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幻想入りの話しを書くスレ

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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/16(日) 00:42:04.51ID:p10oboPW
ここではいわゆる東方二次創作という奴の一つ、「幻想入り」の話しを
考えたり書いたりするスレです。ほかの人とネタが被ったり
スレ内が文章でとっちらかっても気にしない
0002創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/16(日) 00:44:04.04ID:p10oboPW
降って沸いた妄想

仲魔達が幻想入り

広大無辺なるアマラ宇宙、その中に、ある小さな歪みが生まれた。
それは、次々に他の世界へと飛び散り、楔となってアマラの渦を堰止めた。
ある時はボルテクス界に、ある時は魔界に、ある時は荒廃した未来に……
渦の中にいる者はこれを知ることはなく、止めることもできない。やがて、
堰止めたられた渦の中から、弾き出される者たちが現れた。
これは、その弾き出された者達が、アマラの堰を切るまでの、大きくも儚い物語
 サブタイトルは『真・女神転生外伝』か『東方交差天』
シナリオ
1 仲魔達がそれぞれの世界のエンディングから飛ばされてくるシーン
2 幻想郷パート、ここで見慣れぬ仲魔達と幻想郷民の邂逅
3 舞台裏 紫にぼっちゃんもしくはダークおじさんから過去が説明が入る※1
4 元の世界に帰りたい仲魔達が博麗神社に駆け込む
5 紫から異変を解決すると帰れると伝える、仲魔達「コンゴトモヨロシク」※2
6 以下最後の一人まで続く。
7 最後の仲魔とラスボスが戦闘※3
8 異変解決、そして誰もいなくなる
9 いつものように、壮大に何もなかった! となる

※1 過去が改竄されたことで確定していた未来の存在だった仲魔達が「なかったこと」にされる。
そのまま消えるはずだったところを、なんやかんやで幻想入りする。
※2 一つの世界の異変を解決すると仲魔が一人消える『ぼくらの』方式
※3ぶっちゃけスティーブンとアキラな。
 出演する仲魔達(予定)
真・女神転生Vノクターンから 妖鬼 オニ
デビルサマナー ソウルハッカーズから 造魔 ジード
真・女神転生ifから 魔人 アキラ
真・女神転生から 魔獣 ケルベロス(パスカル)
メガテンシリーズのどれかにヒーホーズ
他メガテン以外で仲魔モンスターがいるゲームから好みでいくつか
 むしゃくしゃしてやった。書くかは未定。誰か書いてもいいのよ。
0003創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/16(日) 04:20:27.94ID:bMens6wY
もちろん【実話】
最初の5ページまで読めばわかる
逆にそれ以外は読まなくていい
http://estar.jp/.pc/work/novel/22797121/
0004創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/17(月) 00:41:11.95ID:D5Sdsfw1
※書き手の知識不足やオリ設定があります。ご容赦ください。


プロローグ
 ―フフフ、なあんだ。始めからこうすれば良かったんじゃないか―
 薄暗い、いや、一つの灯りを除いて何もない暗室の中で、男が呟いた。

―そもそも悪魔なんか“いない”のが普通なんだから。
手元のキーボードを病的な速度でタイプしていく男は、やはり病的な風貌をしていた。
痩せ細った体を真っ赤なタキシードで包み、髪は脱色している訳ではない白髪、
顔は若いような、老いているような、判断しかねる造りをしている。

安楽椅子に座り長くも短くもない足を組みながら、どこか虚ろな両目は眼鏡越しに正面のモニターへと注がれている。
様々な幾何学模様や魔法陣の中に、タイプに合わせてどの国の言葉でもない文字や記号が入力されていく。
―これで文字通り、この世から悪魔なんてモノは存在しなくなる。思ったよりもずっと簡単だったな。
弛緩したようなだらしなく空いた口から、もう一度笑い声が漏れる。

―悪魔消滅プログラム、スタートっと
エンターキーを軽く叩く音がすると、彼の後ろにあったリンガと仏壇が一体化したような怪しげな物体の表面に、
モニター内を走り回る文字と同じ物が点灯した。

 ―いいぞ、成功だ……!
 静かな内に、微かな恍惚を滲ませて彼はモニターと自作の“輪転機”を交互に見やる。
速度がある一定に留まると、今度は発行し、放電するようになる。

 一体どのような原理でそうなっているのか、彼以外に分かる者がいるのかはさて置き、
輪転機は少しだけ宙に浮いた。そして最後に激しく明滅したかと思うと、
空を裂くような甲高い音を残して、彼の目の前から消滅した。

―これでおしまい。ふう、面白かったけど、ミロク教典もあまり大したことなかったな。
達成と余裕と、僅かな倦怠感を含んだ呟きは、他に聴く者もいない部屋の中に霧散した。

―あーあ、また何か面白いこと、ないかなあ。
足を組み替えながら彼、スティーブンはそう一人呟いたのだった。
0005創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/18(火) 00:33:37.15ID:Qfj+NYI7
一章「飛沫」
一つの世界があった。
生きとし生ける者全てが、己の我が儘を他人に強いることに全てをかける世界が。
名はボルテクス界
一つの戦いがあった。
生きとし生ける者全てが、己の我が儘を他人に強いるための戦いが。
一言では到底収まるはずのない、しかし一言で現す他にない戦いが。
後に『背理のコトワリ』と名付けられしその戦いを制したのは、皮肉にも、
押し付けられた我が儘にただ反発しただけの、一匹の自由な悪魔と
その仲魔達であった。
この世界から飛沫が弾き出されまでの顛末は、ボルテクス界終焉の後先にまで遡る。


「愚かな……コトワリ無く我が力を解放したとて、何の救いがあろうか。
おまえはまた、新たな苦しみの国を生み出すのだ……
おお……悪魔よ………ヒトよ…………」
 コトワリを生み出すための存在、大いなる光が、命を失おうとしている。
眩い光が辺りに満ち、カグツチ塔が震える。

「……終わった、のか……」
仲魔の誰かが言った。崩れ去る煌天を前に、全ての全てを賭けた戦いの後に。
「ざまあ見やがれってんだ、クソお天道様がよ!」

疲れきり天を仰ぐ者、勝利を叫ぶ者、喝采を上げる者、安堵する者、嘆く者、
倒れ伏す者、自失に暮れる者、今まさに多くの者が生まれ、消えようとしていた。

天の怒りに触れながら、その威光に膝を付かなかった者達は、
今まさに最後の刻に立ち会っていた。
塔は吹き飛びこそしなかったが、皆知っていた。
これは小康状態ですぐに次が来ることを、その時が本当の最後であると。

「………………………………………………………………」
 彼は沈黙を貫いたまま、意思の光が宿る瞳を、いずこかへと注いでいる。
其の名は「人修羅」かつて人の身でありながら、
悪魔の戯れによって悪魔へと生まれ変わった存在であった。
0006創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/18(火) 00:35:38.36ID:Qfj+NYI7
多くの者がそうであるように、人修羅もまた静かに感慨に浸っていた。
その人修羅に声をかける一匹の仲魔がいた。

「なあ、本当に良かったのかよ」
 オニだ。他に言い様がないほどオニだった。それほどまでに目の前の存在はオニである。
全身真っ赤な色をした巨躯に、いつ見ても窮屈そうな、
これから祭りにでも行くかのような法被を纏っている。

「なんつーかよ。その、まさか勝てるとは思ってなかったんだよ、本当は、オレ」
「………………………………………………………………」

 人修羅が仲間に向き直る。オニは格の高い悪魔ではない。
本来ならばこの戦いに付いてこれるほどの力は無かった。だが、
良くも悪くも人間臭く、良く言えば地に足のついた、悪く言えばスケールの小さい
この仲魔は、他の仲魔同様奇しくも人修羅の人間としての心を支え続けてきた。

 オニは、気落ちしているようだった。いつになく弱気だった。
率直な表現をすれば、寂しそうだった。
「なあ!今からよ、コトワリ、創っちまったらどうだ!?」
「何を言ってるんだお前は」

 横から口を挟んだのはクラマテングである。オニと並び、
コッパテング時代から人修羅と旅をしてきた古株である。
叩き上げで幻魔にまで上り詰めた後は、その類まれな魔道で多くの窮地を退けてきた。

「戦いは終わったし、コイツの気持ちも変わらんし、オレも一緒じゃなかったのかよ。
それとも何か?この期に及んで怖気づいたのかよ」
 仲魔の間でだけ変わりないフランクな口調で、クラマテングは問うた。

「ばっ、そ、そんなんじゃねえよ、そんなんじゃねえけど……」
「オニちゃん、寂しいんでしょ」
「ば!」
 いきなり核心を突いたのはクイーンメイプだ。仲魔の中では一番始めに
人修羅の仲魔に「なってくれた」悪魔である。
実に多芸で幾度となく人修羅を助けたが、一番の助けとなったのは、
ピクシーの頃から何も変わらない性格だったろう。
0007創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/18(火) 00:36:43.24ID:Qfj+NYI7
あたしもね、寂しいよ。ちょっとだけ」
 臆面もない彼女に、オニは頭が上がらない。意地を張っても意味がないから、
何かあるといつもオニのほうが先に折れるのだ。
「……ああ」

「ああそうだよ!寂しいよ!もっと戦って!旅して!冒険して!
もうひと暴れしてえよ!ずっとそうしていてえ!
オレら全員でずっとそうしていてえ!」
 オニが真っ赤な顔を更に赤くして白状する。他の仲魔達も寂しそうな笑みを浮かべる。

「いいじゃねえかよ!オレだけでもよ!別の世界に行っちまって、
そこでよろしくやってもよ!世界のことなんか分かんねえし、
そこまで関わり合いにならなくってもいいじゃねえか!」
 オニは半泣きだ!

「お前なあ……」
 クラマテングは舌打ちすると、頭をかいてそっぽを向いてしまった。
「お前らは違うのかよ!パールバティ!クーフーリン!サル!ヒーホー!
リリス!パズス!ワンコ!ランダ!」
 オニは仲魔の名を呼ぶ。しかし皆オニを見て、肯定も否定もしなかった。

「チクショウ……」
 オニは項垂れた。皆の気持ちも、自分の我が儘も分かっているのだ。
しょげかえる彼の頭をクラマテングが法螺貝で殴った。会心の響きが木霊する。
「痛え!」
「勝って終わりならそれが一番いいじゃねえか!男らしくねえぞ!じたばたすんな!」
「でもよう……」

 なおも食い下がるオニの肩を、人修羅が叩く。この少年はいつも何も言わない。
あってせいぜいウンとかスンくらいだ。
 そんな人修羅の、ついさっきまで引き締まっていた眉間の辺りが伸びていた。
いつものどこかのっぺりとした野面に戻っていた。

「お、おめえ……」
 オニは知っている。
0008創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/18(火) 00:37:33.37ID:Qfj+NYI7
こういうときの人修羅はなんだかんだで喜んでくれているということを。
同時に思い出す。絶対に自分の前言を撤回するような悪魔でもないことを。

 人修羅は、オニをじっと見つめた後、力強く頷いた。
安心させるような意味がきっと含まれているのだろう。
もしかしたら侘びの気持ちもちょっとくらいはあるかも知れない。
 何にせよ、オニは観念した。

「こ、心の友よ〜!!!」
 自分よりもずっと小柄な人修羅に抱きつくと、オニはわあわあと泣き出した。
皆その光景を見てそれぞれの反応を返す。
 万感の想いを胸に、今度こそ世界は、再び光に包まれた。
0009創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/18(火) 00:38:27.35ID:Qfj+NYI7
メールが届いています
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」・・・・・・・」
 文字化けしてしまっているようだ。


「これでよし」
ボルテクス界が消え、世界は元通り自由な日々を取り戻した。
あの日戦った仲魔達も散り散りになり、それぞれの道をまた歩み始めた。
オニもまた然りである。伝手を頼って人修羅のパソコンのメールアドレスを
突き止めた彼は、挨拶のメールを出した。

今度は別の悪魔召喚士にスカウトされ、そこでもうひと暴れすることになったこと。
もしよければ、今度は人修羅もデビルサマナーになってみないかということ。

そういった色々な事柄が順序も何も無くごちゃまぜになった文章を、
オニは慣れない携帯電話に悪戦苦闘しながら作成し、送信した。
壊れないよう小さすぎるボタンを押し続けた指先が痛かったが、彼は満足そうだった。

「オレもハイテクって奴に慣れないと戦えなくっちまうからな。
差し当たっては、今度ガン反射でも覚えてみるとすっか!」
 そう意気込む彼の足元に、突如として妖鬼召喚用の魔法陣が浮かび上がる。

「お、そろそろか。さて今度はどうなるかな、
いきなり合体材料ってのは流石に勘弁だけども……んん?」
 青い光の文字の中に吸い込まれながら、オニは違和感を覚えた。
魔法陣の中に溶け込むのではない、まるでどこかに引きずり込まれているような
この不吉な感触に、彼は心当たりがあった。魔法陣の文字の色が毒々しい赤に変わる。

「おい……!こいつは……まさかっ!アマラ経ら」
 言い終わる前に、オニは召喚用魔方陣の中に引きずり込まれ、この世界から姿を消した。

彼は、彼の元に送り返されてきたメールのことを、まだ知らない。
0010創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 00:23:45.57ID:PCW3Y6w2
一人の女性がいた。ある大いなる者の「死」として生を受けた女性が。
意外にセクシーな彼女は、一人の少女と、一人のデビルサマナー、
そしてその仲魔と仲間達と共に、退化した人々の精神を守るため、
或いは大いなる者を眠らせるために戦った。

戦いの舞台となった場所は「天海市」と呼ばれた人工島。
あまりにも短い時間に、あまりにも多くのことがあった場所。
あまりにも多くの人が、あまりにも自分の精神が弱くなってしまったことに
気づかないまま、いつしか過ぎ去っていった。

いつからか、ずっと現代と呼ばれ続ける時代の一つ。
この世界の「飛沫」は、彼女の歌が鳴りやんだ、その少し後に生まれた……


「今日来たのはそれが理由か、だが本当に良いのかね?」
 そう問いかけるのはこの豪華客船、水上ホテル「業魔殿」の船長ヴィクトルその人だ。
 屍人のように白い肌に白い髪、中世ヨーロッパの船長を思わせる服装と言動、
 瞳は赤く爛々と輝いている。傍から見ればホテルの
 計らいの一つと思われるだろう。しかしこの船長は至って本気である。
 そして彼にはもう一つの顔がある。悪魔同士が行う合体についての研究者という顔が。

そして二人が今いる場所は、業魔殿の地下にある悪魔合体施設だった。
出航を間近に控えた業魔殿は、新月の晩から静寂を受け入れていた。
「…………」
 ヴィクトルと話しているのは一人のデビルサマナーだ。緑色のジャケットと
 微妙なサングラスが特徴的な青年で、ハッカー集団スプーキーズの一員でもある。
彼はつい先日まで新米だったが、今では天海市に起きた人々の魂、
「ソウル」を巡る奇妙な事件の数々を解決した歴戦の勇である。彼は頷いた。

「確かに造魔に関して扱える施設はそう多くない。
君のCOMPにインストールされているソフトをもってしても、
不測の事態に対応出来る訳ではない。しかし、かの人形もまた、
君と共に戦ってきた仲魔だと思うのだが……」
「COMP」とは、デビルサマナーが扱う悪魔召喚プログラムが
インストールされた携帯型コンピューター端末のことである。
0011創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 00:26:05.83ID:PCW3Y6w2
ヴィクトルは不服そうだ。無理もない、彼の言う「造魔」とは
科学と魔道によって、人工的に生み出された謂われなき悪魔である。
最近の彼の研究対象であり、成果でもある。それが自分に
預けられるというのだから。能力に不満がある訳ではなく、

彼は旅に出る際に身一つで挑んでみたいと仲間に別れを告げているらしかった。
「決意は固い、か。分かった。一先ずジードは私が与ろう。
しかし忘れるな、君がサマナーで、ジードの主である以上
君の呼ぶ声に、此奴は必ず答えることだろう」

「…………」
彼は深々と頭を下げると、自らの悪魔召喚プログラムがインストールされた
銃型コンピューター「GUMP」をヴィクトルに手渡した。

「COMPを自作してみる、と?」
目の前の青年がハッカーでもあることを思い出し、ヴィクトルは苦笑した。
「それにも挑戦してみるというのか。よかろう、若かりし日の挑戦は
 何物にも代え難い。やってみるがいい」

 彼はこの数ヶ月の間に、あまりにも急激に成長しすぎた。過程で
 飛ばして来たものを、確かめる意味合いもあるのだろう。
 人生で何よりも早く過ぎる時期を、そのように使おうと決めた
 このサマナーの精神は、魂と共に大きく、強くなっていた。

「もう行くのか?」
 彼はまた頷いた。今の彼は丸腰だ。COMPも仲魔も、
相棒であった黒き魔女もいない。それでも新たな一歩を踏み出していく、
その背中のなんと雄々しいことか。

「……ああ、そうだ。行く前にメアリにも声をかけてやってくれ。
 たぶんだが、「君達」が来るのを、待っているだろうから」
 彼は頷くとヴィクトルの前から、この昏い一室から、
華やいだ夜の中へと去っていった。
 いつも隣にいた女性の姿がなかったが、そこには不思議と
寂しさを感じるようなことはなかった。
0012創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 00:28:52.36ID:PCW3Y6w2
「ボン・ボヤージュ。デビルサマナー」
ヴィクトルは青年の背中にそう声をかけると、手近なテーブルに腰掛け、
受け取ったGUMPをチェス盤のような物の上に翳した。
COMP専用の解析機で、これとヴィクトルの私室にある機材とで
COMPの改造、修理を行うことも出来る。

「そしてお前は今一度、眠りにつくがいい」
 ヴィクトルはチェス盤の台座の部分にあるボタンを一つ押した。
 データが吸い出され、中に入っていた造魔ジードは悪魔合体用の
 試験管内へと召喚された。

「――――――――――」
 人間の良く似た、しかし人間ではない悪魔、首輪と鎖に繋がれたジードは
 何も言わずにヴィクトルを見つめた。試験管内に液体が満たされていき、
 眩しく光ったかと思えば、次の瞬間にはジードの姿は既になかった。

 代わりに、中の液体が揮発して外へと排出された後には、
 人形がひとつ残されていた。

 血通わぬ土くれにして命の息吹を秘める異形の人形、
 ドリー・カドモンが。
0013創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 23:47:43.60ID:PCW3Y6w2
 そこに行けばどんな夢もかなうというよ 誰もみな 行きたがるが
 遥かな世界 何処かにあるユートピア、素晴らしいユートピア
 生きることの苦しみさえ消えるというよ。どうしたら行けるのだろう、
 旅立った人はいるが あまりにも遠い 心の中に生きる幻なのか

「アウトだホ!」
「グワーッ!」
 振り回した拳が危険な賛美歌を考案した同族の顔面を強かに穿つ!
「た、タイトルは、ヒホダーラだホ……」
「余計ダメだホ!」
「グワーッ!」
 振り回した拳が危険なタイトルを考案した同族の顔面を強かに穿つ!

 ここはどこか、広大にして茫漠たるアマラ宇宙のどこか。ある者は
 妖精郷の一つだと言う。違う。ある者は何処かの施設を間借りしているではと
 疑う。違う。ここは厳然として存在する世界、しかし何がと断定も
 言及もしにくい、大いなる存在でさえ手をつけかねる混沌の世界であった。

「宇宙と異世界進出まで果たしておきながらなんという体たらくだホ!」
 同族にツッコミを入れた、可愛らしい帽子を被った雪だるま、
 妖精ジャックフロストは怒りも顕にぷりぷりしていた。
 そう、ここはヒーホー界(仮)。その名の通り「ヒーホー」という
 特徴を備えた悪魔達の世界である。

 全体的に狭い。歩いて行けばどこまでも行けるのだが、景色は子供が
 クレヨンで書きなぐった絵のようで、しかも『近すぎる』のだ。
 雑なセットのような空間が、とてもそうは見えないが、どこまでも
 広がっている。ちなみに足元の緑色は芝生で、残りの大部分は
 空とか地平線らしい。遠くにお城が一つだけ建っている。
0014創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 23:49:51.28ID:PCW3Y6w2
「アレを見るホ!」
 ジャックフロストが天を指差す。頭上にはオレンジ色の太陽らしき
 落書きが浮かんでいる。殴られた悪魔、マントにトンガリ帽子を装備した
 カボチャのヒーホー、ジャックランタンが顔を抑えて呻く。

「前が見えないホ……」
「心の目でもいいホ!」
 ジャックフロストの無茶な言い分に、渋々といった様子でジャックランタンは
 上を見た。フロストのつぶらな黒目はキラキラと輝いている。

「メディアに露出して今やオイラ達は押しも押されぬ悪魔界のアイドルだホ!
 プリクラ、漫画、アニメ、トレカ、ボードゲーム、ドラマに劇場版!
 チョイ役だって立派な出演だホ!オイラ達は日々各界で活躍してるホ!」

(ドラマはオイラ達出てなかったと思うし、劇場版P3だってオファー
 あったかホ?いや、言わないホ。余計なこと言うとまた
 打たれるホ。ていうか太陽関係ないホ……)

 ランタンはフロストに辟易していた。彼の言い分は分かるし、
 自分もハロウィンしか出番がないとはいえ、逆を言えばハロウィンに
 出られるヒーホーは彼だけだった。あまりに多忙で他のフロスト達も
 デビューさせたら、仕事を取られるどころか倍増の嬉しい悲鳴を上げたこともある。

「そんなオイラ達に足りないものはなんだホ!言ってみるホ!」
「キャラソンだホ!」
 ランタンは即答した。そこは彼も同意見だったからだ。
 フロストは満足げに頷いた。

「そうだホ!ここまで来て黒歴史モノのキャラクターソングやエンディングテーマ
 の一つもないのはまずいホ!だからこうして持ち込み用の歌を考えているホ!」
「でも上手くいかないホ……そもそもルシPは喋っても声の露出は控えろって
 言うし、どっちかというと公募の企画でも通さないと、
 流石にオイラ達だけじゃ厳しいってもんだホ」
0015創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 23:50:47.80ID:PCW3Y6w2
「話しは聞かせてもらったホ……」
「あ!噂をすればホ!」
「ルシP!」

 ランタンとフロストが指さした先、クレヨンの太陽から金髪のカツラ、
もしかしたら自毛だろうか、とにかく髪の生えた雪だるまが降臨した。
その名もルシファフロスト。ジャックフロスト達の神であり、
アマラ宇宙中にヒーホーを手配する、ヒーホー界(仮)の創造主でもある、
 敏腕プロデューサーだ。

「そろそろ封印が解けられてもいい頃だとはルーシーも思っていたホ」
「本当かホ!?」
 フロストががっぷり組み付く。一回り大きいルシファフロストもまた
 フロストの腰を掴み、相撲を始める。
「ノコッタ!ノコッタホ!」
 ランタンが行司に回る。

「声優の力を借りれば更なる飛躍も、恥ずかしい歴史も思いのままだホ。
 キングとも協議の結果、今度の仕事の結果次第では歌の手配をしてやるホ!」
 キングとはフロスト達の王様であるキングフロストのことである。
 ヒーホー界のヒエラルキーはルシファフロスト、キングフロスト、以下団子と
 なっている。中には独立した者もいる。

「本当かホ!?」
 寄り切りを拒んだフロストは敢えて体勢を崩すことでルーシーを
 転ばせようとする。ルーシーはそこで組合いを解いて
 フロストに激しいうっちゃりを浴びせた。

「グワーッ!」
 フロストは倒されてしまった。息も絶え絶えである。
「ルシPの勝ち!」
「ホー!」
 ランタンが勝者であるルーシーの手を取る。
0016創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 23:52:18.95ID:PCW3Y6w2
「神の力でオーディションも開いてやると約束するホ!それで文句ないかホ?」
『ホホー!』
 平伏するランタンとフロスト。彼らの目にはメディア展開からの
 マスコットのスピンオフ、主人公作品までの道筋が見えていた。

「さあ、事務所で準備を整えたらさっさとロケに行って来るホ!
 キングがお腹を丸くして待っているホ!」
『ホホー!』
 二人はお城へと駆け出した。


「よく来たホ、お前たち!」
 果たして、お城では彼らの王様、魔王キングフロストが玉座の間で待っていた。
 ルーシーのような金髪、金庫にしか見えない体、立派な杖に赤いマントに大きな体、
 いかにも大物感漂う彼の前には何故かマボガニー製の机が置かれていた。

「王様!早く次のロケに送ってくれホ!」
「ご所望なら世界だって救って見せるホ!」
 功名に逸る二人を諌めるようにキングは言った。
「がっつきすぎホ!まずは今回のミッションを伝えるホ!」
『ごくり』
 生唾を飲む二人。

「今回の仕事は今まで通り世界を救うことだホ」
「ヒホ!ということはまず今回のヒーローと仲間になるホ!」
 経験上一番の安全策である他力本願を悪びれることなく言い放つランタン。

「いや、今回人間のヒーローはいないホ。お前らだけでやるんだホ」
「え?」
 フロストが凍りつく。元々凍っているが、動きが止まる。
 彼らははっきり言って弱い。強い同族も数多いが、彼ら自身は
 強くもなんともない。

「今後のスピンオフが張れるかどうかのテストと思って頑張るがいいホ」
 そう言うと、おもむろにキングの体の金庫が開いた。中にはいつも大量に
 入っているはずの他のフロストがおらず、よくわからない空間が広がっていた。
0017創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/19(水) 23:53:56.07ID:PCW3Y6w2
「無理だホ!オイラ達だけでクリアとか無理ゲーすぎるホ!」
 抗弁するフロストに頷くランタン。
「安心するホ、これをやるホ」
 キングは雪の結晶を模した自分の首飾りを外すと、それをフロストへと投げた。

「それで他のヒーホーを呼ぶことが出来るホ!安心して主人公になって来るホ!」
「そ、そういうことなら、まあ」
「大丈夫かホ?」

 自分が主人公、仲魔を呼べるということに多大な安心感を覚えた二人が
 胸を撫で下ろした矢先、唐突に辺りが暗くなる。
 見上げればキングが空高く飛び上がり、ボディプレスを繰り出していた。

「さあ、とっとと行って!ちゃっちゃと帰ってくるホー!」
「ま、まつホ!まだロケ先のこととか聞きたいことがメチャメチャあるホ!」
「そんなことは行けば分かるホー!」

「ヒーーーーーーホーーーーーー!!!」
「ジャ、ジャックフロスト〜〜〜〜〜〜!!」
 ギリギリの所で回避していたランタンが叫ぶ。かくして、
 キングの腹へと吸い込まれてしまった妖精ジャックフロストの
 新たなる冒険の旅が始まった。

 彼の未来への展望が蜃気楼と消えるか否か、それはまだ、誰も知らない。
0018創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/03/21(金) 00:44:43.46ID:SCBEz9bt
 オレ、何やってるんだろう。
「大将、餅巾着二つね!」
「ハイヨロコンデー」
 あ、お客さん待ってるな。小皿に餅巾着二つっと。
「ヘイお待ち」

 確かオレは三か月前に召喚事故に遭って、ここに飛ばされてきたんだよ。
 それで、テングのお嬢ちゃんにここを紹介してもらって。
「へへ、キタキタ!」
「お客さん、餅巾着好きっすね」
 最初に常連になってくれたこのお嬢さんは土蜘蛛の娘さんだ。この子の
 クチコミのおかげでなんとか屋台も軌道に乗った。

 何でもここは幻想郷っていう、東京のどこかにある妖怪達の隠れ里らしい。
 アマラ経絡に飛ばされたオレはテングの縄張りだとかいう山に落っこちた後、
 鬼はこの地下に来る決まりだって言われて。

「おやっさん、ゆで卵三つ!」
「お嬢ちゃん本当ゆで卵好きだねえ」
 八咫烏のお嬢ちゃんにゆで卵をよそって出す。タッパ※はあるが中身は子供だ。
 地獄鴉だけど八咫烏でもあるとか良く分からないことを言っていたが、
 ひょっとしたらどっちかがイケニエに使われたのかもな。

 ……そうだ。この地下に隔離されてこの旧地獄街道に来たんだ。
 そして、食い扶持を稼ごうと思って地下の、というか幻想郷の食文化の
 貧しさに活路を見出したオレはこうして飯屋の屋台を始めたんだった。

「ごちそうさん!お代置いとくよ!」
「まいだりー!」
 お勘定をさっと片付けてカウンターを拭く。ここでお題は二の次で仕事第一って
 態度が誠実さを前に出すんだ。へへへ。そう、オレは、


 おでん屋のオヤジになっていた……
0019創る名無しに見る名無し
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2014/03/21(金) 00:45:45.76ID:SCBEz9bt
 店を仕舞ってからは、昼でも夜でも薄暗い地下を屋台と共に歩く。
 この幻想郷の中でも取り分け危険だったり、他の妖怪といざこざを
 起こしすぎた奴らがここ、つまり地下に来るらしい。鬼もその一つみたいだ。
 
 幻想郷の歴史は明治辺りで止まってるようで、ここはその貧民窟って訳だ。
 住めば都と言ったって、いい場所な訳がねえ。だからオレは酒が主食でなおかつ
 女性率の高い幻想郷で需要の見込めるおでん屋を始めた訳だ。

 無論苦労はあった。元手は無いし、屋台は自作だし、おでん槽だってカッパを
 紹介して貰うまでの道のりは長かった。何より幻想郷には海がないってんで、
 具材、特にカツオと昆布を手に入れるまで何度嫌な汗をかいたか分からねえ。

 しかしその甲斐あって、今じゃなんとかやって行けてる。
 さあ、今月の上がりを納めて今日は終わりだ。仕込みもあるから、
 早いとこ済ませちまおう。

 オレの前にはでっかいお屋敷が一つ、でーんとそびえ立っていた。東京の高層ビルほどじゃないが、それでも随分ご立派だ。ここは地霊殿。旧地獄一帯の顔役らしい
 さとりっていう妖怪がここにいる。さっきのお客で来た鴉のお嬢ちゃんもここの
 務めだっていうんだから、世間って狭いよな。

「すいませーん!」
 オレが大声を上げると、正面の大きな扉が開いた。身成のよさそうな黒猫が
 一匹顔を出す。

「これ、今月のみかじめっす。よろしく頼んます」
「にゃー!」
 差し出された茶封筒をくわえると、猫はさっと中へと引っ込んでしまった。
 これで今日の仕事は終わりだ。

 昼でも夜でも薄暗い地下を屋台と共に歩く。後は仕込みをして、次の営業時間まで
 寝るだけだ。オレは自分が借りている長屋へと急いだ。
 残った具材のいくらかを処分して、新しい具材を足して、出汁も多少入れ替える。
 具材の在庫を思い出しながら歩いてると、不意に誰かから呼び止められた。
0020創る名無しに見る名無し
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2014/03/21(金) 00:46:21.73ID:SCBEz9bt
「すいません、まだやってますかホー?」
「おっと、丁度さっき終わっちましてね。あまりで良けりゃお出ししますが」
「お、お願いしますホ!ありがとうございますホ!」

 なんか懐かしい口調だな。まあヒーホーの一人くらい幻想入りしてたって
 不思議じゃないかもしんねえが。そんなことより椅子出さねえと。
「助かったホ、見知らぬ土地で食いっぱぐれるところだったホ……」
「大変でしたねえ」

 ってことはオレと同じく新参か?まあ余所者はどこだってしんどいよなあ。
「ってあー!」
「なんだよ、脅かすないって、お、おめえは!」
 忘れもしねえつぶらな瞳、その実沢山の複眼!変な帽子に八重歯にほぼ二頭身!

「オニだホ!」
「ヒーホーじゃねえか!」
 なんだ、ついこないだまでパーティ組んで一緒に世界を救った仲魔じゃねえか。
 こいつも幻想入りってのをしちまったのか?けっこう知名度あったと
 思ったんだけどな。

「こんなとこでどうしたホ!でっかい段平はどこに置いてきたホ!
それにその格好!何ちゃんと袴なんか穿いてるホ!頭に白い帽子被んなホ!
微妙にしっくりキテルのがなんかムカつくほ!」
「おめえこそ、どうしたんだよ。ここって隠れ里らしいけどよ。あれか?
 おめえも召喚事故にでも遭ったのか?」

 オレ達はお互いの現状について情報交換した。

「なるほど今度はこっちで仕事か、こんな隠れ里にまで来るたあお前も
 営業熱心だなあ。ほれ、ハンペン」
「ごっつぁんだホ。おいらこっち来てまだ一ヶ月だけど、
肝心の異変ってのが全然起きないホ。物語が始まらないと解決も出来ないホ」

熱々のハンペンを頬張りながらヒーホーの奴が愚痴り出す。
以前大丈夫なのかと聞いたら「オフの時は」とかいう理不尽な返事をもらった
ことがある。
0021創る名無しに見る名無し
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2014/03/21(金) 00:47:40.25ID:SCBEz9bt
「なんとか草の根妖怪ネットワークっていうのを頼ってそれっぽい
 場所を教えてもらったけど、どこも起こした異変は解決済みで
 ここが最後だったけど、アテが外れて東方、いや、途方にくれていたホ……」

 煮崩れ気味の大根と入れ替え予定のこんにゃくをよそってやる。
 ついでに「魔王」って酒の残りも注いでやるか。
「まあ飲めや」
「ごっつぁんだホ」

「そうかあ、でもよ、オレみたいに妙なことになってる訳じゃねえんだ。
 待ってりゃその内に異変ってのも起きるだろ。で?どこ回って来たんだよ?」
 仕事の一環とはいえ、異変のあった場所に行って来るとはこいつも
 変なところでタフだ。ボルテクス界でも口八丁と逃げ足で結局最後まで
 付いてきたし。

「まず紅魔館だホ。門番の人にアポを取って聞いたけどかなり前に解決されてたホ」
「ああ、あそこな。赤すぎて目に痛いんだよな」
「知ってるのかホ?」
「仕入れ先だよ」
 
 買い付けは主に昆布とモルジブフィッシュだ。これのおかげで
 オレは屋台をやれている、いわば生命線だ。なんでも敷地内に海を作ったらしいが、
 そこで海産物の養殖に手をつけて交易の品目にしているんだそうだ。

「そうかホ。次に冥界だホ」
「空の上にあるって聞いたけど、おめえ飛べたっけ?」
 ブレス打つとき手をパタパタさせて宙に浮くが、それだけだしなあ。
「関係者のかたが人里に買い出しに来ていて聞いたホ、あんまり申し訳
 なさそうにしてたから、ちょっと気の毒したホ」

「お、そうだ永遠亭行ったか?オレあの辺で竹炭貰って来るんだけどよ」
「いったホ、コミュ障の因幡の白兎から聞いたけどそこももう終わってたホ……」
 コップに入った魔王をぐいと飲み干すヒーホー、見た目に反して
 飲みっぷりはいいんだよな。こいつは。
0022創る名無しに見る名無し
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2014/03/21(金) 00:49:31.13ID:SCBEz9bt
「妖怪の山は?オレあそこの畑からも仕入れてるだけどよ」
 芋と大根、蓮根、といった根菜類だ。野良の動物が捕れることもある。
「なんか人から聞くたびに悪役がコロコロ変わって話にならなかったホ。
とっくに解決してたし、しきりに自分達をやっつけた人をディスってたホ」
 ゆで卵と、牛スジの代わりに鹿を使った鹿スジを出したやる。
「ごっつぁんだホ」

「命蓮寺行ったか?噂じゃ寺が変形して宝船になるそうだぜ」
「お台場じゃねえんだ!って鵺の子から追い返されたホ」
 そこも解決済みだったらしい。暖簾の先に吊るされた白熱電球の明かりに
 照らし出されたヒーホーの顔は余計がっかりしてた。

「あ、あと神霊廟にも行ったホ。とは言っても観光用のコース内だけど」
「あそこなんか邪教の館っぽいよな」
 御霊が奥でうろちょろしているらしい。もしそうならサマナーからすれば、
 いや、サマナーでなくても独り占めした場所だろう。何にせよ解決済み。

「空飛ぶ城はよ?」
「紅魔館に帰りに人魚さんから聞いたホ。まあそれも人伝てだけど、
 どっちみちまた空振りホ!ジャガイモとがんも欲しいホ!」
「ほいよ」
 よそってやるとムキになって口に放り込む。まんだらメロンやお菓子の
 長靴があれば喜んだろうなあ。

「ここもダメで心当たりは全滅、もうクタクタだホ……」
 酒に酔って弱音を漏らしたヒーホーがカウンターに突っ伏す。
「まあ焦っても仕方がねえわな。気長に人里辺りで待ってたらどうだい」
「うう、また振り出しかホ、ていうかオイラ住むとこないホ」

「情けない声出すんじゃねえよ。男だろ?よし、じゃあこうしようぜ
 オレも今度は地上にで屋台をやるから、おめえはそれ手伝えよ」
「いいのかホ!?」
 勢いよく跳ね起きるヒーホー、現金な奴だ。

「その代わり、しっかり客引きすんだぞ?
「任せて欲しいホ!」
 くるりと一回転して右手を上げる。これがこいつの決めポーズだ。
0023創る名無しに見る名無し
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2014/03/21(金) 00:50:25.93ID:SCBEz9bt
 皿を片付けた後、オレ達は二人で長屋へと向かった。色々と身支度も
 しなきゃいかんし、まず寝ようってことになった。

「でもオニはすごいホー。まさか地上にまで拠点を持ってるとは思わなかったホー
 カタギにはオイラ達みたいなアイドルにはないパワーがあるホ!」
 ヒーホーが上機嫌な様子で騒ぐ。旧地獄の町並みは明治というよ江戸の城下町って
 風情だった。夜通し飲み明かす連中も少なくないから、明かりはまだそこかしこに
 あった。

「何勘違いしているんだ」
「ホ?」
 ヒーホーが首を傾げる。大事なことだから、覚悟を持って貰わないとな。

「オレは地上に家なんか持ってねーぜ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ヒーホーがオレを見つめる。酔いが覚めたのか顔色が白い。

「それってやっぱり野宿ってことじゃないかホー!」 ホー! ホー!
 ヒーホーの絶叫が、夜の地底に木霊した。
0024創る名無しに見る名無し
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2014/03/22(土) 00:30:25.32ID:ig1102hc
「なんとか無事、地上に出れたなあ」
「お、おま、おまえの体力、お、おかしいホ……!」
 野原に大の字で横たわり息も絶え絶えなジャックフロストがオニを批難する。
 ここは間欠泉地下センター傍の洞穴、から少し出た場所である。
 今は木々の枝葉も色を落とし、鈴虫の羽音が聞こえ始める季節。

 出会ってから後、長屋に戻った彼らは次の日に地霊殿の主こと古明地さとりに
 地上へ移る旨の書類を提出すると、数日かけて長屋を片付けてから
 屋台と共に地上へと戻った。
「なんだよ、あれっぱかしの縦穴登っただけでもう息が上がったのかよ」
「活線コンプの耐カンストと一緒にすんなホ!この脳筋!」

 無理からぬことである。本来地底までは、空を飛んで移動することが前提
 の深さだ。一応飛べない妖怪の為の道もあることはあるが、それでも
 勾配の険しい螺旋状の穴である。太陽の光が届かないこともあった、
 フロストは己の精神のうめき声をこの数時間、ヘビーローテーションで
 聞く羽目になったのだ。

「まあそう言うなよ。おまえのおかげすぐにでも商売が始められるんだからよ」
「さ、流石に休ませてくれホ……」
 フロストが凍らせたおかげで出汁は溢れることなく地上まで運ぶことが出来た。
 在庫の野菜や他の具材を積んだ新品の台車はフロストが引いたのだが、余程
 堪えたのだろう、体からは二リットルほど水分が失われていた。

「ほら、水分補給」
「い、いきかえるホ〜!」
 渡された竹の水筒から水を浴びるように飲み干すフロスト。
 それから深呼吸をして息を整えると、オニへと向き直る。

「でも、こんなにあっさりと行き来しちゃって良かったホ?」
 フロストは心配だった。地底の妖怪は地上に出てはいけない掟があるらしく、
 余所者とはいえ地底の妖怪に含まれるオニが、こうして出てきたことで
 何がしかの危険を呼び寄せはしないかと。
0025創る名無しに見る名無し
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2014/03/22(土) 00:31:49.60ID:ig1102hc
「大丈夫じゃねえか?オレ達は元々外から来たんだし。最近じゃその線引きも
 随分といい加減らしいぜ?」
 オニは知らないが、地底に封印されていた妖怪は長い間封印されていたことで、
 地上の人妖からだいぶ忘れられていることもあり、けっこうな数が地上に出ていた。

「でも、手続きだって書類一枚で済んじゃったし」
 地霊殿はさとり妖怪こと古明地さとりの住居であるが、地底の怨霊、
 旧地獄にあった灼熱地獄、そして地上まで溢れ出た間欠泉地下センターの管理を
 請け負っている(人材を抱えている)重要施設でもある。

 閻魔からの依頼もあったとかなかったとかいう由緒もあり、人間で言うなら
 地霊殿とその主は大地主であり、暗黒街の受付窓口であり、公務員の宿舎という
 混沌としていながら、その実大層恐ろしい場所なのだ。

 そんな場所に対して紙切れ一枚の報告でよいのか?社会人としての面子という
 ものにも理解があるオニとフロストは不安になったものだが、使いの黒猫は逆に

「さとり様は忙しいんだよ。皆そういう決まりを作っても全然守らないからさ。
 逆に手順を踏んでくれたほうがありがたいと思うよ。いやまあ、
 こっちだって顔も見ないで『もう行っていいよ』っていうのは心苦しいんだけどね」

 と言われる始末。

「お役所が良いって言うんだから良いんだろ。心配すんなって。おめえの
 台詞を借りるなら、オレ達は今、主人公なんだぜ?」
 日は既に西の空へと沈もうとしている。夕日に目を細めつつオニが答える。

「確かにお互いそれっぽい経緯があったホ。でも主人公になったってことは、
 鼻血も出ないような大事に巻き込まれるってことだホ。オイラ達には
 ボウケンシャーみたいな目標がないからそれしか残されてないホ!」
 半ば確信めいた口調でフロストが断言する。

「つってもおめえ、それが最初の目標なんだろうが」
「そうだけどホ……」
「そう悩んでも仕方あんめえ、ここは一つ、屋台の知名度をあげて、
 一日も早くその異変とやらに巻き込まれるよう頑張ろうぜ」
0026創る名無しに見る名無し
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2014/03/22(土) 00:32:39.58ID:ig1102hc
「……そうだホね。このまま何もしないでとりあえず五年待つような
 エンディングはまっぴらごめんだホ!」
 オニの言葉に、フロストは勢い良く跳ね起きると台車から具材を下ろしにかかる。

「ってか、本当にもう店開くのかホ?せめてビラの一つも配ってからとか、
 疲れたから明日に延期とかでいいんじゃないかホ〜!」
「馬鹿言え、こうしてる間にも材料の鮮度は落ちてんだ。ほれ、このまま
 準備しながら人里まで行くぜ!」
「ヒ〜ホ〜」

 オニ達は屋台を押しながら人里へ向かう。途中で魔法の森の近くで倉庫ないしは
 空家じみた家屋に差し掛かる。この店の名前は香霖堂。幻想郷の骨董品店である。

「あれ?店主さん留守だな」
「ここがどうかしたのかホ?」
「いや、ここってジャンクショップみたいなんだけどよ、オレの段平とおでん槽を
 物々交換してもらったんだよ。挨拶の一つもしたかったんだが」

「ホー!」
「グワーッ!」
 怒りのこもったフロストの拳が会心の響きを伴って鬼の顔面を穿つ!

「お前自分の獲物をなんちゅうもんと交換してるホ!!鉄火場を共に駆け抜けた
 一振りを!暗夜剣使えないホ!お前格闘系のスキル何か持ってるのかホ!?」
「そんな怒るなよ、まあ聞けって。人間の言葉にこういうのがある」
 目が釣り上がり顔を真っ赤にして怒るフロストをオニはなだめようとする。
 そして次のように言った。

「武器よさらば……てな」
「ホー!」
「グワーッ!」
 怒りのこもったフロストの拳が会心の響きを伴って鬼の顔面を穿つ!

「謝るホ!名著に謝るホ!」
「分かった悪かった!でもそのおかげで今に至るんだから勘弁してくれよ……」
 オニは顔を摩りながら謝る。しかし
0027創る名無しに見る名無し
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2014/03/22(土) 00:35:08.43ID:ig1102hc
「あったまくんなあ。なんかあったまくんなあ・・・!
 フロストはやる気だ!

「もうこうなったらお店を繁盛させてとっとと買い戻すホ!
 早く人里に乗り込むホ!」
「お、おう。ちょっと待てって……これでよしっと」
 オニは代金を書き留めておくためのメモ帳に走り書きで簡単な挨拶文を書くと、
 以前店主が座っていた机に貼り付ける。

「オッケーよし行こう!」
「働きすぎて泣いたり笑ったりできなくしてやるホー!」
 そして二人は意気込みも新たに人里へ向かい歩みを進めた。

そしてまた一週間が過ぎた

 ある秋の日、天気 晴れ 気温 日差しが強く暖か 風 強くとも涼しくない
 そんな日。

「号外!号外!号外ですよー!」
 蠅のように五月蝿いゴシップ記者が薪の代を方々に撒き散らす。
 昔は邪魔だと思ったものだが、今では冬を凌ぐ大事な燃料だ。
 月日と現実は人の思考を容赦なく変えていくものだと彼女はしみじみ思った。

「境内じゃなくてせめて郵便受けにでも投げなさいよね、ないけど」
 上空のカラステングが勝手に押し付けていった新聞、『文々。新聞』を拾いながら
 彼女、博麗霊夢は呟いた。全体的に紅白の出で立ちにリボン、何故か脇を出している。

「どれどれっと」
 以前は読みもしなかったものだが、こういうときは知り合いが
 見たか聞いたかとやって来るので、一応見出しにだけは目を通すようになった。
 たまに累が及ぶような記事か書かれていることもあるのが厄介だ。

『人里にオニ襲来!新たなる異変の兆しか!?』
 一面の写真には屋台でべろべろに酔っ払って突っ伏した鬼の少女が写っている。
「あんの糞馬鹿ぁ!」
 まだ夏の名残が感じられる中秋、博麗神社の巫女、霊夢は幻想郷の空へと飛び出した。
0028創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 00:57:58.89ID:aZrQUEZ9
 草木も眠る丑三つ時、月明かりの下、自前の白熱電球が屋台の軒先に吊るされて、
 辺りを微かに照らし出す。立ち上る湯気と具の煮える匂いが、近づく者を魅了する。

「うへへへ〜。オヤジぃ、まんさくもう一本!」
「え、一杯じゃなくって!?」
 オニが驚きながらももう一人の鬼の少女に酒を出す。彼女の名は伊吹萃香。
 幻想郷に長いこと住んでいる鬼だそうで、地底にも行かず風来坊を気取っている。
 この屋台を嗅ぎつけて来た日にオニを見た途端、やたらと嬉しがっていたものだ。

「いやー、まさかここでも同族に会うとは思いもしなかったっすよ」
「私も私も、まさかこんな馬鹿げた話があるとは考えもしなかったよ!」
『ガハハハハハハ』

 そんな彼女はここ数日間、オニ達の屋台に入り浸っていた。
「ありがたいですけど姐さん、流石に飲みすぎじゃありやせんかい?
 なにせ朝寝て夜起きたらもうウチ来るって生活がもう何日も続いてますぜ」
「いいんだ!黙って酌しな!」
「まあこれも名物だと思えばいいホ、こう連日終わりまでいられるのは困るけホ」

 ジャックフロストがとくに気にせずに言う。屋台は人間の里のすぐ外、魔法の森側の
 出口に横付けしてある。まさに目と鼻の先に人間の住処がある。
 問題がないのか言われれば大有りなのだが、中には入っていないので
 その線で言い張りながら営業を続けるほかない。

「オニのおでん屋だから客もオニっていうのは説得力があっていいホ。
 それにオイラも呼び込み以外の時間も持てるようになったし」
 仕入れた蓮根の本数を数えながらフロスト楽観的なことを口にする。
 妖怪お断りという人間の里に、少なからぬ緊張を持っていたのは
 つい先日のこと。

 かなりの数の妖怪が人間になりすまし、中には座敷童のように公然と
 街中を歩いている者もいる始末。そしてその座敷童に頼んで里の中での
 買い出しを頼むのがフロストの新たな役目だ、本人曰く仕入れ部長と呼べとのことだ。
0029創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 00:59:13.82ID:aZrQUEZ9
「昨日もテングが来て取材していってくれたホ!宣伝効果もばっちりだし
 なんのかんので怖いもの見たさで来てくれるお客さんも出てきたし、
 後は異変が起きるのを待つだけだホ!」

「あんたたちさ〜昨日もそう言ってたけどぉ、悪いことは言わないから、
 とっとと帰ったほうがいいよ。あのテングはとんだインチキ記者だからね。
 今頃どんな書かれ方してるかわかんないよー」
 コップに注がずに瓶から酒を一気に飲み干した萃香が、緩やかな警告を発した。
「テングは教えたがりの知りたがり、でもちゃんと人に教える誠実さってのとは
 無縁だからねえ。早けりゃ今日にも良からぬ輩が来て営業停止になっちまう」
「え、それマジなのかホ!?」

 首を360度回転させたフロストが上ずった声を出す。
「姐さん、それ本当ですかい」
「マジマジ。だからこうして食いだめしてるんじゃん」

 二人の焦りをよそに、外見だけ子鬼が箸を弄びながら頷く。
「いやー、同胞に会うのも久しぶりならおでんを食べるのも久しぶりだったからね。
 つい嬉しくなって長居しちゃったよ。たぶんもう二度とないだろうし」

「そ、そんな、オイラ達、ここのところ随分真っ当な商売しかしてないのにホ……」
「いったいどうしてこんなことに……」
 オニは若干青ざめながら、先日のテングとのやりとりを回想した。



「ごめんくださーい!おでんもらえますかー?って、あやややや!
 もしかして、いやもしかしなくても鬼のかたですか!?それにこちらは妖精、
 随分と個性的な組み合わせですね、え、あれ?ここっておでん屋台ですよね?」


 暖簾をくぐったカラステング(♀)は、二人を見るなりけたたましくまくし立てた。
 白シャツ黒スカートに下駄に頭巾、モダンな雰囲気漂うテングで新聞記者だと
 自己紹介してきた彼女の名は射命丸文。山のテングの中間管理職でもあるらしい。
 人間の里の、初日の開店直前、日が沈む前に彼女はやってきた。
0030創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 01:00:10.25ID:aZrQUEZ9
「あ、はい!そうですホ!おでん屋ですホ!ご丁寧にどうもですホ!オイラは
 こういう者ですホ!」
 フロストは頭の帽子の中から名刺を取り出して文に渡した。『フロスト芸能事務所』
 と達筆で印刷されたカタイ印象を与えるしっかりとした名刺だった。

「あ、これはどうも。ええ、と……。と、とりあえずビールを一杯お願いします」
『ハイカシコマリー!』

 そうして文におでんを供しながら、彼女からのインタビューに答えたのだ。
「ええと、店主さんはオニ、ですよね」
「はい、そうです!自分ここじゃ新参なんでコンゴトモヨロシクお願いします!」

 オニは勢いよく、体育会系のノリで答えた。これはフロストとの事前の打ち合わせ
 の結果決まったことであった。接客業をするに当たり、接客態度のレクチュアを
 徹底的に叩き込まれたのだ。
 現状これが一番の安全策だと力強く宣言したフロストは断言した。

「それがまた、どうしておでん屋台を地上でやろうと?あ、ありがとうございます」
 厚揚げと竹輪を盛り付けた皿を渡しながら、オニは言った。

「へい、元々地底でおでん屋をやってたんすよ。皆食いたいって言ってたけど、
 やってるとこが全然なかったもんで、『よし!それじゃオレが!』ってなもんで」
 おでん槽の下部の引き出しを開けて薪と炭を追加する。余談だが、この為に彼らは
 予め道中で柴刈りをしており、炭もそのときに作っていた。

「地上に来たのはこいつの探し物を手伝うことになったからで」
「オイラ、異変を探してるんだホ!」
「ほうほう、異変を。あ、お酒とジャガイモ追加で」
『ハイヨロコンデー!』

「異変って、またなんでそんなものを?」
 異変とは妖怪が幻想郷に起こすものである。解決は幻想郷独自のルールに則って
 成されるが、始まりはそれとは別になんの関係もない。

「オイラ、これから起こる異変を解決するのが今回のお仕事なんだホ!
 これが終わらないと歌手デビューさせてもらえないホ!」
0031創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 01:01:04.93ID:aZrQUEZ9
「まあこいつには借りもあるし、ちょっとくらいなら付き合ってやっても
 バチは当たらないと思いやしてね。ほら、義理とか付き合いって大事ですから」

「なるほどなるほど」
 いつのまにか取り出したのか、黒革の手帖にメモをとりながら文は頷いた。
 それと同時に目の前の妖精が騙されているのだとも思った。それもそのはず、
 物語の勇者が魔王を倒すのと同様に、幻想郷の異変は巫女が解決するものと
 決まっているのだ。
「いやあ、いいお話が聞けましたよ。おでんも化かしの類じゃなかったし。
 久々にちゃんとしたものを食べさせていただきました」
 一通り食べ終えた文は上機嫌だった。手帖の軽くめくりながら、何やら考え込む。

「うーむ、ここを記事にしちゃうと流行ってしまいそうですねえ」
「ぜひ!ぜひそうしてくださいホ!そしたらお代もおまけしちゃうホ!」
「あ、こら勝手に!」

 その時、文の目が獲物を見つけた猛禽のようになったことにオニは一抹の不安を
覚えた。結論からいうとそれは正しかった。

「本当ですか!?書きます書きます!書かせていただきます!いやー今日は
 本当にツイてます! ご安心を、すぐに人が集まるようにしてみせましょう!」
「ホホー!」

 平伏して感謝したフロストを見て文は益々機嫌を良くしたようだ。何やら頷くと
 とても満足そうに空を飛んで帰っていった。
 その日の客は文一人だけだったが、次の日から四人、八人、一六人と倍々に増えて、
 オニは杞憂かとお思い、また文に感謝もしたのだが。

「これが今日の新聞だよ」
 萃香から本日の号外を渡されて、意識が今に呼び戻される。読んで二人の目が飛び出す。

「ど!どどどどどどどどどどどど、どうしてこうなるホ!」
「お、おおおおおおおおおおおお、おち、おっ、落ち着け!」
 二人が狼狽える様子を面白そうに見ながら、萃香は大根をかじる。
0032創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 01:01:48.36ID:aZrQUEZ9
「オニ襲来って、オイラ達ナマモノとコラボはしてもチュンソフトとはまだ何も……!」
「え、ていうか写真にオレ達写ってねえじゃん!構図的に姐さんしか写ってねえじゃん!」
 理不尽に浮き足立つ二人、そこで萃香がおもむろに立ち上がった。

「まあ、つまり、あれだよ、お勘定」
『アッハイ』
 払いを済ませた萃香は、頭の角を自分の術で消すと、里の入口をくぐる。


「じゃ、私はお暇するから。お前らも早く逃げるんだよ、いいね」
『アリガトウゴザイマシター!』
 そのまま姿が見えなくなったのを確認してから、彼らは改めて慌てふためいた。

「こここ、これってどういうことだホ?どういうことだホ!?」
「いやたぶんコレ、姐さんのとばっちりじゃねえか」
「そんなんわかってるホー!」
 
 慌てつつ二人は店を片付けにかかる。出て行けと言われるだけならいいが、
 店の備品や材料、出汁に何かあっては目も当てられない。会話が成立しない相手からの
 不意打ちほどキツイものはないことは、オニもフロストも経験済みだ。

「とりあえず屋台だけでも避難させるホ!場合によっては戦闘も辞さないホ!」
「……どうやら遅かったみてえだ。ヒーホー、おめえは先に行け!
 デカイ気がまっすぐ近づいてくる!」
「ホ!?」

 まるで少年誌のような台詞を吐くと、オニは天を見上げた。月の輝く夜空を、
 小柄な物体が高速で飛来してくる。ソレは、屋台を挟んで反対方向へと降り立った。

「見つけたわよ萃香!出てきなさい!」
(全然見つけてないホ!怖いホ!)
「いるのは分かってるのよ!往生しなさい!って……ん?」

 ゆっくりとこちらに向かって歩いて来たのは、紅白の巫女服に身を包んだ少女だった。
 しかし二人はこの少女からアリスのような恐ろしさを肌で感じていた。
 
0033創る名無しに見る名無し
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2014/03/23(日) 01:02:31.41ID:aZrQUEZ9
 霊夢は返事がないので機嫌を悪くすると、萃香の足取りを探るべく、
 暖簾をくぐった。そして、彼らと目が合った。
「………………………………………………………………………………」
『………………………………………………………………………………』

沈黙、そして。

「出たわね妖怪!覚悟しなさい!」
 人間 博麗霊夢 が 一匹 出現 した!!
0034創る名無しに見る名無し
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2014/03/25(火) 00:49:38.64ID:edVp5lyL
(たぶん、良からぬ輩ってのはこいつのこと、だよな……)
(アナライズしたらレベルがカンストしてるホ、怖いホ……)
 一足で飛び退いた霊夢は裾から御札を数枚取り出すと、油断なく二人を睨む。
 オニとフロストの脳裏では魔人戦の音楽が早くも流れ始めていた。

「しょ、少々お待ちくださいホ……」
 フロストはそう言うと、オニと共に屋台を片付け始める。
 椅子を畳み、窓口の珊の部分に戸板を嵌め、火を消し、明かりを落とし、
 少し遠い所に移動させる。

 そのまま逃げずに二人は戻る。目の前の人間は彼らが何度か見た、
 ニュートラルな存在に見えたからだ。カオスよりもダークよりもライトよりも
 ロウよりもある種ずっと危険な人種、皆殺しの風来坊に。

(あの凶悪な顔を見るホ。残酷な目だホ、レベルのために蠱毒皿でテングを
 乱獲する輩の目だホ)
(魔人だってもうちょっと余裕があったぞ。露骨に殺気丸出しじゃねえか)

 ヒソヒソと内緒話をしながら相手の出方を伺うフロスト達。霊夢は依然として
 厳しい表情で彼らを見ている。
(どうするよ?客商売やってる以上オレたちゃ戦えねーぜ!)
(オイラに任せるホ、交渉スキルには自信があるホ!)

 意を決したフロストが霊夢の前へと進み出る。
 
 どうする?

 フロスト>TALK ○ 霊夢

『……アタシになんかよう?』

 フロスト>ほほえむ

「ギャハハハハ!絵に書いたようなバカ!」
 霊夢は機嫌を損ねたようだ・・・
0035創る名無しに見る名無し
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2014/03/25(火) 00:50:22.69ID:edVp5lyL
一方でフロストは、オニにしか見えない後頭部に凄まじい青筋を浮かべていた。
因果応報めいた罵声がトラウマを刺激しアイドルの、マスコットの自負を
粉々に踏みにじる。オニが慌てて駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?代わるか!?」
「ま、まだやれるホ……!」
 フロストはヤル気だ!

どうする?

フロスト>TALK ○ 霊夢

『あんたって妖怪でしょ? こんなところでいったい何してんの?』

>修行のためだ
>ナンパしてる
>わからない
>おでん屋をやってる

「おでん屋をやっているホ!」
「ギャハハハハ!絵に書いたようなバカ!」



「コロス……コッローース……!」
 因果応報めいた罵声がトラウマを刺激する!フロストはヤル気だ!
しかしフロスト達のターンはこれで終了である。

霊夢
龍の眼光

「イヤーッ!」
「ああ、やばいぞ!雄叫びくらい使っとけばよかグワーッ!」
 霊夢の瞳が妖しく光ると、手に持った御札がバンテージのように拳に巻かれる。
 そしてそのまま稲妻の如き勢いでオニに痛烈なボディブローを食らわせた!
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2014/03/25(火) 00:50:51.83ID:edVp5lyL
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

龍の眼光
霊夢の光が妖しく光る!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」

あまりにも激しい連打!連打!連打!いかに物理に特化して打たれ強いオニといえど、
 何度も攻撃されては堪らない!しかも攻撃の一つ一つが会心の手応えなのだ!
 月明かりの下に浮かび上がる形相たるや、どちらか悪魔か皆目検討がつかぬ!
「た、耐えるホ!頑張って耐えるホ!」

 霊夢に無視されたフロストがオニにエールを送る。彼女は見るからに前衛と思しき
 オニを真っ先に潰すと決めた。フロストは戦いの役に立たぬと踏んだのだ。
 その読みはだいたい正しい。

 一度のラッシュで倒しきれなかったことに舌打ちをすると、彼女は一旦距離を
 取る。膝をついたオニにフロストが駆け寄る。

「魔石だホ!しっかりするホ!」
 帽子から取り出した回復用品を口に放り込みながら、力の入らなくなった足を
 バシンバシン叩く。拳闘式のリカバリー術である。

「おう、スマネエ……」
「流石に頑丈ね。イライラするわ。よく見たらあんた達、ここらじゃ見ない顔ね。
 どうせ外から来た新顔なんでしょう」
「ど、どうして分かったホ!」

 フロストの問いに霊夢はようやく笑った。もっとも感情面ではその反対であったが。
「やっぱりね。こちとら最近あんたらみたいなのが増えてから、やたらと駆り出されて
 面倒くさいったらないのよォ!」

「理不尽だ!」
「オイラ達、真っ当な商売してるホ!」
「うるさい!ここじゃ妖怪は人間の敵なの!取り入ろうとかされると迷惑なの!」
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2014/03/25(火) 00:51:32.13ID:edVp5lyL
龍の眼光×2
「あ、ずるいホ!次のこっちの番のはずだホ!」
「うっさい!とっとと消えてなくなりなさい!」
「待った!屋台は、屋台だけは勘弁してくれ!」

ボム×8
『グワーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!』


悪魔の悲鳴が夜の静寂をズタズタに引き裂くと、一つの影が空へと上り去っていく。
後には仲良くボロ雑巾のようになったオニとフロストが横たわっていた


「生きてるか……」
「食いしばり持っててよかったホ……」
 際どいところで生き残った彼らは、痛む体を摩りながら起き上がる。

「ひでえ目に遭ったぜ……」
「けど、屋台は無事だし、得るものもあったホ」
「得るもの?」

 頭に疑問符を浮かべるオニに対し、焦げてジャアクな色合いになったフロストが
 答える。

「あんチクショウめ、さっきこう言ってたホ『あんたらみたいなのが増えた』って」
「だから?」
「つまり、これが異変だホ!オイラ達みたいなのが来てるってことだホ!
導かれし者たちだホ!」

 熱を帯びた口調でフロストがはしゃぐ。いくらなんでも話が飛躍しすぎだと
 オニは思ったが、これで意外と馬鹿にならない正解率を誇るのがヒーホーの戯言だった。

「探すホ!仲魔を!そして伝説へ至るホ!オイラの勘だと108人くらい集まれば
 何かが始まるホ!こうしちゃいられないホ!」
「探すったって、どこ探すんだよ」
「幻想郷全部だホ!」
0038創る名無しに見る名無し
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2014/03/25(火) 00:52:14.37ID:edVp5lyL
 無茶苦茶な言い分だったが、一度スイッチが入ったフロストを止められる者はいない。
 オニは溜息を吐くと、切れて血が滲む口元を拭った。
「……しょうがねえな。そろそろおでんの仕入れにも行かねえといけねえしな」
「ホ!?」

 傷だらけの顔が月の光に照らされる。今夜は綺麗な三日月であった。愚鈍と獰猛と友愛
 を行ったり来たりしている男が、ニヤリと笑った。

「もうひと頑張りすっか!」
「あ、ありがとうだホー!」

 両手をブンブンと振り回すと、フロストは感謝の言葉をオニへ送った。
 そして、そんな二人のことを見つめる影が二つあることを、彼らは気づかずにいた……
0039創る名無しに見る名無し
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2014/03/28(金) 00:43:07.47ID:UUx9ix4q
 翌朝、痛む体に鞭打って、オニとフロストは屋台を押しながら、一路紅魔館への道を
 歩いていた。登る朝日は柔らかく、行き過ぎる風はたおやかである。
「あ〜、やっぱり魔石1個じゃあんまり回復しないホ……」
「こんなときにピクシーやパールバティがいればなあ」

 現状で彼らの体力は、最大値のおよそ三分の一だ。護衛対象のある旅で早くも
傷だらけの二人、なんとも心細いものである。人里からいくらか離れた辺りで、
バックアタックに注意しながら進む彼らは前方に佇む人影に気がついた。

「あいや待たれよ、そこ行くお二人さん!」
 その人物は先に口を開くと、歌舞伎のように片手を力強く前へと突き出して
 見栄を切った。

「な、なんだホ!?敵かホ!?オイラ今度こそはやってやるホ!自社パロでも
 なんでもやってやるってんだホ!」
「落ち着け、まずはトークでマークの確認とアナライズが先だろ」
「落ち着けはこっちの台詞じゃ、まあ無理もないことじゃがな」

 その女性はポーズを解くと、メガネをかけ直してから大仰に首を振った。外見は
 一見して若い女性、萌黄色をした厚手の着物に身を包み、チェックのマフラーを
 巻いた姿は少女というには些か過ぎた風格を醸し出している。

「お主たち、昨夜博麗の巫女にボコボコにされた二人組じゃろ?しっかと見ておったぞ」
「そ、それがなんだホ!」
 狼狽するフロストをちらりと見た後、女性はオニを見る。とくに何も考えていない、
 見る者の毒気を抜く邪気の欠片もない顔がそこにはあった。

「噂を便りに来てみれば、なるほど中々に面白そうな連中じゃのう」
「噂?」
 オニが首を傾げる。文々。新聞のことを踏まえて、現在どんな風評被害に
 巻き込まれているのか、考えたくなかった。

「うむ。曰く、幻想郷を駆ける韋駄天が出た、台頭する新しい屋台、良いほうの赤鬼。
 ざっとこんなものじゃが」
「オイラは?オイラはないのかホ!?」
0040創る名無しに見る名無し
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2014/03/28(金) 00:44:49.57ID:UUx9ix4q
「お主は確か、溶けない雪だるま、とか雪だるまっぽい奴とか、そんなじゃったが」
「が、がっかりだホ〜」
 悄気返るフロストを横目に、女性は人差し指を伸ばして説明を始めた。

「まあ、幻想郷じゃオニは珍しい上に危険という意味で知名度も高い。それに加え、
 お主はこの短期間にめぼしい場所を巡り、仕入れ先を獲得、そして人里で商いを
 したとなれば、いやでも注目されるじゃろう」
「いや、生活のためにしただけで、仕入れ先だってたまたま運が良かっただけだぜ」

 そう言って手を振り答えるオニを、今度は値踏みするように、女性は視線を這わせた。
「幸運の一言に尽きたとしても、結果が残っておれば、そこばかり見てしまうのが
人のサガというもんじゃよ」
「それは分かったけどホ.それでオイラ達になんの用だホ、おばちゃん」

 ころころと笑っていた女性の頬が、気分を損ねたフロストの一言によって引きつる。
「お姉さんじゃぞ?坊主、長生きしたかったら、女子にかける言葉には気を配らぬと」
「オイラこどもだからわかんないことにしとくホ!おばちゃん!」
「ほっほっほっほ……この糞餓鬼めが!」

 女性は怒気と共に、隠していた本性を現した。獣の耳と牙と、爪とそして大きな、
 とても大きな狸の尻尾であった。
「あ、こいつ魔獣だホ!」
「む、し、しまった!」

 フロストに指摘され、彼女は慌てて頭と尻尾を押さえた。しばしばつの悪そうな顔を
 すると、やがて観念したのか、溜息を一つ吐いた。
「あー、まあなんじゃ、見ての通り、わしはしがない狸の化生じゃ。実のところ、
 わしも幻想郷じゃ新参でな。会ってみたかったというのが、まあ半分じゃ」

 彼女は後頭部をぽりぽりと掻く。苛立たしげな物言いには何かを失敗した
 という雰囲気が滲んでいる。
「もう半分はなんだホ?仙狸のおばちゃん」
「仙狸?よしとくれ、わしはアレよりはもう少し恥じらいというものがある!」

 狸の女性は大仰に腕を組み、やれやれと首を振る。
 いかにも『一緒にして欲しくはない』といった感じだ。
0041創る名無しに見る名無し
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2014/03/28(金) 00:45:48.61ID:UUx9ix4q
「確かに女の妖怪としちゃ実に正当かつ伝統的じゃ。けどわしはそれとは別の方法で
 ちゃーーーんと、今日まで上り詰めて来たんじゃ!」
 ころころと表情の変わる様子は全体に芝居がかっており、オニとフロストは
 どこか捉えどころと落ち着きのない言動に早くも思考が止まりつつあった。

「別の方法ってなあ、なんだい?まさかまともに修行してとか、高名な坊さんの
 下で逆に妖怪退治したりとかかい?」
「コレよ、コ・レ!」

 オニの質問に対して声を潜めると、彼女は掌を裏返し、人差し指と親指で
輪っかを作る。お金である。
「もう一つの磐石な煩悩に目をつけて、わしは金貸しとして今日まで来たんじゃ」
「つまり男漁りの分、もう一段階パワーアップの手段を残しているって訳だホ!」
「ちゃんと修行して御霊合体を考えるとV段階じゃねーかな」

 ちなみに二人は御霊合体まで終了している。見た目とカーストの位置に反して
 高い力を有しているが、物の考え方は低カーストから抜け出せていない。

「それでよう、話しを戻すがよう、オレ達に何の用なんだい、狸のお嬢さんよう」
「おじょ、お、コホン!ま、まあ、アレじゃ、新参のわしは、ここでまた一旗
 上げようと思ってな、色々な妖怪に声をかけておるのじゃ」

 お嬢さん呼ばわりに女性の機嫌が露骨によくなる。お世辞に弱いようだ。
 オニとフロストは彼女のいいたいことが分かったが、遮ってバトルになったら
 嫌なので、皆まで言わせることにした。

「そして最近注目株であるお主らと行動を共にすることで、幻想郷内の
 他の勢力と、そのう、関係を持ちたいと、こういう訳じゃ」
『え?』
 二人は顔を見合わせる。そして女性を見る。

「傘下に参加しろって話しじゃないのかホ?」
「そんなスケールの小さいことではいかんのう坊主」
 ダジャレにまったく取り合われなかったフロストは悔しそうに歯噛みする。
 挑発の意図があったようだが流石にあからさま過ぎたのだろう。
0042創る名無しに見る名無し
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2014/03/28(金) 00:47:54.81ID:UUx9ix4q
「お主らだけならたった二人じゃが、お主らの人脈とならば話しはもっと大きくなる。
しかも商いが地盤とくれば、わしの得意分野。食を通じて益々大勢の胃袋、ひいては気持ちも
がっちり掴める!これがどれほどの好機かお分かりか?」
どうやらコネ欲しさにいっちょ噛みしたいということらしかった。実に正直である。

「勿論、お主らにも悪い話ではない。わしもわしで子飼いの者達を通じて
幾らかの情報筋を持っておる。探し物となれば、役に立てるやもしれんぞ?」
喋っている内にヒートアップする人がいるが、彼女もそうらしい。
自分の売り込みの口上唱えている内に乗ってきたようだ。
二人はもう一度顔を見合わせた。

「要は仲魔になりたいってんだろ?別に構やしねえぜ」
「話しが長いホ」
「く、こ、これだから短絡的な男はいやじゃ、風情がないわい」

 自分のペースがまったく通じないことが面白くないようで、彼女は
 またすぐに不機嫌になってしまった。
いいわいいいわい。それなら勝手についていかせてもらうとするわい!」
 そう言うと、彼女は屋台の傍まで来ると、改めて二人とともに歩き出した。

「そういやあよ、おめえ、いつになったら名乗ってくれんだ?」
「え?あ、あ!」
 オニ言われて漸く気がついたのか、彼女は口に手を当てて盛大に目を見開いた。

「これは確かに不躾じゃった、あいすまぬ!」
 そこでまたも芝居がかった動きで飛び退ると、右掌を下手に出して、
 左手を腰へと回し、カッと正面に見栄を切る。

「言われて名乗るも烏滸がましいが、あ!どちらさんもどうぞお控えなすって!」
 右手を引いて腰に付け、今度は左手を前へと突き出し、首をぐるりと回す。
 一回転と同時に左足を上げて一歩踏み込む!
「不肖、魔獣二ッ岩マミゾウ!今後とも、あ!ヨロシクお頼み申す!」
『ヨ!日本一!』
 二人の相の手に彼女、二ッ岩マミゾウは爽やかな片瞬きを返す。
 魔獣 二ッ岩マミゾウが仲間になった。
0043創る名無しに見る名無し
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2014/04/01(火) 00:19:05.67ID:dcV7c/Gv
 三人組となったオニ、ジャックフロスト、マミゾウは仲良く秋の陽の下を歩く。
 先ほどのやりとりから、日は既に一番高いところへ登り、これから緩やかに
 沈んでいくことだろう。

「それで、お主らはどこへ行こうとしていたんじゃ?」
 居住まいを正しならマミゾウが尋ねる。今は耳も尻尾も出しっ放しだ。
「紅魔館だよ。そこで屋台に必要な海産物を仕入れがてら聞き込みをするんだ」
「おお、あの赤い悪魔の屋敷へか!?」

 オニの素っ気ない返答に驚くマミゾウ。紅魔館とは幻想郷にある霧に湖と呼ばれる
 場所の畔にある、目に悪いほど赤い屋敷だ。館というよりも城の様相を呈しており、
 住民も人間はほぼいないので、悪魔城の別名さえある危険区域である。

「先にカッパに会って屋台を見てもらおうかとも思ったんだけどよ。まあ近いから」
「カッパって、お主カッパとも面識があるのか?」
「そりゃお前、このおでん槽が使えるのもあいつらのおかげだしな」

 オニは気遣わしげな視線を屋台に向ける。霊夢のボムから庇いきれなかった分が
 容赦なく屋台を痛めつけたのだ。故障箇所はまだないが、心配であった。
 それとは別に、フロストの脳裏にあることが引っかかった。

「お前コレ物流ショップで交換してもらったって言ってなかったかホ?」
「そのままじゃ動かせなかったから、修理はそっちを紹介してもらって頼んだんだ」
「ほほう、カッパはおでん槽の修理もできる、と」

 二人の会話を聞いて、マミゾウが腰に吊るした台帳の一枚にメモをとる。
「しかし、よもや幻想郷で昆布とはのう。海はないというから色々と
 諦めたものもあったが、いやはや、中々どうして」

 顎に手を当てて唸るマミゾウ、急に表情が引き締まり、どこか遠くを見つめ始める。
 どこかとは?商いという神も悪魔も降り立たぬ荒野へ。

「でもお前、なんだって紅魔館に行くことになったんだホ?」
「そうじゃのう、おでん屋台を始められた経緯も気になるぞ」
「ああそれはな、話せば長くなるんだが……」
 少し湿った風が、妖怪の山々から紅葉を運んでくる。オニは3ヶ月前のことを回想した。
0044創る名無しに見る名無し
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2014/04/01(火) 00:20:05.21ID:dcV7c/Gv
「はい!これで水中に沈んでも問題なく使えるようになりましたよ!」
「いやあスマネエ助かったぜ」
 オレは例のジャンクショップで手に入れたおでん槽をカッパに直してもらってたんだ。
 本当にオカッパ頭だったんでちょっとだけ驚いたな。

「よし、これでようやくタネのほうに移れるぜ」
「修理の他に、改造もしたくなったら、また来てくださいね!」
 そしてオレは使い物になった屋台を引いて山を降りた。夏の信仰争奪戦とかいう
 祭りがあって、人里に妖怪が出入りしてたのがラッキーだったな。

 そこで出店と客層をそれとなくリサーチしたり、幻想郷のことを知ったんだ。
 工場なんかないから、屋台をやるなら全部自前じゃないとダメってのが地味に
 辛かった。

「私も無縁塚に行ってみようかなあ」
「君子危うきに近寄らず、やめとけって」
 無縁塚ってのは幻想郷の端っこで、外から色々な物が流れついて、
 簡単に言やあ、淵とか溝ってところらしい。

 で、この幻想郷ってのは妖怪の他にも、外で忘れ去られた物もやってくるって
 話しでよ。それを聞いて屋台の残骸でもないかって出発したんだ。
 まあ結果から言うと、あのジャンクショップでいきなり見つけて
 段平と交換してもらったんだよ。

「号外!号外!今日の試合結果の速報だよー!」
「いよいよ大詰めみたいですね」
「宗教戦争ねえ、本当、好きだよなあ」
 
 いよいよベスト4が出揃ったとかなんとか書かれていたが、オレは興味がなかった。
 ガイア教徒とメシア教徒の抗争とかコトワリの件とか、いい加減腹いっぱいだろ?

「オレにはこっちのチラシ広告のほうがよっぽど大事だ……て、んん?」
「どうかしたんですか?きゅうりの特売とかあると嬉しいですけど」
 オレはチラシの隅の一コマに目が行ったんだ。そこにはこう書いてあった。
0045創る名無しに見る名無し
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2014/04/01(火) 00:21:15.78ID:dcV7c/Gv
『幻想郷に海の幸!紅魔海運始まる!電話一本でお望みの海産物取り寄せます!』
「お問い合わせは紅魔館海運営業部まで」
「コレ、いかにも胡散臭いですよね〜」

 オレには藁にもすがる思いでそれを見た。割高だろうがなんだろうが、
 一当たりしてみる価値はあると思ったんだ。もしもアズミやフォルネウスあたりが
 出てきたらとか考えないでもなかったが。

「よし、次の目的地が決まったぜ」
「お店、開けたらいいですね」
「おう、ありがとうよ!」

 そしてオレは山を降りて霧の湖へと向かったんだ。中身の入ってない屋台は
 めちゃめちゃ軽かったから抱えて走るのもそんなに疲れなかったな。
 そんな訳で、途中で妖精にからまれて難儀してる職漁師の爺さんを助けたり、
 ホブゴブリンと妖精の小競り合いを仲裁してるうちにオレは紅魔館に着いた。

 この間がだいたい2,3週間くらいのことだったかな。
 で、件の館に付いたら庭いじりしてた受付嬢にチラシを見せてアポとってよ、
 中に通された後、サキュバスの娘さんから相談をさせてもらってだ、
 昆布とカツオ手に入りませんかって聞いたんだよ。そしたら

「現在『紅魔海』、紅魔館で作った海では赤い海産物を中心に取り扱っておりまして、
 お客様のご注文の品はまだ当社ではまだ取り扱っておりません」
「ああ、そうですか」
「まことに、申し訳ございません」

 正直がっかりってほどでもなかったな。まあカニとエビとタコとタイは
 あるってのは意外だったがな。しょうがないからおでん屋を止めて
 ちゃんぽん屋台にしようかと思ってたその時だ。

「話は聞かせてもらった!その注文、なんとかしよう!」
「あ、あんたは……!?」
 おじょうが現れたのは。

「我が名は夜魔 レミリア=スカーレット 以後お見知りおきを……」
0046創る名無しに見る名無し
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2014/04/01(火) 00:22:29.31ID:dcV7c/Gv
 てるてる坊主がドアノブカバーを被ってるような可愛いお嬢ちゃんが出てきてよ、
 なんでも吸血鬼の娘さんで外の世界と幻想郷とで交易をやってるって
自己紹介されてな、これがそのとき渡された名刺だ。

『スカーレット・トレーディングス 代表取締役 レミリア=スカーレット』
と書かれた名刺をオニは二人に見せた。
「かっちりしてるホ……」
「オオ、これはワシも営業用の名刺を出せるようにしておかんといかんな」

話題のスポットへの道すがら、幾分くたびれた名刺をフロストとマミゾウは
 矯めつ眇めつして名刺を弄ぶ。
「話しを戻すぞ」

やたら広くて対戦ステージにでも使われるんじゃねーかっていう会議室の
扉を勢いよく開けて入ってきたお嬢はよ、つかつかと歩いてきたんだ。
歩幅が小さくてやたら時間がかかったけど。

「私服で失礼、着替えの時間が惜しかったもので。早速だが、
今の話のことでお聞きしたいことがある」
 
 正直ちょっとだけ気圧されてよ。かなり強いようなんだが、カタギとしての
 雰囲気っつーか、そういうのもあってよ。

「は、ハイ!なんでやしょう?」
「季節はまだ残暑、それなのにおでん屋をやるのかしら?」
「いや、開くのは冬の予定でして、開店のためにこうして仕入れ先を求めて
 当たってる最中なんでさ」

「ということは、最悪冬までに用意できればいいってことかしら?」
「そうっすね。つってもあと3ヶ月ちょいですから、無理がありまさあ。
 自分でも駄目元だったから、そこまでお願いする気は」
「一月だ」

「へ?」
「一月で用意してみせよう、他に何か入用な海産物はあるか?」
「え、あ、いやないですが、その、マジで?」
0047創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/01(火) 00:25:06.84ID:dcV7c/Gv
 オレも正直ハッタリかって思ったよ。でもこんな下手な打ちかたも
 ねえだろ?だからよ、ついつい頼んじゃったの。そしたら本当に用意してくれてな。
「いやなに、此度の祭りのおかげで折角の宣伝が無駄になりそうだったんだ。
 ならここが一つの勝負所だと考えたのだ。それに、私も久しぶりにおでんを
 食べたくなったのよ」
「あ、ありがとうございます!」

 いやあ、オレもう感動してよう。お嬢も和食派だっていうからおでんのレシピの写しを
 前金替わりに受け取ってもらって、一ヶ月半かけて残りの具材を集めてよ。
 でひと月半前に何とか開店まで漕ぎ着けたって訳よ。おでん槽だけに。

「……相変わらず狂ったバイタリティしてるホ……」
「涙ぐましい話じゃのう。で?その後はどうだったんじゃ?」
 オニの回想が終わり、二人はそれぞれの反応をする。

「おう、色んなとこから力を借りて創業した訳だからな。下手は打てねえ。
 オレが地底に行くまでのラスト数日は紅魔館で料理の修行をみっちり
 仕込み直してもらってよ。社長が最後の味見をしてくれた日のことは
 今も覚えてるぜ」

「なんて言われたホ?」
「『まだまだ素材の味に助けられているな。だがそれでいいんだ。続けろ。
 出汁が素材を飲み干す日まで。精進しなさいって』」
「聞けば聞くほど大人物じゃのう、会うのが楽しみになって来たわい」

 その日のうちに彼らは紅魔館の手前、妖精飛び交う霧の湖へと到着した。
 残った具材で出汁の手入れをするオニ、近くの妖精に挨拶回りをするフロスト、
 それを眺めるマミゾウ、月のない晩を、少しの間だけ、赤提灯が照らし出す。

「バタバタしっ通しだな、そろそろ二ヶ月か、緊張するような懐かしいような」
「ちゃんとオイラの仕事のことも忘れないで欲しいホ!」
「わしのこともちゃんと紹介して欲しいもんじゃのう」
 
「わかったわかった!」
 二人に言われて、オニは参ったと両手を上げる。目と鼻の先にはオニが世話になった
 悪魔の館が、夜闇の中に薄らとそびえ立っていた。
0048創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 23:55:44.78ID:0Nr7BdHD
「おでん屋台、なくなってしまったんですか。残念です」
 地霊殿の主たる少女は、自分の桃色の髪をいじりながら小さく溜息を吐いた。
「んもー!だから言ったじゃないですかー!」

 隣で頬を膨らまして怒っているのは彼女のペット、とは言っても倍近い身長差がある、
 地獄鴉の霊烏路空だ。胸元の第三の目も少し吊り上がっている。

 オニのおでん屋台が正規の手続きをとって地底を去ったその次の日、
 地獄の多目的行政施設こと地霊殿での一幕である。心もとない明かりの数々が、
 獣臭いこの屋敷の輪郭を、昼なお暗い地底に浮かび上がらせる。

「さとり様、ここんとこお仕事ばっかりじゃないですか!せっかくおいしい
 お店も出来たのに!お燐も誘ったのに来ないし!」
 空はむくれていた。このところ地底に頻発している事件への対応に追われ、
 さとりと、空と同じくさとりのペットである妖怪猫の火焔猫燐は忙殺されていたのだ。

 なんとか息抜きでもと思ったのだが、日々の仕事に流されていくうちに
 その機会も失われてしまった。それが無性にやるせなかったのだ。
 殺風景な和風の執務室に誂えられた大きな文壇。机上に届かない分を座布団で
 相当数水増しして座るのは、誰あろう先ほどの少女、古明地さとりである。

「ごめんなさいね、お空。でもね、ようやく例の件も落ち着いてきたのよ」
「例の件?なんでしたっけ?」
 さとりの言葉に空は首を傾げる。空は鴉の割にあまり頭が良くなく、
 精神的にも持っている力に対してかなり遅れている。

「最近、地底に見たことのない動物たちが沢山現れるようになったでしょう?」
「はい!それでみんながうちにその動物たちを連れて来て困ってます!」
「それよ」
「それですか!」

 勢いよく頷く空、しかし「それ」が今の話に繋がっているかは怪しい。
 良くも悪くも頭が空っぽなのだが、さとりもそれを承知で飼っているので
 今更気分を害した様子もない。
0049創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/04/06(日) 23:56:31.85ID:0Nr7BdHD
 近頃、地底には奇妙な動物たちが数多く出没するようになった。地上から
 来たとは考え難く、となれば地底のどこかで幻想郷の結界に穴が空き、そこ
から外の世界の動物達が迷い込んでしまったと考えるべきというのが
彼女の結論であった。

「その動物たちに対して詳しい人たちが幻想入りしていたようでね、丁度良いから
 スカウトしたのよ。だからささやかながら彼らの就任祝いをしたかったのだけれど」
「さとり様、それってつまり新しい子ってことですよね!?どんな子なんですか?
 私の後輩ってことですよね、早く教えてくださいよう!」

 スカウトという言葉に反応し、空は身を乗り出してさとりに質問する。
大きな机に座る小さなさとりに迫る大きな空、圧迫感がひどいが
主人は慣れているようで、気にせずに軽く手を叩いた。

「お呼びですか、さとり様?」
 器用に襖を開けて現れた黒猫は、火車と呼ばれる死体攫いの妖怪であり、
空と同じくさとりのペットである化け猫、火焔猫燐であった。
「お燐、二人を呼んできて頂戴」

「クーキンとオノマンですね、分かりました少々お待ちを」
 黒猫は廊下に出ていくと、しばらくして二人を連れて帰ってきた。
「紹介するわお空、しばらくうちで新しく動物たちの世話を頼むことになった
 オークのクーキンと殺人鬼のオノマンよ。仲良くして」

「うわああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 拒否反応を起こした空が一切の躊躇い無く右腕のバスターから熱線を放つ!
 少女が空を飛び弾幕ごっこができるほど広い地霊殿の一室を爆炎が埋め尽くす。
 
「お空!あなた新入りの人になんてことを!」
「さとり様!不審者です!侵入者です!危険人物です!」

 お空の反応は無理からぬものである。たった今炎に包まれたのは、
 方や灰色熊の主クラスに相当するほどの威容を誇る猪型の獣人、そして
 もう片方はパンツ一丁に覆面の男である。他の言い方はない。
 パンツ一丁に覆面の男である。
0050創る名無しに見る名無し
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2014/04/06(日) 23:57:25.10ID:0Nr7BdHD
二人が並ぶことで圧迫感と重量感もさることながら、諸々への危機感が
 視覚を通じて見る者を強く煽るのだ。

「妖怪や死体だって見慣れているでしょう。何がそんなに怖かったの?」
「さとりさまはおかしい!って、あ、しまった!お燐!」
 空はそこでようやく友達をまとめて吹っ飛ばしたことに気づく。廊下の
 向こうで赤々と輝く炎、死体運びが死体になる。

 二人はそんなことをつい想像してしまったが、しかし!
『トーウ!』
 炎を突き破り高くジャンプして、クーキンとオノマンは飛び出した!
 空中で一回転!そしてもう一度跳ねると今度は伸身の姿勢で空とさとりの
 前にきれいに着地した。

「な、なんだってー!」
「勇儀さんから聞いてはいたけど、ここまでとは」
 二人は火傷一つ負っていない。それどころか、フレンドリーファイアされた
 お燐を庇い、救出までしたいのだ。

オノマンがお燐を空に渡す。目を回したのか気を失っている。
「先程はこの子が失礼したわ、後でちゃんと躾ておくから。勘弁して頂戴」
「え、私!?私が悪いんですかさとり様!?」

「当然でしょう。初対面の相手、それも敵対していない人に危害を
 加えてはいけません、いいわねお空?」
「う、うにゅう〜〜〜〜〜」

納得いかないのか、空は口惜しそうにオノマン達を睨む。
「ほら、そんなに警戒しねいで、お互いに自己紹介して」
 さとりに促され、空は渋々といった様子で、オノマンたちは反論をするでも
 なく、顔の前で両手を合わせお辞儀した。

「ドーモ、お二人さん。『霊烏路 空』こ、今後共よろしく」
空が挨拶をすると、それを契機にクーキンとオノマンは厳かに返礼した。
「ドーモ、オークキングのクーキンです。コンゴトモよろしくお願いします」
「ドーモ、デスストーカーのオノマンです。コンゴトモよろしくお願いします」
0051創る名無しに見る名無し
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2014/04/06(日) 23:59:02.93ID:0Nr7BdHD
 二人の外来者が野太い声で厳かに一礼する。
彼らは仲間なりたそうにうつほを見つめていた。
0052創る名無しに見る名無し
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2014/04/14(月) 00:20:11.02ID:oKCXsdha
「さとり様、こいつら信用できるんですか?何考えてるかすごい気になるんですけど」
「それがねえ、外国の方らしくって。心の声が日本語じゃないから私もちょっと……」
「『ちょっと』ってさとり様―!」

古明地さとりは「さとり」言われる心を読む妖怪である。そのために
隠し事の類は彼女には通用せず、方々から忌み嫌われる存在であったのだが、
目の前の異形共は彼女が知らない言語で考えているので、読めないのと
大差ない状態になっていた。

「ていうか外国の妖怪って、なんだってそんなのがここに来るんですか」
「あらお空、地上では最近ホブゴブリンが来てるらしいわよ。これはもしかすると、
 幻想郷にもグローバル化の波が来てしまったのかも知れないわ」

 現在ホブゴブリンは紅魔館で丁稚同然の生活を送っている。

「あれ?でもさっき日本語で挨拶しましたよ?」
「なんとか私とお燐で最低限の会話ができるよう教えたのよ。見た目よりもずっと
 『かしこさ』が高いから助かったわ」

 言われて豚男とパンツマスクが胸を張る。褒められていることは既に分かるようだ。
「えうう、な、納得いかないぃ〜」
「納得しなさい」
 お空が目の前の不審人物たちを睨む。小学生のような外見のさとりがそれを嗜める。

「そもそもなんで外国の妖怪が地底にいるんですか?こっちに来るような種類とも
 思えないんですけど」
「それは彼らから直接聞きなさい」

 さとりが顎をしゃくると、オノマンたちは頷いて、ぽつぽつと語り始めた。
 薄暗い室内に車座で座る四人の顔が、ささやかな明かりに照らされて
ぼんやりと浮かび上がる。

「オレ達、グランバニア、マツリ、イクトキ、ダッタ」
 オノマンの言葉に合わせて覆面の下部がもごもごと動く。
「ワレラ、アベル王トノ交誼アリ、魔王タオシタ、記念日ダタ」
 クーキンが後を継ぐ。この中ではクーキンの知能がさとりに次いで高い。
0053創る名無しに見る名無し
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2014/04/14(月) 00:20:55.95ID:VLXLNihx
「オレ達、グランバニア行ノ扉二入っタ」
「ダガ、着イタノハココダタ」
 推測するに、旅の扉とは地上への直通エレベーターか、巫女が使っていた
けったいな瞬間移動用の結界のようなものだろうとさとりは考えた。
空間の拡張や変質は妖怪の十八番である。

(魔王は、本当に魔王って訳じゃないわよね、たぶん)
「ふんふんそれでそれで?」
空はやたら頷いているが、恐らく分かっていない。
「オレ達、喋ル、ダメ、困ル。トホホ」
「ダガ、運良クオーガノ戦士、イタ。我ラ助カタ」

このオーガの戦士とは地底の民の一人であり、鬼の国の四天王の
一角であった星熊勇儀という鬼であった。
「勇儀さんが意外に器用な方で私も助かりました。筆談といっていいのか、
 パラパラポンチ絵で意思疎通を図るとは思いませんでしたが」

パラパラポンチ絵とはパラパラ漫画のことである。適当な巻物に鉛筆で
簡単な絵を書きあうことでかろうじて対話に漕ぎ着けることができた。
この段階を踏まえていなければ彼らに身振り手振りを交えた
語学研修に至るまで、どれほど時間がかかったか分からない。

「勇儀さんのあの変な絵、私も好き〜」
「それは置いといて、とにかく二人が元の国に帰れる算段がつくまでは、
 ここで働いてもらうことになったのよ。わかったわね?お空」
「う、はぁーい……」

 さとりの連れない返事に空がまた肩を落とす。ここのところ主人が
 あまり構ってくれないので、彼女の機嫌は益々悪くなる一方であった。
「あれ?でもこういうときってすぐに何とかできるところってありません
 でしたっけさとり様?」

「あったらとっくに引き渡しています。さ、自己紹介も済んだことだし、お空。
 二人をお部屋に案内して頂戴。お燐が目を覚ますまでは、あなたがお燐の分も
 頑張らないといけないわ。分かる?」
「う〜!」
0054創る名無しに見る名無し
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2014/04/14(月) 00:21:51.22ID:VLXLNihx
 空はハイとは答えず半ば自棄のように彼らを連れて執務室から出て行った。
(博麗神社なら、帰そうと思えば恐らくすぐにでも帰せるでしょうけど、
 せっかくだから少しの間役に立ってもらいましょう」
 焼け焦げた廊下を見ながら、さとりは眉間の揉んだ。

(まったく、動物のことといえばうちだなんて、一体誰が言ったのかしら)
 人の心は読めても、噂の出処に心当たりはなかった。
 地底の住民曰く『地底の動物王国』。いつからか定着したその言葉を
 鵜呑みした者達が、連日異国の珍獣を連れてくることがここ最近の
 彼女の頭痛の種だった。

「私も、外国語の勉強をしないとダメかしら」
 よもやこんな形で自分の読心が破れるとは思っても見なかった。
 動物たちのためにも、さとりは密かに決心する。

「それにしても、勇儀さんはあの二人が動物たちの言葉が分かると言っていたけど
 本当なのかしら……」
 彼らを紹介した偉丈婦のことを思い出し、さとりは渋面を作る。
 人手が欲しかったのは事実だし、勇儀の言葉が本当なら願ってもいないことだ。

 しかし、鬼は嘘を吐かない代わりに、ひどくいい加減である。年中酒の臭いを
 させている上、早合点や思い込みも多い。
(根はいい人なんだけど、それだけなのよね……)

 面倒な有権者の顔を思い出して、さとりはまた小さく溜め息を吐く。それに
 合わせるかのように地霊殿のどこからか、聞きなれない動物たちの鳴き声が木霊した。
0055創る名無しに見る名無し
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2014/04/14(月) 00:22:37.29ID:VLXLNihx
「コレ、アルミラージ、コレ、ガスミンク、コレ、ファーラット」
「へえ、この子たちの名前が分かるんだ?」
 空に案内されて、地霊殿の裏に急造された厩舎へと足を運んだクーキンと
 オノマンは、見覚えのある珍獣たちを見つけると、その名前を彼女に
 教え始めた。余談だが、現在の時刻は昼休みが終わったあたりである。

「じゃあこの子は!?」
「そいつスカルガルー、アッチ、ケンタラウス、アイツ、ア!」
 厩舎の隅に蹲る一匹を発見してオノマンが駆け寄る。

「ブラウン!」
「ナニ!?」
「もが?」

 名前を呼ばれて毛むくじゃらの丸々とした小人が振り向く。間違いない、
 かつて彼らと共闘した魔物の一体だ。

「もが!?もがもが!もがあも!」
 驚き、次に喜び、嘆いたりを身振り手振りを交えて話すブラウン。
 それを聞いて頷く二人、時折日本語ではない言葉で二、三会話をして
 お互いの近況を報告した。

「え、なに友達?」
 空の問いに、彼らは頷いた。途端に彼女の表情がパッと明るくなる。
「コレ、ブラウン、仲魔!」

「よかったね!友達に会えて!」
 先ほどの不機嫌もどこへ行ったのか、彼女は心から3人を祝福した。
 単純だが大切なことはしっかりと躾られており、条件反射で反応するのだ。
 
「じゃあ、その子は動物じゃないんだね。後でさとり様に言わなくちゃ」
「もが!」
 ブラウンは深々とお辞儀をした。しかし彼がここから出るのは今言ったことを
 忘れた空が思い出すまで、もう少し先のことであった。
0056創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 00:05:58.26ID:XwirEkzH
「コレ、アルミラージ、コレ、ガスミンク、コレ、ファーラット」
「へえ、この子たちの名前が分かるんだ?」

 空に案内されて、地霊殿の裏に急造された厩舎へと足を運んだクーキンと
 オノマンは、見覚えのある珍獣たちを見つけると、その名前を彼女に
 教え始めた。余談だが、現在の時刻は昼休みが終わったあたりである。

「じゃあこの子は!?」
「そいつスカルガルー、アッチ、ケンタラウス、アイツ、ア!」
 厩舎の隅に蹲る一匹を発見してオノマンが駆け寄る。

「ブラウン!」
「ナニ!?」
「もが?」

 名前を呼ばれて毛むくじゃらの丸々とした小人が振り向く。間違いない、
 かつて彼らと共闘した魔物の一体だ。

「もが!?もがもが!もがあも!」
 驚き、次に喜び、嘆いたりを身振り手振りを交えて話すブラウン。
 それを聞いて頷く二人、時折日本語ではない言葉で二、三会話をして
 お互いの近況を報告した。

「え、なに友達?」
 空の問いに、彼らは頷いた。途端に彼女の表情がパッと明るくなる。
「コレ、ブラウン、仲魔!」

「よかったね!友達に会えて!」
 先ほどの不機嫌もどこへ行ったのか、彼女は心から3人を祝福した。
 単純だが大切なことはしっかりと躾られており、条件反射で反応するのだ。
 
「じゃあ、その子は動物じゃないんだね。後でさとり様に言わなくちゃ」
「もが!」
 ブラウンは深々とお辞儀をした。しかし彼がここから出るのは今言ったことを
 忘れた空が思い出すまで、もう少し先のことであった。
0057創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 00:06:48.77ID:XwirEkzH
「全部で67匹、ですか……」
「はい!他にもあの二人みたいなのも数匹、数人?いました!」
その日の夜、動物たちについて報告を受けると、さとりは目を瞑った。
 眉間に寄ったシワが深まる。

「改めて厩舎を建てねばならないかも知れませんね」
 手にした紙束を机に置いて、そう呟く。オノマンが似顔絵を書き、
 クーキンの知識をお燐がまとめた簡易なモンスター図鑑の存在が、
 動物たち、否、モンスターたちを同じ入れ物に詰め込んでおくことは
 危険であることを彼女に教えていた。

(不幸中の幸いか……)
 さとりは現在、地霊殿に集められ、そしてこれからも増える可能性が高い
 モンスター達を収容するための場所を作ろうとしていた。

 何故かと聞けば、異変でもないのなら彼らを外の世界に返す理由がないからだ。
 個人が帰りたいというのならまだしも、動物達が幻想入りしたとて、
 それは幻想郷に動物が増えたというそれだけのことなのである。

(もっとも、預かった以上は管理しないといけないのだけれど)
「さとり様、元気ないですね……」
 空が心配して声をかける。単純な動物の思考と心理は、さとりに
 安心感を与えてきたが、気遣われることに心労を覚えるという
 誤算もあった。

「そうね、みんなのご飯を考えると、ちょっとね……」
「え、みんな放して、他の動物みたいに狩ったり食べたらいいじゃないですか?」
 空の屈託のない表情は心の底からそう思っていることを告げていた。
 大自然のコトワリに根ざした考えであったが、彼女の主人は首を横に振る。

「野生のものはそうでしょう。でもねお空、中には人様のペットも含まれている
 かも知れないの。あなただって、お燐が食べられたら嫌でしょう?」
「嫌です!」
オウム返しを繰り出す地獄鴉を見て、さとりは首肯する。
つまるところ、自分たち地霊殿の者では紛れ込んだモンスター達が、他人の
ペットか否かの判断がつかないことが問題だったのである。
0058創る名無しに見る名無し
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2014/04/21(月) 00:07:56.40ID:XwirEkzH
「食べられちゃったら食べた相手にやり返すでしょう?」
「やってやります!」
「だから、ペットの子だけを預かって、残りは順次野に帰していくことにするの。
 わかった、お空?」

「え……?」
「……オノマン達にペットの子だけを分けて、残りは逃がすよう言って頂戴」
「分かりました!」
 元気よく返事をすると、お空は部屋を駆け出していった。
 屋内で走らないよう常々言っているが、これは覚えられないようだ。

 とくに怒ることもなくさとりは目を閉じた。聞き分けの良い子だが、
 鴉にしては思慮が足りないのがお空の欠点である。
 だからこそ、外から来た下品な神々に良いように騙されてしまったり、
 異変を起こしたりもした。

(あまり地獄で厄介事は起きないで欲しい物だわ。元、だけど)
 さとりは内心でそう呟きながら、机の引き出しからアメを取り出し、
 口に含んだ。まろやかな乳の甘味が口内に広がる。

(こいしは、いつもどおり捕まらないし、お燐もこのところ働き詰め。
 お空は元気だけどそれだけ、新人二人の今後も考えないといけないし、
 地底の運営にもそろそろまた手を入れないといけないし、まだまだ
 休めそうもないわ……」

 気がつけば、舌の上のアメを転がすことも忘れて、さとりは微睡み始めた。
妖怪といえど体力のあるほうではない彼女は、しかしながら他に
机仕事のできる者の少ない地底の切り盛りのために仕事一筋の暮らしに
追われていた。

何時頃からかと聞かれれば、閻魔に任されたときからだ。
(やっぱり、やめとけば良かったかしら。他に道はなかったかしら。疲れたわ……)

 もう一度だけ口内のアメ玉を転がすと、さとりは昔を思い出しながら、意図せぬ
 眠りへと落ちていった。
0059創る名無しに見る名無し
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2014/04/28(月) 00:02:22.21ID:ocatDvYA
場所は戻って紅魔館。オニ一行は湖を回って吸血鬼の屋敷を訪れていた。
未だ朝靄晴れぬ妖館を前に、ジャックフロストが息を呑む。
「えっ、ここ?間違いじゃないかホ?」
「いや、どっちかってーと、場違いのほうだろ」
「いやはや目に優しくないのう」

 遠巻きから口々に言いながら彼らは歩いていく。建物は高い柵で覆われており、
入口は正門一つきりだからだ。もっとも、空を飛べる幻想郷住民からすれば
あまり意味のあるものではないが。

「ん……あれ?」
「どうかしたかの、オニ殿」
「いや、アレ……」

 オニが指さした先には大きな門と、そこに鎮座する魔物が一匹。一見獅子のようだが
 体格は大型のそれよりも一回りも大きく、全身の真白の毛並みと理性的な瞳が
 一介の猛獣とは一線を画していることを告げている。

「はーこりゃあご立派じゃあ……」
「ケルベロスが番犬してるホ、なんか感慨深いホー」
「いや、そうじゃなくてな」
オニは、ここの門番は妖怪の少女が務めていたことを二人に話した。

「面識ねえ相手だなあ、そもそも話しが通じるかな、アポとれんのか?」
「こういう時は、オイラの出番だホ!」
 フロストが一回転してから手を挙げる。交渉事には自信があるようだが、
 マミゾウは不安そうな目で眼科の「おこさま」を見る。

「大丈夫かのう?」
「任せるホ!無茶ぶりされても沈黙しないことがアイドルの必要条件だホ!」
「言ってる意味は分からんがとにかくすごい自信だ!」

 勢い込んでフロストはそのまま門の前まで駆けていくと、それに気づいた
 ケルベロスが身構える。しかし、フロストの姿を視認すると、地獄の番犬は
 驚愕の声を上げた。
「キ、キサマは二階堂!?>
0060創る名無しに見る名無し
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2014/05/05(月) 00:11:39.75ID:x5akqJc+
「ホ!?」
 突然の呼びかけにフロストは急ブレーキをかける。ケルベロスは
 目の前の雪だるまをしげしげと見て、小さく頷く。

「やはり、二階堂マイケルだな。久しいな、我を覚えておらぬか?」
 晴れ空の下、名前を呼ばれたフロストの内心に雷が落ちた。あまり嬉しくないのか
 冷や汗が顔中に流れ出す。

「お、オイラの本名を知っているケルベロスっていうことは……!」
「うむ、最後に供をしたのは天海以来か……」
「オマエ、パスカルかホ!?」

 狼狽しながら問う妖精に、魔獣は趣向する。
「いかにも。数奇なこともあるものよ」
 警戒を解いて歩み寄るケルベロス。普通に起き上がるだけで既にフロストの
 2倍は大きい。

「どうしたヒーホー。やっぱダメだったか?」
 後方で様子を伺っていたオニ達が屋台を押しながらやってくる。
 特殊会話が発生したような空気を察したのだ。

「む、こやつらが今の仲魔か?」
 ケルベロスが値踏みするように二人を見る。オニは真っ向から見返し、
 マミゾウは何故か頬を赤らめる。

「あー、そうだホ。この二人がオイラの今のパーティのオニとマミゾウ、で、
 こっちが首が一つしかないけどケルベロスだホ。昔組んでた仲魔だホ」
 フロストは両方にお互いのことを掻い摘んで説明した。

 穏やかな秋の日差しを受けて、魑魅魍魎が昔馴染みと歓談する。そんな
 奇妙な光景が、真っ赤な館の玄関口に広がる。

「かくかくしかじかホ」
『なーるほーどなー』
 フロストの説明が終わると、三匹の仲魔が頷く。
「悪魔も色々大変だ」
0061創る名無しに見る名無し
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2014/05/05(月) 00:12:17.31ID:x5akqJc+
ケルベロスが感慨深そうに目を細めて言う。
「それで、今日は館の主に謁見を求めてきたとな」
「そうだホ」

「分かった、とくにそういうことに約束事はないからな、案内しよう」
 そう言うと、ケルベロスが狼のような遠吠えを一つする。
 すると、正面の門が左右へと静かに開いていく。

「あ、その前に、ちょっと聞きたいんだけどよ」
「む?なんだ?」
「前にここで門番してた娘がいたろ?あのお嬢ちゃんはどうしたんだい」

「あの娘なら、いやそれも主、レミリア殿から聞くと良いだろう」
 言いよどむケルベロスに、オニは一瞬怪訝な表情を浮かべるが、
ここで気にしてもしょうがないと思ったのか、黙って後をついていく。
門の内側には、手入れの行き届いた庭木と花壇の数々が来客を出迎える。

「の、のう、ケルベロス殿」
 それまで沈黙を保っていたマミゾウが、控えめに声をかける。
 オニやフロストには絶対示さないしおらしさであった。

「む?なんだ」
「ケルベロス殿は、そのう、どうして幻想郷にいらしたのじゃ?」
(なんかおばちゃんが急に少女し始めたホ……)

 態度の違いに歯が浮きそうになるのを堪えるフロストの隣で、マミゾウは
 モロ好み(死語)の魔獣へのアプローチを開始した。余談だが屋台は門を
 潜ってすぐのところに駐車してきている。

「ふうむ。どこから話したものかな……」
「なんなら生い立ちからでも……」
「いくらなんでも時間かかり過ぎるホ……」
 
「いや、この中は見かけよりもずっと広い。議事堂並だから案外いけるかも」
以前来たことがあるオニがそんなことを告げる。一同が玄関に着くと扉が
自動で開く。
0062創る名無しに見る名無し
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2014/05/05(月) 00:13:36.34ID:x5akqJc+
少女が空を飛ぶことが前提の広さとでも言おうか。とにかく広いのだ。
真っ直ぐ最上階を目指してもかなりの距離がある。

「我は昔、一匹の犬だったのだ。元はシベリアンハスキーの雌だったのだが、
 飼い主が悪魔を使役し合体させる術を手にしたことで、その材料に使われてな。
 それで今の我になったのだ」

「え、ほ、ほう……」
 いきなりのカミングアウトとその内容にマミゾウが引く。
「つまり、長生きしたり人を襲って妖怪化したんじゃなくて、邪教の儀式によって
 化物になったってことだよ」

 よく分かるようにオニがフォローを入れる。フロストが眉間の押さえて俯く。
「左様。だが中身は不思議なことに我の、パスカルのままだった。我は
 変わらず外道に落ちた主を助けるべく旅を共にしていたのだが、ある日
 転送事故とでもいうべき事態に遭遇し、主と離れ離れになってしまった」

「転送事故ってのは、簡単に言うとだな。術師が式神の召喚や口寄せに
失敗したみたいなもんだ」
オニのフォロー。

「で、当時オイラが通っていた軽子坂って高校に出たんだホ」
 懐かしむフロストを他所に、マミゾウがの表情が引き締まる。
「……確か原因不明の爆発で生徒の大半が蒸発したとかいう事件のあった学校じゃな」
「その軽子坂だホ」

「いじめられっ子でクラスに馴染めない子が邪教に手を出して学校の体育館で
 儀式を行った結果、校舎が魔界に閉じ込められたんだホ」
「なんだそのギャグ漫画みたいな話」

 オニが横合いからツッコミを入れてくれるも悲しいかな事実である。
「そして我らは魔界から脱出するために他の仲魔と手を組み、首謀者を
 打倒したのだ。我はそこからまた主の下へ戻り」

「オイラは束の間の高校生活へ帰ったんだホ」
 足元に広がる赤絨毯と入り組んだ廊下を歩き、フロストは確かに議事堂だと思った。
0063創る名無しに見る名無し
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2014/05/11(日) 23:48:33.16ID:+pElVqK2
切り返しの多い廊下に妙に多い部屋数、上下の感覚を認識しづらい構造、
 時折すれ違う妖精メイドに挨拶しながらフロスト達は進んだ。

「その後は、どうしたんだったか……」
「次に会ったのはオイラがキャンパスライフを送っていたときだったホ」
「お前大学行ってたのか!?」

 知人が意外に高学歴なことに驚愕するオニ。廊下に彼の大声が虚しく響き渡る。
「そうだホ、平崎市の北山大学だホ」
「人は見かけによらんのう……」
 何故か急に態度の戻ったマミゾウが小さく唸る。

 フロストの略歴は簡単にまとめると以下の通りである。

 魔界に生まれてしばらく家族と共に暮らす。
 その後救世主の男女と共にオニや他の仲魔たちと共に世界の命運を賭けた旅に出る。

 旅が終わってからしばらくして「元通り」になった人間界へ行く。
199X年 軽子坂高校入学。相撲部に入部。全国高等選抜出場、一回戦敗退。
卒業後 平崎氏内の北山大学文学部を受験、無事入学、学生生活満喫中
ダークサマナーとの戦いに巻き込まれた人間に巻き込まれる。

 大学卒業後、ご先祖様に倣って私立探偵を開業、売り出しも兼ねてモデル都市
 『天海市』に事務所を構え、独自に事件を追う(平崎氏で得た伝手に情報を
 売り払うため)。
 天海市閉鎖後、廃業。魔界へ帰郷した際にルシファフロスト開催のアイドル
 オーディションを受けて当選、現在まで活動中。

「そこでオイラは新米サマナーをレクチュアしながら、街の怪事件を解決してたホ。
 で、あるときその新米が悪魔合体をしたら事故ってコイツが出たんだホ」
「サマナーってのは悪魔召喚士のことで、さっき言ってた邪教の術師のことな」
 階段に差し掛かると前列ケルベロス、後列フロスト達の隊形で上がっていく。

「で、その事件も無事にクリアした後、オイラ達はまたそれぞれの道を歩み始めたホ」
「とは言ってもしばらくの間は生活を共にしていたがな」
 階段の窓から見える外では妖精メイド達が鬼ごっこをしているのが見える。
0064創る名無しに見る名無し
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2014/05/11(日) 23:49:17.11ID:+pElVqK2
「今度は私立探偵として事務所を開業したホ!」
「1年で畳んだがな」
「節操ねえなー」
 オニが眉間を揉む。フロストは以前レーサーになるといって自分そっくりの
 ゴーカートをどこからか拵えたことがあったが、つくづく多彩な芸歴である。

「話しが進まんのう、その経歴ってあとどのくらい続くんじゃ?」
 少し疲れたようにマミゾウが聞く。フロストだけなら話半分なのだが、水先案内を
 務める番犬は嘘を吐くようには見えない。つまり『盛ってる』としても
 大筋は合っているということだ。

(思ったよりも面倒臭い奴らと絡んでしもうたかのう……)
 ただの妖精とはぐれ物の鬼、彼女の目には最初はそのように映っていたが、
 人間に比べて妖怪はどうにも値踏みがしにくい。

(それに、まさか雌とはのう、もっと早くに気づくべきじゃった)
 好みの牡かと思えば雌。確かによく見ればふぐりがない。狸に比べて他の
 動物のものは小さいのでそういうものだと思い気にしなかったのだが、
 性別の時点で間違っていたことでマミゾウは少なからずがっかりした。

「で、おいらはここ数年の間はアイドル業に専念して地方巡業してたホ」
「我は此奴の故郷というのが気になってな、再び魔界に行っていたのだ」
 階段を延々と上がり続けながら会話は続く、外からみればだいたい二、三回建てくらい
 にしか見えない紅魔館の内部は、まさに悪魔の業とでもいうべき広がりを見せていた。

「そして、数日前に我は魔界から現世へと帰還するはずであったのだが……」
「ここに流れ着いていたと」
 オニの問いかけにケルベロスがうむ、と肯定する。

「これで三度目だ、我は召喚や転送とはつくづく相性が悪いようだな」
「なるべく一緒のタイミングで出入りしたくないホっと」
 歩き疲れたのかフロストが番犬の背に乗る。ケルベロスも慣れたもので
 嫌がる素振りも見せない。

「で、門番募集のチラシが風に流れて来たのでな、足を向けたところ妙に
 気に入ってもらい、採用してもらい今に至るとこういう顛末だ」
0065創る名無しに見る名無し
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2014/05/15(木) 21:08:24.58ID:F5TDg07S
NHK提携シークレットサロン

NHK提携シークレットサロン

NHK提携シークレットサロン
0066創る名無しに見る名無し
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2014/05/19(月) 22:50:41.06ID:KmDON/v/
そこまで話し終えると、階段の踊り場から扉を開けて廊下に戻る。
 かれこれ六階程度の高さまで上がっただろうか。
「ここだ」
 ケルベロスが一室の前で止まる。ドアに付いたプレートには「会議室」の文字。

「たかが三階まで上るのにえれえ時間がかかったホ」
「途中にもう少し階を増やそうぜ。律儀すぎだろ」

 延々とビルや塔の階段を上り続けたこともある彼らだが、それは途中の階に
 用がなかったり入れなかったりするからであって、あまり長くなるようなら
 やはり小休止を挟みたいのが本音だった。

「柱と床があるだけで部屋も何もないからな、入れるようにするとサボリに
 来る者も増えるし」
「世知辛いのう……」

 あまり現実的でない長い廊下、それに合わせたカーペット。内側の縮尺だけが
 雑に引き延ばされており、特に目的もないならあまり歩きたくない。
 オニとマミゾウはそんな感想を抱いた。

「で、本当に入って大丈夫なのか、ここ会議室だぞ。応接室とかじゃなく」
「問題ない。お前たちが来たことは前日、レミリア殿から聞いていた。
 来たら案内するようにともな。二階堂までいたのは予想外だったが」
「流石吸血鬼、耳が早いのう」

「え、ここの主人って吸血鬼なのかホ!?」
「あれ、言ってなかったっけ」
 フロストの顔から水が滴る。汗ではない。人間ならばきっと血相も変わっていたに
 違いない。

「オイラ極道の吸血鬼と一戦交えてから正直苦手なんだホ」
「安心しろ、レミリア殿は外道の法や毒の光は使わん」
「それなら安心だホ」
 
 ホッと胸を撫で下ろしたフロストがドアをノックする。
「どうぞ」
0067創る名無しに見る名無し
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2014/05/19(月) 22:52:26.30ID:KmDON/v/
中から声がした。少女の声だ。やや高めだが細くはない、
辺りに響き渡るのではなく、遠くまで真っ直ぐに届く、そういう類の声だった。

「客人をお連れしました」
「ありがとうケルベロス、下がっていいぞ。そして久しいな店主」
「へえ、その説は」
 
 雇い主の言葉を受けて、ケルベロスが静かに退出する。
 オニが畏まって頭を下げた先にいたのは、少女だ。
 会議用の大机の前に立っているが、辛うじて肩から上が見えている。


 衣装はといえば、赤いスーツに身を包み、右に単眼鏡をかけた出で立ち。無造作風の銀髪は美しく、薄暗い室内で逆に存在感を高めている。
 彼女こそがこの紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットその人。
 今日まで外の世界で生き残り、弱冠500歳にして交易と妖怪稼業で生計を立て、
 多数の配下兼従業員を囲う経営者でもある。

「タネなら用意してある。後で届けさせよう。しかし今日は随分と賑やかだな」
「へえ、実は今日、用事があるのはこいつらのほうでして」
「ほう?」

 オニが手招きすると、フロストとマミゾウはそれぞれ自分の名刺を持って
 レミリアの前へ進み出る。名刺を受け取る紅い双眸がすっと細まる。

「有限会社二ッ岩ファイナンス代表取締役 二ッ岩マミゾウ殿。この時世に
 よく有限でいられましたね。新規は元より株式に転向せずにいることも
 難しいでしょう」
「いやいや、うちみたいなローカルにはそういう話がこないだけでして……」

 真っ赤な嘘である。幻想郷の外で確固たる地盤を築いている彼女はそこから
 堅実な手法で地道に勢力を伸ばしている。主に全国の荒れ寺や廃神社、休眠
 している宗教法人等をいち早く買収し、節税と金融業の二足の草鞋を履き、
 更に今は幻想郷で付喪神の育成と勧誘に精を出している。
0068創る名無しに見る名無し
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2014/05/19(月) 22:53:36.83ID:KmDON/v/
「ご謙遜を。それでこちらは……タレントさん?」
「新人のジャックフロストですホ。今は企画モノの飛び込みの最中ですホ」
「はあ、それはまた、ご苦労様です」
 今一つどう反応していいか分からないらしく、レミリアは眉根を寄せる。

「今オレ達、異変を追っているんですよ」
「異変を?」
 レミリアの表情が好奇心をくすぐられたような、あどけないものに変わる。

「ここ最近、新しい悪魔や妖怪が増えて来ているのは異変のせいだホ!
 それが、どこから来て、誰が、何の目的でやっているのかを突き止めて、
 解決するのが今回の企画だホ!」

「また随分と困難な企画で……、まあでも確かに、うちにも随分と従業員が増えたわね」
 思い当たる節があるのか、レミリアは顎に細い指を当てて目を閉じる。
「ホフゴブリンを雇い始めてから、次第に他の獣人が増え始めたのよね。
素のゴブリンとか、コボルトとか」

(マカカジャ以外はだいたい揃ってそうだな)
 オニはぼんやりとそんなことを考えた。
「ぜひその人達から話しを聞かせてもらいたいホ!シャチョーさん!」
 奇妙なイントネーションで言われてレミリアが苦笑する。

「構わない。彼らは裏の牧場か表の養殖場、それと地下図書館の海のいずれかに
 いるわ。そこで話しを聞くといいでしょう」
「長引くようなら2,3日泊まっていくといい。最近はまた平和になってしまったからな」
 内心では面白そうだと思いながらも、今は年の暮れに向けて忙しい。
 目の前の雪だるまを、レミリアは少しだけ羨ましそうな目で見た。

だが、まるでその言葉が引き金だったかのように、突如、館全体が大きく揺れた。
「なんじゃ、地震か!?」
「いや、こいつはもっと物騒な予感がするぜ」
「来た!ついにイベント発生だホ!オイラの勘は間違ってなかったホ!」

 それぞれがそれぞれの反応を示す中、室内に誰かが飛び込んできた。
 赤い紙にフォーマルなスーツ姿、コウモリの羽と同様の髪飾り、いかにも悪魔の尻尾。
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2014/05/19(月) 22:54:20.85ID:KmDON/v/
息せき切って現れた新たな少女は、レミリアの姿を認めると、切羽詰まった様子で
 次のように叫んだ。
「た、大変です!図書館で!パチュリー様が!」
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2014/06/01(日) 22:27:52.48ID:KQVwDvcI
紅魔館の内部には、外見以上に広大な空間が広がっている。それは結界や妖術の類を
駆使して設けられたのだが、その大半を使用している場所がある。
それが『図書館』である。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの知己であり、
知識と日陰の少女の二つ名を持つ魔法使い、パチュリー・ノーレッジの住処でもある。

どこから集めてきたのか、下手な建造物よりも背の高い本棚が所狭しと並び、
それでも収まりきれない蔵書は地べたへ無造作に散乱している。
しかしながら、在りし日の姿、日常の光景といったものが、今は失われていた。

書架という書架は薙ぎ倒され、床のあちこちは砕かれ、妖精メイド達と、
図書館の主、パチュリーは緊張した面持ちである一点を凝視していた。

「報告」
ふっくらとした質感の、主に白と赤と紫を基調としたパジャマのような服に身を
包んだパチュリーは、ソレから目を離さずに言った。

「妖精メイドが数名負傷、奥の禁書類に異常なし、各施設への影響は今のところ
ありません」
レミレア達の元へ向かったのとは異なる、髪の短いほうの小悪魔が被害状況を
素早く報告する。

「そう、では全員上空へ退避、警戒を維持しつつ別名があるまで待機。いいわね?」
「は!」
小悪魔が他の妖精メイド達へ目と手と声で、たった今受けた指示を伝えると
速やかに避難する。

「……ずいぶんと、良からぬモノが出たわね」
視線の先にある物体を見つめて、そう呟く。明らかに非生物であることを告げる
白と灰色で彩られた金属の体。直立した威容は5メートルを超える。

マシンだ。

「うるるぃ〜〜〜!根拠!コ、コンキョ!、かがく、てき、てきるぃ〜!」
 頭部と覚しき部位から不気味な声が轟く。目の前のマシンは頭の天辺からつま先まで
「人間の入る余地のない」完全な機械だった。
「アクシデントにしても、こんなものが出てくる可能性はなかったはずだけど……」
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2014/06/01(日) 22:28:41.37ID:KQVwDvcI
「パチェ!何事なの!?」
不意に彼女の背後から別の声が響く。髪の長いほうの小悪魔から報告を受けて
駆け付けたのだ。背後には知らない魔物がぞろぞろとくっ付いてきている。

「直通のワープポイントがあって助かったホ!」
「なんじゃあこりゃあ!」
 眼前にそびえる巨大ロボットにオニが度肝を抜かれる。物理的に巨大な敵と戦うことは
 少なくなかったが、ここまで大型のマシンを見たことはなかった。

「随分とお客が多いじゃない、レミィ、事業が順調そうで何よりだわ」
 友人の到着に際し、そこでようやくパチュリーは視線を外した。
「赤い海産物を増やしたいっていうから、ヒトデでも呼ぼうかと思ったのだけれど、
 召喚用の魔法陣を起動した途端に、こいつが何処からか無理やり割り込んで来た
 のよ」

 肩を竦める魔法少女に、レミリアは厳しい表情だった。
「パチェ、渡しておいた制服があったでしょ……イメチェンしたんだから、
着替えておいてくれないと……」
「え、そこ?」

「しっかし、こりゃまた随分立派な機械じゃのう」
「オイラ、こいつに見覚えがあるホ」
「我もだ」
 マミゾウ達もまたロボットを見上げる。フロストとケルベロスは渋面を顔いっぱいに
 浮かべている。

「ナイ!ナイ!コンキョ!カガク!テキ!ナイ!ぷ、ぷ、ぷ、プラズマ―!」
「前は人間の頭が残ってたホ。それで『ああ、次は頭が完全になくなっちゃうんだな』
 と思ったもんだホ。結局次が無かったんだけれどホ」
「よもやこっちに続いてくるとは」

「マッドだな」
「あるべき姿に還ったって気がするホ」
「じゃが、これどうするんじゃ?」
 
 巨人は意味不明なことを喚きながらも、動く様子はない。
0072創る名無しに見る名無し
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2014/06/01(日) 22:30:15.04ID:KQVwDvcI
しばらくの間様子を見るも、動き出す気配もない。すると焦れたのか、
 レミリアがパチュリーに今度は着替えて置くように言うと、巨人の目の前まで
 飛んで行った。

「ちょっとあなた!ここは私有地よ!今すぐ出ていきなさい!」
「うい?」
 マシンはややご立派なモノを思い起こさせる頭部に付いているモノアイに
 少女を映す。

「ニョホホホホホ」
 でれでれと脂下がったような嬌声を上げる。
 舐めるように上下するアイカメラの動きにレミリアは顔をしかめた。

「言葉が通じないようね。商売に集中してからカリスマも戻ってきたっていうのに……!」
 そこまで言うと、彼女は片手を頭上へとかざす。すると、赤い光が溢れ出し、
 次の瞬間には一本の槍状に収束する。

「もう一度だけ言うわ、出て行きなさい」
「正直あの図体でどうやって出て行ったらいいのかのう」
「シッ!余計なこと言わない!」

 マミゾウの疑問をオニが注意した。ここで話しを脱線されてはかなわない。
「うるるぃ、オマエぇ、持ってる。ウマそう……」
「あらそう」

 マシンの物騒な呟きに、赤い悪魔は素っ気なく呟くと槍を投げ放った。
「オグ!?」
 カメラに突き刺さった槍に巨体が仰け反る。

「いきなり目え行ったホ!」
「中々実践的じゃのう」
(やっぱ獣って殺伐してるなあ)
 呑気な雰囲気を纏って笑う化け狸の隣で、オニはしみじみと思った。

だがそんな弛緩しつつあった空気が再び引き締められる。誰かの驚愕の声が上がり、
見ればマシンの目に突き立てられた槍が、急速にその身を失っていったからだ。
0073創る名無しに見る名無し
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2014/06/01(日) 22:30:53.59ID:KQVwDvcI
「グングニルを、食べてる!?」
 レミリアは狼狽した。瞳の中へと吸い込まれていった槍を味わうかのように、
相手のカメラのレンズが赤く、妖しく光る。

「ういぃ〜〜。そ、ソウル、マ、マガツヒ、マグネッタイトおうおうおぅ〜〜!」
 興奮した様子で勢いよくマシンが立ち上がる、外見よりも遥かに俊敏な動きだ。
「食いてえ!もっと食いてえ!コンキョ、オレ元気、なる科学的、コンキョ!」
 大きく両手を伸ばしてレミリアに掴みかかる。

「なんだ!急に元気になったぞ!?」
「今の吸収でなんかのスイッチが入ったんだホ!」
 言い終えるより前にフロストが駆け出した。他のメンバーも逡巡を挟まずに続く。

「く、こいつ!」
 レミリアが再度、『グングニル』を投げる。カメラ以外の場所に当てるつもりだった。
 しかしマシンは意地汚くも自ら倒れこみ、またもグングニルをカメラに当てて吸収。

「ウイーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「っ!パチェ!手伝って!」
 堪らず叫んだ友人に、古い魔法使いは頷いた。既に分厚い魔道書を開いている。

「食いてえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 その時である。マシンのカメラが外れたかと思うと、中から鳥とも虫ともつかない
 異形が図書館内に大量に放たれた!それらは一斉に小悪魔達へと殺到する。

「チ、銀符『シルバードラゴン』!」
 銀色の光線が、異形の群れをなぎ払う。それでも撃ち漏らした一匹が小悪魔
の腕に取り付いた。

「いやあ!は、離れなさい!この!うぐ!」
 異形の空洞しかない瞳に見つめられて、小悪魔は全身から力が抜けていく感覚に
 襲われる。何もかもを内側から連れ去られるような、悍ましさ。

「ホー!」
 何かが完全に抜き出されそうになる直前、下から放たれた魔力の込められた氷塊が、
 電子的な悪霊を吹き飛ばした。
0074創る名無しに見る名無し
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2014/06/01(日) 22:31:58.25ID:KQVwDvcI
「あれは……」
 レミリアが見た方向、そこでは芸能事務所所属の雪だるまが真上へと
腕を突き上げていた。

「総員速やかに避難するホ!こいつはやばいホ!」
 フロストの警告に、パニック状態になった妖精メイドが我先にと逃げ出す。
 残った小悪魔は、無事なほうに支えられていたが、パチュリーが視線で促すと、
 速やかに退出した。

「あ、おま、おまうぇ!邪魔、邪魔っしぃーたーななな!」
「あいつ、MAG抜きすんのか!?」
 捕食黒衣を妨害されて怒る機械にオニは動揺したが、すぐさまフロストの前へと
 躍り出る。

「全員集合!整列するホ!陣形を整えるホ!」
 フロストの招集に、ケルベロスとマミゾウも目配せの後に駆けつける。
「あなた達、あいつに心当たりがあるの」
 レミリアがパチュリーを伴って合流する。

「説明したいけど、長くなるから後にするホ!プランは簡単、みんながんばれホ!」
「吸収されるから攻撃する際の種類と部位には注意だ、オレはあいつの足元に張り付く。
 もう一人来てくれ」
「我が行こう」

「女子は外から削りにかかるのが良さそうじゃな」
「逃げられる準備はしておきましょう」
 
 訓練をした訳でもなく、全員は行動の指針を決めると、次のように隊列を組んだ。

     ケルベロス ジャックフロスト オニ
     マミゾウ  パチュリー    レミリア

「コロス……コッローース……!」
「来るホ!」
 マシンは立ち上がると、フロスト達へ向かい猛然と突進してきた。
     マシン オオツキ が一体出現!!
0075創る名無しに見る名無し
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2014/06/15(日) 23:38:34.59ID:8R9kHGTi
行動順 レミリア ケルベロス マミゾウ フロスト  オオツキ オニ パチュリー

「吸収できないよう削るしかないか!」
 レミリアは通常弾幕で攻撃。次々にオオツキに着弾するが、ダメージは浅いようだ。
「様子を見よう」
 ケルベロスの雄叫びを上げて威嚇する。聞いているのかは分からないが、それも
 判断材料になると踏んでのことだった。
「どれ、どういう輩か見ておこう」
 マミゾウは懐から望遠鏡らしきものを取り出すと、それでオオツキを覗き込む。

マシン オオツキ 
物理に強い 破魔呪殺無効 電撃・精神に弱い

「そういうことらしいぞい、生憎とこの場に雷様はおらんようじゃがの」
「お、オイラの出番……」

 アナライズをしておくはずだったフロストがショックを受ける。以前はCOMPのソフト
 に取られ、ボルテクス界では他の仲魔に取られ、今回はアイテムを使う狸に解説の
 出番を奪われてしまった。説明役の椅子は競争率が高いのだ。

「ま、まだだホ!オイラにはまだカジャがあるホ!」
 フロストは何やら必死に呪文を唱え、最後にジャンプしながら横に一回転する。
 するとどうだろう、速さそのものは変わっていないにも関わらず、皆の動きが
 軽くなったではないか

「補助をガン積みしていくホ!」
 彼の出番が今日まで腐らなかったのは、ひとえに地道な補助系魔法を習得してきた
 ことにほかならない。
(補助と回復枠は必ず貰い手があるホ!あとはサマナーの好みと自分のコミュ力次第!)

 アイドル業と称してドサ回りと飛び込み(鉄火場)を繰り返してきたフロストには
 他の仲魔との役割競争は問題にならない。

 全く戦闘と関係のないことで一人嫌な汗をかいて体積を微減させた雪だるまをよそに、
 眼前の機械巨人ことオオツキが動き次始める。
「ソウル、マガツヒ、プラズマ、欲しいーーーーーーーーーーーー!」
0076創る名無しに見る名無し
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2014/06/15(日) 23:39:11.24ID:8R9kHGTi
 頭部のモノアイに妖しい光りが灯り、辺り一面をなぎ払う!
 生体MAG抜き(全体)
「オワーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
オニを含めた全員が即死ものの怪光線を避ける!

「なんだアイツ!いきなりとんでもねえことしやがったぞ!」
「落ち着くホ!似たような修羅場ならこれまでいくらでもあったホ!」
「そ、そういえば!」

 鬼は議事堂でのモトとの戦いを思い出していた。
 いきなりマカカジャを前回で溜めた後のメギドラオンの連発で建物内部が大きく
 吹き飛んだ。オニ自身も吹き飛んだ。

 フロストは獲物の欲望の度合いによって力を増す妖狐との戦いを思い出していた。
 はっきりいって無理な気がしたが、今も自分は生きている。

「諦観を織り込みつつ頑張れば良いということだな」
「なんだそうか、いつもどおりだな!」
「お主ら……」
 マミゾウが眉間を押さえる。

「じゃあオレもって、そういや今は剣がないんだった」
「ソードナイトの餞別だってのに……」
 フロストのこめかみ青筋が浮かぶ。

「じゃあどっそい!!」
「うるぃ!?」
 オニが場当たり的に繰り出した体当たりが、やや前かがみでも倍は体格のある器物の
足へと命中し、全身を揺るがせる。

「いいとこ当たったな、次も気合いれるぜ!」
「そのまま、押さえておいて頂戴」
 
 そして最後にパチュリーが動く。開かれた魔道書は紙面から眩い光を放っている。
「目の前の粗大ゴミを、消極的に黙らせるには」
 言葉に答えるかのように、ページが独りでに進む。
0077創る名無しに見る名無し
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2014/06/15(日) 23:39:42.57ID:8R9kHGTi
「…………アクションでもシューティングでもロボットのボスって煩くなるわね」
「パチェ!今そういうのはいいから!」

 レミリアのツッコミにパチュリーは溜め息を吐いた。
「思考停止はしたくないけど、そうね、じゃあ『火符「アグニシャイン」』!」
 魔女の掛け声により、彼女の周りに赤い可憐な花びら状の炎が無数に生まれる。

「ちょ、熱い!熱いホ!」
「機械は熱に対して意外に弱いのはカッパの発明で実験済みよ」
 味方への被害を気にも留めずにパチュリーは魔法を放つ。炎が次々とオオツキに着弾!

「アツぅイ!アツイーーー!」
 オオツキは炎を拳で払い、ときにレーザーで対抗するが、鈍重な体では殆ど効果がない。
「考えてみれば、元々頭がおかしいんだから、これいじょう機能が低下することは
 なかったわね……」

「パチェ!」
 レミリアの叱責!パチュリーは肩を竦めた。急かされたことが原因とでも言いたげだ。
「しかし当然といえば当然だけど、全然応えてないわね」
「タフネス相手のコツは死ぬまで止めないことだホ!気にせず攻めるホ!」

フロストの指示に少女社長は頷く。元よりそのつもりだった。
「まさに削り作業ね、うんざりするわ」
そしてまた弾幕を放つ、今度はコウモリを模したようなどこか可愛らしい弾幕だ。

しかし当たった箇所からは強く鉄を殴るような音がするので、外見し可愛くないこと
が分かる。

それを無数に浴びせかけてオオツキの体を打ち続ける。
その光景を見てオニは感心した。幻想郷に来て日の浅い彼だが、それでも少女たちの
弾幕決闘の光景を何度か目撃している。

至近距離の撃ち合い、泥臭い殴り合い、女性特有の攻撃性、上位の参加者になるほど肝が
据わってくることは知っていたが、この場においてもレミリアが一切恐れを抱いていない。
非常に戦い慣れていることが見て取れた。
0078創る名無しに見る名無し
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2014/06/29(日) 23:53:24.99ID:BSea9PNa
「ほらほらこっちよ!Hey-Hey-Hey!」
 挑発しながらオオツキの裏に回り込み弾幕を浴びせる。直線的で速い球が多いが、
 時に大玉も交えて緩急を付けている。

「うぎぎぎぎぎ〜〜〜〜!」
 怒りに任せて鋼の腕が伸びる。しかしレミリアにして見れば、もしかしたら幻想郷の
女の子全員かもしれないが、見てから逃げられるほどに速度に差がある。

加えて空も飛べるので上下の移動だけでも追う方のオオツキは大勢をいちいち
変えなければならず、完全に翻弄されていた。そして。

「ヴォウ!」
 巨体の目の前で猛然と炎が上がる。足元のケルベロスの放つ地獄の業火が、
 視界を埋め尽くして目標を見失わせる。

「どれ、ここはひとつ、こいつを使ってみるとするかの」
 懐から取り出したアイテムをマミゾウが投げる。それはオオツキに当たると粉々に
砕け散る。とくに外見上の変化は見られないが、フロストが驚きの声を上げる。

「デカジャストーンって、そんなんどっから持ってきたんだホ……」
 デカジャとは相手の能力上昇系のスキルを無効にする魔法であり、デカジャストーンは
 その力が宿った魔石である。

「企業秘密じゃ」
 魔獣は胸元から扇子を取り出して優雅に仰いだ。表面には「勢力拡大」、
裏には「日々之精進」の文字。

(あれ、オイラもしかしてこのおばちゃんとの相性最悪?)
そんなふうなことを考えながらフロストはまたもスクカジャをかける。
相手が全体即死を使える上に長期戦が必至となればこれが最善と考えてのことだ。

「ぐぬ、ぐ、ぐぬぬぬぬ!お、おのレ。冷静に状況を分析すれば、貴様らが
わたしに勝てる科学的な根拠はひとつもないのだ!」
頭に血が上り切ったオオツキが苛立たしげに言う。しかし口調は今までと違い、
格段に知能が上がっている。
0079創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/06/29(日) 23:54:30.58ID:BSea9PNa
「コロス、コッロース、クウ!」
「黙れ、薄汚い悪魔めが!出ていけ、私の中から!」
「ウイ!?ヤ、ヤメ、オワワワワワワワ――――!」

「なんだ、何が起こってる!」
足にしがみ付いていたオニは、急に暴れ出した機体に危険を察知して離れた。
直後、盛大に爆発起きる。

―邪霊蜂起―
機体の頭部から足元に向けて、汚い黄色の人魂が大量に吐き出された。
その内のいくつかが爆発し、幾つか、否、六匹の人魂が残った。
人魂の中心にはしょっぱい醤油顔が浮かんでいる。

「ア、アレ?アレアレ?ナンデ」
「貴様はもう用済みだ!この場で他の連中諸共に始末してくれる。そして私は
 魔界へ帰り、憎きあ奴らを今度こそ科学的に抹殺してやるのだ!」

「どうやら、あの機械に取り付いていた悪霊同士で仲間割れが起きたみたいね」
 冷静に見たままを述べるのはパチュリーだ。気が付けば魔道書の頁が変わっている。

「グレムリンか、それとも誰かの式神なのか。とにかくあれだけ大きなマシンを
 一つの霊で動かせるわけはないと思っていたけど、相性が悪かったみたいね」
(実際に1人分の霊で動かしてたんだけど、余計なことは言わないでおくホ)

「ウォレ、ウォマエヲ、拾って、ヤッタ、ノニ・・・」
 黄色い人魂は悲しそうに呟いたが、見上げた先の巨人は無慈悲に言い放った。

「貴様なぞ、動力となるマグネタイトの代替エネルギーの集積装置に過ぎん!
 そのための回路も既に別のプログラムにより構築済だ、この科学的根拠により
 お前はもう必要ない!あとはお前をエネルギーに変換して吸収してくれるわ!
 この絞りカスめが!」

「チ、チックショォォォォォォォォォォッッッ!!」
「げ、外道だホ」
 図書館内での戦闘は新たな局面を迎えた。しかしその光景を異次元の向こうから
 観察する不穏な影があることを、この場の誰も、知る由もなかった。
0080創る名無しに見る名無し
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2014/06/29(日) 23:55:07.60ID:BSea9PNa
場所 ―???− 

上も下も、右も左もない。光さえ差し込まぬ闇の空間に、三人の人物、
少なくとも見かけだけは、は紅魔館の戦いを見ていた。

「アレが、そうなのですか?」
問いかけるのは、導師の服にフリルを備え付けた和様、というよりも
中様折衷といった格好をした、金髪の少女。名は八雲紫。

幻想郷の創始者の一人に名を連ねる大妖怪であり、同時に幻想郷の管理を担う
一角でもあった。その大妖怪は今、己よりも遥かに各上の、神とも悪魔とも
つかぬ存在と対峙していた。

「ええ。アレはアマラの外に弾き出された者達のなれの果て。それが此度のうねりに
飲まれてここへ流れ着いた。もっとも、あのようなことになることは稀ですが」

 喪服に身を包んだ老婆が眼下の機械巨人を見ながら、つまらなそうに言う。
 その隣にいる、同じく礼服に身を包んだ少年、のようなものは、老婆の袖を
 引っ張った。

「…………」
 耳打ちした声がどんなものか、それはありとあらゆる手段を尽くしても分からない。
「左様でございますか」
 老婆が頷く。恐らくこの老婆も、少年のようなこの存在の一部に過ぎないのだろう。
 紫はそう感じた。

「畏れ多くも坊ちゃまはこの者達でもよいと仰せです」
変わらぬ語調で老婆が告げる。隣にいる少年は、彼らの足元に開いた「隙間」
から見える景色を覗き込むばかりだ。

「当事者であり、くだらぬ人間に卑しくもしがみ付く悪魔達こそが、この問題を
 解決するに相応しいと考えておいでです」
顔を隠す薄布の向こうに、本当に顔があるのかさえ疑わしい、老婆の言葉は一つ
一つが警戒心と不快感を煽る。

紫は問い質す意味で、もう一度、彼らから聞かされた危難を繰り返した。
0081創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/06/29(日) 23:55:37.35ID:BSea9PNa
「疑う訳ではないのですが、本当に、世界から悪魔や妖怪が消滅すると……?」
 いざ自分で口にしてみると、あまりにも荒唐無稽だ。胡散臭いすぎる。
現代に生きる人間ならば『今』がまさにそうであり、逆に悪魔達と接点のある
存在からすれば、規模が大きすぎる。

 質問の意図をどのように受け取ったのか、少年はそこで顔を上げる。
 紫のほうを見ているが、瞳には彼女の姿は映っていない。恐らく、この場にいる
 誰もがお互いにそうだろう。

「そう」
 今度は確かに聞こえた。その声は子どもの声だった。
「誰とも出会わなくなって、人間の傍から、神も、悪魔も、その時間の中に
 あった、全ての時間が消えていく」
 それだけを告げて、少年はまた紅魔館の観戦へと戻る。

「事の発端は、ある一人の科学者でした」
 老婆が説明を引き継ぐ。
「その男は異端、天才と言われるほどの才があり、術師としての能力もありました」
 紫は少年に倣い、知人の様子を見ながらしかし、耳から入る情報に全神経を傾けた。

「それだけならばどこにでも居る、取るに足らないヒトですが、この男は群を抜いて
 異質でした。多くのヒトが悪魔を科学で否定し、遠ざけることとは逆に、科学的な
見地から悪魔への干渉を可能にし、そこからより貪欲に知識を求めたのです、
善と悪のコトワリ、ガイアとミロク、神と悪魔、光と闇、それぞれの本質を知りながら、
何にも頓着することなく」

 抑揚の乏しい淡々とした言葉が、紫には不思議と、どこかしら怒りを滲ませている
 ように思えた。気のせいか、確かめるつもりはない。

「そして、件の刻が訪れたのです。男は知る作業を終えると何を目的としたのか、
それまでに得たアマラの御仕方、悪魔の知識、魔術の数々と科学の力を用いて
悪魔の抹消を始めたのです。先ほども坊ちゃまが仰ったとおり、ヒトと悪魔の接点を
消すという形で」
 
「接点とは?」
 視線を老婆の首筋のあたりで止めてから、少女が聞いた
0082創る名無しに見る名無し
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2014/06/29(日) 23:56:21.37ID:BSea9PNa
「これまでにも、ヒトと悪魔の接点は腐るほどありましたが、この男はその中でも、
 後世に繋がる接点を消すように手を打ったのです。例えば……」
 そこで一度言葉が途切れて、老婆は皺だらけの手を広げて、指折り数え始めた。

悪魔が、ある一人の少年の親を食い殺さなかったり
またはある子どもがいじめられず、裕福な幼年時代を過ごしたり
ある技術者が先住民達のソウルが鎮護していた存在に接触しなかったり
あるいはミロクとガイアの男女が人類に絶望せずに済んだり
はたまた、ある男が仲間と共に悪魔の囁きに耳を貸さずに外へ出なかったり
一人の青年が、友人たちの夢を見なかったり……

「ヒトが悪魔を求める、または己自身が悪魔となる。斯様な出来事の中でも
 特に大きな事柄は後にも先にも大きな流れを創り出しているものです。しかし、
 その起こりはいずれも些末なもの。故にヒトと悪魔が触れ合うことを阻止すれば、
 自ずと人間の傍から悪魔達は消えていくのです」

「しかし、それならば何故彼らは幻想郷に?」
 質問を投げかける紫の下で、オニがオオツキに鷲掴みにされているところだった。
 オニは必死になって自分の召喚と維持にかかるマグネタイトの量を正直に申告した。
 オオツキはその少なさに対し不快感も露わに彼を壁へと叩きつける。

「ここもまた異端なのです。隠れ里でありながら、人を囲っている。本来ならば、
 接点が消された過去、未来の中の悪魔達はその存在を失い、すぐにでも消えて
 おかしくはないのです。しかし、外の世界で幻想となったモノが流れ着くという
 この幻想郷は、偶然にもクッションの役目を果たしたのです」
老婆が頷いた。基本的に険のある言い方をする相手だが、今は角が立っていない。

「消滅の一歩手前、存在しなくなった世界は空想や妄想、幻想となります。
そして幻想となった悪魔達の何割かは、この幻想郷へ来るのでしょう。……ですが
それも一時しのぎ、この小さな場所では到底全てを納めることなど不可能です。
ここに悪魔達が来ている間に、アマラの因果を正さねばなりません。
それが出来なければそのときは、この幻想郷諸共、全ての悪魔がこの世界から
消えることになるでしょう」

老婆の説明はそこで終わった。紫は無表情に、袖で自分の口元を覆い隠した。
その少しの間、隠された彼女の唇は、堪え難い強い怒りに小さく震えていた。
0083創る名無しに見る名無し
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2014/07/06(日) 23:33:12.96ID:Xb6Lk9xN
八雲紫は幻想郷の創造に携わる一人であり、そして今は管理者である。
八雲紫の幻想郷愛は偏執狂染みたものが有り、幻想郷に固執する一方で、
その中に暮らす者達のことは割とどうでもいいという極端な温度差がある。

砕けた言い方をするなら、彼女の執着は自分の開発したプラットフォームを溺愛する
サーバー管理者のソレであり、故に現状を脅かす異物やウイルス的な存在に対しては
いつも割と容赦のない制裁を加えてきた。
それ程までに拘る世界に今、本人が絶対に受け入れられない事態が差し迫っている。

「それで、私はどうすればよろしいのでしょう」
 紫は平生そのものといった声で先を促した。突如現れた大きすぎる存在が
頭ごなしに自分を使おうとしている。それは気に入らないことではあったが、
言い換えればそれは、こちらを気にも留めなかった雲上人が、慌てて
飛びつかなければならないような、重大な案件が発生したことを意味している。

裏もあるだろうが、今日、正確にはこの場が『今日』であるかは甚だ疑問だが、
自分の前に現れ、ろくに前置きもなしに用件を切り出してきたことから、
猶予がないことだけは間違いなさそうだった。つまり、少なくとも、
異変の内容だけは真実。

「幻想となった悪魔達は、元の世界で人間達と強い絆を築いた者達です。彼らを
導き、アマラの因果を正せば、この異変は解決できるでしょう」

「……つまり?」
 紫は敢えて明確な答えを求めた。ある程度予想はついたが、指示という形で
 言質をとっておきたかったのだ。妖にとって口約束ほど重たいものはないからだ。

「幻想郷に来る悪魔達を連れて、彼らの仲間である人間に会うんだ。そうすれば、
 あとは相手のほうからやってくる」
意外にも答えたのは少年のほうだった。闇の中でさえ良く見える、死人とはまた違った
白い顔と瞳が、いつの間にか紫へと注がれている。

「それができるのは、君だけだ」
 無表情には変わりないが、天恵の如き力強さが、その言葉にはあった。
 八雲紫の能力、『境界を操る程度の能力』という力。二つの事象の間を弄る能力で
 悪魔達を幻想ではなく、現実の存在へと変えて目的の人間と会え、ということか。
0084創る名無しに見る名無し
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2014/07/06(日) 23:33:43.95ID:Xb6Lk9xN
「できますでしょうか?」
 自分が、ではない。このどことも知れぬ空間から覗いている紅魔館の戦い、
 そこで駆け回る悪魔達が、である。

「……どちらにせよ、それを拒むことはできないでしょうね」
 老婆ではない。気が付けば、そこには老婆と同じ喪服を着た、妙齢の淑女が佇んでいる。
 その隣には、子どもではなく、子どもが年老いたかのような、車椅子に座る老人がいた。
 手にはステッキを握っており、白いスーツが抜群の白々しさを演出する。

「ここのルールに則って言わせてもらうのならば……」
 老人は手にしたステッキを握り直し、静かに目を伏せた。


―幻想郷はすべてを受け入れるのだから―


不意に、紫が用意した空間が光によって埋め尽くされ、破裂した。
後に残っているのは紫だけだ。周りには畳み敷きの広々とした居間、
彼女の家の中の景色が広がっていた。

「冬眠前だっていうのに、不味いことになったものね……」
 紫は忌々しげに呟くと、その場に立ち上がり従者の名を呼んだ。
八雲藍は狐の妖怪で「天狐」の位置に当たる大妖怪でもある。

「藍!来て頂戴!今回は真面目な話があるわ!」
 しかし誰も来ない。おかしい。まだ日も高いから買い出しには行っていないはず。

「藍!藍!いないの?」
 不審に思い彼女は台所へ行くと、流し台の傍に一枚の書置きを見つける。
 そこにはこう書いてあった。

『橙と一緒に予防接種を受けてきます。帰りは遅くなるかもしれません。
 ごはんは作っておきましたので先に食べていてください。藍より』
「………………………………………………………………………………………………」

 八雲紫は、虚空に隙間を開くと、何も言わずにそのまま飛び込んだ。
0085創る名無しに見る名無し
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2014/07/20(日) 23:08:59.32ID:DHqP5B83
一方その頃、紅魔館の戦いは既に14ターン目を迎えようとしていた。
依然としてオオツキは健在だったが度重なる攻撃により装甲の端々が割れ、
黒煙が上がり、露出したケーブルからは火花を散っている。

 対してフロスト達の陣営は全くの健在。オニが何度か殴られたがそれでも大した
 ダメージを受けていない。
「けっこう弱ってきたじゃないの」
 無数に飛び交う蝙蝠が一つに姿へと集約する。レミリアだ。ここまでかすり傷一つない。

「泥仕合は負けパターンの一つだホ。最初から勝ち確のペースを保てないと、ボス戦と
いう名の長期戦は乗り越えられないホ!」
「そうね、後は奥の手とか悪あがきに注意しておかないと」
 フロストの言葉にパチュリーが付け足す。意外にもこの少女、動作自体は緩慢なのだが
 妙に回避力が高い。彼女は運と知力が相当高いのだろうとフロストは思った。

 ここまでの戦いは一方的であった。補助魔法をひたすらかけ続けたことで、
オオツキは攻撃をあてられず、物理主体であったために効果的な対策も打てなかった。
加えて。

「うぅ〜るるるるるるるるぃぃぃぃ〜〜!」
 黄色い人魂、外道スペクターという、が猛烈な勢いで襲い掛かっているのだ。
 怒りに駆られた彼はどこからともなく分身のようなものを呼び出すと、それを
 次々に特攻、自爆させるという一人弾幕を繰り出す。

 現状で一番火力が高く対処も難しい。オオツキに取り込まれていたときに
 これを使われていたらひとたまりもなかっただろう。
 オオツキもダメージの脅威への優先順位からか、はたまたよほどスペクターが
 気に入らないのか、攻撃をスペクターに集中しつづけた。

 皆が蚊帳の外へ追いやられたものの、それでもこの鉄巨人を倒すことには変わりが
 ないので好都合ではあったが。

「しかし、派手にやらかしたもんじゃのう」
 マミゾウが周囲を見渡して呟く。巨体が暴れ、爆発が起き、弾幕が飛び交った
 図書館内の光景は悲惨であった。倒壊した本棚と散乱した書物、敗れた敷物に
 砕け散った床。破損した箇所はいずれも黒焦げである。
0086創る名無しに見る名無し
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2014/07/20(日) 23:10:13.08ID:DHqP5B83
「まあ、盗みに入られるよりはずっとマシだけど」
「いいのか……?」
 オニが不可解そうに首を捻る。オオツキからの攻撃で唯一直撃を受けているのだが、
 随分と余裕がある。単純に物理に関しては打たれ強いのだ。

「畳み掛けるわよ!」
 レミリアの号令に再開する戦闘。彼女はケルベロスに跨り巨人の足元へと
疾駆する。そして手にした紅槍と魔獣の爪とで同時に深く切り裂いた。

『ィ良し!』
 会心の手応えに声を唱和させる二匹の悪魔。その獰猛な笑みが向けられた先、
鋼の脚部がぐらつき、オオツキが片膝をついた。

「次に送るぞい」
「アメちゃんおいしいホ」
 マミゾウが行動を見合わせフロストが魔力を回復させるために帽子から飴を出して
 食べる。チャクラドロップというこの不思議な飴は、悪魔の交渉に使われるくらいには
 重要な品である。

「お、おのれ……!この私が追いつめられる科学的根拠など……!」
 割れたアイカメラで睨みつけながらオオツキが呻く。
「この私が敗北する科学的根拠など、どこにも無いのだあぁーーーーー!」
オオツキ突撃してきたスペクター一体を踏み潰して立ち上がり、猛然と走り出す。

「悪あがき、くるわよ!」
 魔法使いの忠告とほぼ同時、巨体が連続で行動を繰り出した。

「戦闘プログラム 読ミ込ミ開始」 アイコンが4つ増える!

「ファースト・リード メギドラ」

「セカンド・リード メギドラ」

「ラスト・リード メギドラ」

『デジャビュ!』
0087創る名無しに見る名無し
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2014/07/20(日) 23:11:36.16ID:DHqP5B83
不吉な文言の繰り返しを受けてフロストとケルベロスとオニが悲鳴を上げる。
「全体大魔法“3回”!」
 フロストが今までにないほど危機感を表す。空気が張り詰め、全員に緊張が走る。

「セット完了・・・起動エリア確保・・・目標 全員 実行する!」
『おわああああああああああああああああ!!』

 瞬間、図書館内がくまなく閃光に包まれた。本棚が消し飛び、炎でもない熱、空気では
無い圧力により全員が吹き飛ばされ、否、吹き飛ばされない!

「あれ?」
「紅符 不夜城レッド!」
「霊撃 ファイブシーズン!」
 
パチュリーとレミリアがカードを翳し、記されたスペルを宣言すると
空中に鮮血のように紅い光の柱と、重なり合う五つの色とりどりの輪が出現し、
迫りくる白い魔力の奔流を迎え撃つ。

「あぶね!」
 それでも相殺しきれなかった分を、フロスト達は当たる直前で回避した。

「レミィのボムは持続が短いから、格闘用のほうを持ってきなさいよ」
「わ、悪かったわね、そっちだって余計なショットが三つもあるくせに!」
「むきゅ!」

 第一波を逃れたことで緊張が解けたのか、二人の少女が軽口をたたき合う。
「おばちゃんはないのかホ?」
「一応自機にはなったんじゃがのう……よよよ」
「気を抜くな!また来るぞ!」

ケルベロスの警告に一同が振り向けば、オオツキの姿は未だそこにある。
「戦闘プログラム 読ミ込ミ開始」 アイコンが4つ増える!
「おいお前今なんつった」
 不吉な予感にオニがぼう然と呟く。
0088創る名無しに見る名無し
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2014/07/20(日) 23:12:19.98ID:DHqP5B83
「ファースト・リード メギドラ」

「セカンド・リード メギドラ」

「ラスト・リード メギドラ」

『デジャビュ!』

今度は全員が叫んだ。
0089創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:19:26.02ID:s0fiZVym
「どうするよ!?」
「もうさっきのヤツないのかホ!?」
 焦る二人に対して、先ほどボムを放った二人も浮かない顔をしている。

「実はさっきのが最後の一枚よ」
「この前の異変のときに咲夜の分のボムを新調するのをケチって余ってた分を渡したのがこんなかたちで裏目に出るなんて」
「それ裏目っていうんじゃなくて自業自得ってんだホー」
 
 レミリアはこの一件で経費削減の皺寄せを防犯に回してはいけないことを学んだ。それを横目にマミゾウがずいと前に出る。
「フム、仕方がないのう。今度はわしがとっておきを見せてやろう」

 敢えて待機していた魔獣が眼鏡を指でくいっと上げる。そして何故か眼鏡が光る。
「おばちゃん! でもさっきはボムないって」
「おねえさんじゃ! もうおぬしだけ庇わんからな!」
「ごめんなさいホ! おねえさん大好きだホ!」

 フロストが瞬間的に大地に這いつくばったのを見てマミゾウが満足げに頷く。
「もしものときは、我が守ろう」
「嬉しいのうお前様……安心おしよ」

 ケルベロスの献身的な言葉に大狸の顔が少女のように華やぐ。
 放っておけば荒れて燃え始めたこの図書館でラブロマンスの一つも始めそうな雰囲気だ。
「なんかよく分からないけど、できるのね?」

 パチュリーの問いに彼女は頷く。その姿が他の少女たちの中でも一際大きく見えるのは、何も着物のせいばかりではないだろう。
「無論じゃ。さあお時間も一杯のようじゃし、皆々様よご覧じろ!」
 そう言うや否や、マミゾウは懐に手を突っ込むと勢いよく何かを上へと放り投げた。

「なんだ、葉っぱ!?」
 オニの見上げた先には無数の木の葉が舞い踊っている。マミゾウは手を休めることなく
 更に木の葉を投げ続けている。

「セット完了・・・起動エリア確保・・・目標 全員 実行する!」
0090創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:20:13.06ID:s0fiZVym
オオツキの二度目の処刑宣言の直前に、空を飛び交う木の葉に変化が起きる。
「いざ来ませい!これぞ奥の手!とくとご照覧あれ!」
 口元に右手を添え、左手で宙に印を刻んでいく。
「大勝負!『二ッ岩大増殖!』」
 
 掛け声と共に空中へ撒かれた木の葉が一斉に小爆発を起こし、煙に包まれる。そして
 次の瞬間、煙の中から躍り出たのは……

「分身の術か!」
 驚き役のオニの言うとおり。現れたのは無数の小さな二ッ岩マミゾウである。
「そうれ全員、尻尾をまわせーーい!」
 分身と本体のマミゾウがメギドラに背を向けて同時に尻尾を左右に振る。

「あれは、フリフリウォール!」
「あれ、あんな技だったっけ、確か前は……」
「ホー!」
「グワー!」
 余計なことを言おうとしたオニにフロストが制裁を加える。

光が接触し、あわやマミゾウの背はかちかち山めいて燃えてしまうのではと
危ぶまれたがしかし、放たれた万能魔法は数多の尻尾に弾かれて、来た道を戻って
いくではないか。

「なにこれ、どうなっているの……!」
「反射、しかも撥ね帰した魔法が次の魔法を相殺せずに素通りしていく、見た目に反して
 かなり高度な妖術よアレ……!」
 瞠目するレミリアに驚愕するパチュリー。

「な!?」
 そしてそれ以上にショックを受けているのは他でもないオオツキだ。
 続けざまに己が科学的に放った魔法を3連続で直に受けることになったのだ。

「おぐ、ば、ばか、な……こ、こんな……こんな……ことが……」
 これまでいくら攻撃しても目立った損傷を見せなかった装甲が、見る見るうちに
 すり減り、溶け、砕け散っていく。やがてオオツキは膝をつき、巨体が崩れ落ちる。
「おのれ……この、わたしが、貴様らごときに、負けるなど……そんな」
0091創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:21:01.44ID:s0fiZVym
「そんな、科学的根拠は……ない、はずだ……ま、魔人皇……さま……」
 最後に拳を振り上げようとして、そこでオオツキは完全に沈黙した。
 アイカメラの光は失せ、ヒューズも完全に飛んだようだった。そして

「ひょーっほっほっほっほ!ざまみろ!ざまあみろ!うひっ!うひほ!うひゃー
 はっはっはっはっは。にょほほほほほ!!」
 力尽きたオオツキの足元で、自分を追い出した相手の最後を見たスペクターが
 調子に乗ってウロチョロしている。

 足に何度も体当たりを繰り返す。

「……なんじゃ、その、折角格好よくキメようとしとったんじゃがのう」
 いつの間にか淡路島が描かれた扇子を広げていたマミゾウはがっくりと肩を落とした。
「生きてるだけで丸儲けってことにしとくホ」

 フロストが慰めていると、不意にオオツキの体から火花が盛大に出始めた。
「お約束としては爆発オチよね……」
「ちょっとここ私のうちなんだけど……」
 パチュリーの呟きにレミリアが眉間を抑える。

「とりあえず一旦非難だ非難!」
 オニが指示を出し、皆入口付近まで退避した、が、スペクターだけがいつまでも
 オオツキの足を攻撃し続けている。
「オイ!何やってんだ!オマエもこっちこい!」

「うるい!うるるい!どうだ!ざまみろ!どうだ!ざまみろ!むひょひょ!」
「完全に意識が向こうにいっちゃってるホ」
 スペクターがなおも攻撃を続けていると、やがてオオツキの首のあたりから
 火花が散り、赤い煙のような、名状し難いエネルギーが漏れ出ていく。

「うるい!うるい!どうだ!ざまみろ!どうだ!ざまみろ……うい?」
 そこでようやく異変に気付いたのか、黄色い人魂が上を見る。フロストとオニは
 そこに既視感を覚えた、どこかで見た構図だ。そこで示し合わせたかのように
爆発が起きた。丁度巨人の首の部分だった。

「あ!」
0092創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:21:38.00ID:s0fiZVym
「うい?」
 誰かの声が上がり、オオツキの首が吹き飛び、でかい顔が足元に落ちる。
 足元に落ちたでかい顔が、黄色い汚らしい人魂を下敷きにして、飛沫が辺りに
 飛び散った。

『…………………………』
 しばらくの間、誰も口を開かなかった。この闖入者達は、今日突然この図書館に
 姿を現したと思ったら、さんざん暴れた後、その運命を終えた。何一つ明らかに
 しないうちに。

「レミイ、あなた分かってたんじゃないの?」
「いや、ここで終わりにするつもりだったけど、まさかこんなふうになるとは」
 運命を操る程度の能力を持つ赤い悪魔が後頭部をかく。

「あーあー、これで大ピンチになってたらオイラも奥の手使ってたのにホー」
 戦いの終わりを確認し、フロストがため息をついた。
「しっかし、あいつら結局なんだったんだろうな」
 オニも首を傾げる。自分達から首を突っ込んでいくと、物事はある程度分かるものだが
巻き込まれただけだと何も内容が把握できず、不安になる。きっと主人公ってこういう
気持ちなのだろうと彼は思った。

「まあ、ともあれ、こうしていても仕方ない。まずは片付けをしようか。レミリア殿、
 逃げた娘たちを呼んでくれぬか」
「そうね、本当ひどい散らかりようだわ。これじゃいつもと変わってないみたいじゃない」
「失礼ね。本が随分と失われてしまったじゃないの。大して価値のあるものじゃないけど」
 
 図書館内の照明は割れ、床は砕け、本棚も倒れ、散乱していた本は燃え尽きていた。
 しかし、巨大ロボットとの戦闘が終わったばかりにも関わらず、全員は既に平静を
取り戻していた。レミリアが部屋を出ていき、パチュリーが被害を確かめるべく奥へと
飛んで行った。後に残されたフロスト達はそれぞれにまた話し始める。

「それにしてもマミゾウ殿、おみごとでしたな」
「いやあなになに、単に最後で出番が回ってきただけのこと。大したことは何も
 しとらんよ」
 マミゾウが手を伸ばすと、ケルベロスが頭を差し出す。小さな手が白い毛並を
 ゆっくりと撫でる。それなりの信頼関係が結べたようでマミゾウは嬉しそうだ。
0093創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:22:43.20ID:s0fiZVym
「これでまだ伸び白があるんだから凄いというか勿体ないというか」
 聖獣、いや神獣ほどの格は有しているように見えるが、神格持ちの狸はあまりに稀少だ。彼でもそらでいえるほど少なく、そして有名である。
 そんな大妖怪がこんな一介の鬼と妖精の凸凹コンビの旅に付き合っているとも思えない。
 オニが腕を組み、まじまじとマミゾウを見つめた。

「え、そうかの?自分ではもうけっこういい歳だし、けっこう極まってると思うんじゃが」
「とりあえず4レベル分くらいあげたらいいホ。そしたらきっとフィーバーできるホ」
 フロストは昔の知り合いを思い出していた。クラブで燻っていたが一緒に旅をする
 うちに力を増し、良くも悪くも豹変した彼女は最後にはトンネル堀りに精を出して
 満足して昇天した。

「マミゾウ殿からはオスの匂いがほとんどせぬ。人に化けるのにやむを得ないのかも
 知れないが、牡を誑かして力を得られるのは女妖怪の特権だ。それをせんで
 力を増さないのはあまりも惜しいぞ」

「い、いや、そ、それはそのう、そう!わしが小さい頃はそれも下手での!先に腕っぷし
と頭を鍛えていたら今度はわしより強い牡がおらぬようになっていての、それで機会
がなくなってしもうたという訳じゃ!いやー残念残念!」

 何故かマミゾウは顔を赤らめ手をばたばたと振る。男の子の悪魔3匹は力への上昇志向
 もそこそこ高く、それだけに割かし真面目にマミゾウを憐み心配した。彼女の誤算は
 そんな恥じらいも何もない彼らの親切心だったと言わざる得ない。

「魔獣の精集めって人間じゃないといけないんだっけ?」
「別にそんなことないホ。あーゆーのは要するに格下が格上のを集めることに意味が
 あるんだホ。猫や蝙蝠が人間のを集めるという、つまり大物食いだホね」
「そうじゃろ!つまりわしくらい力をつけてしまうともう相手探しが難しうてな!
 いうなればあれは弱い妖怪が力を付けるための手段なんじゃよ!」

 そこでフロストがおもむろに旧い携帯電話のような物体を帽子から取り出した。
 それは三面鏡のように開き、キーボードとディスプレイを形成する。COMPだった。
 電源を入れて立ち上がった画面は一般のパソコン同様で、画面にはいくつもの
アイコンがあるが、その中のフォルダファイルの一つをクリックする。
『獣系悪魔全書』と書かれているそれを開くと中には聖獣や魔獣、神獣の名と
写真の添付データが入っていた。
0094創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:23:11.12ID:s0fiZVym
「こんなこともあろうかと作っておいてよかったホ」
「な、なんじゃそれは!」
 マミゾウが仰天する。物体の素性を問うているのではない。何故そんなことを
 するのかという批難である。

「パソコンだほ。ネット繋がんないけど保管してるファイルくらい見られるホ。
 えーと、マミゾウばあちゃんがアナライズしたときレベルが49だったから……」
「魔獣にしちゃかなり高いな」
 
 フロストが慣れた手つきでコンソールを触りキーを叩く。ファイルの並びをレベル順
 で整理し直すと、同じ名前の魔物の中でも上下があることが一目でわかる。

「お、こいつなんか良さげじゃねえか。44レベルのライジュウ」
「うむ、マミゾウ殿のほうが上だが力を吸えるだろう、ダークなのが気になるところだが」
「満月なら誰だって一緒だホ」

 三匹が頬をくっつけて画面を食い入るように見つめている。これでは悪魔ではなく
 単なる見合い婆である。マミゾウも好奇心からかしっかりとみている。

「ま、まあわしは化けられるから一応人型でも大丈夫じゃが、やはり、そのう」
「分かってるホ、オイラそういうとこちゃんとわかるホ。誰だって自分とこの
 種族のほうが勝手が分かって安心するってのはあるホ。だからまずここから」
「い、いやそういうことでは……」
 
 最後の蚊の鳴くような呟きは誰の耳にも届かない。外からレミリアがメイド妖精を
率いて帰ってきた。テキパキと指示を出すとこちらによって来て混ざる。

「なにをしているの?」
「見合い相手の検索」
「詳しく」
「あう〜」
 
 その後聖獣や神獣の項目を見ていく。オニが神獣の項目に目を留めた。
「お、こいついいじゃん、スレイプニル」
「却下だホ」
「え、なんで?」
0095創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:23:48.26ID:s0fiZVym
「お前ちょっと常識で考えろ……」
 ケルベロスがディスペアーっぽい目でオニを見る。彼らはひとまず部屋の片隅へと移動
 していた。視界の端で妖精メイドたちが辺りの破片やらゴミとなった紙を掃除を始める。

「馬並とはいうが本当に馬のをいれるのはのう……」
 マミゾウが顔を赤らめる。
「あ、そうか!」「ホー!」「グワー!」 いつものやりとりが発生。
「お前そんなんだから大正時代まで童貞だったんだホ!」
「いいだろ、別にそこは!」
 
 しかもそれが道を通せんぼしていた際に探偵のサマナーが連れていた悪魔に誘惑を
 して頂いたというのだから鬼としてはなんとも情けない。

「神獣や聖獣のレベルが低いのってなんか変ね」
「武闘派じゃない、恵みを与える、真っ当な神様は暴力控えめだから、力が信仰心一本に
 なりがちなんだホ。その分外れの要素は少ないからいつも人気だホね」

「お、このレベル51のヌエとか」
「すまんが知り合いにヌエの娘がいるのでちょっと」
「京都生まれだから性格もアレだし人間関係が潰れるから駄目だホ。そんな奴紹介できないホ。おいらにもメンツがあるホ」

 などと紛糾しながら見ていた名簿を皆で見ていたのだが、次第にマミゾウ自身も
 乗り気になってきたのか、自分から細かい条件やセッティングの注文をつけるように
 なってきた。

「まず、さっきのライジュウじゃろ。次にこのシーサーを頼む。このマカミも、
 まあ念のため。イナバノシロウサギも試してみようかのう。ヤツフサさんちも
 出とるのか!これはご挨拶せんとのう」
 
半ば自棄のようになりながら、マミゾウは次々に目ぼしい獣に唾をつけていく。
「相手にも都合があるけど、一応おばちゃんの写メとっとくホ」
 フロストが高校生の使いそうな携帯電話でマミゾウを撮る。

「皮算用にならねばいいのう」
 どこか浮ついたような様子でマミゾウが言う。実を言うと相手がいないという
0096創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:24:13.61ID:s0fiZVym
部分は本当だったので、これはこれで好都合であったのだ。
 (他人の縁談をまとめることはあっても自分のほうを疎かにしておったからのう。
 その手の武勇伝をせびられるとツライものがあったもんじゃが)

「今まではあくまで商いとしての一家じゃったが、自分の血筋を分けてみるのも面白い
 かもしれんのう」
 恥じらいがあるという言葉がどこへ行ったのか、オニはマミゾウに大正時代の
無頼漢気取りだった自分に似たものを感じた。

「あとは電波の届くところにいって呼びつけるだけだホ。サブイベントの準備をするホ」
 一方でフロストの頭には『マーミースタリオン』というタイトルが浮かんだ。
「いやー良かった良かった」
そんな三者の考えなどまるで気付かずケルベロスは安どの表情を浮かべた。

「どうやら話しはまとまったようね」
「……なんの話しよ」
 戻ってきたパチュリーが遅まきに会話に加わってきた。
「何って、このお客人の縁談の段取りがよ」

 言われて魔法使いの少女がマミゾウを見る。ばつがわるそうにしており、
 羞恥に頬は染まっているが、最早引っ込みがつかないようだ。それから
 ケルベロスを見る。そして指をさしながら

「…………この子じゃダメなわけ?」
 と言い放った。
『!?』
 マミゾウ、オニ、フロストに衝撃と電流と冷や汗が走る。

(よし!よく言った!よくぞ言ってくれた小娘!)
(こ、こいつ!よりにもよって一番薦めにくい知人をあっさりと!この空気の読めなさ!
魔女!魔女めが!)
(この話しの終わりに、さもついでの態を装ってケルベロスを押す作戦が、この馬鹿と
一緒にここまで築いてきた流れが!どうする!?どうするホ!?)
 
 別々に慌て、焦りながらしかし一歩も動けない、真空地帯を生み出す一撃に
 真っ先に持ち直したのは誰有ろう二ッ岩マミゾウである。
0097創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:25:10.96ID:s0fiZVym
「ざ、残念じゃが、ケルベロス殿は雌じゃろ?その、わしも決して嫌ではないのじゃが
 こればっかりは……」
「オスよ、その子」
「え?」
 
 横から上がるレミリアの声にマミゾウの目が丸くなる。ここで彼女の思考そろそろ
 いっぱいいっぱいだった。

「じゃ、じゃがケルベロス殿は前は雌じゃったと」
「元はそうだが、我は今はオスだ」
「じゃ、じゃがふぐりは」
「しまってあるだけだ。人前で晒すのもはしたないと思われて」

「え、じゃ、じゃあ……」
 そこから先の言葉が出てこない。つい今しがたまで他の牡とくんずほぐれつする予定を
 立てていたばかりなのだ。それも傷心からくる勢いで。こんなところに芽があったのに
 よもや自分から今の無しとはとても言い出せるものではなかった。

「あ、じゃあついでにこいつもどうだホ?おばちゃん慣れてないからこいつに
 この業界とシステムのこととその他のことを教わったり練習したらいいホ!」
 フロストの起死回生を賭けた便乗!

「じゃが、その、よいのか……?わしみたいないかず後家、しかもケルベロス殿から見て
 わしはかなり格下じゃし。」
「我は相手が嫌でなければ、誰であれお相手を務めさせて頂く所存だ」
「じゃ、決まりだな」
 オニの渾身の締切!彼は名簿を操作して登録してあるケルベロスの項目にも
 チェックを入れた。

「え、あ、いやそんな勝手に」
「嫌か?」
「そんなことは、むしろ最初からずっと……ごにょごにょ」
「では頼む」
 そんなやり取りをする二匹を残して、他の者達は作業の手伝いに向かう。
 やがてそれもひと段落したころには日も落ちて、オニたちは紅魔館に泊まることになった。
0098創る名無しに見る名無し
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2014/08/04(月) 23:25:54.93ID:s0fiZVym
 各員を妖精メイドに部屋へ案内させる際、レミリアは友人の魔法使いにこうこぼした。「運命を操るって、実際面倒くさいわ……」
「他人の恋路なんて見るからにやり難そうなものに手を出すから」
「ああいや、他の連中も含めてよ」
 手をぱたぱたと振りながらレミリアは答えた、その姿は既に仕事着から
 いつもの子供服に変わっている。

「そう、それで?具体的にはどうしたの」
「別に、とくに何の影響もない邪魔な枝葉をとっただけよ。あんまり多いものだから」
 こともなげに言うが、それが虚勢の類でないことをパチュリーは知っている。
 いい加減ではあるのだが。

「でもよかったの?レミイ」
「何が?」
「部屋が一つ獣臭くなるわよ。それともイカ臭くなるのかしら……」
「いいのよ、私が掃除するわけじゃないんだし」
 
 パチュリーは肩を竦めると廊下から図書館へ向けて歩き出す。
「どうでもいいけど、結局アレどうするの。邪魔なんだけど」
「後で河童にでもくれてやるわ。こんなときフランがいれば話しは早かったんだけど」
 レミリアはため息を吐くと、現在自分の従者とともに外の世界へ仕事の研修に
 向かわせた妹のことを思い浮かべた。

「ああ、また博麗神社に遊びに行きたいわあ」
「たまには傘ぐらい自分でさしたらいいじゃない」
 などと軽口を叩きつつ、二人もまた自室へと引き上げていった。

こうして紅魔館で起きた奇妙で物騒な一日は終わった。謎と残骸を残したオオツキを
残し、魔物達はそれぞれの部屋で、それぞれのやり方で幕を下ろしたのだった。

オニはおでんのつゆを調整、出来る限り具を入れ替えたようだ。
レミリアは今日の出来事を誰かと連絡して報告したようだ。
パチュリーは自分の召喚について見直しをしたようだ、
マミゾウとケルベロス滅茶苦茶しっぽりしたようだ。
そして――
0099創る名無しに見る名無し
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2014/08/10(日) 23:18:57.23ID:Qe/vFQws
「起きなさい」
「むー」
「起きなさい、小さく、そして大きな妖精よ」
「ぐー」

「目覚めるのです。世界に危機が迫っています」
「はっ!」

 フロストは目を覚ました。しかしベッドから跳ね起きたつもりだったが、見れば
 周囲には暗黒が広がるばかり、いや、星々の明かりが無数に明滅している。
 まるで宇宙のような場所だった。

「よく聞きなさい。妖精ジャックフロスト」
「こ、これは、夢!?ということは俗にいう夢のお告げかホ! じゃあやっぱり
オイラ今回主人公なんだホ!」

「聞きなさい、あなたがたが戦いの後にぐずぐずグダグダと話すから私が出そびれて
 このような形での接触を図る羽目になったのですよ。主人公ならボス戦の後に
 新キャラの介入があってもいいように段取りを組んで空気を維持しなさい」
 聞こえていた女性の声は心なしか怒っているようだった。

「あ、はい。ごめんなさいホ」
 はしゃぎ過ぎたことをフロストは素直に謝った。芸人としてはちゃんとしてないと
 干されるからだ。ポジションが安定していないことが他人の出番を食っていい理由
 にはならないのだ。

「そ、それでどのようなご用件でしょうかホ」
「いいですか。今言ったように、世界に危機が迫っているのです。ある男により
 この世界は今、大規模な改竄を受けています。男の名はスティーブン。元は
 名のある技術者にして腕利きの魔術師でもありました」

 フロストは以前に何度か見たことのある車椅子に座った倦怠感丸出しの赤衣の男を
 思い出した。ダークおじさんやルイ・サイファーばりに如何わしい人間だった。

「彼が作動させた悪魔消滅プログラムは、現在、過去、そして未来に渡り人と悪魔の
接点を消失させているのです」
0100創る名無しに見る名無し
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2014/08/10(日) 23:20:10.07ID:Qe/vFQws
「それってつまりオイラたちの旅が無かったことにされちゃうってことかホ?」
「それだけではありません。悪魔と人とが関わり合いにならねば、悪魔という敵を失った
多くの神もまた、その力を大きく減じ、やがて存在其の物を失ってしまうでしょう」

そこで声は一度区切り、一泊の間を設ける。フロストの反応を待っているらしい。
年季の入った雪だるまは、顎に手を当てて沈思黙考する。複眼に移る星々の光が
万華鏡の如く互いを照らし合う。

「それとおいら達やあのロボットが幻想郷に来たことって、たぶん何か関係あるホ?」
 文字にならない漠然とした疑いの気持ちだったが、フロストは率直にぶつけた。
 途端に、周囲の闇が和らいだかのような印象を彼は受けた。

「そうです。人に知られぬ悪魔はその存在を空想や妄想、ひいては幻想へとやつして
 行きます。故に、消える前の悪魔達は皆、この幻想郷へと流れ着くのです。あなた達が
戦ったあの機械巨人は、ここに至る過程で既に己の存在を保てなくなったがために、
あのような歪な交わり方をしてしまったのでしょう。存在を失うということは、彼我の境さえ失うということ。事態が進行すれば、あなた方もあの者と同じ末路を辿るやも」

「それってつまりオイラ達も今まさに死の宣告秒読みってことじゃねえかホ……」
仮初めの宇宙は沈黙したが、それが否定ではなく肯定であることは何となく想像できた。
「でもどうやってだホ? 逐一悪魔の関与を阻止なんかできないホ。すべての敵を
鏖にするなんてそれこそ夢物語だホ」

宇宙は沈黙していたが、間違いなく笑っていた。その雰囲気の中でフロストは
あることに思い至る。どうも自分の夢、というか精神は相手の精神の内に取り
込まれているのではないかと。
(なんとなく金剛神界を思い出すホ……)
 
 彼女は答えた。
「闇には光が必要です。人と悪魔の、光と闇の物語。それは本来終わりなきもの……
ですが、それもあくまで語り継がれてこそ続くのです。一度途切れてしまえば、
文明の進んだ今、心の弱りきった人間の世界に、再び悪魔の存在を齎すことは不可能
です。語り継がれるべき刻を塗りつぶしてしまえば、全ては白紙に戻るのです」

 物語の始まり、つまり悪魔との接触を回避してしまえば、本来起きるはずの事件も、
悪魔達の記憶も全て、残らず失われてしまう。
0101創る名無しに見る名無し
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2014/08/10(日) 23:21:00.94ID:Qe/vFQws
「それを阻止することで、歴史の流れをもとに戻すのがオイラ達の役目って訳だホね」
「その通りです」
「でも……」
「何か気になることでも……?」

 ジャックフロストは言い澱んだ。疑問ではない。物語を動かすために『なくては
 ならない必然』を、守ることが何をいみするのか、彼は気付いていた。
 
「それってつまり、今度はオイラ達の手で、皆をもっかいひどい目に遭わせろって
 ことだホ……」
 子どもの悲痛な呟きに、闇は、彼女は、今度こそ悪魔的な笑みでもって、
 喝采をジャックフロストに浴びせた。星の光が一斉に消え失せ、眩いほどの黒が、
少年の夢を塗りつぶす。

「博麗神社にいきなさい。もしもあなたが、彼らの幸福と引き換えにしてでも
 失いたくない何かがあるのなら……」
 初めて彼女が優しい声で、フロストに次の行先を告げた。

「……忙しく、なるホ」
 悪魔の魂を持つ雪だるまは、そう呟いて静かに目を閉じた。


 ――そして夜が明けた――
0102創る名無しに見る名無し
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2014/08/17(日) 23:22:07.40ID:TA+3PLab
ステータス

妖精 ジャックフロスト Lv 66 
備考 ドーピング及びメモリーチェックボーナス後の御霊合体済
力40 魔30 知40 耐40 運40

所持スキル 同族のよしみ トラフーリ アナライズ 食いしばり 
      スクカジャ マカカジャ デカジャ タルカジャ
状態 主人公 ベテラン悪魔 特徴 全体的にメタい

装備  ライオットガン
E旧い妖精の帽子
    DBB時代のジャケット
    ジャックランタンの手袋
   Eいつものクツ

持ち物 召し寄せペンダント 効果 フロスト系の仲魔をMAG無しで召喚できる。
大事な物 COMP 悪魔全書 メシアの○○
妖鬼 オニ LV 67
備考 同上 フロストは同郷(魔界)
力40 魔40 知40 耐40 速40 運40 

所持スキル 一分の活泉 二分の活泉 三分の活泉 食いしばり
      気合溜め 耐物理 雄叫び 暗夜剣(現在は借金に変更)

状態 準主人公 ベテラン悪魔 特徴 物理に強い(四半減)・神経無効

装備  ソードナイトの剣(売却済み)
E屋台主の白帽子
   E鬼の法被
    抗菌手袋
   E直足袋

持ち物 おでん屋台 効果 バックアッパー+ナースコール 移動中HP、MP大回復
    竹の水筒  効果 非戦闘時に使用可。HP小回復
0103創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/08/17(日) 23:22:58.25ID:TA+3PLab
魔獣(?) 二ッ岩マミゾウ Lv 50 (レベルアップ!)
備考 変化の兆候有り
   力16 魔14 知19 耐 13 速21 運10

所持スキル ヘッドハント カリスマ 執り成し 悪魔の脅し
      サバトマ フリフリウォール スペルカード 見覚えの成長

状態 朝チュン 特徴 破魔・呪殺・魔力に強い

装備  武器なし
    祭りの編み笠
    団三郎の着物
    白い手袋 黒皮の手袋
    丈夫な草履

持ち物 取り立て台帳 効果 交渉時に相手に金を貸し付けることができる
              相手悪魔との関係によって金額と回収できる確率が変動
           
    葉っぱ       マミゾウがスペルカードを使えるようになる

※ 本編中道具を使えるのはフロストとマミゾウだけ。
0104創る名無しに見る名無し
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2014/08/17(日) 23:24:10.01ID:TA+3PLab
「ということがあったんだホ」
「…………おう」
 フロストは昨晩見た夢のことをオニに話した。場所は紅魔館の台所の一角、
 時刻は朝の五時半である。ここもまた無駄に広く、屋台ごと運び込んでも
 取り立てて誰も文句を言わない。その頭がないだけかもしれないが。

「珍しく早起きして来たと思ったらラスダン突入時みたいな顔してるから何かと思いや、
 なるほどそういうワケかよ」
 オニはおでん槽から灰汁をとりながら、フロストの言葉をじっと黙って聞いていた。
 まだ日の若い鰹節(モルジブフィッシュ)からとった出汁を継ぎ足して味を確かめる。

「おいら達は今、ドラゴンボールでいうところのZ戦士とトランクスの両方の立ち位置に
いるホ!歴史の改変を受けたことを知りつつ、今を救うために歴史に介入するホ!」
フロストは説明のために世界中で知られる少年漫画を用いて説明した。

「それだと、二つの歴史っつうか、世界が出来ちまうんじゃねえか?」
「流石話しが早いホ!」
 興奮した様子でフロストが両手をぶんぶん振る。
「今まではただの一事件だったり世界の改変を丸ごとなかったりする無茶をしてきたホ!
 でも今回はそんなのないホ! だから解決しても今のオイラ達は消えたりしないホ!」

 台所でこんなに大きな声で話すものではないが、予め仕込みが済んでいるのか、
 厨房に彼ら以外の人影はない。入口辺りに血生臭い洗い場があり、ゴミ袋には
 大量の骨が入っている。辺りには謎の装置が多く中には『人間用遠心分離機』という
物騒な張り紙のされた拷問器具めいた謎の調理機械さえあったりする。

鬼はそれらを見ないように気をつけて調理を進める。新しく入ったタコは大きさも
弾力も申し分ないが、出汁が馴染まず中々に扱いが難しい。
「けどよ、それだと同じ時間軸に、同じ存在が二つ以上存在、しちまわねえか?
 漫画とかだとこの場合、増えた自分とバトロワる危険が出ちまわねえか?」

「お前の知を上げるのに漫画を読ませまくっておいて本当に良かったホ。その心配は
 要らないホ。たぶん元通りの世界に元通りのオイラ達、幻想郷には幻想入りした
オイラ達とで分かれるから、黙って住み分けすりゃいいんだホ」
「ようはオレ達はドッペルゲンガ―みたいになったってことか」
 オニは出汁を小皿に掬って匂いを嗅ぐ。臭みは出ていないようだ。
0105創る名無しに見る名無し
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2014/08/17(日) 23:25:00.47ID:TA+3PLab
「元の世界に戻りたかったら、元のオイラ達がお陀仏になって入れ替われる時期を
待つしかないホ。ちょっとさみしいけどホ」
 フロストは盛り分けられたつみれを頬張る。いかな工夫がなされているのか、
食感は鳥団子に近い。

「もしかしたら、ここがオレ達の歴史の始まりなのかも知れねぇな」
「考えすぎだホー」
「それで、異変の大筋が分かったところで、次はどうするんだ? 外の世界で、
 しかも時代が違うとなれば簡単にはいけないだろ」

「夢の中では博麗神社に行けと言われたホ」
「神社か、たぶんクズノハの関係施設か何かなんだろうな」
 オニは屋台下部の引き出しから握り飯の入ったタッパーを取り出すと、フロストと
 共に朝食を済ませる。

「けどよ、神社に行こうにもオレら場所知らねえぞ。社長は吸血鬼だし、あの魔女も
たぶん夜行性だろう。マミゾウはしばらくケルベロスとしばらくはヨロシクしてる
だろうし、他に誰か知ってる奴いねえかな」
人様の家に泊まってまですることではないのだが、レミリア曰く『まだまだ悪魔的な
実績が紅魔館には足りない』らしく許されている。誰が掃除をするのだろうか。

「うーん、そうだホねえ」
「博麗神社への行き方なら知っていますよ」
 突如として聞こえてきた声に振り向けば、すぐ傍に赤い長髪の中国人が立っていた。

「あ、門番のお嬢ちゃん!」
「え、このチャイニーズがホ?」
「初めまして、紅魔館の庭師こと紅美鈴と申します」
拳を胸の前に持ち上げると彼女、美鈴は一礼をする。中華的人民服と帽子が
似合っており、スカートのスリットから覗く肢はよく引き締まっている。

「あんたどこ行ってたんだよ。首になったんじゃないかって心配したんだぜ」
「まあ……そうですね。あの犬が来てからお嬢様は私よりも門番に向いていると言って、
 私は前から兼業だった庭師に専念させて頂くことになりました」
 ぼそりと、「弾幕も出来ないくせに」と零したが二人は聞こえなかったていで
 話しを進めた。
0106創る名無しに見る名無し
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2014/08/17(日) 23:25:57.60ID:TA+3PLab
「けどその方がいいぜ。やっぱり女の子なんだからよ、荒事なんかしないに
 越したことはねぇんだ。ほれ」
 オニは握り飯と、足元に置いていた竹の水筒を美鈴に差し出す。

「ありがとうございます」
「もうちょっと味わえホ……」
 目の前で仮にも少女が握り飯を一口で食べ、水筒のお茶で流し込むという光景に
 フロストがげんなりする。

「それで、なんだって館を放れてたんだい。大変だったんだぜ。いやまあ、そのほうが
 安全っちゃ安全だったんだがよ」
「んなことより博麗神社の場所を聞くホ!」

「順を追ってお話ししましょう」
 三つ目の握り飯を味わいながら、紅美鈴は静かに語りだした。

「私が紅魔館を放れていたのは簡単です。私が庭師をしていることは言いましたね。
 季節の過ぎた庭の木々や植え込みの手入れをし、冬に備えて幾つかの花を
 入れ替えるために私は出かけていたのです」

「食べ終わってから話せホ」
 フロストに私的されて彼女は残りを丸のみすると、何食わぬ顔で会話を続けた。
 臆面の欠片もない。

「そして博麗神社への行き方ですが、よろしければ私がご案内しましょうか?」
「いや、道順さえ聞ければいいよ。せめて社長に聞いてみないことには」
「いいんです。もう庭の手入れも済みましたし、今までもそんなに存在感無かった
 ですし、私。自由度の高い閑職みたいなもので、皆私のことなんて気にしませんよ」

 朗らかな笑顔で自虐を繰り出す美鈴に二人は閉口した。美鈴が女性社会の中で隅に
追いやられているのだろうかと心配になってくる。

「あんまり気が乗らないけどここで連れて行かないと余計気まずくなる予感がするホ……」
「そうだな、よし、皆が起き出す前に、ちゃっちゃと出発しようぜ、美鈴!」
「ありがとうございます!」
0107創る名無しに見る名無し
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2014/08/17(日) 23:26:35.82ID:TA+3PLab
フロストの言葉に力なく同意すると、オニは美鈴を促した。
取っ手を掴んで屋台を引くと、そのまま紅魔館を出ていく。妖精メイドも昨夜の一件で
疲れていたのか、誰とも出会うことはなかった。静まり返った悪魔の館は、未だ寝息を
立てたまま、来訪者達を見送ったのだった。



「あ、そうそう、一つ言い忘れていたことがありました」
『?』
 湖のほとりに差し掛かると、美鈴は振り返り、左手の人差し指をピンと伸ばし
 はにかみながら、次のように言った。

「私は妖魔 紅 美鈴 こんごともよろしくお願いしますね」


 オニたちはパーティーから離脱しました。

 紅美鈴が仲魔になりました
0108創る名無しに見る名無し
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2014/08/24(日) 23:12:33.12ID:HwXSY/hL
『さあ賭けた賭けた!今日のオッズはこちら!』
「オイ!スライム三匹じゃ区別つかねえだろうが!」
『こっちももうすぐ試合始まるよー!』
「だから!サボテンボール四匹じゃ区別つかねえだろうが!」
『始まってからじゃ間に合わないよ!さあ張った張った!』
「メタルハンター二匹……てめえ表出やがれ!」

 地上でオニ達が人里で商いをしてから紅魔館を発ち、今度は博麗神社へと
たどり着くまでの間、ここ旧地獄街道では新たなムーブメントが起こっていた。

「おっしゃ配当20倍キタぜぇ!」
「なんっで!なんっでそんなにそっちばっか狙うんだよ馬鹿ぁぁ――!」
 悲喜こもごもの叫びが渦巻く最近流行りの新名所、出来立てほやほやの地下闘技場、
地底住民はその名を『モンスター格闘場』と呼んだ……。

「さとり様!今日の上がりでっす!モーうはうはですよ!ウハウハ!」
 そんな格闘場の胴元、地霊殿の一室へ火炎猫燐ことお燐は、愛用の台車に
死体ではなく大量の銭こを載せて駆け込んだ。

「アレが出来てから財政は改善されたし治安も悪くなって死体も増えてもうもう!
 地底にも春って来るんですね!さとり様!」
「落ち着きなさいお燐、牛みたいよ」

 薄暗い一室の中、僅かな灯りを頼りに何がしかの書類に取り掛かっているのは
 誰あろう古明地さとりである。

「最初はどんどん外の世界の動物が増えてどうしようかと思ったけど、何とか
 なるものね。それにしてもまさかこんな簡単にみんなの心を一つにできるとは
 思わなかった」
数日前、これから更に増えるであろうモンスター達への対策を比較的話しの出来る
 者達で集まり協議した結果、この大型コロシアムが出来上がったのである。

 当初の案は養殖場にでもして食糧供給を安定させようというものだったが、
 知恵者オークことクーキンの助言と何故か製図が出来る殺人鬼オノマンの設計、
 そして暇を持て余した体力自慢の地底住民の全面的な協力もあり、着工からずっと、
 文字通り無休で作業を断行したことで驚異的な早さで格闘場は完成したのだった。
0109創る名無しに見る名無し
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2014/08/24(日) 23:13:16.49ID:HwXSY/hL
「あんなに娯楽に飢えているとは知らなかったわね……」
「読書家の怨霊や鬼なんかいませんよさとり様」
 収入を数えながらお燐が言う。考えてみれば確かにそうだ、周りから忌み嫌われている
 自分の好みは、周りとはかみ合わない。それを踏まえれば当然といえば当然だ。

「そうね、人手を募ったときの応募なんか本当にすごかったものね……」
 さとりは手を止めることなくつい最近のことを振り替える。どのみち食べるために殺す
 のだから、その前に見世物として戦わせようというのは、まあ損にはならない。
 悪趣味だと彼女は思ったが、妖怪的にはそれほどおかしなことでもない。むしろ、
 彼女の動物好きのほうが地底では珍しいのだ。

「半日かからずに満員でしたからね、しかもあっという間に噂も広まっちゃって」
 いうなれば合法カジノである。賭博に合法も糞も無さそうなものだが。
 とにかく、簡単に人が集まったのである。皆の心は一様に「博打」一色であった。

「おかげで他にも必要な工事ができたから、本当に煩悩の力って大したものね」
 区画整理もろくにされてない旧地獄街道、地上へと湧き出てしまった間欠泉、
 依然として管理を続けなければならない灼熱地獄『跡』。安全面にも配慮が必要だった。

 ちらり、と窓の外を見る。日の光の届かない地底には、奇しくも妖怪たちの作った
 人工物の明かりが所構わず灯り、猥雑さに拍車をかけている。
 
 格闘場建設に当たり実に様々なことがあった。
 水を吸った地面が重さを増して下に落ちてくることへの危険を回避するため、
 地上へ出る間欠泉の量を減らせるようにと支流を作り、ただの重荷にしかなっていない
岩盤の一部をくり抜いた。鬼達は力と妖術と能力を駆使してやり遂げたのだ。

「腐っても鬼ですね〜」
「思い知らされたわよ」
 彼らのモチベーションの支えたのはこの賭博場への夢であるが、それを次々に
 形として見せていったことが大きい。

オノマン達は実物を見たことがあったらしく、パンツマスクのほうがいやに詳細な格闘場内の設計図を作成したこと、建物側で用意するしかない設備とそうでない物を初めに明示できたことで、極力無駄を排して取り掛かることができた。中でも新人に対抗意識を燃やした空
支流の順路を思いついたのはさとりにとっても嬉しい誤算であった。
0110創る名無しに見る名無し
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2014/08/24(日) 23:14:16.40ID:HwXSY/hL
地底妖怪達が煩悩の元に団結し、死力を尽くした結果建造されたモンスター格闘場は、
 開場して三日目だが物珍しさに釣られた客は鳴りを潜め、正真正銘賭け事大好きな
 ダメ妖怪たちが、つまり地底妖怪の大半なのだが、会場を温め続けている。
 生憎、懐具合との落差は大きいようだが。

 当初はスロットを置こうという案もあった。どこからか知識を仕入れてきた者が
 そう提案したのだ。だが試しに幻想郷に流れ着いた台を河童に修理させてはみた
ものの、釘が駄目になっていたりスロットの速度とボタンの反応の差、偏差修正如き
妖怪達には止まって見えると非成立に終わった。

「さとり様!そろそろ試合が始まりますよ!」
 次に息せき切ってやってきたのはお空だった。改めて見ると上背がかなりあり、
 そんな少女が無邪気に手をばたばたと振っている様はシュールだ。

「お空、まさかあなたも賭けを始めたんじゃあ」
「違いますよ!みんなの初試合ですよ!もう始まっちゃいますよ!」
「ああ、そういやあいつらの試合は今日でしたね」

「あ!まさか二人ともクーキン達のこと忘れちゃってたんじゃ!」
 ショックを受けたように胸元の『目』が赤く輝く。お空が来てから
室内が明るくなったのは気のせいではない。常夜灯めいて光るこの目が
絶えず存在を主張するからである。

「冗談だよ。あんたじゃないんだから忘れてないって。ね?さとり様」
「そうね。本当はまだ仕事があるけれど、今日もお昼に休憩しなかったから、
 今休むとしましょう」

 そういうと、さとりは壁の衣紋掛けから余所行きのコートを外して羽織る。
 以前に彼女の妹が帰ってきた際、土産にくれたものだ。ポルトガルの宣教師の
 ような装いで胡散臭いが本人は気に入っているらしい。

「行きましょう!前はさとり様お出かけ出来ませんでしたからね!」
「小一時間くらい羽目を外したって閻魔様は怒りませんって」
「はいはい」
 戸締りをして地霊殿を出る三人の少女、向かう先は賭博場、ひどく退廃的な絵面だが
 当人達の表情は朗らかだった。
0111創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/08/24(日) 23:14:42.26ID:HwXSY/hL
CM

「お疲れ様―!」
「いやーペルソナ4アニメ!好評の内に無事放映満了、スタッフの皆さん、本当に
 ありがとうだホ!」
「ルシP!カタイこと言わないで早く、音頭とって!」
「では、次期アニメの撮影も既に始まっていますが、まずはここを区切りに、乾杯!」
『かんぱあああーーーーい!!』




「あ、ちょっと電話だホ」
「いってらっしゃーい」


「もしもし?」
「ランタンくん……打ち上げは楽しいかホ?」
「ふ、フロストくん……」
「オイラも打ち上げ出たかったなああ」
「…………」
「ペルソナ出演おめでとうだホ」
「そ、それ前にも言ってくれたじゃないかホ」
「そうだホね。Gのほうでも出られるといいホね」
「あ、ありがとうだホ……」
「オイラも、打ち上げでたかったホ」 プツ ツー ツー ツー

「……………………ほ、ホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 アニメペルソナ4 ブルーレイディスクも好評販売中
0112創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/08/24(日) 23:15:43.99ID:HwXSY/hL
訂正 ジャックフロスト  ×デカジャ ○ラクカジャ
 
注釈 このお話のジャックフロストはスキル欄に「ブフ」系の魔法がありませんが
   気兼ねなく氷結系の魔法、特技が使えます。

  「オイラぐらい年季が入ってくると冷気系のスキルは一通り使えるし、周りからも
『テメェーこの前仕込んだスキルどこやったんだよ!』 とか言われるから、
それで一々スキル欄を水増しするのはヤメにしたんだホ。今はオフだし」

    素早さについて
   「本当に素早かったら自分である程度判断して順番を選ぶホ。常識的に考えて」

    その他頻出する誤字脱字等申し訳ありませんでした。
0113創る名無しに見る名無し
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2014/08/31(日) 23:28:58.06ID:B3iEc80c
『さあ!本日のメ――――イェンヤベント!本日から実装の試合形式!
チーム戦が始まりマァ―――――ッス!まだ魔券を買っていない方はお急ぎください!』

 さあ、始まりました地下モンスター格闘場チームマッチ。本日の実況はワタクシ、
まほうつかい、解説は旧都より星熊勇儀さんでお送りします。よろしくお願いします。

――ええよろしくお願いします。
 
 待ち時間の間、このチームマッチのルールを解説します。これは通常のバトルロイヤル方式ではなく、複数対複数の文字通りのチーム戦となります。

――楽しみですね。

 はい。賭け方は単純勝利、詳細予想の二種類、簡単にどちらのチームが勝つか、
 これが単純勝利ですね。

――詳細予想のほうは、この図をご覧ください

 はい、ありがとうございます。見てのとおり、試合結果の中で勝ち負けの他に
 戦ったチームの何人が残っているかなどを、細かに予想する運びとなります。

――具体的な例はこんな感じですね。逃げる8回からの一転攻勢で4−0

 極端ですねえ。ですが確かにこんな感じです。このように試合の詳細な予想を
立てて賭けるのが詳細予想ですね。それでは今日の出場チームを見てみましょう。

――はい。まずは地獄街道より拳闘愛好会、旧都から毒呪チーム、それと最近出没する
  ようになった猛獣チームと、地霊殿チームですね。

 始まったばかりで正規の選手と言えるところは少ないですが、どうですか勇儀さん

――そうですね。二試合ある訳ですが、対戦の組み合わせとしては一つが
  「拳闘会対毒呪チーム」そして「猛獣チーム対地霊殿チームですね」
  この中では毒呪チームが頭一つ抜きん出ているんじゃないでしょうか

 ほほう、そのそれはまたどういう?
0114創る名無しに見る名無し
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2014/08/31(日) 23:30:32.47ID:B3iEc80c
――戦いはよりえげつないことをしたほうが勝ちます。これには日々の努力も勿論
  含まれますが、元々の妖怪としての能力、これがこのチームは他よりも強力です
  防戦一方で相手を仕留められるというのはやられてみると神経がすり減るものですよ

 なるほど、それをどう攻略するかも見所というわけですね。一方で主催である
地霊殿チームのほうは?

――彼らは妖物の割に理性的で統率がとれています。言わば長く連れ添ったコンビという
  ところでしょうか。知能派とはまた違うメンタリティと連携でどこまで戦えるか
  個人的には主催である以上は最初くらい優勝して欲しいところですね

 ははあなるほど。ありがとうございます。さあ、そろそろ試合が開始されます。この
 特設実況席の下部、試合場の東西から第一試合の選手が入場して参ります。
 スペルカードも有りの、しかし弾幕勝負ではない血なまぐさいのこの決闘!
 果たして今宵の栄冠は誰の頭上に輝くのか、まもなくゴングとなります!
0115創る名無しに見る名無し
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2014/09/07(日) 23:30:57.66ID:F9pEdrA3
−第一回戦―
 旧都拳闘愛好会対毒呪チーム

 さあ、始まりました一回戦、と言いたいところですが、どういうことでしょう。
 拳闘会の選手が姿を見せません。このままでは不戦敗となってしまいますが

――うん、何やら毒呪チームの黒谷ヤマメ選手が何やら取り出しましたね。あれは、
マイクのようです。あの声をやたらと大きくできるという宴会用の機械を出して、
どうするつもりなのか

「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!」
 おっとマイクパフォーマンスのようです。
「ヴォ―!ヤマメチャーン!」
 ものすごい歓声ですね。

―彼女は地底のアイドルですからね。ファンも大勢います。彼女みたいに勝ち負け抜きで
 券を買ってくれる客がいると、イベントを開催する側としては大助かりでしょう。

 そうですね。

「今からみんなに重大なお知らせがありまーす!よーく聞いてねー!」
 リボンで後頭部のやや上にまとめられたさらさらの金髪が揺れる。彼女は黒谷ヤマメ。
 地底の妖怪には珍しく根明で裏表のない少女だ。今日はいつものような蓑虫のような
 スカートは着ていない。何故か黄色と黒を基調としてゴシックなステージ衣装だ。

「「ヴォ―!ヤマメチャーン!ヴォ―!」」
「なんで私まで……」
 そんな彼女とは別に、極力人目に付かないように端で縮こまっている少女がいた。
 名前は水橋パルスィ。こちらはヤマメの衣装を白と緑の色違いにしたものだ。
 普段から何かにつけては悪態を吐き、他者を妬んではその日を過ごす根暗の極北とも
言うべき彼女だったが、今は耳まで真っ赤にして俯いている。スカートはどちらも
短めで、見えている両脚は地底妖怪という風評にそぐわず健康的な白さをしている。

「実は私たち!今日の対戦相手はもうやっつけちゃってるんでーす!」
 握りこぶしの人差し指と小指と親指を伸ばした左手を裏返し、目元に持ってくる
 というまことにうざったいポーズを決めながら、ヤマメは爆弾発言を繰り出した。
0116創る名無しに見る名無し
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2014/09/07(日) 23:31:28.45ID:F9pEdrA3
おおっとお、これは勝利宣言ですね。本当なんでしょうか。
確かにこの瞬間も相手チームは姿を見せませんが

―というか、いつやっつけたんでしょうか

「参加の説明書類を何度読み返してもー!対戦相手を事前に倒していたらいけないって
 書いてないから―!ついつい控室を襲撃しちゃった!てへっ!」
 この上ない鬱陶しさとあざとさで凶行を白状する地底のアイドル、常識的に考えれば
 反則負けで一発退場なのだが。

―これは、ルールの穴を衝いたって奴ですかねえ。

 この場合どうなるのでしょう。勇儀さん

―そうですねえ、おっと今入った情報によりますと『対戦者同士が試合前に勝敗を
 決した場合、勝利したほうがそのことを試合時に報告し、適用すること』だそうです。

 それでいいんでしょうか

―『手間が省けていい』だそうです。これを書いた奴はショウが分かってませんね。
 まったくです。

―では私は観客の方々に説明をしてきますので。
 はい、審判役の兼任、ご苦労様です

 勇儀は実況席を離れると、ヤマメたちの元まで歩いていく。それを認めたヤマメの表情
 がはっきりと引きつる。マイクを要求されると大人しく渡して数歩後ずさる。

『えーただ今本部からの連絡によりますと、この場合勝者は毒呪チームとなります』
「「ヴォ―!ヤマメチャーン!ヴォ―!」」
『黙れ!食い散らかすぞ!』
 
 マナーのなっていないおっかけに怒喝が飛ぶ。一斉に沈黙。

「おほん!この場合、配当は呪毒チーム勝利に賭けたお客様のみ、予想内容を単純勝利とし全額お支払させて頂きます。ご了承ください」
0117創る名無しに見る名無し
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2014/09/07(日) 23:31:53.88ID:F9pEdrA3
審判の言葉に会場内のどよめきは次第に大きくなっていく。試合が見られず不満を
 明らかにする者、賭けた金額が戻ってくることに安堵する者、ヤマメのおっかけ等々
「また、試合の内容を始まる前に決した毒呪チームは、試合による盛り上がりを欠いた
として、この試合時間をパフォーマンスで埋めることとする、以上!」

そう告げると、勇儀はマイクをヤマメに返して実況席へと戻る。

「みんなー!そういうことだから!お詫びにー、ヤマメとパルスィの特別ステージを、
 お届けしまーーず!」
「「ヴォ―!ヤマメチャーン!ヴォ―!」」

 ええ、これで良かったのかはさておき、一回戦は毒呪チームが金星を獲得しました。
 二回戦に備えて皆様各自で休憩をとるようお願い申し上げます。

「それじゃあ一曲目行くよー!」


 ところ変わって格闘場内、オノマン達の控室
 彼らはそれぞれの戦闘準備を整えていた。

「騒がしいな」
 試合場から聞こえる喧騒に、獣人戦士の長、オークキングのクーキンはそう零した。
「今は試合中のはずだ、組み合わせはたしか……武闘家と踊り子の試合だったか」
 入念なストレッチをし、滝のような汗を流しながら答えるのは、人でありながら
 モンスターの一軍に名を連ねる狂戦士の一人、オノマンである。

「チーム名もそのようなことが書いてあった。この『拳闘』の次は格闘技を指すらしい。
 こっちは毒と呪いらしい」
「……格闘はいいが、毒と呪いって……踊り子じゃないのか?」

 クーキンは訝しげな顔で相方を見る。嘘や適当なことを言ったことは一度もないが
 たまに大きな勘違いを吹聴してくることがあるのが恐いのだ。

「普通だろ。踊り子が一服盛ってくるなんて」
 毒、麻痺、眠り、混乱、即死、回復、強化、オノマンは指折り数える。
「言われてみればそうだな」
0118創る名無しに見る名無し
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2014/09/07(日) 23:32:31.04ID:F9pEdrA3
クーキンは頷く。手入れを終えて身に着けるのは古来より伝わる獣人戦士愛用の
全身鎧だ。彼のものはそれに多少の改良が施されている。
「ダンスニードルやエンプーサ、ダンスキャロット、不思議な踊りでザオリクが
 使えなくなった時は地獄を見せられた」
「やけつくいきで肺をやられて意識を失ったときはもうダメかと思った」

 険しい顔つきになった二人をよそに会場からはさらに大きな歓声が上がる。
 決着がついたのだろう。

「この盛り上がり、やはり踊り子が勝ったようだな」
「素早さで並んでいる以上、先手で潰せなければ厳しいだろう」
 二人は各々状態を確認すると、室内を見回した。

 急ごしらえのモンスター格闘場、厩と石牢を足して割ったような控え室。沸き立つ
 観客の裏側に、今の自分たちはいるのだという意識が、不意に二人の心中に渦巻く。

「見知らぬ場所、見知らぬ相手、見知らぬつとめ、か」
「同じことがない、それだけが同じ。いつものことだな」
 オークキングの独白に、エリミネーターは感慨もなく呟いた。

 それぞれが斧と槍、盾を持ち控え室を後にする。次は自分たちの番だ。
 グランバニアに戻る手段は見つからない。それでも今は当座をしのぐために、
 やれることやるしかない。世話になった地底の人たちへの義理もある。

 階段を登る靴底が、石の地面打ち鳴らす。
 このとき、彼らは自分たちの運命が、また大きく動き出していることを
 知る由もなかった。
0119創る名無しに見る名無し
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2014/09/14(日) 23:55:38.12ID:E5za6u9F
――さあ毒呪チーム、というかヤマメ選手の一人舞台が終了しまして、
これより第二試合が始まります。

 できれば今度はちゃんと戦って見せて欲しいですね。

――まったくです。ハイライトがないとなると寂しいですからね

ええ。ですが今回は大丈夫でしょう。たった今東ゲートから主催者の回し者こと
地霊殿チームが入場してきました。中々いい体をしていますね。

――彼らは最近になって幻想入りしたとされる獣人たちだそうですよ、勇儀さん。
  地霊殿といえばペットが大勢いるとの噂ですが。

そうですね。地霊殿チームで古明地姉妹やペットたちが出ないことに違和感を
感じられるかたもいらっしゃるでしょうが、最近ではこのイベントの為の
動物たちも集めているそうですから、今日という日はそのための試金石といった
ところでしょう。楽しみです。

――さあ地霊殿チームの登録選手は『オーク』族のクーキン選手と『殺人鬼』族の
  オノマン選手ですね。クーキン選手は上位種の『オークキング』とのことです。

外の世界でも未だ現役でいる妖怪らしいですね。恵まれた体躯に旺盛な繁殖力、
見た目よりもずっと機転が利きます。獲物は槍と盾ですが、通常の弾幕決闘とは
違うので問題はありません。

――基本に忠実な獣人戦士の鎧を身に着けています。ちゃんと勝敗を意識している
装備といえましょう。無骨な鉄兜を被り、手には大振りの槍一本。長さは通常の物
よりやや長めですが太さ、そして重量は相当あるのではないでしょうか。

――そしてオノマン選手。おおー、純白のビキニパンツに肩周りに鋭い突起が無数に
飛び出した凶悪な鎧、両手には斧、そして不気味な覆面の頭頂部に雄々しくそそり立つ
トサカ!世紀末を思わせるモヒカン!上下のアンバランスさが逆に強烈なインパクト!
 古風かつ堅気な雰囲気のクーキン選手とは対照的にこちらはパフォーマンス精神満点で
 あります。観客席に向かって手を振りアピールを繰り返しますオノマン選手!
0120創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/09/14(日) 23:56:04.81ID:E5za6u9F
人間でありながらも怪物の枠に入る殺人鬼、彼が幻想となったことは果たして何を意味するのか、その存在は殺伐としながらどこか浪漫の匂いが付きまとう、いいですねえ。

――さあ、迎え撃つは西ゲートからゆっくりと進み出てくるのは、このモンスターたち。
その知名度は未だ健在!巨獣ボストロール!そしてグレンデル!

西の門からゆっくりと姿を現したのは、毛皮一つ纏った緑色の巨大な怪物。かろうじて
人型を保っているがその大きさは門と同じほどの高さと幅がある。トゲの生えた人間大
の棍棒を右手に携え、血に飢えた瞳は貪婪な凶暴性を隠そうともしない。

一方、あとから入場してきたのは一回りほど小さい獣戦士だった。クーキンとよく似た
獣戦士の鎧を身に着け、大曲刀と大盾で武装している。立派なキバが無数に生えた顔は
動物と判断はできても何の動物かまでは判然としない。
一つも隙のない佇まいは惨忍な怪物ではなく、一介の武芸者としての印象を対峙する者
に抱かせる。

――お客様方には大変お待たせしてしまったチーム戦、初のお披露目となります。
それでは勇儀さん、開始の合図をお願いします。

分かりました。では、えー、只今より、チーム戦第2試合!地霊殿チーム対猛獣チーム
の試合を始めます。ルールは単純、先に相手チームを全滅させたほうの勝ちとなります。
それでは両者構えて!…………始め!
0121創る名無しに見る名無し
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2014/09/22(月) 23:57:52.29ID:wn5ZH1bb
中秋の某日、地底のある場所で、異世界より来る者たちの戦いの幕が切って落とされた

「ゴバアアアアアアア!!」
 戦端を開いたのはボストロール。全長にして12,3の子どもほどはあろうかという
棍棒を振り回しながら二人に襲い掛かる。

「クーキン」
 オノマンが声をかける。相方のほうを見ることなく、静かに目を閉じ両腕を組む。
 仁王立ちの姿勢で、自分は攻撃を真っ向から受けると全ての人物に示す。

「頼む」
 クーキンは一言だけ返すと、正面のグレンデルを見やる。己の本能のままに暴れる
 ボストロールが襲わない相手、獣が畏まる唯一の必要にして十分条件。
 ――単純な答え――

(こいつのほうが強い……!)
 顎をしゃくり、オノマン達から離れるように促すと、グレンデルは素直に頷いた。
この男もまた、先ほどから彼らをじっと見ていた。


――おーーーーっとおお!?これはどうしたことでしょう!示し合わせたかのように!
オノマン選手とボストロール選手、クーキン選手とグレンデル選手、互いに距離をとった!
チーム戦で敢えて一対一の試合を!二試合同時に並行してやろうというのかーーー!?


上手く連携が取れないなら互いの邪魔をしないように動く。それも一つのチームワーク
ですが、彼らの意図はどうも違うところにあるような気がします。見てください。

――あれは!?

 ボストロールの強烈なフルスイングをもろに受けたオノマンは、先ほど自分達が入場
してきたゲートに勢いよく叩きつけられる。が、

――オノマン選手全く仁王立ちの姿勢を崩さない!それどころか未だに目を開けない!
ダメージがないのか!どうでしょう勇儀さん!

なくはないでしょう。ですがどうあれ、しばらく続きそうですよーこれは。
0122創る名無しに見る名無し
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2014/09/22(月) 23:58:46.31ID:wn5ZH1bb
オノマンが殴り飛ばされたのとは反対方向、薄暗い地下格闘場の松明の明かりによって
照らし出された二つの影、両者は互いに己の敵意と殺気を隠すことなく、しかし決して
憎しみの籠らぬ瞳で睨み合う。

『……………………』
 ほぼ同時に、グレンデルとオークキングは自分の剣と槍とを天へと掲げた。それは
 無言の、そして無意識の開戦礼であった。

「…………」
 クーキンは槍を捧げるように持ち、グレンデルは盾を腰溜めに、剣は先をやや下に
向けるという構えだった。
 先に動いたのは、クーキンだった。

 槍を抱いたまま無造作に歩く。冷たいの土の上、約十メートルの距離を半分まで進み、
 立ち止まる。そしておもむろに槍を手にしてグレンデルの前へと差し出す。
 これに対しグレンデルも歩み寄り剣を前へと突き出した。交差した互いの切っ先が、
火の明かりを受けて煌めく。

――早くも距離を詰めた両選手ですが、彼らのやり取りには何の意味があるんでしょうか。
解説の勇儀さん。

言うなれば開始の合図であり宣言でもあります。拳を合わせるようなものですが、
自分の射程を先に見せあうおくことで間合いという縄張りを最初に主張するんです。

――なるほど、ここから先に入れば、ということですね。

そういうことです。おっと、ここでオノマン選手にも動きがあります。

――ああーっと!ボストロール選手に殴り飛ばされたはずのオノマン選手!いつの間にか
復帰している。それだけではない。覆面のしたがめくりあがって、ああ!?
0123創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/09/22(月) 23:59:29.24ID:wn5ZH1bb
パンツマスクは吹き飛ばされたにも関わらず体勢をすぐに立て直し、再び仁王立ちの
姿勢をとる。ボストロールが機嫌を損ね次の攻撃を繰り出した。その瞬間のことだった。
オノマンは横薙ぎ一撃を立ったまま飛び上がるという変態的な動きで回避、
ボストロールの顔に張り付いたのだった。

――オノマン選手、かみつ、いや、舐めた!舐めだした!あの悍ましい不細工な顔を、
隈なく舐めまわしている!うわー!

こーれは、辛いですねえ。猟奇的とさえ言えますよ。見てください、相手のほうがべろを
しまっちゃいましたね。斧を取り落して、うあ〜、あれならいっそ噛みついてくれてほう
がまだいいですよ。

「ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ」
「ホワ――――!!ホボヴァ―――――!!」
「ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ」
「アア―――――!オウアアアアアア!!」

 たまらず悲鳴を上げて悶えるモンスター。
0124創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/09/23(火) 00:00:04.00ID:wn5ZH1bb
格闘場の客層と空気は今やはっきりと二分されていた。真剣勝負のクーキンと、
イロモノ枠のオノマン。静と動、ギャグとシリアス。

 しかしながら当人たちは至って真面目である。大真面目である。真剣そのものである。
 オノマンはクーキンの邪魔をさせないよう、それでいて観客が飽きないよう全神経を
 費やしている。

 ボストロールの一撃は普通に効いている。傍目にはふざけているように見えても
 生死を賭けた戦いでは得てしてこのような行動にも実利が生まれることを、彼らは
 経験から知っていた。

 時には馬車の入り口を塞いで増援を絶つ。呪文を唱えようとした相手の口を文字通り
 塞ぐ。どこか遠くに投げ飛ばす。踊る。叫ぶ。一つ一つの行動が馬鹿げていたり、
あるいはそのような外見をしたモンスターがとる数々の奇策を侮って死んだ者は
数えきれない。実践において笑って済ませられるようなことは何一つないのだ。

オノマンは身震いするボストロールを更に舐めつつ、内心では相方の身を案じていた。
 

 一方、沸き立つ観客の声を対岸に置き去りにした武芸者二人は、その間に二メートルも
 ないほどに接近していた。とうの昔に手を出していていいはずなのに、どちらも手を
出さない。制空圏は既に触れている。

ともすれば息さえ届きそうな近さ、沈黙を破ったのは、やはりクーキンだった。
「ンンッ!」
「グッ!」

 一瞬、間は消し去り完全に密着した獣戦士の体。しかし片方の体が後方へと弾け飛ぶ。
 先に仕掛けたのはクーキン、しかし、先手を奪われたのもクーキンだった。

――……今のは何が起こったのでしょうか。両名の体が前方に吸い込まれるように移動
して、直後にクーキン選手が吹き飛びましたが……

今のはいいですねえ。綺麗にカウンターが決まりましたよ。一枚絵になってもいいほど!

勇儀の声が熱を帯びる。トランペット奏者に憧れの視線を向ける少女のように無垢な瞳だ。
0125創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/09/23(火) 00:00:21.13ID:34aMR+N9
何が起こったのか?
 クーキンが僅かに前屈みになり、槍を勢いよく突き出した。その数瞬前に、グレンデル
 もまた剣を突出していた。クーキンと時を同じくして体を押し込み、穂先に刀身を這
わせ、突進時に刃を絡めて後方へと流し、いなしたのだ。
そしてがら空きとなったクーキンの顔面を盾で思い切りぶん殴ったのだ。

互いの瞬発力から繰り出された全体重を乗せた一撃、その攻防の軍配はグレンデルに
上がった。しかしグレンデルは追撃をしなかった。最初と同じ構えで、またも
対戦相手を待ち受ける。

打ちのめされたオークも手鼻をかんで鼻血を出し切る。同様に構えなおす。技量で
上を行かれたことは確認できた。しかし、グレンデルが攻めに転じなかったことに
彼もまたある手応えを感じていた。

(盾でも同じことはできたはず。何故やらなかったか?剣なら致命打を狙えたはず。
それをしなかったのは)

まだまだ互いの手の内は分からない。頑丈さは獣人の代名詞、仕留め損なったとき
の危険は怖い。まだまだ序の口、手控えるのは定石。それに盾で殴ったのは、盾
自身が防具であり武器でもあるから。獣人達の多くが重い武器を持つのは、素手で
殴り合えば決着がつく前に拳が先に壊れてしまうから。彼らの戦いは外見からは
想像もつかないほどに厳重かつ慎重な管理下で行われている。だからこそ、
際どかったとはいえ、無傷で初手をとれたのは大きいでしょう。

――なるほど、一撃の重みという言葉には威力以外のものも多分に含まれているという
訳だったんですね。

 
 まずは一勝、誰の目にもそう映るグレンデルの姿。だがグレンデル本人だけは、表情に
 こそ出さないが、オークキングを殴りつけた腕からの違和感に、静かな危機感を抱いて
いた。盾で拳を守ったはずだが、巨躯を誇る獣たちのぶつかり合いはそれでもなお
相殺できない力を持っていた。右腕の肘から先が痺れている。

(ここから、攻めて行けるか……)
 真正面から打ち据えられた猪は、しかし萎えることのない闘志を一層燃やして獲物を
構え直した。
0126創る名無しに見る名無し
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2014/10/05(日) 22:57:06.55ID:WXR5P8rD
――さあ試合はまさに二極化の様相を呈しています!片や笑いを提供する二人!
片や静寂の内に真剣勝負を繰り広げる二人!どちらも目が離せません!

ええ、これね、顔大変ですよ。笑った後にね、クーキン選手たちのほう見ると一気に
表情を引き締められるんですが、逆にオノマン選手のほうを後にみるとね、頭トンじゃう。

――さあ、まずは余裕をもって見られるオノマン選手のほうから行きましょう。さきほど
はボストロール選手の顔を溶かす勢いで舐めていましたが、今は降りて身構えています。
打ってこいと挑発のジェスチャーをとりながら、警戒なステップを刻んでおります。

身を躱すといったところでしょうか。いいリズムですよーたいあたりも避けられそうです。
おっとボストロール行った!

――ああっとー!羞恥か怒りか顔を真っ赤に染めて踊りかかる!しかし当たらない!
軽やか!目障りなほど軽やか!ああっと棍棒をブン投げたーーしかし当たらない!

これは精神的につらいですよー。完全にペースを捕まれてますねえ。

「ハッスルハッスル!ハッスルハッスル!」

――ここでオノマン選手気持ちの悪い踊りを披露!腰を振るが手足の動きがバラバラだ!
しかし滑らか!見ていてげっそりする!目が真剣なのが怖い!

おっとぉ?殴られた部分の腫れが引いていきますね。そういう効果なんでしょうか。

――しかし殴られて中断!当たり前です当然です!たわけた輩を殴りつけたボストロール
選手も気持ちが良さそ

「ハッスルハッスル!ハッスルハッスル!」

――いや!まだ再び踊り出す!勇儀さんの指摘通り傷が治っていく!これは苛立つ!
オノマン選手痛恨のウインク!会場から鳴り止まぬ笑いとブーイング!

『真面目にやれー』『いいぞーもっとやれー!』『パンツもおろせー!』

――さあ非常に混沌としている片方はこの辺にしてもう片方の試合を見てみましょう。
0127創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/10/05(日) 22:58:17.08ID:WXR5P8rD
グレンデルは脅威を感じていた。槍、長物を扱う以上は、その間合いを以て相手を
制することが常道のはず。しかし、この目の前の獣はそうぜす、敢えて槍を短く持ち、
剣の間合いで先ほどから自分と何合にも渡り打ち合っている。

 剣先には血が付いている。浅くとも既に幾度となく打ち込んでいるのだ。しかし、
オークキングには未だ陰りが見えない。獣人のタフネスは彼自身も承知だが、これは
異常だった。

「むぅん!」
「ぐうっ!」

 またも盾による一撃がクーキンを叩く。これにはさすがに仰け反るものの、やはり
疲労、ダメージは見えない。グレンデルは一度距離を取ろうとしたがその矢先、
何かに思い切り剣をかち上げられた。

「!」
 正体は伸ばされた槍、捧げ持つように構えられた槍は本来の射程から繰り出され、
あわや持ち手の五指を浚うところであった。そしてまた槍が引かれると同時にクーキン
が距離を詰める。辛うじて体勢を整え迎撃に移る。

 短く持たれた槍は剣の間合いから離れるときも遜色なく扱われる。そしてまたも
行われる攻防、白刃の応酬。その中で獣戦士は悟る。

 ――反撃をさせられている――
この獣戦士は技量において自分を下回っている。だが、それを承知で勝ち筋を見定めて
いる。戦いの組み立ての基本となる盾は早くも傷み始め、それを持つ手にも凄まじい疲労が蓄積されていた。このペースではあといくらも同じ戦いかたはできまい。

明らかに敗北を重ねた者の戦い方だ。泥臭く、しかし何よりも確かな試合運び、己の
やり方を欠片も疑わず、実践するにも怖じることのない重厚な戦士の精神。
 この男を相手に自分が勝つにはどうすれば……グレンデルは自分がまんまと優勢と
いう名の神輿に据えられ、降りられないジレンマに焦らずにはいられなかった。

 決まっている。この男の予想、予定を覆すしかない。こちらから、相手に『しかし』
という毒を盛り、鉄よりも強靭な勝利への道筋を狂わせるより他ない。
 この瞬間、盾ごと腕を思い切り蹴り飛ばされた獣剣士は、そこで敢えて盾を捨てた。
0128創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/10/05(日) 22:59:07.36ID:WXR5P8rD
――ああ、ついにグレンデル選手が盾を落とした!そして……そして!?勇儀さん!

ええ、剣を構え直しましたね。むしろ盾はわざと捨てたのかも知れません。それもあの
構えは刀の、剣道のもので下段の構えですね……これはクーキン選手一気に苦しくなり
ましたよ。

 グレンデルのとった策、それは盾を外し、剣を両手に持つという単純極まるものだった。
それでいて構えは彼らの世界には未だなかったはずのもの。

「……………………」
 見る物が緊迫した空気に中てられ息をのむ。これに対し誰よりも衝撃を受けたのは他
ならぬクーキンであった
 防御を下げることはできた。しかし、その分を攻撃に回され一層手を出せなくなった。
互いの構えの上では、グレンデルは槍の切っ先、中から上段、顔にかけて全くの無防備、
では槍は?
 攻めにより守りを得る槍はこと正面に対しては、不備というものが存在しない。だが。
この下段構えには言い知れぬ重圧があった。間合いを活かした戦い方では千日手と
なりかねず、かといって進めばいつ足を切り捨てられても不思議はない。
 クーキンの額に一筋の汗が流れた。剣は突くもの、槍は切るもの。それぞれの武器の
間合い、それに則った構え、そこから考えられた有効な、武器に相応しい攻撃の仕方。
されど、実戦においては到底最善の一手とはなり得ない。
 一歩は前進した。しかし先は未だ遠く、信じられねば今にも目の前の勝利は夢幻に
消え去るのかも知れない。

「…………ふー。…………ふん!」
 クーキンは自分の頬を力強く叩いた。誰の目にも己を鼓舞したのだという事が分かる。
そして。

――あーーっと!クーキン選手突っ込んでいったーーー!これはまさに猪武者!彼の目に
は何が映っていたいるのか!?これは無謀だーーーー!

 これは勝負に出ましたねえ。時間が経てばダメージの分不利になりますからねえ。さあ
ここからが本番ですよ!
 
 獣の皮を被った荒武者達の戦いは、互いの背に怯えや不安を隠しながらも、さらに
激しく燃え上がるのだった。
0129創る名無しに見る名無し
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2014/10/20(月) 22:44:21.84ID:sJ1OWsaI
剣の間合いの中で、剣と槍とがせめぎ合う。先程の鋭い太刀筋は息を潜め、小刻みに、
ただ小刻みにお互いの攻機を探り合い、打ち込まれる白刃はゆっくりと、ただゆっくりと
剣線を描いては、触れ合うことさえもままならない。


――勇儀さん、一転して静かな戦いになりましたね……

ええ。ここからはより一撃が重いサドンデス方式です。迂闊に切っ先が触れれば武器を
絡め取られる危険があります。両者の状況から言えば、クーキン選手は後の先を取りたい。
だからこそグレンデル選手は防戦に移りました。

――千日手という奴ですか。

正しく。しかし長引くほどに差は開いてしまう。いやでも仕掛けざるをえない。だから
こそ、彼らはその瞬間を可能な限り引き延ばそうとしている。このジレンマにどちらも
相当に神経磨り減らしてますよ。

――なるほど。む、あ!動いた、ついに動いた!

 実況の魔法使いが叫ぶ。伯仲した二頭の獣の戦いが最後の刻を迎えようとしている。
グレンデルが下がったのに合わせ、幾度とない突きを浴びせかけたのだ。鈍重な外見から
は想像もできない、流れるような動きである。

――あ、当たらない!あれだけの突きが当たらない!何が起きているのか!?

 グレンデル選手よく避けます。捌きも上手いが、これは踏み込み切らないクーキン選手
の弱みですね。致命的な反撃を受けないようにするあまり、殺れる距離まで詰められない。
おっと、これはいけない!
 
 突きの雨を寸でのところで避けきったグレンデルが呼吸を整える。力を、気合を溜めて
いるのだ。体全体の筋肉が膨張し、一回り大きくなる。クーキンが槍を引き、それと同じ
瞬間に、今日初めて見せる大上段の構えと、貌と、雄叫びで、ありったけの力で飛び込む!

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 全身全霊を乗せた一撃、剣だけでなく体全体で相手を打ち倒さんとする気迫。踏込の早
さ、斬撃の鋭さ、威力の重さ、全てが距離を詰める刹那に集約され、獲物へと喰らいつく。
0130創る名無しに見る名無し
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2014/10/20(月) 22:45:07.91ID:sJ1OWsaI
血飛沫が上がる。確かな手ごたえがグレンデルの腕を伝う。集中的に集められた腕への
疲労からよく打ち込めたというのが、彼の本心だった。
 切っ先に肉を裂く感触、クーキンの足元に夥しい血液が零れる。両断するまでは届かなかった。流石だという思いがこみ上げてくる。
 これだけの相手と、ここまで濃密な時間を過ごせたことに、モンスターであるはずの彼
は多くのことに感謝した。感謝して……


『正面から放たれた正拳突きを甘んじて受けた』


 密着した巨体の片方が、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。まるで膠の如く張り付いていた
赤い液体が、今は介抱するようにグレンデルの背中にかぶさっていく。


――こ、これは

実況の魔法使いの言葉が続かない。目と思考が追い付かないのだ。

――決着!グレンデル選手がダウンして、クーキン選手が立っています!これはクーキン
選手がグレンデル選手を降したと見ていいんでしょうか、勇儀さん!?

……っは!?ええ、はい、そうですね。すごい動きしたんで見入ってしまいましたね

――と、とりあえずスペクターからVTRを見てみましょう。

 天上の大型スペクターにたったいま起こった攻防が映し出される。

ここです。グレンデル選手が踏み込んで、クーキン選手が背を向けて下がる。
下がって足元のグレンデル選手の盾を踏んで背中の高さまで飛ばす。そしてグレンデル
選手の攻撃が入り

――盾ごと思いっきり切られてますね。ん!?ここでグレンデル選手の腕がクーキン選手
の槍に貫かれてますね。

 そうです。槍の起動を体で隠し、背に回して腕を縫いとめたんです。そしてここで反転。
0131創る名無しに見る名無し
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2014/10/20(月) 22:47:07.09ID:sJ1OWsaI
――振り向き終わるのに合わせて体重移動も完了しているようですね

残心の度合いと時間経過、体勢からカウンターと言っていいでしょう。これはいい正拳。

――なるほど。この一瞬でこれだけのことをやり遂げた両雄ですが、残ったのはクーキン
選手でした。さて残るオノマン選手ですが、

「フッ!」
 パンツマスクは毒針と吹き矢をパンツから取り出して装備、発射
「うっ!」
 急所に当たり即死するボストロル。

――こちらも決着したようです。ちなみに毒針トトカルチョは4手目です。では勇儀さん、
お願いします。

魔法使いに促され、勇儀はレフェリーの顔になるとリングに下りて、両選手の元へと
駆け寄る。オノマンはクーキンの腰下あたりを支えて慎重に歩かせていた。
 二人は勇儀に気付くと立ち止まり、会場を見上げた。

『只今を持ちまして、第二試合は…………地霊殿チームの勝ち!』
――あまりにも唐突、あまりにも劇的な幕切れ!地霊殿チーム決勝へ駒を進めました!

 上がる喝采と怨嗟の声。勝鬨とばかりにオノマンとクーキンは腕を観客に向かって突き
出した。またも声、声、声。
 勝利の余韻を味わうことなく、彼らは控室まで戻った。

「危うい戦いをするな、剣が胴体を一周するまであと4分の1しかないぞ」
「すまん、あとで薬草とべホマを頼む」
 
 大量の流血、多数のダメージに息も絶え絶えなクーキンだったが、その呟きには他には
ない達成感が滲んでいた。

「手強い男だった」
「でも勝ったのはお前だぞ」
 会場の音が遠ざかる。光差す道に背を向けて、異世界の戦士たちは束の間の休息を手に
入れたのだった。
0132創る名無しに見る名無し
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2014/11/04(火) 00:00:31.32ID:N/1QzXHi
「ええー、ないわー。あれと戦うの……」
「正面から戦って勝ち負けを競い合えるあの精神、妬ましいわね」

 ここは黒谷ヤマメたちの控室、テレビ代わりのスペクテーターに移る試合風景に、決勝
の相手である毒呪チームはげんなりしていた。盛り上げるのは構わないのだが、方向性が
噛み合わない。

「こんな古風で堅気な死合久々に見たわ」
「あのパンツのほうも妬ましいわね」
「え、あんたアレ男物の下着だけど、ああいうのがいいの?」
「違わい!」

 こほん、と咳払いしてするのは水橋パルスィだ。この闘技場の勝敗にまつわる他人の妬みを味わいに来たはずがいつの間にかヤマメに巻き込まれて自分が出場する羽目になってしまっていた。いまもアイドル衣装のままだ。

「でも不味いわねー。あのパンツならまだしも、あっちの猪武者は会場の空気がどうとか
誤魔化されてくれそうにないし、まともにやり合ったらあたしらの首が飛ぶわよ。あたしの能力使ったら被害が出過ぎるし」

 どうすれば、と爪を噛むヤマメ。余談だが室内はファンから贈り物の酒が所狭しと置かれている。アイドルに送る物じゃないがそんなことに気が回る地底人ではない。

「別にさっきみたいに控室を襲えばいいじゃない」
「駄目ね。あんたもショウが分かってないわパル。祭りでも粋でもないのよパル」
「語尾みたいに言わないでちょうだい」

 物憂げな表情に奇妙なポージングをしてダメ出しする土蜘蛛と煩わし気に腕を組む橋姫
「それじゃお客が喜ばないわ。私が拳闘会を襲ったのだってそのほうが盛り上げられると踏んでのことよ」

 びしっと明後日の方向を指さすアイドル。彼女の中では恐らくカメラがあるに違いない。
「奴らをうまく使えばこの興業は大成功間違いなしよ!そして今、それができるかどうかの瀬戸際なの!アイドルとして、女としての器が試されているの!分かる!?」
「分からん」
 出自で言えば女の器が少なくとも大きいとはいえない橋姫はやんわりと首を振る。
0133創る名無しに見る名無し
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2014/11/04(火) 00:01:17.65ID:N/1QzXHi
「パルだからなあ」
「罵声の一種みたいに言わないで」
 ヤマメは肩を竦めると、小さくため息を吐いた。

「仕方ないわね。地底のアイドルの自援護(プロデュース)力、とくと拝ませてやるわ」
「あんた楽しそうね……妬ましいわ」

 そしてやってきた相手の楽屋裏。寸法がいい加減で閉まり切らないドアをノックする。
「すいませーん!地霊殿チームの選手のかた、いらっしゃいませんかー!」
 ややあって中から「はい」と野太い声と共に、覆面戦士ことオノマンが姿を現した。

「すんません八百長お願いします!」
 ヤマメは電撃的な速さで土下座した。
(ええーーー!?)

 度肝を抜かれたのはパルスィである。自信満々でやってきたから、何か手があるのもの
だとばかり思ったのだ。周りに聞こえてもおかしくないほどの声量と、ありあまる気迫。
これが地底のアイドルの自援護力なのか、恥もプライドもない飛び込みカミカゼ!

「マジすんません真剣勝負とかホントマジシャレならないんで勘弁してくださいマジムリ
なんでお願いしますなんでもします熱湯風呂でも地底ロケでも枕営業以外はマジイケルし
私こうみえてわりと着痩せするタイプっていうかとにかくマジホントガチバトルとかマジ
ムリ何で(ここで息継ぎ)、会場を盛り上げつつうちらが勝って興業も成功させてとうまい
落としどころをなんとか一緒にこうさがしてもらいたいっていうか何手いうかもう負けて
くださいお願いします!」

(ないわ……ヤマメ、それはー、無理、傍目から見てもマジムリ……)
 パルスィは相方を妬むことさえできず、哀れなモノを見る目で、その背中を見守るしか
なかった。こんなに彼女の背中は小さかったのだとこの時、彼女は初めて知った。

「……とりあえず、中へどうぞ」
 部屋の中の明かりが逆行となり、オノマンの表情を窺い知ることはできない。しかし、
ヤマメにはそれが光明と移ったのか、闇ばかりの地底に不自然に灯る光の中へと転がり
込んでいった。

「……どうぞ」
0134創る名無しに見る名無し
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2014/11/04(火) 00:01:42.55ID:N/1QzXHi
「あ……どうも」
 パルスィがお茶を受け取る。控室には河童印の給湯器とオニマークの湯のみと出処不明
の茶葉が置かれている。備え付けのものだがこういう基本的なもてなしでさえひどく新鮮
だった。薄い板壁と石のタイル、天井からぶら下がる白熱灯が四人の姿を浮かび上らせる。

「あ……えと、その、そっちの人の怪我のほうは……」
 ヤマメが遠慮がちに訊ねた。見ればすぐそこの床には胴体を大量の包帯で覆い、床には
赤い血の沁みが広がっている。狭苦しい室内の大半を巨漢二名が占有し、一人が大量流血
しているのだ、鉄臭く、はしゃいでる女性二人の姿は異様なことこの上ない。

「傷が片方の肺に届いている。あまり喋らせられない。次の試合までにはなんとか塞がる
が、戦えるかは分からん」

「そ、そうですか」
「で、さっきの話だけど」
「あ、はい」
 流暢な日本語でオノマンは応対する。周囲にさとり達がいるときは敢えて片言で話すが
今は別だ。さとりは分かっているが、自分達たち上手く話せないほうがお空やお燐は接し
やすいだろうと考えてのことなのだが、現在彼女たちは近くにいない。

「オレ達の目的は優勝じゃない。この興業を盛り上がったまま成功させて次に繋げること
なんだ。その点じゃあんた達に譲っても何の問題もない」
「え、本当!?」

 がっつくヤマメの袖を引っ張るパルスィ。慌てて正座し直しすと、ヤマメはオノマンの
次の言葉を促した。

「ただこのまま普通に八百長しても客にばれて白けてしまう。それは駄目だ。かといって
お茶を濁しましたというのが透けて見えるような組立をしてもダメだ。できれば戦闘以外
で、盛り上げられて、尚且つ最終的にあんた達が勝てるような筋書きを書かないとダメだ。
できる?」

「要は番組の段取りを自分で用意してこいってんでしょ?やってやるわ!」
「えちょ、ヤマメ。このあと試合まで2時間もないのよ。用意ったってどうすれば」
「だーいじょうぶ!こんなこともあろうかと、日頃自分で考えてた番組プログラムの案が
ちゃんと頭に入っているわ!心配ない!」
0135創る名無しに見る名無し
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2014/11/04(火) 00:02:23.78ID:N/1QzXHi
 パルスィとオノマンはイタイ奴を見る目でヤマメを見つめた。ヤマメにはきかなかった。
「そうと決まれば簡単よ、運営とちょっとナシつけてくるから会場に三人分の机とマイク
をあたしの長屋から搬入よろしく!」
「ちょっとヤマメ!もう!」

 気を過剰に取り直した地底のアイドルは血生臭い楽屋を飛び出していった。もう一人の
アイドルはといえばうんざりしている。苛立ちと疲れがない交ぜになった表情には悲しい
慣れがあった。

「急ごう。時間がない」
「あ、はい」
 オノマンの事務的な前向きさに促され、パルスィは思わず返事をしてしまった。渋々で
はあるが、こうして流されている分には退屈しない。間欠泉の異変から他人と交流を持つ
ようになったが近寄ってくる者はヤマメのような物好きか、あるいは自分が足元にも及ば
ない強者だけだ。前よりも恒常的に、健康的に妬めるようになったことはよかったが、今
みたいに後悔するようなこともある。

常に夜よりも暗い地底に、祭りのような明かりがそこかしこにひしめいては、影を作り、
妖怪達を動かし続ける。

「ほんっと、前の私が妬ましいわ……」
 楽屋の出てヤマメの家へと向かいつつ、パルスィは以前の自分の安定を妬んだのだった。
0136創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/11/16(日) 22:32:15.66ID:pMbmXEaI
――さあ、やってまいりました決勝戦。組み合わせは毒呪チーム対地霊殿チームとなる訳
ですが、ここで大会の運営委員会から連絡があります。

やはりクーキン選手は欠場でしょうか、相当に深手を負っているようでしたからねえ。
戦いに出ても厳しいものが

――いえ、決勝戦の方式を変えるようです。毒呪チームの申出だそうですが運営委員会は
これを了承したようで、地霊殿チームもこれを受け入れたそうです。理由は「このまま両
者が戦っても先ほどの試合のように盛り上げられるか疑問だから」だそうです。勇儀さん?

とても試合前の闇討ちを『手間が省けていい』と言っていたとは思えませんがまあ良し
としましょう。それで決勝戦はどういった試合形式になるのでしょうか

――おっと、今機材が会場に運び込まれて来ました。ええと、手元にある情報ですと……

まほうつかいさん?

――く

 く?

――クイズ大会のようです……

 ……………………………………………………………………………………え?
0137創る名無しに見る名無し
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2014/11/30(日) 22:49:14.30ID:cwYmfmkc
――さあ始まりました地底モンスター格闘場タッグトーナメント決勝戦クイズ大会!
司会は引き続きワタクシこと魔法使いと!

星熊勇儀でお送りします。

 回答者僅か3名の席には既にパルスィ、オノマン、ヤマメが着席している。何故か衣装
は普段着に戻っている。逆にオノマンは重装備をしている。

――さあ、セットは地霊殿及び黒谷ヤマメ選手の提供。まずは決勝戦開始前に各選手への
インタビューをお願いします。

分かりました。まずは、ヤマメ選手、これはまたどういった経緯でクイズ大会になったの
でしょうか。

「はい!ボロ負けや塩試合の決勝戦だと次からお客が入らないと思ったので、私が!急遽
考案したんです!偉いでしょう!ではルール説明です!」

 ヤマメが自分の貸し出したマイクを催促する。こういうときだけ強気だ。勇儀は渋々と
差し出したマイクをひったくると、ヤマメは観客席に向かって声を出した。

『ルールを説明します!まずは会場備え付けのスペクテーターをご覧ください!ここに!
私達が出されたのと同じ問題が出題されます!みんなも一緒に考えてね!』

ヴォ―ヤマメチャーン!!

『何問かあるけどお約束として最後の問題に正解したほうが優勝!けどそれだけじゃ途中
だれるから、要素として!正解するごとになななんと!服を!脱ぎます!』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「ばっ!ちょ、ヤマっばか!ちょっええ!?」

――これは大変なことになりました。今のうちに賭け方を提示しておきましょう。単勝の
他は1−3位までの順位で連番、別賭で誰の服が何枚残るかの予想もあります。皆さんは
どうぞ奮ってご参加ください

これはいやでも盛り上がりますねえ。最後で一気にいつもの空気に戻されましたよ。
0138創る名無しに見る名無し
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2014/11/30(日) 22:49:44.16ID:cwYmfmkc
――ええ、負傷したクーキン選手は参加できず地霊殿チームはオノマン選手のみですが、
彼には様々なハンディが与えられているそうです。

『一方的な仕合展開は駄目絶対!彼には回答するにあたり三つのお助け機能の使用が許可
されるわ!周囲の回答を参考にする「聴衆」!自分の脱ぎ具合を相手と同じにする「折半」!
そして楽屋にいる相方に丸投げする「相棒」!』

けっこう奮発しましたね。

『そして!答えを間違える度に一枚ずつ脱いでいく訳だけど、正解するごとに、服を一枚
着るか、相手を脱がすことができるという方式を採用!』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

がっぷりスペクテーターの前にかぶりつく観客!鼻息が既に荒い!

『これで最後の問題までは緊張感を持って進められるわ!』

いつもの宴会の様相を呈してきましたが一向に構わないという空気が会場に蔓延しており
ます。これは見ものです。

――脱ぐことを考えて普段着に戻したとしたら彼女は賢いなint400くらいあるんじゃね?

何はともあれ説明はこれで済んだことですし次はパルスィさんに聞いてみましょう。水橋
選手、今の心境は?

『もうかえりたい……』

ありがとうございます。さあ、今や会場の期待を一身に引き受けることとなったオノマン
選手、今の心境は?

『ときはきた。それだけだ』

闘志に満ち満ちた応えをありがとうございます。では最後にそれぞれの装備を確認して
最後のインターバルとします。
――さあ、記念すべき第一問はこのあと!
0139創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/11/30(日) 22:50:24.94ID:cwYmfmkc
オノマン 装備

Eこんとんのおの
Eちりょくのかぶと
Eやいばのよろい
Eふうじんのたて

その他
Eふくめん
E白サブリガ
Eアミタイツ
Eしあわせのくつ

やまめ 装備

Eやすもののマイク
Eリボン
Eぬののふく
E革の靴

ぱるすい そうび

ぶき なし
あたま なし
E ぬののふく
E 革の靴

※ぬののふくの脱衣には二回必要 ぬののふくが脱げると下着に
※下もぬののふく同様 脱衣には二回必要
0140創る名無しに見る名無し
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2014/12/14(日) 23:23:03.72ID:W7eaVVlp
――さあ大変なことになってまいりました。何が大変って『地底闘技場クイズ大会決勝戦』
字面が既に大変なことになっております

そして試合展開も既に7問目を迎えている訳ですが、オノマン選手は怒涛の6枚落ち。
会場の期待を一身に背負い残すは覆面とパンツの2枚のみ。電光石火のお手つきで問題文
を聞くことなく間違えております。

――お気づきの方もいらっしゃいますでしょう。この時点でパルスィ選手は即死が確定。
ヤマメ選手にも大手がかかっております。

「ぐ、こんなの反則じゃない……もともと全裸同然だったくせに……」
「落ち着きなさいパル!勝負はここから!残り一枚を賭けて最終問題までいくわよ!」
「ミンナ!あと一枚脱いだら『聴衆』使うから!よく考えて投票してね!」

――さあオノマン選手は会場の観客に向かってどちらを脱がすかを委ねるようです。

 否が応にも盛り上がります。さあ気を取り直して第7問。地霊殿の顔役と言えば火炎猫
りんですが

「え!?」

 最近は応対するのがほとんどあいつなんだから合ってるだろ。で、その火炎猫りんの胸
はDカップあるわけだが

「え!?」

 知らなかったのか?あいつパルスィよりでかいぞ

「言わなくていいわよド畜生!」
 今や衆目に小っ恥ずかしい姿と情報を晒すこととなった橋姫の顔は内側から出血するの
ではと危惧できるほどに赤くなっている。

 その友達の地獄鴉の霊鳥寺空のバストのサイズは?

――さあ公共の電波で公然と猥褻をかましていくスタイル。司会の勇儀さんのいたずら心
が光ります。知らないかたのために写真を用意しました。どうぞ
0141創る名無しに見る名無し
垢版 |
2014/12/14(日) 23:23:40.78ID:W7eaVVlp
『おお、けっこうかわいい』『背高いな……』『Eあるだろこれ、F?』
『いやノーブラのDでEよりならギリギリこれくらい』

――回答者の皆さんは沈黙を保っております。この見え透いた二者択一、際どいラインを
踏み外せば勝利と安全は保てません。オノマン選手は正解を恐れて答えられずヤマメ選手
は不正解を恐れて答えられない。

 オノマン選手からすればどちらが脱げても致命傷ですし、ヤマメ選手も手が出せません。
このままだとタイムアップで答えが出ます。

 では仕方ないので正解は……・

 勇儀が会場に手招きすると、ちょうど見に来ていたお空が自分を指さした後会場に降り
立った。勇儀はおもむろに自分の胸をよく揉んでから、彼女の胸を揉みしだいた。無邪気
にくすぐったがる少女の声に会場が前のめりになる。

 よし分かった。もう帰っていいぞお空、ありがとう
「うにゅ、じゃあね勇儀さん!」

 手を振って帰っていく後ろ姿を見送ってから、勇儀はマイクを握りなおした。皆の目に
は心なしか手には湯気が立っているような気がする。

 では答えを言おう……霊鳥寺空の胸は…………

『ごくり』

 F!

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『スゲエ!』『ご立派!』『ありがたや!』

――さあ、驚愕の正解とその興奮に沸き立つギャラリー、熱を冷まさない内に次の問題に
移りましょう、勇儀さんお願いします。
わかりました。では第8問!
こうして決勝クイズ大会は更に熱くなり、勇儀のセクハラまがいの出題が続出、双方共
にまんじりともせず最終問題を迎えたのだった。
0142創る名無しに見る名無し
垢版 |
2015/01/11(日) 23:40:23.14ID:KtsIjFeM
――いよいよこのクイズ大会も最後の時を迎えております。最終問題ですが、この問題に
正解すればオノマン選手は女の子を脱がせて見事優勝、毒呪チームなら無事着衣のまま逆
にオノマン選手のパンツを脱がすことができます。

――ここまでのハイライトです。途中から勇儀さんが知り合いを辱めるセクハラを問題に
し始めて、日本語って難しいですね。勇儀さんが知り合いを辱めるようなセクハラを問題
として出題していった……ですね、ここまでで判明したのは

・さとりの下着は同じ物しかない。〇か×か
 ヤマメとオノマンが回答、両方〇で正解、権利が相殺となる
・さとりの妹ことこいしは逆に下着の種類が豊富である。〇か×か
 パルスィが回答、〇で不正解、靴を脱ぐ
・キスメは桶から出ることは絶対にない〇か×か
 回答者なし、正解は×
・火焔猫りんのオスの経験数などなど

――振り返ってみると知り合いを社会的に血祭にあげるかのような出題であります。問題
は既に用意してあったはずですがどうしてこんなぶっつけ本番で路線を変更したのか理解
に苦しみます。

下品なほうが地底では面白いから。

――回答ありがとうございます。では出題のほうをお願いします。

分かりました。では最終問!

 どこからか聞こえ始めるドラムロール。

『ごくり』

サービス問題です。

『!』

地底で いちばん かわいいのは 
0143創る名無しに見る名無し
垢版 |
2015/01/11(日) 23:40:52.97ID:KtsIjFeM
この星熊勇儀である! 〇か…………×か!

 彼が正義を体現するまでの僅か、1秒にも満たない僅かの間に、会場全体で予想と期待と
裏切りと怒りと怖れと憐れみ、ありとあらゆる感情が混濁し、空間に凝縮される。

 凍りついたのはヤマメ、逡巡するは媚びるか、それとも覇を唱えるか、それは己の進退
を賭けた選択、それを番組に繋げられるか。この一問により生じた圧倒的な量の選択肢、
そして自分の立ち位置が試される。それでも戸惑うことも、躊躇うことも許されない。

汗が 背中に、首に、股下に、滝のように滲む。

 呆れたのはパルスィ、ここに来てそんなことを言える図渦しさが妬ましかった。今まで
流されるばかりだったので、ここでの妬みは癒しのようにさえ思えた。この馬鹿馬鹿しい
問題に答えれば晴れて自分は帰れるのだ、パルスィはとっととボタンを押して答えようと
思った。

そして時は動き出す。






――はい!――

――早い!
オノマン選手、回答をどうz


「違います!」


 電光石火の早押し。そして宣言。これが噂に名高い「正直者の死」か。誰もが固唾
を飲んだ。可愛い女の子の脱衣がどうこうという話では最早ない。彼の言葉は、この場の全ての者の心の代弁であった。出題時、満面の笑み浮かべていた鬼の顔は、今……!
0144創る名無しに見る名無し
垢版 |
2015/01/11(日) 23:41:49.47ID:KtsIjFeM
「……………………回答は全文でお願いします」
「星熊勇儀が地底で一番可愛いのは違うと思い、違います!だから、×です!!」

(言い直した!?なんて勇気だ!)
 会場が静まり返る。勇儀の顔は『何も見ていないときの貌』だった。やがて彼女は、
小さく俯くと、肩を震わせ始める。だんだんとそれは大きくなり、ついには大声を上げ
て笑い出したのだ。

「はーっはっはっは、ヒー、ヒー!そ、それでいいのかい?本当にその答えで?」
「『相棒』と『聴衆』も使う!」

――これは!?会場の流れが、全ての答えが「×」に傾いています!いったいこの瞬間、
何が起こっているのか!決戦めいた空気、意思の統一が果たされた対立のムード!
力に対して否と言える度胸、それは勇気か!言葉という形にする、それは正義か!
さあ、結果は!?勇儀さん!

「答えは」


「答えは×だ!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

――なんということでしょう!なんという幕切れか!地下格闘場クイズ大会決勝戦!優勝は地霊殿チームです。早速ですが優勝者へのインタビューを勇儀さんお願いします。

うむ。正直でいる勇気、とくと見せてもらった。見事だった。何か言うことはあるか?

「まずは回答のポイントでパルスィを脱がす。そしてあまったポイントでオレが脱ぐ。
最後に『折半』使ってヤマメも脱がす。オーケー?」

「は、なにそれ!?」
「その手があったかー!」
 机を叩いて立ち上がるパルスィと頭を抱え悔しがるヤマメ。
「オーケー!」 快諾する勇儀。
――さあ、それでは優勝者には賞金とアイテムが胴元である地霊殿より送られます。
0145創る名無しに見る名無し
垢版 |
2015/01/11(日) 23:42:56.75ID:KtsIjFeM
それは異様な光景だった。表彰台には覆面で全裸の男と全裸の女性二名が立っていた。
『覆面は着けてていいから一つ着させて』というヤマメの単眼によりヤマメはリボンを、
パルスィは靴を装備している。

 優勝おめでとう。これが賞金だ。

封筒を渡す勇儀。オノマンは手刀を切ってからこれを慎んで受け取った。
「ごっつぁんです」
 そして顔面を掴まれた。次の瞬間には彼は思い切り投げ飛ばされて、格闘場の、正確
には地底の天井を突き抜けて飛んで行ってしまったではないか。
 呆気にとられる観客を前にして、勇儀はマイクを握りしめていた。

「私は正直者が好きだ。けど私だって女だ、可愛いかと聞いて×をくらったとあっちゃ黙ってられないんだよ厚かましいことは分かっているけれども!」

――勇儀さん!?

「茶番に付き合うのはここまでだ!愚か者共がッ!皆殺しにしてくれるワッ!」

 そういうと顔を血の様に真っ赤に染めた勇儀はマイクを投げ捨て観客席へ突撃した。
上がる悲鳴と破壊音、かくしてモンスター格闘場第一回大会はこうして幕を下ろした。
こんなことがあったにも関わらず、モンスター格闘場は地底の新たな観光スポットとし
て定着することとなったのだった。

「結局、あたしらなんだったのかしら」
 全裸に靴だけ履いたパルスィが渇いた声で呟いた。
「芸人としては、まだまだ半人前ってことよ……パル」
「あ、そう」
 同じく全裸なのに全く気にしていないヤマメの言葉に、最早気持ちが動かなくなった
パルスィであった。そんな彼女たちもいつしか楽屋へと帰って行った。


 果たして遥か遠くに投げ飛ばされたオノマンはどうなってしまうのか。重症を負った
相棒(何気に×回答してくれた)のクーキンは?

仲魔達が幻想入り地底編 終了
0146創る名無しに見る名無し
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2015/01/26(月) 22:54:51.80ID:uiqNVM5c
「何よお礼参り?上等じゃないの、ほら!あんたたちも居候なんだから手伝いなさい!」
「てめえ主人公だからって図に乗るんじゃねえぞ!」
「喋らないならまだしも話しを聞かない主人公とか冗談じゃねえホ!」
「お、落ち着いて、二人とも落ち着いてください!」

 場所は変わって地下闘技場クイズ大会が終わった日のことである。
一つのアマラ宇宙から悪魔が消滅するという危機に直面、奇しくも幻想入りしたジャックフロストとオニ
は表向きの職業としておでん屋台を営みながら幻想郷中を巡っていた。
 先日紅魔館において同じく幻想入りしたオオツキとスペクターをレミリアたちと共
闘しこれを倒した彼らは、外の世界と唯一接している博麗神社を目指して旅立った。
 そして再び人里に差し掛かると路銀稼ぎに店を開いた。開看板娘を取っ換え引っ換え
しながらのんびりとした資金集めに精を出していたところである。

ことの発端はこれよりも少し前まで遡る。
0147創る名無しに見る名無し
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2015/01/26(月) 22:55:29.82ID:uiqNVM5c
「ここまで帰ってくるのにエライ時間がかかったホ……」
「そうか?道覚えてるし前より短かった気がするぜ」
「こっちの話しだホ」

 晴天の下、冷たく湿った風が吹き冬の近づきを感じさせる日のことだった。フロスト
達は紅魔館からこちら、ときには雨に降られたり、客がこない日にため息を吐いたりし
つつ順調に旅を続けていた。旅というより巡業であるが。

「こっちの道なら屋台止めていいそうです!」
「あいよ、今いく!」
 同行者となった美鈴の声にオニが屋台を牽いていく。ここは人里から丁度一歩出た所
である。
「ここでしばらくお金を稼いで支度を整えたら、いよいよ博麗神社ですね」
「長かったホ。美鈴が客の呼び込みをしてくれなかった危なかったホ」
 人里の人間達の目は割と節穴だったり、自分に益があれば妖怪と分かっていても割と
すんなり通すなど「貧すれば鈍する」を地で行く性格をしている。
よく見ると街に座敷童やホフゴブリン、妖精などが徘徊している。また人型の妖怪は
それと分かる奇抜な格好、帽子をしていないと分からないらしく、田舎なのにあまり人
の顔を覚えていないようだった。

「おお、おまえさん、もしや前にあった妖怪さんじゃないか」
「ん?あ!運松のじいさん!久しぶりだな、夏以来か!」
 屋台の仕込みをしていると不意に声をかけられた。振り向けば、そこにはオニがこの
幻想郷に来たばかりの頃に世話になった翁がいた。流石に厚着をしており、釣竿や魚籠
は持っていなかったが、仙人然とした顔つきは見間違えようがない。

「誰だホ?」
「職漁師の爺さんだ。妖怪の山のなんとかっていう滝壺」
「玄武の沢ですか?」
「そうそう、そこでオレにこの幻想郷のことやら土地のことを教えてくれた人だ。右も
左も分からなかったおのぼりさんのオレは、この人に随分相談に乗ってもらったんだよ」
 席を出して座る様に促しながらオニが説明する。運松はそこに腰かけながら顔の前で
小さく手を振った。

「なーに、お前さんには命を助けてもらったからのう。まだまだ恩は返し終わってないわい。ほっほっほ」
0148創る名無しに見る名無し
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2015/01/26(月) 22:55:55.23ID:uiqNVM5c
「お前何やったんだホ」
「妖精が爺さんを驚かすのにしくじってまとわりついていたところにだな、偶然クマが
現れた場面に遭遇したんだよ」
 おでん槽を河童に修理に出した際に妖怪の山の天狗の話しを聞いた彼は、道中でその
光景に直面し、咄嗟にクマと運松達の間に割って入ったのだ。

「いやあ、あの大熊相手に一歩も退かず投げ飛ばしたときは胸が掬われたようだったわ」
「へー、やるもんですねえ!」
 赤くて分かりにくいがオニは照れた。
「それでお前さん、こんなとこで屋台なんぞ出してどうなすったんじゃ」
「へえ、じつは斯く斯く云々で」
「なーるほーどのーう」
 豊かなあご髭をしごきながら運松は頷いた。

「爺さんは何してたんだホ?」
「ん、なんじゃお前さんは」
「おいら外国から来た雪ん子のジャックだホ!こっちの娘は看板娘のみすず!」
「ちょ、日本語」
「ほうほう外国の……おかしな取り合わせじゃが、まあ色々あろうて。儂は沢に仕掛け
を施してきた帰りなんじゃ」

 フロストは鰻を獲る籠を想い浮かべたが、運松はそうではなく、溜めこんでおいた柴
のいくらかを細工し、水底に敷いて魚が来やすい支流を作っていたのだと言った。
 簡単に魚の習性と住みやすい環境を挙げる、今度は川のどこにどうアプローチすれば
その環境を作れるかを説明した。

(この爺さん自然科学やってるホ……)
「流れが例年通りなら、この先もそこそこ釣れるじゃろ」
「ホー。おいら達も今度はしくじらないように頑張るホ!」
「なんじゃ、この屋台上手くいかなかったのかの?」

 聞かれてオニはばつのわるそうな顔をした。前掛けを握る手に力がこもる。
「前は天狗に騙されて……巫女にまんまとやられちまって……」
「そこまでは上手く行ってたんだホー!」
 それを聞いて美鈴と運松翁は『ああ』と頷いた。幻想郷の天狗は火のないところを
燃やして煽ることを生きがいにしている。幻想郷の人妖にとって共通の厄介者なのだ。
0149創る名無しに見る名無し
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2015/02/08(日) 22:55:54.36ID:4zA1fn5p
「今となっちゃあ昔のことよ。なーに今日からはまた仕切り直しだ。爺さんも呑んで
いってくれよ」
「ほっほっほ、それじゃあありがたくご相伴にあずかるとしようか」

 運松翁は熱燗を頼むと、餅巾着を三人の心配をよそにたくさん食べた。人徳だろうか。
彼がいる間に、好奇心に駆られた人間が数人おずおずと現れ、席へと腰かけては、各々
勝手な注文をしていく。

「おう、なんだい兄さんがた、いいのかい。ここは妖怪の屋台だぜ?人間は出してない
けどよ、色々と不味いんじゃないかい?」
「うちのおでんはちゃんと美味しいホ」
「そうじゃなくてフロストちゃん」

 わざとらしく子どもアピールするフロストとフォローする美鈴。ここまでは予め想定
及び対策済みだ。
「いやあ、だからまあ、爺さんがとって食われないように助けにきてやったんだよ」
「そ、そうそう。あとはほら、ここで俺らが毒見役になっとけば、色々と安心だろ?」
「ほほー、そんな殊勝なことを」

 男たちはわざとらしく咳払いすると、出された酒に口をつける。
「うちだって客商売だ。毒なんか酒しか出さねえぜ」
「そりゃ、大変だ!」
飲んだくれが数人出来上がり、千鳥足のまま里へと帰っていく。いつの間にか日も沈
みかけ、夕映えがオニの顔を余計真っ赤に染める。

「さあ、これからが操業時間だぜ」
「ここで軍資金を溜めるホ!」
「余裕があれば私も何か作りますね!」

 そうして人里を一歩外に出たところに、再びオニのおでん屋台が戻ってきた。
 博麗の巫女に一度は追い出されたものの、二週間経たずに帰ってきた懲りない妖怪の
 店主の人柄と、売り子の二人の接客態度も加わり評判は"そこそこ"良かった。
 
 狭い世間に口コミの風が吹けば、途端に客足を運んでくる。仕事に疲れた座敷童や、
人間に化けている妖怪、妖精等々も来て、以前と変わらない賑わいを見せ始めた頃、
その日はやって来た。
0150創る名無しに見る名無し
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2015/02/08(日) 22:56:23.19ID:4zA1fn5p
「空いてるかーい」
 それは丁度客足がぷっつりと切れた真夜中のことだった。屋台の頭上には月が煌々と
光を投げかけている。すっかり息も白くなる日々に響いたのは、幼さを残した、どこか
懐かしい声だった。

「あ、姉さん!」
 鬼は屋台裏から回り込むと、訪れた少女、息吹萃香に駆け寄った。季節感のない半袖
半ズボン。
「て、テメー!テメーのせいでこちとらとんでもねえ目に遭わされたんだホ!」
「二人ともお知り合いですか?」
「前にちょっとな」

 きょとんとしているのは一応の知人の紅美鈴だ。今の彼女は緑を基調としたチャイナ
ドレスに身を包みんでいる。とはいえ寒いので上着代わりにと和服を仕立て直した物と、
腰から下には生地の厚いエプロンを着けている。長い髪は白い手拭いで後ろでポニー
テールにしてまとめている。

「いやーその節は本当にごめん。あれは事情があってねえ」
「おいら子どもじゃねえからいい訳は聞いてやるホ」

 あんがと、と言ってから萃香は屋台の席に座ると、自前の瓢箪に口を付けてから事情
というものを語り始めた。

「天狗がこの屋台のことを記事にして、あんたらは巫女にやられちまったろ。あれには
天狗なりの気遣いがあったんだよ」

「気遣い?」
 屋台に戻りさらに具を盛りながら、オニが聞き返す。
「そうさ。あの天狗は生意気にもあたしを追い出したかったのさ。だからあの記事を
書いてあたしを霊夢、いや巫女に追い払わせたかったみたい。御大層にあたしがいたら
皆怖がって近寄れないとかなんとか大義名分を用意してたけど、本音はバレバレ」

「つまりどういうことです?」
「女の人が嫌いな女の人を追い払うために嫌いな女の天敵を呼んだけど、呼ばれたほう
は手がつけられなかったってことだホ」
「身もふたもないけどそういうことだね」
0151創る名無しに見る名無し
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2015/02/08(日) 22:56:58.43ID:4zA1fn5p
「確かにある程度以上の大妖怪が来るとなると、妖怪側の客足は少なくなりますね」
「虚仮にされたお返しにたっぷりとっちめてやったけどさ。まああんた達が無事で
何よりだよ。本当に迷惑かけたね、ごめん」

「いいんでさあそんなこと。で、今日は何にしやしょ」
「いや、その前に今日はさ、その、お詫びも兼ねて客を連れてきたんだ。おーい」

 萃香が声をかけると、びくり、と怯えるような空気が突如何もない空間に滲む。
急にひそひそと何か話し合う声が聞こえ出したが、観念したのか、彼女たちは姿を
現した。
0152創る名無しに見る名無し
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2015/02/23(月) 08:53:32.44ID:4KSeCLB2
「あ!お前らは!」
 驚いたオニの前に現れたのは小さな妖精が三人。それぞれが似た姿をしているが恰好
というか色合いが異なる。
「いやー」「そのせつは」「おせわになりました……」
 左から順に気まずそうに言うのは以前に翁やオニと一悶着を起こした妖精の少女達
だった。それぞれ活発そうな金髪のショートヘア、同じく金髪の縦巻きロール、黒髪
の長髪と特徴的な髪形をしている。
「それと、おうい。ちょっと出てきておくれよ」
 萃香が自分の胸に話しかけると、もぞもぞと何かが動き、服の合わせ目から彼女が姿
を現す。
「は、はい……」
「おー、小人ですね。咲夜さんから聞いてはいましたが見るのは初めてです」
 美鈴が本当に小さな人形のように彼女を眺め呟く。
「姉さん、これはいったい」
 オニはどこからか追加の席を出しながら訪ねた。
「言ったろ?詫びに客を連れて来たって」
 萃香は小気味よく片目を瞑ると、連れてきた少女たちを振り返り席に着くよう促す。
「今日はあたしのおごりだからさ!思い切り飲み食いしてよね。あたしの面子のために」
 意地の悪い笑みを浮かべる萃香に、妖精たちと小人はジャパニーズスマイルを浮かべ
つつ腰かけた。
「まあそういうことなら」「ありがたく」「いただきまーす!」
「謝りたい人がいるから付いてきてほしい、というのは嘘じゃなかったんですね」
三妖精が席に着き、小人も狭いカウンターの上に座った。
「まあ、いいホ。んじゃあ改めて……いらっしゃいませー!」
「「いらっしゃいませー」」
 新たな客と再会を祝し、夕映えが月夜に代わるまで、オニは彼女達をもてなして、
萃香たちもまた、小さな屋台での飲み会を楽しんだ。
0153創る名無しに見る名無し
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2015/02/23(月) 08:54:53.30ID:4KSeCLB2
「こんにゃく!」「たまご!」「あつあげ!」
「旗立ててやろうかホ?」
「デカパンでしたっけ?」
「どっちも違えーよ」
 
 屋台は繁盛していた。人里から仕事上がりにとやってくる座敷童なども増えて、今では
そこらへんに座る者も出始めた。
「へい熱燗ふたつね!そっちはばくだんでよかったっけ」
「お勘定が団体割引と席なし割引で、えーっと6銭ですホ!」
「ありがとうございましたー!」
 日もとっぷりと暮れて、人里のほうも家々の明かりが灯り出す。夜は妖怪達の時間だ。
しかし皆で酒を飲んでいる時間はまだまだ夜とは言えない。
「今日は良い日だわ」「たまにはこういうのもいいわね」「おなかいっぱいだわー」
 すっかり出来上がった妖精たちが満足げな声を出す。
「それにしても今日はお客が多いホー!」
 店側の妖精は嬉しい悲鳴を挙げる。
「へっへっへ、やっぱこういうのがいいよね」
 萃香が鬼に似合わぬ恵比須顔で呟く。この活況の一部は、彼女の能力によるものだが
それを言うことはなかった。野暮ったいからだ。
「でもこれだけ盛況だと、却って心配になっちゃいますね」
 美鈴が表情を曇らせる。人里からの評判が気になっているのだ。
「まあなあ、真っ当な商売してるけど、俺らは妖怪だからな。いつまたあの巫女みたいな
怪物がくるかも分からねえ」
「噂をすると影が差すホ。めったなこと言うんじゃねえホ」
「霊夢もなあ、もうちょっと空気が読めればなあ。だから浮くんだよなあ」
 話題が知人に飛んだことで、萃香の表情が曇る。
「お知り合いで?」
「まあね、幻想郷の妖怪側じゃ有名人だし」
「霊夢さんは」「ねえ」「頭が浮いてるのよね」
 妖精たちが便乗すると、話が聞こえた他の客も次々に“博麗の巫女”への不満や恨みを
口にし始めた。やれ通り魔みたいに攻撃してきただの、言いがかりをつけて物を奪ってい
くだの、妖怪を妖怪とも思ってないような不気味さがあるだの。
「可愛げないんだよなあ。まあそこが可愛いんだけど……」
 周りから噴き出す声に頷きながら萃香も呟く。やはりというかなんというか、悪魔を狩
る側の人間の評価は良くないようだ。もっともだとはオニも思ったが。
「まあ、な。できればよ、悪さしてないうちは、大目に見てもらいてえがよ……ん?」
0154創る名無しに見る名無し
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2015/02/23(月) 08:55:45.43ID:4KSeCLB2
 オニが違和感を感じて空を見た。気のせいだろうか、彼は始めそう思ったが、どうにも
それではないらしいことは、フロスト、萃香、美鈴、そして一部の妖怪達も感じ取ってい
ることからも明らかだった。皆一様に険しい顔をして空を見上げている。
 次々におあいそに移る彼らに、フロストは事務的に済ませる。皆打ち合わせたように撤
収していく。美鈴は食器を片づけ、鬼も店じまいに終える。
「……今回は間に合ったみてえだな。忘れもしねえ、このデカイ気は!」
「今回は前みたいにはいかねえホ!」
「あれ?」「なに?」「おひらき?」
 分かっていない三妖精を横に、フロスト達は身構える。
「おかしいね、今回はどうして来たんだろう」
 いくらか酔いを醒ました萃香が平坦な口調で言う。果たしてそれは、遠くの夜空から高
度を下げてくるにつれて、その輪郭をはっきりとさせていく。悪目立ちする物騒な千早。
手にしたボー。間違いない、博麗霊夢だった。
 彼女は静かにオニたちの前に降り立つと、周囲を見渡し彼らの姿を認めると子ども落書
きみたいな張り付いた笑顔を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
0156創る名無しに見る名無し
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2016/04/14(木) 22:37:38.10ID:A/8I7r6G
「懲りない奴らね。こんどは見逃してやらないわよ」
『げっ霊夢さん!?』
 お祓い棒を弄びながら歩み寄る少女。それを見て悲鳴を上げて後退る三妖精。

「前よりも数が増えてるわね……」
 霊夢が舌打ちする。見知った顔がいるせいか余計に期限が悪そうだ。

(どうします?怒ってる博麗の巫女とかどうしていいか分からないんですが)
 鬼のすぐ後ろから美鈴の声が聞こえてくる。その調子には不安を帯びており、音量も小さかった。

(安心しろ。この時のために打ち合わせは済ませてある!)
(戦うという選択が間違っていたんだホ!)

「ごちゃごちゃ言ってないで大人しくしなさい。一人ずつ退治してあげるか」
『申し訳ございませんでしたーー!!』
「っ!?」

 一瞬の出来事だった。霊夢が一歩を踏み出すと同時に、鬼とフロストは相手の直前へと滑り込んだのである。土下座で。

「いやーまさか御嬢さんがあの博麗の巫女とはつゆ知らず、とんだご無礼をしまして!さ、どうぞどうぞどうぞどうぞ!」
「え、ちょっと」
「生意気な態度をとっても申し訳ありませんホ!あ、これはサービスですホ!!」

 二人は有無を言わさぬ勢いで霊夢を強引にもてなした。次々にさらによそられる具、コップに注がれる酒、わざわざ二人でゲージを溜めて必殺の域まで高めた「ゴマをする」であった。ともに修羅場を潜った二人だからこそ可能な奥の手であった。

「まさかこんなかわいらしい人があんなに強いだなんて思いもしなかったっすよ!」
「なんていうか主人公って感じがしてすごいホ。きっともう大活躍しきりなんだホ!」

「え、ええっと、いやまあその」
(おお?)
 霊夢の態度が変わりだしたを見て、知人たちの反応も変わる。
0157創る名無しに見る名無し
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2016/04/14(木) 22:38:42.36ID:A/8I7r6G
「いやね、実をいうと俺たちずっと博麗神社に行きたいって思ってたんですよ」
「オイラたち元はといえば式神みたいなもんだホ。だからあんまり野良妖怪っぽいことは気が引けて、ごめんなさいだホ」

「そ、そうなの。あ、そのこんにゃくとって」
 いつの間にかお箸が進んで催促までし始める。霊夢のまとっていた殺気は既に消えていた。
「話せば長いんですが、ちょっとした事情がありまして、ええ」
「はーん、要するに、式神ってことは飼い主と帰りの手段でも探してたってわけね?」
「流石巫女さんだホ!オイラたちが新参ってそういうことだほ!」

 肩を揉むフロストが賞賛する。あまりちやほやされた実感がない霊夢はだいぶできあがってきているようだった。

「それでこんな目立つことやってたわけね」
「え、ええ」
 言いよどむ鬼。目立たせたのは別の要因だし、人探し屋台をやってるわけでもない。

「そ、それでですね。どうか俺たちを博麗神社まで連れて行って貰えませんかね」
「え〜めんどくさいなあ。ま、いいわ。悪事を働くつもりはないみたいだし、退治して弁償とか飼い主から言われても嫌だしね」

「まったく、で、あんたたちは何してたってわけ?」
 そこで今度は外野になっていた美鈴たちに視線を向ける。萃香以外がぎくりとした。
「別に〜、目新しい呑み場所にしばらく居座ってただ・け♪」
「あんたってやつは、で?あんたは?」

「あ、いえ私はちょっと手伝いを頼まれただけで。いや良かったじゃないですか二人とも!これでようやく神社にいけますよ!これからもがんばってくださいね!」
 やや腰が引けている美鈴が、ここぞとばかりに離脱を宣言する。
「ありがとよ!帰ったら社長によろしく言っておいてくれ!」
「美鈴!看板娘、評判よかったホ!またよろしく頼むホ!」
 二人も別れの挨拶を済ます。さすがにそろそろ帰ってもらったほうが良いだろう。

「れ、霊夢さん」「私たちは」「ただの飲みで」
「あんたたちは別にいいわよ」
0158創る名無しに見る名無し
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2016/04/14(木) 22:39:02.13ID:A/8I7r6G
 そうして一通りの聴取と食事が済むと、霊夢の様子は会敵時とは打って変わって穏やかになっていた。

「さて、じゃあ帰りましょう。詳しい話はまた明日にでも聞くわ」
「うす」「お世話になるホ」
 霊夢の言葉に促され、妖怪の一団が神社へと引き上げていく。

「ここまで長かったな」
「いらん手間ばっかりかかってた気がするホ」
「へっへっへ。また神社が騒がしくなりそうだね」

 鬼たちは月のない夜を、屋台の提灯の明かりで照らしながら、ゆっくりと進み、あるいは戻っていったのだった。
0159創る名無しに見る名無し
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2016/04/21(木) 19:17:03.60ID:n9gZPCOO
一年空いてるのに続きが読めるなんて嬉しい、作者さんありがとう
続きも楽しみにしています
0160創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/04/21(木) 22:51:34.13ID:2NuzdBtr
2章 「集結」

「あてがいぶちですが」
「うっさいわね!」
場所は変わって博麗神社の屋敷内。時は移ろい朝飯時。鬼たちが霊夢の朝食を用意していたときだった。既に寝間着から着替えた霊夢が茶碗を受け取りながら怒る。

「人の家の飯つかまえて図々しいわ」
 怒りながらも食事を中断するような真似はしない。箸を動かして食卓を物色し続ける。
人の気配のないこの神社の朝は、妖怪妖精がやたらと寄り付く割には清々しい。
フロスト曰くスピリチュアルな気に溢れているらしい。

「それで?結局どういう異変なんだって?」
 小魚と葉物の炒めを口にしながら霊夢が訪ねると、萃香の分の米をおひつからよそっていたフロストが顔を上げる。

「要人警護しないと幻想郷が滅ぶっていう異変だホ」
「もうちょい言い方あんだろ……」
 フロストの言に鬼が眉間を揉む。一人だけ明らかに図体が違いすぎて浮いているが、
それを気にする者はいなかった。

「ええっとっすね。外の世界にも悪魔と、その悪魔を使役する人間がいるんすけど、ここまでいいっすか?」

 ん、と返事をする霊夢。迷い箸をしてフロストに手を叩かれてむすっとしている。

「で、その中でもやっぱ世界を救う大人物とかいたわけで、その大人物の出発点を悪魔のほうの縁から無かったことにすることで、その後の人間と悪魔の歴史も縮めてしまおうっていう」
「長い」

「悲劇が起こらないから英雄の冒険譚が始まらず、壮大になるはずだった冒険の中身が
この幻想郷にお蔵入りしに来るってことだよ。で、あとは入りきれずに、ぼん!」
0161創る名無しに見る名無し
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2016/04/21(木) 22:52:05.93ID:2NuzdBtr
 味噌汁を飲んでいた萃香が要約する。昨夜二人から先んじて話を聞いていた萃香は
そのように既に内容を飲み込んでいたようだった。ちなみに彼女は恰好が何も変わっていない。ずっと着た切り雀である。風呂には入っている。

「亀がいじめられないと浦島太郎の物語が始まらないのと同じだよ」
「それって妖怪に襲われる人を助けるなってことじゃない」
「ちょっと違うホ。正しくは襲われた人だホ。襲われなくて良かったねってなると、
その後のしわ寄せでみんなが死ぬんだホ」

「つまり、かたき討ちが有って諸悪の根源が倒されれば、被害はそこで止まりまさあな。でもたまたま何かの助けが有ってかたき討ちがなければ?犠牲者は出続けますわな」
「めんどくさい上に相当感じ悪いわね」

「恩を仇で返す形になるのは承知の上だホ」
「無しよは無しよってことさ」
「なるほどね。でも私はあんたたちを外に出すことは出来ても時間まではどうにもできないわよ?」
「その辺はその時が来ればなんとかなるホ」
「ふーん」

 そして食事を終えると、片付けを済ませて鬼たちは外に出た。わざわざ持って上がって来た屋台の支度を始める。

「お、今日も屋台やるのかい?」
 暇を持て余した萃香が興味深そうに準備を眺めている。モルジブフィッシュを齧ろうとしてフロストに止められる。

「できるなら毎日やりますよ」
「今は仲魔を集める時期なんだホ。オイラたちみたいな目に遭ってる仲魔がきっとこの幻想郷中に散っているホ。その中で一つのまとまりができたら、討ち入りに送り出すことになると思うホ」
「手伝ってやろっか?」
0162創る名無しに見る名無し
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2016/04/21(木) 22:53:08.19ID:2NuzdBtr
 どちらの意味で、考えて二人は首を振った。どっちでもいいのだろう。フロストは屋台から予備のノボリを取り出すと、品書き用の墨と筆でオニマークと『デビルサマナーを知る者は博麗神社迄!』と書く。

「ホイホ」
「なんだいこりゃ?」
「それ持ってちょいと幻想郷をぐるっと回って来てほしいんですよ。分かる奴はピンと来ますから、すぐ食いつきますよ!」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあ」

 萃香が弱ったように頭をかく。あまり知らない人のいる場所をうろつくのは気が引けるのだが。

「店番じゃだめかい?」
「お前やっぱり呑みたいだけだホ!」
 
 フロストがぷんぷんと怒りだす。興奮しているせいかちょっと溶け出して足元に水たまりを作る。
仕方がないのでフロストが着替えて旅支度を整える。どこから引っ張り出したのか、裸一貫だった雪だるまが味のあるジャケットを着込み、手袋をし、銃を持ち、靴もカジノの景品っぽいものに変わっている。
他の細々とした物は腰のポーチに入っている。

「仕方ないからオイラがいくホ。メガテンにはルーラないからできれば人にやらせたかったホ」
「行くっつったってよお。オメェ心当たりでもあんのかよ」

 オニのもっともな質問にフロストが考える。なんやかんや数々の事件を最後まで付き合ってきた彼だ。仲魔がいそうな場所には心当たりはあるが、それが幻想郷に存在するとは限らない。

(魔人は論外だとして……あ、足りない!?)

 フロストは頭を抱えて唸りだす。天使は現役だ。この異変でも幻想入りできるか怪しい。神は自分の意思でそのうちやってくるのを待つしかない。となれば残りの仲魔だが、どこにでもいそうで逆に場所が掴めない。

(妖精は湖、妖鬼は地下でいいホ。天狗とサルは山にいるはず、幻魔……うーん)
0163創る名無しに見る名無し
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2016/04/21(木) 22:54:46.27ID:2NuzdBtr
もしかしなくても6人パーティは組めないかもしれない。そうなると数ではなく質で対処をしなくてはならない。質。フロストの頭に閃くものがあった。

「んーと、この幻想郷に、人形関連の施設や妖怪ってどこかにあるかホ?」
「あるよ。魔法の森に棲んでいる魔法使いがそうだった」
「ビンゴだホ!」

 フロストの質問に、萃香は出汁をとって用済みとなった具材をつまみながら答える。

「いくのか?」
 包丁の手入れをしながら、オニ。
「オイラは外回りで仲魔を集めるから、前はここで集めるホ」
「わかったよ。ついでにお嬢には俺から言っておいてやる」
「じゃあ私看板娘やるー」

「ありがとうだホ!」
 フロストは一回転ジャンプを決めると、銃を担いでいないほうの手を上げる。

「死ぬなよ」
「パトル時はファンに看取られてって決めてるホ!」

 秋の風を背中に受けながら、ジャックフロストは軽快に走りだす。目指すは魔法の森、きっとそこに、目的に仲魔がいるはずだ。
0165創る名無しに見る名無し
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2016/04/27(水) 22:27:08.30ID:8cr2HhE5
 フロストはマップ画面を開いていた。これは彼の持つメシアの○○の持つ効果だった。
基本的に空を飛べない彼らがエリア移動すればリアルに月齢が何周もしてしまう。事前に幻想郷をあらかた歩いておいてよかったと彼は思った。オニといたことで地底も行先に載っている。

「・・・・・・ふー」

 フロストは今からすることに気が進まなかった。が、意を決すると、懐から一台の携帯電話を取り出すと、ルシファフロストへの番号をかけた。電気も電線もないのに使えるあたりは、流石に妖物の仕業といえる。

『もしもしー?』
「あ、ルシP!お久しぶりですホ!」
『おー!ジャックかホ!?いきなりどうしたホ?』
「実は今やってる冒険のことで、ちょっと聞いておきたいことがあるんだホ」

 幻想郷の者が今の状態を見れば独り言を言っている狂人か、あるいは目に見えない何者かと話しているのだと思われるだろう。

『なんだホ?』

 ざわり、とフロストは肌が泡立つのを感じた。シームレスな返答なのに、まるで一拍の間を置かれたような緊張感があった。あえて、彼はそこで代わりとばかりに沈黙する。

『どうしたホ?電波遠いかホ?』
「ルシP」
0167創る名無しに見る名無し
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2016/04/27(水) 22:28:35.55ID:8cr2HhE5
「長い付き合いっていうのも考え物だな」

 否定も肯定もせず、ひひっと笑う声が聞こえて、電話を切られる。
 フロストはしばらくの間、携帯電話の液晶を眺めていたが、それを懐にしまうと、次の目的地へと飛んだ。魔法も森へと。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 魔法の森

 妖精と妖怪と怪しげな植物が蔓延し跋扈する魑魅魍魎の棲家。幻想郷がそもそも怪物の巣なのだが、別けてもここはその色が濃い場所である。妖怪を除けばおよそ文明人は住んでいない。文明人は。

「だから!これは私が先に見つけたんだぜ!」
「ろくに価値も分からないくせに所有者面しないでくれる?粗末な白黒に扱われてアイテムも粗末になってしまうわ」
「偉そうに!それじゃあこれが何かお前には分かるっていうのか?」

 道の、いや、森の真ん中で、二人の少女が言い争っていた。方や箒を手にして、三角の帽子を被っており、方や不思議な質感の人形を抱いていた。片方は人間で、片方は人外だが、魔法使いであるという点は共通していた。

 誰あろう博麗霊夢の旧友、霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドである。二人は先ほど奇遇にも香霖堂で出会った際に、たまたま入荷していたこの人形に同時に目を付けた。

「これは魔道具なの。それも恐ろしく高位のね。初めて見るタイプだけど、たぶん用途としてはより高度の式を作るのに用いられるはずよ。使い魔一匹持てないあなたには無用の長物」
「なるほどな!全くいらんが俄然欲しくなったぜ!」

 魔理沙の挑発的な挑発に、アリスはうんざりとした表情をする。分かっている。価値があるから欲しいのではない。魔理沙は欲しければ用がなくても欲する。人間の悪癖をいかんなく発揮している人間なのだ。
0168創る名無しに見る名無し
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2016/04/27(水) 22:31:24.77ID:8cr2HhE5
「ドリーカドモンじゃねえかホ!」
 道端に落ちていたそれを拾ってフロストは歓喜の声を上げた。在りし日の冒険が胸をよぎる。熱い気持ちが蘇ってくる。

「懐かしいホね。オイラの知ってるやつかホ?昔はお前の世話になったもんだホ」

 天海市での出来事を思い出して目をつむる。

「思い出すホ。霊長知能総研でお前が4体揃ってから、メインパーティが決まってオイラたちの二軍が決定したホ」
 独自の調査に早くも行き詰ったため、駆け出しのサマナーに恩着せがましくあれこれと言って勝手に仲魔に潜り込んだ。

「まあそのおかげでオイラたち二軍が天海モノリスのもう片方を攻略するっていうドラマが生まれたからそこんとこは感謝してるほ」

 最後の一枠をフロストファイブに取られてからジャックランタンと共に強引に一緒くたになって『セブンヒーホー』を名乗って顰蹙を買ったりもした。
だがいざ実践になると2体分底上げされた耐力でなんとか最後までやっていけたあたり、彼らの努力が窺える。

「お前にも見せてやりたかったホ。オイラたちの死にもの狂いの雄姿を!あの赤い脳筋
にちぎっては投げられちぎっては投げられ・・・・・・結局犬とかルーグがなんとかしたん
だったホ」

 道中ではドルミナーや高揚の歌で活躍の場はあったが、ボス戦では御霊を拝み倒して
継承したタルンダをかけてはまとわりついて殴られるという良く言えばタフ、悪く言え
ば泥臭い戦法で勝利に貢献した。

「でもホーホーのていで屋上に駆け付けた時の合流したときの感動は一生の思い出だ
ホ!何度目か分からないけどオイラあのとき死んでもいいって思えるくらいカッコよ
かったんだホー!」

 人形相手に熱の入った昔話をしているフロストは、そのせいで今度は気付けなかった。
自分を嫌にぎらついた目で見る二人分の視線、そして一人が繰り出す熱源が、自分に接
近していたことに。
0169創る名無しに見る名無し
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2016/04/27(水) 22:32:00.48ID:8cr2HhE5
おまけ

 戦士 セブンヒーホー LV60 ()は御霊強化後
 
 HP 360(720)
 MP 614(999)

 全部28 耐性 火炎氷結吸収 万能以外反射

 所持スキル フロストファイブに加えてドルミナー、高揚の歌、タルンダ

 ※二人のヒーホーが選外を受け入れらずに勝手に割り込んだ姿。奇しくもヒーローの時代を先取りした人数構成であった。
0170創る名無しに見る名無し
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2016/05/03(火) 21:39:19.33ID:qyJGJDZB
「お前!そいつは私のものだぜ!」
「ヒホ?ギホーーーーーーーー!?」

 突然空から降り注いだDPSがおかしな複合攻撃による不意打ちがフロストを襲う!
クリティカルが発生していきなり瀕死だ。

「おい!この泥棒!その人形は私の物だ。勝手に持っていこうとするんじゃないぜ」
「私のだって言ってるじゃない。泥棒は困るけど。そうね、二つの意味で」

 次に降ってきたのは少女だ。しかも喧嘩しながら。

(迂闊だったホ・・・・・・つい、昔話に夢中になって、こ、こんなところで……)

 ドリー・カドモンを見た瞬間、フロストの胸には確信と懐かしさと仲魔との友情、
焦りと寂しさを塗りつぶす熱いものが一気に込み上げた。それは喜びであり、絆だった。

「ちょっと、あなた大丈夫?威力が強すぎたかしら」
「平気だろ。見たとこ妖怪っていうより何かの妖精のっぽいし」

 アリスが呼びかけるのとは対照的に、魔理沙はつかつかとフロストに歩み寄ると、
その人形を取り上げようとした。

「ほら、とっとと返せよ。返さない奴は泥棒なんだぜっと、うっ!」

 人形を取り上げようとして、魔理沙は呻いた。見た目よりもずっと強い力で、目の前
の妖精が掴んでいたからだ。

「行かせねえホ……こいつは絶対に渡さねえホ……死んだって離さないホ……!」
「こいつ……!」「あなた……」
 必死になって人形を抱え込んだ雪だるまの執念に、魔理沙がたじろぐ。

「こいつはオイラの仲魔なんだホ……見逃してくれホ……」

 そこまで言って、フロストは力尽きて気を失った。
『……』
 魔理沙とアリスは顔を見合わせる。目の前で起きた事態に、理解が追い付かず困惑
0171創る名無しに見る名無し
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2016/05/03(火) 21:40:04.47ID:qyJGJDZB
していた。相互理解は幻想郷ではあまり意味を持たない言葉だ。一方的な押し付け、
あるいは妖怪間で交わされる策謀が内情の大半であり、その実情に辟易している妖怪は
普段は、上っ面は享楽的に振る舞っており、また、殆どの者がそうであった。
 故に、心の園とも言える幻想郷の住民は生憎プリミティブであり、誠実さや真心と
いったものを目の当たりにすると、どうしていいか分からなくなるのである。

「仕方がないわね。私の家に運びましょう」
「そんなこと言って、この人形を取るつもりじゃないだろうな?」
「持って行ってもいいわよ?使い方は私がこの子から聞いておくから」
「あ、そういうことか!」

 二人はそんなことを言いながらフロストを抱えると、森の中にあるアリスの家へと
運んだのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――夢を見ている。
 フロストはそう実感した。あの日の光景を上か、後ろから見ている。そこには自分の
姿もあった。揃いも揃った十二枠の仲魔たち。リーダーと呼ばれる男を救うために戦う
主、魔女、造魔、追いつめられた彼らの下に駆け付けたあの日だ。

『この男が死ぬぞぉ!いいのかあ?』
『こんの卑怯者!』

 強く、大きくなったはずの主の動きは精彩を欠いていた。
憧れの男、恩人の持っていた弱さ、苦しみを、受け入れられず、その生命を盾にされ、
どれともつかない苛立ちとやるせなさが、直視を妨げた。覚悟を、鈍らせた。

 手を出せぬまま防戦一方となっていたサマナーに、リーダーに憑りついた悪魔、
サタナエルの放った不穏な呪印が、若きサマナーを捉え、火球を放つ。
相手を爆弾と化し、炎で爆殺する呪いだ。まともに戦えば、この悪魔でさえ叶わぬはず
のサマナーはしかし、この攻撃をかわせなかった。

 あわや、男の見ている前で無残な躯を晒すかというところで、一つの影が間に割って入った
0172創る名無しに見る名無し
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2016/05/03(火) 21:41:21.43ID:qyJGJDZB
ケルベロスが立ちはだかり、火球を受ける。
「むう!貴様は、いや、貴様らは!?」
「どうやら、間に合ったようですな!主よ!」
 颯爽と現れたのは魔人ルーグだ。

「うちの桃太郎は要領が悪くていかんのう」
「無理もありませんがね」
 三本足のカラスがサマナーの肩に止まり、高貴な身形のサルの悪魔が降り立つ。

「袂を別ったとはいえアレもかつては名のある天使でした。油断なさらないで」
 いつの間にいたのか、アールマティが気遣わしげに傅く。

『アザゼルめが、まさかこの程度の連中にしてやられるとはな』
『ホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
『む、なんだ?うおっ!』

 頭上から降り注いだ七人のヒーホーがサタナエルに取りつく!

『お待たせだホ!役者は揃ったホ!勝負はこっからだホーーーーーー!』


 そうだ、この時だ。この時みんなで戦って、その中であの青年は自分たちを、そして
リーダーを信じたのだ。あれからもどれほどの時が経ったか。

「くれぐれも信心だホ……ホ?」

 気が付けば、唐突に夢が覚め、自分も目を覚ましていた。見覚えのない部屋と天井。

「気が付いたようね」
「あれ、あんた誰だホ?おいら確か」
「あなたは悪い魔法使いに襲われて気を失っていたの。それを見つけた私がここに運ん
で、介抱したという訳」

 目の前に突然合現れた金髪美人はそのように言うと、腰かけていた椅子から立ち上がり、フロストに一礼した。
「挨拶が先ね。私は魔法使い アリス・マーガトロイド 以後お見知りおきを」
0173創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:11:05.52ID:HDP6zWeH
 スカートの裾を摘まんで丁寧に一礼するその姿は紛うことなき都会派。
『アリス』という名前にフロストがぎょっとする。しかし、その少女はそのままそっと
再び椅子に腰かける。フロストの頭に遠い記憶が蘇る。

「アリス!もしかして魔界のアリスかホ?」
「そうよジャック。久しぶりね。顔が変わってて最初は分からなかったけど」

 それまでの剣呑な目つきを和らげ、悪戯っぽいウインクを返す。それは今の彼女とい
うより、ずっと前の姿を思い起こさせる所作だった。彼女はアリス・マーガトロイド。
とある魔界の創造主の娘、あるいは被造物の一つである。

 フロストは目の前の少女をまじまじと見た。これまでに何度も遭遇しては文字通り
死ぬような目に遭わされた“あの”アリスとは似ても似つかない。それもそのはず、紛らわしいが、彼女は魔界で共に育った一悪魔であって、不遇の死を遂げて悪魔に魅入られたほうのアリスではないのだ。

「ほ・・・・・・ホ・・・・・・ホー!」「わっ」

 フロストは感極まってアリスに抱き着ついておんおんと泣いた。

「い、今までどこに行ってたんだホ!実家に帰っても誰もいないから!オイラ心配して
たんだホ!年に一回くらいは思い出してたんだホ!」
 アリスをぽんぽんと叩きながらフロストが言い募る。自分たちが人間たちと旅をする
ようになったとき、別れになると思って一言話そう思ったが、既に彼女はいなかった。

「あの時は、ああ、とうとうシリアスの空気がここまでって思ったんだホ」
「ごめんなさい、あの人がね、魔界の危機を感じて、もう一つの魔界を創ったのよ。
私たちはそっちに移ったの。幻想郷に来たのだってほんの数年前のことよ」

 そうしてフロストは、アリスと今日までのお互いの身の上を話した。アリスはもう一
つの魔界に霊夢たちが来て、それがきっかけでこちらに住むようになったこと。友人が
増えたということ、今は人形から魔道の研究を行っていること。

 フロストは今回までのあらすじ、鬼も博麗神社にいること。今は仲魔集めの最中だ
ということ。幻想郷に来る前のこと。
「へえ、本当なら随分すごいことになってるのね」
0174創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:11:39.76ID:HDP6zWeH
「盛ってないホ!マジでやばいんだホ!だからオイラ、あいつを連れていかないとって
ない!?ないホ!オイラが抱えてた気持ち悪―い人形はどこに!」

「それなら悪い魔法使いが持って行ったわよ」
「ヒホ―!」

 フロストが頭を抱える。主人公の幼馴染というこの上ないフラグパーソンとの邂逅に
胸を躍らせたのもつかの間、仲魔が浚われてしまったではないか、王道である!

「まあ、物の価値が分からない子だから、そのうちここに来るわよ。あなたに聞きにね」
「そ、そうなのかホ?」

 言われてフロストは考える。確かにCOMPもない。悪魔合体のノウハウもないなら、
ドリーカドモンの気味の悪い人形に過ぎない。ならここで待たせて貰って、その悪い
魔法使いが来たら、事情を言って返してもらおうと今後の方針を立てる。

(でも今トーク用のアイテムなんてそんなに持ってないホ……)
「心配しないの。駄目なら力ずくで奪い返せばいいんだから」

 振り向けば、そこには勝気な表情を浮かべるアリスの顔があった。それは普段の彼女が知人たちにはまず見せないであろうものだった。昔を懐かしむが故の反動とも言える。

「アリス、本当にありがとうだホ!感謝してもしきれないホ!」
「いいのよ、私もアレが何なのか気になっていたし」
「そんなことならオイラが説明してやるホ!アレは……ホ?」

 フロストが気を取り直したその時、不意に玄関を乱暴に叩く音が聞こえた。何度も
何度もドアを叩く音が。

「随分早くやって来たものね」
 アリスが手を虚空にかざすと愛用のグリモワールが出現する。それを携えて、部屋を
出ていく。彼女の後姿を見送るフロスト。

「?…………!ホーーーーー!!」
急に研ぎ澄まされた五感に危機感が爆発する。聴覚がドアを叩く以外の外を拾えない。
嗅覚が火薬の臭いを感知する。指先が乾き、喉が渇き、視界の端には迷彩服がチラつく。
0175創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:13:07.61ID:HDP6zWeH
「そんなに乱暴にしないでちょうだい。今開けるわよって、え?」

フロストが部屋を飛び出すのと、アリスの戸惑いの声を上げたのはほぼ同時だった。

「塚は、塚はいずこに……」

 時代めいた軍服を着た悪魔が軍刀を振り下ろした。



 振り下ろされた軍刀が、アリスの鼻先を掠める。咄嗟に後方へ滑空したことで辛くも
難を逃れることができた。彼女の背に蠢く妖しげな糸、それがつながる先には無数の人
形たちがいる。

 彼女の研究対象にして獲物でもある人形、上海人形などである。この複数の人形に自
分を引かせることで先ほどの攻撃を回避したのだ。

「塚は……」
「最近あちこちで物騒な妖怪が出入りしているとは聞いてたけどね。まさかこんな自分
が巻き込まれるとは思わなかったわ」
「ホー!」

 そこへフロストが駆けつける。どころかそのまま目の前の悪魔の足元を通り抜けて外へと飛び出した。
 その後を追う銃撃の嵐!実弾ではないが、旧式のその銃よりも高い殺傷力が込められ
た魔弾が際限なく放たれる。森や茂みの中から数名が見張っていたのだ。

「ジャック!」
「アリス!隠れているホ!オイラがなんとかするホ!」

 背後から振り下ろされていた刀を振り向きざまに躱すと、フロストはそのまま相手にしがみつく。その怨霊、イヌイが呻いた。銃撃が止む。

「ぬう、お、おのれ、我らの眠りを妨げ、今なお辱めるとは……」
「しっかりしろホ!ここはお前たちの家じゃないホ!よく見ろホ!」
 しかしイヌイは耳を貸さずに暴れるばかりだった。
0176創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:18:21.78ID:HDP6zWeH
「ジャック!そいつらを知っているの?」

 玄関の影に隠れてアリスが問う。

「前にオイラたちと戦ったホ!ほら目を覚まして周りをよく見るホ!」
「ぬううううう!」
「ギホー!!」

 乱暴に振りほどかれてフロストが投げ出される。それに合わせて茂みから殺到する数人の兵士、怨霊「ブタイヘイ」。
 
「……仕方ないわね」

 一斉にフロストへと敵が飛び掛かる。しかし今度はアリスの人形が一足早く駆けつけ
て「移動起き上がり」を敢行し、彼は窮地を脱した。

「あまりこういう戦いってしたくないんだけど、やるしかないようね」
 蜂の巣から飛び立つ蜂のように、夥しい数の人形がアリス邸から放出される。

「こいつらもう死んでるけど、死なない程度にやっつけるホ!聞かなきゃいけないこと
がたくさんあるホ!」

 フロストは体勢を立て直し、再度イヌイと接近戦の距離に入り込む。ここに前衛フロ
スト、後衛アリスの陣形ができあがる。

怨霊 イヌイ が 出現した!
怨霊 ブタイヘイ が出現した!

「初めての共同作業だホ!」
「ふふ、こういう昔ながらの戦い方をするのって、本当に久しぶり」

 フロストの軽口には敢えて何も言わず、アリスは戦場には不似合いな笑みを浮かべた。


「今回はアナライズしないホ。いよいよこいつ使う日が来たホ!」
0177創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:19:32.19ID:HDP6zWeH
フロストはポーチからキングフロストからもらった雪の結晶を模したアイテム、召し寄
せペンダントを天にかざした!

『ヒーホー!』
 虚空から突如降り注色とりどりのジャックフロストたち!人形と合わせて夥しい数
の悪魔が一戦闘に登場する。

隊列     フロストファイブ   ジャックフロスト  ジャックランタン
       じゃあくふろすと      アリス    フロストエース

「あ、ちなみにみんなは戦闘員のごとく掛け声以外の台詞はないホ。テンポ損なうホ」
『ホー!?』

 ともかく物量で敵を圧倒しているのである!

「久しぶりに本気よ!メギドラオン!」

 加えてアリスが最高峰の魔界魔法を唱える。幼くして究極の魔道書を紐解いた彼女は
非常に強力な魔法使いであった。人形ごとブタイヘイを吹き飛ばし、吹き飛ばされた人
形が更に連鎖誘爆を起こす。

 決着は一瞬だった。

「…………」

 フロストたちは言葉が出ない。ちょっとばかり弾除けになっただけだ。

(あれ?アリス強すぎないかホ?やっぱりアリスだから?)

 幻想郷で博麗の巫女の名前が特別な力を持っているように、悪魔の中ではアリスとい
う名前もまた特別な力を帯びているらしい。
 一瞬で手持無沙汰になった彼らはとりあえずイヌイを殴り倒した。気まずい沈黙の中、
一先ず相手を取り押さえる、

「で、お前はなんでまたこんなとこに化けて出たんだホ。お前の寝床はあのいけ好かな
い零障集合住宅だったはずだホ。名前が違う?背景一緒だホ」
0178創る名無しに見る名無し
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2016/05/11(水) 05:20:26.46ID:HDP6zWeH
 あえてアリスには目をつむり、話を進めることにするフロスト。

「なんの、ことだ……我々は、貴様らなぞ知らぬ。ただ、ただ静かに眠っていたかった
だけというのに、気が付けば、我々は土地さえ失い、彷徨うばかりだった……」
「可哀想に、幻想入りしたことに気づいていないのね……」
「いや、これは……」

 フロストは口を噤んだ。イヌイは自分たちを知らないと言った。単純に覚えていない
という線は、ある可能性が頭をよぎる。
(もしかして、こいつら、オイラたちと戦う前なんじゃないかホ……)

 ついこの前、萃香が霊夢にした説明が頭によぎる。お蔵入りした内容が幻想入りする
というもの。

「……悪かったホ。そうだホねー、アリス。この辺にお墓ってないかホ」
「お墓?無縁塚ならあっちに抜ければすぐね。誰からも忘れ去られて、寂滅するだけと
なった者が流れつくところよ」

 フロストはイヌイを見た。鬼のような形相が、今やただ苦しみに喘ぐ男性の顔にしか
見えない。

「だ、そうだホ。行くかホ?」
「そ、そこなら、静かに眠れるだろうか、部下たちの魂を休ませてやれるだろうか」
「分からないは、保証できるのは、人けがないってことだけね」

 イヌイはそれで十分と言って立ち上がろうとする。フロストたちは急いで離れると、
イヌイはそのまま無煙塚に向かって歩き出す。その背を追ってどこからか、吹き飛ばし
たはずのブタイヘイが後を付いていく。

「忘れ去れた人の霊ってのは、寂しいもんだホ」
「そうね」
「おーい!

 去っていく一団が森に消えるのとほぼ同時、白黒の魔法使いが飛んで来た。

「なんだお前、目が覚めたか。てことはアリスにもうあの人形のこと話したか?」
0181創る名無しに見る名無し
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2016/05/13(金) 21:43:23.41ID:UD5fWNYb
「いきなりなんだホこいつ」
「さっき言ってた悪い魔法使いよ」
「ホー!」
「おっと」

 怒りとともに飛び掛かるフロストを軽くあしらうと、もう一人の魔法使い――魔理沙
はおどけた様子で箒から降りた。そう、箒である。彼女は空を飛ぶ際は箒に跨るのだ。
種族は人間だが形から入る性質であり、外見は他の魔法使いの少女に比べてそれっぽい。

「お前のせいでオイラ危うく死ぬところだったホ!けっこうな時間寝込んだホ!」
 およそ一日である。

「妖精なんだから別にどうってことないだろ?」
「あるホ!っていうか人形返せホ!」

 フロストが忘れていないぞとばかりにジェスチャーをとる。身振り手振りで返せと訴える。が、ダメ!

「そうそう忘れるところだった。こいつについて知ってることがあったら教えてくれよ。
物によっちゃ渡してやらんこともない」
「本当かホ!?」

 フロストが態度を一瞬で反転させて飛びつく。魔理沙は飄々としているが、アリスは嘘だろうということには感づいていた。しかし言わない。ドリー・カドモンのことが気になっていたのは彼女も同じだからだ。

「ああ、お前さんが寝てる間、こいつを売っていた道具屋に話を聞いてきたんだ。アリスとの取り合いで香霖ほったらかしだったしな。で、その人形の説明はこうだ。名前は
ドリー・カドモン。用途は『古の傑物を顕現させる』あるいは」

 そこで魔理沙は一呼吸を置く。帽子のつばを僅かに下げて、隙間から覗き込むように
して、言った。

「『一人一種族の妖怪を生み出す』」
 後ろのアリスが息を飲む。フロストは目の前の人間の魔法使いを見つめた。野心と好
奇心に満ちているが、畏れがない。見慣れたいつもの危うい人間だった。
0182創る名無しに見る名無し
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2016/05/13(金) 21:44:30.25ID:UD5fWNYb
 一人一種族、それは人々に広まる前の畏れ。名前を持つ前から存在する太古の妖怪。
共有されずとも誰もが同じように恐怖する存在であり、今や忘れられて久しいモノである。一人一種族とよばれる妖怪はこの幻想郷でさえほとんどいない。それこそ神を悪魔
とでも見做さない限り。

「話せば長くなるホ」
「こういう説明は詳しいほうがいいぜ」
「……中に入って、お茶の用意をするわ」

 アリスに促されて、二人は彼女の邸宅へ迎えられる。造魔。人が造り出した魔性。
あるいはもう一つの可能性。家の敷居の前で、魔理沙の持つ人形と目が合う。

(今にして思えば、お前らはメシアたちのもしもだったのかも知れないホ)

 漠然とした思いを抱きながら、フロストはほんの十数分前に出た家に戻ったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ということなんだホ」
「なんていうこと、下手なマジックアイテムなんか目じゃないほど素晴らしいわ!」

 今は深夜、人間ならだれも出歩かない時間。長い長いフロストの講義を終えて、アリ
スが感動と晃っ分に色めき立つ。

「これそんな物騒なものだったのか……正直使えないぜ」

 逆に説明が進むほど調子が下がっていったのは魔理沙だ。

「要するに、これは妖怪を生贄にして成長を続ける呪具みたいなものってことだろ?」
「まあ、掻い摘んで言うとそうなるホ」

 実際は祖霊信仰の大霊みたいなものだとフロストは思っている。違うのは一族の代わ
りに悪魔の血肉と魂がごった煮されているということだが。

「そんなものをわざわざやりたいとも作りたいともの思わんぜ」
 この少女は上昇志向が強くとも、脅威を増やしたいとまでは思っていない。
0183創る名無しに見る名無し
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2016/05/19(木) 22:20:40.20ID:Sv8jMzvG
「そうね、そこは心配だけど、でも人形のかたちを使ってそこまで域に至るのは、とても魅力的だわ。人形であり悪魔でもあるものが、いつかそれさえ失って、いいえ、超えていくのは、いったいどんなものなのかしら」

「たぶん、頼るものも縋るものも無くなっちゃうんじゃないかホ」

 興奮するアリスを前に、フロストはいつかの後継を思い出し、酷く渇いた思いでそれ
を見ていた。アリスの目がすっと細まる。

「あら、見たことがあるの?」
「ていうか仲魔だったホ。だからオイラはこいつを連れて行こうとしたホ」
「なるほど、でも不思議ね。どうしてこの人形はそれだけの力を持っているのに、
今こうして元に戻ってしまったのかしら」

 それはフロストも思っていたことだった。造魔は新月に必要な処置を施さねば元には
戻らない。ということは、このドリーカドモンはそうされたということだろう。

「たぶん、封印したんじゃないかホ?使ってた奴が」
「封印、そうね。用が済んだ呪具、長く存在した人形、手に余る力、そういうものは事
が終われば手放されるものね」

 アリスのもっともな意見に、しかしフロストは別の理由を考えていた。彼が造魔と共
に旅したサマナーは、二人とも始めこそ一般人だったが、終わりにはデビルサマナーと
しての明日を選んでいった。
 彼らの性分を考えれば、一つの区切りとして造魔を元に戻したのではないだろうか。
であるならば、外の世界にこの人形はまだあるはず。であるならば、ここにあるドリー
カドモンは、いったい何なのか。

「あ、そうだホ。おい魔法使い。この人形はどうするホ?いらないならオイラが連れて
行くホ」
「あー持ってけ持ってけ。正直かなりもったいないけど、今はもうどう考えても厄介事
の臭いしかしないからな」

 寝転がった魔理沙はふてくされた様子で寝返りを打った。強力な使い魔や式神を手に
入れられるチャンスと思っていた彼女からすれば、想像のずっと上を行くものだった。
興味がないではなかったが、知人の大半は妖怪だ。それを人形に食わせるというのは、
できるできないに関わらず、考えたくないことだった。
0184創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/05/19(木) 22:20:56.30ID:Sv8jMzvG
「ジャック」
「あげないホ!」

 目ざとくアリスがトークを試みるがフロストはこれを拒否した。肩をすくめる少女が
小気味よく首を振る。

「そうじゃないわ。この人形を戻してみたくないかって言おうとしたの?」
「え、悪魔食わせるのかホ!?」

 思わず引くフロストに、飛び起きる魔理沙。好奇心は劇物であることは分かっていた
が知り合いのそんな様子は見たくなかった。

「正気かアリス!?」
「勘違いしないで頂戴。それともっと別の方法をとるのよ」
「別のほうほう」

 アリスが頷く。自信に満ちた表情で彼女は講釈を始めた。周りで人形たちが動き出す。

「話か想像すると、その人形は元に戻っただけで、取り込まれた悪魔の血肉、魂、力は未だその人形の中に眠っている。それならば、この人形の記憶を呼び覚ますことで、いつかの姿を思い出させることはできるんじゃないかしら」
「……え、いけるのかホそれ?うーん、やったことないからなんとも言えないけどホ」

 フロストは腕を組んで考える。このドリーカドモンが自分の知っている造魔なら相当
に心強い仲魔である。しかしサマナー不在では命令を聞いてくれるかは不明で、もしも
英雄たちの憑代となった物なら、彼らの魂が幻想入りでもしていない限り復元、正確には再召喚は難しいだろう。
 しかしその一方で、もしドリーカドモンが自分の力、成長の記憶を自由に引き出せる
ようになれば、それはもう悪魔全書を内包しているに等しい。造魔用の悪魔全書!それ
が何を意味するのか、未知の危険に見合うハイリターンである。

「人形の記憶を呼び覚ますって言うが、そんなのいったいどうするんだよ」
「あら、いるじゃない。前に地底であった人のことを透かして見る悪趣味な奴が」
0185創る名無しに見る名無し
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2016/05/19(木) 22:22:36.19ID:Sv8jMzvG
 その言葉が指す人物に魔理沙は心当たりがあった。地霊殿の主たる覚妖怪。古明地さとりだ。彼女はその能力で他人の心の声を通じトラウマを想起させることができる。

「あーいたなそういえば。じゃあ、お前らは地霊殿に行って、あいつに会うんだな」
「そうなるわね。一応以前に置いてきた人形から連絡してアポとっとかないと」
「アリスちゃん都会派―」

 仲間を集める旅に出て、早くも二人の目途が立った。ドリーカドモンも取り戻せてフロストの心には余裕が戻って来ていた。

「あ、そうだ魔法使い」
「私は魔理沙だぜ。普通の魔理沙」
「魔理沙、もしもまた香霖堂にいくなら、鬼の段平をこれと交換して博麗神社に届けて
欲しいホ」

 そう言ってフロストは頭巾の中から一丁の拳銃を取り出した。かなり古い物のようで、
ゆうに百年は経過しているかのような傷み具合だったが、不思議な霊験を感じさせる代
物であった。

「なんだ、これ?霊夢の陰陽玉と似たような感じがするな」
「たぶんそれ、退魔の武器でしょう。あちこちガタが来ているけれど」
「骨董品だけど十分値打ちもんだほ。ご先祖様がえらーーーーーーーーーーい魔払いか
ら麻雀で取り上げたお宝だホ」
「ふーん」

 魔理沙の興味は、今度はその銃に移ったが、自身のミニ八卦炉と比べて老朽化したそ
れは火力が低そうという理由でそれほどご執心とはならなかった。

「いいぜ、期待外れのお釣りくらいにはなるだろ」

 知り合いの店主に鑑定してもらって、大層な物なら借りてしまおうと考える魔理沙だ
ったが、そんなことは顔から筒抜けであり、フロストの顔もまた渋面に染まっていた。

「猫ババするなホ!絶対に猫ババするなホ!」
「朝には発ちたいから、そろそろ寝ましょうか」
「そうだな」
 フロストの警告はあっさりと無視された。そしてアリスに促されて、三人ともそれぞ
れに寝床へと移る。

(この先何人の仲魔が集まるのかホ。心配だホ)

 二人には見せなかったが、内心では不安があった。分かれて幾らも経っていないとい
うのにい、神社に残した皆の顔を思い浮かべて、フロストは軽いホームシックになった。
0186創る名無しに見る名無し
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2016/05/20(金) 16:54:54.12ID:5163qqEj
投下乙
いまフロストくん一人だもんね、ホームシック当然だわ
0187創る名無しに見る名無し
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2016/05/27(金) 07:08:38.11ID:wVfuHxH0
一方その頃の博麗神社では。

「お前、名前は?」
「オノマン」

 鬼が謎の覆面パンツマスクとの邂逅を果たしていた。

 時は遡ること二日前。フロストと別れた彼らは元気よく屋台仕事に精を出していた。
立地が良かったのだろう。名立たる妖怪が足繁く通うこの神社は、同じく妖怪の屋台の
聖地とも呼べる。

 オニが萃香に頭を下げながら仕事を教えていた、そんな折だ。屋台の前に、空から彼
が降ってきたのは。

「なんだ!?敵襲か!」
「どいつもこいつもうちの神社をなんだと……!」

 度重なる損壊と事故により博麗神社は二度ほど建て替えている。霊夢はその時の経験
からか、既に戦闘態勢を整えている。

 立ちこめる砂煙が収まっていくと、そこには頭から地面に突き刺さった大男。
ぴくりとも動かない下半身を萃香がその辺の棒でつんつんとつつく。

「生きてるねえ。あれだけの高さから落ちたのに」
「見るからにギャグ枠だな。余程のことがないと死なないぞ。ああいうの」

 遠巻きに見ていてもらちが明かないので、オニと萃香は男の足を掴むと一気に
引き抜いた。地面から救い出された顔は白目を向いており、体中はぴくぴくと小刻みに
震えている。
0188創る名無しに見る名無し
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2016/05/27(金) 07:08:54.35ID:wVfuHxH0
「こいつどうする?」
「いやあ、流石に起きるのを待つしかないっすよ」
「また面倒臭そうなのが……」

 回復役が一人もいないために放置が早くも決定した。こういう未知との遭遇時に
フロストがいないことはオニにとっては心細かった。

「こうしていても仕方ねえ。仕込みをしねえと」
「酒の調達なら任せろ―」

 火を入れたおでん槽から立ち上る温かい匂いは、まだ昼間だというのにその辺の妖精や
妖怪を呼び寄せる。

「う、うう……め、めし……」
「もしかして腹が減ってるだけなの?あれで」

 パンツマスクが呻くのを見て霊夢がげんなりする。

「これ食うか?入れ替え用の残り物」

 丼に取り分けた具材をマスクの口元めくってどかどかと詰め込む。覆面を剥がさないの
は礼儀である。そして男はフォアグラのガチョウのように次々とおでんを飲み込んでいく。

「うわ気持ち悪!」「こういう妖怪なのかも」「ええー」

 遠巻きに見ていた三妖精が気色悪がっているが、食が進むにつれて男の目に光が戻って
来る。そして丼を空にすると、そのままバネ仕掛けのような勢いで直立したではないか。
倒れていた姿勢から!

「妖怪なの?」
「いや、魔性を帯びてはいるけど人間だね」

 霊夢の問いに萃香が答えた。言ってしまえば確かに彼は人間かモンスターか非常にデリケートな境界線上に存在している。
0189創る名無しに見る名無し
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2016/05/27(金) 07:09:39.57ID:wVfuHxH0
「お前、名前は?」
「オノマン」

 オニは彼にどうして空から降ってきたのか経緯を聞いた。曰く、気が付けば幻想入りしており地底に住み着いていたが、この前クイズ大会で星熊勇儀が地底で一番可愛いかという○×問題に正解したばかりに投げ飛ばされて今日まで空を飛んでいたというのだった。

「よく死ななかったわね」
「風の魔法で落ちる速度を調節しました。でもその内お腹が減って意識が……」
「そんな馬鹿な」

 全体的な胡散臭さに皆が顔をしかめていたとき、オノマンがスススっとオニの側に近寄ると、
ぼそりと耳打ちした。

「……コラボ アリガト ゴザイマス」

 オニの顔に影が差す。彼はこの時気付いた。間違いなくコレはフロストと同系統のヤツ
だ。言っている意味は分からないが、分かってはいけない類の言葉。しかも何故かこの時だけ片言。

「よく分からないが、お前これからどうすんだ?」
「元の世界に戻る方法探します。見つかったら仲間を呼んでみんなで帰ります」

 簡潔にまとめると、オノマンはそのまま神社の中へと入っていった。あまりに無造作で、
かつ自然な挙動だったので、しばらくの間誰も気にも留めなかった。だが霊夢だけは当事
者だったのか、一番早くに気づいて急いで追いかけて行った。

「ちょっと!うちは酒場でもないし馬車でもないわよ!」
「あ、御嬢さん。私、オノマン。今後ともよろしくお願いします」
「挨拶したって誤魔化されないわよ!」

 結局のところ、何故か使える神聖な魔法や特技を教わる代わりに、神社の裏手の勝手口
の辺りに置かせてもらうことになったオノマンであった。

―オノマンが仲間になった!
 オノマンは嬉しそうに神社にかけこんでいった!
0190創る名無しに見る名無し
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2016/05/27(金) 07:15:32.01ID:Rb0PkN30
一瞬新キャラかと思ったがw
そうか、投げ飛ばされたあとこんなことになってたのか
0191創る名無しに見る名無し
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2016/05/28(土) 22:13:06.30ID:m9TrPhbm
「へーくし!」
「風邪?雪だるまでも風邪をひきのかしら」
「オイラ今ものすごく大事な場面に居合わせなかった気がするホ」

 場面は戻ってフロストたちと地霊殿。普段は騒がしく、娯楽に乏しいせいかやたらと
突っかかってくる住民がほとんどいない。たまに妙にしょげ返った者がいるが、それ以外
は普段の地底だ。

「静かね……本当に廃獄みたい」
「前来た時はもっと元気あったホ」

 二人は昼なお暗い地底を進むと難なく目的地へとたどり着く。

「いつ見てもイケブクロみたいなとこだホ。たのもー!」
「はいはーい。おや、あんたは前に異変のことを聞きにきた奴だね?」

玄関をどんどんと叩くと扉が開き一匹の黒猫が現れた。今や実質的なさとりの代理人。
火焔猫燐である。

「覚えててくれて何よりだホ」
「この街の人と知り合いなの?」とアリス
「賭場が建ってからすっかり暇になっちまってね。それに、ここに来た雪だるまなんて
あんたが初めてだからね、忘れようがないよ。あたい鳥頭じゃないし」

 それからお燐はアリスに人懐っこく「初めまして」と挨拶を交わす。アリスとしては初
対面ではないのだが、構わずに握手をする。

「今日はさとり様にお願いがあって来たんだホ。約束を取り付けたいホ」
 この約束は予約のことである

「ん?いいよ入りな。さとり様も今はそこまで忙しくないからね。大丈夫だと思うよ」

 すんなり話が進み過ぎることをフロストたちは訝しんだが、それは案内された先で
納得のいく説明があった。大きな事務机の前に佇んでいた少女さとりは、二人を見ると小
さくため息を吐いた。
0192創る名無しに見る名無し
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2016/05/28(土) 22:13:39.96ID:m9TrPhbm
「お客様をお連れしましたさとり様!」
「ありがとうお燐、下がっていいわ」

 そう言うと、お燐が退室する。

「初めまして、私が地霊殿の主、古明地さとりです。今日はどのような用件で?」
「さとり妖怪なんだから心を読めばいいじゃない」
「もしも話す内容が同じなら、私が読むより聞くほうが早いこともあります」

 結果として同速だった。

「あなたはあの魔法使いの使っていた人形の持ち主で、あなたはここに来た新参のオニの
友人、ここに来た理由は」
「全部話す必要はないホ。話せば長くなるホ」
「長文は聞くより読むに限るわ」

 さとりは面白くなさそうな顔をした。地底の妖怪だが有名な彼女の能力は往々にして
このようなコミュニケーションの簡略化を要求させる。

「つまり、その人形の記憶を呼び覚ませば、妖怪としての姿を取り戻すと?」
「根拠はないけど試してみたいの」

 アリスの言葉にフロストが嫌そうな顔をする。仲魔を危険に晒すこともそうだが、その
理由が知人の興味本位であるという点が腑に落ちないのだ。どのみち全滅の危機に瀕して
はいるのだから、あまり気にすることでもないには違いないのだが。

「なるほど。こちらとしては断る理由はありません。しかし、これが付喪神だとして、
心を読んで、記憶を想起させたとしても変化があるとは思えませんがね」

 そう言ってさとりは己の体から伸びた第3の目でドリーカドモンを見つめた。瞳を通し
てさとりに人形の持つ記憶が流れ込む。しかしそれは人形一体分ではない。どれほどの間
そうしていたか、しばらくしてさとりは終わりました、とだけ告げる。
 人形に変化はない。
0193創る名無しに見る名無し
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2016/05/28(土) 22:14:08.18ID:m9TrPhbm
「何も起きないホ」
「ふむ、これはやはり、人形は造魔の核に過ぎず、悪魔の体は贄となった悪魔に依拠して
いる。ということね」
「補足しておくと、この人形には多くの記憶が宿っています。この人形以外の記憶が。断
片的にではありますが」

 アリスの考察にさとりが付け加える。英雄や猛将の憑代ともなれば彼らの記憶が人形に
も残る。しかし魂までは持ち合わせていないので姿を復元することはできない。
 また造魔の肉体は一足飛びに強化することもできない。月の魔力と贄となる悪魔たちに
よってその成長段階を変えるのだ。この点からもドリーカドモンの『復元』はできない。

「やはり、やってみるしかないわね! 合体!」

 諦めきれないのか、アリスは普段からは想像できないほど意欲的だった。フロストも他
に仲魔の目途が立っていないので付き合うしかないと諦め半分になった。

「でも悪魔合体ができる所なんてオイラたち知らないホ」
「あら、ありますよ。いえ、できる人、というか神が」
「本当かホ!?」
「ええ、うちのペットに余計なことをしたかたで、妖怪の山の神様でしたね。確か、
守屋神社の」
「また守屋か!」

 フロストは言いたかった台詞を思いがけない場所で言えて嬉しそうだ。

「ご存知のようですね。注連縄のほうの神様がそういったことができたはずですよ」
「守屋神社へはこの上の間欠泉センターから直通のロープウェイが先日開通したはずよ!」
「来た!流れ来たホ!これで勝る!」

 一気に展望が開けたことでフロストたちは燥いだ。しかしさとりのため息が二人の気勢
を削ぐ。なんとも疲れ切った表情だった。

「どうしたホ?」
「いえ、お客さんに話すほどのことでは」
「言うだけならただホ!おいらたちまだお礼もしてないホ!」
0194創る名無しに見る名無し
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2016/05/28(土) 22:15:09.69ID:m9TrPhbm
 フロストの内心を呼んで、さとりがくすりと笑った。
「『力仕事以外なら任せておけ』ですか。ふふ、ありがとうございます」

 そう言ってさとりは最近の地底について話し始めた。モンスター格闘場ができたこと。
地底に活気が出たこと、反面賭博に入り浸って困窮する者が増えたこと。そもそも見慣れ
ない動物が急速に増え始めたことなどを告げた。

 フロストの顔色が悪くなっていく。さとりが『ももんじゃ』のぽんち絵を見せた瞬間
目玉が飛び出る。それを拾って顔面に収めた。

(こ、コラボ先だホ!!)
「何か知っているようですね」

 内心を読まれてフロストは心臓が撥ね上がるのを感じた。フロストは手を前に突き出し
てタンマと言ってから頭の中を整理する。

「……たぶん、知り合いじゃないけど仕事で関わったことがあるところだと思うホ。
もしも動物たちの中でその、獣人みたいなのとか、誰かに飼われてたことがある奴がいた
ら博麗神社に届け出て欲しいホ。今あそここの異変関係者の避難所みたいになってるホ」

「分かりました。既に何名か該当する者がおりますので、後でおりんとおくうに言って
案内させます。ありがとう、これで少しは……」

 最後まで言わず、さとりはまたため息を吐く。今度のは安堵の色が出ていた。

「人のペットを預かるのが、こんなに気を使うとは思いませんでした」
「いや、もうなんて言っていいか分からないけど、あんた頑張ったホ!ありがとうだホ!」

 見知らぬ地で世話になった相手が非業の死を遂げなくて良かったと、フロストも胸を撫
で下ろす。そしていい加減待ちくたびれてきたアリスと共に、さとりとおりんに挨拶をし
てから、二人は守屋神社を目指した。
0195創る名無しに見る名無し
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2016/05/28(土) 22:23:14.40ID:m9TrPhbm
「ごめんジャック、ロープウェイは麓からであって、ここからではなかったわ……」
「ちょっとヒートアップし過ぎたホ。いったん冷静になるホ」

 地上に出た後、少し熱が下がったフロストは同じく素に戻ったアリスに抱えられて守屋神社まで飛んで行った。
0197創る名無しに見る名無し
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2016/06/04(土) 22:04:22.20ID:H7cW3XFM
「なるほど事情は分かった」

 秋の夜更けの守屋神社で、祭神八坂神奈子はそう言った。全体的になんか怪しい恰好を
しているフランクな神様だ。髪型もふつう。
フロストは自らオプション枠になり、アリスは異変中の主人公のように疾く飛んだ。時
刻はとっくに夜を回っている。

「しかしもう遅いかた続きは明日にしよう。今日は泊まっていきなさい」

 そう言われては流石にどうしようもないので二人は泊まった。アリスは客をもてなすの
がなんだかんだ好きだし逆もまた然りで、フロストもアリス邸からの強行軍の疲れが出て
いた。

「お客さん扱いされるのって慣れてないのよね。着替え持って来れば良かったわ」
「あの神様上手く言えないけどなんかオザワっぽさがあってオイラ苦手だホ」

 取り留めもない言葉を吐くが、どちらもお互いに話そうとはしない。自分の疲労に気付
かない子どもが家に帰るとぐっすり眠るように深い眠りへと落ちて行った。

 そして次の日。

「今こそロボットを作るべきです!目の前にあるんですよ!?直して守屋神社に新たなご
神体にすべきです!名前だってもう考えてあるんですから!」

「落ち着きなさい早苗。箱物は維持費がすごいんだから、迂闊なことをしてはダメよ」
「いざとなれば爆破して悲劇的な死を演出すれば良いんです!」

 激しい怒声と無茶苦茶な言い分にフロストとアリスは目を覚ました。来客が泊まるため
の離れにも届くその声は本殿から響いてきた。守屋神社の主人は三人、もとい三柱なので
そっくりそのまま本殿に寝泊まりしても問題はないのだ。

「朝っぱらからなんの騒ぎだホ」
「今度の2色は話が通じると思ったけれど、所詮幻想郷だったわ」
0198創る名無しに見る名無し
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2016/06/04(土) 22:04:41.93ID:H7cW3XFM
「ああ、二人とも済まないね。この娘がちょっと興奮してしまって」
「これが興奮せずにいられますか!」

 埒が明かないと思ったのか、目の前の少女、東風谷早苗は来客二人に向き直ると早口に
まくしたてた。

「あなた方は、ええと、確か昨夜終電のロープウェイに乗ってきたお客さんでしたよね。申し訳ありません、今守屋神社では新しいご神体の準備をしていまして、核の力で動く新時代の霊験あらたかな神像なんですがお披露目の暁には是非またいらしてくださいね!」

※ 地図を確認したところ合ってそうなのでやはり乗せました。

「霊験あらたかな新時代のご神体って何。アリスよ」
「ロボットって聞いて嫌な予感しかしないホ。ジャックフロストだホ」

 流しながらも挨拶を忘れない二人に、神奈子が説明を始める。早苗が焦っているがそれ
を気にする者はいない。

「かくかくしかじかホ」
「なるほどねえ。確かに私は妖怪を合体させることができる」
「どうやって?」

 神奈子が手招きするので後を付いていく。本殿の裏手にはどこか懐かしい巨大培養層、
ではなく中身が空洞の御柱。それも三つ。足元のケーブルが注連縄だったり爬虫類を連想
させる得体の知れない管だったりとフロストの記憶にある物体とは微妙に異なっている。

「この中に妖怪を入れてちょっとアレをナニすると合体できます。成功例もあります。
持ち運びもできます」

 なんで最初から三つ作ったのかとか、ナニをアレするのかとか、気になったけどフロス
トは聞かなかった。アリスも顔にコレジャナイと万感の想いを露わにしていた。

「これにその人形と生贄を入れるがいい。君たちのどちらかがこの人形と合体するだろう。
それがどういう結果になるかは分からないけどね」

「私達は材料じゃないわよ」
0199創る名無しに見る名無し
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2016/06/04(土) 22:05:11.88ID:H7cW3XFM
「そこは未定なんだホ」
「なんだ、まだ決まってなかったのか」

 神奈子が肩をすくめた。そこに気を取り直した早苗がやってくる。まだまだ諦めては
いないようで、神奈子の側まで行ってロボットの件を食い下がる。

「お願いします!ロボットなんです!あんなアドバルーンじゃなくて!ロボット!二足歩
行の巨大ロボット!お願いします神奈子様―――!!」
「止しなさい早苗、檀家さんの前ではしたない」
「ちげえホ」「違うわ」

「さっきからロボットロボットっていったいなんのことだホ?」
「自動人形のことよね、まさかそれを作れっていうのかしら」

 抱き着いて離れない緑色に苦戦しながら天を創るほうの神様が答える。

「この前河童がね、どこからかそのロボットの残骸を貰ってきたらしいんだよ。早苗がっ
それを見て、無理に貰ってきたんだ!くっこの、離しなさい!理系だからとか、直すとか
言って聞かないんだ!」

「それはどこに?」
「物置の周りに放ってある!大きすぎて入りきらなかった!早苗えええええええええ!!」

 二人を横目に、二人は守屋神社の探索に移る。フロストは今の説明でピンときた。以前
にレミリアの邸、紅魔館にて倒した物体があった。彼が知らないがレミリアが妖怪の山の
河童に払い下げていたのだ。

 河童たちは目の色を変えてこれを回収したが、運悪く理系の巫女に見つかってしまった
ばかりに奪われてしまったのだ。

「これかホ。バラバラでもでけえホ」
「これがロボット、自動人形なの?組み立てれば人型になりそうだけど」
「逆だホ。人間が自分を戦いのために人形にした、その成れの果てだホ」

 フロストの言葉にアリスも思う所があったのか、しばらくそれを見ていた。
0200創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/04(土) 22:05:34.86ID:H7cW3XFM
「ねえジャック」
「なんだホ?」
「あの人形の材料に、これ使えないかしら」
「え、これを!?」

 どうだろう。フロストは考えた。ボスを倒して条件を解除して作れるようになった仲魔
がまた悪魔合体の素材になることを考えれば別にボスだって合体はできるだろう。しかし
オオツキの種族は教師である。まあできないこともないだろう。

「ガイア教徒やメシア教徒や犬が使えないことはないから行けるとは思うホ、でも不安はあるホ」
「駄目なら駄目でいいわ。やってみましょう」

 アリスの提案が無茶だったが、フロストは何故かこれが正しい選択のような気がしてい
た。人形と神社の二人に手伝ってもらいながら例の木筒に詰めていく。不思議なことに木
筒、御柱はいつもの合体装置よろしく巨大極まるマシンの部品を入れても勝手に拡張され
ていき、あれよという間に合体の準備が済んでしまった。

(昔から気になってたけどこれって本当にサイズ差とかものともしねえ機材だホ)

 大きさから考えると培養層割れてないとおかしい悪魔同士の合体が平然とできる辺りは
よく再現されている。

「しかし早苗、良かったのかい?」
「いいんです。サイボーグ妖怪とかどっち付かないのってロマンじゃないですか!」

 良く分からない機嫌の直り方に一同がうんざりともがっかりとも言えない気持ちになる。
フロストがどこからともなく取り出した道半玉を使って無理矢理復活させていよいよ合体
の準備が整った。

「こんな時に限って諏訪子の奴はおらんのだからな、まるで誰ぞの妹だ」

 そう言って神奈子が目を閉じ何らかの祝詞を唱え、力を合体装置に込め始めると御柱が
妖しく光り始める。ガラス張りでないので中の様子が分からないのでフロストたちは不安
だった。
0201創る名無しに見る名無し
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2016/06/04(土) 22:06:11.15ID:H7cW3XFM
「む、ん、な、なんだ、ここは、うぐ、ぐわああああああああああああああああああ!!」
ガラス張りでないので中の様子が分からないのでフロストたちは不安だった!!

「体力1で復活させといて良かったホ。暴れられたら困るホ」
「あなたって存外悪魔よね」

 御柱の中に謎の液体が満ちていく。そして双方が溶け合い、しばらくして中央の御柱が
光り、他の御柱の輝きが消えていく。最後に晴天の霹靂によって合体が完了する。

「これでいいはずだ。見てみるといい」
「さあ、サイボーグ悪魔ですよ!」

 煙が晴れ、御柱の内側から、一つの人影が歩み出た。

「これが、造魔……」
「あ、お!お前は!?」

 それはフロストにとって見覚えがある姿だった。しかしそれはここではない、どこか?
――北極である。

 それまではどこか生物と装備の中間にあったようなデザインだった。だが今目の前にい
るのは人間が装備をした姿。人類の英知を結集したスーツ。クレバーで、進化する戦闘服!

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 造魔ジードが仲魔になった。

仲魔データ

造魔ジード(デモニカ仕様) LV ??

備考 新月補正無効
所持スキル ?? ?? ?? ?? ?? ??
ステータス ?? 使用ソース デンレイソース

状態 奇妙な旅人 特徴 新時代の霊験あらたかなご神体
0202創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/04(土) 22:06:38.58ID:H7cW3XFM
「SF!?すごーい、B級映画みたい!」

 早苗が驚愕の声を上げる。一方でアリスは興奮が冷めたのか、落ち着いていた。

「どうやら合体自己、という訳ではないようだな」
「お前、オイラが分かるかホ!フロストだホ!」
「・・・・・・・(こくり)」

 ジードが頷く。どうやらさとりに記憶を呼び覚ましてもらった効果はあったようだ。

「よかったホ!これでようやく仲魔が増えたホ!アリス、ありがとうだホ……アリス?」
「え、ああ、良かったわねジャック。これが造魔……すごいデキだけど、私が思っていた
ものとは違うわ、これは冷たすぎる」

 アリスが首を振る。彼女からすればほとんど人間に近い存在が、あるいはその息吹が感じられる存在を想像していたのだ。

「アリス、それは違うホ」

 フロストはアリスの言葉を訂正した。その手はいつの間にかジードの手を握っている。

「心は、誰かの揺れる心に触れて動きだすんだホ。もしもアリスの考えている自動人形が
そういうことなら、初めからその心を用意することはできないホ。どれほど精巧な魂と肉
体があっても、一人ならそこに心は芽生えないホ」
「ジャック……」

「それで、もう用は済んだのか?」

 空気を読んで神奈子が声をかけた。フロストは頷いた。

「神様ありがとうだホ!おいら一旦神社に帰るホ!来てくれたらいっぱいご馳走するホ!」
「ふふ、覚えておこう。おかげでうるさい問題も片付いたしな」
「私も家に帰るわ」

 アリスが髪をかき上げながら言う。その目は少し寂しげで疲れの色が見える。得る物は
あったが、期待通りとはいかなかったからだろう。
0203創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/04(土) 22:07:00.85ID:H7cW3XFM
「アリス、アリスにはお世話になったホ!おいら感謝してるホ!オイラたちはしばらく
博麗神社に滞在しているホ!用がなくても会いに来てくれホ!約束だホ!」

 ジャックがそう言うと、アリスが苦笑して頷く。それきり二人の間から、急速に昔の
空気が霧散していく。二人の過去が清算されて、また新しい日々に戻っていくのだ。

「ジード!まずは拠点に戻るホ!おいらについてくるホ!」
「…………(こくり)」

 そしてまた昔の仲間を新しく加え、ジャックフロストたちは駆け出した。

「じゃあホー!また来るホー!」
「お元気でー!」

 目指す先は博麗神社、残る仲魔が何人か分からない。しかしここにも一人いる。何より
家に帰れるという気持ちが、彼の胸の中を温めたのだった。

――アリスと別れました。魔理沙と別れました。
0204創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/05(日) 05:39:00.80ID:seReGbXX
投下乙です
アリスちゃんずっとパーティメンバーってわけでもないんだ、また登場して欲しいなぁ
0205創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/08(水) 15:37:43.08ID:SzdJSyp4
俳優集団「D―BOYS」の高橋龍輝(23)引退「先月から少しずつ、体がおかしいと思っていて、病院にかかったところ、詳しい検査が必要だと言われました。」

『進撃の巨人』作画監督アニメーター杉崎由佳(享年26歳)5月28日死去。4月頃から、「頭が重たい」「歯が痛い」「服に血がめっちゃついているけど出血原因がわからん」

元SOFT BALLET/現minus(-) の森岡賢が、心不全。6月3日死去。


「致死量の放射能を放出しました」

2011年3月18日の会見で東電の小森常務は、こう発言したあと泣き崩れた / 芸能人が原発をPR! 500万円の高額ギャラも  勝間和代 三橋貴明 佐藤優
三菱商事の核ミサイル担当重役は安倍晋三の実兄、安倍寛信。これがフクイチで核弾頭ミサイルを製造していた疑惑がある。書けばツイッターで速攻削除されている。
https://twitter.com/toka iamada/status/664017453324726272


りうなちゃんは去年の暮れ、脳腫瘍のために亡くなった

2歳を過ぎたころ「放射能があるから砂は触れない」「葉っぱは触っちゃだめ」
https://twitter.com/Tom oyaMorishita/status/648628684748816384

UFOや核エネルギーの放出を見ることはエーテル視力を持つ子供たちがどんどん生まれてくるにつれて次第に生じるでしょう。
マイト★レーヤは原発の閉鎖を助言されます。
マイト★レーヤによれば、放射能は自然界の要素を妨害し、飛行機など原子のパターンが妨害されると墜落します。
マイト★レーヤの唇からますます厳しい警告と重みが発せられることを覚悟しなさい。彼はいかなる人間よりもその危険をよくご存じです。
福島県民は発電所が閉鎖されれば1年か2年で戻って来られるでしょう。
日本の福島では多くの子どもたちが癌をもたらす量の放射能を内部被ばくしています。健康上のリスクは福島に近づくほど、高まります。
日本の近海から採れた食料を食べることは、それほど安全ではありません。汚染されたかもしれない食料品は廃棄すべきです。
日本もさらに多くの原子力発電所を作ろうとしています。多くの人々が核の汚染の影響で死んでいるのに、彼らは幻想の中に生きています。
問題は、日本政府が、日本の原子力産業と連携して、日本の原子力産業を終わらせるおそれのあることを何も認めようとしないことです。
0206創る名無しに見る名無し
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2016/06/12(日) 22:40:02.00ID:mfU818lX
「こいつらいったい何処から出てきたのよ!」
「いやあ、明らかに湧いて出たって感じだよ」
「しかも明らかに妖怪っていうより悪魔って連中だぜ」

 ジャックフロストが新たな仲魔を加えたその日、博麗神社では、一人の巫女と二人の鬼
が、突如として神社周辺に現れた妖怪や悪魔と対峙していた。いつも通りのはずだった。
それが、彼らの前で空間が避けるかのような、恐らくは本当に裂けたのかも知れない。そ
こから現れた敵は、弾幕や幻想郷のルールなど知らず、彼女たちに襲いかかったのだ。

「よいしょお!」「ほいさあ!」「てぇい!」

 最初に現れたのは下位の怨霊、外道、妖鳥など統一性もなかったが、とにかく数が多い。
倒しても倒しても増援が来るのだ。たまに獣人や悪乗りした妖精も来るがその都度殴り倒
し撃ち倒す。

 三度目の増援を蹴散らした辺りでようやく一区切りとなった。力のほうは相手にもなら
なかったが数は20匹近くいた。

「なんだもう終わり?まだスペカも使ってないよ」
「どうやら、いよいよ事態が動き出したようっすね」
「事態?あんたたちが言ってた異変のこと?」

 オニの言葉に霊夢が反応した。こういうことはちゃんと覚えている辺りは博麗の巫女だ。袖の内に針とお札、お祓い棒と陰陽玉を仕舞う。

(どこにあんなに入るんだろう)

 素朴な疑問に首を傾げるオニだったが、そんなことより気にしなければいけないことが
あるので、意識をそちらに向ける。それはつまり、とうとうエンカウントするようになっ
た悪魔たちのことである。

「ちょっと。あんた達が異変がどうこうとか言い出したんじゃないの。やっぱりあの妖精
の出まかせだったの?」
「いや、あいつが嘘を吐くときは笑いを取ろうとするときだ。それはねえ。だがこいつらは因縁がある訳でもねえ。これはいったい」

 外の世界で、歴史の転換点とも言える出来事が起こらぬ、それ故にあるべき未来が消滅の前段階として幻想入りするというのが今回の異変である。ではここに現れた夥しい悪魔
の群れはどういうことか。

「それは私から説明いたしますわ」
0207創る名無しに見る名無し
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2016/06/12(日) 22:40:48.78ID:mfU818lX
 どこからともなく聞こえた不吉な声。その声の持ち主が神社の鳥居に空間を裂いて現れ
る。裂け目には不気味な目、目、目。欲望の象徴であり見る者を射竦める恐怖の合わせ鏡。

 現れたのは一人一種族。幻想郷古参の大妖怪、八雲紫であった。姿を見せるたびに外見年齢がいつも違うがいずれも少女の範囲内に収めている。今回は霊夢と同じくらいだ。

『紫!』

 霊夢と萃香が声を揃えて名前を呼ぶ。前者は噛みつくように、後者は面白がって。紫は扇子で口元を隠しながら足早に近づいて来る。それでも上から覗く部分は「けん」のある
表情で珍しく苛立ちを隠そうともしていない。

「とうとう世界が畳まれ始めたということですわ」
「世界?」

 霊夢の疑問に紫が頷く。彼女は扇子を閉じると片手にぺしぺしと打ち付ける。余談だが
三妖精は彼女の姿を見かけたときには既に逃げ去っている。

「ターニングポイント、転換点の喪失によりその“先”が幻想入りし始めたのです」
「それってつまり、俺たちの過去ってことかい!?」

 オニが焦って問いかけると、紫は目線だけを向けて頷く。そして続きを語り始める。

「これまでも他の場所で、今回のような大量流入は確認されていました。それでも内容は
混乱が起きない程度の木端妖怪や動物だったのです。そしてその度に私は結界を調整して
こちらへの放流を最小限に留めていたのですわ」
「それがどうしてこうなったのさ」

 萃香がひょうたんから酒を飲みながら尋ねる。こう、とは境内に散らばったゲル状の物
体や鳥の羽などだ。

「境界を弄っても隙間がなくなる訳ではありません。些細な漏れは免れません。幻想郷を
完全に閉ざせば数の圧力で結界自体が壊れてしまいます」
「でもおかしいぜ。俺たちの旅じゃこんなに一遍に襲われるなんてことは、あったが敵は
もっと強力で危うい状況だった。身に覚えがねえ」
「あなたは何を言っているのですか?」
0208創る名無しに見る名無し
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2016/06/12(日) 22:41:15.25ID:mfU818lX
 紫がため息を吐いてじろりオニを睨む。オニは内心でひやりとした。彼女への恐怖ではない。うすうす感づいている事態から目を背けたがる彼の悪癖を責められているような気がしたからだ。そして、おそらくそれは違わないだろう。

「幻想入りするのはあなたたちの旅路に留まりません。その旅路が描かれた時間、世界が
幻想入りするのです。この意味が分かりますか?」
「まだるっこしいわね、どういうこと?」

 ピンと来ないのか霊夢が聞く。彼女の頭脳は勘と一部の妖怪の知識に傾倒しているので
空想じみた想像や推察は不得手である。幻想郷なのにと思えるが、小説よりも奇妙な事実
の集まりである幻想郷では考えるだけ無駄という連中が大勢いる。

「王様が代替わりしたとするだろう?その後の世界から遡って、別の人間を王様に据える。そうすると前の王様と関わりのあった人物だけでなく、時代そのものが入ってくるんだ。
乱暴に計算するとだ、十年あったら十年分の時代の人や妖怪が入ってくるってこと」
「はあ!?」

 当たり前だが主人公が世界を歩いている間にも、他のサマナーや町人たちにも時間が流れている。あるサマナーや魔人の旅の裏側でどれほどの闘争、生存競争、悪魔合体が行わ
れているか。計り知れないその膨大な数が、消える前に幻想郷に流入しようとしているの
だ。言わば崖から落ちる前に掴まれた淵が幻想郷であり、それは今にも崩れんとしていた。

「人間に忘れ去られようが生きていける力ある一部の妖怪、悪魔は自分で何とかするでしょう。大半は結界で弾いてしまえます。ですが隙間に零れてくるもの、中途半端な力を持つものが厄介なのです」

「解決する手段は!?どこに行って誰を倒せばこの異変は解決するのよ!」
「この場所から、それぞれの時代に縁のある者たちを、その時代に向かわせ時代の流れを正すこと。そのためにはあの雪だるまの帰りを待つ必要があります」

「過去に戻るなんてそんなことできるのかい?あんたのチート能力があってもさ」
「改変された時間が正史になるには時間がかかります。言わばこの幻想郷という点により
川の流れが二分されている平行線の状態なのです。時の流れの定着には文字通り莫大な時
間と力が必要です。改変された世界が及ぼす影響はさておき、まだ場所の域を出ないでし
ょう。そこに仲魔たちを送るのです」
0209創る名無しに見る名無し
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2016/06/12(日) 22:41:54.06ID:mfU818lX
「俺たちか。その場所ってのに俺たちが行くとどうなる?」
「恐らく歴史を変えている存在、特異点のような何かがあなた達という波の揺り返しを受
けて姿を現すでしょう」
「そこで何とかすれば元通りって訳だ」
「しち面倒臭いことになったわね」

 紫の説明にそれぞれがぞれぞれの表情をする。このまま放置すれば改変された時間が本
流となり、こちらの世界が干上がる、滅びてしまうだろう。それも人知れず、多くの人間
の妖怪たちがだ。

「ですがそれは言うほど簡単なことではありませんわ」

 紫は尚も続ける。オニの顔には深い苦悩の影が浮かんでいる。

「人間と悪魔の邂逅は、ほとんどの場合が悲劇から始まります。その後どれほどの喜劇へ
繋がっていようとも。その原点を守るということは、悲劇を覆させないということに外な
らない。縁者たちはそれを承知でやらねばならない。そしてもう一つ。そこに幻想郷から
の出身者がついていかなければいけません」

「え、なんで?」
「仮に特異点を解消したとして、そこでの出来事もなかったことになり歴史が戻ったとし
て、その後どうなります?何事もなかったことになりその場所ごと仲魔も消えるかも知れ
ません。そしてまた同じことの繰り返し、良くて堂々巡りです。それを避けるには特異点
を解消した結果を残さねばなりません。つまり、幻想郷に帰って楔を打たねばならないの
です」

「俺たちがそんなことはなかったって言わなきゃいけないんだな」
「でもそれならなんで幻想郷の者がついていかないといけないのよ。勝手に行って帰って
来たらいいじゃない」

「彼らは幻想郷に来て日が浅い。こちらへ戻るには幻想郷の者の縁を頼らねばいけないの
です。私からの説明はこれで終わりです。何か聞きたいことは?」

 一同は沈黙した。今までの規模の割には弾幕勝負という真剣ながらも遊戯で済んでいた
異変とは異なり、霊夢や萃香からすれば限りなく日常の延長に近い殺伐さをもっていたか
らだ。
0210創る名無しに見る名無し
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2016/06/12(日) 22:43:08.87ID:mfU818lX
「人数の制限は、あるのか?」

 オニが聞くと、紫は静かに頷いた。

「あまり大勢でいけば私のほうでも制御は難しくなります。それに縁の数が増えて『道』
が増えてこじれてしまう。できる限り少数、2,3人がせいぜいでしょうね」

「分かった」
「紫はどうすんの?」
「藍も帰ってきたことですし、今しばらくは結界の維持に努めますわ」

「御嬢さん、一つ頼みがあるんだ」
「あら何かしら」

 オニが言うと、今度は顔を向けて紫が答える。彼の真剣な表情を前にして、あどけない
少女の表情を引っ込めた。

「紅魔館にいるマミゾウとパスカル、それと出払っているヒーホーを呼び戻してくれ」
「初めからそのつもりですわ」

 そう言って扇を開くと、境内の地面が割れて、謎の空間から今言った仲魔たちが現れる。

「ムウ!」
「な、なんじゃ!いったい」
「お、ただいまだホー!」

 隙間空間から現れたのはパスカル、マミゾウ(肌蹴ている)、フロスト、そしてジード。

「それではこれで失礼いたしますわ」
 混乱する彼らを余所に紫は文字通り「いなくなった」。忽然と姿を消したのだ。

「騒がしくなってきたねえ!」
「これどうやって収集つけるのよ……」
 霊夢が心底うんざりとした様子で呟くと、オニが彼らの前まで歩み出る。

「お前ら、詳しい話は中で話す!全員集合!」

 音頭をとって神社の邸へと促すと、全員がぞろぞろ後に付いて行った。昼だが残も終
わろうとしている秋口の風は、冬の予感を含む冷たさを持っていた。
0211創る名無しに見る名無し
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2016/06/14(火) 07:25:11.44ID:i8ZdL7m4
話進んできたなぁ、投下乙です
0213創る名無しに見る名無し
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2016/06/20(月) 22:39:31.39ID:t+glIRoL
「かくかくしかじか!」
『なるほどなー』

 オニの説明に集合した皆が理解する。宴会が行われることもあるせいか、こういう時に
はその広さがありがたい。説明が一言で終わるや否や、博麗邸では会話に華が咲いていた。

「まさかまたお主と会うとはな」
「知らねえ顔も懐かしい顔も揃ったもんだぜ」

 ケルベロス、フロスト、ジード、オニ、オノマンの五体の悪魔?と女性側は霊夢、萃香、
マミゾウの三人。絵面では賊が神社に押し込みをかけたようにしか見えない。

「いやー、帰ろうと思った矢先に足元に穴が空いたもんだから焦ったホ。あわやアメリカ
かと思ったホ。空中で足を泳がせてから『?』ってなって下見て落っこちてって、日ごろ
から練習してなかったら危なかったホ」

 ちなみにその時変な声を上げることは忘れなかった。

「それで、お前は今まで何してたんだよ」
「何って、マミゾウ殿に力を吸われておった」

 オブラートな表現だが要するにいたしていたのだ。さっきからそのマミゾウから熱い眼
差しが送られている。

「おばちゃんのレベルがけっこう上がってるホ」
「うむ、何せそこは経験が少なかったようでな。我も含めた魔獣で足りない分が大分補わ
れたと思う」
「要するに搾られただけじゃねえ」

 そんな男子の会話の横で、萃香とマミゾウの猥談に霊夢が顔を赤くして背けている。
なんやかんやお年頃なので気になるし恥ずかしいのだ。他人の逢引きに気を遣うことも
ある。

「で、どうだったの?」「えがった」
「どうえがったの?」
「地獄の番犬というだけあっての、熱いんじゃ、これが」
0214創る名無しに見る名無し
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2016/06/20(月) 22:40:15.56ID:t+glIRoL
 そんな益体も無いことをしばらく話していたが、次第に話題は途絶えていく。やがて、
意を決したのか、オニがフロストに問いかけた。

「で、どうすりゃいいんだ」
「……ここがゲートエリアなんだホ。鳥居の前でこれを使うホ」
「なんだこれは?」

 フロストが帽子から取り出したのは剣と、鏡のような何かだった。

「メシアの角と瞳だホ。役目を果たして久しいけど、今もその機能は失われてないホ。こ
れを使えばたぶん、それぞれの時代に飛べるはずだホ」

 それはかつて、世界の命運を賭けたプログラムを巡る冒険で、悪魔の子どもたちが持っていたものだ。今日という明日が選ばれてから、それぞれのカギは再び剣と鏡に分かれて
少年少女の手に戻された。

 が、日常生活では邪魔なので魔界に帰る際にフロストが預かったのだ。

「本来は各魔界へ行くためのアイテムだけど、たぶんその辺の問題はあの妖怪少女もどき
がなんとかするはずだホ」
「紫のことだね痛え!」

 萃香が茶々を入れるが誰も否定しない。突然空間が開いて彼女は後頭部を墓で殴られた。
次いで声が降ってくる。

――その剣と鏡、一対で一つの世界に飛べます。また、一時的に結界を広げるので敵、と
いうよりは過去の存在が溢れて来ます。皆はその辺を何とかしながら見送ってあげてね。

 語尾にハートマークでも付きそうなイントネーションで紫が言う。

「だ、そうだホ」

 そこで一区切りして、フロストが周りを見回した。その意味するところは一つ誰が『誰』
の元へ行くか。『誰』が付いていくかだ。
「アイツの所へは、オレが行く」
0215創る名無しに見る名無し
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2016/06/20(月) 22:40:42.98ID:t+glIRoL
 オニが言うのはかつて東京受胎という変革期に現れた、人とも悪魔ともつかない存在。

「分かってると思うけど、オイラたちが行くのは前日譚だホ。皆とは会えないし、汚れ仕
事だホ」
「構わねえ」

「我が行くのは当然、主の元だな」

 ケルベロスの飼い主。ある日悪魔召喚プログラムを得た青年。破壊と混沌の世界を平ら
げ共に翻弄された仲間を手にかけてしまった、悲しい救世主。

「………………」
「ジード、お前がどっちのマスターのとこに行くのかは分かんねえホ。でもオイラから言
えることは一つだホ。マスターを守ってもマスターは死ぬ運命にある。だから、敵を倒し
てお前のマスターを守ってやって欲しいホ」

 こくり、とジードが頷く。今の彼には酒で酔ったときの感情が全て在る。そしてその時
抱いた想いも、記憶も。

「オイラとこのおっさんは皆の状況を見てから動くホ。とくにパスカル。お前だけは、
ぜっっっっっったいに失敗は許されないホ!」
「そんなつもりはないが、何故だ?」

 ケルベロスことパスカルが疑問符を浮かべる。ヒートアップしたフロストから湯気が立ち水が零れていることからもその真剣さが伝わってくる。

「お前が一番入り組んだ人生を送っているからだホ!お前が無事に帰ってこないとたぶん、もう一人がここに来れないホ!お前は自覚ないかもしれないけど!お前はもしもの世界と
接点結んじゃってるんだホ!」

 並行する可能性の世界が、可能性ではなく、両立しているのだ。それはある一団が神々
の余計なミサイルで時間と空間を跳躍したり、ターミナルからパスカルがこの世界に来て
しまったことに起因しているのだった。

「なんだか分からんが良く分かった。任せておくがいい」
 ケルベロスもまた頷くと、軽く一声吠えた。
0216創る名無しに見る名無し
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2016/06/20(月) 22:41:08.00ID:t+glIRoL
「一先ず3人。後は誰が付いていくかだホ」
ちらりと女性人を見れば、既に二人が進み出ていた。マミゾウと萃香だった。

「儂が旦那と行こう。儂とて新参じゃが、何、戻れなくても実時間で合流すれば良かろう」
「おばちゃん!……こいつをよろしく頼むホ」
「しおらしいのう。こういう空気は嫌いじゃないぞえ」

 フロストは黙っていた。その手があったかと思ったが、パスカルがこの瞬間に至るまで
何がどうあったのか、正確な時間が図れないし到底無事には済まないので黙っておくこと
にしたのだ。

「オニの誼さ。面白そうだし、私もいくよ」
「姐さん!」

 萃香は千鳥足のまま言う。彼女にとっては戦も祭りで、生き死にを賭けることも悪魔と
して当然覚悟を持っている。

「お前、絶対こいつの足引っ張るなホ!こいつが食いしばったら面子立てろホ!」
「いいねえ。そいつ聞いてますますワクワクしてきたよ!」
「本当にわかってるかホ!」

 フロストがキレ気味に言う。何故かフロストは萃香を見ると妙に苛立つのだ。虫が合わ
ないとはこのことか。

「ジードは」「私が行くわ」
「その声は!?」
「話は聞かせてもらったわ」

 人形に障子を開かせて入ってきたのは七色の人形使い、アリス・マーガトロイド!

「アリス!できる女アリス!なんでいるんだホ?」
「あの後、あなたに言われたことが頭から離れなくて。やっぱり付いていこうと思って先
回りしたつもりだったけど、隙間に飲まれていたとはね。取り込み中だったから話が落ち
着くまで出るタイミングを計っていたのよ」

 かくかくしかじかの辺りで既にいたのだが、彼女は出番を待ったのだ。気配りである。
0217創る名無しに見る名無し
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2016/06/20(月) 22:41:26.48ID:t+glIRoL
「その造魔には私が付くわ。最悪取り残されても魔界を経由して帰ってくればいいでしょ」
(こいつらなんでこんなにホイホイ迂回路が出るんだホ。助かるけど)

 ともあれこれで最初のメンバーが決まった。今日のところは準備に徹して、翌日から順
次出発する手筈となった。

「準備と言ってもどうしたもんかのう」
「案の定白黒が間に合わなかったからこっちから乗り込むホ。トラポート解禁だホ!」
「屋台の支度済ませてからな」

 たった二人で、過去への救出劇に乗り込むこととなった悪魔たちと幻想郷の少女たち。
これから先に待ち受ける危機を知って尚、誰一人として恐怖を感じる者はいなかった。
0218創る名無しに見る名無し
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2016/06/26(日) 22:33:48.07ID:OKiMNm2+
 おでん槽に蓋をして、火元の確認をしてから屋台を萃香とオノマンに任せると、オニは
フロストと共に魔法の森の入り口、香霖堂へとやって来た。

「まさか終盤の拠点がここになるとはな」
「神社がちょっと豪華なセーブスポットってだけなのがいただけないホ」

 ぶつぶつと文句を言いながら店の敷居を跨ぐ。薄暗くやや埃っぽい店内には、店である
ことが疑わしいほど雑多な物が陳列されていた。どれも値札は付いておらず、店主が物々
交換や面倒事(肉体労働)を押し付けることで入手することができ、お金で済まそうとすると
とんでもなくふっかけられるという厄介なところだった。

「……なんだ客か」

 そんなことを言いながら、店主が店の奥から現れた。白髪に眼鏡をかけた男で、黒と青の二色でほぼ半々になった和装とも洋装ともつかない服に身を包んでいる。玄関横のカウンターらしき場所には福助が置いてある。居留守のつもりだったんだろうか。

「店主さん!お久し振りっす!」
「初めましてだホ」(こいつら基本二色なんだホな)

 オニが勢いよく頭を下げ、フロストが軽く手を上げる。それを見て店主、森近霖之助は
おや、と小さく声をあげた。間違いなく珍客だったであろうオニを見て無表情だった顔が
少しだけ変化があった。

「君は夏ごろにおでん屋台を買って行ったオニだな」
「その節はお世話んなりました!おかげさまでなんとかやっていけてやす!」

 体育会系のノリでへりくだるオニに対して、霖之助は少し嫌そうな顔をする。他の客や
少女に比べて格段に礼儀正しいのだが声が大きく暑苦しいのだ。加えてアウトドア派とイ
ンドア派である。

「それは良かった。で、今日は何の用だい?」
「実は……」

 オニとフロストは改めて自己紹介がてらにこれまで経緯を話した。そして魔理沙に頼ん
だはずのものが来ないので取りに来たということ。
0219創る名無しに見る名無し
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2016/06/26(日) 22:34:11.48ID:OKiMNm2+
「なるほど、確かに君たちの言うとおり、魔理沙は来てないし、そんな銃も来てない」
「店主さん、頼んます。あの段平、買い直すなんて言いやせん。貸しちゃくれませんか。
金だってちゃんと払います。この一戦だけ使わせてもらえれば」

 オニがその巨躯を縮めて懇願する。幻想郷に来てからの営業ですっかり節度というもの
が身についていた。地道なドサ周りが彼のトークに磨きをかけたのである。

「いや、そこは心配してないよ。君はオニだし、僕の知ってる連中よりもよっぽど上等だ。客としては。それに、スペルカードルール外の異変となれば、遊びじゃ済まないだろう。
有事に際して動き方を間違えないのは商人の鉄則だよ」

 霖之助は来なさい、と言って店の外に出ると、そのまま裏手に周り、倉庫らしき小屋の
前まで二人は案内される。立てつけの悪い扉を雑に開けると、霖之助は中から長い麻袋に
包まれた棒状の物を取り出すとそれをオニに手渡した。流石に重かったのか若干つらそう。

「ふう、ふう。これだろう。随分と傷んでいたから鍛え直しておいた。流石に本職にも手
伝ってもらうことになったが、随分と勉強になったよ。唐傘お化けが傘の張り直しに来て
いたのは好都合だったね。それにしてもオニの使う刀剣類の出所はある程度知っていたつ
もりだったがどういう造りをしているのかまでは把握していなかった。東洋における鋭さ
や取り回しの良さよりも力に耐える頑丈さを優先するのは西洋の思想に」

 突然始まった薀蓄に二人はぎょっとしたが、霖之助は構わずに続けた。誤解である。こ
の段平は他のオニが使っている物に似ているが、かつての仲魔からもらった剣を打ち直し
たもので、鬼が島製の物ではない。しかし一般的な人間の扱う刀剣類とは別物であること
は変わりがない。

 やや興奮気味に語る店主へのフォローを考えるが次から次に話が飛んでいくのでとても
追い付かない。さっき思いついた辻褄合わせが次の瞬間には使えなくなっていくことに、
フロストとオニは戦慄した。

――そしてそんなことやってる内に日が暮れてしまった。

「ということなんだ。どうかな? 今のは僕の推察なんだが、本家からしてどの程度合っ
ているか、採点してみてもらえるかな?」

「えっ。えっあっはい。えーと」
0220創る名無しに見る名無し
垢版 |
2016/06/26(日) 22:34:31.86ID:OKiMNm2+
「オイラメモ取ってるホ」

 そう言ってフロストがいつの間にか付けていた記録。まるで暗号電文のように長く伸び
た巻物には箇条書きされた要点が点々と並んでいた。

(ええ、何これ。最初が全然違うのに結論があってるってどういうことだ……過程に修正
入れると結論が間違っちゃうな……過程だけ修正してえけどこれどうやるの……?)

「ええと、結論は合ってる。でも、過程が、間違ってる」
「ほう。どこだい」

 オニが油汗をかきながら言葉を絞り出す。フロストが太ももに『正直に言え』と助言を
くれる。彼は意を決して話すことにした。

「こ、この段平、実は知り合いの剣士から貰ったもんでして、たぶん、鍛え方も鬼が島製じゃないんじゃないかな、と。それに妖精の魔法もかかってるし、だから、でも、うーん、なんで結論が合ってたんだろう?」

「ああ、なるほど。僕もこの説に疑問点が無いわけでは無かったよ。そして今、君の話で
いくつかの疑問が解決した。これで修正のあったほうが過程もより正しいということだ」

「え、それってどういうことだホ」
 口に出してフロストは、その引き金を引いたことを激しく後悔した。霖之助は待ってましたと言わんばかりに眼鏡を光らせる。もう半日外で過ごしているというのに。

「それを今から教えてあげようじゃないか。折角正しい情報も入ったことだし僕の考え違
いだった点と、何故そう考えたか、そしてこの段平が何故このように鍛えられ、造られたかを話そう」

「いえ、オレたちちょっと急いでるんで!」
「もう夜も暗くなるホ!」
「何を言ってるんだ君たち妖怪だろ!」

 そして、その日が終わり霖之助が満足するまで彼らは拘束された。結局。ソードナイト
ほどの実力者となると、実力に耐えうる剣が必要だったから、魔界の鬼たちに獲物を鍛え
直してもらったというそれだけの結論だった。
0221創る名無しに見る名無し
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2016/06/26(日) 22:35:05.21ID:OKiMNm2+
「じゃあ、気を付けて行って来給え」
「はい、ありがとうございました……」

 段平一つ取り戻すのに丸一日要する罠にかかった二人はくたくたになりながら帰宅する
こととなった。既に辺りは妖怪の時間だったが、彼らはそんな気にはなれなかった。

「そういえば店主さん。店主さんは悪魔に襲われた時の備えってできてるのかホ?」
「ああ。魔石を売っておけばとりあえず大丈夫だろう」

 あっさりとそう返す霖之助の言葉に、今更ながらショップが無事な理由を垣間見たフロ
ストであった。

 そして、余談だが帰った後の博麗神社、というかおでん屋台は萃香が看板娘をしたせい
なのか、いつもより客が入っており、オニが余計に悔しい思いをしたとかしなかったとか。

「オレの店なのに……」
「今度から仕込みだけやったらどうだホ?」

 フロストの言葉に、彼は真剣に考え込んでしまった。言われてみれば、これまでマミゾ
ウや美鈴といった少女がいてくれた時のほうが地底で一人でやっていたときよりも上手く
行っていた。

「この戦いが終わったら、オレ、正式に看板娘を雇うんだ……」
非常に雑な死亡フラグを建てようとするオニだったが。

「そう、関係ないね」
取り合うようなこともせず、フロストはとても冷たかった。

※オニは武器を取り戻したことで借金のスキルが暗夜剣に戻った。
0222創る名無しに見る名無し
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2016/07/21(木) 22:39:28.38ID:OaAPrb/m
三章 仲魔

翌日、ついに元の世界へと出発することとなったフロストたちは、博麗神社の鳥居の前
に集まっていた。今回行くのはオニと萃香の二人だ。

「いいかホ?使い方分かるホ?もっかい説明いるかホ?」
「おう、大丈夫だ。それじゃあ行ってくるぜ」
「ちょっとは楽しめるといいけどね」

 オニはいつもの帽子と前掛けを外し、幻想郷に来た時と同じ着の身着のままの姿だった。
萃香もまた同じだ。有事の際にも自然体で臨む彼らは豪胆なのか、それとも無計画なのか。
うららかな晩秋の一日に、世界と幻想郷の明日を賭けた戦いが始まる。

 言葉にすれば大仰だが、それはいつものことと言えなくもなかった。
「この剣と鏡を翳せばいいんだよな」
「そうだホ」

 フロストが頷くとオニは鳥居にそれを向けた。
「オレがいない間、屋台を頼んだぜ」
「格好つけてねーでいーからはよ行けホ。後がつっかえてるホ」

 まったく取り合ってくれないフロストにオニは苦笑した。お互いに何度もこんな場面が
あった。最初の二、三回こそシリアスなことを言い合ったりしたが、今はこんなものだ。

「それと萃香、たぶん行先では胸糞悪いことになるホ。だからこいつをしっかり頼むホ」
「お!初めて名前を呼んでくれたねえ。いいねえ、こういう潤いが大事なんだよ。まあ任
せておきなって!」

 瓢箪をぐいっと一口呷ってから萃香が笑う。約束だ、と軽く言って手を振る。霊夢が不
満気に萃香を睨む。

「今回に限っては帰ってきなさいよ」
「姿は見せないけど、毎日帰ってるよー」

 そこまで話して、二人は前を向く。
0223創る名無しに見る名無し
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2016/07/21(木) 22:39:47.10ID:OaAPrb/m
「使ったら結界が一時的に裂けるホ。そしたら一気に悪魔がやってくるホ。雑魚はオイラたちに任せて、お前らは思いっきり飛び込むホ!」

「分かってらあ!」
オニが剣を掲げた。
「メシアの角よ!世界を繋げる穴を、ここに!」

 鳥居の下の空間が裂け、禍々しい六芒星の浮かぶ暗黒が姿を見せる。空間の縁を何者か
が掴み、羽のある悪魔が飛び出してくる。オニは更に鏡を翳した。
「メシアの瞳よ!己の道を照らし出せ!」

 六芒星が光り、一本の道となってオニたちの足元へと伸びる。

「じゃあ、行ってくるぜ!」
「あとよろしく〜!」

 二人が悪魔の流れに逆らって飛び込むと、開かれた空間がゆっくりと閉じていく。しか
し閉じていく間にも、悪魔は我先にと現れてくる。

「こういう異変なのね……つくづく昔を思い出すわ」
 アリスが人形を展開する。

「いやはや、じゃあちょっと久しぶりに堅気の妖怪をやろうかい」
「アクマモ イロイロ タイヘンダ」
 マミゾウが葉っぱとお札を取り出し、ケルベロスが首を振る。

「ここから先に行きたけりゃ、オイラたちを倒してから行けホ!」
「雑魚妖怪のくせにうじゃうじゃと、仕事させんじゃないわよ!」

 霊夢とフロストが、現れる悪魔の流れへと躍りかかる。

 師走を間近に控えたこの日、博麗神社では霊夢と奇妙な仲魔たちの戦いの火蓋が切られ
たのだった。その一方で、その光景を遥かな高みから覗き見る者があった。

「人と歩みし悪魔の業、見せるが良い」
 誰とも付かないその悪魔は見守るように、そう呟いた。
0224創る名無しに見る名無し
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2016/07/21(木) 22:40:42.62ID:OaAPrb/m
――代々木公園

 ある年の、ある日に、この公園では凄惨な粛清劇があった。カオスの急先鋒たるガイア
教団の教徒同士の抗争。陽中の陰とでもいうべき異端の男が運命の扉を開けた。その日。

 その日に、オニと萃香は来ていた。彼らの目の前ではたった一人の男を前に、正確には
一人の男と、男が召喚した悪魔の前に、他の教団員たちは健闘虚しく力尽きていった。
その光景を、二人は見ていた。オニからすれば懐かしい敵の顔ぶれが並んでいる。

「ここかい」
 オニが呟いた。目の前の光景は半透明で、映像の様だった。手を伸ばしても触ることも
できない。元より助けるつもりはなかったが、干渉できないことは分かった。

「これってさあ、今どうなってんの?」

 萃香が瓢箪から酒を呷りつつ尋ねる。何の抵抗もなく公園の会談に寝そべると、ひとつ
欠伸をした。その辺に転がっている空き缶を投げつけるが、映像をすり抜けて向こう側へ
と飛んでいくだけだ。

「たぶん、この先で、アイツに何かが起こるんでしょうや」
 そう言う間にも見る見る内に数を減らしていく。オニの記憶にあるのは喧しい妖精たち
に道に迷わされたり、異端のマネカタが呼び出した中途半端な邪神と戦ったくらいだ。

 それより前のことは、彼も知らない。だが、それでも異変と分かる出来事が、今目の前
で起ころうとしていた。

 ガイア教団側が一人のデビルサマナー、ヒカワに敗れた後、それは起こった。すぐ近く
に二人の人間、悪魔だろうか。どちらともいえない存在が、モノも言わずヒカワに襲いか
かる。

「あいつらか。人間の頃から悪魔らしかったって話だったがよ」
「知り合いなんだ?」
 オニは頷いた。

 一人は子どもだった。少年で、虚ろな瞳をしている。手に持ったナイフをチラつかせて
いる。酷薄でまったく手垢のついていない貌。
0225創る名無しに見る名無し
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2016/07/21(木) 22:41:05.15ID:OaAPrb/m
 もう一人は中年から壮年の男、怒りと憎しみで眼が濁り切っている。身なりは上等で、
スーツ姿だが、興奮した形相からは一遍の理性も見られない。

 両者に共通しているのは正気でないことだが、そもそも自分の意思があるのかも不明だ。
本来なら、この二人はここに存在しているはずのない人物だった。
 これより後に、悪魔となって、ある意味望んだ生を掴んだ彼らの、その前身。それこそ
が紫が言っていた「特異点のようなもの」だろう。

 ヒカワが彼らに何かを言って悪魔をけしかける。堕天使や邪神を中心とした悪魔が各々
魔法や特技を駆使して応戦するが、それも次第に崩されていく。どちらも非常に火力が高い上に執拗に一人一人を撃破していく。

 ヒカワも手を出しているし、追い詰めていってはいるが、少しずつ陣容を崩されていく。特異点側の悪魔も見る見る内に傷ついていくが意に介さず、攻め手を緩めない。

 最後にはヒカワに一太刀を浴びせたところで二人は消滅した。ヒカワは呪詛を吐いてど
こかへといなくなってしまった。恐らく、これで何か予定が狂うのだろうとオニは漠然と
ではあるが事態の把握ができていた。

「終わっちゃったけどさ、どうすんのこれ?やっぱ助けに入ったほうが良かったかな?」
「いや、たぶんこれからですぜ。姐さん」

 そう言うやいなや、彼らの前に赤い煤の様なものが現れる。それは次第に集まって、
先ほどの悪魔を形作った。そして、世界が逆再生映像のように時間を遡っていく。
ガイア教団が全滅する前、彼らが公園に集結する以前まで。

 その悪魔たちとオニ、萃香を残して。
「分かりやすいね。こいつら倒して帰ればいいんだ」
「そっすね。意外に強いんで気を付けて。それにしてもなあ。いったいどんな奴が立ちは
だかるかと思えば、お前らか。つっても、たぶん中身は人間じゃねえんだろうな」

 向こうもオニたちを敵と認識したのか、彼らのほうへゆっくりと歩み寄ってきた。迎え
撃つように構えた二人を見て、彼らは、一気に間合いを詰めて襲い掛かってきた。

――悪魔 サカハギ と フトミミ が 出現 した!!
0226創る名無しに見る名無し
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2016/08/07(日) 21:58:46.78ID:1C7QEzYt
 全てが元通りとなったということは、ボルテクス界で悪魔となっていた者たちもまた
元通りということである。

 家庭や仲間の温もりに憧れを抱いていた少年も、憎しみに身を焦がし苛まれていた男も
また、この世界に戻っていたということであり、強力な悪魔に転生するだけの魂を持ちな
がらも自らに何のコトワリも持たない彼らが、歴史改変のための尖兵として選ばれたのは
ある種自然なことであった。

「おー、ちょっとは強そうじゃん。おーい。お前らー、お前らはなんだい?」

 萃香が楽しそうに語りかけるも彼らは答えない。正気は元より自我さえ既にないようで
あった。躊躇無く繰り出されるナイフと拳、それらを難なく躱しながら萃香舌打ちをする。

「ちぇっ。中身は傀儡か。戦り甲斐のない」
「姐さん!遊んじゃいけません!」

 オニの警告を聞き流す、敵の攻撃も受け流す。あまりにも軽やかな動きで物理攻撃の類
が萃香には当たらない。体を霧に変えることさえせず、ひょいひょいと翻弄していく。

「すげえ、まるでスクカジャが限界までかかっているみてえだ!」

 オニが感嘆の声を上げると、サカハギが狙いを彼へと切り替える。鋭く繰り出される何
度も襲い来る突きが赤い肌を刺して、その度に血の紅が上塗りされていく。

――だが、浅い。

「つッ、舐めんじゃねえぜ!」
オニが一歩引いて腰に溜めを作る。そして追い打ちにかかるサカハギを真正面から殴り
飛ばした。相手の体がバウンドし、後方へと吹き飛ぶ。

「はっはー!お前やっぱりやるじゃん!」
 フトミミを連続で殴り鎖分銅で引き寄せまた殴るというコンボを決めながら萃香が喝采を送る。
 最後にもう一度殴り飛ばして寄ってくる。その目には子どものような感動と、獲物を見
つけた獣の光があった。
「ねえねえ。帰ったら私と一発殺ろうよ!平の殴り合いでさ!」
0227創る名無しに見る名無し
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2016/08/07(日) 21:59:19.24ID:1C7QEzYt
 腕を半端じゃない力で掴まれながら、しかしオニは吹き飛ばされたフトミミとサカハギ
を見ていた。

「呆気なさすぎる……」
 確かに過去の彼らと今のオニとでは実力に開きがある。それは確かだ。しかしあまりに
も動きが単調だった。先ほどの氷川を迫ったような力は感じられない。

「力配分してるってこと?」
 萃香の問いに頷くオニ。見ればゆっくりと起き上がる両者に、赤い怨念のような何かが
流れ込んでいく。先に立ち上がったフトミミが萃香へと振り向く。

『!飛べ!』
 全く同じ危機感を抱いて、全く同じ警告を発し合い高く飛ぶ。足元に一瞬で通り過ぎて
行くフトミミと、そのまま彼らの後方の自販機を拳で貫くのが見えた。

 まるで物理的な干渉がないのか、文字通り貫通したのだ。萃香の顔が一瞬で剣呑なもの
へと変わり、オニが唾を呑む。そして背中には悍ましい痛みが走る。瘴気に染まった湿っ
た風が二人の背を叩いたのだ。

「ぐ、こいつは!?」
「いでででで!!」

 サカハギが発した湿った風により体勢を崩し、フトミミのほうへと押しこまれる。オニ
は回避を諦め反撃に全神経を集中させる。しかしフトミミは萃香に焦点を合わせていた。

(け、優先順位を良く分かってやがる!)

 オニは所詮、どこまで言ってもタフな妖怪に過ぎない。そこを見れば萃香は何をしてく
るか分からない曲者さと俊敏さがあった。フトミミの拳が着地際の萃香を襲う。その拳が
空を切る。見れば萃香は宙に浮いていた。幻想郷の人里以外に住む少女は空を飛べるのだ。

「惜しいねえ、でも、まだまだこんなんじゃ物足りないよ!」
 攻撃を外し手番を譲ることになったフトミミに、萃香は飛び込みから先ほどの連携を
再度叩き込む。追い打ちでオニも段平で一撃を加えることに成功する。

「さあさあ折角の異変だ。もっと頑張らないと、食べちゃうぞ〜!マージ―でー!」
0228創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/27(水) 10:59:03.05ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

E6D9QHEPM5
0229創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/05/21(月) 08:13:44.54ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

06I44
0230創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/07/03(火) 19:40:40.93ID:f1dClnnX
RY9
0231創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/17(水) 18:22:29.60ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

DGS
0233創る名無しに見る名無し
垢版 |
2022/10/18(火) 20:17:50.70ID:TaWZMMeK
>>231
喋んな
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