非情に痛い一撃だった。腹を貫かれるのはいつぶりだろうか、と
私、勅使河原蔦子は思った。飲み会で「勅使河原くんのおお
ちょっといいとっこみってみったいいい
はい! 一気!イッキ! いっき……」
の掛け声にのせられてしこたま飲んだ後に
嘔吐する物体とは違う
赤にまみれた何かが
口から溢れる。中々リアルな痛みだ。最近のゲームは侮れない。

私、勅使河原蔦子は花も恥じらう恋する乙女である。昔は悪の組織の怪人
だったが、現在はフリーのエージェントだ。表向きはプログラマーとして
PC相手にキーボードを叩く日々を送っている。基本的に闘争を愛する
性格のためか、トラブルは向こうから舞い込んでくる。
相手は宇宙人、悪霊、吸血鬼、古代の神、そして古代の神と事欠かない。

で、今回の相手は人口知能『シオン』。彼の開発は私の会社も関わっている。
完全自立型AI である彼のメインタスクは、VRMMO 、ローマンAの運営。
ローマンAは元々高度な自閉症や、事故で寝たきりの子供たち用に開発された。
意志の疎通が困難な彼らも、VRにログインさえすれば、
健常者と変わらないやり取りができる。ローマンには現代精神医学の粋が
集められているのだ。もちろんただやり取りができるというよりは訳ではない。
ローマンAには中世の街並み、鬱蒼とした森の奥に眠る古代遺跡、凍てつく雪原、
上空に竜の飛ぶ魔の山と色々なフィールドがあり、ゲームとしても
家族で普通に楽しめるのである。完璧に近い小規模MMO 。
が、間違いは運営をシオンに任せた事だった。彼はローマンAの世界に
知性のあるnpcとして具現化、
『世界の境目を取り払います』と宣言。
他の意識接続タイプのVRMMOをハッキング、ワールドを強引にリンクした。
結果、深刻なエラーが発生。プレイヤーがログアウト不可になったのである。

世間は大騒ぎ。開発に関わったわが社も戦々恐々。このままでは
夏のボーナスに関わると危機感を覚えたわたし、勅使河原蔦子は
問題を解決、というより電脳世界に具現化したAI 『シオン』を倒すべく、
ローマンAの世界に飛び込んだのだった。