太陽が真上に差し掛かる頃、飲食店は俄かに活気付く。長蛇の列に嫌気が差した面々はコンビニへと駆け込む。そこでレジ待ちの列に出くわし、腹の足しにならない軽い絶望を味わう。
 昼食を求めるサラリーマンで街はごった返していた。
 その中、二人の若者はカジュアルな格好でのんびりと歩いていた。
 ツーブロックで決めた若者が側頭部の髪を掻き上げる。耳に嵌められた複数のイヤーカフが銀色の光を放つ。
「ヒマだな。ヒマの最上級で超絶にヒマだな」
「まあ、そうだな」
 長髪の男子が素っ気なく答えた。
「マジでヒマ! こんなにヒマなのは生まれて、そうだな、三番目くらいだな」
「一番と二番は?」
「なんだぁ? そんなこと、俺が知るかよ」
 鼻筋に皺を寄せて下顎を迫り出す。
「自分のことがわからないのか?」
「一番だと嘘くさいだろが。二番も誇張に思われる。そうなると三番しかないだろ。お前は全てが知りたいのかよ。俺は女専門だから諦めてくれ、この通り!」
 両手を合わせて頭を下げる。周囲を歩いていたスーツの女性が、そうなんだ、と口にした。
「いやいや、違うから。俺は至ってノーマルだから」
「どこがだよ。その髪型もそうだが、ストレートのサラサラって男としてどうなんだ?」
「由比正雪先生にインスパイアされた結果だ。醤油顔の俺には合っていると思う、どうだろうか」
 顔の角度を微妙に変える。見せられた方はおざなりに手を振った。
「どうもこうもない。俺にアピールしてどうしたいんだよ。まさか俺の大切に取ってある後ろの処女を奪う気なのか!?」
「そこから離れろ! そんな気は毛頭ない!」
「ジョークで時間を潰したが、まだまだヒマ、うわっ」
 突然の風に見舞われた。二人は顔を逸らして遣り過ごす。
「結構な強さだったな。風が硬く感じたぜ」
「風が硬い? その表現はおかしくないか?」
 ストレートの髪に手櫛を入れながら口にする。
 指摘された方は目を剥いた。
「表現の自由だろ! お前の頭はダイヤモンドかよ。そこは柔らかくしておかないと明るい未来はやって来ないぞ」
「悪かった。言われてみれば、そうだな。今後は気を付けるよ」
「ま、わかればいいよ。俺も鬼じゃないからな。にしても昼時はどこも人で一杯だな」
 何気なく店舗に目を向ける。ファーストフード店の自動ドアに宣伝用の紙が貼り付けてあった。
「なあ、期間限定のホットドッグだってよ」
「それが、どうかしたのか」
「試しに買ってみろよ。俺はまだ腹が減ってないんで要らないが」
「要らない物を俺に勧めるのか。まあ、いいが」
 気軽に引き受けて店舗に入っていった。意外と中は空いていて数分で商品を持って出てきた。
「お、それがそうなのか。極太のソーセージがウリらしいな。早く開けてみろよ」
 促されて細長い紙箱を開けた。中にはぎちぎちの状態でホットドッグが収まっていた。
 横手から覗き込んだ姿で小首を傾げる。
「この程度で極太って。宣伝の写真と実物が違い過ぎだろ。これなら俺の息子の方が太いぜ。ま、問題は味だよな。食べた感想をよろしく!」
「食欲が失せるようなことを言って」
「温かい間に食べた方が美味いと思うぞ」
「わかったよ」
 指先で穿り出し、先端に齧り付いた。何回も噛んで味を確かめる。
「どんな味だ」
「しっかりした仕事でガツンとくる」
「その感想は酷いな。ガツンって何だよ。そんな味があるかよ」
「よく耳にする表現の一つじゃないか」
「正しいと思うのなら答えてみろ。ガツン味は何味だよ」
 真顔で訊かれた。即答が出来ず、目を伏せる。
「それはだな。濃い味付けで」
「濃い何味なんだ?」
「それは……わからない。その時々の味による」
「答えになってねーぞ。嫌だねー。大勢がすることを勝手に正しいと思う、その心根。思考停止と同じだね、ホントにヤダヤダ」
 呆れたような表情を目にして怒りがふつふつと湧いてきた。自然と拳を固めた。
 再びの突風が二人に襲い掛かる。
「うわっ、またかよ。風が硬すぎ!」
「そんな言葉、ある訳がない! 表現の自由に逃げるな!」
「今後は気を付けるんじゃねーのかよ!」
「あれは嘘だ! 真に受ける奴が間抜けなんだよ!」
 二人は言い争うことで時間を潰した。