短編小説書いたから読んでって
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
どうぞ見ていって
私が立ち寄った町に一人ぼっちのお婆さんがいた。
一人ぼっち、ただ一匹の柴犬がいるだけである。腰は少し曲がっていて、当然のごとく白髪頭であった。それも少しだけ黒髪が混じっている。顔はしみと皺で埋め尽くされていて、唇はかつての色、艶を失い、薄黒い肌と同じようであった。
お婆さんは旅人である私に、寝るところと料理を提供してくれた。お婆さん曰く、今日は都会に二人いる息子が里帰りしてくるという。今日で八十なのよ、とお婆さんは笑った。
それはめでたいことですね、と私は素直に言い、家族の団欒を邪魔してはいけないな、とここを立ち去ろうとしたが、お婆さんは私を引き留めた。なら、と私は言った。
「私は与えられた部屋で大人しくしています。お婆さんは御気になさらないでください」
お婆さんは私の意志が固いのを知ると、わかりましたよ、と仕方なさげに言った。二階にある部屋に上がろうとするとき、お婆さんは、ちゃぶ台に置き切れないほどの料理を用意して息子たちを待っていた。 一郎は真っ直ぐに家に帰らず、公園を近くにある公園を目指した。そこに植えられている桜がちょうど見頃なのであった。夜桜で一杯、何とも乙じゃないか、と一郎は一人で笑った。 公園内には三本の桜の木があった。その内の一本の傍には電灯がぽつんと建っている。遠慮がちな光が桜をより白々しく照らした。
一郎はそこで自転車を止めた。そして斜め上を見上げた。電灯の周りをぶんぶん飛び回る虫の向こうに九分咲きの桜が見えた。
一部の花は光に照らされ、一部の花は闇に沈んでいる。見事な桜に一郎の気分は昂揚した。
ビールのプルタブを開けわざわざ喉を大きく鳴らしながら一息で半分ほど飲んだ。
「おじさんも桜、見に来たの?」
突然の声に一郎はビール缶を握る手を強めた。しかし声は柔和で全く怯える必要のないものだった。 一郎が振り向くと十前後の少女が立っていた。
「驚かせちゃった?」
少女は一郎を申し訳なさそうに見た。その視線を受けて一郎は恥ずかしくなったので、
「いや驚いてなんかないよ」
と明るい声を出した。それを聞いて少女は、よかった、と嬉しそうに呟いた。 暗闇でわかり辛いが少女は白の花柄のワンピースを着ていた。何の花をあしらえているのか一郎は目を凝らしたがわからない。
そもそも花の知識など持ち合わせていないことに後から気付いた。
「君は何をしているの?」
一郎はおずおずと聞いた。少女は、
「桜を見に来たの。おじさんもでしょ?」
と答えて木の下へ歩いた。一郎もそれに倣った。
「もう満開になったんだあ」
と少女が桜を見て呟いたので、一郎は花が咲いていない部分を指差して、
「ほら、あそこ。花が咲いていないからまだ満開じゃないよ。……ほら、あそこも」
と指摘した。それに対して少女は呆れたように息を吐いた。
「おじさん。そういう細かいことでいいムードを壊さないでよ」
非難めいた言葉に一郎は思わず、ごめんと謝った。 少女は笑って、
「じゃあそのジュースくれたら許してあげる」
と言った。一郎はレジ袋を持ち上げて、
「これビールなんだ」
とぎこちない笑みを浮かべて言った。
「全部?」
「そう、全部」
なあんだ、とつまらなさそうに少女は声を出した。その後一郎の手に握られている缶をじっと見て、
「じゃあ一口ちょうだい」
と甘えた声で一郎に向かって手を差し伸べた。 一郎はあげるべきか迷ったが、かつて子供だった自分も大人の飲み物に興味があったなあと思い、一口だけなと釘を刺して缶を少女に渡した。
ありがと、の明るい声とは裏腹に少女の顔には緊張と好奇心が現れていた。そして彼女はえい、と缶を傾けた。
缶から口を離すと少女は顔をしかめて、
「まずっ、これ苦い」
と缶を一郎へ返した。 少女の綺麗な顔には魅力的な皺が一瞬だけ生まれた。一郎はあはは、と笑って、
「そりゃあ大人の飲み物だからな。コーラとかジンジャーエールとは違うぞ」
と当然のことを口にした。
ベンチに二人は並んで座った。少女はユキと名乗った。一郎はどんな漢字を書くのだろうと思ったが、また何か言われると思ったので聞かなかった。
その代り、
「こんな時間に外に出て大丈夫なの?」
と聞いた。ユキはふっと笑みを浮かべて、
「うん。大丈夫」
と小さく答えた。 ユキの横顔に一郎は思わず見惚れてしまった。おいおい、ビール半分ちょっとで酔うのは早すぎるぞ、と自分を誤魔化したが無駄だった。
意識すればするほど彼女の肌に視線がいき、鼻は髪の匂いだけを嗅ごうとした。
一郎はさらにワンピースと胸元にできた隙間に目をやった。
何も見えなかったがそこに目をやったという行為だけで十分な興奮と罪悪感も感じた。 一郎はビールを一本飲み終えて、
「親御さんが心配するだろうから送ってくよ」
とユキを誘ったが、彼女は黙ったままじっとしていた。
「なあ」
「親は今いないの」
一郎はえっ、と声を出した後黙って続きの言葉を待った。 少しの間の沈黙の後再びユキが口を開いた。
「お父さんはずっと前にいなくなって。お母さんは今病気で病院。……私、今お祖母ちゃんのところに預けられてるの」
一郎はどう答えていいかわからなかったが、沈黙を避ける為にそうかと呟いた。虚しい言葉は彼女の手前で墜落してしまった。 >>87
ロリコンではないぜ
ユキが見せた先ほどの笑顔を一郎は頭に思い浮かべた。事情を知るとそれはあまりに残酷で痛々しかった。
ユキにはビールを飲んだことを叱る親もいないのだ。
「お祖母ちゃんは寝つきが良いから私が出ていったことも気が付かないの。今年の春からここに来て何度も夜に家を抜け出して桜を見たんだ」
一郎は黙っていた。ただユキの鎖骨の辺りを凝視していた。 「何にも咲いてない時から今の九分咲きまでね」
「九分咲き」のところを特に強調してユキは言った。そして一郎の顔を覗き込んで歯を出して笑った。
一郎は力のない笑みを浮かべた。そして手を伸ばしユキの頬に触れた。一郎は少し冷たいユキの頬を気持ちいいと感じた。
ユキは頬に触れている一郎の手をゆっくりと握り、頬ずりをした。
この子は親を欲しているのだ、と一郎は思った。誰かが無条件の愛を注いで抱き締めてあげなければいけない。
空いている手をユキの背中に回し、そっと抱き寄せた。ユキは手を離す。一郎はその手も背中に回し強く抱き締めた。
お互いの頬が触れ、少し紅潮した顔が冷やされていくのを一郎は感じた。 ユキの手が一郎の首に回された。触れ合う頬が濡れた。そりゃあそうだ、誰にだって親の愛が必要なんだ、一郎は心の中で彼女を擁護した。
しばらく二人はそうしていた。しかしいくら愛情を持って抱き締めても一郎は偽物だった。所詮疑似親子愛だった。
ユキは手を解き一郎から離れた。 「ありがと、おじさん」
一郎はユキの潤んだ目を見た。白い指がやがてそれを拭った。
「お母さん、絶対治るよね」
一郎はそれが自分に向けられた言葉なのか、ユキ自身を納得させる為の言葉なのかわからなかった。
たぶん両方なのだろう、と思った。
「治るよ。絶対。約束してもいい」
ユキは首を振った。
「約束なんていらない。……絶対治るから」
うんと一郎はうなづいた。 瞬間一郎の頬に柔らかい物が押し付けられた。ほんのり湿ったものが。
ユキのほんのり赤くなった顔を見て、それが唇だったということに気が付いた。
「お父さんの代わりしてくれたお礼ね」
恥ずかしそうにユキは言った。一郎も自然に笑みがこぼれた。
ユキはばいばい、と手を振って帰って行った。一郎は熱をとる為にもう少しここにいようと思った。
少し強い風が吹いて桜の花を少しさらっていった。
一郎はユキのワンピースの花柄は何の花だったのだろうと再び考えた。
<終> >>94
自分がロリコンなのか分からなくなってきた あなた、桜の花の下には…のあと、なにが続くか知ってますか? ああやっぱりそうか もし、あれよんでてこれだとちょっとなあ だったけど。
梶井基次郎の『檸檬(れもん)』とかの文庫本に大抵入ってる
「桜の樹の下には」みたいな題名(うろおぼえ)の短編(どこの図書館にもある。10ページもない短い話)
を読んでみな いま、(ごく若い人は別として)桜と あやかし の話がでたら
多くの読者がこれを想像する あなたがそれを読んでからこれをかきなおしたら、もっと面白くなると思う
その作品に依拠して書き直すもよし、無視する方向でもよし、ただ知らないよりは
知ってたほうがいい >>100
梶井基次郎は何にも読んでなかったわ
ありがとう読んでみる うむ、このての落ちでどうにかするショートショートみたいなのじゃないやつで
梶井を読んでないのはかなりもったいない 何しろ文庫本一冊で主要作品が
網羅できるだけでもお得だ おちは内緒にしておくが梶井の桜の話をよんでも
落ち込まずにがんばってくれw >>102
なんかめっちゃ気になるな
今年中にでも図書館いこ 見てる人いるかな?
投下します
男は満員電車の車内にいた。
もう秋になるというのに人で埋め尽くされた車内は非常に気温が高く、男は少し汗をかいていた。
右手で吊り革を掴み、左手で鞄を持っている。
男は周りの迷惑にならないようにただ車内の広告だけを見ていた。
電車がホームに滑り込んだ。多くの人が降りて多くの人が乗る。
この電車で自分は座れないということを、男は電車を使い始めの日に理解した。 扉が閉まり電車が動きだす。後何年満員電車に乗らなければいけないのだろう、と男はふと考えた。
男の心には疲労が塵のように堆積し、それを吹き飛ばしてくれるものは何もなかった。
男の目の前にはいつの間にか女子高生がいた。スマートフォンの画面にじっと見入って何やら操作をしている。
まったくご苦労なことだ、と男は素直に思った。彼女は学業、部活、友人関係、恋人、と忙しいはずなのに通学の時間も無駄にしない。 もしかすると社会に出るための訓練かもしれない、と男は思った。一日という時間にびっしりと埋められた予定を一つ一つこなしていく訓練。
予定を新たに生み出す訓練。時間を一秒も無駄にしない訓練。……もちろん彼女はそんなことを意識していないのだろう。
でもそういう可能性もあるのだ。
もちろん俺もそういった思惑に動かされている可能性がある。例えばこの満員電車がそうだ、と男は考えを続けた。
大勢がこんな狭い箱にぎゅうぎゅうに抑え込まれているなんて明らかにおかしい。 男は首を少し動かした。あそこの男も、こちらの男も、みんな俺のようには考えていない。
いやそれこそが訓練された結果なのだ。俺のようにごちゃごちゃ考えるのは訓練不足の証なのだろう。
男がそんなことを考えているうちにまたもや電車が駅に着く。また人が流入し流出する。
男はあと次の次の駅で降りる。このまま黙って会社に行っては誰か知らない奴の思い通りだ、と男は苦々しく思った。
顔を知っていれば男はその顔を殴り飛ばす妄想をするのだが、この場合は敵が明確でない。そのことがさらに男を苛つかせた。いっそこのまま電車に乗り続けてやろうか。 まあ落ち着け、そう男の頭に言葉が響いた。お前には疲労が溜まり過ぎている。
落ち着くことが大切だ。生活の為にはその知らない誰かに従順にならなければいけないんだぞ。
一時の感情で全て失うなんて馬鹿じゃないか。
じゃあどうしろっていうんだ、と男はその声に対して心の中で言った。沈黙。ほらみろ何にも有効な答えが出せないでいるじゃないか。
従順になったらまるで殺されるのを待つ羊だ。頭を垂れて屠殺人の前まで歩いて行く人生など何の意味があるのだ。 男の中で考えがぐるぐると渦を巻いた。
このままいつものように闇に飲まれては駄目だ、と男はどうにか渦を消し去ろうとした。
しかし結局それは消えなかった。
だったらもう一度考えるだけだ。終着点が同じところでも考えなければいけない。
考えを止めるな。止めなければいつか電車が脱線するように違う結果を生むかもしれない。
男は車輪を想像した。レールの上をぐるぐると回って進んで行く。
そら外れろ、外れろ、外れろ。車輪よ欠けろ、レールよ歪め、恐ろしいほどのカーブよ、来い。 また駅に到着する。男はひどく悔しがって、はっと気づいた。
いつの間にか考えの車輪と電車を一緒にしてしまっていたのだと。
一人の少女が電車に乗り込み、男の前に陣取った。男は激しい雷鳴が頭上でけたたましく鳴るのを感じた。
中学生か高校生だろう。肩までの黒髪からはいかにも自然な良い香りがした。
これだ、と男は手を打ち鳴らしたくなった。しかしそんなことは当然できない。
その代わりに音を立てずに思い切り髪の匂いを吸った。 少女は例に倣うようにスマートフォンを取り出した。男はこの少女と車輪が繋がっているように感じた。
この少女の車輪をレールから外すことが出来さえすればいいのだ。男はこの考えに憑りつかれた。
後一駅で何ができるだろう? 男は少女のスカートを見た。そしてその先にある下着に包まれた、形の良い曲線を描いているであろう尻を思い浮かべた。
この尻を触ればいい。妙案だ、と男は考えた。これが成功すればこの少女と俺の車輪は外れ、まっとうな地面を走ることができるのだ。
そしてこの少女も愚かな羊に成り下がることがなくなる。 男は足の間に鞄を立て左手を自由にした。そして少女の尻の位置に左手を持って行った。
左手にスカートが微かに触れた。まるで白く輝く刃に触れるような緊張を男は感じた。
吊り革を持つ右手は激しく汗を吹き出し、次に持つ人は非常に嫌がるだろう、と男は途端に可笑しくなった。
可笑しがっている場合じゃない。それはただの逃避だ。俺は触らなければいけない、握らなければいけない。……目の前の少女の尻を。 男はスカートに手を強く押し当てた。少女は体を少し動かした。
男はスカートを避けて彼女の左の膨らみと思しき物を優しく、それでいて確実に握った。
ショーツ越しに柔らかい感触が伝わってくる。何度も握っているうちに熱を帯びてきた。
少女は体をびくりと震わせ、静かに周りを見回した。明らかに嫌がっている。
そうだ嫌がれ、と男は少女に念じた。レールから外れろ、外れろ、外れろ。
男はショーツの中に手を入れた。確実な柔らかさが掌に伝わる。つぶすように強く握った。
少女はスマートフォンをしまって、恐る恐る手を外そうとするが男はそれに応じない。 男は少女の「やめて」という小さい声を聞いた気がした。外れろ、外れろ、外れろ。……男は少女の尻を握りながら念じ続けた。
少女が後ろを向いた。男と目が合う。少女の目は潤んでいた。
男の鬼気迫る表情に恐れを為したのか少女はすぐに前を向いた。黙って耐えることを決め込んだらしい。
電車が男の降りるべき駅に滑り込んだ。男はようやく手を離した。そして人ごみの紛れて電車を降りる。
一瞬後ろを向いて少女の顔を見た。嫌悪感が剥いたばかりのゆで卵のような光沢を持って現れていた。
しかし少女のレールが外れたようには思えなかった。
自動改札機に人が並んでいる。そして男も並んだ。周りの人々が全員羊になったように男には思えた。
たぶん自分も羊の顔をしているのだろう。
屠殺人の姿は見えなかった。 率直な感想は、近代文学に雰囲気が似てる。って感じ。
他の人も書き込んでたけど、梶井基次郎とか、芥川とか。
もしかして少し前ににそういう類の文学を読んで、触発されたのかな。
一作目に関してはたしかセンターの問題でも出た、おばあさんが海辺の土地を不動産屋に頑として売らない、ていう話にそっくりだし。
そのせいか、雰囲気ばかりで主題がすっぽ抜けてる気がする。
見てくればかりで小説で何を伝えたいのかわからない。
誰が読んでも「切ないね、悲しいね」小学生の感想文程度の感想しか出てこない。
でもはじめは短くても書ききる、ってことが大事だから、四本書ききったことに関して自信を持っていいと思う。
ただ三、四作目は完全にロリコン乙 >>118
見てくれてありがと
梶井は読んだことないし芥川もほとんど読んでないけど
確かにそういうのが基本にあるのは確かだと思うわ
四作目ロリコン化か? 確かに梶井の檸檬とか連想させる
ロリ路線のレールは外れずに進行で >>120
檸檬ね読んでみるわ
まあ女の子出した方が楽しんで ある男が自分の体が石になってしまうと言った。
始めはみんな男のほらだろうと馬鹿にしていたが、男は真剣に自分は石になるのだ、石になるのだ、と言っていた。
男がそれを自覚してから二日後、朝起きると男の右足は石になっていた。
やはりこれが運命なのだ、と男は思った。恐れていたことが起きてしまった。
これを見るとみんな非常に気味悪がった。医者を呼んだがその医者も手の施しようがない、と言って帰ってしまった。 男の石化は右足の腿にまで進んだ。
このまま左足に石化が進んだら歩けなくなってしまうと男は恐れて、石の右足を引きずり引きずり近くの広場へ向かった。
その途中に右足の親指が取れた。非常に惜しく思ったがどうしようもなかった。
広場に男がいるとして人々は誰も近づかなかった。
あの男は罪深きことをした報いを受けているのだろう、と人々は言った。
あの男に近づくと自らも石になってしまうとも言った。
右足が曲げられないので男は立ち続けていた。
不思議なことに疲労はしなかった。左足にも石化が始まりそろそろ歩けなくなるのは確実だった。
そして食べる物が何もないことに気が付いた。 でもそれでいいかもしれない、と男は思った。このまま餓死をすれば完全な石人間にならずに済むだろう。
石化したところだけ砕いてしまえば少し欠損しただけの死体になる。
しかし腹は減る。男は気を紛らす為に愛している女のことを思い浮かべた。
そういえば彼女も来ないな、と一人寂しく呟いた。この姿を見て欲しくはなかったが、女には会いたい。
そんな矛盾が男の中で燻っている。そしてそれを消火してくれる人も、燃え上がらせてくれる人もいなかった。
左足の膝にまで石化がくる。男は自らの両足を撫でた。確かに石だった。男が普段触れてきた石と何ら変わりがなかった。
男は立ったまま眠った。何とか飢えを抑え込むことができたのだ。 目覚めると一人の少女がいた。栗色の長い髪には艶があった。
肌は白いがしっかりと肉感があった。男はもしや石化など夢だったのかと彼女の方へ足を踏み出そうとするが足が動かない。
夢なんかじゃなかった。そしてもう両足の腿が石化してしまった。
少女は泣いていた。顔を下に向けたまま涙を流している。髪が前に垂れて顔を隠している。
それでも美しい顔をしているということはなんとなくわかった。何を泣いているんだろうと男は思った。そしてそのように聞いた。
少女は嗚咽の中で苦しそうに答えたがよくわからない。少女が落ち着くのを待った。
ようやく少女は泣き止んだ。男は先ほどの問いをもう一度した。 「だっておじさん可哀そうだわ。何も悪いことしていないのにこんなことになって……」
確かにそうだと男は思った。自分は何も悪いことをしていなかった。
「君は誰だい? 僕を知っているの?」
「今そんなことどうでもいいわ。お腹すいたでしょう? これ食べて」
少女はパンを差し出した。男はごくりと唾を飲んだが首を振った。
「どうして? 嫌いなの?」
「いや嫌いじゃない。嫌いじゃないけど俺はこのまま餓死することに決めたんだ。そうすれば僕は完全な石にならずに済む。俺は人間でいたいんだ」
「食べなきゃだめよ。絶対にだめ。飢えて死んじゃうなんて苦しいわ」
少女がパンを強引に口に運ぼうとするが男はその手を避けた。バランスが崩れそうになる。
倒れたらもう起き上がることができない、と男は恐ろしく思った。そうすれば人が笑うに違いない。 少女は再び泣き出した。男は困惑した。何で自分何かの為に涙を流すんだろうと思った。
「泣かないでくれよ。お願いだ」
「じゃあ……パンを食べて」
目を赤くしながら少女は男を見た。
「わかった、わかった。食べるから。ほら食べるよ」
少女はパンを差し出した。男はそれをひったくるようにしてそのまま齧った。
何でもないパンだったが非常においしく感じた。
「これも全部食べなきゃだめよ」
すっかり少女は泣き止んでいた。差し出されたパンを全て男は食べた。
少女は男が全て食べ終えたことを確認すると嬉しそうに笑った。男も微笑んだ。
「おいしかったよ。ありがとう」
「でしょう? お腹が空いたままっていうのは大変なことだわ。怒りっぽくなって冷静に物を考えられなくなるのよ」 投下が進んでいるようで何より。
全体的に薄汚い男と、それにに対して(率直に言うと)都合のいい少女、という構図で構成されているけど、これは>>1の願望の表れかな? 少女はちょっと待ってて、と男に言い残して走り去った。
あの子は誰だろうと男は、深い海の底に続く網を手繰り寄せたが少女のことは記憶になかった。
少女はバランスを取りながら急いで帰ってきた。水を汲んでいたのだ。
男は少女にお礼を言って両手で水をすくって飲んだ。
「君は一体誰なんだい? 君とは面識があったかな?」
一息ついてから男は聞いた。少女は、
「おじさんは昔私を助けてくれたのよ」
と言った。男はもう一度網を沈めて手繰り寄せたが無駄だった。どこかが切れているに違いない。
「覚えてないのね。まあ私も直接助けられたわけじゃないけど。
……私がお母さんのお腹にいる時、ちょうど産気づいた時におじさんはお母さんを背負って産婆さんのところに行ったのよ。
お母さんはあのままじゃ危なかったって言ってた。覚えてない?」
男は思い出した。 >>130
お見通しかその通りだぜ
「お母さんはおじさんが石になったって話を聞いて私に助けに行くように言ったの。
お母さん本人がここに来ると色々うるさいからね。……もちろんお父さんも了解してくれたわ」
「そうか……そんなことがあったっけ」
男は自然と涙を流していた。少女は戸惑っている。自分のことを考えてくれる人間がいることがとても嬉しかった。
「おじさん? どうしたの」
男は泣き続けた。少女は諦めて、じゃあ明日も来るね、と言って帰って行った。
男は久しぶりに泣き疲れた。そしてそのまま眠りに落ちた。久しぶりに幸福な気持ちを感じていた。 目を覚まして周りを見たが誰もいなかった。男はどこまで石になっているか確認をする。
股間に触れて男は戦慄した。男性器が石化してしまったのだ。
惨めな姿だ、と男は思った。ついに自分は男の称号を失ってしまった。
この状態では使う機会などないことはわかっていたが、割り切ることができなかった。次に自分は人間でなくなる。
やはり昨日パンを食べるのではなかったと後悔した。
石化は腰の辺りまで進んでいた。男はこのまま倒れてしまおうかと思ったが、必ず少女は起こそうとするだろう。
それで彼女の父や母を呼ばれるのは耐えられなかった。結局男は立っていなければいけなかった。 少女がやって来た。男は無理矢理にでも元気になろうと努めた。
彼女に男性器を失って落ち込んでいることなど知られたくなかった。
少女はまたパンと水を持って来た。腰にまで石化が進んだ体を見て少女は一瞬言葉を詰まらせた。
「おじさん。今日もしっかり食べなきゃだめよ」
「わかってるよ。ありがとう」
食べ終わった後、男は女のことを聞いた。どうしても気になったのだ。
「あの人のことが好きなの?」
少女は逆に男に聞いた。うん、と男はうなづいた。少女はそう、と呟いた後言った。
「あの人はね……あの人もおじさんのことを気にしてるけど来られないの。
おじさんがこんなことになってから色々悪い噂が立ってるから、だから……」
「本当のことを話してくれ」 少女は黙ってしまった。男は何をしているんだろう、と思った。
嘘だって自分の為に彼女がしてくれたことじゃないか。しかし遅かった。彼女は男を真っ直ぐに見て、
「おじさん、あの人はちょうどおじさんがこんなことになり始めた時に結婚して、どこか違うところに行っちゃったの。……これは本当よ」
そうか、と男は女の姿を思い浮かべた。もうとっくに他の男のものになってしまったのか。
「おじさん、泣かないでよ」
「泣いてないさ。こうならなくてもあの人は結婚しただろうからね」
「……そうね」
少女は男の手を握った。温かい手だ、と男は思った。
「おじさんが寂しがらないように明日も、明後日も来てあげる。だから元気出して」
そう言って少女は手の甲に口づけをした。潤いのある唇が気持ちが良かった。
少女が口を離す。少し顔が赤らんでいるのを見て男は愛おしくなった。片方の手で男は少女の髪を撫でた。
男はそのまま少女と話しをした。少なくとも話している時は石化のことを深く考えずに済んだ。 翌日。男は確実に睡眠時間が短くなっていることを感じた。体が必要としなくなってきているのだろうか。
指の感覚がない。それどころか肘が曲げられなかった。
早すぎる、と男は思った。両腕はちょうど肘の上辺りまで進んでいた。
もう物を持つことも、彼女の髪を撫でることも出来なくなったのだ。
少女が来る。もう驚いてはいなかった。彼女なりの石化予想があるのだと男は思った。
「手が使えないでしょう? 私が食べさせてあげるわ」
少女が手を伸ばしてパンを男の口に持っていく。男も黙ってそれを食べた。ひどく時間が掛かった。
水も飲ませてくれたが男はこぼしてしまった。足に水がかかったが何も感じない。
ただ色を変えるだけだった。 少女が腕のまだ石になっていないところを揉んでくれた。
「気持ちいい?」
「ああ、とっても気持ちいい」
「よかった」
少女はしばらく揉み続けた。
男は昨日の唇の感触を思い出そうとした。しかし上手くいかない。
男は自分に苛立ちを感じた。どんどん体を失っていく焦りがあった。
「またキスしてくれないか」
男は呟くように小さく言った。聞こえなくても良かったのだが、少女は聞きとったようだった。
少女は腕を揉む手を止めて、意味ありげに微笑んだ。そして何処かへ走って行った。
男は激しく後悔をした。なんてことを言ってしまったんだ。相手はまだ子供じゃないか。
しかし自分を擁護する声もあったのだった。こんな自分に最後まで付き添おうとしてくれる子が魅力的に感じないわけがあるか。
そんな子のキスが欲しくないわけないだろう。 そうだ、と男は思った。彼女とキスをすることで自分の存在を残すのだ。
少なくとも彼女が自分とのキスの感触を覚えている間は自分は人間でいられるのだ。
少女が桶を持って来た。そしてそれを男の前に置きそれに乗った。
「おじさん頑張って屈んで」
「本当にいいの?」
「早く」
男は屈んだ。目をつぶって、と少女が言った。男は目をつぶった。
そして二人の唇が触れ合った。少女は倒さないようにぎこちなく男の首に手を回した。
この感触だ、と男は思い出した。もう忘れるものか。
少女が唇を離す。男が目を開けようとすると、まだ開けちゃだめ、と言った。それでも男は目を開けた。
少女の恥ずかしがった顔に男は満足した。 「まだ駄目って言ったじゃない」
少女はそっぽを向いた。
「おじさんは女の子の言いつけも守れないの?」
男は笑った。本当に可愛らしいと心から思った。
「笑わないで! もう」
男はそれでもなお笑い続けた。
「笑わないでって言っているでしょ。もう知らない。もう来てあげないから」
「それは困るな」
「でしょう? だから今は素直に謝るべきよ。さあ」
「悪かったよ。ごめん」
「そう、それでいいのよ」
満足そうに少女は微笑んだ。
「だから明日も来てくれ」
少女はうなづいた。
「もちろん来てあげる。だから寂しがらないで……」
ああ、と男は答えた。
二人はまた話をした。そして少女は帰って行った。男は唇だけは石化しないように祈った。
この感触だけは忘れないようにと。 男は覚醒した。しかし目が開かない。というより目の感覚がない。
風で木が揺れる音は聞こえたから耳は大丈夫だった。
遂に肩の感覚もなくなった。腹も空かなかった。石化は腹にまで及んでいた。
おじさん、という声で少女が来たことに気が付いた。足元に置きっぱなしの桶に何かしている。
「おじさん。口を開けないでね」
そう言うと再び唇が触れ合う。視覚が邪魔をしない分、男は昨日よりもはっきりと感じることができた。
「目も視えなくなったんだね」
「ああ。もう明日には耳も聞こえなくなるよ。口もきけなくなるな」
「じゃあ今日で最後かもしれないね。……もう一回キスしようか?」
「いや……いいよ。数が少ない方が貴重だろ」
そう、と少女は言った。
「俺はどんな姿かな?」
男は少女に聞いた。少女は桶から降りて少し後ろに下がった。 「とてもかっこいいわ。まるでギリシャ彫刻みたい」
男は笑った。あんなにいかつくてたまるか。
「というのは嘘。……でも本当に素敵よ。……私、おじさんが石になっても毎日ここに来るわ。
偉い人にこの広場を自然公園にしてもらって、ここに花を植えるの」
「それで?」
「そうすれば蝶が来るでしょう? 色んな動物も来るわ。その光景を美術学生がスケッチするの。
もしかしたらここで恋人たちが待ち合わせをするかもしれないわ」
「そうなるかな?」 「なるわよ、きっと。そしておじさんの悪い噂を流していた連中も謝りに来るわ。
そうしたらおじさん、そいつらを許してあげてね? 怒るとかっこわるいわ」
男はその光景を想像した。そうなるだろうか? いやきっとそうなるに違いない。
「そうだ。私の家の墓もこっちに移してあげる。私も花畑の中で眠りたいからちょうどいいわ。……うん、それがいい」
男は泣きたくなったが涙が出ない。ああ、ああ、と声を出すばかりだった。
「本当に……俺のことを忘れないでくれるかい?」
「ええ、絶対忘れないわ。約束よ。おじさんはここで立ち続けるからみんなも忘れないわ」
男は突然眠くなった。おじさん? と言う少女の声が聞こえたがもう答えるだけの力がなかった。
最後に男は自分の唇に少女の唇が強く押し付けられるのを感じた。
男は石になった。 五本目終わりでーす
途中でさるさんというものをくらった >>1乙
五つ目はちょっと矛盾というかかみ合わない点が多い気がする。
少女の母親は自分が男の元に行くと、面倒なことになるとわかっていてわざわざ自分の娘に行かせたのか?
恩を感じているなら自分で行くだろうし、厄介事にだと考えているなら大事な娘を行かせたりはしない筈。
なぜ少女は男も知りえなかった女の情報を事細かに知っていたのか?
そこの細かい描写が無くてご都合主義になっている。
石化の順番に整合性がない。
最初は下からだったのに、下半身→指先→目と順番が滅茶苦茶になってる。
そうなる原因が仄めかされていればいいけど、読んでる側としては「なんで?」となる。
どれも本筋とは関係ないかもしれないけど、そういう雑さひとつで物語の重みがなくなってしまうから気をつけたほうがいいかもしれない。
あと男性器が石化で笑ったww >>144読んでくれてありがと
>>145
指摘がごもっともだわ
正直その辺は詳しく考えてなかった
女の情報は一応男たちが住んでいたところを狭いコミュニティとして
少女も結婚式に出た脳内設定だった
石化の順番は下から上にしたかったけどそれだと心臓がなーと思ってね
端から中心に行くようにした
もうちょっと整合性を取るようにするわ
読んでくれてありがと
良かったら全部読んでみてくれ >>146
一応全部読んではある。>>118も俺だし。
読み返して、内容、というか物語の形に難があるのかな、と。
他のレスにもあるけど、「読んでて退屈」ってのは純粋に起承転結ができてないからじゃないかな。
起承承承でいつの間にか終わってる感じ。
キャラクターについてもその瞬間、現在の会話しか描かれてない。
その人物がどのような過去を経て現在に至るのか、そしてどこに向かうのか。
もうそれだけで起承転結ができるぐらいだからもっとイメージを膨らませて。
現状、>>1の自己投影のための傀儡にしかなっていないから読み手は感情移入もできない。
自己満足ならともかく、読んで欲しいなら「自分が何を書きたいのか」と「どうすれば読んでもらえるか」のバランスを考える必要がある >>147
なるほど鋭い指摘だ
起承転結を考える前に書いてしまってるからなー
転に向かって進んでいく感じだからたぶん整合性も取れてないし
結末も微妙なんだと自分でも思う
過去を織り交ぜてって言うのは確かにできてないな 物語として書くなら是非やってみて欲しい。
もし、五作目みたいな変化ものの不条理な作品を書きたいなら安部公房の作品を読んでみるといかも。
次作に期待 >>149
ありがとう
でも今書いているのも物語がなってないんだよな
安部公房は砂の女と箱男を読んだ。
ああいう世界観はたまらないわ 六本目書き終わった
時間も遅いから今日の昼かその前ぐらいに上げようと思う 深夜のテンションで書いた作品を投下するのは
ある種の恐怖を伴う
じゃあ六本目投下します 深夜のテンションで書いた作品を投下するのは
ある種の恐怖を伴う
じゃあ六本目投下します
暗い部屋でテレビの画面だけがぼうっと白く光りを放っている。
十メートル程遠ざかってみれば、暗さも相まってどこかへ繋がる神秘的な扉のように思えるのかもしれない、と男は自身の男性器を上下に摩擦しながらふと考えた。
しかし画面が映し出しているのは四つん這いになった女の尻である。女性器にはモザイクがかかっている。
男はそのモザイクに対して何の憎しみも抱かなかった。むしろ感謝をしていた。
惨めに毛が生え、使い古された女性器の大写しを誰が見たいと思うだろうか、と男は思っていた。 いくつの男性器がそこへ出し入れされただろうか。
そこに女体の神秘や官能美、生殖にまつわる神聖さといったものは存在しなかった。
ただ商業的な性があるだけで下品さもない。ただ金が体をくねらせ、金が喘ぎ声をあげるのだ。
金の鎖。
女は金に釣られ、消費者は金に釣られた女に釣られ、制作会社はその消費者に釣られる。その制作会社の金がまた女を釣るのである。 この尻もそうだ、と男が思った途端に男性器が突っ込まれる。そして画面の男が腰を激しく打ち付けていく。
ばちばちばちと気の抜けた拍手のような音とともに女の喘ぎがスピーカーから発せられる。
しかし色んな事を考えていても結局自分は性器の摩擦をやめないのだ、と男は可笑しく思った。
自分の考えが声として表れ、それを隣で聞いている人がいた、言動と行動の不一致をさぞ可笑しく思うことだろう。 画面が女の顔に切り替わる。目を細め、汗をかき、口を少し開けている。
ぼうっとした顔は恥辱と惨めさが作り出す物なのか、それともこの女の演技か。
これが商品として作られていなかったらこの女はどんな表情をするのだろうか?
男は自身が画面の中にいる女と性交をしている想像をした。
彼女は仰向けで足を大きく開いている。男は彼女の性器に自分の性器を挿入する。 しかしそこで女の顔は白くもやがかかったように定かではなくなった。
これが想像の限界か、と男は悟った。現実の交わりをしていない俺には初めから不可能な試みだったのだ。
男はふっと手を止めた。ということは俺が性に目覚めてから想像で犯した女性の顔は全て偽物だったということだ。
中学の時に好きだったNも、高校の時に好きだったRも、大学の時に好きだったTも。俺に偽りの顔を見せていたのだ。 男の中に怒りがわいた。洗面器に水が溜まっていくようなゆっくりとした怒りだった。
男の性器は完全に萎えていた。
映像が続く中、男は立ち上がり押し入れを探った。
そして物が詰まった段ボールをそこから出した。
中身を空ける。かつての記憶の化石は多少乱雑に扱っても壊れないのだ。
これが儚い物であったらどんなにいいだろうと男は思った。触れた瞬間に砂になってしまうような神聖さを持っていたら…… 男はその中から高校の卒業アルバムを取り出した。貰ってから二三度しか開いてなかった物だ。
そして男は感傷に浸ることなくRの写真が載っているページをアルバムから取り外した。
証明写真のような表情が固い写真。部活のジャージを着て仲間と肩を組んで笑っている写真。体育祭のリレーを走る写真。修学旅行の長崎でソフトクリームを食べている写真。
……様々な写真があった。
ちょっと飯食ってくるから一旦中断 あんまり時間かかんなかった
てか今日はイブなんだよな
そしてカッターナイフを手に取り、Rだけを記憶の地層から脱出させた。 ……男は根暗な少年と思われていたのだろう。
体育、特に走りが苦手でいつもびりだったことを除けば何ら特徴がないような少年だった。
別に人と話すのに緊張するということはなかったが、
若者特有の内容のない会話というものに特別な嫌悪感を抱いていたために、あまりクラスメイトとも話さなかった。
その癖何か実のある話をできるかと言われたらそうでもない。要するに会話に不向きな人間だった。
Rはそれと全く違っていた。彼女は快活な少女であり、分け隔てなく(心の奥は定かではないが)クラスの全員と笑顔で接することができた。
もちろんRは男にも笑顔で接した。 優しくされれば好きになるというのは道理だった。男はRを好きになっていた。
もちろん手に入れようなどという身の程をわきまえない考えはしなかった。彼女はただ笑っているだけでよかった。そして時々自分の慰みものになってくれればよかった。
男はいったんカッターの手を止めた。画面の男は既に射精を済ませ、舞台が変わった。女が制服を着て教室のようなセットの中にいる。
さるさんくらって書き込めなかった ……あれは旧校舎を探検している時だった、と男は思い出した。
いや正確に言うと思い出したのではない。量販店のテレビ売り場のように幾つもの画面が並ぶ中の一つにそれは常に再生されていた。
それに目を向けたのだ。
なんてことはない好奇心だった。退屈さを少しでも紛らす刺激が男には必要だったのだ。
そして本来は入ってはいけない旧校舎に忍び込んだ。幽霊でも出ればいいと、期待に心はいつになく踊った。
そんな中で聞こえてきた嬌声。初めは誰だろうと思ったのだ。そして他人の性交というものに興味を持った。
いつにない刺激があるはずだった。
>>162
さるさんで書き込めなくなってね
まあ見ていってくれ 男はカッターナイフをRの写真に突きたてた。スナップ写真だった。
Rは快活な子だったから写真が多いのだ、と男は思った。
画面では女が制服のまま机に覆いかぶさるようにして、先ほどとは違う男の性器を待ち構えていた。
ちょうどこんなふうだった、と男が思った途端に女の顔がRに変わった。
いや、やはり違う、こんなんじゃない。男が心の中でそう叫ぶと顔は元の通りに戻った。
そうあれは商業的な顔じゃなかった。浅はかで愚かであっても愛した人に向けられた顔だった。
不特定多数の人間にではなく、一人の男に。 ……Rは男が知らない誰かと性交をしていた。
彼女は制服のブレザーとワイシャツのボタンを外し、胸を露出させ、スカートとショーツは脱がされて床に無造作に置かれていた。
そして男は目撃したのだ。純粋な愛情を動力にして行われた性交と、純粋な愛情が作り上げた表情を。 男は切り取ったRの写真を摘まんで、Rと自分の性交を想像した。
前戯から挿入までは上手くいった。しかしそこから先のRの顔は白くもやがかかった。
違うそうじゃない。……男がそう思えば思うほどRの顔のもや濃くなっていく。
男は先ほどと同じような怒りを感じた。Rは想像の性交でも男を見てはいなかった。愛する誰かを見ていた。
画面の女の喘ぎ声が、あんあんあんと響いた。違う、お前じゃない。お前みたいな淫乱じゃない。
金の亡者め失せろ。お前はRの足元にすら及ばない。
男は切り抜いたRの写真をガラスの灰皿に入れて、ライターで火を付けた。
Rの笑っている写真に火は艶めかしく、なおかつ素早く抱き着き、彼女の体を燃やしていった。 ……男はRと見知らぬ誰かとの性交を見続けていた。というより見続けるしかなかった。
事態の異常性に足は歩くという機能を忘れてしまっていた。
見知らぬ男が興奮に任せて何やら喋っている。Rはそれに喘ぎ喘ぎ答えている。
とても楽しそうだ、と男は思った。二人と俺の間に地割れが起きて世界を二つにしてしまったのだ。
いや二つではない。俺は一人で取り残されてしまった。
相手の男の腰が段々早くなっている。射精が近づいているのだ。彼の手がRの胸に伸びる。
Rがどうにか後ろを向いて相手の顔を確認しようとしたその時、監視者の視線とぶつかった。 男はRをじっと見続けた。その表情を自分にも向けるんだ、と男は念じた。
しかしRは断固拒否した。代わりに拒絶と軽蔑の眼差しで男を見つめた。
男はその視線に耐えられずに目を逸らした。Rはすぐにまた前を向き、愛のある性交を続けた。
存在の消失を男は感じた。Rは馬鹿みたいに絶叫し、相手の男もそれに倣った。 はっと男は気が付いた。自分の部屋だ。そして窓辺に走り、素早くカーテンを開けた。
家の灯や店の灯がちらほらとあった。街灯も光を放っている。地面も繋がっているはずなのに、男は激しい孤独を感じた。
そして世界に拒絶されているように感じた。
また画面の男は射精し終えたようだった。女は行為の余韻に顔を呆けさせている。
もう三十秒経てばまた舞台が変わって性交が始まる。愛のない、商業的な性交が。
男の怒りは孤独によって消されてしまった。洗面器に溜まった水はどこかへ流されてしまった。 男は再び白く光る画面の前に座って、自らの性器を握った。
舞台が変わり、今度はどこかの砂浜をカメラが映す。女は緑色の水着を着て出てきた。
「愛」と「金」の二つの単語が男の中を衛星のようにぐるぐると回っていた。
本当に求めているものを手に入れられない苦しさ。
そして代わりを追い求める惨めさを、男は冬の冷気のように肌で感じていた。
怒りはもう感じなかった。洗面器には穴が開いてしまったのだ。
画面の中の男が女の胸を揉みしだいていく。女は商業的な甘い顔をする。
男の頭にRの顔がよぎった。男は痛いほどに強く自らの性器を握り、その幻想を掻き消した。
そして画面の女へ向けて、虚しい行為を再開した。 乙。
だいぶ主人公に人間性ができてきた感じはする。
うん、今までのロボットみたいなやりとりよりずっといいと思う。
ただし、これ内容が完全に回顧録になってしまっているね。
書き味が書き味なだけにダウナーな内容になってしまうのは多少しょうがないと思うけど、
それ以上に内容がパーソナル過ぎる。
物語の技法として、読み手をより深く登場人物と同化させるために回顧録のように見せることはありうるけど、
この場合物語が読み手へと波及せず、完全にこの男の中で完結してしまっている。
例えば、同一人物と会話をするとして、ひたすらにその人の過去について個人的な話をえんえん聞き続けるのか、
その人が過去に行ったことのある土地の環境、風土、文化について聞くのとではどちらのほうが楽しいと思えるか。
前者が回顧録で、後者が冒険譚だ。
六作目はその前者に非常に近いと、少なくとも自分は感じた。
あと、これは自覚があると思うけどまだやっぱり起承転結が上手くできてない感触が残る。
勿論、起承転結をわざと崩したりしてあって、それでいて面白い作品はある。
しかしながらそれは、いわば上級テクニック。最初のうちは基本を重視したほうが絶対にいいから。
次回作に期待。 >>173
「読み手への波及」
これは難しいな
意識してなかったわ意識しても多分できてないと思うし
ちょっとがんばってみるか 見事に消えたね
なぜか書き手と感想つけてた人間と同時に消えたw そりゃあ、書き手がいなくなったらコメントもできやしない ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています