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私は我慢することが美徳であると思っている節があったが、本当はもっと身体ごと連中にぶつかって駄目なら部活を辞める、そういう結論に辿りついたのは、みゆきのお陰だった。
問題があったことから逃げ続けた結果が、一年と三ヶ月の私の無意味な時間だった。
私が陸上部に退部届けを出した高校二年の夏休みに入る前の日に、みゆきに告白された。
「私たちって付き合うことができるよね」
正直なところ、私はみゆきと付き合うことに負い目があった。彼女は弓道でインターハイを控えており、片や、私は陸上部を辞めた。彼女とはレベルが違うような気がしたのだった。
「そんなこと関係ないよ」とみゆきは言った。
「関係なくねーよ。俺なんか話しにならねーだろ」
「あんたが陸上部を辞めたことは、あんたの第一歩だし、私はあなたといることでいろいろなことがうまくいくようにもなったの」
この言葉は、彼女は真っ直ぐな性格を表していた。彼女の告白は、甘い愛の囁きではなかったけれど、本心から私といることを望んでいることがわかった。

「そんなこともあったわね」
みゆきはコップを見つめて揺らしながら言った。カランという氷の音が心地よく鳴り響いていた。
「それで、今幸せか?」
「彼氏はいるけど、たぶん別れると思う」
この言葉を聞いて、正直なところ私は嬉しかった。しかし複雑な感情が渦巻いた。どうして、彼女は男を取っ替え引っ替え変えていくのだろう?
高校生活を通して彼女が人格者であり、そんな彼女がどうして、事男のこととなると変に拘って、付き合っては別れを繰り返すのだろうか?
「おまえさあ、人間なんてそんなに変わんねーんだから、あんまり付き合ったり別れたりしない方がいいぜ」
彼女の態度は間違っている。
「わかってはいるんだけどね、やっぱり裕二でもよかったかなあ」
意地悪そうな顔つきだった。変に微笑を漏らしているのをみて、私は少し腹が立った。
私は感情を押さえつけて、少し気分を変えようと「まあ、いいや。そろそろ注文しようぜ。店員さんもこっちみせるから」と言って、料理をオーダーした。
みゆきはビールを注文して、私にも飲むように勧めてくれたが、私はコーラを頼んだ。
ついこの間まで高校生だった私たちが変化していっている。それもかなり加速して、どんどん移動している。私はみゆきと会話をしながら、陽子とのことを考えた。そしてみゆきと陽子を重ね合わせてみた。みゆきの顔が段々と陽子に見えた瞬間があった。