中世ヨーロッパと思いきや、ここは放課後の教室だった。
>>1は人気のない教室にただひとり立ちすくみ、茫然と黒板を眺めていた。
黒板にはでかでかと字が書かれていた。

「 >>1、キモいんんだよ、死ねよ 」

前からクラス全員に距離を置かれていることを、>>1は薄々と察していた。
普段誰にも話しかけられず、完全に空気のような存在になっていることも。
だが、このように明確に嫌われているとは、>>1自身、想像だにしていなかった。

そして教壇の上には、>>1の私物が散乱していた。
教科書、ノート、筆記用具、カバンや体操着などが、破られ引きちぎられて散らばっていた。

ここは中世ヨーロッパよりも過酷な世界なんだと、>>1はようやく理解した。
中世ヨーロッパの世界を妄想することで、自分がこうした現実から目を逸らし、現実逃避をしていたことも。
そしておそらく、仮に>>1自身が本当の中世ヨーロッパ世界にいたとしても、今のこの状況と同じようなことになっていたであろうことも、>>1は理解した。

ここは校舎の四階だ。窓を開ければ、そこは学校の正門前の、広い通りがある。
そこにはおそらく下校中の多くの生徒たちであふれかえっているだろう。
僅かに開いた窓からは、多くの級友たちの楽しそうな声が、確かに聞こえる。

そこに>>1の居場所はないのだ。
この高校の、数多くいる生徒たちのなかで、>>1はただ一人孤独のなかにいた。
そして今、>>1はクラスメイトたちから、完全にその存在を否定された。
もう居場所など、どこにもなかった。逃げ場はどこにもなかった。

>>1はふらふらとした足取りで窓際まで歩いた。
そして窓枠に手を掛けると、それをゆっくりと開く。

窓からは、優しげな春風が吹き込んできた。そして霞がかった空から降り注ぐ、柔らかな日差しが>>1の頬を照らした。
眼下には、予想した通りの光景が広がっていた。生徒たちが、楽しそうに笑いながら正門に向かって歩いていた。
そこにある友情も、恋愛も、青春も、>>1には全く別世界のものであった。
それは>>1自身が妄想しようとした、中世ヨーロッパ世界以上に、>>1にとっては別世界のものだった。

いや、そうではない。

おそらく、本当の中世ヨーロッパ世界にもまた、友情や恋愛、青春の物語があっただろう。
今、>>1の眼下で繰り広げられているような、青年たちと同じように。

そしてそこから、>>1は完全に排除されていた。

>>1は窓の枠を乗り越えた。そして窓枠の桟の上に立つ。
その高さが、>>1の本能的な恐怖心を煽る。だが、一歩踏み出せば、すべてが楽になるのだ。

>>1は大きく深呼吸をした。そして目を閉じた。

もう、自分にはどこにも居場所がない。
ここではないどこかへ、行こう。

>>1はそのまま、外に向かって一歩踏み出した。