0222創る名無しに見る名無し
2018/03/06(火) 03:34:22.18ID:R5IZiVU1「なんで寝過ごすんですか!」
「それはお前だって一緒だろう!」
「お前とか言わないでください!」
「まったくこんな遅くなっちまって」
ふたりは駅舎から出た。
「あ、見てください、ピエロですよ」
鈴子がこぢんまりとした広場の片隅を指差した。赤い鼻をした派手な衣装のピエロがジャグリングをしているが、まわりには誰もいない。
「珍しいですねー」
「ピエロってなんか怖いよな」
「えっ、花代さん、ピエロが怖いんですか?」
鈴子の顔に邪悪な笑みが広がった。
「いや、なんのことだ? ロム猫先生のうちはこっちか」
花代はスマートフォンを見ながら歩道を歩いていく。
「ちょっと待ってください! わたし、お昼も食べてないんですよ!」
「俺だってそうだよ!」
「パワハラです!」
「あとでおごるから。今は早くロム猫先生に会わないと」
かなーり遅れているのであるが。
「ホントですね!?」
「ホントホント」
あやしいなぁ、とつぶやきながら鈴子は花代のあとを追うのであった。
「ここですね」
鈴子が一軒の民家の前で言った。表札にはロム猫先生の本名が書かれている。
「間違いないか?」
「たぶん」
「よし」
花代は、玄関ドア横の音符マークが描かれたボタンを押した。家の中でチャイムが鳴るのがかすかに聞こえた。しかし、応答はない。何度かチャイムを鳴らすが、ふたりには人の気配すら感じられなかった。
「留守ですかね?」
「そうだなぁ」
花代が腕組みして頭をひねった時だった。
「あ、そこの方はお出かけしたみたいですよ」
声がして振り返ると人のよさそうなおばさんが立っていた。
「そうですか。どこへ行ったかわかりませんか?」
「そこまではちょっと」
おばさんはそう言うと、遅れる遅れる、とつぶやきながら去っていった。
「やっぱり留守ですか」
「どこに行ったんだろうな」
「土地勘はありませんし、さっぱりですよ」
「うーん」
花代は腕組みして視線を落としたが、やがて、あっ、と声を上げた。
「スマホでこのあたりの地図を出してみろ」
鈴子は言われたとおりに地図アプリを開いた。二本指で操作し、拡大していく。
「待て」
鈴子のスマートフォンを覗き込んでいた花代が声を上げた。地図上の一点を指差す。
「ロム猫先生はここにいる」
花代はにやりと笑った。