男「いい天気だなぁ」 幼女「こんにちはー!」トコトコ [無断転載禁止]©2ch.net
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男(なんだあの子……どうしてこんな山奥に?)
男は半年前に、山奥に建つこの家にひとりで引っ越してきた。家の周りには木ばかりが立ち、他に家などなかった。町の喧騒が聞こえないこの家を男は気に入っていた。
彼は平日は朝早くから車に乗り、町中にある役所まで仕事をしに通っていた。その日、男は一週間ぶりの休日を過ごしていた。
幼女「こんにちは!」
男「はい。こんにちは」
幼女「えへへ」ニコニコ
男(ここから町までけっこう離れてるぞ……。こんな小さな子がひとりで来れるはずがない。もしかしてはぐれたのか?)
男「ひとりで来たの?お母さんは?」
幼女「お母さんもいるよっ!」クルッ
幼女「……あれ?」
男「……」
幼女「お母さん……?」
男「……お母さんも来てるの?」
幼女「……うん。さっきはいたの……」 男(やっぱりはぐれたのか……。どうしたものかな。母親を探すにしても、こんな小さな子どもを連れて山を歩くのは危ないだろうし……)
男「お母さん、どこ行ったのかな?」
幼女「さっきまでいたんだよ。たんぽぽがいっぱい咲いてたの一緒に見たもん」
男(ということは、母親も近くまで来てるな。取りあえずは大丈夫か)
男「……ん?」
幼女「どこ行ったんだろ……」キョロキョロ
男「足ケガしてるね。どうしたの?」
幼女「転んだの」
男「痛かったでしょ。待っててね、いま絆創膏持って来るから」
男は急いで家に戻った。玄関に入ると、廊下が右から伸び、目の前で直角に曲がって奥の方で止まっていた。その廊下の両脇に部屋が二つある。右の部屋は寝室、左は居間だ。居間の奥に台所があった。
男は台所に入って消毒液と絆創膏を探し当てると、再び外に出てきた。 男「消毒するけど、ちょっと染みるよ」チョンチョン
幼女「んふ〜ジクジクするぅ〜」
男「あはは。はい絆創膏」ペタッ
幼女「ありがとう、おじちゃん!」
男「どういたしまして。……おや、あれは?」
母親「幼女ー。幼女ー」
幼女「あ、お母さんだ!おーいお母さーん!!」
母親「幼女ー」スタスタ
母親「急にいなくなるからびっくりしたんだよ。ひとりで歩いていったら駄目でしょ」
幼女「うん!」
母親「もう。あ、すみません。突然お邪魔して」ペコッ
男「いえいえ」
母親「本当はそこまで散歩して帰ろうと思っていたんですけど、ちょっと目を離したらこの子がいなくなってしまって」
男「そうでしたか」
母親「どこへ行ったのかと心配していたんですが……。見つかってよかった。ありがとうございました」
男「こんな山奥に突然小さな女の子がやって来たので私も驚きました。こうして再会できたようですし、なによりです」 母親「ええ本当に。さ、幼女も。ちゃんとお礼言いなさ……。あら?その絆創膏どうしたの?」
幼女「おじちゃんに貼ってもらったの!」
男「ちょっと転んでしまったようで。ケガをしていたので消毒をして絆創膏を貼りました」
母親「まあすみません。そんなことまでしていただいて。本当にありがとうございます」ペコッ
幼女「ありがとうございますっ!」ペコッ
男「いえいえ。幼女ちゃんは大丈夫?足、痛くない?」
幼女「大丈夫、痛くないよ!」
男「なら安心だ。帰りは気を付けるんだよ」
幼女「うん!」
母親「お騒がせしてすみませんでした」ペコッ 男「いえいえ」
幼女「おじちゃん!」
男「なんだい?」
幼女「また来ていい?」
男「ああいいとも。来週またおいで」
母親「もうこの子ったら……。うるさくてすみません」
男「いいんです。私はひとり者ですから。よければまた幼女ちゃんと遊びに来てください」
幼女「また来る!じゃあね、おじちゃん!」
母親「失礼します」ペコッ
男「ふふっ」 深夜
男「グガーグガー」ムニャムニャ
男「ウーン……フライパンは食べられないよ……」ムニャムニャ
その日の夜も静かだった。半年この家に住んでいるとはいえ、やはり夜は寂しいものだった。しかし今日は、昼にやって来たあの親子を思い出すことで、その寂しさを和らげることができた。そのため、いつもより安らかな気持ちで眠りに就いたのだった。
男「いや……だってパンじゃないでしょ……」ムニャムニャ
男「……」スピースピー
キャハハ キャハハハハ
男(ん……?)
キャハハ キャハハハハ
男(子どもの声……?なんで……。あれ?)
男(目が開けられない。体も動かないぞ)
男の耳には確かに子どもの笑い声が聞こえていた。体を動かすこともできず、眠気で頭がぼんやりしていたが、周りの音だけはよく聞こえていた。
タッタッタッ
キャハハ キャハハハハ
男(この部屋に近付いてくる?) ドタバタドタバタ
キャハハキャハハ
男(いや、もう部屋の中にいるのか?)
男(ふすまを開ける音が聞こえなかった)
男(まあいいや。起きないと)
だがいくら力を入れても、男の体はどこも動かなかった。それどころか、声を出すことすらできない。
男(なんだこれ……。どうなってんだ)
その時、部屋中を走り回っていた足音が、男の枕元で止まった。
男(なんだ?なにやってんだ?)
ぺたっ、と。男の頬に何かひんやりとしたものが触れた。男は驚いたが、それでも体は動かなかった。
キャハハキャハハ
ドタバタドタバタ
足音は遠ざかった。それとともに、男はまた眠りの世界へ導かれていった。
翌朝、男が目覚めると家の中はどこも変わっていなかった。
男(変だな……。確かに子どもの騒ぐ音が聞こえたんだが……)
男(ただの夢か?)
男(その割りには布団の感触とかほっぺた触られたのとか、リアルだったな)
男(なんだったんだ?) 職場
男「そう言えば今日変な夢見たんですよ」
先輩「変な夢?」
男「なんか部屋で子どもがすごい暴れてたんです。注意しようと思って体起こそうと思ったんですけど全然動かなくて。声も出なかったんですよ」
先輩「ふーん」
男「変だなぁと思ったんですよね。夢の割りには布団の感触とかリアルだし。あと、ほっぺたも触られたりして」
先輩「ふむふむ」
男「なんだったんですかねぇ」
先輩「それあれじゃねぇか?金縛り」
男「金縛り?」
先輩「金縛りにあってるときって結構幻覚見るらしいぞ」
男「そうなんですか?」
先輩「ああ。あるいはあんな山奥に住んでるもんだから、キツネかタヌキにでも化かされたか。はっはっはっ」
男「どうなんですかね」
男(あれが金縛りか……) 休日
その日は晴れていた。木々の葉が太陽の陽射しに照らされてきらきらと光っていた。
男「今日もいい天気だな」
幼女「おじちゃーん」
男「あれは……幼女ちゃんだ。本当に来てくれたのか」
幼女「おじちゃんこんにちは」
母親「すみません。どうしても来たいって聞かなくて」
男「いえいえ。いらっしゃい、幼女ちゃん」
幼女「えへへ」ニコニコ
母親「あの、これどうぞ」
男「あ、お菓子ですか。わざわざすみません」
母親「知り合いのお店で買ったんですが。よければ食べてください」
母親「あら?幼女はどこ行ったのかしら」キョロキョロ
幼女「お母さーん!」
母親「あ、こら!あんまりウロチョロしないの」
幼女「あっちにも道あるよ!」 母親「道って……。あっちは山じゃない」
男「幼女ちゃん、あっちに行ってみたいかい?」
幼女「うん。行きたい」
男「じゃあおじちゃんと一緒に行ってみようか」
幼女「うん!行く!」
母親「ちょ、ちょっと幼女……」
男「大丈夫ですよ。あっちもちゃんとした道ありますし。私も付いていきますから」
母親「そ、そうですか」
幼女「おじちゃん早く行こう!」
男「うん。行こうか。あ、お母さんも一緒にどうですか?」
母親「いえ、私は……。ここまで来るのに疲れてしまって」
男「そうですか」
幼女「おじちゃーん」
男「はいはい。じゃあお母さんはこの家でゆっくりしていてください。早めに帰ってきますから」
母親「はい。よろしくお願いします」
男「さあ、行こうか幼女ちゃん」
幼女「うん!」 山の中
幼女「わーい」タッタッタッ
男「楽しい?」
幼女「うん!」
男「幼女ちゃんは山が好きなの?」
幼女「大好き!」
男「そう」
幼女「あのお家も好きだよ!」
男「うれしいなあ。いい家だろう」
幼女「うん!」
男「今度来るときは幼女ちゃんのお父さんも連れてくるといいよ」
幼女「お父さんは来られないの」
男「え?どうして?」
幼女「お父さんは遠くにいるの」
男「遠く?」
男(海外かな?)
幼女「それでね、幼女とお母さんのことを待ってるんだって」
男「……?そうなんだ」
幼女「うん」 庭
山から帰ると、母親は庭で花を眺めていた。
幼女「お母さーん」
男「ただいま」
母親「あ、お帰りなさい。幼女、楽しかった?」
幼女「楽しかったよ!」
母親「そう。よかったね」
男「あの……。よかったらうちに上がっていきませんか?お茶も出しますから」
母親「え、そんな。これ以上お邪魔するわけには……」
男「邪魔じゃありませんよ。こんなところでひとり休日を過ごすのも寂しいですし、来ていただいて私もうれしいんです。どうぞ上がってください」
母親「そうですか。すみません本当に」 家の居間
男「今お茶の準備しますから」
母親「あ、すみません」
男「幼女ちゃんは麦茶でもいい?おじちゃんの家ジュースないんだ」
幼女「うん」
カチャカチャ
男「どうぞ。さっきいただいたものですが、このお菓子も」
母親「ありがとうございます」
幼女「ありがとう!」
パクパク
ゴクゴク
男「幼女ちゃんはいま何歳?」
幼女「5歳!」
男「じゃあ来年には小学生だ」
幼女「うん」
母親「もうあっという間で。気づいたらそんな時期になりました」
男「子どもは成長速いですもんね」 幼女「ちょっとトイレ」タタタ
母親「いってらっしゃい」
男「……」
母親「……」
男「あの、いつかご主人もご一緒においでください」
母親「え、ええ……。ありがとうございます」
男「さっき幼女ちゃんも言ってましたが、ご主人は遠くにいらっしゃるんですか?」
母親「実は……主人は少し前に亡くなったんです」
男「え……」
母親「交通事故で……。もしかしたら幼女はそのことがよくわかっていないのかもしれません」
男「そうでしたか……」
母親「それにしても、いいお家ですね」キョロキョロ
男「あ、ええ。安くて私でも買えました」
母親「安かったんですか?こんなにきれいなお家なのに」
男「きっと大切に使われてきたんでしょうね」
母親「……」
男「そういえば昔、この家にはある3人家族が住んでいたそうです。その家族は……」
男は不動産屋との会話を思い出した。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています