TRPG系実験室 [無断転載禁止]©2ch.net
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TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください
使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも) 一週間ルールしかも延長可のスレで4人目(師匠除く)で参加
その時点で1ターン4週間ペースでもルールの範囲内と確定してるわけで
準備、導入、戦闘開始、戦闘で秋冬になる可能性も分るでしょうに
参加する時にホントちょっと考えたら誰でも計算できること
それをいざ始まってから【これまでのペースを見ると】って物言いは酷すぎる
進行遅いからやっぱり抜けさせてもらいますという権利もあるのかもしれないけども
そういうのホイホイ罷り通ったら企画に集まろうという人が疑心暗鬼にかかってしまう
でもとりあえず参加というやり方が絶対ダメとも言えないのでこういう時はせめて
【参加した時は大丈夫だったけど急に○○(何か突発のリアル事情)になってしまって】
とか人のせいにしない方便を使って抜けたら周りの人の傷も少しは浅くなるはず
もちろん一番いいのはルールよく読んでちょっと考えてから参加すること
初参加の人は貴重なので忙しいのが終わったらまた挑戦してほしいなと思う >>207
【なるほど、それならリカルドさんは最初からいなかった方向で行きますね。
マリーさんとジェミニさんにはお手数をおかけしますがそれでよろしくお願いします】 オッケーです……が、今まで書いたリアクションを消して辻褄合わせて……
ってのが結構時間かかっちゃいそうなので、2日だけ期限を伸ばしてほしいです
金曜日までには投下しますね
……再募集とか、ないです?
ないですよねぇ…… >「君の加護……ナノマシンの操作は確かに守りには向いているだろう。
だが今回はパイオニストも来てくれている。守りというよりは索敵、偵察を
やってもらうことになる」
「あら、そうなんですか?それは……大変な仕事になりそうですね。
任せて下さい、索敵も偵察も、がんばりますよっ!」
パイオニストとはその名の通り、汚染地域の開拓が主な仕事だ。
汚染地域に眠る資源は有限だ。
探索可能な範囲を広げていかなくては、シェルターはいずれは技術的な限界か、物資の枯渇か。
あるいはその両方の理由によって滅びを迎える時が来る。
つまり彼らの仕事は、汚染毒に満ちた廃墟と共に、シェルターの未来をも切り拓く事。
そのパイオニストを、わざわざシェルターに呼び戻して、既知の汚染地域を探索させる。
生半可な事情では、そんな事は起こり得ない。
マリーの表情が少しだけ険しくなり……
>「お待たせー遅れてごめんねヤスモっさん」
不意に、彼女の緊張などお構いなしの軽やかな声と共に、会議室のドアが開かれる。
入ってきたのは、テンガロンハットとポンチョが特徴の、長身の女。
>「いやーまいったまいった!CSL(シェルター間秘匿鉄道)止まってんだもんこりゃ相当ヤバいことになってんね」
>「ジェミニ!来てくれたか!CSLはこの辺り一帯全て止められていて
来てくれるかどうか不安だったが……いや、とにかく全員揃って嬉しい」
ジェミニ、と呼ばれたその女性を、マリーはじっと見つめる。
深い意図はない。
ただヤスモトが声を弾ませるほどの実力の持ち主と思うと、自然と目で追ってしまっていた。
そしてジェミニとマリーの視線が交差する。
マリーは微笑み、右手を差し出しながら彼女に一歩、歩み寄り……
「初めまして。マリー・テレジアです。今回はよろしく……」
>「……マジ?こんなちっちゃい子も呼ばれてんの?センターってそんな人材不足やばいの?
てゆーかシスターが無人兵器に何するってのさ。連中に神の教えでも説くの?デウスエクスマキナ的なやつ?
ヤスモっさん、これは明らか人選ミスでしょー……今回のヤマって相当ヤバい案件だって聞いたけど」
……しかしそう続いたジェミニの言葉に、マリーの笑みと動きが凍りつく。
とは言え彼女の表情に浮かぶのは怒りではない。
まずは、予想外の言動を受けた事による困惑。そして次に……再び、友好の感情が。
「えぇ、無人兵器の方々にはこう、教えを説いています。
塵は塵に、灰は灰に……あるべきものは、あるべき場所に。
人に作られた人形は、人の為に働く……それがあなた達のあるべき、善き姿なのです、と」
瞬間、ジェミニの背後に不可視の「流れ」が生じた。
彼女になら知覚出来るだろう。
極小の粒子の群れが規則的な軌道を描きながら、自身の背後で、急速に、立体を作り上げつつある事を。
そしてジェミニが振り返れば……或いは彼女ならば振り返らずとも、その立体がハイランダーの姿をしていると分かる。
……その水晶質のハイランダーが、無色透明のマグカップを差し出している事も。
カップの中ではコーヒーが湯気を立てて、静かに揺れている事も。
水は彼女が持ち歩いているリュックサック、その中の水筒から用意されたものだ。
想像を絶するほどの数のナノマシンが、想像も出来ないほどの回数、水を掴み、持ち出し……コーヒーカップを満たした。
そして同様の手順でインスタントコーヒーと混ぜ合わせ、それらを振動させて沸騰させたのだ。 「……ほら、ね?」
マリーは首を小さく傾げて、改めてジェミニに微笑みかける。
無論、コーヒーメーカー型ハイランダーは彼女がナノマシンで作っただけのハリボテだ。
だが、マリーが自動機械の回収に注力しているというのは嘘ではない。
彼女のナノマシンは損傷を最小限に抑えつつ機械の動作を停止させる事が出来るし、
そうする事はハイ・カーストのご機嫌を取る事にも繋がるからだ。
上手く無人兵器が再利用される事になれば、巡り巡って人命の保守にもなる。
……要するにハイランダーは彼女にとって、破壊の対象にすらなり得ない。
コーヒーメーカーを相手に「戦い」を挑んで、壊してしまう者などいないように。
>「そういうわけだ、ジェミニ。
文明崩壊前の技術を持ち、探索者としても見事な腕前。参加資格は十分だろう?
他のパイオニストや腕のある探索者はいるが対中型、大型の経験や
武装を持った者はほとんどいないからな、このような変則的な編成になった」
そう言うとヤスモトは立ち上がり、卓上の立体プロジェクターの電源を入れる。
映し出されたのは……探索者のチームが無人兵器に蹂躙される様子だった。
……マリーが右手をテーブルの下で固く握り締める。
>「今回の目標は汚染区域に存在する中型、もしくは大型無人兵器の無力化、もしくは捕獲だ。
目標に関するデータは偵察ドローンが撮影した動画と、破壊された偵察ドローンの写真だけだ。
シェルターのデータベースによれば『ヒグマ』か『スズメバチ』のどちらかだと思われる」
「……どちらにしても、野放しには出来ませんね」
>「今回はシェルターからの全面的な支援が約束されている。
可能な限り物資の要求には応じてくれるそうだ。
……解毒剤もA級を出してくれるぐらいだ」
ヤスモトがバックパックから解毒剤を取り出す。
マリーは以前にも、何度もハイ・カーストからの依頼を受けているが、
A級解毒剤を支給されたのはこれで二度目だ。
毒物というものは、必ずしも「解毒薬」が存在する訳ではない。
例えばトリカブトに含まれるアコニチンには解毒薬が存在しない。
しかしそのアコニチンにも、科学全盛の時代においては「解毒剤」は存在した。
ナノマシンや人造微生物を用いて体内から毒性物質を排出させる解毒剤が。
汚染毒に対する解毒剤も、同様である。
つまり……多大なエネルギーと、高度な科学技術によってのみ生成し得るものなのだ。
だがマリーの操るナノマシンでも、体内の毒性物質を掴み、排出するなどという事は出来ない。
>「マリー、君にだ。ジェミニ。君には予備を持っておいてほしい」
「ありがとうございます。教会で大切に保管しておきますね」
……それはつまり、今回の任務でこの解毒剤を使うつもりはない、という事だった。
マリーのこの悪癖は、今に始まった事ではない。
「あっ、ヤスモトさん。私、食料とお水も沢山欲しいです!」
彼女は任務で支給された物資の殆どを、教会の為に持ち帰っているのだ。
それは解毒剤であっても例外ではない。
……もっとも最近はハイ・カーストもその事を理解していて、
報酬としての物資支給を確約する事で、彼女の悪癖を抑制しようとしているとか。 ttp://jbbs.shitaraba.net/internet/9925/
な、なんだか知らないけどNGワードで弾かれちゃったのでこっちに投下しときました……
なんかこのスレの風当たり強い…… 不躾ともとれるジェミニの誰何に対し、マリー・テレジアと名乗った修道女は困惑こそあれど気を悪くした様子はなかった。
どころかその顔には当初の友好的な笑みが戻り、鈴の音のように清らかな声で彼女は答える。
>「えぇ、無人兵器の方々にはこう、教えを説いています。塵は塵に、灰は灰に……あるべきものは、あるべき場所に。
人に作られた人形は、人の為に働く……それがあなた達のあるべき、善き姿なのです、と」
「おっ?」
瞬間、ジェミニはそれまでのリラックスした態勢から瞬き一つするより速く動いていた。
右の踵を軸に身体を反転させ、振り返る動きと後ろへ下がる動きとを同時にこなし、更に右手にはいつの間にか抜き放った銃がある。
僅かコンマ1秒、振り向きざまに構えた銃口の先には、結晶に近い材質で構築された――人形の無人兵器が音もなく立っていた。
「茶運び人形にしちゃー随分物騒な見た目じゃん?」
危うく引きかけたトリガーから指を離しつつ、ジェミニは視線だけをマリーに遣ってそう言った。
ジェミニの背後で湯気を立てるマグカップを差し出しているのは、小型の無人兵器――『ハイランダー』だ。
強力なステルスと武装を持った戦闘特化型で、シェルター近郊を徘徊することもある、探索者達によっては死神にも近い存在。
そのハイランダーを模した人形がサーブしてきたコーヒーを、ジェミニは怖じることなく受け取ってふーふーしながら啜った。
旨い。専門のドリッパーで淹れたかのように芳醇な香り、水出しに近い雑味のなさ。
この会議室に備え付けられている安物のコーヒーサーバーでは到底作り出せない味わいだ。
>「……ほら、ね?」
無論、この少女が自身のコーヒー作りの腕前を誇示しているわけではないことはジェミニにも分かる。
マリーはこう言いたいのだ。彼女にとってハイランダーなどコーヒーメーカー程度の機械に過ぎないと。
>「そういうわけだ、ジェミニ。彼女はナノマシン能力者だ。
文明崩壊前の技術を持ち、探索者としても見事な腕前。参加資格は十分だろう?
他のパイオニストや腕のある探索者はいるが対中型、大型の経験や
武装を持った者はほとんどいないからな、このような変則的な編成になった」
間を計ったようにヤスモトが補足を入れる。
ジェミニはおろかこのシェルター都市の中でも随一のキャリアを誇るヤスモトの推薦だ。信頼性において疑う余地はないだろう。
そしてジェミニ自身、マリーがたった今行ったデモンストレーションで彼女の力量を理解してしまっている。
「……まあいーけど。シスターちゃんがコーヒー淹れるの超上手いってことはわかったよ。
戦場で美味しいコーヒーがいつでも飲めるってだけでも、ついてきてもらう理由にはなるね」
ジェミニは肩を竦めて戦闘態勢を解いた。皮肉はどちらかというとびっくりさせられた負け惜しみに近い。
もとより単独での戦いを好むジェミニにとって、同行者には最低限の自衛力さえあればそれで問題はない。
端的に言えば、彼女はこの期に及んでマリーの戦力を当てにしていなかった。
慢心ではなく、これまで戦い抜いてきた探索者としての腕前への自負が、ジェミニの態度を形作っていた。
「あたしが信じるのは説法じゃなくて鉄砲だかんね。ほらココ笑うとこだよヤスモっさん……それ笑ってんの?」
顔部分のインジゲータランプをチカチカ点滅させるヤスモトを半目で見ながらジェミニは着席し、会議の進行を促す。
即席チームのリーダーは立体投影機を操作し記録された映像を呼び出した。
>『駆動音が聞こえた!左!』
>『端末はまだ使えねえのか!』
阿鼻叫喚の図が解像度の低いドローン越しに繰り広げられ、ごく僅かな時間で全てが終わった。
銃声と悲鳴、低く轟くような無人兵器の駆動音。砂塵に塗れた地獄絵図。砕かれたサイボーグの部品と探索者達の血肉。 「……こんだけ?一方的な殺戮しか映ってないじゃん。敵の武装の情報一つ引き出せずに死んじゃったのこの人たち」
ジェミニの物言いは、人類の為に探索者として散って行った者達に対してあまりにも酷薄なものであった。
理屈の上では文句の一つも言いたくはなるだろう。シェルター存亡の有事に際して得られた情報は極めてお粗末だ。
このほんの一握りの情報を元に戦いを挑まねばならない自分たちにとっては頭の痛くなる話だろう。
溜息をつきながら目頭を揉むジェミナの姿に、マリーのような犠牲者への黙祷を捧げる意志は感じられない。
>「今回の目標は汚染区域に存在する中型、もしくは大型無人兵器の無力化、もしくは捕獲だ。
目標に関するデータは偵察ドローンが撮影した動画と、破壊された偵察ドローンの写真だけだ。
シェルターのデータベースによれば『ヒグマ』か『スズメバチ』のどちらかだと思われる」
「相変わらず上層部は無茶苦茶言うなぁ。『スズメバチ』に全滅させられたシェルターがいくつあると思ってんのマジで」
端末に送られてきたデータはジェミニにとって既知のものばかりだった。
つまりはハイカーストも支援センターも、今ある以上の情報はなにも掴めていないままに討伐しろと言って来ているのだ。
探索者稼業に無茶は付き物とはいえ、手ぶらで死地に赴けと言わんばかりの差配には涙が出る。
>「……どちらにしても、野放しには出来ませんね」
「今回ばっかはお説法も通じなさそうじゃない?ヒグマの淹れたコーヒーなんか飲みたかないよあたしは。くさそう」
揶揄するような口調でマリーを突ついていると、ヤスモトはバックパックからセンターの刻印の入った箱を出して机に置いた。
>「今回はシェルターからの全面的な支援が約束されている。可能な限り物資の要求には応じてくれるそうだ。
……解毒剤もA級を出してくれるぐらいだ」
「わおっ、太っ腹だねぇ。いやこれは皮肉じゃなくてさ、だいぶなりふり構ってらんなくなってるってことでしょ」
A級解毒剤は本来ハイカーストの中でも限られた身分や最上位の探索者にのみ配給される貴重品だ。
パイオニストもここにあたり、長期に及ぶ任務が前提のジェミニも補給の度に受け取っている。
要するに、間違っても汚染毒で失ってはならない超重要な人材を保護する為の措置だ。
同時に、通常の解毒剤のような短い効力期限を設けることによる『首輪』を解き放つ信頼の証でもある。
>「マリー、君にだ。ジェミニ。君には予備を持っておいてほしい」
「相変わらずヤスモっさんは信頼されてるね。こんな急ごしらえのチームにA級配るなんてそうそうないよ」
>「ありがとうございます。教会で大切に保管しておきますね」
「……こーいう輩が絶対出てくるしさぁ」
当たり前のようにネコババ決め込む発言をするマリーをジェミナは半目で見た。
シェルターが何故探索者や都市外労働者に対する解毒剤の供給を制限しているかと言えば、前述の『首輪』を付ける意味合いが強い。
通常の解毒剤の効力は短く、一日から三日程度で分解されてしまって汚染毒に対して無防備になってしまう。
つまり、それくらいの周期で必ずシェルターに帰らなければならない。解毒剤なしに外の世界で生きることは出来ない。
そうすることでシェルターは人材の流出を抑止し、探索者達を都市に縛り付けているのだ。
探索者が都市経済において担う役割は、彼ら自身が思っているよりもずっと大きい。
シェルターの中で生産できる物資に限りがある以上、必ず外で資源を採取してくる必要があるのだ。
そこに気付いてしまえばシェルターの走狗として人生を終えることに疑問を抱く者も出てくる。
己の実力を商品として、別のシェルター国家へ売り込みに行く者や、忠を尽くすことを条件に物資を要求する探索者もいる。
>「あっ、ヤスモトさん。私、食料とお水も沢山欲しいです!」
例えばそこのマリーのようにだ。
この幼き修道女は、始めの印象よりもずっと強かだった。シェルターの内情を読み、上手く立ち回っている。
ただの博愛主義の宗教家ではないことに、ジェミニもようやく気付いた。 「うーん困った。ちょっと気に入りかけてるよシスターちゃんのこと」
まぁ、良いけどね。とジェミニはいつもの如く口癖のように呟いた。
>「作戦決行は明日の朝だ。汚染区域の市街地を抜けて犠牲者の多いビル群で探索を行う」
「オッケー。シャワー浴びる余裕があってよかったよ」
ジェミニは資料を纏めて席を立つ。そうして黙った。
何度も一緒に戦って、その度に生き残ってきた歴戦の戦友が、いつも作戦前に言う言葉がある。
これを聞いてはじめて、ジェミニはこのシェルターに帰ってきたと実感できるのだ。
>「……僕の話は終わり。今度もみんなで、生きて帰ろう」
ジェミニはヤスモトの機械製の頭部を真っ直ぐ見つめて頷いた。
「……了解」
それは、この死と隣り合わせの世界において一番当たり前で――最も尊い考え方だ。
『みんなで生きて帰る』。この言葉を安いおべっかではなく本心から尊重しているからこそ、ヤスモトという男は信頼できる。
彼が、このシェルターの探索者の中心に在り続けてきた最大の理由だ。
>「はいっ、私と、ヤスモトさんと、ジェミニさんならやれますよ!私、せいいっぱい頑張りますね!」
打てば響くような快い調子でマリーが同意した。ネコババした解毒剤の件が嘘のように清らかな笑顔だ。
>「……あ、ヤスモトさん。支給される物資の事なんですけど、
簡易キャンプキットと、応急手当キットも欲しいです!あと、えーと……万が一の時の為の銃器とか……」
前言撤回。笑顔は牙を剥いた肉食獣のつくるそれだった。
翌日、探索地点に指定されたビル群に選抜チームの三人は立っていた。
ここに来るまでに小型の無人兵器を何体か仕留めている。ドローンによる索敵からの先制攻撃は非常に効果的だった。
「この区画って元々の小型遭遇率はそんなに高くなかったはずだよね。
他の探索者達が撤退してるからってのもあるんだろうけど、やっぱり何かあるよこの辺り」
小型兵器との遭遇率の高さは、すなわち無人兵器の『前線』が押し上がっていることを意味している。
彼らの後方に強い無人兵器がいて、いつもよりも強気に攻めてこれていると考えるのが自然だ。
>「あっ、勿論だからって手を抜いたりしませんよ!むしろジェミニさんが集中出来るようにいっぱい頑張ります!」
「シスターちゃんもそう言ってくれてるし、ちょっと索敵範囲広げてみよっか。おいで『ミーティア』」
ジェミニが腕を掲げると、周囲を飛び交っていたドローンのうち一体が寄ってきて小鳥のように止まった。
『ナンモナイヨ。チョーヒマ』
「索敵半径を50mくらいでもっかい行ってきて。ステルス強度は65GPS、音波と赤外線も併用してね」
『カシコマリ』
静音ローターによる無音飛行でドローン達が廃墟の空に散っていく。
ジェミニはドローンの得た情報をリアルタイムで受信しながら、時に細かい指示を出しつつ敵影を絞り込む。
上手く敵を見つけられれば、先制攻撃が可能になるだろう。あとはヤスモトの作戦次第だ。
【索敵ロールを行います。敵を発見できれば種類、数、大きさ、見える武装などの情報を取得するので判定を下さい】 >「あっ、勿論だからって手を抜いたりしませんよ!むしろジェミニさんが集中出来るようにいっぱい頑張ります!」
>「シスターちゃんもそう言ってくれてるし、ちょっと索敵範囲広げてみよっか。おいで『ミーティア』」
「僕も手伝おう。さっきから無人兵器の通信量が増大しているんだ。
……あのビルの屋上がいい」
ヤスモトの頭部にあるハッキングアンテナは、無人兵器たちが
相互通信によって意思疎通をしていることが分かったことから装備しているものだ。
通信傍受、無人兵器を装った偽装通信、通信位置の特定など
ヤスモトのもう一つの眼と言ってもいいほど探索には有用な装備である。
>『カシコマリ』
「……霧の濃度も上昇してきているね。ヒグマとスズメバチに
そういう機能はない…別種の自動兵器かな?」
3階建ての小さなビル、その屋上に陣取った3人は各々の技能を活かして
周囲の地形にいかなる自動兵器が潜んでいるのか、索敵に励んでいた。
と、マリーの視線が急に動いた。
ビル群の奥、恐らくは主要な道路だったのであろう広々とした道路だ。
先程よりさらに深くなった霧によって視界は10mほどしかないが、
ヤスモトのハッキングアンテナはその霧の奥に何かがいることを捉える。
「マリー?何か見つけたね。ジェミニ!ミーティアをいくつか
今から言う座標に頼む。G-6-44とG-6-58だ」
熟練した探索者である3人だが、濃い霧は視覚的にだけでなく
電波や赤外線といったセンサー類も阻害する。
敵が捉えられないことも十分に考えられるが、3人の経験と実力は
それを十分に乗り越えられる可能性を持っている。
【索敵ロール判定です!このレスの下二桁が
02〜20なら種類
21〜40なら種類+数
41〜60なら種類+数+大きさ
61〜80なら種類+数+大きさ+武装
81〜99なら先制攻撃可能
01なら逆に奇襲を受けます
00なら目標発見+奇襲可能
情報取得なら次のレスもジェミニさんでよろしいですか?】 【判定どうもです。索敵ロールはマリーちゃんさんも同様に行ってる感じなので通常通りのレス順でお願いしたいです
ジェミニの得た索敵情報は全てチーム内で共有してるって感じで、必要なら「ジェミニからそう聞いた」って描写挟んじゃって下さい】 【では次のレスは順番通りマリーさんでお願いします!】 >「マリー?何か見つけたね。ジェミニ!ミーティアをいくつか
今から言う座標に頼む。G-6-44とG-6-58だ」
「小型が六体……これは、どうやらヤスモトさんがさっき言ってた「別種」……ですね」
散布したナノマシンが「何か」の表面を撫で、その輪郭を捉えたマリーが呟く。
「何か」は、かつては兵器ですらなかった機械だった。
まだ高効率な食料培養システムが確立される前、農業の効率化の為に開発された機械。
機体内で合成した薬物を散布する事で天候を操作し、植物の成長を促進させる……型式名は、クロノス。
科学全盛の時代……滅びが訪れる直前の社会では、博物館くらいでしか見る事の出来なかった旧式は、
今では時を巻き戻したかのように量産され続け、働き続けている。
霧を、雨を、それらに乗せて汚染毒を散布し、無人兵器の領域を広げる旗手として。
「……クロノス、それにキャリーカブが三体ずつですね。
キャリーカブは護衛兼、霧を広める為の移動手段といったところでしょうか」
マリーが霧の彼方の敵性機械から、ヤスモトへと視線を戻す。
「どうします?今すぐ破壊しますか?」
クロノスによる霧の濃度上昇は、今回のターゲットを捜索する上で厄介な障害となる。
ヤスモト達は皆、視覚に頼らない索敵、情報収集手段を持ってはいるが、汚染毒を含む霧は電波を反射させる。
ナノマシンの機動も霧によって制限される。つまり……霧は僅かではあっても、チームの能力を低下させる。
その能力の低下が中型、大型兵器との戦いの中で致命的なものにならないとは限らない。
だが一方で、クロノスを破壊した所で霧の濃度がすぐに低下する訳ではない。
薬物の散布が停止しても、霧が薄まるまでには少なくとも数時間はかかる。
あるいは散布された薬物の量によっては数日を要するかもしれない。
「……この霧なら、自動兵器達の通信もそう長い距離までは届きません。
だけどもしあのクロノス達が、中型、大型の通信可能圏内にいたら……ちょっと、厄介ですよね」
そしてその上で問題となるのは……
クロノスが中型、大型兵器の通信可能圏内にいた場合、奴らを破壊する事は自分達の存在を気取られるという事だ。
と、不意に、彼女の引き連れる天使像ミカエルの翼から、羽が舞い散った。
羽はマリー達の周囲に球を描くように散らばり……滞空する。
マリーがヤスモトとジェミニに向けて何かを喋ろうとして……口だけが動いて、声は伴わなかった。
彼女は二人の返事がない事に首を傾げ、そしてすぐに、しまったと言いたげに口に手を当てる。
「ん、こほん……とは言え、悟られるとしても「いる事」まで。
居場所はバレっこないですけど……どうしますか?ヤスモトさん。ジェミニさん。
今度は聞こえてますよね?」
彼女が図らずも実演してみせた通り、散布された羽は『消音器』だった。
原理は極めて単純だ。彼女がナノマシンを操り、音の振動を吸収させる。
索敵に必要な環境音や、会話が必要なら話し声だけを例外として。
「……あっ、あと言わなくても大丈夫だと思うんですけど」
人差し指をぴんと立てて、マリーが付け加える。
「これだけ霧が濃くなってるって事は……「アレ」も出てきてるって事ですよ。
昨日もお見せしたアレです。二体、こちらに向かってきてるみたいですけど……大丈夫ですよね?」
【遅くなってすみません!アレに関しては、遠くの的だけだとアレかなって感じです!】 >「マリー?何か見つけたね。ジェミニ!ミーティアをいくつか今から言う座標に頼む。G-6-44とG-6-58だ」
「おっけい。釣果があるかな」
各々の索敵の結果は一致した。ミーティアを飛ばした先に6つの機影がある。
先刻からこの区域を覆いつつある霧のせいでジェミニには輪郭くらいしか判別出来ないが、マリーには『手触り』が分かるようだ。
>「……クロノス、それにキャリーカブが三体ずつですね。
キャリーカブは護衛兼、霧を広める為の移動手段といったところでしょうか」
「クロノス?ってーとアレでしょ、旧時代の農薬散布マシン。よくそんなの引っ張り出してきたね向こうも。畑もないのにねぇ」
ジェミニはざっくりと切り捨てたが、クロノスは単なる農業の支援機械ではない。
特殊な薬物を上空の雲に投入することで自在に雨を降らせたり逆に雲を消して快晴にしたりできる、総合天候操作機構だ。
人類がシェルターに引き篭もった現代には無用の長物と化してしまったが、確かに一時代を担っていた神の機械。
>「……この霧なら、自動兵器達の通信もそう長い距離までは届きません。
だけどもしあのクロノス達が、中型、大型の通信可能圏内にいたら……ちょっと、厄介ですよね」
「一番やばいのはさ、あたし達がここに来てること見越して放たれた斥候ってパターンだよね。
この霧で視界と通信が悪いのはあっちも同条件だけど、それ込みでのデコイだったら連中は絶対敵の通信範囲から出てこないよ」
汚染毒の発生源に通信範囲ギリギリを巡回させてこちらの出方を伺う。
やり方はまさに『釣り』だ。あからさまなエサをぶら下げて探索者達が破壊に動けばそこを一網打尽にする。
半端な経験しかない中堅どころを投入していれば容易くあちらのシナリオ通りにことが運んだだろう。
作戦参加を高位の探索者だけに限定したセンターの先見の明には頭が下がる。
その時、ふと何かがジェミニの視界を横切った。
ミーティアの三点観測によってそれが無害な物体だと事前に把握していたジェミニは気にも留めないが、
マリーが不意にわちゃわちゃしだしたことで彼女の仕業だとようやく気付く。
幼き修道女が散布したものは、彼女が何故か作戦領域に持ち込んだ天使像の羽根。
ナノマシンで出来たその造形物は、周囲の音を吸着する効果を有しているようだ。
「へぇ、いいねこれ。超高性能サイレンサーってわけ。こういうの欲しかったんだよねぇ。
この任務終わったら何枚か安く譲ってよシスターちゃん」
大砲みたいに大口径の銃をぶっ放すジェミニの戦い方は隠密性とは完全に無縁の世界だ。
人類生存域の限界点で戦う彼女にとって、敵地で大音量を立てることは自分の位置を常に知らしめているに近い。
むしろそうすることで彼女なりの「釣り」を行っていたフシもあるが、敵に気取られずに行動することの有利は論ずるまでもない。 >「ん、こほん……とは言え、悟られるとしても「いる事」まで。
居場所はバレっこないですけど……どうしますか?ヤスモトさん。ジェミニさん。今度は聞こえてますよね?」
「通信良好。この距離ならあたしの射程内だし、ショット&ムーブで破っちゃう?」
>「……あっ、あと言わなくても大丈夫だと思うんですけど」
>「これだけ霧が濃くなってるって事は……「アレ」も出てきてるって事ですよ。
昨日もお見せしたアレです。二体、こちらに向かってきてるみたいですけど……大丈夫ですよね?」
「こっちでも着認したよー、コーヒーメーカーが二匹、バディかな。騒がれても面倒だし始末してもいいよねヤスモっさん」
ハイランダーの接敵ジェミニは何ら気負う様子もなく腰から拳銃を抜いた。
強装仕様の大型リボルバー『ワイルドベア』。握りの具合を確かめるように左右に振りながら、左手の親指で撃鉄を起こす。
「シスターちゃん、その羽根今から送る座標とあたしの銃に貼っつけて」
電脳経由で速記したマップデータをマリーの端末へと送信。
そこには旧時代から人の手を入れられずに成長したのだろう、樹齢三桁はありそうな巨大な奇形樹が屹立していた。
幹は大人が10人手を繋いでも一周できそうにない、大樹だった。
「今からその木、ぶっこ抜くから」
刹那、ジェミニの左手が羽撃きのようにブレた。
拳銃の引き金を引いたまま、撃鉄だけを指先の動きで瞬間的に複数回弾く『ファニング』と呼ばれる早撃ちの技術だ。
サイボーグである彼女の動作精度で行えば、弾丸が縦列を作って飛翔する。
羽根により無音で放たれた都合6発の徹甲弾は、瞬きよりも速く大樹へと着弾。
6つの巨大な弾痕によって幹を中腹から『切り落とした』。
自由落下する巨木は、こちらへ向けて進行中のハイランダー二体を巻き込む形で降っていく。
――ジェミニが間接的な攻撃を選んだのは、ハイランダーに探索者の存在を匂わせることを避けた為だ。
例え自らが破壊される寸前であっても、無人兵器は仲間でその状況を通信で伝えることができる。
だから、巨木の倒壊に巻き込まれたというカバーストーリーによって、何者かが無人兵器を攻撃したというログを相手に残させない。
「取りこぼしちゃってたら、あとはお願いねー」
【アレを間接的に攻撃】 >「……あっ、あと言わなくても大丈夫だと思うんですけど」
>「これだけ霧が濃くなってるって事は……「アレ」も出てきてるって事ですよ。
昨日もお見せしたアレです。二体、こちらに向かってきてるみたいですけど……大丈夫ですよね?」
>「こっちでも着認したよー、コーヒーメーカーが二匹、バディかな。騒がれても面倒だし始末してもいいよねヤスモっさん」
「彼らはクロノスの群れと通信しているみたいだ。
群れを囮にハイランダーが狩る、いわゆるグループだね。仕留めておこう」
自動兵器は同種類、または同じような種類どうしで群れを形成することが多いが、
まったく違った兵器が相互通信の下統率された動きを行うことがある。
そうなっていると確認された自動兵器群はグループと呼称され、
罠や初歩的な戦術を使うことが多い。
>「取りこぼしちゃってたら、あとはお願いねー」
「……一機、運良く避けたようだね。ジェミニは相変わらずだが、
あのハイランダーはそれなりに経験を積んでいるようだ」
ジェミニの早撃ちは見事だったが、無人兵器のAIは経験を積むことでより賢くなる。
もし、破壊を免れ上手く探索者たちを狩り続けたならば、それは熟練した探索者や
サイボーグ並みにずる賢く、厄介な存在になりうるだろう。
そして今生き残ったハイランダーは、まさしくそれだった。
片腕は大樹の幹に押し潰されたようだが、それを強制分離することで再び立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。
「……グループの通信網は事故だと判断しているようだね。
他に自動兵器はいないようだし、巣に戻られる前に狩って――伏せろッ!」
ヤスモトが叫ぶと同時に、続けざまに十数発の銃声が辺りに轟く。
明らかにこちらを狙った攻撃だが、瞬時に展開されたヤスモトの湾曲型防弾シールドが弾道を辺りに曲げて防ぎきった。
「道路の奥!距離350からの狙撃!……あの記録映像と銃声が一致!
グループの通信量も増大しているね、次の狙撃が来る前に降りよう!」 屋上からふわりとヤスモトは飛び、脚部の反重力システムが落下の衝撃と速度を和らげる。
そしてハッキングアンテナの指向性を全周囲から、狙撃された方向に向けた。
「………他の無人兵器とは違う!情報量が圧倒的すぎる……
これは大型かもしれない、広い道路のあるビル群でのみ犠牲者が多かった理由がこれなんだ!」
そして、それはゆっくりと姿を現した。
道路を押し潰すように動く二つのキャタピラ、部分的に剥げている灰色の都市迷彩。
シェルターが保有している装甲車よりもはるかに巨大な車体。
そして、二つの機銃が搭載され、装甲の組み合わせに一切の無駄がない、鋭角的なフォルムの砲塔。
かつて戦場を支配した兵器の一つ、戦車がそこにいた。
「……通信のアルゴリズムが違う。
あの兵器はもしかして戦前から生き残っているんだろうか?」
すると、戦車の砲塔がヤスモトたちではなくグループの方を向いた。
数秒だけ戦車が止まり、揺れが収まった瞬間閃光と衝撃が辺りに走る。
グループのいた道路は丸ごとえぐり取られたように削られ、吹き飛んでいる。
無人兵器の残骸は辺りに飛び散ったのか、そこにいたのかどうかもう分からないほど粉砕されていた。
「――ハイランダーがあれを敵と認定したみたいだ。
巣を攻撃される前に破壊したいようだね。僕らの巣もあんなのを食らえば吹き飛ぶだろう」
「やろう。目標はあの無人兵器だ」
【今回の目標の登場です!頑張って撃破するなり無力化するなりしましょう!】 >「へぇ、いいねこれ。超高性能サイレンサーってわけ。こういうの欲しかったんだよねぇ。
この任務終わったら何枚か安く譲ってよシスターちゃん」
「はい、勿論構いませんよ!……開拓者であるあなたからすれば、大抵のものは安いの部類に含まれるはずですよね」
ジェミニの頼みに快活な返事をした後で、マリーは小さくそう呟く。
>「シスターちゃん、その羽根今から送る座標とあたしの銃に貼っつけて」
と、腕に装着した小型端末が微振動。
送られてきた座標は……
「あの木ですか?構いませんけど、なんであんなとこ……」
>「今からその木、ぶっこ抜くから」
「へっ?……あ、あーそういう!ちょ、ちょっと待って!まだだめですよ!」
天使像から数十枚の翼が舞い散り、風のない廃墟を横切っていく。
直後にジェミニが銃を抜いた。
その両手が一瞬、マリーの眼では捉えられないほど素早く、かつ精密に動く。
引き金を引き、その直後に右手の親指が再度撃鉄を起こす。
そして発砲、直後に人差し指が撃鉄を起こし……再び銃口が火炎を散らす。
それが一弾倉分、都合六回繰り返されて……そこで初めて、マリーは彼女がなんらかの動作を取った事を認識した。
そして慌てて銃口の先を見る。
遠くに見えていた大樹の幹に、重なり合った大穴が六つ穿たれていた。
「……今の、六発撃ってたんですか!?ひえぇ、銃声一つしか聞こえませんでしたよ、私」
>「取りこぼしちゃってたら、あとはお願いねー」
大樹やビルを倒壊させて無人兵器を破壊するという作戦は、一般の探索者にも時々用いられる事がある。
だがそれは多量の人員と爆薬を用いて行う大規模作戦としてだ。
それをジェミニは事も無げに成してみせた。驚き混じりの賛辞を口にするマリーに対してもさしたる反応を示さない。
つまり彼女にとってこれくらいの事は、ただの手札の一枚……という事だ。
>「……一機、運良く避けたようだね。ジェミニは相変わらずだが、
あのハイランダーはそれなりに経験を積んでいるようだ」
「……今のを避けたとなると、相当な学習量ですよ。
急な環境の変化に対応出来るって事は……何度も同じような状況から勝ち抜いてきたからです。
さて、上手く騙されてくれるか……」
>「……グループの通信網は事故だと判断しているようだね。
他に自動兵器はいないようだし、巣に戻られる前に狩って――伏せろッ!」
不意にヤスモトが叫んだ。
言われるがままに咄嗟に屈み……同時に響く銃声。
天使像がマリーとジェミニを庇うように翼を広げ……しかしその操作は無意味だった。
銃弾の軌道は天使像の翼に届く前に、まるで見えないレールに乗せられたかのように外側へと逸れていった。
ヤスモトが展開したシールドによる現象だ。
>「道路の奥!距離350からの狙撃!……あの記録映像と銃声が一致!
グループの通信量も増大しているね、次の狙撃が来る前に降りよう!」
「は、はい!あの、ジェミニさん、えと、ご一緒しますか!?」
開拓者である彼女ならこの状況も自分でなんとかしそうなものだが、
かと言ってまったく声もかけず自分だけ逃げ出すのも据わりが悪くて、マリーはそう尋ねた。 彼女は天使像の翼に抱かれるようにしてジェミニを見ている。
もしジェミニが彼女の提案に乗れば、反対側の翼は彼女の席になるだろう。
だが……他の探索者にはよく誤解されがちだが、彼女の天使像に人を支えて飛ぶ為の飛行能力はない。
ミカエルが単体で飛行移動が出来るのは、一時的にナノマシン間の結合を弱めているから。
言わば煙のような状態になっているから、自重に囚われず飛ぶ事が出来るのだ。
つまり……現在いるビルの屋上から飛び降りる際に、天使像に可能なのは着地の衝撃の吸収のみ。
数秒間の空の旅は、景色を楽しむようなものにはならないだろう。
さておき着地を果たすと、一足早く地上に降りていたヤスモトは既に、先の狙撃を行った兵器を捕捉しているようだった。
マリーもナノマシンを飛ばして、その位置と輪郭を捉える。
>「………他の無人兵器とは違う!情報量が圧倒的すぎる……
これは大型かもしれない、広い道路のあるビル群でのみ犠牲者が多かった理由がこれなんだ!」
>「……通信のアルゴリズムが違う。
あの兵器はもしかして戦前から生き残っているんだろうか?」
「有視界戦闘の出来ない距離から、取得情報量の多さに物を言わせて一方的に殴りつける。
……確かにクラシカルな戦術ですね」
>「――ハイランダーがあれを敵と認定したみたいだ。
巣を攻撃される前に破壊したいようだね。僕らの巣もあんなのを食らえば吹き飛ぶだろう」
>「やろう。目標はあの無人兵器だ」
「えぇ、ヒグマでもスズメバチでもないのが少し気がかりですが……少なくとも、アレは止めないと。
あちらが古式ゆかしい戦法を取るなら……こちらも、古式ゆかしい攻略法を取ればいい……ですよね?」
そう言ってマリーは戦車の射線を避けるようにして接近を開始した。
旧時代の主力戦車……MBTの周辺に散布したナノマシンが、戦場の状況をマリーに伝える。
片腕を失ったハイランダーはMBTを敵と認識したらしい。
ヒートナイフを展開しMBTへと距離を詰めていく。
瓦礫や建造物、植物群を利用した、ステルス装甲を最大限に活かした機動。
そして接近を果たしてからの……ヒートナイフの一閃。
それをまともに受けた戦車の装甲には……しかし傷跡は残らない。
表面に生えた苔が焦げ跡と化したのみ。
直後に響く銃声。機体上部に搭載された小口径――当時の基準における、だが――の機銃が火を噴いた。
ハイランダーの頭部から腹部にかけて拳大の穴が幾つも穿たれ……その動作が停止された。
そして……その結果をナノマシン越しに認識した後で、マリーの天使像が動き出す。
その体を粒子化して……破壊されたハイランダーに覆い被さる。
ナノマシンが蠢き、その装甲、内部機構を食い散らかす。
自己複製だ。ハイランダーを材料にナノマシンが増殖しているのだ。
極めて高度なステルス性を誇るハイランダーの装甲を、材料に。
漆黒の羽が周囲に舞い散った。その内の一部はジェミニとヤスモトの周囲を漂い続ける。
「古式ゆかしい攻略法……近づいちゃえば、少なくともその主砲は怖くない。
残る問題は……この兵器の動きを止めるのは、結構大変そう……」
マリーが戦闘区域に飛び出し、同時に天使像も動き出す。
ナノマシンを操る能力を持つマリーだが、彼女はそれを理由に自分が隠れるような事はしない。
敵の的は多ければ多いほど、AIの対応精度は低下する。
修道服を構築するナノマシンを操作すればサイボーグに近い挙動も取れる。
仲間のリスクを低減する為なら、彼女は出来る事はなんでもするのだ。
ハイランダーの装甲を取り込んだ天使像が、戦車へと迫る。
狙いは機体の表面に設置されたセンサー群だ。
破壊する事は叶わなくとも……ナノマシンを表面に塗装する事は出来る。
ハイランダーのステルス装甲を塗りたくられれば……どんなセンサーだって十全の機能を発揮する事は出来ない。 >「……一機、運良く避けたようだね。ジェミニは相変わらずだが、あのハイランダーはそれなりに経験を積んでいるようだ」
倒壊する巨木に巻き込まれた二体のハイランダー。
うち一体は一枚の板金に成り果てたが、もう片方は隻腕に成りながらも破壊を免れたようだった。
「ありゃっ、思ったより動けるみたいだね。まぁーなんとかなるでしょ」
想定した戦果の半分しか得られなかったことにジェミニは鼻を鳴らすが、すぐに思考を切り替える。
慢心ではなく純粋な戦力の比較として、片腕のハイランダーなど彼女達のチームの敵になどなりはしない。
>「……グループの通信網は事故だと判断しているようだね。
他に自動兵器はいないようだし、巣に戻られる前に狩って――伏せろッ!」
「うわっ?」
突然の警告に弾かれるようにして頭を下げると、追って機関銃の音色が遠くから轟いた。
間断なくヤスモトの展開した防盾を弾丸が擦過していく音が響く。
「なになに、今のハイランダー?こんな兵装載ってたっけ?」
>「道路の奥!距離350からの狙撃!……あの記録映像と銃声が一致!
グループの通信量も増大しているね、次の狙撃が来る前に降りよう!」
ヤスモトの真剣味を帯びた声に流石のジェミニも目を眇める。
いくつもの探索者集団を壊滅させてきた、暫定中型以上の無人兵器。
ここで止めねばシェルターさえ滅ぼす脅威の存在が、ついにその姿を見せたのだ。
「今回のメインディッシュのお出ましってわけ……先手取られちゃったねヤスモっさん」
即座に屋上から飛び出すヤスモトの判断は迅速にして正確だった。
ジェミニ達がハイランダーの始末に気を取られている間、彼はずっと広範囲の警戒を続けていたのだ。
これが長きに渡ってシェルターの探索者達を生き残らせてきた古兵の知慧だ。
>「は、はい!あの、ジェミニさん、えと、ご一緒しますか!?」
マリーが天使像の抱擁を受けながらジェミニに問うた。
「マジ?その像人間乗っけて飛べるの?超便利じゃん乗せて乗せて!」
口車にホイホイ乗せられて、ジェミニはマリーと共に天使像に抱かれた。
天使像が狙撃を受けないよう射角を警戒しながら屋上を飛び立つ。
「飛ん……でないねこれ!ほぼほぼ自由落下じゃん!」
血液が慣性に従って天地逆さまに落ちていくのを感じた。
酸素運搬能力を強化されたジェミニの人工血液は立ちくらみこそ起こさないものの、三半規管に絶妙な違和感を憶えてうえってなる。
重力加速度を一切緩和せずに地表に衝突した天使像であったが、着地自体は非常にソフトなものであった。 「次は快適な空の旅が出来るようになってから誘って……」
天使像からべっと吐き出されたジェミニはひび割れたアスファルトを踏んでようやく人心地がつく。
既に地上に降りていたヤスモトはアンテナで空を切りながら敵性存在の分析を済ませていた。
>「………他の無人兵器とは違う!情報量が圧倒的すぎる……
これは大型かもしれない、広い道路のあるビル群でのみ犠牲者が多かった理由がこれなんだ!」
「……スズメバチ?にしては"羽音"が聞こえてこないけど」
大型無人兵器であるスズメバチは、"羽音"と形容される特有の駆動音がある。
その圧倒的な攻撃能力のために、シェルターにとっては終末の鐘にも等しい不吉の音色が、しかし今は聞こえてこない。
ジェルターの見立てがてんで的外れで、ここに来ているのがスズメバチとは別の大型だとするならば、バッドニュースにも程がある。
「ていうか、代わりに懐かしい音が聞こえるような……」
キュラキュラと独特な軌条の擦れ合う音と共に、敵は姿を現した。
やけっぱちのように巨大なキャタピラの上で、鉄塊にも等しい継ぎ目のない装甲を纏った車体が唸っている。
頑丈なハッチに守られた低背のキューポラと、排熱で陽炎を吹き出す大型のエンジン。
何よりも特徴的な、象の鼻より長く太い、砲身。
「――戦車じゃん!」
ジェミニは思わず声を挙げた。
戦車。旧時代の陸上戦闘においてかつては最強の座に君臨していた駆動兵器の一つだ。
やがて戦闘ヘリの登場によって主戦場を駆逐された後も、その存在感によって戦いのイコンとして在り続けた兵器。
>「……通信のアルゴリズムが違う。あの兵器はもしかして戦前から生き残っているんだろうか?」
「そんな骨董品がなんで今さら人類裏切ってんのさ!」
無人兵器とは違い、戦車は明確に人類側の兵器だったはずだ。
今でこそ散兵が基本の探索者に用いられることはないが、例えばシェルターの護衛などに使われているのをジェミニは見たことがある。
無論、サイズは今対峙している戦車よりもかなり小さいものではあるが。
「ていうかここに居続けるのもやばくない?さっき飛んできたのって単なる機銃でしょ。
あれが戦車である以上、メイン武器はあんな豆鉄砲じゃなくて――」
ジェミニの言葉を掻き消すように轟音が響き渡る。
戦車の主砲。大質量の鉄塊を吐き出す雷槌の如き一撃が、無人兵器の一団を地形ごとかき消していた。
「――これだよねぇ」
戦車砲は、口径の6倍の厚さの鉄板をぶち抜ける威力を持つ陸戦最大火力だ。
あの戦車の正確な口径は判断しにくいが、少なくともジェミニ達探索者であれば付近を通過した衝撃波だけでバラバラだ。
シェルターだってひとたまりもあるまい。
>「――ハイランダーがあれを敵と認定したみたいだ。
巣を攻撃される前に破壊したいようだね。僕らの巣もあんなのを食らえば吹き飛ぶだろう」
「……どうなってんの。無人兵器も一枚岩じゃないってことなのかな」
無人兵器同士で戦い始めた光景を前に、ジェミニは訝しむ。
敵側で勝手に数を減らしてくれるのは結構なことだが、あの戦車はこちらに対しても敵対している。
ハイランダーを叩き潰したら、次狙われるのがジェミニ達であることに変わりはあるまい。
>「えぇ、ヒグマでもスズメバチでもないのが少し気がかりですが……少なくとも、アレは止めないと。
あちらが古式ゆかしい戦法を取るなら……こちらも、古式ゆかしい攻略法を取ればいい……ですよね?」 いちはやく状況を解したらしきマリーが前に出た。
健闘虚しく機銃の餌食になったハイランダーの残骸を天使像が取り込み、消化する。
ハイランダーの持つ高度なステルス装甲を性質そのままに黒い羽へと変え、戦場に散布した。
マリーはステルスの羽を隠れ蓑として、戦車に肉迫する。
>「古式ゆかしい攻略法……近づいちゃえば、少なくともその主砲は怖くない。
残る問題は……この兵器の動きを止めるのは、結構大変そう……」
古典的な対戦車戦術は、懐に潜り込むことだ。
主砲は車体よりも下の角度を狙うことが出来ない。すなわち俯角の限界を見極め、マリーはそこに飛び込んだのだ。
言うだけならば簡単だが、機銃を掻い潜ってそこまで辿り着くことは容易くなどない。
ほんの一箇所ボタンを掛け違えるだけで、彼女は他愛なく肉片と化す。
蛮勇か、豪胆か。年端もいかない少女であるはずのマリーは、しかし誰よりも前で戦っている。
「度胸があるねぇ。おねえさんも負けてらんないな」
ジェミニもマリーの後を追って戦車の至近に入る。
あのままぼっ立ちしていれば遠からず主砲の餌食となる。ぞっとしない死に方だ。
「あたし昔さ、シェルター間の利権戦争に駆り出された時に戦車とやりあったことがあるんだけどね。
あの時は主砲の中に弾丸ぶち込んで腔発させてやったんだけど、このデカブツにはちょっと厳しいかなぁ」
その時の戦車の砲弾は近接信管式の榴弾だった為、主砲の中を狙撃して榴弾を暴発させて破壊することが出来た。
しかし、同じやり方でこの戦車を倒すには、あの強烈無比な主砲の射界に自分が立つ必要がある。
主砲の発射間隔も分かっていない現状、自殺行為に等しかった。
「対空機銃がある以上はミーティアも飛ばせないし、さてどうしたもんかな」
呟きながら履帯へ向けて発砲する。
ファニングによってワンマガジンの全弾がキャタピラへと吸い込まれるが、しかし履帯は破損するどころか微妙な傷が入るだけだ。
「うわ、履帯も硬っ!何センチの鉄板使ってんのこれ!」
崩壊した都市の悪路も問題なく走行する無限軌条。
徹甲仕様のジェミニの弾丸でさえ阻む異常な防御力は、やはりこの戦車が無人兵器であることを再確認させる。
ハイランダーを取り込んだ天使像が戦車へと躍りかかり、機体表面のセンサーを何かで覆う。
ステルス装甲。レーダーを弾き返す素材は、裏返せばすなわちセンサーを無力化する遮蔽物だ。
「よし、今なら――」
センサーが自己洗浄によって復活するより速く、ジェミニはミーティアを数機上空へと打ち上げた。
機銃による迎撃が飛んでこない。マリーの戦術は功を奏しているようだ。
「戦車を相手にする古式ゆかしき攻略法、その2は……上から撃つ!」
ジェミニの両手が再び瞬いた。撃ち放たれた弾丸が上空のミーティアによって跳弾し、車体上部のキューポラへと降り注ぐ。
戦車の上部は砲塔や搭乗口などの可動部が多く、故に前面の装甲よりも耐久性では劣る。
まさか中に人が乗っているなどと思いはしないが、ハッチを貫いて内部に損害を与えられるなら儲けものだ。
【センサー無効化の隙をついてミーティアを上空へ飛ばし、跳弾によって上からキューポラを狙う】 >「えぇ、ヒグマでもスズメバチでもないのが少し気がかりですが……少なくとも、アレは止めないと。
あちらが古式ゆかしい戦法を取るなら……こちらも、古式ゆかしい攻略法を取ればいい……ですよね?」
「まったく、その通りだよ。幸いハイランダーが突っ込んでくれている、彼を囮に近づくとしよう」
ステルス性を持つナノマシンが周囲を漂うのを確認し、二人と共に静かに近づく。
もし戦車に随伴する歩兵がいればとてもできない行動だが、この戦車はあまりにも長く戦っていたのかただ一機のみだ。
>「あたし昔さ、シェルター間の利権戦争に駆り出された時に戦車とやりあったことがあるんだけどね。
あの時は主砲の中に弾丸ぶち込んで腔発させてやったんだけど、このデカブツにはちょっと厳しいかなぁ」
「あれは戦車というより装甲車だよ、はるか昔の基準ではね。
それに整備もロクにされていなかった……この戦車もそうだといいけど」
そう言ってヤスモトは再びハッキングアンテナを伸ばし、無人兵器たちの通信を傍受する。
無人兵器たちは基本的に単純な思考しかしないが、『巣』や『工場』と呼ばれる彼らの拠点から
緊急事態に対する命令が送られることは多い。
輸送中の無人兵器たちが丸ごと消し飛び、護衛も撃破されたとなれば
巣は間違いなく増援を送るだろう。最低でもハイランダー級の無人兵器を複数体。
>「戦車を相手にする古式ゆかしき攻略法、その2は……上から撃つ!」
ジェミニの射撃の腕は才能、経験、技術が合わさった人類最高クラスのものだ。
そして戦車は上からの攻撃に弱いというのも常識だ。
しかし、この戦車は人が乗ることを前提にはしていなかった。
キューポラに降り注ぐ徹甲弾の雨は、確かに有効だった。貫通し、内部へと被害を与えた。
だが被害を受けたのは、砲塔内部にある音響センサーのケーブルと整備用のハッチに穴が開いたのみ。
それ以上の損害はなく、戦車は何事もなかったかのようにゆっくりと行動を再開する。
戦車の表面に纏わりついた不純物を排熱を利用した焼却システムで表面をくまなく焼き払い、破壊された部分を内部配線を繋ぎ変えることで補う。
そうして戦車は再び動き出し、先程見つけた3体の敵兵を排除するべく探し始めた。
「……さすが崩壊前の兵器だ。隙がない。
対戦車兵器に対する迎撃システムも完備されているようだよ。
砲塔上部にあるハッチに穴が開いたけれど、持ち上げてる間に機銃かあの焼き払いを受けるだろうね」
動き出した戦車から離れ、近くにあったビルの一室に再びヤスモトたちは隠れる。
ヤスモトはバックパックから取り出した折り畳み式のロケットランチャーを組み立てているが、
ハッキングで得た情報によればこれも迎撃システムが感知すれば即座に破壊されるだろう。
「巣は既に動いているようだよ。
対装甲武器を持った無人兵器を20体ほどここに送り込むつもりのようだ。
たぶん『アリ』か『バッタ』だろう」
アリもバッタも汎用性が高く、多脚歩行と背中に積む武器次第で
あらゆる地形であらゆる敵を相手にすることができる全長1.6m、全高90pほどの小型無人兵器だ。
壁や天井を歩くことができる歩行ユニットを持ち、無人兵器群のの主力である。
「いったん彼らと戦車をぶつけて、消耗させよう。
僕らの火力は正面から戦車を潰せるほどではない」
【戦車の武装は以上です!】 天使像の羽が唸り、戦車の走行を殴りつける。
破壊は叶わない。だがセンサー部分にハイランダーの装甲を塗布する事は出来た。
>「よし、今なら――」「戦車を相手にする古式ゆかしき攻略法、その2は……上から撃つ!」
「やた!流石ジェミニさん!さぁ効果の程は……」
マリーが言葉を紡ぎ終えるよりも早く、戦車の側面装甲に穴が空いた。
当然、攻撃の成果によるものではない。戦車が自ら装甲の一部を開放したのだ。
何の為か。考えるまでもない。内部から、外部へ、何かを放出する為だ。
そして戦車の内部から放たれるもので、マリーに害を及ぼさないものなど存在しない。
焼却システムから放たれた火炎が彼女を襲う。
噴射に伴う高圧の熱風に跳ね飛ばされて、マリーは地を転がる。
……そして、起き上がる。同時に飛来した天使像が彼女をすくい上げ、物陰へと飛び込んだ。
修道服を構築するナノマシンが彼女の危機察知に応じて変形、硬化と真空層の構築による防御を行ったのだ。
「ひ、ひええ……危なかった。
……だけど今ので私は「耐える」と覚えさせた。
これで「三手」、多く引きつけられる……」
マリーの修道服が黒く染まっていく。
ハイランダーを分解し得たステルス材を混合しているのだ。
センサーの眼を掻い潜り、マリーは一度ヤスモト達と合流する。 >「……さすが崩壊前の兵器だ。隙がない。
対戦車兵器に対する迎撃システムも完備されているようだよ。
砲塔上部にあるハッチに穴が開いたけれど、持ち上げてる間に機銃かあの焼き払いを受けるだろうね」
「あの穴、試しにナノマシンを送り込んでみたんですけど、もう破壊されちゃってます。
内部を正常に保つ為の機能も万全って事ですね。
……ハイランダー達がやられて、その後の通信はどんな感じです?」
>「巣は既に動いているようだよ。
対装甲武器を持った無人兵器を20体ほどここに送り込むつもりのようだ。
たぶん『アリ』か『バッタ』だろう」
>「いったん彼らと戦車をぶつけて、消耗させよう。
僕らの火力は正面から戦車を潰せるほどではない」
「……何か便利な兵装を積んできてくれればいいんですけど」
マリーはナノマシンを広域に散布して、周囲の様子を伺う。
程なくしてナノマシンが何らかの移動物体を感知した。
「これは……手触りからして、アリですね」
対空射撃の可能な機銃を持つ戦車に対しては『バッタ』の機動性よりも、
『アリ』の高い地形適応性が有効だと、『巣』は判断したようだ。
「兵装は……ううん、手触りだけじゃ特定出来ないですね……。
だけど、そこそこ物々しい感じです。アーマーピアシングか、HEATか……期待出来ますよ」
さて、とマリーは壁越しに戦車の位置へと視線を向ける。
ナノマシンを精密かつ大量に動かす為の、集中が目的だ。
「せっかく持ってきた兵装、使う前に全滅されちゃ勿体無いですからね。
ちょこっと手助けしてあげますか……」
不意に、戦車の正面にハイランダーが出現する。
マリーの操るナノマシンが作り出した、密度の低い、煙のようなまやかしだ。
だが戦車のセンサーにはそんな事は理解出来ない。
理解出来るのはただ、ステルス性能に長けた敵性兵器が、不意に至近距離に現れたという事。
そしてその直後に……主砲か、それとも機銃か。いずれにせよ自身の攻撃を受けて、消滅したという事だけだ。
【遅くなってごめんなさーい!】 天上からの弾雨に対し、戦車は抵抗の術なくその身に弾丸を受けた。
キューポラを貫通した徹甲弾が内部機構を傷付けたのか、一瞬だけ動きが止まる。
間近でそれを見ていたマリーが快哉を挙げた。
>「やた!流石ジェミニさん!さぁ効果の程は……」
だが、それだけだった。戦車は機能を停止するどころか、装甲表面を目まぐるしく動かし始める。
周囲に漂うツンとした異臭に、ジェミニは悪寒を憶えた。
「あっこれ、やばいやつ……」
ほとんど反射的に飛び退き距離を取った瞬間、戦車の総身が炎に包まれた。
車体を破壊するような爆発ではない。戦車が自ら吐き出した火炎放射だ。
「焼身洗浄――!?」
装甲の高度な耐火性能に任せて、高温の炎で付着物を強制的に焼き飛ばす自己洗浄機能だ。
洗浄液で洗い流すのとは訳が違う。無人兵器との戦闘で使われるセンサ潰し用の耐液被覆材さえも焼却には耐えられない。
そしてかの兵装の特筆すべき点はもう一つ。洗浄行動がそのまま周囲に対する攻撃へ転用できることだ。
「シスターちゃん――!」
至近距離へ肉迫していたマリーは噴き出した炎の直撃を受けた。
爆心地にも近い焦熱と烈風に吹き飛ばされた彼女は、焼却炉から掻き出される消し炭のように転がっていく。
ジェミニは思わず息を呑むが、熟練探索者の絶望的な予測をマリーは上回った。
回り込んでいた天使像に抱きかかえられて焼却圏を脱した彼女に熱傷はなく、代わりに焦げた修道服が剥がれ落ちて新しくなった。
装甲蠕動から火炎放射までの寸毫にも満たないタイムラグで敵の兵装を的確に見抜き、耐熱服を生成していたのだ。
>「ひ、ひええ……危なかった。……だけど今ので私は「耐える」と覚えさせた。これで「三手」、多く引きつけられる……」
「あれ食らってそういうタフなセリフが吐けるのは、お姉さんマジで凄いと思うよ」
転んでもタダじゃ起きないとばかりのマリーの一言に、ジェミニは揶揄ではなく本心から舌を巻いた。
自分より一回りも年若い少女の常軌を逸した覚悟と冷静さは、戦場ではこの上なく心強い。
ジェミニとヤスモトが退避していた物陰に、服を新調したマリーも合流する。
>「……さすが崩壊前の兵器だ。隙がない。対戦車兵器に対する迎撃システムも完備されているようだよ。
砲塔上部にあるハッチに穴が開いたけれど、持ち上げてる間に機銃かあの焼き払いを受けるだろうね」
「戦車のくせに随伴歩兵も付けてないゴーマンっぷりの裏付けはこれかぁ。
となると古式ゆかしき戦車攻略法その3はムリっぽいね。頑として正攻法を強いてくるのはさすが陸戦の覇者って感じ」 ちなみに攻略法その3はハッチをこじ開けて内部の乗員を直接ぶち殺すアレだ。
無論、それはあの戦車の中に人間が入っているという既に否定された前提のもとの攻略法であるが。
ヤスモトは通信傍受と並行してロケットランチャーを組み立てている。機銃のおやつ以外の末路は想像できない。
>「あの穴、試しにナノマシンを送り込んでみたんですけど、もう破壊されちゃってます。
内部を正常に保つ為の機能も万全って事ですね。……ハイランダー達がやられて、その後の通信はどんな感じです?
抜け目なく攻略法その3を試していたマリーの問いに、ヤスモトは戦車から目を離さず答えた。
>「巣は既に動いているようだよ。対装甲武器を持った無人兵器を20体ほどここに送り込むつもりのようだ。
たぶん『アリ』か『バッタ』だろう」
「あちらさんの調停は決裂して内ゲバ勃発ってわけね。無人兵器同士ってもっと仲良いのかと思ってたよ」
あの戦車と『巣』との間でいかなる交渉が行われたのか、ヤスモトならば分かるのだろうか。
無人兵器に感情は存在しないというのがセンターが公式に発している見解である。
ならば、今目の前で繰り広げられている無人兵器同士の争いは、一体どんなボタンの掛け違えで引き起こされたと言うのか。
>「いったん彼らと戦車をぶつけて、消耗させよう。僕らの火力は正面から戦車を潰せるほどではない」
「だね。誠に遺憾ではあるけど、ここは漁夫の利狙ったほうがよさそう」
>「……何か便利な兵装を積んできてくれればいいんですけど」
三者が同一の見解を表明して、彼女たちは一部始終を見守るフェイズへと移行する。
ヤスモトの見立ての通り、おそらく『巣』は増援に小型を寄越してくる。
中型が来たところであの主砲の餌食になるだけならば、戦列を広くとった散兵で対応するほかあるまい。
>「これは……手触りからして、アリですね」
ナノマシンによる索敵を終えたマリーが結果を報告した。
>「兵装は……ううん、手触りだけじゃ特定出来ないですね……。
だけど、そこそこ物々しい感じです。アーマーピアシングか、HEATか……期待出来ますよ」
「当たればね、当たれば……」
益体もない事実の確認を呟いて、ジェミニは肩を竦めた。
選り取り見取り、対装甲兵器の酒池肉林。センターが泣いて喜びそうなラインナップだ。
『アリ』には確か、換装兵器とは別にコンクリや鉄板を容易く引き裂き食い千切る大型ニッパーが標準搭載されていた。
黎明期のシェルター外壁を穴だらけにした強靭な"顎"も、戦車の迎撃システムを掻い潜れなければ意味を為さない。 >「せっかく持ってきた兵装、使う前に全滅されちゃ勿体無いですからね。ちょこっと手助けしてあげますか……」
「……コーヒーでも淹れてあげるの?」
戦車の眼前に出現したコーヒーメーカーもといハイランダーの幻影を見て、ジェミニは性懲りもなく適当抜かした。
敵性存在を感知した戦車の攻撃が幻を素通りして霧散していく。マリーの描いた筋書き通りに踊らされる。
戦車を手玉にとって蠱惑しようなど、嫌な小悪魔がいたものである。
「敵の敵は味方とか言うけどさぁ、無人兵器と共闘することになるなんて考慮してないよマジで」
ジェミニは苦笑いでお茶を濁しつつも、腰に付けたポーチから2つの装備を取り出した。
一つは折りたたみ式のストック。愛銃のグリップにそれを取り付け、反動を肩で吸収できるようにする。
もう一つは、彼女が常用する徹甲弾とは別の、黒い艶消しを施された弾丸だった。
「これ高いんだよね……経費ちゃんと降りるかな」
徹甲弾との相違点は、まず弾頭が平べったく潰れた形状をしていること。
さらに、重心が極端に先端に寄ったフロントヘビーであること。
そして何より、弾丸自体が異常なまでの密度と重量を持っていることだ。
超重質量強装弾『ノックバッカー』。
極めて比重の重い電縮イリジウムによって弾体の大部分を構成されたこの弾丸は、対象の破壊を目的としていない。
弾頭は潰れやすく、薄い雑誌本すら撃ち抜くことが出来ず表面で止まってしまう。
弾体の持つ推進力と慣性のエネルギーは、全て対象を『吹っ飛ばす』ことに用いられる。
大口径とは言え拳銃弾の一発が、中型無人兵器さえも上下をひっくり返される解体鉄球の如き槌撃だ。
空気抵抗に大きく影響を受ける為に弾道が安定せず、限定された用途も相まって実用性は0に等しい浪漫武器の類である。
「シスターちゃん、音消しお願い。あと耳塞いで口開けて。鼓膜破れちゃうよ」
大型リボルバー『ワイルドベア』を半ばから折って排莢。
代わりに五発の徹甲弾と一発のノックバッカーを淀みない手付きで装填する。
ジェミニ・カラミティという探索者が旧式のリボルバーを好んで使う理由の一つは、過酷な環境下での信頼性を求めてのことだ。
故障し辛く、給弾不良を起こさず、簡単な機材で十分な整備が可能という特性はパイオニアというスタイルに合致している。
そしてもう一つの理由。
それは、手動で装填するが故に、異なる種類の弾丸を任意に撃ち分けられることである。
「でっかい奴を相手にするときの古式ゆかしい攻略法は――出っ張り部分を撃つべし!」
大男との立ち合いで顎の先端を打ち抜き脳震盪を狙うように。
戦車の巨体を揺るがすことは出来なくとも、機銃や主砲などの先端部分に強い衝撃を与えれば照準維持は不可能なはずだ。
ジェミニは機銃と主砲の射撃間隔を測りつつ、発射されるタイミングを狙ってそれぞれの砲身へ銃撃を加えていく。
機銃には通常弾、主砲にはノックバッカー。二種の弾を一つの弾倉で撃ち分けながら、細長い目標へ正確に弾丸を叩き込んだ。
【戦車が撃つタイミングで横から弾で殴りつけ、照準をずらさせることで『アリ』を支援】 >「兵装は……ううん、手触りだけじゃ特定出来ないですね……。
だけど、そこそこ物々しい感じです。アーマーピアシングか、HEATか……期待出来ますよ」
「種類が特定できた。無反動砲の弾頭はHEATのみ、装甲を破壊した後無力化して資源回収するつもりらしいね」
無人兵器の群れは常にお互いの兵装・状態を共有している。
それはつまり、彼らの通信を傍受できれば何を装備しているか、何を輸送しているかが丸わかりということだ。
ただ、シェルターにおいて彼らの通信を傍受できるのはセンターの一角にある通信室と、
ヤスモトが最初の機械化からずっと装備している頭部のハッキングアンテナだけだ。
>「せっかく持ってきた兵装、使う前に全滅されちゃ勿体無いですからね。ちょこっと手助けしてあげますか……」
ナノマシンが形成するハイランダーによく似た煙は、戦車から見れば先程飛びついてきた敵兵器が
目の前にもう一体現れた、ということしか判断できない。
前文明の兵器である戦車は、本来であれば他兵器とのデータリンク機能と搭乗者の判断によってこのようなデコイを見抜けるが、
単独で行動する今となっては敵性の高いと判断したものを無差別に排除する無人兵器でしかないのだ。
だから、戦車は迷うことなく機銃をその敵に向け、先程と同じように鉄屑になるのを確認した。
>「これ高いんだよね……経費ちゃんと降りるかな」
戦車が無人兵器の新手を検知し、迎撃するべく移動を開始した。
それに合わせてヤスモトたちも動き、三人はビルからビルへ、物陰を縫うように移動する。
「ノックバッカーは…どうだろう、シェルターの生産リストに入っていればいいんだけど」
ジェミニのリボルバーへのなめらかな装填に合わせて、
ヤスモトも組み立てたロケットランチャーにサブアームを使って弾頭を装填する。
ただし、無人兵器たちのようなHEATではなく爆発と同時に強烈な電磁波を辺りに放つ対電子戦用弾頭だ。 >「シスターちゃん、音消しお願い。あと耳塞いで口開けて。鼓膜破れちゃうよ」
「耳当てをバザーで買ってくるべきだったね。探索者なら誰しも一つは持っているものだから」
そして無人兵器の群れが戦車との交戦距離に入り、アリたちが背中に搭載した無反動砲から大量のHEAT弾が戦車めがけて放たれると同時に
戦車もまた、道路を左右に揺れつつ走りながら、砲塔に搭載された機銃掃射と両脇にある迎撃システムによる飛翔体の大量投射、
そして主砲による榴弾の連射によって応戦する。
そんな砲撃のぶつかり合いの中、戦車がアリたちに主砲を向け、確実に仕留めるべく移動を止めた瞬間だった。
>「でっかい奴を相手にするときの古式ゆかしい攻略法は――出っ張り部分を撃つべし!」
「そして目と耳を潰せ。戦闘の基本だね」
リボルバーによる六連射の狙撃という超人の芸当。
これを軽々と行えるのが、ジェミニがパイオニストたる所以だ。
だから、ただの探索者であるヤスモトは超人的な芸当はしない。
六連狙撃の直前に対電子戦用弾頭がさく裂するようタイミングを合わせただけ。
それだけで戦車を統括する補助AIは数秒動きを止め、直後にやってきた衝撃の嵐に早急な対処を迫られることとなった。
強烈な電磁波によるセンサーの麻痺。銃撃で使用不能となった機銃。発射こそできるものの、砲身全体が大きく歪んでしまった主砲。
これら全ての情報を操縦席にいる搭乗者に伝達したが、反応は帰ってこない。
補助AIは過度の負傷による意識不明と判断し、補助AIは何度も繰り返した救難信号を辺りにまき散らしながら撤退することを決めた。
「……あの戦車は助けを呼び始めたね。
搭乗者負傷、撤退ポイントの指示を求む、戦闘続行不可能……アリたちも動いたようだ」
アリたちは撃ち切った無反動砲を背中から分離し、道路をひた走る戦車に向けて移動を開始した。
彼らは既に戦車のことを敵兵器としてではなく、資源として見ているのだ。
その証拠と言わんばかりに、頭部の大型ニッパーが大きく左右に分かれ、いつでも食らいつけるよう準備している。
「無力化はしたけど、アリたちを残すわけにもいかない。
そして可能なら鹵獲。もうひと踏ん張り、行こうか」
ヤスモトがバックパックに手を伸ばし、背中のサブアームが重機関銃を淀みなくバックパックから取り出す。
そして戦車を追うアリたちをさらに追いかける形で、ヤスモトは走り出した。
【アリはお二人で殲滅してもらっても大丈夫です!】 >「……コーヒーでも淹れてあげるの?」
「ふふっ……ちょっと違いますけど、ブレークタイムには間違いないですね。
一手、無駄にしてもらいましょう……」
マリーの言葉の最後を塗り潰すように、戦車の機銃掃射が轟く。
>「敵の敵は味方とか言うけどさぁ、無人兵器と共闘することになるなんて考慮してないよマジで」
「……そうですよね。無人兵器同士が争っている事自体、私は初めて見ました」
彼らのAIが一体いかなる思考プロセスを経て今の行動に至っているのか。
マリーには理解出来ない。だが……理解しようとも、実のところ思っていない。
この状況において、彼女にとって大切なのはより安全に、より確実に任務を達成する事。
>「これ高いんだよね……経費ちゃんと降りるかな」
「……もし落ちるなら予備は私に預けて、沢山使った事にしませんか?」
……それと、沢山の報酬を得て教会の活動を拡大する事のみ。
>「シスターちゃん、音消しお願い。あと耳塞いで口開けて。鼓膜破れちゃうよ」
>「でっかい奴を相手にするときの古式ゆかしい攻略法は――出っ張り部分を撃つべし!」
言われるがままに消音の羽を展開すると、ジェミニは戦車へと銃口を向け、引き金を引く。
彼女が狙いを定めたのは戦車の主砲と機銃、その先端。
発砲音は鳴らず、着弾音のみが立て続けに響く。
砲身も銃身も、自らが仕掛けた銃撃によって不規則に揺らいでいるはずなのに。
そして六度目の着弾音の直後……幾重にも重なった爆音が轟く。
アリ達のHEAT弾が発射され、戦車に着弾した音だ。
「……おみごと。アリ達も上手くHEAT弾を命中させてくれたみたいですね。
履帯にもダメージが通ってるし、主砲の砲身も曲がっちゃってますよ!」
>「……あの戦車は助けを呼び始めたね。
搭乗者負傷、撤退ポイントの指示を求む、戦闘続行不可能……アリたちも動いたようだ」
「……搭乗者?えっ?あの戦車、そう言ってるんですか?
それにそもそも助けを求めるって一体何に対して……?」
>「無力化はしたけど、アリたちを残すわけにもいかない。
そして可能なら鹵獲。もうひと踏ん張り、行こうか」
「あっ、そ、そうでした!私達の報酬を一山幾らの鉄くずにされる訳にはいきませんからねっ!」
ヤスモトに続いて身を隠していたビルから飛び出すと、マリーはそのまま天使像に飛び乗る。
そしてビルの壁面を経由するように跳躍……アリの群れ、そのやや前方へと飛び込んだ。
着地の瞬間、硬質化した天使の翼が二体のアリの頭部を貫き、その機能を停止させる。
更にマリー自身も……身に纏う修道服を再構築。
右手の先に頭部大の球体を形成し、ハイランダーから接収した金属でそれをコーティング。
再びナノマシンを操作……修道服ごと右腕を高速で振り回し……アリの頭部を叩き潰す。
戦車相手には披露する機会は得られなかったが、彼女は自在に操れる戦闘人形を持ちながらも、自分自身も超短距離での戦闘を好む。
それは彼女が教会の運営と同じくらい、他者を守り、傷つけさせない事を重視しているからだ。
その理由は、彼女が善人であるから……ではない。
ではないが……今語るような事でもない。
【ひーん遅くなってごめんなさいー……】 ノックバッカーと徹甲弾による六連の狙撃に、ヤスモトがロケットランチャーの炸裂をピタリと同期させる。
>「そして目と耳を潰せ。戦闘の基本だね」
電子撹乱弾頭が戦車の感覚器を塗り潰し、主砲と機銃が鉄塊に殴られて大きく撓む。
迎撃兵装を沈黙させられた無防備な戦車に、アリ達の対装甲兵器が雨あられとばかりに降り注いだ。
爆炎と轟音が戦車を包み、それは極小の恒星にさえ思えた。
「大当たりーーっ!」
外れてしまった肩を無事な方の腕で戻しながら、ジェミニは快哉を叫んだ。
ノックバッカーの強烈な反動はストックを用いても殺しきれないため、人工関節を自己脱臼することで吸収しているのだ。
サイボーグであるジェミニだからこそできる判断。かつて生身だったころに一回これをやって肩がもげたことも良い思い出だ。
>「……おみごと。アリ達も上手くHEAT弾を命中させてくれたみたいですね。
履帯にもダメージが通ってるし、主砲の砲身も曲がっちゃってますよ!」
「これだけ直撃通ってんのに大破もしてない頑丈さにはゾっとするけどねぇ……」
とは言え、マリーの見立ての通り戦車のダメージは甚大だった。
巨大な主砲こそ曲がりはしたものの生きてはいるが、対空機銃はあらかたひしゃげて残骸と化している。
これならばミーティアを打ち上げても問題はないだろう。
>「……あの戦車は助けを呼び始めたね。
搭乗者負傷、撤退ポイントの指示を求む、戦闘続行不可能……アリたちも動いたようだ」
>「……搭乗者?えっ?あの戦車、そう言ってるんですか?それにそもそも助けを求めるって一体何に対して……?」
戦車の通信を傍受していたヤスモトが端的に訳した内容に、マリーは眉を顰める。
おそらく"登場者"に関する情報は、あの戦車がまだ『現役』だった頃の判断プログラムの名残なのだろう。
問題はマリーが指摘したように、あの戦車が助けを求める先がどこなのかだ。
「ヤスモっさん、あの戦車が救援信号出してる相手って無人兵器の『巣』なのかな。
この区域に2つも巣があるなんて考えたくもないけどさ」
無人兵器の拠点である巣には種類がある。
人類生存領域の外にある、未だ人間が到達したことのない本拠点としての巣、マザーと仮称される場所。
そして、汚染区域に点在する無人兵器たちの前哨基地。センターの言うところの巣は後者だ。
戦車は撤退を始めている。その足の向かう先は一体どこなのだろうか。
>「無力化はしたけど、アリたちを残すわけにもいかない。そして可能なら鹵獲。もうひと踏ん張り、行こうか」
>「あっ、そ、そうでした!私達の報酬を一山幾らの鉄くずにされる訳にはいきませんからねっ!」
マリーは無人兵器の深奥の解明よりも報酬の確保に対する興味のほうが勝ったようだ。
前々から思ってたことではあるけどこのシスターマジで金に汚いんだけどそれでいいのか聖職者。
「……まぁ、追いかけてみれば分かることだよね」
即物主義に共感したわけではないが、戦車が逃げていく先に何かがあるのは間違いない。
そのためにも、追いすがるアリ共が目下の敵だ。敵の敵の敵はやっぱり敵である。
重機関銃を手に駆け出したヤスモトを追って、ジェミニも弾を込め直しながら疾走を開始した。 マリーは天使像を駆り、アリの群れの中に飛び込んで既に大立ち回りを始めている。
硬質化した羽がアリ達をモズの早贄の如く串刺しにしていく。
「うわぁあのシスター肉弾戦してるよ……」
修道服を変形させた球体でアリを薙ぎ払っていくマリーの姿にジェミニは変な笑いが出た。
あれは即席のモーニングスター、なるほど聖職者の武器というわけである。
「もうちょいスマートに戦えないもんかなぁ。まぁ良いけどさ、ミーティア!」
『デバンヨー』
バックパックに格納されていた小型ドローンが5機、アリ達の上空を飛び交い俯瞰情報を取得していく。
ジェミニは火線を避けながら、ミーティアへ向けて拳銃を連射。
ドローン下部の曲面装甲によって跳弾した徹甲弾が、アリ達の背面にある駆動中枢を正確に射抜いた。
無数の無人兵器が見た目には破損さえなく、しかし行動を停止して倒れていく。
「アリの活け〆、一丁上がりっと。先達から一つだけアドバイスしとくとね、シスターちゃん。
……無傷で仕留めるとアリでも高く売れるよ」
金欠とは無縁の高位探索者であるジェミニだが、駆け出し時代に金に困った時はよくこうして小型を仕留めて売ったものだ。
状態の良い無人兵器の機体はセンターでも敵性研究の素体として高額で取引されている。
残骸をスクラップマーケットで売りさばくよりも遥かに効率よく一財産築けるというわけだ。
「……釈迦に説法だったかな。宗教違うけど」
マリーが派手に立ち回っているのは、おそらくあえての選択だろう。
さっきからジェミニの方にアリ達の火器が飛んでこない。マリーが暴れているために、そちらへ敵視が集中しているのだ。
年端もいかない彼女に庇われている情けなさは今更言及するまでもないが、それならそれで出来ることがある。
遠方からマリーへ向けて機関銃を撃ち続けている一体のアリへ、ジェミニは近づきながら話しかけた。
「だめだめ、そんなんじゃシスターちゃんには当たんないよ」
至近距離まで歩み寄って、ようやくアリは攻撃の優先順位をマリーからジェミニへと切り替えた。
しかし、アリがどれだけ間断なく銃撃を放ってもジェミニの影すら穿つことはない。
ドローンによる三点観測は彼女に標的へ当てる力をもたらすが、同時に当たらないことも可能としている。
銃口の角度と弾道、弾速さえ把握出来ていれば、ジェミニは鼻先数センチから放たれた銃弾も回避できる。
「ちょっと貸してみ?こうやって狙うんだよ」
アリの反撃を巧みに躱しながら、アリの機関銃の銃身を抑えつけ、強引に照準を変える。
マリーを狙った軌道から、その周囲のアリ達を撃ち抜く軌道へと。
ジェミニは卓越した銃手にしてスナイパー。
例えそれが今まさに他人が撃っている最中の銃でも、狙った場所へと"当てさせる"ことさえ可能とする技巧の持ち主だ。
ときにはミーティアの跳弾で強引に曲げながら、ジェミニはアリ自身の銃撃でアリを殲滅していった。
【戦車を追いかけることを決め、無双パート】 >「あっ、そ、そうでした!私達の報酬を一山幾らの鉄くずにされる訳にはいきませんからねっ!」
>「……まぁ、追いかけてみれば分かることだよね」
二人にアリの掃討を任せ、ヤスモトはひた走る。
あれほどの攻撃を受けてもなお、戦車の足は速く止まることはない。
途中、道路がカーブに差し掛かり戦車もさすがに速度を落とした。
そこを狙ってか、運よく逃げ切った二匹のアリが戦車へと飛び掛かる。
「――無傷は無理だね」
ヤスモトは走る速度を落とすことなく、重機関銃を腰だめに構えて数発ごとに分けて何回か撃った。
機械化された体によって反動を抑えつけ、機械化された頭脳によって弾道がどうなるのかを正確に把握する。
彼の得意技である、正確な移動射撃だ。
それだけで二匹のうち一匹は胴体と頭部を吹き飛ばされ、廃墟の壁に衝突する形で短い生涯を終えた。
もう一匹は二本ほど足を破壊されたが、戦車を追跡することは諦めていない。
「我ながら、ベテランとは思えないな」
仕留め損ねたことにやや不満げ、とでも言いたげに頭部がオレンジに短く発光する。
ヤスモトは重機関銃を背中のバックパックにしまい、さらに走る速度を上げる。
それだけでアリたちの平均速度を超える速度となり、あっさりと破損したアリに近づいた。
アリは当然機関銃をヤスモトに向けたが、防弾シールドが銃弾を防ぎ切り、さらに距離が近づく。
お互いに触れそうな距離にまでヤスモトが近づいた瞬間、彼の腕が瞬時に動いてアリの頭部を掴み、道路に叩きつけた。
前文明によって作られた道路は極めて頑丈であり、そのままの速度で走るヤスモトによって
ヤスリにかけられたようにアリの頭部は火花を散らして削れていく。
そして頭部を破壊されたアリは次に胴体を削られ、あえなく機能を停止した。
「……さて、戦車は……この先の広場か」
戦車はなおも救援信号を出し続けているが、広場で行動を停止している。
ヤスモトの記憶によれば、この辺りは無人兵器たちがあまり近寄らない場所だったはずだ。 『二人とも、戦車は道路をまっすぐ行って左にある広場で停止している。
先に僕が偵察するから、二人は後から来てほしい。集合場所を端末にポイントしておく』
そう通信で伝えると、広場を見下ろせる近くのビルへと向かう。
入り口は瓦礫で塞がれてしまっているが、外壁は年月を経てもなお揺らぐことはない頑丈さだ。
ヤスモトの右腕からワイヤー付きのフックが射出され、ビル屋上の縁に引っかかる。
そのワイヤーに沿って、ヤスモトは外壁を駆け上がり広場を見た。
『……ジェミニ。マリー。あの戦車が何に救援信号を出しているのか、とさっき言ったね。
それはここだよ、この広場だ。あの戦車はずっと、ここを目指していたんだ』
その広場にあったのは、おそらくは防衛線を引いて戦っていたのであろう前文明、人類側の兵器たち。
大型のヘリポートを中心に、ぐるりと兵器の残骸が取り囲むように捨て置かれている。
その中には先程まで追いかけていた戦車も、道路側に砲塔を向けて機能を停止していた。
「ここで戦い続けて……パイロットたちだけでも逃がそうとしたのか」
広場の向かい側、同じく開けた場所には大型の輸送ヘリと思われる残骸がある。
輸送ヘリの側面には大きな穴が開けられ、中から飛び出ているのはおそらく兵器に乗っていたパイロットたちだ。
「あの戦車は間に合わなかった……僕と同じだな」
そして戦車に近づき、砲塔へと登ってハッチに手をかける。
もう何の抵抗もなく、あっさりとハッチをこじ開け中へと入った。
そこにいたのは、最後まで操縦桿から手を放さず、前のめりに倒れていたパイロットだった。
戦闘スーツに身を包んでいるため後ろからでは分からないが、生きてはいないだろう。
ヤスモトは手を合わせて短く冥福を祈り、再び二人に通信を繋ぐ。
『……回収班を呼ぼう。正体不明の無人兵器は前文明の戦車。
無力化完了。よって今回の作戦は終了とする。――いいね?』
【これからはエピローグとなります!一巡したら終わりです】 >「アリの活け〆、一丁上がりっと。先達から一つだけアドバイスしとくとね、シスターちゃん。
……無傷で仕留めるとアリでも高く売れるよ」
「えぇ!後で何体か譲って下さいねっ!」
ジェミニのアドバイスに臆面もなくそう返すと同時、マリーは右腕を横薙ぎに振り回す。
その先端には球状のハンマーではなく、今度は鎌のような刃が形成されていた。
武器を変えた事には理由がある。アリの売却額を上げる為ではない。
それはジェミニがやってくれるだろうし、後で分け前は頂戴するから問題ない。
……と、マリーがちらりと彼女の方を見やる。
ジェミニは、群れからやや外れた地点にいる一体のアリに向かって、悠然と歩み寄っていた。
「え、あの、ジェミニさん……一体何を?」
当然、アリは彼女を標的と定め……その武装、機関銃の銃口をそちらへと向ける。
マリーは慌てて天使像を操作。彼女の盾にしようとして……しかし気付いた。
ジェミニの体幹が僅かに傾き、つまり彼女が重心を移動させて、既に「回避」の為のステップを踏もうとしている事に。
そして、銃声。弾丸は……ジェミニを捉えられなかった。
「あ、あれ……?」
立て続けに響く銃声、放たれる弾幕。
だがジェミニはその尽くを回避している。
彼女には見えているのだ。弾丸が実際に放たれるよりも前に、その弾丸が描く軌跡が。
「……うわー。別に暴れ回らなくっても、全部キレイに仕留めちゃってもよかったかも」
アリに接近を果たしたジェミニがその機関銃を鷲掴みにして振り回す様を見て、マリーが呟く。
その間ずっと、彼女はアリの群れのど真ん中でじっとして、動かないでいた。
つまり周囲にいるアリに対してずっと隙だらけの状態でいた。
……微動だにしない彼女の修道服に、アリのニッパーが食らいつく。
ばりん、と音がして、ケイ素によって構築された、アーマーと称しても差し支えのない修道服が容易く噛み砕かれる。
アリ達はそのまま修道服の胴体、脚に食らいつく。
だが……アリ達には理解出来ないだろう。彼らに「歯ごたえ」の概念はない。
自分達が柔らかく弾力のある肉を噛み千切っていない事に気づけない。
マリーはずっと、じっとしていた。
戦闘中のある時を境に、天使像を中抜し、それを素材に作った空っぽの修道服……自分を模した戦闘人形と入れ替わって。
自分自身は地形に身を隠し、動かないでいた。集中する為だ。
ナノマシンを増産し、仕掛けを行う為に。
天使像がその手元に巨大な弓矢を形成し……頭上、ビルの壁面へと矢を放つ。
瞬間、アリ達の体が浮き上がる。
網だ。ナノマシンによる物体形成は、戦場の中心に突如として罠を作り出す事を可能とする。
アリ達の足元に作り出された極細の網が、天使像の放った矢によって引っ張り上げられたのだ。
「案ずる事はありません。あなた達は、召し上げられたのです。
残念ながら行く先は神の身許ではなく、シェルターの奥底になりますけど。
……突き落とすなら、まずは持ち上げろって事ですねっ」
ひとまとめにされたアリ達の体に、ナノマシンが付着していく。
それらは機械の関節部に潜り込み……やがてはその身動きを、完全に封じてしまうだろう。 >『二人とも、戦車は道路をまっすぐ行って左にある広場で停止している。
先に僕が偵察するから、二人は後から来てほしい。集合場所を端末にポイントしておく』
「……さて、それじゃ行きましょうか」
そうしてヤスモトが指定した地点へ向かうと……戦車は既に動作を停止していた。
>『……ジェミニ。マリー。あの戦車が何に救援信号を出しているのか、とさっき言ったね。
それはここだよ、この広場だ。あの戦車はずっと、ここを目指していたんだ』
>「ここで戦い続けて……パイロットたちだけでも逃がそうとしたのか」
「……こんな場所が、あったんですか。一体いつから」
マリーは思い浮かんだ疑問を口にしようとして、しかしやめた。
無意味だからだ。彼らは機械で、兵器だ。ただ設計されたプログラム通りに継戦行動を取ろうとしただけ。
>「あの戦車は間に合わなかった……僕と同じだな」
「……大収穫ですね。戦車だけじゃなくて、他の残骸からも旧時代の技術が回収出来るかも」
ヤスモトの呟きを自分の中から塗り潰すように、マリーは呟く。
>『……回収班を呼ぼう。正体不明の無人兵器は前文明の戦車。
無力化完了。よって今回の作戦は終了とする。――いいね?』
「戦車の機銃の発射音は……ヒグマと、スズメバチ。そのどちらにも似てはいなかった。
……だけど、成果が出ちゃった以上、これ以上、このチームでの探索は許可されないでしょうね。
また、何かが起こるまでは……」
全てが終わった訳ではない。災いの種はまだこの廃墟に隠れているかもしれない。
だとしても……それに対してマリーはまだ何も出来ない。
誰一人欠ける事なく任務を達成したにも関わらず、彼女の表情は浮かないものだった。 導かれるままに弾倉の中身を全て同士討ちの為に吐き出したアリが、最後の抵抗とばかりにニッパーを広げる。
ジェミニはそれを容易くスウェーで交わし、カウンターに拳銃をぶっ放した。
「はいご苦労さん」
バイタルパートを正確に撃ち抜かれたアリは崩れ落ちるように沈黙。
飛び散る伝導輸液を手で払い落としながら、ジェミニはマリーの方を仰ぎ見た。
マリーはアリに喰われていた。
「……えっ!?ちょ、シスターちゃん!?」
思わず二度見しても、アリの群がる中心で動かないマリーの姿に変わりはない。
すわ油断が致命傷となったか――急ぎ救助に向かわんとする足を、しかしジェミニは止めた。
先んじて観測に回っていたドローンから、喰われつつあるマリーに『中身』がないことを認識したのだ。
(ハリボテ……いつの間に……)
端末に目を落とせばマリーの生体反応は離れた場所で今も元気に輝いている。
物陰に隠れていた彼女とそのしもべは、どこから出したのか巨大な長弓を空に向けて構えていた。
>「案ずる事はありません。あなた達は、召し上げられたのです。
残念ながら行く先は神の身許ではなく、シェルターの奥底になりますけど。
……突き落とすなら、まずは持ち上げろって事ですねっ」
「それなんか別の逸話混じってない?」
ジェミニの脳裏にシェルターで学んだ旧時代の古典文学の一説が横切った。
地獄に落とされた亡者たちに糸を垂らして一本釣りを愉しむ神々の悪戯(歪曲)。
放たれた矢は無数の糸を引っ張り上げ、それらは全てアリたちにつながっていた。
因果が帰結し生まれる光景は、果実の如く吊り下げられるアリたちの亡骸。
「うわーこういう宗教画見たことあるよ……」
無数の刑死者が吊られた酸鼻極まる刑場に、一人佇む修道女の姿。
もしかしてあの子はシスターじゃなくて異端審問官かなんかじゃないんだろうか。
ジェミニは正直ドン引きしながらそれを眺めていた。
>『二人とも、戦車は道路をまっすぐ行って左にある広場で停止している。
先に僕が偵察するから、二人は後から来てほしい。集合場所を端末にポイントしておく』
造作なくアリ残党の殲滅を終えた二人の探索者に、リーダーから無線が入った。
ヤスモトの姿が見えないと思ったらとうの昔に戦車の追跡に回っていたらしい。
抜け目のないベテランの動きに頼もしさと、残党処理を体よく回された僅かばかりの悔しさでジェミニは唇を尖らせた。
>「……さて、それじゃ行きましょうか」
「りょーかい。ジャミングポッドこっちで置いとくから、先行っててー」
無力化したアリの大半は、行動不能ながらまだ『生きて』いる。
こうした無人兵器をそのまま放置しておくと、"巣"に援護要請を発信されるおそれがあるため、
小型のジャミングポッドで一帯の無線を封鎖するのが通例であった。
感情のないはずのアリの瞳が恨めしそうにこちらを見上げるのを、ジェミニはまっすぐ見返す。
「……貧乏くじ引いちゃったね、お互いさ」
返答などあるはずもない言葉を一方的に投げ捨てて、ジェミニは二人の後を追った。
>『……ジェミニ。マリー。あの戦車が何に救援信号を出しているのか、とさっき言ったね。
それはここだよ、この広場だ。あの戦車はずっと、ここを目指していたんだ』 端末に指定されたポイントで、既にヤスモトは待機していた。
そこは小規模な広場だった。広場、というには随分と小さく感じるのは、開けた場所を取り囲むように兵器が並べられているからだ。
旧時代の軍事拠点の中には、こうした露天駐機による簡易な兵塞を築くことは珍しくなかったという。
交戦の形跡はない――少なくとも、新しいものは。
広場に集められた兵器たちは、みな例外なく大破し、あるいは機能を停止していた。
「"巣"じゃなかったね……ここにあるのは、全部有人兵器だもん」
先刻まで戦っていた戦車だけでなく、この広場で錆に塗れている鉄塊のどれもが、旧時代の遺物だった。
無人兵器たちのような、無機質でありながら生物的という矛盾が生み出す不気味さを、彼らからは感じない。
>「ここで戦い続けて……パイロットたちだけでも逃がそうとしたのか」
>「……こんな場所が、あったんですか。一体いつから」
「……あたしが気になるのは、"いつまで"の方かな」
きっとその疑問に答えるならば、『今日、この瞬間まで』なのだろう。
最後に生き残ったあの戦車は、たった一両になっても、周りの全てが敵になっても、戦い続けてきた。
>「あの戦車は間に合わなかった……僕と同じだな」
ヤスモトが表情を持たない機械の頭部でそう呟いた。
その言葉が彼の持つ記憶のどの惜念を指しているのかは分からないが、ジェミニには言えることがある。
「今は、間に合ってるよ」
シェルター存亡の危機に直面して、こうして三人、誰一人欠けることなく今日を生き延びた。
結果がそれを証明していて、探索者にはそれで十分だった。
戦車のハッチを開けて中身を検分していたヤスモトが手を合わせるのを見て、ジェミニも静かに黙祷した。
>「……大収穫ですね。戦車だけじゃなくて、他の残骸からも旧時代の技術が回収出来るかも」
こんな時でも変わらないマリーの即物主義には肩を竦めるばかりだが、あるいは彼女なりの気遣いなのかもしれない。
鋼鉄の棺桶の中に隠されていた過去を指先でいくらなぞったところで、今日を生きる者たちの腹は膨れない。
結局のところ、前を向いて進んでいくほかないのだ。
>『……回収班を呼ぼう。正体不明の無人兵器は前文明の戦車。
無力化完了。よって今回の作戦は終了とする。――いいね?』
「異論なし。蓋開けてみれば旧時代の人類との時を超えた内ゲバだったってのは、なんかゾっとしない結末だけどさ」
>「戦車の機銃の発射音は……ヒグマと、スズメバチ。そのどちらにも似てはいなかった。
……だけど、成果が出ちゃった以上、これ以上、このチームでの探索は許可されないでしょうね。
また、何かが起こるまでは……」
「そういえば、全滅した探索者たちの遺した音声データ。あれに記録された音とは全然違ったね。
このあたりをあたしたちが徹底的に偵察して、ハチもクマも出てこなかったことを考慮したうえで、
希望的観測で済ませるなら……この戦車が先に連中を片付けてくれてた、のかな」
それは非常に事態を楽観視した、本当に希望的な観測に過ぎない予測ではあるが。
真の意味での『希望』でもある。
「人類は――旧時代の人類は。まだ、負けてないのかもね」
【エピローグ】 >「戦車の機銃の発射音は……ヒグマと、スズメバチ。そのどちらにも似てはいなかった。
……だけど、成果が出ちゃった以上、これ以上、このチームでの探索は許可されないでしょうね。
また、何かが起こるまでは……」
>「そういえば、全滅した探索者たちの遺した音声データ。あれに記録された音とは全然違ったね。
このあたりをあたしたちが徹底的に偵察して、ハチもクマも出てこなかったことを考慮したうえで、
希望的観測で済ませるなら……この戦車が先に連中を片付けてくれてた、のかな」
「ヒグマもスズメバチも索敵には優れているし、攻撃性は強い。
戦車と遭遇して迎撃された可能性はあるだろうね」
端末からセンターへの回線を開き、オペレーターへと作戦の終了を伝える。
同時に回収可能な物資の報告もしておき、センターから回収班が来ることになった。
>「人類は――旧時代の人類は。まだ、負けてないのかもね」
「負けるどころか、終わってすらいないさ。
僕だってそのひと――おっと、言い過ぎた」
口もないのに顔の下部に手を当て、ひらひらと手を振って誤魔化した。
やがてヤスモトは何事もなかったかのように歩き始める。
「それじゃ、帰ろうか。報酬とご飯が僕らを待っているよ!」
――遺棄された兵器の数々は、シェルターにほとんどが運ばれ、
動力だった小型核融合炉や超効率バッテリーなどは街の施設などに再利用、
装甲や武装はシェルターの研究施設送りとなった。
そして、戦車に搭載されていた補助AIは――
「……シェルターの運営AIに再教育させるなんて、無茶なことしますね」
『年月こそ経っているが、データは生きている。利用しない手はないだろう』
「技術屋さんはやることが分かりやすいですね……それじゃ」
『ああ、君も体に異常があればすぐに来るんだぞ。
改造でも構わないがね!』
シェルターの技術班長との通信を打ち切り、街の外縁部へと向かう。
今日のヤスモトの予定は、新人探索者と共に回収班の護衛任務だ。
「さて、みんな。生きて帰ろう。怪我はするかもしれないが、
腕や足なら治せるからね」
【マリーさん、ジェミニさん、参加ありがとうございました!
これにて一旦終わりとさせていただきます!】 二つの大陸とその間にある無数の島々、そしてそれらを取り囲む大海によって成り立つ世界。
二つのうちの一つ、豊かな自然と無数の動植物が栄えるアスガルド大陸ではヒュマと呼ばれる種族が
ドワーフ、エルフと言った他の種族と手を取り合い、数多くの国を建国していた。
一方ヨーツンヘイムと呼ばれるもう一つの大陸は生物の中でもひときわ大きい巨人と呼ばれる者たちが
支配権を握り、痩せた大地と厳しい気候の中たった一つの帝国を作り上げることで体制を保っていた。
巨人族は皇帝ユミル九世の名の下アスガルドに領土を求め進撃し、最初は巨人族の強靭さとヒュマ族の数倍とも言える体格で
海岸近くの国をいくつも制圧した。
だがアスガルドの民は抵抗を諦めず、エルフの魔術、ドワーフの鍛冶、ヒュマの知恵、さらには神々の加護を結集させて
巨人族のように大きい鉄の巨人を作り上げた。後にある神話から名前を取ってタイタンと呼ばれることになるそれは
乗り込んだ者の意思によって自由自在に動き、あらゆる武器を扱うことができるアスガルドの守護者となった。
そして最初の巨人族の侵攻から数十年が経ち、量産化されたタイタンたちを主軸にしたアスガルド連合軍と
巨人族とその奴隷から成り立つヨーツンヘイム軍の戦争は未だに終わることなく続いている。
ジャンル:剣と魔法のファンタジー世界
コンセプト:巨人どうしの殴り合い
期間(目安):短め
GM:あり
決定リール:他PCに影響を与えるようなら相談を
○日ルール:一週間(延長可)
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし
名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
種族:
職業:
性格:
能力:
所持品:
信仰する神:
タイタン解説:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
なんかこうした方がいいとかアドバイスあったら頼む
調整終わったら一つやってみたい ファンタジーロボットものか
エスカフローネとかガリアンみたいな感じかな 巨人vsロボットって感じ?
面白そうやん
キャラテンプレの例とか見たいな 名前:トム・バール
年齢:28
性別:男
身長:177
体重:83
種族:ヒュム
職業:自由騎士
性格:活発的
能力:ジハーディア王国流剣術
所持品:大剣
信仰する神:戦神ジハーディア
タイタン名:ラウンドナイツ
タイタン解説:戦神の加護を受けて作られた量産型タイタン。
騎士の甲冑をそのまま大きくしたような見た目だが、
一定の機動力を保っており汎用性が極めて高い。
戦神の加護によってあらゆる武器を扱うことのできる拡張性の高さから
一号機が作られてから十年経った今も量産され続けているタイタン・オブ・タイタンである。
トムの機体は背中の武器格納部分に大剣を背負い、腰に盾と短剣を装備した標準的な装備だ。
容姿の特徴・風貌:常に動きやすい軽甲冑を身に纏い、金髪を短く刈り揃えている。
顔はアスガルドの基準では美男子の部類に入り、強い意志を感じさせる目をしている。
簡単なキャラ解説:ジハーディア王国騎士の家に生まれ、タイタン乗り兼騎士として教育を受ける中で
王国のみならず大陸全土を守りたいと考え、王国騎士の位を返上。
以降は自由騎士として連合軍に参加し、「巨人狩り」と称されるアントニオ伯爵率いる
タイタン傭兵部隊に所属して前線の一翼を担っている。
前向きな思考はいつでも崩れることはないが、同僚からは押しつけがましいと言われることもある。
主人公と一緒に戦う戦友でPL募集したい
上官とか部下でも全然OK
何か世界観で質問あったらどうぞ アスガルドとヨツンヴァイムの文明って現実で例えると何時代相当なの? アスガルド大陸側
国によって多少の技術差はあるが
活発な交易や魔術の研究が続いたこともあり
地球で言うところの中世欧州
ー近世欧州初頭ぐらいの科学レベルであ
る
ただし銃や砲は大陸内の戦争では使
われたが巨人族にはほとんど通じず
武器の神が「素人を戦争に巻き込む
」としてタイタンが扱うための加護
を与えていない。
ヨーツンヘイム側
巨人族が生まれ持った強靭な体によ
って強引に開拓を成し遂げたため
地
球で言えば古代欧州ー中世欧州初頭ほどの技
術である。
ただしアスガルドに渡ってから
急速
に技術を吸収しており、武器や防具に関わる技術は特に重要視している。
『神々の加護』
武器や防具に自らが信仰する神の
加護を与えてもらうことで様々な能
力を発揮する。
特にタイタンは神の加護を
得てなんとか動かしており、加護なし
ではただの彫刻と成り果てるだろう
このためタイタンの見た目は神々が気に入るような象徴的デザインが多い。
技術力やそれを支える経済は
アスガルド>ヨーツンヘイム
軍人の数なら
ヨーツンヘイム>アスガルド
という大雑把なイメージ アスガルド大陸側
国によって多少の技術差はあるが活発な交易や魔術の研究が続いたこともあり
地球で言うところのヨーロッパ中世ー近世初頭ぐらいの科学レベルである
ただし銃や砲は大陸内の戦争では使われたが巨人族にはほとんど通じず
武器の神が「素人を戦争に巻き込む」としてタイタンが扱うための加護を与えていない。
ヨーツンヘイム側
巨人族が生まれ持った強靭な体によって強引に開拓を成し遂げたため
地球で言えば古代ー中世初頭ほどの技術である。
ただしアスガルドに渡ってから急速に技術を吸収しており、
武器や防具に関わる技術は特に重要視している。
『神々の加護』
武器や防具に自らが信仰する神の加護を与えてもらうことで様々な能力を発揮する。
特にタイタンは神の加護を得てなんとか動かしており、加護なしではただの彫刻と成り果てるだろう
このためタイタンの見た目は神々が気に入るような象徴的デザインが多い。
すいませんコピペした時に改行おかしくなってたので訂正 あータイタンの駆動原理は加護依存なのね
燃料とかは必要ないん? 燃料は必要ないですね
神々の加護が駆動系と動力と(神々によっては)特殊な武装を兼ね備えてると考えていただければ 巨人族は6〜8メートルほど
タイタンも同じ大きさですが
タイタン1体>平均的な巨人族戦士5体の能力差があるのでなんとか均衡している状況です 基本肉弾戦になるのかね
武器は剣とか槍まで?銃はダメとして弓とか弩とかはオーケーなの タイタン圧倒的やな
巨人が多いのもあるだろうけど、それよりタイタンが少いイメージになったわ 近接武器なら戦神の加護があるので全て扱えます
弓や弩、投石機などは狩人神の加護によって扱うことができますが、タイタンの強みである前線の壁になれるという利点がなくなってしまうので敬遠されがちです どっちかってーとタイタンに対して巨人が寄ってたかって犠牲出しながら倒すって感じなのね 設定見てると巨人に脅威を感じないなー。タイタン強すぎ
タイタンと巨人の強さは1:1か、多くて2:1くらいじゃないと絶望感がない
圧倒的絶望を智慧と勇気でひっくり返してこそカタルシスは得られるもんじゃない? どこでカタルシスを生じさせるかはジャンルによって変わるもの
導入見ると戦記物だけど、主の意識ではファンタジーヒーロー物なんじゃない?
戦記物なら個々の戦力差は殆どなく、一兵士だろうと将軍だろうと強さ自体はたいして変わらない
多少の手練れ扱いはあっても十人に囲まれればどうにもならない程度
軍という個の戦力では覆せない状況を戦略や戦術で覆すことにカタルシスが生じる
一方ファンタジーヒーローものは個の戦力が其のまま全体の戦力に繋がる
魔王単体で人間の一軍を凌駕する戦力
それに立ち向かうのだから当然一般兵など圧倒できないといけない
カタルシスは全線ではなく敵中枢の強大な個を倒すことに焦点が置かれる
どちらが良い悪いではなく、ストーリーが戦記物だからチグハグな感じになっているのだと思う
一思いに、巨人が攻めてきて、神の祝福であるタイタンを授かった戦士が立ち向かう
な感じなら納得できるんじゃない?>1:5
個人的には戦記物路線よりを期待したいけどな 巨人側の脅威が安いコストで数を送り込めることとかだったらわかりやすくやべーなってなりそう
タイタン側は二次大戦の枢軸国側エースパイロットみたいな存在で >>277
なーる。
俺はFSSのMHバトルみたいなほぼほぼ一騎打ちを想像してたが、スレ主はゲッターロボみたいなんを想定してたわけか
とこのように、ロボットと言っても人によってこんだけ解釈に違いが出る
だから文章だけでロボ物は難しいんだよなあ 色々考えてみましたが
巨人の中にも神の加護を受けた者がいてそれらがタイタン並みに強いという設定にします
いわゆる巨人側のタイタン
加護持ち巨人≧タイタン>巨人
対等に戦うには1:3:5ぐらいの割合で数がいるということでどうでしょうか?
>>277さんの意見を取り入れて戦記物寄りでいこうと思います 戦記ものとなるとキャラクター達の立ち位置はどうなるんやろか
ワンマンアーミーは当然難しくなるから、将校として指揮する立場になるのかね 独立遊撃部隊とか強襲偵察部隊
みたいな、局地戦な部隊を展開しやすいのが良いかもね
下手に指揮官になると身動きがとりにくくなるし、タイタンの意味が薄れちゃいそう 名前:ニル・ヴァーナ
年齢:47(人間年齢に換算して23)
性別:女
身長:135
体重:85
種族:ドワーフ
職業:呪術師
性格:リアリスト
能力:法術
所持品:リペアキット
信仰する神:土角明王
タイタン名:イルヴァーナ
タイタン解説:ドワーフの最高技術者の一角を担うヴァーナ夫妻の技術の粋を集めて作られたタイタン
6頭身で重厚な装甲に覆われ、巨大な流線型のショルダーシールドが特徴
巨大な主腕と胸元につく呪印用の小さな副腕の二対がある
ショルダーシールドの内側には巨大なトラバサミが左右それぞれ二基ずつ仕込まれており、鎖で繋がれている
トラバサミで敵を封じ込め、主腕に装着されたパイルバンカーで確実に仕留める
魔術の素養の低いドワーフ族においてニルは珍しい呪術師であった
そしてヴァーナ夫妻渾身のタイタンは土中航行術を備えた特殊呪法タイタン
素養のなさを巨人に殺された夫イル・ヴァーナの脳を補脳として使い呪法を可能としている
ニルの復讐心の顕現と言える
参考画像(拾い物)
http://blog-imgs-16.fc2.com/a/g/r/agrow/064.jpg
容姿の特徴・風貌:低身長骨太赤毛を幾本もの三つ編みにしている典型的なドワーフ女性
呪力を高める仮面を常につけており、その表情をうかがい知ることはできない
服装は分厚い皮で出来た作業服、色は茶色とオレンジとかなり地味
簡単なキャラ解説:技術立国ドワーフの王国にあってもその人ありと言われた最高峰の技術者ヴァーナ夫妻
数多くのタイタンを作り出し、更なる進歩の為に研究政策を続けていた
タイタン開発所が巨人の強襲に遭い夫イルは死亡
死体の損傷が激しく、回収できたのはその頭部のみであった
夫の死に復讐の鬼と化したニルはイルの脳を新開発呪法タイタンの補脳に使い、復讐の為に前線に立つ
より多くの巨人を殺すために常に戦場を求め、現在巨人狩り」と称されるアントニオ伯爵率いるタイタン傭兵部隊に所属
あんまり設定こねくり回してばかりだとグダりそうだし、ちょっと景気づけにテンプレ投下
格闘戦がメインという事なのでちょっとスレの毛色とには合わないかな? >>283
ありがとうございます!テンプレ作ってくださった方もいますし、
設定作りはこれまでにしてちょっとプロローグ書いてみますね ジハーディア王国・アントニオ伯爵領ヒッポニア平原。
かつては多くの小麦が実り、季節によっては黄金色に染まっていたこの場所は、
今や巨大な砦が築かれ、巨人族のものとなっていた。
かつての農民たちは奴隷として働かされ、戦争に使うための武器や防具を日々作らされ続けている。
そこから遠く離れた先、アントニオ伯爵領にある連合軍拠点。
山を丸ごとくり抜いて作られたこの拠点の中、タイタンたちがずらりと並ぶ円形のホールの
中心で甲冑を着たある男が演説を行っていた。
『この数十年!スカーレット半島を奴らに乗っ取られ、さらには同志であるドワーフ・エルフの国々も
その国土を奴らに奪われた!』
男の名はアントニオ・クレバドス・イーゲル。
五十歳を過ぎてなお部下と共に最前線で戦い続けるタイタン乗りにして、アントニオ伯爵領方面の総司令官だ。
彼の所領は今やヨーツンヘイム軍との最前線となっており、日々こうして檄を飛ばして軍人たちを激励している。
『だが我々はただ奪われるだけではない!偉大なる神々が与えてくださった加護と、鍛冶と魔術と知恵が
巨人共に対する絶対の剣を生み出した!』
すると彼の背後に立つタイタン『ゴルディオン』が赤いマントをはためかせて、黄金に輝く大槌を掲げた。
それに応じるように、ホールに立ち並ぶタイタンたちも各々の武器を掲げる。
「すごい……伯爵の演説はいつ聞いても迫力がある。
あの人のおかげでここは動いてるようなもんだ……!」
武器を掲げるタイタンの内の一つ、『ラウンドナイツ』そしてその搭乗者であるトム・バールは
毎日聞いているはずの演説に、まるで初めて聞いたかのように感動していた。
『今回の戦は膠着が続くこの戦争に楔を打ち込む、極めて重要な戦だ!
各員の奮闘に期待する!』
やがて演説が終わり、アントニオ伯爵は自らのタイタンが差し出す手に乗り、胸のハッチを開いて搭乗した。
戦神の加護と太陽神の加護を受け、大量の供物を捧げることでその加護を維持しているタイタン『ゴルディオン』
その大槌によって何体もの巨人が粉砕され、ヨーツンヘイム側からは懸賞金をかけられるほどだ。
見た目も太陽を現す黄金の大輪飾りを付けた頭や赤と黄金の色合い、そして式典を思わせる豪奢な鎧。
対してトムが乗り込んでいるタイタン『ラウンドナイツ』は
同じ戦神の加護を受けてはいるが見た目はただの騎士甲冑、使う武器は使い古された大剣に、盾と短剣。
もちろんタイタンサイズの武器であるから人が振り回せるものではないが、ゴルディオンと比べれば見劣りする。
「……いや、大事なのは意志だ!
巨人族をこの大陸から追い出すという意志を持ち続ければ、武器なんて問題じゃない!」
こうして進軍前の演説は終わり、タイタン乗りたちは拠点にある酒場へと向かう。
ここは進軍前に告げられるタイタンの編成ごとに分かれて飲むのが暗黙のルールとなっており、
数人ごとにばらけて飲んでいるのが一般的なスタイルだ。
トム・バールもその例外ではなく、既に次の戦いで一緒に戦うことになるタイタン乗りたちが
待っているテーブルに着き、まずは遅くなったことを詫びた。
「すまない!カウンターで注文をしていたらテーブルを探すのに手間取ってしまった。
これもマスターが酒には焼いた豚肉をつけろと進めてきたのを断るためでね」
まもなく運ばれてきた、濁ったエールが入った木のコップを掲げて威勢よく叫ぶ。
「アントニオ伯爵の演説は素晴らしい!伯爵の指揮があれば、あの憎らしい砦もすぐさま壊してやれるだろう!」
【プロローグ。戦闘前夜の最後の宴会】 連合軍拠点にて熱を帯びた演説をする総司令アントニオ伯爵
その演説の熱派兵士たちに伝播し、気勢を漲らせる。
そんな演説を囲むようにズラリと立ち並ぶタイタンの末席にイルヴァーナとその操縦者ニルはいた。
総司令官のタイタン『ゴルディオン』は象徴的な意味もあり意匠をこらされたものである。
一般のタイタンはゴルティオンに比べれば地味な感は否めないが、その中でもひときわ異質なタイタンがイルヴァーナである
装飾を排除し、頭部すらもなく、なによりも演説に応えるように皆が掲げる武器すら持っていなかった。
その手は巨大な鉤爪であり、前腕部に仕込まれたパイルバンカー
打ち合いや剣撃を想定した戦士ではなく、純粋に巨人を殺すための器具でしかないのだ。
故にアントニオ伯爵の熱もニルには伝わらない。
「熱も、大義も、いらないのさ……大切なのは意思、巨人を殺すという意思のみ……!」
ニルは本来技術者であり、戦いに正義も大義も求めない
この戦争も巨人の侵略ではなく、過酷な大地と言われるヨーツンヘイムから豊かなアズガルドへの生存をかけた移動でしかない。
当然迎え撃つアズガルドも己の生活を守るための迎撃。
つまるところは単純な生存競争でしかないのだ。
故にニルは戦争に大義も正義も、憎しみも必要ないと思っている。
巨人たちも生活するために来ているのであり、その背後には自分たちと同じように愛する家族もいるだろう
ひとたび憎しみをもって仇だと殺せば、自分も同じように仇を打たれる対象となる
そんな感情こそが戦争を生み出し、いつまでも終わらぬ泥沼にするのだ。
と思っていた。
夫が殺されるまでは。
技術部で戦場を開発と改良、そして戦略記号が書き込まれた地図の上から見えているだけならばそんな綺麗事も言えたのだが、戦争がわが身に降りかかればあっという間にその泥沼に首までつかってしまうのだ。
泥沼にどっぷりとつかったニルに、アントニオ伯爵の熱気は伝わらない。
だが、その熱とは別種の熱を帯びたニルの目が赤く光る。
演説終了後、タイタンノリたちは拠点にある酒場に向かう
そこで編成ごとに分かれて飲むのだが、その例に漏れずにニルもテーブルについていた。
>「すまない!カウンターで注文をしていたらテーブルを探すのに手間取ってしまった。
> これもマスターが酒には焼いた豚肉をつけろと進めてきたのを断るためでね」
「かまやしないけど、トム、あんたは焼いた豚肉貰ってもよかったんじゃないかい?」
部隊編成で共に戦うタイタンノリの一人、トムは鍛えられた体ではあるがそれはあくまでヒュムの範疇で見ればの話だ。
頑強なドワーフの基準で見ると貧弱に見えてしまう。
運ばれてきたコップを受け取り、仮面の下部を外して口をあらわにする。
ニルは魔術の素養の乏しいドワーフにあって、珍しく呪術師であり、タイタンも呪術を使えるようになっている。
だがその為に呪力を高める必要があり、補助器具として仮面を常につけてるのだ。
食事の時などは一部取り外しをするのだが、基本的に顔を晒すことはない
>「アントニオ伯爵の演説は素晴らしい!伯爵の指揮があれば、あの憎らしい砦もすぐさま壊してやれるだろう!」
「はいはい、明日は戦闘なんだ、酔うのは伯爵の演説だけにして酒は程々にしておくれよ、おかわりだ」
トムの興奮に肩を竦めながら乾杯に応え、エールを一気に飲み干しおかわりを請求。
呪術師に取って酩酊状態は百害あって一利なし。
戦闘を控え酔うつもりはない。
ヒュムからすればペースが速いように見えるかもしれないが、酒豪が当然の種族ドワーフである
本来は火酒を樽で煽るドワーフにとって、エールなど水も同然なのだ。 【それでは始めましょうか、よろしくお願いします
と投下させてもらったのですけどね
テンポよく続けたいと思っているかもしれませんが、まだ二人ですし話がまとまって始まったばかり
導入部分でテンポ良すぎると参入を考えている人がいたら、タイミングを失ってしまうかもしれません
キャラ考えテンプレ作るのにそれなりに時間も必要でしょうし
という事で、トムさんのレスはあえて4.5日間を開けてはいかがでしょうか?】 【提案ありがとうございます!
それなら今週の日曜日まで待ってみますね】 【誰も来られなかったということでニルさんと対面でやらせていただきますが、
新規の方はいつでも参加歓迎しますのでぜひ来てください!】 >「かまやしないけど、トム、あんたは焼いた豚肉貰ってもよかったんじゃないかい?」
仮面で素顔を隠し、呪術を使いこなすタイタン乗り、ニルが同じテーブルにいた。
彼女は食事であっても仮面の上部を外すことはなく、素顔を誰も見たことがないと言われている。
>「はいはい、明日は戦闘なんだ、酔うのは伯爵の演説だけにして酒は程々にしておくれよ、おかわりだ」
だが彼女と彼女が乗るタイタン『イルヴァーナ』は安定した強さだ。
明日の戦闘においてもその性能は十二分に発揮されるだろう。
「ニルの言う程々、というのは大樽一つのことを言うのだろう?
心配せずとも二杯ほどに留めておくさ」
トムも酒はヒュムの基準ではかなり飲める方だが、それでもドワーフの基準には及ばない。
『ヒュムの酒豪はドワーフの下戸』という言葉があるほどだ。
ヒュムにせよドワーフにせよ、明日は長丁場の戦闘になる。
それをトムは分かっているからこそ、酒よりも飯を大いに食べて宴を過ごした。
―――そして夜が明け、まだ太陽が半分しか姿を晒していない頃。
トムとニルの所属する第四タイタン部隊『大鷲』は数百人の歩兵と共に
連合軍拠点からそう遠くない森林を歩行していた。
この森林は元々ヨーツンヘイム軍が砦を作るために木材を切り出していた場所だが、
連合軍が奪回し、今では巨人が輸送用に切り開いた道をタイタン輸送に使っている。
今回の戦においてまず『大鷲』に与えられた任務は、この道を通った先にある
アルカイ大橋に築かれた関所の偵察、もしくは破壊だ。
そのために彼らはまず森林を抜け、アルカイ大橋近くにある小高い丘から
関所の戦力を調査することとなった。
「全タイタン乗りへ。部隊長のエレバスだ。」
歩行中のタイタンの中で、最も小さく、黒一色に塗られたタイタン『アルパ』から声が響いた。
このタイタンは言語神ウォカーと狩猟神ウェナーの加護を強く受けており、
どんな相手・状況でも自分の言葉が聞こえ、また敵の痕跡や匂いを知ることができるタイタンだ。
武装は片手用の小ぶりな斧とクロスボウだが、前線で戦うというよりは一歩引いた位置で指揮をしていることが多い。
「本部から念話で情報が入った。
アルカイ大橋に詰めている巨人どもの中には加護を持った奴が何体かいるそうだ。
討ち取るか加護の種類が分かれば追加報酬だとよ」
「部隊長!トムです!討ち取る役目はぜひ自分にお任せを!」
タイタンたちの中で一番前を歩いていた『ラウンドナイツ』からトムの声が響く。
やる気は十分であると言わんばかりに盾を持った左手を振り上げてアピールしている。 「アホか!お前一人で加護持ち討ち取る気か!ニル、前向きに自殺しそうなあいつを止めておいてくれ!」
タイタンの数が増え、連合軍が徐々にヨーツンヘイム軍を押し返すようになってくると
今度は巨人の中に神々の加護を受け、並のタイタンをはるかに上回る巨人が現れるようになった。
彼らは『加護持ち』と噂され、厄介なタイタンへの対抗策として他の巨人族より
質のいい装備で身を固めていることが多い。
タイタンに乗る者ならば、まず単独で戦ってはならないとされている強敵である。
「ニル、巨人の中でも厄介な加護持ちを討ち取ることがどれほど大陸の平和に繋がるか分かるだろう。
僕は英雄になりたいんじゃない、この大陸を平和にしたいんだ」
『ラウンドナイツ』の兜のスリットから覗く二つのルビーの眼が、
『イルヴァーナ』を見つめる。それは先程からのトムの発言を冗談ではなく本気だと語っていた。
【ニルさん改めてよろしくお願いします!】 第四タイタン部隊『大鷲』の向かう先はアルカイ大橋
そこに気付かれた関所の偵察もしくは破壊任務を帯びている
破壊まではいかなくとも、一当てして敵の戦力を調査することが主目的にあり、戦闘は避けられないだろう。
部隊長のエレバスからもたらされた情報によれば、加護持ちの巨人が複数いるとの事。
通常の巨人ならばタイタンとの戦力差があり、1対1で戦うならばまず負けはしない。
当然試合ではなく戦場である以上、1対1で尋常に勝負などという事はあり得ないのだが、それでも戦力差は勘案できる。
だが、加護持ちの巨人となると1対1ではまず勝てない
1対2でも怪しく、1対3でようやく対等になるというところか。
勿論それぞれの特徴を生かし戦略や戦術により戦力差を覆すことも可能ではある。
特にニルの搭乗する特殊呪法タイタンの持つ土中航行機能はそういった状況を生み出しやすいのだが、今回は戦場がまずかった。
戦場となるのはアルカイ大橋
すなわち地中潜航ができるというアドバンテージが使えない場所なのだから。
>「アホか!お前一人で加護持ち討ち取る気か!ニル、前向きに自殺しそうなあいつを止めておいてくれ!」
これからの戦いに思いを巡らす煮るとは裏腹に、トムはどこまでも前向きであり、そして無謀であった。
加護持ちの巨人を打ち取ると息巻き、部隊長からは呆れる声と共にニルにトムの世話を焼けと回ってくる
「あいよ〜。味方にこのトラバサミを使うのは気が引けるのだけどねえ、いざとなったら埋めとくよ」
部隊長に苦笑交じりに応えておく。
ここで言う【埋めておく】とは比喩ではなく物理的な話なのだ。
ニルの特殊呪法タイタン『イルヴァーナ』を加護するは土角明王
その籠の最大の特徴は地中潜航能力であり、その恩恵は強く掴まれたものにも及ぼすことができるのだ。
ショルダーシールドに仕込まれた巨大なトラバサミは鎖に繋がれイルヴァーナに繋がっている。
トラバサミもまた加護を受けており、それに挟まれた巨人に加護を付与する事もできるのだ。
その状態でイルヴァーナが術を発すれば、対象の意図を無視して地中航行能力を付与する事になり、結果として沼地に沈むように地中に引きずり込まれる。
引きずり込んだところで術を解除すれば相手はそのまま生き埋めとなる。
とはいえイルヴァーナの地中潜航深度はそれほど深くなく、強力な相手だと生き埋め状態からでも大地を割り脱出する事も考えられる
故に中途半端に沈め、動きを封じ地表に出ている部分を僚機のタイタンがとどめを刺す事にしている。
「はんっ、部隊長からも言われたんでね。埋められたくなきゃ無茶するんじゃないよ
関所まで行くなら下が土じゃなく橋だ、いつものパターン出来ないんだからね
平和も結構だけど、加護持ちがどれだけいると思っているんだい?
どうせ死ぬのなら最後の一体を殺してからにしな。」
トムの言葉と『ラウンドナイツ』のかぶとのスリットから覗くルビーの目から送られる気に、本気であることは十分伝わっていた。
だからこそ、トムにはまだ死んでもらっては困るのだ
ニルにとってはもはや英雄も、平和も、どうでもいい事なのだから。
ただ復讐あるのみ
復讐の相手は全ての巨人
善も悪も何もなく、全ての巨人を抹殺するまで終わる事がないのだから。
だからこそ、利用する、戦争を、味方を、僚機であるトムを 進軍は順調に進み、小高い丘に第四タイタン部隊『大鷲』は布陣した。
眼下に見えるはアルカイ大橋と関所が見える。
索敵に適した加護を受けたタイタンが早速戦力を調べにかかっている。
そしてニルの『イルヴァーナ』もまた索敵に適したタイタンである
索敵というより強襲偵察に近いのではあるが
「こちら『イルヴァーナ』のニル。これより地中潜航により戦前工作にはいる」
イルヴァーナには巨大な手腕の他に、胸元に呪印用の小型の腕がついている。
搭乗者のニルが呪法を行使すると、イルヴァーナの副脳として搭載されたニルの亡き夫の脳が反応し、それに連動するように呪印用の腕が複雑な印を結ぶ。
結果、まるで沼に沈んでいくよう巨大なタイタンが地中に沈んでいくのだ。
沈みながら『イルヴァーナ』の背中から細く長い竿が伸びる。
地中潜航は潜水と同様の者であり、当然呼吸も視界も失われるため、このような吸気管兼潜望鏡を伸ばす必要があるのだ。
地中深度10Mほどまで沈み、ゆっくりとアルカイ大橋へと接近していく。
橋の接岸地点に見張り台が設置されており、橋中央に関所が設けられているのが見える。
重要拠点であることもわかっているのであろう、見張りの巨人に隙はなく注意深くあたりを見回しているのが判る。
これだけ近づくと、念話を傍受される可能性もあるので連絡は取れない
橋の手前50Mほどの地点でトラバサミをショルダーシールドから展開させ、地表付近に設置。
戦端が切られ巨人たちが迎撃に出るのであれば、橋から100M以内が接敵地点になる
ならばここらあたりに罠を仕掛けておけば、巨人の出足をくじき陣形を乱すことができるだろうから
ニルはくらい地中でじっとその時を待つ。
トムとは別種の仄暗い熱を隠しながら。 【改めましてよろしくお願いします
そしてまだ参加を迷っている方が見えましたら是非是非共に楽しみましょう】 >「こちら『イルヴァーナ』のニル。これより地中潜航により戦前工作にはいる」
「部隊長エレバスだ。加護持ちの巨人は三体。
関所の中に全員待機してやがるな……見張りは潰すな、ニルの罠を待って仕掛けるぞ」
アルカイ大橋は極めて大きな石橋であり、戦争前は十台の馬車が並んで通れると言われたほどの幅を持つ。
今では巨人たちによって増築が施され、一種の要塞となってしまっている。
「ニルの罠を感知した。丘から思い切り声を挙げて突っ込む、ただし突っ込みすぎるな」
『アルパ』が手斧を握りしめ、他のタイタンもそれに呼応するように各々の武器を構える。
一般的なタイタンと巨人の戦闘は、人間同士――つまりヒュマ、ドワーフ、エルフが
武器を持って戦う普通の戦争と大して違いはない。ただ周囲に与える被害は、数倍にもなるが。
防御に優れた重装備のタイタンが先陣を切って丘を駆け下り、その後ろから他のタイタンが走る。
さすがに見張りの巨人が気づき、巨人兵が関所からぞろぞろと出てきた。
「タイタンノ群レ!連合軍ドモカ!」
巨人たちの装備は頭だけを覆った鉄の兜に鉄の胸当てだけと簡素なものだ。
これは物資がないわけではなく、巨人族そのものの身体が極めて頑丈なためである。
また武器も鉄の斧や鉄の大槌など、力任せに振り回すものが多い。
これも防具と同じように、巨人族の頑丈な身体に剣や槍などの構造ではついていけないからだ。
「総員突撃セヨ!」
指揮官らしき巨人が、関所の奥から声を張り上げて叫ぶ。
すると数十の巨人兵が大地を揺るがさんとばかりに雄叫びを挙げて走り出す。
「……?」
だが先頭を切って走っていた巨人があることに気づいた。
いくら走っても前に進まず、目の前で走ってきているタイタン共がどんどん視界の上に動いているのだ。
彼は下を見てようやく理解した。自分が地面の中へと沈んでしまっていることに。
「よし!奴らの勢いは殺した、このまま突っ込んで荒らすぞ!」
先頭が転び、沈み、倒れたことで巨人側の勢いは大幅に減った。
そこに丘から走ることで勢いをつけたタイタンたちが突っ込み、巨人たちはさらに混乱することになる。
「せいやっ!」
その乱戦の中で、トムの駆る『ラウンドナイツ』は順調に戦果を挙げていた。
斧を振り上げた巨人兵の顔面に盾を叩きつけ、怯んだところに
ショートソードと呼ばれる短剣を心臓に突き刺し、ぐりっと捻って抜く。
味方のタイタンを襲っていた巨人兵に背後から大剣を叩きつけ、兜ごと頭をかち割る。
そのような乱戦がしばらく続いたかと思うと、部隊長から念話が入った。
「加護持ちが出てきたぞ!全タイタンは一旦俺のところに――」
途中までしか聞こえなかったことにトムはやや不安を覚え、僚機であるニルに念話を飛ばす。
「ニル!加護持ちが出てきたらしい、一旦集合だ!」 開戦直前。
既に潜望鏡は下げ、地上の様子を知ることはできないが、巨人の駆ける振動は地中を走る。
それと共にトラバサミから伝わる肉を裂き挟む感触
「はぁ……ああああ!」
その感触をタイタン『イルヴァーナ』を通じ自身の体の芯に感じ、愉悦ともいえる声を漏らし、トラバサミに繋がる鎖を引き下ろす。
地上では先陣を切って駆け出した巨人が四体、それぞれの足を巨大なトラバサミに囚われ苦痛に呻いていた。
だが、その強靭な肉体こそが最大の武器であり防具である巨人である。
不意の罠で肉を裂かれ挟まれても骨を砕くまでには至らず。
特に先陣を切る巨人は屈強にて勇猛でであり、トラバサミに囚われようともそのまま鎖を引きちぎり進むであろう。
それが『引き合い』ならば、だ
ニルは呪術師ではあるが同時にドワーフであり、生粋の技術者。
強靭の性能と己の性能を正確に把握し、過小評価も過大評価もしない。
だからこそ、そもそも巨人と同じ土俵に乗る事はない。
トラバサミに囚われた瞬間から『イルヴァーナ』の受ける土角明王の加護を強制的に共有させることができる。
すなわち巨人にとって足元に広がるのは確固たる足場ではなく、踏ん張りようのない底なし沼なのだから。
半身が沈んだところでトラバサミを解除し、すなわち土角明王の加護下から外れ残された巨人は身動きとれぬまま取り残されるのだ。
全身沈めて生き埋めにしても掘り返して出られてしまう。
ならば上半身残しておけば、抵抗されようとも身動きの取れない状態。
タイタンならばもちろんのこと、随伴の歩兵でも巨人を仕留める事ができるのだから。
巨人への強烈な復讐心を持つニルであるが、その対象は巨人全体に及ぶ、
故に自分の手で直接殺すこだわりを捨て、一体でも多く巨人を死に至らしめるように仕向ける方向に向いているのだった。
戦法をくじかれ隊列が乱れた巨人たちにタイタンたちが丘から走り下り、その勢いのまま突入する。
アルカイ大橋前は一気に大混乱と化す中、ニルは静かに地中を航行し、戦場から程離れた場所の浮上した。
地中潜航は奇襲できるからこそのアドバンテージなので、なるべくそれを察知されないようにするための措置であった。
スピードの遅い地中潜航で一旦戦場を離れ、それからまた舞い戻るのであるから、アルカイ大橋前に到着したころには大勢が決しようとするとこであった。
このまま橋を渡り関所まで行けるのではないか、というほど優位な戦いの中、通信が入る。 >「ニル!加護持ちが出てきたらしい、一旦集合だ!」
「ああさ、こっちにも念話は届いてた。
念話が途中で途切れたって事は、アルパの上位互換か、飛行タイプか……単純に強いかだねえ」
言語神ウォカーの加護を受けるタイタン『アルパ』は戦闘力こそ劣るものの、念話と探査力に優れ、部隊の中核として後方から指示を出す役目を担う。
故にこの前線に出る事はなく、戦場を一望できる後方に位置する
その『アルパ』の念話が途切れるのは同種でありそれ以上の加護を受け指揮系統を寸断する事ができる加護を持っている。
もしくは部隊後方にいたアルパに前線の混戦を避けて直接攻撃ができる飛行の加護を持つものか。
土中潜航でも急襲をかけられなくもないが、スピードが違い過ぎる。
出来ればこの二つで有ってほしいとニルは願う。
そういった加護を抜きでこちらの部隊中枢に切り込めるとなれば、恐るべき強さを持った巨人という事になるからだ
橋前の戦闘から離脱し、アルパに向かう前にトラバサミを一本、倒れている巨人に投げつけ捉え引きずっていく。
「トム、部隊長の言葉を忘れるんじゃないよ!
相手の加護が判れば儲けもんくらいに考えとけばいい
状況によっては巨人放置でアルパさえ引きずってこりゃいいさね、必要なのは情報なんだからね」
そういいながら巨人を咥えたトラバサミの鎖を持ち、回転を始める。
一回転、二回転、そして三回転目にトラバサミの口は開き、巨人は宙を舞いアルバのいたポイントに飛んでいく。
アルバの周辺の状況がどうなっているかはわからない。
だが、加護持ちの巨人がいる可能性がある以上、直接突っ込むのは危険。
そこで巨人の死体を投げ込み、虚をつくって突入口を開くのだ
巨人を投げ込んでいる間に他のタイタンたちは先行し、『イルヴァーナ』は十歩ほど遅れてそれに続く形のなった。 >「トム、部隊長の言葉を忘れるんじゃないよ!
相手の加護が判れば儲けもんくらいに考えとけばいい
状況によっては巨人放置でアルパさえ引きずってこりゃいいさね、必要なのは情報なんだからね」
「分かってる!先に向かうぞ!」
戦闘によって激しい砂埃が舞う中、『ラウンドナイツ』は他のタイタンと戦場を駆ける。
途中はぐれた巨人とも遭遇するが、加護のない巨人であればトムでもあっさりと倒すことはできた。
そしてもうすぐアルパが突撃の後、状況把握のために陣取っていた丘のふもとが見えたと思ったその時だ。
『イルヴァーナ』が投げ込んだ巨人の死体が頭上を通り、固まっていた巨人たちにぶつかった光景を見て、トムはあることに気がついた。
「土が……巻き上がっている?
砂埃にしては激しすぎる、こんな加護を持ったタイタンはこの部隊にはいなかったはずだが」
そもそも足元の草原はタイタンや巨人によって踏み固められ、
草木と土が入り混じっている。こんな状態で砂埃、いや砂嵐が巻き起こるとすれば――
「我らが同志の死体を放り投げるとは……貴様らに敵を尊ぶ誇りや名誉はないと見えるな」
砂嵐がひときわ激しくなったと思ったとき、『ラウンドナイツ』の目の前に一体の巨人が現れた。
頭を覆う鉄の兜。黄土色のマントを全身を隠すように纏い、わずかな隙間からは
複雑な文様が刻まれた甲冑が見える。両手で抱えるように持っている戦斧は柄が長く、刃もまた長い。
明らかに加護を受けた巨人だと分かる。 「もはや容赦は不要。我が名はニブルネ族のバルバロイ!
ここで砂神アーレイの名の下貴様らは……処刑とする!」
流暢なアスガルド語で喋ることから、この大陸での戦歴がかなり長いことをうかがわせる。
連合軍に懸賞金がかけられている巨人の一人、『砂塵のバルバロイ』であるとトムはすぐに理解した。
「ニル!聞こえるか、橋にいたのはバルバロイだ!」
他のタイタンたちが思わず一歩後ずさる中、トムはニルに念話を飛ばして一歩前に出た。
それは功名心や名誉欲もあったが、その一歩の多くを占めたのはトム自身の性格だ。
「部隊長の念話もたぶん砂嵐が妨害してる、こいつを止めなきゃ撤退もできないぞ!」
そう言って『ラウンドナイツ』はバルバロイに盾を構えて突っ込んだ。
当然バルバロイは堂々と戦斧を振り上げ、迎撃せんと頭めがけて振り下ろす。
『ラウンドナイツ』の頭部が容赦なくかち割られるかに見えた瞬間だ。
振り下ろされた戦斧を盾で受け流し、バルバロイの腹めがけて鋭い突きを放った。
「甘い!」
当然バルバロイはその突きを体全体を動かして避け、肩から思い切り『ラウンドナイツ』にぶつかっていく。
まともに衝撃を食らい、『ラウンドナイツ』は踏みとどまる間もなく吹き飛ばされていった。
「私の首が欲しければ、百人は連れてくるがいい!
貴様らのカラクリ鎧如きに私の加護は打ち砕けん!」
腰を深く落とし、バルバロイは戦斧を構えてゆっくりと近づいてくる。
それだけで他のタイタンたちはじりじりと下がり、中には逃げ出す者もいた。
【期限ギリギリですみません……】 ちゃんとスレ立てれば人集まったかもしれんのに、何故このスレで開始したんだ?
企画案投げるだけで良かっただろ >>300
お前考え方が甘いよ
ハイパーウンコに粘着されるだろ? 実験室だからこそ気軽に参加する人もいるだろうから何とも言えんよ つまり立てた場所じゃなくて、企画自体が悪いから人が集まらなかったってことか 先駆けとして巨人の死体を投げつけたことで、集団から遅れる『イルヴァーナ』
だが、戦場への到着を待たずに敵の正体をトムから知らされることになる。
橋を守護し、本陣に斬り込んだのは加護持ちの巨人『砂塵のバルロイ』
大陸各地の戦場で猛威を振るい、連合から懸賞金をかけられている巨人の一人
それでいてなおも健在でこうして最前線に出てくることから如何に強力かは推して計れよう。
>「私の首が欲しければ、百人は連れてくるがいい!
> 貴様らのカラクリ鎧如きに私の加護は打ち砕けん!」
ようやく戦場にたどり着いた『イルヴァーナ』が聞いたバルロイの咆哮
そして吹き飛ばされてきた『ラウンドナイツ』を受け止めながら、音声を外部出力に切り替える
「吹くんじゃないよ、巨人風情が!
多勢を巻き込んで砂塵を巻き起こしコソコソ動き回るって有名な加護持ちなんぞアタシ一人で十分さね!」
バルロイを挑発するように啖呵を切ると同時に、受け止めた『ラウンドナイツ』に直接接触による念話を送る
これならば砂塵による念話の妨害も傍受の心配もないだろう。
【あたしが奴の隙を作るから、判ってるね?
なあに、百人連れてこいって本人が言ってくれてるんだからお望みどおりって事さ。
他の連中にも合図しとくれよ】
一対一の決闘を望むのは勿論ブラフ。
ニルは当然数の力で圧殺するつもりだが、戦いこそが誉れを地で行く巨人族はこういった挑発に弱い事を知っている。
「あんたらぁ、手ぇ出すんじゃないよ?
奴が砂塵に紛れて逃げ出さないようにしっかり見ておくんだね」
外部音声でこう声をかける事により、後ずさりし、逃げ出そうとする者達をその場で踏みとどまらせる。
『バルロイ』と『イルヴァーナ』を残し、他のタイタンたちは距離を開け周囲を囲む
「女!このバルロイを、そして砂神アーレイを侮辱した罪は万死に値する!
一刀をもって処断してくれよう!」
待機を震わせんばかりの咆哮にとともに、巨人とタイタンが対峙する。
しばしの睨み合いの後、先の動いたのは『イルヴァーナ』
間合いの外からトラバサミを振り回し投げつける。
それを長柄の戦斧で弾き、一気に間合いを詰める『バルロイ』
(弾いた?
トラバサミに咥えられなくとも鎖が絡み付くだけでも加護を与え地中に沈められたものを。
こちらの加護が判っているわけでもないだろうけど、戦士の勘という奴かい?)
ある意味初見殺しともいえる『イルヴァーナ』の能力を回避したことに驚きを覚えつつも、ニルは笑っていた。
ここからが本当の戦いなのだから。 『バルロイ』が全力を持って一気に間合いを詰め、必殺の一撃を放つその踏込み。
そここそがニルの狙い。
『イルヴァーナ』の受ける加護は土角明王の土属性。
その最大の術は地中潜航にあるが、自分の周囲の土を泥濘に変える小技も効き、こういう場面では絶大な効果を発揮する。
力強く踏み込めば踏み込むほど、ぬかるみに足を取られた時の体勢の崩れは大きいのものだ
……ニル!……
勝利を確信したニルの脳裏に走る、亡き夫イルの声
この声がニルの生死を分けた。
次の瞬間『バルロイ』の踏込の足が泥濘を踏みつける。
踏み込んだ「そこ」は確かに泥濘であった。
だが踏みしめる瞬間、大量の砂が捲かれ滑り止めとなり、強力な踏込となったのだ。
そこから戦斧が振り下ろされるまでの一瞬が凝縮し、バルロイとニルの時間が間延びする
【戯けが!斯様な卑劣な小細工が我に通用すると思うてか!】
必殺の間合いでニルに叩きつけられるバルロイの意識
それを受け、総毛立ちながらニルも応える
【たかが殺し合いに面倒な御託を並べるんじゃないよ!】
刹那の邂逅と共に間延びした時間は閉じ、『バルロイ』の戦斧は閃光の速さで振り下ろされる。
轟音と共に起こる土煙の中から、『イルヴァーナ』の右腕がショルダーシールドごと切り落とされて飛び出した。
それとともに、ショルダーガードに仕込まれていたトラバサミや鎖が周囲に飛び散る
戦斧が振り下ろされる瞬間、『イルヴァーナ』は両腕をその巨大なショルダーシールドごと前に出しガードの体制。
しかし『バルロイ』の必殺の一撃は二枚のショルダーシールドごと『イルヴァーナ』の胴体を両断する鋭さを持っていた。
にもかかわらず、右腕を切り飛ばされ、左のショルダーシールドに一文字の傷をつけるに収まったのは、土中潜航の術で沈み込む事により鋭さと衝撃を緩和できたことにある。
土煙の中、下半身が埋まった『イルヴァーナ』のシルエットが見えるだろう。
それと同時に『バルロイ』が体勢を崩し片膝をつく
滑らせ体制を崩すことには失敗したが、埋まりつつ『バルロイ』の軸足の乗る地面下に穴をあけ、落とし穴にしたのだ。
【今だよ!】
トムにニルの念話が飛ぶ。
腕一本を犠牲にし、体制一つ崩すのが精一杯なのだがそれでいい。
正々堂々一対一の戦いなど最初から考えてなどいないのだから。
【>>299お疲れ様です。二人で回していますし、テンポさえ保てばのんびりでも、寧ろその方が参入を考えている人に優しいかなと】
【>>300ここで盛り上がれば独立してスレになるかも?まずはこちらにテンプレ投下して一緒に楽しみましょ】 【返信遅れて申し訳ありません。リアルの都合でこれ以上続けることができなくなりました。
非常に申し訳ないですがここで自分は離脱させていただきます、ニルさん参加ありがとうございました】 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています