架空の結婚式場を作るスレ
ごらく部板から越して来ました。
静かで、まったりしていていい板ですね。
ここには荒らしはいないみたいですし、新スレを立てることにしました。
批判もあって然るべきですが、書き込んだ人が悲しくなるような相手の気持ちを傷つける過度な意見はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
なお、画像は全てアメーバピグからの引用です。
前スレ:あかり「世界で一番エレガントで可愛い花嫁さんはだ〜れ?」
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間借りスレ:寝る前に妄想をする人のためのスレ
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1463247457/ 『新しいパートナー』
中古品。
それは新品と対極の存在であり、豊かな現代の日本ではあまり好まれないものである。
他人の手垢や汚れがついた品物は、綺麗好きで潔癖な人々が多いこの国ではマイナスのイメージがあるらしい。
しかし、中古品であれば好きなだけ自分好みにカスタマイズするという楽しみもある。
それは新品にはない魅力だろう。
新品を買って腫れ物に触るように接するより、断然楽しめる。
もちろんその状態は千差万別で、実用に耐えないボロボロのものもあれば、オークションに出回ればかなりの高値になるものまで様々な状態のものが売られている。
まりや(以下、セリフの部分は花咲と表記する)は、どんな車にするかはもうすでに考えていた。
ペーパードライバーの割には。 『ラビットファー』
看板を見て中古車販売店らしからぬ、変な店名だなと思った。
ただ、そこに描かれていたウサギの絵が可愛らしかったのがせめてものの救いかな。
何気なく車を眺めていると、営業マンと思われる若い男性がやってきた。
営業マン どういった車をお探しですか?
明るい高めの男声がまりやに問い掛ける。
花咲 速くて高性能な車なんかを……あの……できればオートマがいいのですが……高望みし過ぎかしら?
咄嗟にそう答えると、営業マンは微笑んだ。
営業マン それなら、いいのがありますよ。
申し遅れました。
守行(もりゆき)と申します。
と、自分の名刺を差し出した。
守行 いい店名でしょう。
脱兎の如くに由来しているんですよ。
ラビット→ウサギ→脱兎、日産の旧名ダットサンの由来だ。
まりやは、慣れた手つきでその名刺を受取った。
守行 今はどんなお車に乗られているのですか?
花咲 免許を取ってから数年ペーパードライバーだったもので、車を買うのは初めてなんです。
守行は愛想よく頷いた。
実際の使用状況から言えば、ほとんど1人か2人で乗るので、一応どんな車でも選べるのである。
彼女の財力から言えば、メルセデスやBMWだって一括払いで買えたのである。
しかし、あえてそうしなかったのである。
守行 どの車でも試乗できますよ。
一度乗ってみますか? まりやは、展示場を歩き回った。
これからずっと付き合っていく車……。
自分にとっての良きパートナー……。
車のイメージ……フェラーリを小さくして扱いやすいようにした車。
よくよく考えてみれば、カーマニアの父の影響で物心ついた時から、まりやにとっては車と言えばこんな形だった。
まりやは、一台の赤いスポーツタイプの車を見つけた。
『日産フェアレディZ Z34 カーマインレッド』だ。
余談ではあるが、現行モデルなので新車でも買える。
運転席側の窓から中を覗いてみると、明るいオレンジ色のシートが二つ付いている。
そして、後部座席はなかった。
守行 それはツーシーターなんですよ。
二人乗りでオートマですね。
このタイプの車はマニュアルミッションが多いんですけどね。
中古でオートマでこのモデルがいいなら、これは運がいいですよ。
まりやは、そっと丁寧に運転席側のドアを開けて乗り込んだ。
運転席というより、戦闘機のコックピットのようだし、何より車はこうでなくっちゃ!というまりやの気持ちにピッタリだった。
お値段250万……試乗してみて気に入ったら、即決で買うことに決めた。
守行 試乗されます?
花咲 はい。
まりやは頷いた。
守行は微笑んで、走ってキーを取りに行った。 守行が息を切らせて到着した。
花咲 あの……大丈夫ですかね?
守行 何か問題でも?
花咲 試乗したいと言っておいてなんですが、運転するのが不安になって来たんです。
守行 大丈夫ですよ。
教習所に通って、曲がりなりにも免許取ったんでしょう。
若い人でAT限定じゃない人って、珍しいですね。
まりやは守行と共に、路上へ出て行った。
守行 左へ出ましょう。
まりやは、不慣れなせいか手が滑って方向指示器をうまく出せなかった。
守行 この道路は、交通量が元々少ないですから多少遅くても大丈夫ですよ。
落ち着いて確実に操作してくださいね。
花咲 こうやって車を運転するのは、教習所の時以来ですからね。
まだ、勘を取り戻せていないとでも言うべき状態でしょうね。
車が途切れて、よし今のうち!とアクセルを踏むと、思った以上の速さで前に出た。
花咲 きゃっ!
慌ててブレーキを踏んだ。
守行は、まりやの運転にちょっとハラハラしたようだったが、無事に道へ出た。
その後安定した走りを続けているまりやにホッとした。 リラックスした守行が、それとなくまりやに話しかけた。
守行 この車の名前はご存知ですか?
花咲 フェアレディZですね。
守行 よく知っていますね。
車はお好きですか?
まりやは頷いた。
花咲 好きというか、父がカーマニアでランボルギーニを所有しているんですよ。
こういう形の車が、小さい時からの憧れだったんですよ。
守行は笑った。
守行 そうなんですね。
乗ってみてどうですか?
花咲 思ったよりトルクがありますし、それでいて運転しやすいです。
まりやは素直に答えた。
花咲 教習所の車は日産クルーだったんですよ。
ハンドルを切っても反応が遅いし、サスもふにゃふにゃで運転しづらかったけど、この車はハンドル切ってもすぐに反応するし、アクセルを踏み込んだらスッと加速するし、サスもかっちりしているし、全然違いますね。
守行 そうですか。
結構、日産とは縁があるんですね。
花咲 運転が楽しくなりそうですね。
守行 ご家族をたくさん乗せる必要がないのであれば、最高だと私は思いますよ。
花咲 確かにそうかもしれませんね。
そんな感じで、横浜市内を約一時間ほど走り、あっという間に元の販売店に戻って来た。
指示された位置に車を止めると、店の中に入るように促された。
まりやは、クラッチバッグから小切手を取り出し、額面に数字を書き出した。
280万円と書いて守行さんに渡した。
諸費用を入れても300万円以内に収まった。 納車の日、ビックリするほどピカピカに磨かれたフェアレディZが、目の前にあった。
何でも、フッ素コーティングをサービスで実施してくれたらしい。
値引き交渉の時に余り粘らず、ほぼ即決で購入に至ったせいなのかもしれない。
まるで新車のように綺麗だ。
初めての車がこんなカッコいい車で、本当に良かった……。
嬉しい。
守行が事務所の中へ入るように促す。
何やら書類を取りに行ったようだ。
守行 こちらがキーです。
花咲 ありがとうございます。
まりやは、なんだかしんみりした。
守行 もし、何か気になることがあればいつでもご来店くださいね。
守行にキーを渡されて、まりやはそのキーを握りしめた。
そして、バックミラーに映っている、深々と頭を下げる守行の姿が小さくなっていった。
少し寂しさを感じた。
まりやは自宅へ向かって走ったのだった。
【終わり】