちらの世界の存在。
 だけどそれが何だというのでしょう。今や幾星霜との時をウェントゥスと共に過ごしたあの街こそが故郷――」

援軍の存在にアルバートは眉を立てる。
その至極まっとうな問いに、風の守護聖獣ケツァクウァトルは悪びれもせず答える。
古代のしがらみなど無関係に、『今』彼女の過ごす街と人々を護ると――
0035アルダガ ◆XorFujhzk6
垢版 |
2018/05/20(日) 02:29:35.84ID:YaaHtDQO
その言葉に、アルダガは電撃の奔るような感覚をおぼえた。
ずっと探していた答えにようやくたどり着いたような、快い熱が腹の底から湧き上がってくる。
アルバートの植え付けた女神への不信、教えを否定することへの罪悪、何より自分自身がどうすべきかという迷妄。
その全てに、納得のいく答えが一つ、見つかった。眼の前に横たわった闇霧を切り裂いて、光が差し込んだ。

「……シアンス殿、拙僧は古代から受け継がれてきた教えを遵守し、古代の法術を使ってこれまで戦い抜いてきました。
 だから、古代の遺産に頼らないあなたの信念に賛同はできません」

>『人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです』

晩餐会の場でシャルムが語った信条が、ずっと頭の中に引っ掛かっていた。
女神の教えを逸脱し、前人未到の道を己の足で進まんとする彼女を理解できず、常に困惑が頭にあった。
そして、星都で再会したアルバートという古代の代弁者――言うなれば、古代そのものとの戦い。
旧い教えを守り続けてきた彼女は迷い、ついに足を止めてしまった。
真に守るべきものが何か、わからなくなってしまったのだ。

「命よりも大切にしてきた教えを、拙僧は裏切れません。拙僧の存在自体を否定することになるからです。
 ですが……全てを古代に帰そうとするアルバート殿の考えにも、賛同するつもりはありません」

右手に握ったメイスを掲げ、その先にアルバートを捉える。
俯いていた顔を上げ、逸らしていた目を真っ直ぐ前へ向けて、彼女は自分のたどり着いた答えを放つ。

「拙僧は――わたし達は。教えを守るために生きているのではなく、生きるために教えを守っているのですから。
 我々が生きているのは古代ではなく"いま"です。わたしは、いまを守るために戦います」

>「……まあいい。全員まとめて叩きのめすまでだ。この虚無の指輪がある以上お前たちに勝ち目はない」

守護聖獣との問答に見切りをつけたアルバートは、レーヴァテインを構えて臨戦態勢をとる。

「確かに虚無の指環は強力です。属性を奪い取る力は、まさに指環の勇者の天敵とも言えるでしょう。
 ……しかしアルバート殿、貴方はいっときでも勇者たちと共に旅をして、まだ気付いていないのですか?」

再び全てを消し飛ばさんとするその姿に相対して、アルダガは不敵に笑って見せた。

「ティターニア・グリム・ドリームフォレストが、ジャン・ジャック・ジャクソンが。
 ――たかだか勝ち目がない"程度のこと"で諦めるはずがないと」

>「黒板摩擦地獄(ブラックボードキィキィ)――高音質(ハイレゾナンス)!」
0036アルダガ ◆XorFujhzk6
垢版 |
2018/05/20(日) 02:30:47.62ID:YaaHtDQO
まったくの前振りなくおもむろにティターニアのはなった魔法がアルバートを直撃する。
鳥肌が立つような不快な不協和音を直接脳味噌に叩き込む凶悪無比な幻聴術だ。

>「どうだ、こんな魔法は旧世界にはなかっただろう!」
>「貴様――! そんなふざけた技があってたまるか……!」

古代人が考えつくはずもない――思いついても誰もやらなかったであろう嫌がらせ特化の魔法。
純粋培養の古代人であるアルバートにはてきめんに効果を表し、彼は不快に顔を歪めてもがき苦しんでいる。
敵ながらなんとも気の毒な状態であるが、アルダガは構わずアルバートの方へと踏み出した。

「エーテリアル世界だの虚無の竜だのは置いておいて、拙僧からも言いたいことがあります。
 古代の民ではなく、アルバート殿、貴方へ言っておきたいことです」

彼女はメイスを掲げる。高く高く振り上げたその柄は、凄まじい握力によって軋む音を立てた。

「――手紙の一つもよこさず、どこをほっつき歩いてたんですかぁぁぁぁっ!!」

怒声と共に音を割って打ち下ろされたメイスが、地面を衝撃だけで爆発させた。

「拙僧や黒騎士、陛下たちがどれほど心配したとっ……!国民たちが、どれほど不安になったとっ……!!
 古代の記憶が甦った?本当は女王に仕えていた?そんな言い訳より、まず言うべき言葉があるでしょう!!」

間一髪でメイスの直撃を回避したアルバートに、気炎を吐きながら追いすがるアルダガ。
棍術もへったくれもなく幼子のように振り回されるメイスの、一撃一撃が余波で周囲の草や木の葉を塵に変える。
頭の中で響き渡る騒音に苦しみながらもアルバートは大剣で反撃するが、純粋な質量差でメイスに押され気味だ。

「昔のことを思い出したら、それまで貴方が誓ってきた陛下への忠誠や、拙僧たちと共に帝国を守ってきた日々は、
 全部なかったことになるんですかっ!?そんなわけがないでしょう!そんなことは、拙僧が許しません!!
 あなたはアルバート・ローレンス、黒竜騎士です。古代の民である以前に、帝国に生きる民の一人です!!」

完全にお説教モードに入ったアルダガは、奇しくも彼女のパトロンである聖女の言動と瓜二つであった。
神殿に務める人はみんなこうなる。説教気質は空気感染するのだ。
0037アルダガ ◆XorFujhzk6
垢版 |
2018/05/20(日) 02:31:04.60ID:YaaHtDQO
【色々悩んだ末に吹っ切れる。それはそれとして黒騎士放り出したアルバートにマジ説教しつつ折檻】
0038創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/05/21(月) 05:56:03.79ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

W1AHY
0039 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/22(火) 04:11:34.09ID:2TojER3r
しゃがみ込んだ私の頭上で激しい金属音が響く。
レーヴァテインと、ディクショナルさんの剣がぶつかり合う音。
私は姿勢を低くしたまま地面を蹴ってその場を離脱。
直後、風の指環の力が周囲に舞い上がった土煙を吹き飛ばす。
そして……再び二人の剣が激突する。
両者の実力は……今のところは互角……のように見えます。

>「貴様の意志など関係ない――全てのものが、在るべきところへ帰る。それだけだ」

ですが不意に、ディクショナルさんの構えが乱れた。
瞬間、襲い来る斬撃を……彼は剣を手放し、飛び退いて躱した。
彼ほどの剣士が、あんななりふり構わない逃げ方をするなんて……一体どうして。

>「一つ……取り返したな。だが到底足りない。全てを返せ」
 「剣術を……奪われただと……?」

……そんな馬鹿な。
いえ、確かに理論的には不可能な事じゃない。
人間の一挙一動、気質、精神の動きにさえも属性は宿る。
炎が怒りや喜びを、水が悲しみや鎮静を司るように。
彼の操るダーマ式の剣術にも、司る属性はあったはず……。
虚無の指環はそれを諸共奪い取った……理屈は分かっても、対策は難しそうですね。
あまり多くのものを奪われては、手がつけられなくなる可能性があります。

>『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』
>『任せときな!』

ディクショナルさん、ジャンソンさんも同様の判断をしたようです。
二つの指環の力を合わせた波状攻撃。

>「派手にぶちかますぜ……『クラン・マラン』!」

やはり単純な出力という点において、指環の力は圧巻ですね。
……ですが、嫌な予感がする。
アルバート・ローレンスが操るそれも、紛れもなく指環の力……という事は。

>「うそでしょ……」
>「あいつの吸収は魔法なら限界はねえってことか……接近するぞ、アクア!」

……こうなる可能性も十分にあった。
指環の力が通じなかった。それでもジャンソンさんは怯まない。
拳と大剣の格闘戦の末……ジャンソンさんの拳がアルバート・ローレンスの頬に叩き込まれる。
レーヴァテインによる薙ぎ払いを、あえて避けず踏み込んで、刃に勢いが乗る前に受けに行った……?
なんて無謀な……いえ、あれこそが彼らが勇者たる所以、ですか。

>「……もはや容赦はしない。かつての仲間というだけで情けをかけてやったがもういいだろう」

ですがアルバート・ローレンスもまた帝国の誇る最高戦力の一人。
拳の一撃で昏倒させられるほど甘くはなかった。
虚無の指環に奪われた魔力が解き放たれる。
四つの属性がレーヴァテインに焼べられて、一つの純粋な威力として昇華されていく。

来る。世界をも焼き尽くすと謳われた魔剣を術核とした、必殺の一撃が。
防御しなければ。プロテクションなど一瞬で溶かされてしまう。
先ほど途中まで構築した防御術式……『審判の鏡』は殆ど組み上がっている。

完成させなければ……。
そう思った瞬間、また息苦しさと動悸を感じた。
集中出来ない。思考が……曖昧になる。
0040 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/22(火) 04:11:55.67ID:2TojER3r
>「穿て、『バニシングエッジ』」

そして……荒々しい魔力の奔流が私達へと放たれた。

>「来るぞ! 鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」「――ストームソーサリー!」

「っ……『審判の鏡(プロセ・ミロワール)』」

反射の魔法を展開する。
……術式を完成させられた訳じゃない。
ティターニアさんと、クロウリー卿が展開した反射魔法の中に、私の術式を付与しただけ。
『鏡の世界』の術理は幻術を用いた現象の歪曲。
水の属性が持つ流転の性質を利用した反射の術式。

私の『審判の鏡』……土属性、金属、鏡の持つ、転写の性質を利用する類感呪術とは似て非なるもの。
術式は不完全。鏡の世界の働きを阻害する事はなくても……十全の働きを示す事もない。

>「……え、『エニエルイコン』!」

皆が可能な限りの防御策を取っている。
それでも……魔力の奔流は止まらない。
確実に私達の防御を削り取っていく。
最高峰の古代魔法である鏡の世界も、魔法は魔法。
虚無の力に蝕まれ……いずれはその作用を損なう。

……この状況、私がやるべき事は一つ。
鏡の世界を修復しながら、改善していく……術者であるティターニアさんとクロウリー卿では手が回らない。
私が……やらないと。
出来ない訳がない。私だって主席魔術師なんだ。
やる事は単純だ。鏡の世界を構築する術式……魔力が描く、幾重にも重ねられた不可視の魔法陣。
破壊されていくそれらを読み解き、再構築する。
虚無の指環による崩壊よりも早く、早く……もっと早く。

指先に魔力を灯して、破損した術式に新しい式を書き足していく。
……いいぞ。修復は上手くやれている。
既存の術式に手を加えるくらいなら、今の私にも……

「……けほっ」

……気づけば私は、その場に膝を突いていた。
感じるのは、視界の揺らぎ。息苦しさ。激しい動悸。強い悪心。
それに……口の中に広がる、血の味。
口元から赤黒い血が、白い地面に落ちた。
……お腹が痛い。これは……胃に穴が空いたんだ。
……駄目だ。出来ない。

「……魔法が、使えない」

本当は……分かっていたんです。これは……呪いだと。
ずっと、我慢しなきゃと思ってきた。
クロウリー卿がいなくなった穴を埋めて、帝国の混乱と不安を収めるには、自分の事なんて考えている暇はなかった。

……私だって、魔術師です。本当は自分だけの魔法を作りたかった。
クロウリー卿がそうしたように、私だって、私だけが使える魔法を編み出して、色んな人に見せつけたかった。
あの晩餐会でのティターニアさんみたいに、誰もが魅入られてしまうような、そんな芸術的な魔法を……。
0041 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/22(火) 04:13:12.77ID:2TojER3r
だけど……そんな事したって、帝国の為にはならない。
私一人の自己満足に過ぎない。
そんな事を考えていては駄目だって、ずっと自分に言い聞かせてきた。

それはつまり……暗示です。
強い執着や思い込みは、意識しなくても呪いを生む。
主席魔術師である私が強い意思を持って、自らの無意識を突いて施した呪い。
私自身にも、解けない呪い……。

誰にも言える訳がなかった。
主席魔術師が誤って自分自身を呪ってしまって、魔法を使えないなんて。
そんな事が知られれば、また帝国の民を失望させる事になる。
魔族や亜人に、付け入る隙を感じさせてしまうかもしれない。

むしろこの呪いを利用してやればいいと思った。自分にそう言い訳をした。
難しい魔法なんか使えなくても、私の研究、私の開発した魔導拳銃さえあれば人間は強くなれる。
そう強がって、黙ってこの星都に同行して……それで、この体たらく。

>「そんな……どうにかならないのか……!?」

「……ごめんなさい、先生。私の……私のせいで」

悔しくて、不甲斐なくて、涙が出る。
泣いてる暇があったら、術式の修復をしなきゃいけないのに。
それをしようとすると……手が震えてきて、何も出来ない。
障壁に亀裂が走る。
そして……

>「――四星守護結界」

不意に私達の周囲に、新たな結界が現れた。
要塞城を守護する結界に酷似した、四重の結界が……迫り来る魔力の波濤を防ぎ切る。
そうして役目を終え砕け散った結界の向こう側には、巨大な四つの影。

>「古代都市の守護聖獣……!?」

……助かった、みたいですね。
結局私は何も出来ないままで……。
あまりに自分が惨めで、立ち上がれない。
それに立ち上がったところで……もうこの戦いの中で、私が役に立てる事なんてない……。

>「……シアンス殿、

ふと、頭の上から声が聞こえた。
バフナグリーさんの声……下がっていろ、とでも言われるのでしょうか。
項垂れたままだった顔を上げて、彼女を見る。

>拙僧は古代から受け継がれてきた教えを遵守し、古代の法術を使ってこれまで戦い抜いてきました。
 だから、古代の遺産に頼らないあなたの信念に賛同はできません」

だけど彼女が口にしたのはそんな事ではなかった。
そんな事ではなかったけど……何故、今その話をするのか……私には分かりません。

>「命よりも大切にしてきた教えを、拙僧は裏切れません。拙僧の存在自体を否定することになるからです。
  ですが……全てを古代に帰そうとするアルバート殿の考えにも、賛同するつもりはありません」
>「拙僧は――わたし達は。教えを守るために生きているのではなく、生きるために教えを守っているのですから。
  我々が生きているのは古代ではなく"いま"です。わたしは、いまを守るために戦います」

多分、彼女の方も私の答えが欲しくてこの話をしている訳ではないのでしょう。
これはきっと……ただの決意の表明。
0042 ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/05/22(火) 04:13:42.27ID:2TojER3r
「……生きる為に教えを守る。今を、守る為に……」

私は……私には、分からない。
だって私は……帝国の為に、未来の為に、生きてきました。
五年前にクロウリー卿がダーマへ亡命して……私が主席魔術師になったあの日からずっと。
私には主席魔術師としての責任があった。その責任を果たす為に、果たし続ける為に生きてきた。
……私は、バフナグリーさんとは、つくづく気が合わないみたいです。

>「拙僧や黒騎士、陛下たちがどれほど心配したとっ……!国民たちが、どれほど不安になったとっ……!!
  古代の記憶が甦った?本当は女王に仕えていた?そんな言い訳より、まず言うべき言葉があるでしょう!!」
>「昔のことを思い出したら、それまで貴方が誓ってきた陛下への忠誠や、拙僧たちと共に帝国を守ってきた日々は、
  全部なかったことになるんですかっ!?そんなわけがないでしょう!そんなことは、拙僧が許しません!!
  あなたはアルバート・ローレンス、黒竜騎士です。古代の民である以前に、帝国に生きる民の一人です!!」

「……私は、私の五年間は、間違ってたのかな」

思わず、そんな言葉が口をついて出た。
いえ、誰の答えを聞かなくなって、分かっています。
……バフナグリーさんは今、あんなにも活き活きとしていて。
私は……このざまで。答えなんて聞くまでもない。

……思えばこの五年間、楽しい事なんて一つもなかった。
魔導拳銃の性能を示す為に戦場に立って、ヒトを殺して。
ヒトを殺す為だけの魔法を研究して。
私がやらなきゃいけなかったから。
ずっと自分にそう言い聞かせて、ここまでやってきた。
だけど……今この時、この場所で……私がやらなきゃいけない事なんてない。
やれる事も、ない。
自分の中で……何か、張り詰めていた何かが切れた気がする。

「……疲れた」

気がつかない内に、私はそう呟いていた。
……ふと、激しい金属音が響いた。
バフナグリーさんのメイスが、アルバート・ローレンスの頭部を捉えていた。
純白の兜が砕け散って、その体が大きく吹き飛ばされ、建物の残骸に突っ込んだ。
属性の抜け殻となっていた建物は容易く崩れ、彼の身体を覆い隠す。

……数秒の静寂。
虚無の塵は密林に吹く僅かな風でも容易く散らされていき……アルバート・ローレンスの姿が再び露わになる。
頭部からは血が流れ、彼はレーヴァテインを地面に突き立てたまま、立ち上がれずにいた。
黒鳥騎士、アルダガ・バフナグリーの渾身の一撃を頭に受けたのだから、当然の事です。
生きているだけでも不思議なくらいだ。

「……帝国に生きる民の一人、か。相変わらずだな。バフナグリー……」

深く俯いている彼の表情は、見えない。
ただ……その声は苦しげに聞こえます。
彼を苦しめているのは、痛みではない……それくらいの事は分かります。
振り返ってみれば彼は最初から、未練を振り払うように、敵対する理由を言葉にしていた。

「……貴様の言う通りだ。俺が、帝国民として生きた時間は……不死者として生きていた空虚な時間とは違う。
 満たされていた。友情があった。絆があった……覚えているとも。俺は今でも、それが尊い」

……ふと、膝を突く彼の懐に、小さな人影が見えた。
実体のない朧気な……あれは、幻体だ。
ローブを纏った小柄な少年の幻体が……アルバート・ローレンスの体を支え、押し上げようとしている。
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