「ねえハニー、僕が前から欲しかった『マイクロファイバークロス』買ってくれないか?
 これがあれば車もピッカピカだし、家の掃除も週末くらいは手伝うさ。」
「やーねえダーリン、無駄なものばっかり欲しがって。
 それよりも、その安月給をなんとかする方が先でしょう? お金さえあれば何だって買えるもの。」
「わかったわかった、甲斐性の無い僕が悪かった。」
「下らないこと言ってないでさっさと焼きそば食べてよ。片付かないじゃないの!」
「ああ、それにしてもまだ焼きそばかい?」
「何よ! 文句ばっかり言うなら自分で作ればいいじゃないの!」
「いや、悪かった。ねえ、そういえば顔赤いけど、また飲みながら料理していたの?」
「そうよぉ、この前お友達と飲みに行ったバーで、電気ブランってのが美味しくて、それで……」
「昼間っからこんなブランデーを……」
「ブランデーじゃないわよぉ、電気ブランよ。違いの分かんない男ねえ!」
「ああ、僕は違いの分からない男だよ。君と結婚したことが間違いだと気付くのに半月もかかってしまったからね!」

そういうと、男は手近にあった電気ブランに手を伸ばし、勢いよく妻の頭頂部に叩きつけた。
粉々に割れる硝子のシャワーに噴き出す血飛沫、零れた先からしゅわしゅわと音を立てるアルコール。
手に残る重い感覚が、目の前の女の命を奪った事を証明する。
しかし男に後悔の二文字はなかった。
遅かれ早かれ、僕たちはこんな結末を迎えていただろう、と残ったボトルの残骸をゴミ箱に投げ入れながら彼は考える。
妻だったものの遺体を手早く風呂場に突っ込むと、男は台所に戻り、血と酒で汚れた床をボロ雑巾で拭き始めた。
そして、いつまでも落ちない血痕と取れない硝子の破片を見て力無く笑ったのだった。

「『マイクロファイバークロス』買っておけばよかったな。」



家の掃除から車のケア!証拠隠滅!口封じまで!
『マイクロファイバークロス』さえあれば何でもできる! 『マイクロファイバークロス』さえあればいつでも簡単!
あなたも『マイクロファイバークロス』を買って、精神的な掃除をしよう!

「お買い求めはフリーダイヤル、×××―××××ー××××だよ。」
「ダーリン素敵! 抱いて!」