それから、どうも物語の芯みたいなものが薄いんだよな。

例えば、参考小説 森絵都「いつかパラソルの下で」冒頭より

達郎は噛み癖があって、それは遠慮がちな猫の甘噛み程度にすぎないけれど、達する一瞬だけは制御不能らしく、歯と歯のあいだを鋭い痛みが駈けぬける。
それは私の痛みだ。私はぴくっと背を反らし、ここぞとばかり吐息を潤ませる。その一点に神経を集中する。
すがるようにそうする。いつまでもそこに達郎の歯と歯を感じていられればいいのにと思う。けれど次の瞬間、
達郎は汗にそぼった肌を粟立てて力尽き、あ、とか、う、とか言いながらだしきって、私の下でくったりと動かなくなる。